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本好き人の365日

ジョー・ウォルトン 『図書室の魔法』(創元SF文庫)

2014-06-07 23:57:16 | SF

最近私の中で何度目かの英国ブームが来ています。

NHKで放送の海外ドラマ「SHERLOCK(シャーロック)3」と「ダウントン・アビー」

前者はスマホやメールを使いこなし事件の真相に迫る現在版シャーロック・ホームズ。

後者は20世紀初頭の英国貴族のお屋敷を舞台にしたメイドや執事など貴族階級の生活をリアルに描いたドラマ。

これが面白くてたまらない!

そしてもう一つがこの小説。


『図書室の魔法』(上・下) (創元SF文庫)


東京創元社
発売日 : 2014-04-28

 

 

 

東京創元社
発売日 : 2014-04-28

 

 

 

作者のジョー・ウォルトンはこのブログでも紹介した『ドラゴンがいっぱい!―アゴールニン家の遺産相続奮闘記』などが邦訳されている、英国ウェールズ出身のSF作家。

日本人にはピンとこないかも知れませんが、ジョー(JO)は女性です。 

 

この小説、厳密にはSF小説ではないのかも知れませんが、SFファンにはたまらない作品!!

15歳の女の子の日記(本人いわく「鏡文字」で書いている秘密の日記)という体裁なので、どこまで真実が書かれているのか判断するのは読者しだい。

ほら、だって日記って本当のことばかり書くとは限らないでしょ? 

『アンネの日記』にも架空の友達「キティー」が登場するし、つらい現実を少し脚色して自分をヒーローにしたり、逆に自分が被害者のように思い込むのは思春期にはよくあること。たまに大人になっても治っていない人もいますけどね(笑)

この作品にも、たくさんの妄想と主観的な友達の美醜に性格、大人たちへの感想が書き込まれています。


母親の家を飛び出し、顔も覚えていないような家を出ていった父親に引き取られることになった主人公。

事故の影響で片足が不自由な主人公は、足の痛みに悩まされながら、中流階級である父親と父親の姉である三人の伯母たちと対面します。

ウェールズで生まれ育ち、森や山を愛する彼女にとって、イングランドの人々は言葉も習慣もまるで外国人。

伯母たちに押し込められた(と彼女は思っている)、お金持ちの子女が学ぶ立派な寄宿学校でも、周りの娘たちになじめず、足のこともあって学校の図書室ですごすことが多くなります。

ウェールズにいた頃から無類の本好きで、特にSFに関してはかなりの量を読んでいた彼女。

トールキンやル・グィンを愛し、同年代の友達よりハインラインやゼラズニイ、ディレイニーやアシモフに親しみをおぼえる彼女は、学校での派閥争いや友達付き合いを機転と本の知識で何とかこなし、問題の多い現実にも、自分の知る”真の世界”の手助けで何とか立ち向かって行きます。

本屋さんを巡ったり(足が痛いのに!)、好きな作家の新刊を見つけて喜んだり、それを本好きの知り合いにすぐ報告したり(笑)、思いがけず書籍のコーナーを見つけて幸せを感じるのは、同じ本好きとしてとっても共感できる♪

時代が1979年から80年ということで、「銀河ヒッチハイクガイド」がラジオで放送されていたり、ハインラインの『獣の数字』が新刊だったりと、時代背景を活かした演出も楽しい!

町の図書館で行われている「読書クラブ」に参加したことで、自分と同じ趣味の仲間を見つけ、学校とは違う友達との出会いが彼女を大きく変えていきます。

読書が趣味というと、内気でおとなしいイメージを持たれる方がいるかも知れませんが、彼らが交わすSF談義や熱い議論、愛する作品をめぐっての喧々諤々の騒ぎは、これぞ本好き! という読者にとってもとっても楽しい時間です。

「スター・ウォーズ」を英国人がケチョンケチョンにけなすところなんて、可笑しくて可笑しくて(笑)

英国らしく、エルフやフェアリー、『指輪物語』などが多くの場面で登場します。

『ナルニア国物語』とキリスト教の関係を知って怒りを覚える主人公にはちょっと驚きでした。

ふとした場面で、お茶や服装、階級社会の見えない壁が顔をのぞかせるのもいかにも英国という感じ。

寄宿舎での生活もテーンエイジャーらしく、宿題を写したりだとか、親との関係の悩みだとか、男の子のことだとか、ブラジャーやピルなんて話題も出てきます。

中流階級と労働者階級の違いだとか、Aレベル試験と呼ばれる統一試験のことだとか、ユダヤ人の生活でのきまり事の多さとか、ウェールズとイングランドの違いだとか、日本人にはあまりなじみのない事柄も登場しますが、雰囲気で読みました(笑)

 

本を読むことが救いだった主人公。

自分の内面と向き合い、新しい物の見方を発見し、主人公の人生に積極的に影響していくのがとっても素晴らしい!

主人公が時に辛辣に、時に偏愛的に、時に絶賛する実在のSF作品の数々を探して読んでみたくなります。

自分も読んだことのある作品が登場すると、それだけで嬉しかったり。

本を読むこと、新しいことを発見すること、興味をもったり想像すること、それは現実を生きる力になるってメッセージが、本好きには心強い!

 

この物語には様々な読み方があると思います。

SF小説というよりは、少女の成長の物語とも読めますし、書かれていることのどこまでが妄想で、どこからが現実なのか考えてみるのも面白いかも。

『ナルニア国物語』にこんな一節がありますね。

 

    ーうちがわは、そとがわよりも大きいものですよ。

             ~ナルニア国物語「さいごの戦い」より~


たった数センチの厚みしかない紙とインクの複合物の中に、世界を閉じ込めることのできる想像力。

そういう意味では、たしかにSF作品なのかも知れません(笑)

 

あー、久しぶりにル・グィンが読みたくなった。

この本で紹介されたル・グィンの作品のいくつかは、私の本棚にもあります。

こういう時、無駄に買いためていたのが報われますね♪

読書熱が再燃させられるという点では、実はとっても迷惑な作品なのかも(笑)

 

とりあえず、今年読んだ本の中では(今のところ)最高に面白かったです☆

 

 



 



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