12月は手術台の上で 右向き横になって できるだけ背中を丸めて 海老になっていると 医師の指が背骨をなぞる 腰椎の凹み部分を なにやら慎重に探っている そこは骨と骨の繋ぎ目 まずは表皮を麻酔するための 軽い注射が打たれた様子 その後ここぞと脊髄麻酔の針 麻酔薬を注入します という合図と 指先に電気が走るように感じたら すぐに知らせてくださいと なにやら危険そうな注射を だが電気が走ることもなく つぎは仰向けにされ 両腕を真横に伸ばして固定され 十字架に貼り付けになった人に あとは処刑もされるがままだ 血圧計だか心電図計だかの コードが腕や胸などにべたべたと 広い手術室のどこかで 心臓の鼓動らしい音が 規則的に共鳴している 冷たいものが医師の手で 腹部や胸部に当てられ 麻酔の効きを確認しようとする それに応じて 感じます感じません と応答していると メッチャ効いてるという 医師の確認の声がなぜか 嬉しそうで滑稽で シートに隔てられて 医師らの様子は見えないが 頭上には大きな照明灯があり 小さな丸い電球が無数に張り付き どれも眩しさはない弱い明かりで その明かりから目をずらせば 照明灯の端っこに 医師の手の動きが映っている ほんの一部なので曖昧だが ハサミやペンのようなものが その手の中で忙しく動いている 様々な器具を要求する医師の声 どんなことがされているのか どのくらい進行しているのか 切開部の感覚はまったくない 照明灯に映る医師の手の わずかな動きから わずかな想像力を働かす ペンのようなものは電気メスか 器具を操作する音に反応して どこかでブーという音がする 肉が焼けるような臭いもする 医師たちの話し声はするが 内容まではわからない たまに笑い声が起きて 何がおかしいのかと 気になって推測するも それだけの余裕があるのかと すこし安心したりもする 白いガーゼのような 長い布切れが出し入れされ 血も付いているようだ 細かいことは分からない もどかしさのうちに 時間の経過がとてものろい ときどき腕の血圧計が強く絞まる それら計器類の表示は なにをどう示しているのか 緊張感も長くは続かず これまでの気持や思考の配分が 集中から散漫になっている 5センチ角のメッシュ という医師の声 そのメッシュとはあれか それで穴が塞がれるのかと 前日のナースの説明を思い出し あれがそれかと想像する 過ぎ去った時間は早い そしてふり返れば その時もすぐに来て 手術室までは歩いて ナースと娘に付き添われ 7階からエレベーターで下り 3階のひっそりとした廊下を進んでいくと 手術室の大きな扉の前 そこまでで娘は談話室に戻らされ 付き添いのナースが点滴の袋を持ち しばし扉が開くのを待って ふたりで広い手術室に入る がらんとした工場のような空間 何人かのスタッフが居て ふたりのナースから 本日の看護担当であると いきなり自己紹介されたが 名前は覚えていない 様々な装置や器具やメーターなど わっと目に入ってきたが それも一瞬のことで そこから時間は 脈絡なくきれぎれに 2時間ほどが過ぎて いま手術室の電話が鳴っている 誰かが受けて もうすぐ終わると告げている お腹に力を入れて 力を抜いて と医師の要求を受けて 力を入れたら 反応したのは自分の腹で たしかに自分の体で やっと自分を取り戻したなどと 気分も和らいだところに 医師の顔が近づいてきて 大変やったが予定通り 穴がけっこう大きかった と告げられ言葉を探したが 見つからずに頷いただけ 器具やコードが外され ベッドに移しますと 幾人かの手でシーツごと 横のベッドに移される すぐに天井が動き出し ガタンゴトンと背中から レールを越える響きを受けて 手術室の外に運ばれたことを知る そこに娘は待っていて 医師の術後説明があるはずだったが ただ予定通りに終わったという ごく簡単な説明だけだった