風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

階段

2010年04月27日 | 詩集「家族の風景」
Kaidan_2


まいにち階段の数をかぞえる
それが母の日課だった
増えたり減ったりするのでとても疲れる
と母はぼやく
階段のある家には住みたくないといった
階段がなくなったら
ぼくの駅がなくなってしまう


階段の途中にぼくの駅はあった
痩せて背の高いひとが手をふっている
ぼくの帰りを待っている父だった
腕を横に伸ばしそれから斜めに下ろす
かたんと音がしてぼくの列車が通過する
階段を上り階段を下りる
一段一段に駅の名前が付いていた


妹はいつも
階段の途中で寝そべっている
そこにはきれいな花が咲いているのだという
ぼくには見えないけれど
いい匂いがするときがある


階段を上るとき窓が動く
階段を下りるとき景色が動く
景色が動くと階段も動きはじめる
脇見をしてはいけないと先生に注意される
だがぼくの列車は走りつづける


階段の途中で父を降ろした
父を降ろした駅は無人駅になった
忘れないように花をいっぱい植えたと妹がいう
花を踏んではいけないと
しばしば妹と言い合いになって
ぼくたちは階段の途中で泣いてしまう


母は階段をかぞえなくなった
階段はもう無くなったのだという
ぼくの階段はなくならないし駅もある
見通しが良くなって静かになった
無人駅の待合室のようにすこしさみしい
階段の途中にすわったまま
窓の景色が動くのを待っている
階段が動くのをいつまでも待っている


(2009)


この記事についてブログを書く
«  | トップ |  »
最新の画像もっと見る

詩集「家族の風景」」カテゴリの最新記事