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「パーフェクト・キル」はパンナム機爆破のテロを下敷きにしてクリーシーが社会悪を正す活劇

2017年03月17日 | 斜読

book436 パーフェクト・キル A.J.クィネル 集英社文庫 2000 /2017.3読  (斜読・海外の作家一覧)
 2014年にイタリア紀行を書き出し、イタリアを舞台にした本を探しているときクィネル著の「燃える男」(book380)を見つけた。
  主な舞台はイタリアで、もと傭兵だったクリーシーが心身ともに疲れ切って無二の親友であるグィドーを訪ね、紹介してもらった実業家の娘ピンタのボディガードを引き受けるが、多勢に無勢で瀕死の重傷を負い、ピンタは誘拐後に殺されてしまう。
 グィドーの妻の出身地であるマルタ共和国・ゴゾ島で傷を癒やしたクリーシーはピンタの敵を討つためにイタリアに戻り、単身でマフィアを壊滅させる。
 動機は復讐だが社会悪だけを標的にし、最後は勝利する展開はたいへん評判がよく、クリーシーシリーズとして連作された。

 クィネル自身もマルタに住んでいるし、私も1999年にマルタを訪ねていてそのときゴゾ島にも渡っているから、舞台設定が良く理解でき、親近感を覚えた。
 「パーフェクト・キル」はクリーシーシリーズの2作目である。ゴゾ島で回復を図るとき、グィドーの妻の妹ナディアと知り合う。ピンタの復讐を果たしたあと、ゴゾ島に戻りナディアと一緒になり、娘ジュリアも生まれ、平和で和やかな暮らしをしていたらしい。
 ところが、ナディアとジュリアの乗ったフランクフルト発ロンドン経由ニューヨーク行きのパンアメリカン航空103便がスコットランド上空で爆破墜落し全員が死亡、墜落したロッカビー村人15人も犠牲になった・・この爆破墜落は実際のテロ事件である。クィネルは、事実を下敷きにしているし、下調べも詳細で、臨場感にあふれた物語になっている・・。
 クリーシーは、この爆破がパレスチナ解放人民戦線総司令部PFLP-GCの議長ジブリルによるテロと見抜き、復讐を決意する。
 しかし、厳重に警護されたPFLP-GCに一人で立ち向かうのは不可能と考え、助手を養成しようと考える。白羽の矢が立ったのがゴゾ島の孤児院で育ったマイケルで、訓練をするために養子にしようとするが、両親がそろっていないと養子がとれない。
 そこでロンドンに住む仕事のあまりない俳優レオーニと契約結婚する。最愛のナディアを亡くしたばかりで再婚するのだから結束の強いゴゾの島民は冷ややかだった。物語の前半はマイケルを養子にするためのレオーニとの再婚を軸に展開していく。

 クィネルの特徴はいくつかの場面が同時進行で展開することにある。アメリカの上院議員で大金持ちのグレインジャーの妻ハリオットも同じパンアメリカン航空103便に乗っていて、爆死していた。
 ローリングズという詐欺師がグレインジャーに近づき、敵をとるといって25万ドルをせしめていた。クリーシーはグレインジャーに詐欺師の正体を教え、敵討ちの共同戦線を持ちかける。
 クリーシーはカンヌでローリングズを見つけ出し、グレインジャーの金を取り戻し、ローリングズの小指と一緒に送る。グレインジャーはクリーシーを信じ、敵討ちを支援することにする。

 パンアメリカン航空103便の爆破を指示したPFLP-GC議長ジブリルはパレスチナ・ヤッファの生まれで、イスラエル国の成立で生まれ故郷を失ってしまった。
 ジブリルはシリア陸軍に入り、力をつけ、パレスチナ解放人民戦線を結成し、スイス航空機の爆破やパンアメリカン航空機など、過激なテロを実行していた。

 前半を読み進むうち、クリーシーとマイケルがグレインジャーの支援を受け、テロリストのジブリルを倒すといった物語の構図が分かってくる。これもクィネルの本の特徴で、読者はいつの間にかクリーシーとともに敵討ちに同行している気分になってくる。
 クリーシーに命を助けてもらったにもかかわらず、ローリングズはクリーシーとグレインジャーがテロ実行犯を捜している情報をジブリルに流してしまう。
 ローリングズの裏切りを知ったクリーシーはローリングズを始末するとともに、仲間を集め24時間体制でグレインジャーの警護を当たらせる。
 クリーシーの仲間があちらこちらで登場するが、これもクリーシーがもと傭兵でありながら、誠実で正義感が強く、人情味にあふれているとの設定による。おそらくクィネルの理想像であろう。

 グレインジャーを誘拐拉致するため、ジブリルの依頼で、モレッティ・ファミリーが動き出す。モレッティの動きを察知したクリーシーと仲間は罠を仕掛け、グレインジャーを含めて入念な準備をして迎え撃つ。
 マイケルの訓練の話や、レオーニとの紆余曲折もていねいに描かれるが割愛、やがてクリーシーはレオーニを愛するようになり、敵討ち作戦に参加することになった。
 ところが、かつてクリーシーの部下だったが悪さをしたためクリーシーに痛めつけられたデヴィッドが、ジブリルの金目当てでレオーニの車を爆破する。

 レオーニを亡くしたクリーシーとマイケルはダマスカスに潜入し、厳重な警護の届かない520mも離れた屋根からジブリルに向かってライフルを構える・・・。
 合法的には手の出せない敵討ちを非合法で果たす、社会悪を正す、といったクィネルの狙いが活劇とともに盛り込まれた物語である。

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