私的図書館

本好き人の365日

ジブリ映画 「風立ちぬ」

2013-07-25 21:49:10 | 映画

ジブリ最新作、宮崎駿監督の「風立ちぬ」を見てきました。

泣いたぜ。

太平洋戦争で日本軍の主力戦闘機となった零戦の設計者、堀越二郎の物語を縦軸に、同時代を生きた堀辰雄の小説「風立ちぬ」「菜穂子」を横軸にして、まだ貧しく、混乱した日本に生きる若者たちの夢と恋と挫折の人間ドラマを描いています。

子供には向いていません。

いや、大人でもただ単にジブリが好きっていう人にわかるかな?

 

先輩たちと衝突しながら自分の好きな作品を作りたくて作りたくて、挫折も経験してきた宮崎駿。その人生と堀越二郎の人生にはオーバラップするものがあります。

主人公がカッコよく煙草を吸うのは、自信も喫煙者で、スタジオでは煙草を吸うのは自分だけだといっていた宮崎駿の無言の抗議かも(苦笑)

サナトリウムのシーンは、トーマス・マンの「魔の山」を彷彿とさせます。

なぜ愛する二人がああいうことになるのか、それが痛いほどわかるのは、これまで宮崎監督が描いてきた女性キャラがあるから。お姫様しか描けないと揶揄されたこともある宮崎監督の、ある種の答えなんだと思いました。

作ろうと思えばこの作品もいわゆる「大作」にはできたと思うんです。エンターテイメントを狙って活劇にもできたはず。でもそれをあえて抑えて、人間ドラマを描く。それも堀辰雄のような世界を。

あの年齢になり、いわゆる大御所と呼ばれる監督なのに、ここにきてこんな作品を作るなんて。

 

最初は今回初めて声優を務めた庵野秀明(アニメ監督、アニメーター)に、「庵野~!」とか思っていたのですが、物語進むにつれ、「ここにたどり着くんだ・・・」と感慨深いものがありました。

帰りにさっそく本屋さんにより、堀辰雄の『菜穂子』(新潮文庫)を購入。

小説の『風立ちぬ』も好きでしたが、この『菜穂子』もいい物語です。

 

すべてを赤裸々に描くことが物事の本質を見誤らせる場合もあります。

「描かない」ことも時には重要なメッセージになりうる。

そんなことを教えてくれる、とても余韻の残る作品でした。

宮崎監督ありがとう!!

 

  風立ちぬ、いざ生きめやも

 

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発売日:2013-07-16

堀辰雄 『風立ちぬ』

2013-07-21 23:09:05 | 日本人作家

堀辰雄『風立ちぬ』(新潮社)を読みました。

現在公開中の映画、スタジオジブリの新作「風立ちぬ」は、この物語とゼロ戦の設計者、堀越二郎の物語がもとになっています。

 

小説『風立ちぬ』が、作家堀辰雄の体験をもとにした私小説であると知って読むと、すごく切ない。

小説家の青年と許婚の女性。

カンバスを立てて絵を描く女性を見つめる青年のまなざし。

 

著者 : 堀辰雄
新潮社
発売日 : 1951-01-29

 

しかし女性は胸を病んでおり、高原のサナトリウムでの療養を必要とします。

かいがいしく看病する青年。

当時の男女のことです。歯の浮くようなセリフもドラマチックなラブロマンスもありません。

それなのに、この二人の周りに流れる空気のなんと濃厚なこと!

そして、内に秘めた意思のなんと強いこと!

 

流れ去る時間、迫り来る運命の足音、二人の中に流れるお互いを思うおもい。そして忍び寄る死という黒い影。

この物語を読んだあと、ぜひとも堀辰雄の年表も見て欲しい。

そしてこの物語を書かざるをえなかった一人の作家の気持ちに想いをはせて欲しい。

 

もう、最近の何とか文学賞の選考委員の連中に爪の垢でも飲ませてやりたい!

何でも赤裸々に書けばいいってもんじゃないんだよ!

私はこういう小説が好きなんだ!!

 

宮崎駿監督の「風立ちぬ」も近く観に行くつもりです。

映画をきっかけにして、この本に出会えたことを感謝します。

とってもいい本が読めました♪

 


第149回芥川賞、直木賞発表

2013-07-17 22:42:54 | 本と日常

第149回芥川賞、直木賞が発表されましたね。

芥川賞には藤野可織さんの『爪と目』(新潮4月号)が、

直木賞には桜木紫乃さんの『ホテルローヤル』(集英社)が選ばれました。

 

ごめんなさい、お二人とも存じ上げません(苦笑)

 

以前にも候補にはノミネートされたことがあるそうなので、活躍されている作家さんなんでしょうね。
もしかしたら見かけたことがあるかも知れませんが、作家さんの名前を覚えるのすごく苦手なんです。

本屋さんで見かけたら手にとってみたいと思います。

 

それにしても、記者会見の時の藤野可織さん、マイク気にしすぎだよ(笑)

 


重松清『きみの町で』、白石一文『快挙』

2013-07-13 19:00:00 | 日本人作家

涼を求めて入った本屋さんで読みたかった本に出会えました。

重松清 『きみの町で』 (朝日出版社)

 

著者 : 重松清
朝日出版社
発売日 : 2013-05-31

 

これはもともと『こども哲学』という絵本シリーズの付録として書かれた文章を、単行本にまとめたものです。

フランスの哲学の授業で(子どもの頃からこんな授業があるんですね!)交わされた会話を絵本にした、考える絵本『こども哲学』シリーズ。

今回、東日本大震災についての「きみの町で」を追加して出版されました。

電車でお年寄りに席をゆずる、その時の小学生の心の葛藤。

いつもイジメられている同級生。

人間って、自分って、心って何だろう?

 

哲学ってちょっと難しいイメージがありますが、あつかっているのは誰でも一度は考えたことのあることばかり。

その中でも「きみの町で」は、震災に見舞われた町を舞台に、子どもたちに焦点をあてて、震災前と震災後の子どもたちを描いています。

心をギュッとつかまれました。

涙がこみ上げてきたけれど、それは悲しみの涙なのか、嬉しさの涙なのか、感動の涙なのか、私にはわかりませんでした。世界はわからないことばかりです。

もともとが絵本のシリーズなので(この本は文章が主です)、児童書のコーナーに置いてあるかも知れません。

ちょっと手に取って欲しい本です。

 

もう一冊は、白石一文さんの小説『快挙』(新潮社)

 

著者 : 白石一文
新潮社
発売日 : 2013-04-26

 

白石さんは官能的な描写もあって、こちらは大人向け。

売れない小説家の男と、小料理屋を営む年上の女。

現在50代の作者が、自分の両親の出会いをモデルにしたということで(白石一文さんの父親は小説家の白石一郎です)、高度成長、バブル崩壊、阪神淡路大震災と、時代は移り変わっていきます。

そんな時代を生きる一組の男女の物語。

まあ、現代の人からみたら勝手な男と尽くす女という構図なんですが、夫婦って他人にはわからない歴史があるんですよね。同じ時間を生きてきて、ケンカしたり、愛し合ったり、親戚や親兄弟のことでやきもきしたり、仕事やお金や子供のことで悩んだり苦しんだり。

男がグダグダ悩んでいる間にも、さっさと働き口をみつけてきて生活費を捻出する女。

「たくましい~」なんて思っちゃいけないんしょうね(苦笑)

だってどうやって食べていくのよ? と怒られそう。

白石一文さんの作品は、これまでちょっと読みにくくて敬遠していたのですが、これは読みやすかった。

個人的には「快挙」という題名と、ラストのオチの付け方(主に男の仕事に対して)には疑問を抱きましたが、これは主人公と同じ小説家である作者の思いなんでしょうね。

酸いも甘いも噛み分けてきた男女ならでは物語。

本当に共感できるまでには、もう少し人生経験が必要かな?(笑)

ともかく、面白い本でした。

 


山本弘 『MM9ーdestruction』(東京創元社)

2013-07-08 20:00:00 | SF

東海地方も梅雨明けしました。

それにしても暑いですね~

暑さと忙しさであまり本も読めていませんが、山本弘さんの新刊をようやく読むことができました。

 

『MM9ーdestruction』(東京創元社)

 

著者 : 山本弘
東京創元社
発売日 : 2013-05-30

 

 

特撮怪獣小説の第3弾。

ウルトラマンやゴジラを小説にしたらどうなるのか?

というコンセプトで書かれている本書。ウルトラマンこそ出てきませんが、怪獣の足元でウロチョロする人間の描写や、その背後での騒ぎなど、特撮作品のパロディやオマージュがふんだんに盛り込まれています。

今回は登場する怪獣の背景にスポットをあて、日本神話やギリシヤ神話に描かれている神話の謎解きをからめながら、「実は怪獣ってこんなにアリなんだよ」とさかのぼる形で存在証明をしています。

トンデモ学説がたくさん出てくるので、肝心の怪獣バトル、人間ドラマがかすんでしまうくらい(苦笑)

男性優位にするためにすりかえられた神話とか、改ざんされた女神たちとか。

いいたいことがあるのはわかるけど、エンターテイメントとしてはどうよ?(苦笑)

この人の小説に登場する女性や女性型アンドロイドは、たいてい状況や環境に運命を左右され、最後は恋愛でハッピーエンドというなんとも古臭い女性観で描かれることが多いので、自分の足で立って運命を切り開く女性が好きな私としてはすごく嫌なのですが、今回も女神の「処女性」が取り上げられていて、せっかくのスケールの大きさが、単なる子孫繁栄国防愛国小説になってしまったのは残念。しかもなぜかその部分だけが暗い。それまでのライトノベル的な展開が、いきなり戦時中の悲劇になってしまうチグハグさ。

なんていうのか、登場人物が急にきゅうくつになってしまうんですよね。

つじつまを合わせるために登場人物がいるんじゃなくて、登場人物が勝手に動き出すような物語が楽しいんですよ。そこでリアリティは求めてないから。

例えばスタートレックみたいに「宇宙の意思」とか「存在理由」という方向に行って欲しかったなぁ~

自分の知識欲だけを満足させるために怪獣を開発する女性マッドサイエンティストとかさ(笑)

ま、ともかく特撮ファンとしては、怪獣が街を壊すシーンとか、敵の攻撃に対抗したり弱点を探したりする人間の努力とか、そこだけ読んでも楽しめます♪

 

そういえば、先日作ったカレーが一昼夜、鍋のままレンジの上に置いておいたらダメになるという事件がありました。

冷蔵庫に入れておけばよかった~

食中毒の危ない季節ですからね。

皆さんもどうぞお気を付け下さい。