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池澤夏樹著 「スティル・ライフ」

2019-04-15 14:44:08 | 読書
数週間前に電子書籍で読んだのですが、どのように読後感を綴ろうかと考えているうちに時間が経ってしまいました。



第98回 芥川賞受賞作品で、1991年に出版されました。

登場人物は染色工場でアルバイトとして働く主人公の「ぼく」と同じ職場で出会った「佐々井」と二人だけと言って良いでしょう。

タイトルの「スティル・ライフ」は絵画用語で「静物」を意味するのですが、個人的には「静かな生活」と名付けたいです。

この小説には音が感じられません。

音だけではなく色彩もなくモノクロの静止画を見ているように感じました。

ゲルハルト・リヒターのモノクロの画が思い出されました。

例えば主人公がガールフレンドとその友人たちとお花見にドライブする描写があるのですが、主人公以外は賑やかにおしゃべりしているはずなのに嬌声などが全然聞こえてこないのです。

リヒターの「モーターボート」(1965年)のようです。


それから佐々井が事情があって主人公の大きな家に引っ越してくるのですが、この家の感じも朧で
やはりリヒターの「ギャラリー」(1967年)が思われました。


小説の中で唯一鮮やかな色として浮かび上がるのが、二人でバーで飲んでいた時に佐々井が言及する「チェレンコフ光」の青色です。

チェレンコフ(放射)光は「荷電粒子の速度がその物質中の光速度よりも速い場合に光が出る現象」(ウィキペディアより)でスーパーカミオカンデや原子力発電所の燃料プールでその青白い光が観測されるということです。

この小説は小柴先生のノーベル賞受賞や原子力発電所の事故発生前に書かれたものですが、池澤さんが物理学専攻だということが伺われます。

私はこの小説の冒頭で「チェレンコフ光」という言葉を見た時に東日本大震災後に購入した
次の本のことを思いました。



「原子炉」というタイトルのこの本ではフランス各地の原発を渡り歩く作業員が描かれています。
そこでは年間の「被曝量基準値」などは遵守されていません。労働監督署の審査が入る前に次の原発作業所へと移ってしまうのです。

ある時作業員の一人が「青白い光」を見るという箇所があるのですが、東海村JCO臨海事故でも作業員は「青白い光を見た」と作業員が証言しています。

そういえばリヒターにはフランスの原発があるシノンの絵もあります(小説にも登場します)。
風光明媚なこの地区は1963年にフランス初の原子力発電所の商業運転を始めたところで、閉鎖された一番古いA-1号機は1986年以来、原子力博物館となっています。




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