風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

ミルフイユ(mille-feuille)

2010年04月20日 | 「特選詩集」
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曖昧な時間のなかへ
軽くフォークをたてる
乾いてあやうい手ごたえ
フィユタージュの薄いすきまから
あやしげに覗く
クレーム・パティシェールの甘い微笑み
私はもう逃げだせないのです


木々の記憶が散る
千枚の葉っぱ(mille-feuille)
アントナン・カレームの
悪のささやき
乾いた手にみちびかれ
葉脈の流れの先まで
深くおぼれてしまいそうです


アルハンブラ宮殿の赤の
苺のようにつぶしてください
あまい蜜がしたたる壁の
イスラムの千の祈り
千人の唇と指がしびれて
グラナダが陥ちる


空しさへ満たされることの
冷たい喪失のふちで
ミルフイユの層なす夢のあとは
フォークのように蒼ざめているのです
やがて首のない彷徨のとき
ルイ王朝の深い眠りに
ふたりは落ちる


(2004)


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