風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

新聞

2010年04月28日 | 詩集「ぼくたちの神様」
Kamisumo2


僕たちは退屈なので
仲間が集まると新聞をよむ
四角くて大きな新聞紙のまわりを
楽しいゲームをするようにとりかこむ
それは本当に新聞だろうか
誰かがそれは新聞だと言った
だからそれは新聞なのだ


新聞の文字は小さくてかたい
新しいことは新しい文字が伝える
新しい国
新しい街
新しい顔
知らないことは新しい


水たまりのように
暗いニュースは跳び越える
きっと水たまりの中には死体がある
たくさんあるのを戦争という
数えられるのを殺人という
誰かがそういって解説するので
僕たちは熱心に
水たまりを探しはじめる


この新聞は古いと誰かが言う
古くても新しくても同じだと誰かが言う
変わるのは日付だけだと誰かが言う
日付だけを読む一日ははやい


新聞を読むのはあまり楽しくない
新聞を読んだらますます退屈になる
僕たちはもう遊ぶのも退屈だけど
鳥みたいに飛べないから
新聞紙で紙ヒコーキを折り
市役所の錆くさい非常階段を駆け上がる


風はくまなく街の屋根に吹いている
屋根は平和だから音もたてない
瓦の下には死体もないとおもう
誰かがひそかに隠しているとしても
そのていどなら戦争ではない
紙ヒコーキはゆうゆうと飛ぶ
腐った死体をいっぱい乗せて
ゆっくりと平和な屋根に落ちてゆく
そして僕たちは新聞のことを忘れる


(2004)


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