埼玉県、東京都、神奈川県、千葉県の4都県に出されていた新型コロナウイルス感染予防のための緊急事態宣言が段階的に解除され始めた2020年6月、温泉で気晴らし+ハイキングで健康+ささやかな経済投資を兼ね、すでに緊急事態宣言が解除されている群馬県赤城山に向かった。
公共交通機関での感染リスクを避けるためマイカーを使い、宿は感染予防対策が行き届いた赤城温泉山屋蒼月を選んだ。webでは、山屋蒼月はほとんどの部屋が離れ型で、部屋に露天温泉が付き、食事は個室でとると紹介されている。結果的に、限られたスタッフ以外との接触は全くなかった。家族だけ、カップルで楽しみたい旅ばかりでなく、今回のような感染予防にぴったりの宿だった。
東国文化歴史街道を走り、大鳥居を抜ける
出発当日、さいたまは薄曇りに日射しもあり、Tシャツでも暑いほどだった。家を出てから40~50分で川越IC、関越自動車道に入り途中の上里SAで中休みをとり、前橋ICを降りて国道17号線を東に走る。ナビには東国文化歴史街道と表示が出た。
群馬県南部には、遺跡、古墳、国府、宿場などの史跡、遺構、文化財が多く残っているので、それらをめぐる国道17号線、122号線・・や県道を結んだ観光街道を東国文化歴史街道と愛称しているそうだ。国道**号線、県道**号線より、東国文化歴史街道の方がその地域に特徴的な歴史文化、自然景観などをイメージしやすい。もっとも文化歴史に関する史跡、文化財はどこにでもあるから、どの都道府県でも文化歴史街道は通用しそうである。名称、愛称は先手必勝である。群馬県は観光産業に力を入れているようだ。
利根川を渡り、左に群馬県庁を見ながら東国歴史文化街道を走る。左折し、右折し、左折して北に向かうと東国文化歴史街道は県道4号線に変わる。緩やかな坂を走っていると、赤い鳥居が見えてきた。道路をまたいだ鳥居はかなり大きい(写真)。扁額は「赤城山」と読める。県道4号線を北上し、山道を上りきると大沼に出て、大沼の対岸に赤城神社が鎮座するから、この巨大な鳥居は赤城神社の神域の印だろうか。
さ丶やで霧下蕎麦を味わう
ガイドブックにはこのあたりの蕎麦の名店がいくつか紹介されている。その一つ、右手の「さ丶や」に入った。大きな切妻屋根は信州の本棟造を思わせる(写真)。引き違い戸を開けると、古風な作りの座敷が広がり、手前の座敷にはいろりが据えられている。やはり本棟造の移築かも知れない。
コロナウイルス騒ぎがなければいろり端に腰を下ろすが、感染リスクの少ない庭の見える掃き出し側に席を取った。網戸を通してさわやかな風が通る。風が心地いいし、ウイルス感染予防にもなる。
さ丶やでは霧下蕎麦を自家製粉石臼挽きし、地下80mの清水を使用しているそうだ。霧下蕎麦とは、標高500~700mの高原地帯で栽培された蕎麦のことで、寒暖差が大きいため朝霧が発生し、おいしい蕎麦が育つらしい。たぶん赤城高原は朝霧が発生し易い土地で、霧下蕎麦が栽培され、蕎麦の名店が多くなったようだ。
おすすめメニューは龍神で、小さめの椀に山菜、天ぷら、きんぴら、とろろをのせた蕎麦と蕎麦寿司が5段重ねになっている。量が多そうだし、キノコの苦手な私には山菜がくせ者なので、おろし蕎麦を頼んだ。おろしだけなので、蕎麦の味が堪能できる。コシのあるおいしい蕎麦を味わった。
上毛三山パノラマ街道のヘアピンカーブを上り、ツツジを眺める
13:10過ぎ、さ丶やを出る。小雨がぱらつき始めた。次の交叉点から県道4号線は上毛三山パノラマ街道に名を変える。東国文化歴史街道は右に折れ、国道353号線になる・・翌日、東国歴史文化街道の国道353号線を走り古墳に向かったので後述する。
上毛三山とは赤城山(1800m級)、榛名山(1400m級)、妙義山(1100m級)のことでいずれもハイキング~登山+温泉で人気が高い。東国文化歴史街道が史跡、文化財なら、上毛三山パノラマ街道の愛称は山+温泉を活用した観光産業をうかがわせる。
県道4号線は次第に上り勾配がきつくなり、林が深くなる。山道特有のカーブが次々と現れる。山道を走るのは慣れているが、気は抜けない。つづら折れの坂道を右に左にハンドルを切る。整備の行き届いた往復2車線の道路だから走りやすいが、エンジンがあえぐほどの急坂でスピードが出ない。
さ丶やから30分ほど、ヘアピンカーブを曲がった左に赤城山総合観光案内所がある。案内所のまわりの斜面が白樺牧場で、このあたりはツツジの名勝地らしい。一休みを兼ねて、車を駐め、ツツジを眺める(写真)。
赤城山の麓では4月ごろからツツジが開花し、~5月~6月~7月とツツジが赤城山を登っていくそうだ。白樺牧場あたりには10万株のレンゲツツジが植えられていて、例年なら赤城山新緑&つつじWEEKが開催されるが、今年は新型コロナウイルス感染予防のため、人の集まるイベントはすべて中止になっている。それでも小雨に煙るなか、レンゲツツジは朱紅色の花で目を和ませている。
ツツジはレンゲツツジのほかに、ヤマツツジ、ミツバツツジ、アカヤシオ、シロヤシオ、ムラサキヤシロなどの品種があり、花の色や花の大きさ、花弁の数などが違うらしい。草花も疎いから見分けがつかないので、色づいた山の風景を矯めつ眇めつ・・ためつすがめつ・・眺める。
牛はレンゲツツジに含まれる毒が分かるようで、レンゲツツジは食べず、まわりの草を食べてくれる。その分、レンゲツツジの育ちがよくなる・・牛の糞も栄養になるかな?・・。牧場とレンゲツツジは共存共栄関係になる。牧場のミルクでつくったソフトクリームがここの名物だそうだ。観光客は目でツツジ、口でソフトクリームを楽しみ、牧場はレンゲツツジで牛が元気になり、おいしい牛乳とソフトクリームで経営もうまくいく。こちらも共存共栄関係である。
・・ただし、小雨のせいか牛は姿を見せず、羊も飼育しているらしいがマスコットの似顔絵だけだった・・。
カルデラ湖大沼東岸・赤城神社の御神体は赤城山
もう一息、ヘアピンカーブを曲がり切ると、上毛三山パノラマ街道はT字路を右に折れて県道70号線に変わり、山に囲まれたカルデラ湖の大沼が現れる。
赤城山は榛名山、妙義山と並ぶ上毛三山の一つで、日本百名山、日本百景に選ばれているが、赤城山という山はない。中央の大沼、東南の覚満淵、その先の小沼はいずれもカルデラ湖で、カルデラの周囲を囲んでいる黒檜山1828m、駒ヶ岳1685m、長七郎山1579m、地蔵岳1674m、荒山1572m、鍋割山1332m、鈴ヶ岳1565m、小地蔵岳1574mなどの峰々の総称が赤城山と呼ばれている。
大沼の東岸、赤城山最高峰の黒檜山の西麓に赤城山を祀る赤城神社が鎮座する。県道4号線=東国文化歴史街道を走っている途中、前述した赤城山の扁額をかけた大鳥居をくぐった。赤城山が御神体だから、山麓に立つ大鳥居が神域を象徴していたとの推測は正しかったようだ。
駐車場には数台しか駐まっていなかった。平日で天気も悪いうえ、新型コロナウイルス感染予防で外出自粛、ステイホームが強調されているためであろう。
赤城神社の創建は7世紀ごろで、山岳信仰の崇敬者を集め、関東一円におよそ300の末社があるそうだ。近年改修され、本殿は朱塗りが鮮やかである(写真)。先客がいたのでソーシャルデスタンスを十分に開け、暫時待ってから二礼二拍手一礼する。
赤城神社は大沼に鳥のくちばしのように突き出た半島の先に建っていて、くちばしの先端から対岸まで朱塗りの木橋が架かっている(写真)。新郎新婦が手を携え大沼に架かった橋を渡れば、赤城山の霊力によって二人の気持ちが一つに昂揚するに違いない。が、雨で滑りやすいのか、新型コロナウイルス感染予防のためか?、橋は通行止めだった。小雨でも地蔵岳?を遠景にした大沼と朱塗りの橋は絵になっているから、晴れていれば見事な構図になりそうだ。 続く(2020.6)