風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

さんま苦いか塩っぱいか

2022年09月17日 | 「詩エッセイ2022」



信楽焼の長方形の皿がある なんとなくその上に 拾ってきた落葉をのせた 今の時期なら この皿の上には秋刀魚 それがいつもの習いなり なのにその姿はない 去年もなかった 一昨年もなかった 秋刀魚はいつのまにか 手が届きにくい魚 遠くの魚になってしまった スーパーの秋刀魚は 腹わたも無さそうな痩せっぽち 高島屋の秋刀魚は ツンとお澄まし高級魚 どんなに秋刀魚を恋していても つれない顔に見えてしまう さんま苦いか塩っぱいか なま唾ごくりと こころ残してスルーする そんなわけで お皿の落葉は あわれ秋刀魚の身代わり 箸をつけること能わず 錦に頬染めし落葉は 秋刀魚よりも美わしい などと負け惜しみするが 美わしかれど身に添わず 食欲を充たすこと叶わず 武士は食わねど落葉かな 夕餉にひとり さんまを食らひて 思ひにふける やはり秋刀魚は旨いのだ そいつは苦くて塩っぱいけれど 落葉はたぶん無味乾燥 苦くもなければ塩っぱくもなく 箸を付けることもままならず ただ眺めているやるせなさ 忘れがたき秋刀魚の旨さ その苦いのは腹わただが いちばん旨いのも腹わたで その腹わたを食べない人もイルカ 秋刀魚の腹を包丁で割き あわれ腹わたは生ゴミとなり だいじな味をポイすることに ああさんまよさんま 苦くて塩っぱいその旨さ 月みる月はこの月の月 秋の夜長を鳴きとおす 秋刀魚の味が忘れられない かたちは魚に似ていても 落葉はしょせん落ち葉なり 賞味期限はたったの1日 落葉は夕焼けに輝けど 月夜の晩に消え失せる 落葉はやがて色あせて 干からび粉々に砕け散る せめて麗しきこの1日を 酒のサカナにいいかもしれぬが 秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけれ 葉っぱの秋宴 いかに信楽焼でもままならず 秋刀魚の片想い 侘びしいかぎり あはれ秋風よ 情(こころ)あらば伝えてよ



自作詩「潮騒」

 

 

 

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