book507 江戸の町 下 内藤昌・穂積和夫 草思社 1982 <斜読・日本の作家> 下巻は1657年から江戸開城の1868年の210年ほどが描かれている。
明暦の大火後の復興の様子が火事と喧嘩は江戸の華 に語られ、幕府は巨大都市の実測 を進め、防火対策を念頭に江戸城の改造 に乗り出し、火除け地として吹上の庭を確保する。城下の火除け地確保のため武家地・寺社地の改造 で屋敷替えを大胆に行い、町人地の改造 でも広小路と呼ばれる火除け地を採り入れ、結果として江戸は郊外へと市域の拡大 が進む。
隅田川には木造で長さ174m余、幅7.3mの巨大な両国橋 を掛け、江戸は大江戸八百八町 の巨大な都市へと発展する。
天下泰平になった元禄時代 商人が台頭し、江戸歌舞伎 が人気となり、松尾芭蕉が芭蕉庵 を住処に活躍する。5代将軍徳川綱吉は生類憐令を定めるが、湯島聖堂と学問所 を興し、天文台 を設けている。8代将軍吉宗は享保の改革 で財政を立て直し、大岡越前で知られる町奉行の定め、小石川養生所 を設置、飛鳥山などに桜を植える都市緑化運動 を推奨する。
城下では、町火消し が制度化され、耐火建築の普及 が進む。 改革後の町並み で町人の階層化が始まり、店子の住む裏長屋の発生 に庶民の暮らしが描かれる。元禄以降、定住した町民に江戸っ子意識が芽生え、歌舞伎、浮世絵などの江戸っ子文化が開花していく様子を描いたのが江戸っ子の成立 である。
ふくれあがった江戸を支えるため都市の生理-上下水道 が整備された。飢饉が続き、浅間山噴火で疲弊した人々を救うため老中松平定信は寛政の人返し となる改革を進め、学問所の寺子屋 に力を入れる。
文化・文政期に江戸っ子文化は「いき」の文化 として最盛期を迎え、両国の川開き 、大相撲と大道芸 、芝居見物 が広まり、
料理茶屋・そば屋 などの江戸前料理が定着する。新吉原と岡場所 も賑わい、北斎、広重らの活躍で美人画から漫画へ と発展し、フランス印象派にも影響を与える。
以下、平賀源内、杉田玄白らの活躍を取り上げた蘭学事始 、庶民信仰である流行神 、男女混浴だった浮世風呂と浮世床 、大江戸の交通難 、江戸の境界である市域の固定 、品川、内藤新宿、板橋、千住に代表される江戸四宿の発達 、超過密社会 、都市悪の発生 が描かれる。
1853年の黒船来航 に続き、安政の大地震 が発生し、日米修好通商条約に伴う市中騒乱 、そして1867年の江戸城明け渡し で江戸時代が幕を閉じ、下巻が終わる。
この本を購入したのが30代だが、その後の経験や読書、東京散歩の蓄積が理解力を高めているから、おおよそのことは既知である。
しかし、江戸の出来事を時間軸に乗せながら網羅的に整理されると、家康に始まりその後の将軍や老中たち、なにより江戸に住み、江戸をつくり上げてきた江戸っ子の営々たる努力のすさまじさを改めて感じる。
専門知識をかみ砕いて分かりやすく語る内藤昌氏の解説、図の説得力を巧に生かした穂積和夫氏のイラストも素晴らしい。
小学校6年以上なら、江戸の町入門書として概略を読み取れればいいと思う。むしろ、江戸の知識が断片的で、偏重的な大人が江戸の町を正確に知る本としてお勧めしたい。 (2020.1)