私的図書館

本好き人の365日

八月の本棚 2

2003-08-11 01:00:00 | SF
猫の登場するSF小説といえば、外せない一冊があります。

その一冊とは、SF界の巨匠、ロバート・A・ハインラインの名作

『夏への扉』

です。

舞台は世界大戦でワシントンなどが吹き飛び、「冷凍睡眠」や「文化女中器」というお手伝いロボットなどが普及した1970年(!)

婚約者と親友に騙された、天才発明家で、技術屋のダンは、すべてから逃げ出すために、冷凍睡眠(コールドスリープ)で30年後の未来、2000年(!!)に旅立とうとします。道連れに一匹の牡猫、護民官ペトロニウスことピートを連れて。

この時代設定がハインラインらしい。

2000年の世界はロボットがさらに普及し、女性の服の露出が増え、火星との定期航路が開設され、イギリスはカナダの属州(!)となり、重力制御技術が実用化されている。(日本はまだあるらしい…)

ここまで徹底されると、次は何が飛び出すかワクワクしてきませんか?
触ると自動的にたたまれる新聞とか。

こうしたSFチックな設定の妙はもちろん一流なのですが、この小説の「キモ」はそんなところじゃない!(力説)

ピートですピート。

この猫とダンの掛け合いの面白いこと。

さらにその魅力を引き立てているのが訳者の「猫語」の翻訳♪
ジンジャー・エールをこよなく愛するこの猫。「ニャウ?」「アオウ?」「ニャーアウウ」「ニャゴォ、ルルウ、ニャン?」

…本当、よくしゃべる。

「ウエアーア」
「落ち着くんだ、ピート」
「ナーオウ」
「何をいうか。我慢するんだ。首を引っ込めろ、ウェイターが来る」

これ、原文のままです。
これでストーリーは進んでいく。

ダンのピートに対する思いもそうとうなもの。
意に反してピートと引き離されてしまった彼は決意します。

「この恨み、はらさで置くべきや」(こわ~)

彼を裏切った人達は、世の中には一匹の猫のために命さえ危険にさらす人物が存在することを、計算に入れるべきだった…

もともとこの題名。ハインラインの家の猫が、冬になると扉の辺りをウロウロするのを見て、「あれ、なにやってるんだろうね」とたずねたのに対して「夏への扉をさがしてるのよ」と奥さんが答えたことから思い付いたとか。

後半の怒涛の展開には読んでいてうなりっぱなしでした。

スゴイスゴイ!

手酷く裏切られたダンの心境の変化にも感動。


 ―なんどひとに騙されようとも、なんど痛い目をみようとも、結局は人間を信用しなければなにもできないではないか。


何度開けても夏への扉が見つからず、天候管理の不手際さを飼い主にのどを鳴らして抗議するピート。そんな彼と共に、あなたも『夏への扉』を探してみませんか?

ただし、季節がいつだろうと、いかに困難な状況だろうと、ピートはドアというドアを試せば、必ずそのひとつは夏に通じるという確信を、棄てようとはしないでしょう。

そう、どんなことがあろうとも。

私? 
もちろん、私もピートの肩を持ちます。

そう、どんなことがあろうとも。






















ロバート・A・ハインライン  著
福島 正実  訳
ハヤカワ文庫


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