私的図書館

本好き人の365日

『ベーオウルフ』 ローズマリ・サトクリフ版

2014-02-10 00:04:22 | 海外作品

何十年ぶりかの大雪で、各地で交通機関に混乱が生じていますね。

そんな中行われた東京都の都知事選挙は、元厚生大臣の舛添要一氏が当選しました。

私は東京都民ではないので、シチューを作ったり、コタツに入って大河ドラマを見たり、本を読んだりしていました。

 

最近読んだ本。

ローズマリ・サトクリフ版『ベーオウルフ ―妖怪と竜と英雄の物語―』 (原書房)



「ベーオウルフ」というのは英文学の古典で、『指輪物語』などにも影響を与えたとても古い叙事詩です。

成立は8世紀頃といわれていますが、古い英語が使われていて、舞台もデンマークやスウェーデンが登場します。

物語は、若き英雄ベーオウルフが、グレンデルという怪物を倒す第一部と、王となり年老いたベーオウルフが、王国を襲う竜を倒すために最後の戦いにおもむく第二部から成っています。

馬に剣、英雄と怪物、そして火を吹く竜が守る黄金。

トールキンの『指輪物語』や『ホビット』が好きな人には、すごくすんなり入っていける世界観です。

 

8世紀というと、日本では古事記や日本書紀が編纂された頃ですね。

奈良時代から平安時代の初期にあたります。

古事記や日本書紀で活躍するスサノオも、八つの頭を持つヤマタノオロチという怪物を退治します。

同じ時期に同じようなモチーフが取り上げられるというのは面白いですね♪

もっとも、サトクリフ版の「ベーオウルフ」では、神様や女性の影は薄くて、英雄が正面から戦いを挑みます。

 

前々からいつか読んでみたいとは思っていたのですが、なかなか読む機会がなくてようやく読むことができました。

英文学というか、海外のファンタジーの元ネタによく使われているそうで、そういう文化の下敷きを知るのはとっても楽しいです。

あとがきで訳者の井辻朱美さんが書いていますが、例えば「戦い」のことを「剣の嵐」と表現してみたり、「ドラゴン」を「宝の守護者」、「王」を「指環の主」と表現するといったとってまわった表現がたくさん出てくるのですが、現在の文化にもそういう元の意味を知らないとわけのわからない表現があって、やっぱり元ネタを知るとわかることがあるんですよね。

例が違うかも知れませんが、日本語でも「永田町」とか「大黒柱」とかいいますよね。

ちなみに「君は僕の太陽だ!」なんてセリフは、砂漠の国ではほめ言葉にならないらしいです。「君は月のように美しい!」といわないと♪

「大黒柱」を英訳すると「breadwinner(パンを勝ち取る人)」になるの?

 

あぁ、話がそれました(笑)

 

ともかく、『指輪物語』や『ホビット』に影響を与えた古典ということだけでも読む価値がありました。

面白かった。

今月末からは、いよいよトールキン原作の『ホビット』映画化第2部、『ホビット竜に奪われた王国』が日本でも公開されます。

これも今から楽しみです☆


『ある小さなスズメの記録』

2012-03-08 18:49:02 | 海外作品

この間リサイクルショップに不要品を持ち込みました。

10年くらい前に買って、ここ2、3年は靴箱にしまいこまれていたスキーブーツ。

海釣り用に買ったものの、後で子供用だとわかって一度も使わなかったライフジャケット。

アウトレットで衝動買いした、春用の上着。

スキーブーツは300円。

ライフジャケットは500円の値が付きました。

春用の上着は買取不可(涙)

どれも引越しを機に処分しようと思っていたので、多少でもお金になればいいや♪

 

帰りに本屋さんで、いけだたかしさんのコミック 『34歳無職さん①』(メディアファクトリー) を購入!

定価714円(税別)!!

不要品が本に変わっただけでした(苦笑)

 

最近読んだ本は、クレア・キップス 著、梨木香歩 訳、

『ある小さなスズメの記録 ~人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯~』 (文藝春秋)

 

美しい装丁、箱入りの上製本。

第二次大戦中、ロンドンに住むキップス夫人が助けた生まれたてのスズメの子は、クラレンスと名付けられ、障害を持ちながらも元気に育っていきます。

夫人のベッドにもぐりこみ、足音がすれば迎えに出るスズメのクラレンス。

翼が不自由なため、飛ぶことはできないけれど、チュンチュンとせわしなく鳴き、キップス夫人の手をつつき、爆撃の襲いかかるロンドンで、多くの人々の心をなごませる役目を果たします。

目が開く前に拾われたため、人間を親と思っているのか、キップス夫人とは意志の疎通ができるみたい♪

女性の友人が泊まった時は彼女を”彼とキップス夫人の”ベッドから追い出したり(笑)

12年もの歳月、キップス夫人と暮らしたクラレンス。

しかしやがて老化から病気にかかり、体が不自由になっていきます…

 

野性の動物って生存競争が激しいから、あまり年老いた姿を見ることはないけれど、人間と暮らす動物たちにはどうしてもそういう問題が出てきてしまいますよね。

うちの実家でも私や妹が生まれる前から家にいた、「チビ」という犬がいたのですが、目が見えなくなり、毛が抜けて、すごくおばあちゃんになっても、私たちがちゃんとわかるらしくって最後まで家族と共に暮らしました。考えてみたら、私が体験した初めての家族の死は「チビ」だったのかも。

 

スズメの寿命には詳しくありませんが、12年というのはスゴイ!

動物と触れ合う機会の多かった私には、クラレンスとキップス夫人の関係はとても見慣れたものでしたが、この本は1953年に出版された後、各国で翻訳され、多くの国々で読まれています。

犬や猫ならともかく、鳥にそんな知能が?

なんて失礼なことを言う人は、ローレンツ博士の名著、『ソロモンの指輪』をぜひお読みになって下さい。

あらゆる動物の声を聞くことができたという、古代イスラエルの王、ソロモン王が持っていた指輪。

王がその指輪を投げ捨ててしまったのは、999人いたお妃の一人が、若い男と浮気をしているとナイチンゲールが告げたから。

きっとこのキップス夫人も「ソロモンの指輪」の持ち主なんでしょうね♪

梨木香歩さんの丁寧な日本語の使い方も素敵でした☆

 


三月の本棚 『往復書簡』

2007-03-20 12:45:00 | 海外作品

「今日、母が死にました。」

この文章を読んだ時、この作品は私の中で確かな居場所を得ました。

きっと、忘れられない本の一冊になるでしょう。

今回は、トーベ・ヤンソンさんの短編集の中から、『往復書簡』という作品をご紹介したいと思います☆

「ムーミン」の作者として知られるトーベ・ヤンソンさん。
画家でもあり作家でもある彼女には、「ムーミン」の他にもたくさんの作品があるんですよ。

この作品もその中の一つ。

日本人の十三歳の女の子、タミコが書き送った、作者ヤンソンさんにあてた8通のファンレター。

最初は子供らしい、「ヤンソンさんが好き☆」という真っ直ぐな気持が、慣れない英語で書いたと思われるたどたどしい文章で綴られます。

あなたの作品が好きです。
あなたの生き方に憧れます。
会いに行くために今英語の勉強をしています。

ちょっとひとりよがりなところもあるタミコの思いは、ファン心理とでもいうのか、恋した時に訪れる一種の熱病みたい☆

ヤンソンさんからの返事をもらったらしい文書の中では(ヤンソンさんからの手紙は登場しません)、まさに有頂天♪

この登場しないヤンソンさんからの手紙もすごく気になりますが、もっとすごいのは、登場しないのにヤンソンさんからの返事を自分もなぜか読んだ気になってしまうところです!

何が書かれていたのか、タミコの文章から想像できてしまう♪

これは「ムーミン」シリーズを読んで私自身がヤンソンさんのファンだからなのか、この作品にそれだけの力があるのか、正直わからないのですが(自分のことはよく見えないものですから)、他の人が読んだらどんな感想を持つのか知りたいところです。

やがて、手紙の中では年月がたち、成長し、環境も変わってきて、しだいに心の中に成熟した感情を持ち始めるタミコ。

文章自体はとっても短く、たった10ページたらずの作品なのに、そんなことまで表現してしまうトーベ・ヤンソンさんの文章力には驚かされます。

眩しく、キラキラと輝くような、将来を夢見る少女の思い。

夢に向って努力するひたむきな若い力。

悩んだり、迷いながら生きているタミコの心に、読んでいて「うわぁ」と叫びたくなりました。

うわぁ、うわぁって。

この叫びは、年老いてしまった私の心の叫びです(苦笑)

まぶしい~

そしてタミコからの最後の手紙。
その文章を読んで、「生きる」ことの共感があふれてきました。
すごくわかる!
心が苦しくなるけれど、そうしなくちゃいけない時があるんだ。
そういう思いを抱えて生きていくんだ!

一つ一つの言葉がすごく研ぎ澄まされていて、すごくストレートに心に届いてきます。

せつなさ、やさしさ、…愛するということ。

小さくて、とても心に残る作品です。

この作品は筑摩書房から出ている「トーベ・ヤンソン・コレクション」(全8巻)の中の『軽い手荷物の旅』という短編集の中に収録されていますが、今回は「コレクション」の中から傑作選として新たに編集された『トーベ・ヤンソン短編集』という文庫本に再録されたものを読みました。

その中に納められた物では他に『カリン、わが友』と『愛の物語』が好きです。

言葉ではどこがいいのかうまく言い表わせないところが好きです。

自分の心みたいに。

「ムーミン」以外のトーベ・ヤンソンさんの魅力。
あなたにも機会があったらぜひ触れて見て下さい。

形のないものを形にする。

そんな魔法をぜひ体験して欲しいから♪

そして、「ムーミン」ファンの方にもぜひ☆







トーベ・ヤンソン  著
冨原 眞弓  編・訳
ちくま文庫





十月の本棚 2 『変身』

2006-10-14 02:12:00 | 海外作品

一度読んだら忘れられないっていう本、ありますか?

細かい内容はさておいて、強烈な印象を残していく作品。
他のどんな物語とも違う異質感。
そこにただよう底知れぬもの。
しかし、イメージだけはまるで目の前で見ていたかのように鮮明に思い描ける。

今回ご紹介するのも、私にそんな印象を与えた一冊。

フランツ・カフカの 『変身』 です☆

ある日目覚めると、自分の姿が一匹の虫に変わっていた…

背中は固く、無数の足がある、巨大な虫。

ベットの上で、仰向けのまま「自分が虫になっている」と確認する主人公グレゴール・ザムザ。

彼はいかれた超能力者でも、はたまた変な薬を飲まされた高校生でも、改造人間でもありません。

昨日までは、いや、昨夜までは確かに真面目なサラリーマンだったのです。

そして今も、巨大な虫の姿になった今も、家族の借金のために働き、嫌な上司に頭を下げ、妹を密かに音楽学校に入れてやるのを夢見る、真面目な男に変わりはないのです。

仰向けの姿勢のためベットから降りられず、仕事に遅刻してしまうのを気にするグレゴール。

この小説の特異な点は、こうした異常な始まり方をするにも関わらず、物語が破綻することなく淡々と続いていくことです。

この小説はホラーでもSFでもありません。
例えるなら、夏目漱石の小説に、虫になった男が登場するようなものです。

グレゴールの様子を見に来た勤め先の支配人。
なんとか誤魔化そうとするグレゴールですが、もはや人間の言葉さえ出すことができず、業を煮やした彼は自分が虫になっていることも忘れて、部屋から飛び出してしまいます。

支配人の顔に浮かぶ恐怖。
家族の驚き。

その日から、グレゴールと家族の陰惨な日々が始まります。

虫になったとはいえ、息子であり兄である”それ”を放っておくことはできず、かといって世間に知られてしまうわけにもいかない家族。

部屋に食事を運び、恐怖を感じながらもけなげに世話を焼く妹。
息子への愛情で胸を苦しめられながら、どうしてもその姿を正視できない母親。
そして、何に対していいかわからない怒りに身を震わせる父親。

なぜ虫になったのかは、この作品の描くところではありません。
最後まで、それはわかりません。

でも、世の中にだって、「どうしてこんなことになってしまったんだ!」と思うようなことはたくさんありますよね。
そんな時、私たちはのんきに原因を突き止めたりはしていられません。
とにかくなんとかしなくちゃいけない。
現実に向き合わなければならない。

どうして…と考えていられるのは実は甘えのかも知れません。

現実は、時に何もかも簡単に変えてしまい、不条理に私たちに迫って来るものです。

一家の稼ぎ手がこんなことになってしまい、経済的に苦しくなった一家はそれぞれに自分たちも変わらざる得なくなります。

商売に失敗してから息子の世話になり、食べて横になる生活で太っていた父親も、自分の力で立って仕事をするようになります。
彼は家でもその職場の制服を脱ごうとしないくらい。

健気に世話をしていた妹も、使ってくれるところがあって働くようになると、兄の世話もしだにおざなりになりますが、ある日グレゴールの部屋を母親が掃除すると、烈火のごとく怒ります。

いつの間にか、グレゴールの世話をしているというのが、彼女のアイデンティティーとなり、自分のテリトリーを侵されたと母親に食ってかかったのです。

そうした家族の変化を眺めながら、グレゴールは壁や天井を這い回り、物陰を好んで身を潜めるようになります。

しかしまだ人間としての記憶も、理解力も失ってはいません。

そのうち、家賃を得るために下宿人を置くことにする一家。
もちろんグレゴールのことは彼らには秘密。

温かい料理が並んだテーブルに、下宿人たちの前で自慢のヴァイオリンの腕を披露する妹。

ほこりにまみれ、食べ物さえろくに食べていないグレゴール。

そして、決定的な事件が起き、ついにグレゴールは…

作者のフランツ・カフカはオーストリア=ハンガリー帝国領時代のプラハに生まれました。
この作品は1912年に執筆され、1915年に出版されています。
その前年の1914年にはサラエボでオーストリア=ハンガリー帝国のフランツ・フェルディナント大公がセルビア人青年に暗殺されるという事件が起き、この事件をきっかけにして、世界は第一次世界大戦へ向うのです。

カフカはこの『変身』が出版される際、写実的な画家が扉絵を描くと聞き、慌てて手紙を出しています。

「…彼はたとえば昆虫そのものを描こうとするかもしれないと、そう考えたわけです。それだけは駄目です。それだけはよくありません。…(中略)昆虫そのものを描くことはいけません。遠くのほうからでも、姿を見せてはいけません。」

グレゴール・ザムザはいったい何になったのでしょう?

とっても薄い本なので、ちょっと手に取るにはちょうどいいと思います。

ストーリーも設定が設定なだけに予想ができなくて、次はどうなるんだろう? と、ワクワク、ドキドキしながら読むことができました。

いちおう有名な作品ですが、有名な作品の中にも面白いものはあるといういい例ではないでしょうか(苦笑)

ただし、翌朝目覚めるのが心配になってしまうかも知れませんけど☆









フランツ・カフカ  著
高橋 義孝  訳
新潮文庫









十月の本棚 『空飛び猫』

2005-10-10 21:44:00 | 海外作品

自分の四匹の子猫たちみんなに、どうして翼がはえているのか、

ジェーン・タビーお母さんにはさっぱりわけがわかりませんでした。



………この出だし好きです(⌒∇⌒)/

今回は、アーシュラ・K・ル=グウィンの文章にS.D.シンドラーの可愛い絵がのっかった絵本。

『空飛び猫』のご紹介です☆

訳は村上春樹さん♪

ル=グウィンに村上春樹と、私の好きな作家が共演しているだけでもたまらないのに、表紙に描かれた四匹の翼のある猫!
この猫たちを見た瞬間に、この本を買うことを決めていました☆

「あとがき」まで読んでも78ページ。
絵だけで23ページ。
文字も大きいし、とっても読みやすい文章なのでアッという間に読んでしまいました♪

子供たちの翼を見て、ときどきは「なんでしょうねこれは」と頭をひねる母猫のタビーお母さん。

でも路地での暮らしはハッキリ言って大変。

自動車やトラック、靴をはいた足、凶暴なドブネズミにお腹をすかせた犬たちから子供たちを守りながら、食料を探してこなくてはならないのです。

いつまでも、そんなわけのわかからないことを考えている余裕はありません。

やがてこの子猫たちは、タビーお母さんのもとを離れ、森や川のある自然の中に旅立っていくのですが、合間合間に描写される猫たちのしぐさが、本当に猫っぽくて、作者の猫に対する愛情がタップリ感じられます♪

なんてったって翼のはえた猫たちが可愛い☆

お姉さん風のセルマに、長男っぽいジェームズ。
幼さの残るロジャーに、ちびっこで大胆なハリエット。

空飛ぶ四匹の猫に鳥たちは大慌て!
人間だって、ポカンと口を開けて目をみはっている始末。
唯一、不平も言わずたんたんとしているのは魚だけ。(「魚というのは何があっても不平を言ったりはしないものなのです」…本文より♪)

翼があることで危険から逃れることも出来るのですが、かえって危険を招くこともしばしば。
さて、この四匹は無事生き延びることが出来るのでしょうか?

アーシュラ・K・ル=グィンといえば、ファンタジーでは『ゲド戦記』、その他SF小説でも活躍している作家さんですが、こんな絵本もてがけていたんですね。

英語独特の言い回しなんかがあって、訳した村上春樹さんも苦労したようです。
でも、彼もやっぱり、表紙の四匹の絵を見たとたん、「これはどうしたってやらないわけにはいかない」と決心したそうです(笑)

「あとがき」で翻訳者もすすめている通り、小さいお子さんには、ぜひ声に出して読んであげて欲しい一冊です☆







アーシュラ・K・ル=グウィン  著
S.D.シンドラー  絵
村上 春樹  訳
講談社文庫





八月の本棚 3

2003-08-26 21:27:00 | 海外作品
旧約聖書によれば、かつて、ソロモン王は、魔法の指環の力によって、獣や鳥や魚。地を這うものどもと語ることが出来たという。

ソロモンの指環はないけれど、動物が大好きで、その科学者としての確かな目と、豊かな経験によって、私達に動物達の行動の背後にある意味を教えてくれる、とても興味深く、愉快な本。
今回ご紹介するのは、ノーベル賞にも輝いたコンラート・ローレンツ博士の名著。

その名も『ソロモンの指環』です。

動物行動学入門と銘打った本書。
自身、たくさんの生き物と暮らすローレンツが、そのふれ合いの中で発見した彼等の不思議な行動を、その鋭い洞察力と明晰な頭脳でもって解説してくれています。

まず読んで思うことは、この先生、本当に生き物が好きなんだな、ということ。
登場する生き物の種類の数だけとってもそれがわかります。

自分達の娘が小さい頃は、飼っている中に、危険な動物もいるということで、とりあえず、檻の中に入れておいたとか。

…娘の方を(笑)

興味深かったのは、知識を代々伝えていくコクマルガラス。
カササギなどの他の鳥が、一度も見たことのないキツネなどの天敵を、本能的に知っている(!)のに対し、若いコクマルガラス達は、群れの中の経験豊かなコクマルガラスが天敵を見つけ、警告の声を上げるのを聞いて覚える(これもスゴイよね!)

さらに、彼等は生殖可能になる一年も前に求愛し、人間でいう「婚約」期間も持っています。
その求愛行動も笑える。

まずオスは立派な巣にメスを誘います。その中には、食べ物が用意されていて、彼女の気を引く。さらに、彼女の見ている前では、普段、絶対に逆らわない上位のオスにも立ち向かっていったりするのです。そのうえ、オスはたえず、目当てのメスの瞳を見つめているのに対し、メスの方は、一見そしらぬ顔であちこちに目をうつしながら、何分の一秒かの間、チラリと彼を見るというのだから小憎らしい。

そうして互いに好意を確かめ合った二羽は、ペアとなり、緊密な攻防協定を結んで、縄張り争いなどに共同で立ち向かって行く。
これは力のない若い二人には重要なこと。だから、単に繁殖のためだけの夫婦じゃないってことね。本当に人生(?)のパートナーって感じ。

ムムム…なんか人間とあまりかわりばえしないぞ。

誰とでも仲良くなれ、誰が綱を引っ張っても喜んでついていってしまうジャッカル系の犬と、ひとたび忠誠を誓ったら、知らない人にはしっぽさえ振らないオオカミ系の犬の違い。などなど、内容を丸写ししたいほど、興味深いお話しの数々。

きっと、あなたの知らなかった生き物達のドラマチックでミステリアスな一面が、発見できます。

ペットを飼っている人(特に鳥類)には、ぜひ読んで頂きたい。
「やれやれ、やっとわかってくれたの?」という、彼等の声が聞こえてきそう。

文句は、九百九十九人ものお妃がいたのに、一羽のナイチンゲールが、お妃の一人が若い男を愛していると告げた時、怒りのあまり指環を投げ捨ててしまった、ソロモン王に言ってちょうだい☆










コンラート・ローレンツ  著
日高 敏隆  訳
早川書房

七月の本棚

2003-07-16 23:59:00 | 海外作品
老人は少年に言いました。

「おまえが何か望めば、宇宙のすべてが協力して、それを実現するように助けてくれるよ」

大切なのは、自分の魂の声に耳を傾けること、そして自分を信じること。

梅雨も半ばを過ぎました。夏、到来まであと少し。みなさん、いかがお過ごしですか?
今回はパウロ・コエーリョの

『アルケミスト』

をご紹介します。

この本は56もの言葉に翻訳され、150以上の国で出版された、世界中の多くの人に、今なお読み続けられているベストセラー小説です。

物語は、スペインのアンダルシアに住む羊飼いの少年が、夢の中で、宝物を見つけられると告げられ、その夢を信じて、エジプトのピラミッドまで旅をするというお話し。

その中には、様々な魅力的な言葉が出てきます。

旅。
ジプシー。
セイラムの王様。
キャラバンに予言者の娘の名を持つ少女。

極めつけは題名にもある、あらゆる金属を金に変える秘術を知るアルケミスト、『錬金術師』

主人公の少年は、それこそ、様々な人と出会い、様々な困難に遭遇し、そして様々な経験と知識によって、人が、その運命を実現しようとする時、必ず、それを実現させようとする力が働くことを学びます。

「僕は他の人と同じなんだ。本当に起こっていることではなく、自分が見たいように世の中を見ていたのだ」

あきらめるための言い訳はいくらでもあります。
ある小説家が締め切りに追われ、書きたくもないのに机の前に座っていたとき、一匹のハエが彼の目の前に置いてある、原稿用紙に止まったそうです。彼はそそくさとその場を離れました。

・・・「ハエの邪魔をしちゃあ悪い」

という理由で。

言い訳もウソも、言い続けていると自分でもそれを信じるようになってしまう。

「前兆にきがつくようになるのだよ。そして、それに従って行きなさい」

ひとは自分の望んだものになれる。
自分の心の奥、魂の声に耳を傾ける。
そして、そっと、自分自身に問いかけてみる。「これは本当にわたしの望んだこと?」

望んでもいないことをする時、きっと『前兆』があなたに囁きかけているはず。

気が乗らない。
気が重い。
ちょっとしたミスをしてしまう。
体調が悪くなる。
相手が電話に出ない。
四つ葉のクローバー。
こおろぎにとかげ。
ふいにあらわれる蝶は良い『前兆』のしるし。

こうした『きっかけ』は自分をステップアップさせるための絶好のチャンス。
不幸や羨望、嫉妬なんかは否定的な力に見えるけど、実際は運命をどのように実現すべきかを示してくれている。「アルケミスト」がどんな金属でも金に変えられるように、人はどんな人生、運命でも自分の力で変えられる。「賢者の石」や「不老不死の霊薬」なんてなくったって、自分の心の声に耳を傾けることは誰にでもできる。その人、その人の学び方で。

作者のパウロ・コエーリョは、人間は目に見える現実と目に見えない感情が混ざり合っている。手に触れることのできる現実世界と共に、手で触れることのできない心の中の世界を重ね合わせてこの物語を作り上げた。と言っています。彼の中では、心の中の世界も、また現実なのです。だから、様々な体験をして、様々な感情に翻弄されてこそ、自分の心の中の宝物が輝いてくると信じられる。
本を読むのもそのひとつ。

「何をしていようとも、この地上のすべての人は、世界の歴史の中で中心的な役割を演じている。そして、普通はそれを知らないのだ」

読み返す度に、感じ取れる『何か』がある。
それは、きっと自分が成長しているから・・・

な~んて思わされるくらい、自分に改めて興味がわく、そんな物語。

東から吹く、アフリカの風「レバンタール」に乗って、あなたもピラミッドを目指してみませんか?













パウロ・コエーリョ  著
山川 紘矢+山川 亜希子 = 訳
角川文庫ソフィア