私的図書館

本好き人の365日

『人間になりたがった猫』

2009-09-22 08:47:00 | ファンタジー

小学生くらいの男の子でした。

本屋さんのレジで、私の前に並んでいた彼は、店員にポイントカードを作りませんか? と聞かれて、すすめられるままその場で手続きを始めたんです。

レジには店員が1人しかいなくて、しかも見るからに「新人」といった感じの青年。

手際が悪くてどんどん時間が過ぎていきます。

その時、申込書を書いていた少年が、

「後ろに並んでいる人に悪いので、先にレジを済ませて下さい」

と申込書を持って隣の空いているレジに移動してくれました。

おぉ~、なんていい子なんだ!

レジ係りの青年は、すでに打ち込んでしまった少年の会計を取り消すのにまたもモタモタ。

しかも少年にお礼のひと言も言ってない!

まったく、どっちが大人かわかりませんでした。

混んできた時はお客さんを待たせないために他の店員さんを呼び出すなりして対応するんだよ、新人くん!

それにしても、小学生の対応には感心させられました。

よくやった☆

最近、アメリカの作家ロイド・アリグザンダーの

『人間になりたがった猫』(神宮輝夫 訳 評論社)

を読みました。

魔法使いの飼い猫ライオネルが、ご主人さまに頼んで人の姿にしてもらい、人間たちの町に出かけて行くという物語。

猫のライオネルにとって、人間たちの町は見るもの聞くものすべて珍しいものばかり。

いい香りのする食べ物に、気のいい人たち。
大きな橋に、立派な建物。

ところがその町の町長は、お金のことしか考えていなくて、橋を渡る通行料を取ったり、都合のいい法律を作ったりしてやりたいほうだい。

でも、もともとが猫のライオネルには、町長の勝手なルールは通用しなくて、町に騒動が起こってしまいます。

何でも素直に口に出すライオネルがいい♪

「あなたが、ブライトフォード(町の名前)一のごろつき? なんだか、とてもちっぽけだなあ!」

人の姿になっても、あくまで自分は猫ですといい張るライオネルが可笑しいです☆

棚の上に飛び乗ったり、ネズミを追いかけたり♪

猫という視点から人間を見ることで、人間の強欲さ、思っていることを口にしないという弱さ、他人を利用しても何も感じない心の貧しさが描かれています。

もちろんロイド・アレグザンダーの魅力の一つでもある、とっても魅力的なキャラクターもたくさん出てきて、ライオネルを助けてくれるあやしい博士や、勝気ではつらつとした若い女性ジリアンなど、彼らがライオネルを助けて町長の理不尽な要求と戦う姿が読みどころです☆

個人的にはライオネルのご主人さまで、人間なんかになりたがってきっと後悔するぞ、と思っている魔法使いがお気に入り♪

たまにガッカリするような人間に出会うこともありますが、本屋さんの少年のような出会いもあって、まだまだ人間も捨てたものじゃないと思わせてくれます。

人間になった猫のライオネルは、最後、果たして人間のままでいたいと思うのか?

とっても楽しい読書ができました☆



五月の本棚 『ドラゴンがいっぱい!』

2008-05-07 23:58:00 | ファンタジー

ドラゴンと聞くと、どんな姿を想像しますか?

大きな体と翼を持ち、火を吹く怪物?

テレビゲームに登場する最強のラスボス?

それとも黄金の上に寝そべり、太古の言葉を話す偉大な生き物?

トールキンの『ホビットの冒険』では、主人公のビルボは13人のドワーフと共に、竜のスマウグから宝を奪い返すためはなれ山に向かうことになってしまいます。

アーシュラ・K・ル=グィンの『ゲド戦記』に登場した竜のカレシンは、魔法の力を無くした主人公のゲドを、ゲドの故郷ゴント島まで送り届けてくれました。

時に悪の象徴となったり、時に偉大な賢者として登場するドラゴンたち。

ちなみに私のお気に入りの竜は、エンデの『はてしない物語』に登場する幸いの竜フッフールです☆

さて、そんなドラゴンたちが普段はどんな生活をしているのか?

とんでもないことを考えた女性作家がいました。

赤い竜が紋章にもなっているウェールズ出身のジョー・ウォルトンが、自分の大好きなヴィクトリア朝小説の世界にドラドンたちを当てはめて、創作したドラゴンたちの日常生活!

今回は、2004年度世界幻想文学大賞受賞、ジョー・ウォルトンの『ドラゴンがいっぱい! ―アゴールニン家の遺産相続奮闘記―』をご紹介します☆

ドラゴンの遺産相続…それは食べちゃうこと!!

まるで人間のように、屋敷に住み(寝室は洞窟だけど)、帽子をかぶり、オフィスで仕事をするドラゴンたち!!

汽車にも乗るし、教会にも通います!(この時だけは翼を使ってはいけません)

自分の土地で農民たち(もちろんドラゴン)を働かせ、お金持ちで身分の高い家に娘たち(もちろんドラゴン)を嫁がせることに熱心な様子は、まるで昔のイギリス貴族のよう。

お茶も飲むし、パーティーもする!!(豚や牛を生でむさぼり食んだけれど…)

肉親が亡くなると涙を流し、悲しみにくれたりもするけれど、その後その遺体を食べちゃうのがドラゴン流!!

ドラゴンがドラゴンを食べると魔法の力で体が大きくなり、強くなれるのです。

どんなに近代化していても、やっぱり基本は大きくて強いものが生き残るのがドラゴンの世界!!

そんなのあり?
さすが、人間のものさしじゃ計れません!!

ドラゴン社会の設定が面白くて、どんどん先を読みたくなってしまいます♪

男性に心を動かされるとウロコがピンクになってしまう娘のドラゴン☆

しかも一度変色してしまうと元には戻らないのだから大変!

へたな男に言い寄られて、うっかりピンクに染まろうものなら、結婚するしかない!!

飛べないように翼を縛られた召し使い達。
自ら翼をしばり教会に仕える牧師。
人間(ヤアルゲ)に蹂躙された征服時代。
伝説のトマリン竜王の財宝?
弁護士に陪審員の並ぶ裁判所。

老アゴールニン啖爵(だんしゃく)の遺産をめぐり、兄弟姉妹、娘婿や息子の嫁や、珀爵(はくしゃく)家に甲爵(こうしゃく)家を巻き込んでドタバタ騒動が巻き起ります。

古くからの慣習に縛られた社会に疑問を持ったり、宗教革命みたいな動きがあったり、遺産相続の争いと共に、ストーリーも楽しめるお得な一冊♪

あなたも、ドラゴンたちのドタバタ騒動に付き合ってみませんか?

でもご用心。

ちょっと油断すると、うしろからパックリなんてことになるかも☆





ジョー・ウォルトン  著
和爾 桃子  訳
ハヤカワ文庫