11月も今日で終わりだ。
今年も後ひと月、と呟いてみる。意味もなく。
ここ数日、心が冴えない。人間の心は、どうしてこんなに波立ちやすいのだろう?
こんな日は、出歩くにかぎる。
そうだ、お天気はいいし、Tさん宅を探しながら、ひと昔、勤めの関係で住んでいた町の辺りを散歩してみよう、と外出した。
「草花舎」で、Tさんに初めてお会いしたのは、先週のことだった。その時、客はTさんと私の二人で、それぞれのテーブルで食事をしていた。
まるで知らない客同士なのに、「草花舎」のカレーの美味しさについて言葉を交わしたりしているうちに、
「家の庭に、皇帝ダリアが咲きました!」
と、Tさんは、表情に喜びを隠しきれない様子で語られた。
<皇帝ダリア? ダリアは夏の花では?>と不審に思った。<皇帝ダリアとは、また豪勢な名前だな>とも思った。
「皇帝ダリアは初冬の花なのです。当分咲くはずですから、見に来てください」と、誘われた。
「11月中は用があって留守がちなので、できれば12月に入ってから……」とも言われた。
塀の外からも見える位置に、その花があるらしいことも、語らいの中で察しがついた。その花を見せていただくために、多忙らしいTさんのお邪魔をする手はない。外から眺められるのなら、そっと見学させてもらおうと、その時から考えていた。
まず軽い昼食を済ませると、一応はTさんに電話してみた。在宅なら、ご挨拶はしておいた方がいいだろう、と思って。が、やはり留守であった。
そこで、軒先に記された番地を頼りに、Tさん宅を探した。思いのほか早く見つけることができた。言葉の端から想像していたとおり、Tさん宅は豪邸であった。
Tさんの話にあったとおり、皇帝ダリアは、家前の道路からも、高い塀越しに眺められる位置にあった。正面側と側面からと。が、何しろ広いお庭なので、奥まったところにある皇帝ダリアをカメラに収めるのは容易でなかった。
添付の写真は、側面から撮らせていただいたものだが、近景にある南天の赤い実が目立ちすぎた。奥まったところには立派な蔵があり、その白壁も目立っている。
写真では、皇帝ダリアの存在感が希薄である。しかし、なかなか気品のある大型の花であった。丈が高く、がっしりとした茎のようだ。Tさんが自分の腕を指して、「私の腕くらい」と言われたが、その頑丈な茎から更に枝分れして、たくさんの花を咲かせているようだ。距離があるので、その数はよく分からないが、20余の花が咲いていそうに見えた。ピンク色というより、淡紫色といった方がよさそうな色調である。大型の花にしては優しさも兼ね備えている。
インターネットで調べたところ、メキシコ産のようだ。日照時間の短くなる、この季節に咲く<短日植物>であるとも紹介されていた。
皇帝ダリアに巡りあえ、それを眺めている間は、幸せな気分であった。
人の世に疲れると、もの言わぬ自然と対峙している方が、心長閑である。
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