yoosanよしなしごとを綴る

つれづれなるままにパソコンに向かいて旅日記・斜読・よしなしごとを綴る

「素顔のフィレンツェ案内」斜め読み

2015年03月16日 | 斜読

b389 素顔のフィレンツェ案内 中嶋浩郎・中嶋しのぶ 白水社 1996  斜読index

 著者浩郎氏は1983年からフィレンツェ大学に留学して美術史を専攻、そのまま住み続け、フィレンツェ大学日本語学科講師を務めている。夫人しのぶ氏は仏文科卒後、1991年からフィレンツェに住んでいる。1996年の出版だから、浩郎氏は12年ほど、しのぶ氏は5-6年フィレンツェで暮らしていて、フィレンツェには詳しい。あとがきにフィレンツェの友人から「ひろはほとんどフィレンツェ人だ」と言われたとあり、「ほとんどフィレンツェ人」の視点から素顔のフィレンツェを書いたそうだ。

 確かに、タイトルから美術とかルネサンスとか歴史とかを外してあるように、この本はフィレンツェ人の発想の仕方や行動の仕方、価値観、優先することと後回しにすることなど、まさに素顔のフィレンツェ案内としてまとめてある。私自身は2004年に1泊1日、2014年に2泊2日フィレンツェを楽しみ、前後して建築案内や美術案内、ルネサンス、マキャベリなどを読んだ。旅行者の滞在時間は短いから、見学できるものは限られてくる。それを本が補ってくれるがどうしても建築や美術に偏ってしまう。それをさらに補ってくれるのが、フィレンツェ・ミステリーガイドやこの本「素顔のフィレンツェ案内」であろう。ついこの間歩いたところの外観、表面からはうかがえない素顔や謂われがかいま見え、短いフィレンツェ滞在に重みが増したし、次の機会の楽しみになった。

 目次で素顔の内容を紹介する。
レプッブリカ広場  フィレンツェ発祥の地
ドゥオーモ  大聖堂とお祭り
シニョーリア広場  広場は野外博物館
サンタ・マリア・ノッヴェッラ  フィレンツェの表玄関
サン・マルコ  胃袋と買い物袋
サンタ・クローチェ  古式サッカーと偉人たち
ポンテ・ヴェッキオ  フィレンツェ最古の橋
サント・スピリト  職人気質が残る下町
ミケランジェロ広場  街を見下ろす散歩道
カンポ・ディ・マルテ  紫に染まるスタジアム
フィエーゾレ  丘の上の小さな町

 2004年、2014年ともフィレンツェのホテルは街なかで地の利が良かった。2004年では朝早く起き、サンタ・マリア・ノヴェッラ教会の見学に行った。朝早すぎて中には入れなかったので教会広場から外観を楽しんだ。
 2014年では夕食のときにこの広場を通ったら、屋台がぎっしりと並んでいて、外国人がたくさんいた・・私たちも外国人だが・・。
 翌日の午後、その先のフィレンツェ中央駅をのぞいた。大勢でごった返していたが、ここも外国人がたくんさん見られた。
 p73には、もともとフィレンツェの屋敷で働くフィリピン人が休日のたびにこの広場に集まっていたが、やがてアフリカや中近東から来た人のたまり場になってしまい、イタリア人より外国人が目立つ場所になってしまったと書かれている。こうしたことは長年暮らしていて、さらにイタリア人の仲のいい友人がいないと分かりにくい。このことはサンタ・マリア・ノヴェッラの項の最後に出てくる。

 サンタ・マリア・ノヴェッラの書き出しにはフィレンツェ中央駅の由来が述べられている。中央駅の応募プロジェクトがヴェッキオ宮殿に展示され、フィレンツェ人が押しかけて侃々諤々の議論が交わされたそうだ・・このあたりにもフィレンツェ人の気質がうかえる・・。
 選ばれたのは当時としては革新的な=箱のような作品だった・・私が見たのはこの駅・・。建築家ミケルリッチはブルネッレスキ(サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂など)、ミケランジェロ(サン・ピエトロ大聖堂など)の後継者といわれるほど評判になったそうだ。このへんは美術専攻の著者の博識が表れている。ついでながら、駅地下駐車場がなかなかできなかったこと・・イタリア人らしい仕事ぶり・・、さらにフィレンツェの交通事情に話が進んでいく。

 という書き方だから、フィレンツェの素顔を知る格好の案内書ではあるが、全部を読み通さないとどんな素顔がどこに描かれているかは分からない。言い方を変えれば、目次順の脈絡はなく、あちらこちらに素顔の断片が描かれているから、どこから読み始めても同じである。
 となると、まだフィレンツェを訪ねたことのない方は順当に目次に沿って読み、フィレンツェを訪ねたことのある方は自分の記憶に残っている場所から順に読み、これからフィレンツェに行く方は行く先々の場所にあわせて読むといい。

 各項目の冒頭にフィレンツェの美術アカデミー在学中の画家によるイラストマップが載せてある。著者はあとがきで道案内が楽しくなるとベタホメだが、文中の地名が載っていないことが多く迷子になりそう。イラストから素顔の雰囲気は伝わってくるが、道案内のマップは正確さがほしい。あるいは、フィレンツェ流にぶらっと歩き、出会いを楽しむ、といった狙いかな。
 正確なマップと正当派の建築案内や歴史案内、美術案内とこの本をあわせもってフィレンツェを訪ねれば、滞在が短くてもフィレンツェを堪能できる、と思う。(2015.1記)

 

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