21世紀の選択(1)―「奪い合う社会」から「分かち合う社会へ」―
明けましておめでとうございます。2015年が始まりました。
近年の日本にはさまざまな問題がありました。最大の転換は安倍政権が「戦争ができる軍事国家」へ舵をきったこと,
次いで格差拡大をもたらす「アベノミクス」が実施されたこと,の2点につきます。
安倍政権は今年中に,昨年閣議決定された「集団的自衛権」が実際に行使できるよう,法的整備を進めようとしています。
これについては,
次回に触れたいと思います。
今回は,「奪い合う社会」から「分かち合う社会」へという観点から「アベノミクス」を見直してみたいと思います。
「アベノミクス」については,このブログでも何回か取り上げましたが,要点を次の3つに絞って考えてみたいと思います。
第一に,市場に大量の貨幣を供給し,国内的にはデフレからの脱却(人為的なインフレ)を起こし,国際的には円安により,
輸出の拡大をもたらすことを意図しています。
第二に,大企業の国際競争力を強化するためという名目で労働者の実質賃金を抑え,他方で法人税を下げる,という
大企業優先政策が採られています。
第三に,安倍政権が福祉や年金などの社会保障予算を削り,国民の負担を増やそうとしています。
以上の三点のうち第一点についていえば,現実には期待したデフレからの脱却も輸出の拡大も起こりませんでした。
そして,実体経済に資金需要がないのに大量の貨幣を発行しても,そのお金は経済を活性化させ,国民を豊かにする
有効な投資に向かうことなく,日金の金庫の中で眠っているか,株などへの金融商品に向けられました。
金融商品への投資はマネーゲーム,ギャンブルであり,誰かが得すれば誰かが損をする典型的な「奪い合う」行為です。
たとえ株式市場が活況を呈したところで,実体経済から離れ,大部分の国民にとって,ほとんど関係のないことです。
しかもこのゲームでは,豊富な資産・資金力をもち,恵まれた教育を受け,有能なアドバイザーや有益な情報を得や
すい富裕層が圧倒的に有利です(ピケティ 『21世紀の資本論』)。
第二の問題は,具体的には残業代のカット,非正規雇用の割合の増加という形で表れています。他方で,法人税率は
2015年度から段階的に引き下げることになっています。
大企業を中心に300兆円以上の社内留保金を貯めていますが,これらの企業がボーナスなどの一時金を増やす
ことはあっても,雇用者の基本給を上げてはいません。
第三の問題は,年金・福祉予算のカットと負担増は,低所得者と老人世帯をますます厳しい状況に追いやることです。
全体としてみると,アベノミクスにより大企業と富裕層はますます富を増やす一方で,その他の人は相対的に貧困化します。
こうして社会内部に貧富の格差が拡大します。
これは,資本主義という経済制度が本質的に抱えている構造的な問題でもあります。
というのも,資本主義では効率と利益の拡大を目指して人々が競争し,勝者は富と力を得るが敗者は貧困化する
ことを当然のこととしているからです。
資本主義経済では,競争=「奪い合う」ことが社会原理となっています。しかし,この競争は,圧倒的に大企業と
富裕層に有利に仕組まれています。
もちろん,これまでも資本主義のこうした負の側面を是正するために,「福祉国家」を目指す北欧諸国のように,
積極的に富の社会的再配分を行おうとする例もあります。
これには,税を累進制にして豊かな人たちに税(社会的負担)を課し,貧しい人への医療や生活保護教育補助,
種々の免税措置を講ずるなど,種々の再配分の方法があります。
こうした考えは,社会全体で「分かち合う」精神といってもいいでしょう。しかし,安倍政権は,やはり「奪い合う」
原理を推し進め,そしてその勝者と手を組む道を歩んでいます。
たとえば,第二次安倍政権が発足した翌月の2013年1月,直ちに生活保護のうち生活費にあたる「生活扶助費」を
2013年度から3年間かけて6.5%引き下げることを決めました。
2014年度の実績を見ると,都市部の夫婦と子ども一人世帯で,2年前と比べて月6千円減りました。また子ども
一人に母子世帯で,月2千円の減額でした。
このため,国全体では生活扶助費だけで700憶円ほどの減額となりました。(『東京新聞』2014年11月29日)
2014年7月に改正された「生活保護法」では,申請に対して資産などを記した申請書の提出を義務付けました。
さらにこの法改正で,親族に扶養能力がある場合には生活保護を拒否したり,扶養を断る親族に説明を求める
ことも可能となりました。
親族に気兼ねして申請を断念する人が増える可能性があり,政府はこれを期待しています。
医療の分野では,平成26年4月1日以降に70歳になる高齢者の医療負担は現行の1割から2割に引き上げられます。
追い打ちをかけるように政府は,生活保護のうち家賃にあたる「住宅扶助」などを2015年度に「適性化」(減額)
を図ることにしています。
今回は見送られましたが,安倍政権は配偶者控除も廃止の方向で検討しています。これは,パート主婦からも税金を
取ろうとしているのです。
ところで。「奪い合う社会」の何が問題で,なぜ「分かち合う社会」を目指さなければならないかを考えてみましょう。
これには多くの問題がありますが,2点だけ挙げておきます。
まず,競争といっても,金融や土地などの資産や教育環境などに大きな差があり,各人が公平なスタートラインに立って
の競争ではありません。
たとえば,資産ゼロ世帯の割合は,1994年が8.8%でしたが,2014年には30.4%にまで上昇しているのです(注1)
深刻なのは,直近の調査(2012年)によれば,日本の「子どもの貧困率」(注2)が,これまで最高の16.3%,
実に6人に1人,1人親(大部分は母子家庭)の場合,子ども貧困率は54.6%,
つまり半分以上に達している現実です。
これは,教育・学習面にも大きな与えています。下の図表でみると親の収入と子ども学力の関係は,恐ろしいほど
対応しています。
貧困家庭と年収1000万円以上の過程の子どもとの学力の差は,算数Aで約20点,国語Aでも16点もの
差があるのです。(注3)
貧困家庭のこどもは学力でも経済力でも大学などの高等教育を受ける機会を奪われ,それが職業や収入にも
影響を与えます。
このまま学力と経済力の格差が拡大すると,この子どもたちの子どもも同様の結果になる「貧困の連鎖」を生む可能性が
大いにあります。
他方で,富裕層には相続税を逃れる方法,海外への財産移転,その他の税逃れ方法がたくさんあり,この点は非常に不公平です
(『東京新聞』2014年9月27日,2014年12月31日)。
次に,全体の賃金が一貫して減少していることに加えて格差が拡大していることは,経済的にも社会的にも活性化を奪います。
経済的にみると,政府は社会保障をできるだけ削ろうとしていますが,むしろ,再配分によって貧しい世帯にできる限り手当
を厚くすべきです。
なぜなら,このような世帯では増えた所得のうち実際に消費に回す割合(限界消費性向)が非常に高いからです。
しかし,同じ1万円の所得増でも,富裕層にとってはほとんど意味がなく消費は増えません。現在の政府は,消費を増やそうと
していますが,多くの人は増やしたくても増やせないのが実情です。
少子化が日本の活力を奪っている現状を改善しなければならないのに,政府は企業の競争力を高めるために,賃金が低く
雇用が不安定な非正規雇用の増加を進めています。
社会的には,将来を担う若者世代の約4割が非正規雇用という現実のなかで,彼らは自分自身の将来に希望をもてないのに,
結婚して子供を生み育てようとするだろか。
社会福祉・社会保障の理念は,「支え合う」ことです。日本がこれから希望の持てる社会に変わってゆくためには,是非とも富と
所得の再配分を行う必要があります。
そのためには,ピケティが主張するように政府は,高額所得者への税の累進制を高め,企業への優遇措置を見直すなど,
できる限り富の社会的再配分を図るべきです。
政府は,社会保障の財源がないことを言いますが,一方で「国土強靭化法」により10年で200兆円もの公共(土木)事業を
行うことにしています。
政府は年金と社会保障費の増大が財政を圧迫するとの理由でこれらを削減していますが,年間10兆円の土木事業がどれほど
有効に働くかを真剣に考えるべきです。
いままで公共事業によって自民党の票田は確保されたかもしれませんが,経済が良くなり,一般の国民が豊かになったためしは
ありません。それより,この土木事業予算からできるだけ多くを社会保障に回す方が社会経済的には有効です。
「支え合う社会」の実現には,経済的な再配分だけでなく,むしろそのような価値観を国民が共有することの方が大切かも
知れません。
そうすれば,自ずと経済的な問題にも反映されるはずですから。
今こそ「奪い合う社会」から「支え合う社会」へ発想を転換することが,21世紀への正しい選択だと思います。
(注1)『東京新聞』2014年12月21日,朝刊8-9面は,さまざまな角度から格差問 題を図表とともに解説しています。
(注2)平均的な年収の半分以下の世帯の18歳以下の子供の割合で,日本の場合122万円が「貧困ライン」です。
(注3)(注2)と同じ。
明けましておめでとうございます。2015年が始まりました。
近年の日本にはさまざまな問題がありました。最大の転換は安倍政権が「戦争ができる軍事国家」へ舵をきったこと,
次いで格差拡大をもたらす「アベノミクス」が実施されたこと,の2点につきます。
安倍政権は今年中に,昨年閣議決定された「集団的自衛権」が実際に行使できるよう,法的整備を進めようとしています。
これについては,
次回に触れたいと思います。
今回は,「奪い合う社会」から「分かち合う社会」へという観点から「アベノミクス」を見直してみたいと思います。
「アベノミクス」については,このブログでも何回か取り上げましたが,要点を次の3つに絞って考えてみたいと思います。
第一に,市場に大量の貨幣を供給し,国内的にはデフレからの脱却(人為的なインフレ)を起こし,国際的には円安により,
輸出の拡大をもたらすことを意図しています。
第二に,大企業の国際競争力を強化するためという名目で労働者の実質賃金を抑え,他方で法人税を下げる,という
大企業優先政策が採られています。
第三に,安倍政権が福祉や年金などの社会保障予算を削り,国民の負担を増やそうとしています。
以上の三点のうち第一点についていえば,現実には期待したデフレからの脱却も輸出の拡大も起こりませんでした。
そして,実体経済に資金需要がないのに大量の貨幣を発行しても,そのお金は経済を活性化させ,国民を豊かにする
有効な投資に向かうことなく,日金の金庫の中で眠っているか,株などへの金融商品に向けられました。
金融商品への投資はマネーゲーム,ギャンブルであり,誰かが得すれば誰かが損をする典型的な「奪い合う」行為です。
たとえ株式市場が活況を呈したところで,実体経済から離れ,大部分の国民にとって,ほとんど関係のないことです。
しかもこのゲームでは,豊富な資産・資金力をもち,恵まれた教育を受け,有能なアドバイザーや有益な情報を得や
すい富裕層が圧倒的に有利です(ピケティ 『21世紀の資本論』)。
第二の問題は,具体的には残業代のカット,非正規雇用の割合の増加という形で表れています。他方で,法人税率は
2015年度から段階的に引き下げることになっています。
大企業を中心に300兆円以上の社内留保金を貯めていますが,これらの企業がボーナスなどの一時金を増やす
ことはあっても,雇用者の基本給を上げてはいません。
第三の問題は,年金・福祉予算のカットと負担増は,低所得者と老人世帯をますます厳しい状況に追いやることです。
全体としてみると,アベノミクスにより大企業と富裕層はますます富を増やす一方で,その他の人は相対的に貧困化します。
こうして社会内部に貧富の格差が拡大します。
これは,資本主義という経済制度が本質的に抱えている構造的な問題でもあります。
というのも,資本主義では効率と利益の拡大を目指して人々が競争し,勝者は富と力を得るが敗者は貧困化する
ことを当然のこととしているからです。
資本主義経済では,競争=「奪い合う」ことが社会原理となっています。しかし,この競争は,圧倒的に大企業と
富裕層に有利に仕組まれています。
もちろん,これまでも資本主義のこうした負の側面を是正するために,「福祉国家」を目指す北欧諸国のように,
積極的に富の社会的再配分を行おうとする例もあります。
これには,税を累進制にして豊かな人たちに税(社会的負担)を課し,貧しい人への医療や生活保護教育補助,
種々の免税措置を講ずるなど,種々の再配分の方法があります。
こうした考えは,社会全体で「分かち合う」精神といってもいいでしょう。しかし,安倍政権は,やはり「奪い合う」
原理を推し進め,そしてその勝者と手を組む道を歩んでいます。
たとえば,第二次安倍政権が発足した翌月の2013年1月,直ちに生活保護のうち生活費にあたる「生活扶助費」を
2013年度から3年間かけて6.5%引き下げることを決めました。
2014年度の実績を見ると,都市部の夫婦と子ども一人世帯で,2年前と比べて月6千円減りました。また子ども
一人に母子世帯で,月2千円の減額でした。
このため,国全体では生活扶助費だけで700憶円ほどの減額となりました。(『東京新聞』2014年11月29日)
2014年7月に改正された「生活保護法」では,申請に対して資産などを記した申請書の提出を義務付けました。
さらにこの法改正で,親族に扶養能力がある場合には生活保護を拒否したり,扶養を断る親族に説明を求める
ことも可能となりました。
親族に気兼ねして申請を断念する人が増える可能性があり,政府はこれを期待しています。
医療の分野では,平成26年4月1日以降に70歳になる高齢者の医療負担は現行の1割から2割に引き上げられます。
追い打ちをかけるように政府は,生活保護のうち家賃にあたる「住宅扶助」などを2015年度に「適性化」(減額)
を図ることにしています。
今回は見送られましたが,安倍政権は配偶者控除も廃止の方向で検討しています。これは,パート主婦からも税金を
取ろうとしているのです。
ところで。「奪い合う社会」の何が問題で,なぜ「分かち合う社会」を目指さなければならないかを考えてみましょう。
これには多くの問題がありますが,2点だけ挙げておきます。
まず,競争といっても,金融や土地などの資産や教育環境などに大きな差があり,各人が公平なスタートラインに立って
の競争ではありません。
たとえば,資産ゼロ世帯の割合は,1994年が8.8%でしたが,2014年には30.4%にまで上昇しているのです(注1)
深刻なのは,直近の調査(2012年)によれば,日本の「子どもの貧困率」(注2)が,これまで最高の16.3%,
実に6人に1人,1人親(大部分は母子家庭)の場合,子ども貧困率は54.6%,
つまり半分以上に達している現実です。
これは,教育・学習面にも大きな与えています。下の図表でみると親の収入と子ども学力の関係は,恐ろしいほど
対応しています。
貧困家庭と年収1000万円以上の過程の子どもとの学力の差は,算数Aで約20点,国語Aでも16点もの
差があるのです。(注3)
貧困家庭のこどもは学力でも経済力でも大学などの高等教育を受ける機会を奪われ,それが職業や収入にも
影響を与えます。
このまま学力と経済力の格差が拡大すると,この子どもたちの子どもも同様の結果になる「貧困の連鎖」を生む可能性が
大いにあります。
他方で,富裕層には相続税を逃れる方法,海外への財産移転,その他の税逃れ方法がたくさんあり,この点は非常に不公平です
(『東京新聞』2014年9月27日,2014年12月31日)。
次に,全体の賃金が一貫して減少していることに加えて格差が拡大していることは,経済的にも社会的にも活性化を奪います。
経済的にみると,政府は社会保障をできるだけ削ろうとしていますが,むしろ,再配分によって貧しい世帯にできる限り手当
を厚くすべきです。
なぜなら,このような世帯では増えた所得のうち実際に消費に回す割合(限界消費性向)が非常に高いからです。
しかし,同じ1万円の所得増でも,富裕層にとってはほとんど意味がなく消費は増えません。現在の政府は,消費を増やそうと
していますが,多くの人は増やしたくても増やせないのが実情です。
少子化が日本の活力を奪っている現状を改善しなければならないのに,政府は企業の競争力を高めるために,賃金が低く
雇用が不安定な非正規雇用の増加を進めています。
社会的には,将来を担う若者世代の約4割が非正規雇用という現実のなかで,彼らは自分自身の将来に希望をもてないのに,
結婚して子供を生み育てようとするだろか。
社会福祉・社会保障の理念は,「支え合う」ことです。日本がこれから希望の持てる社会に変わってゆくためには,是非とも富と
所得の再配分を行う必要があります。
そのためには,ピケティが主張するように政府は,高額所得者への税の累進制を高め,企業への優遇措置を見直すなど,
できる限り富の社会的再配分を図るべきです。
政府は,社会保障の財源がないことを言いますが,一方で「国土強靭化法」により10年で200兆円もの公共(土木)事業を
行うことにしています。
政府は年金と社会保障費の増大が財政を圧迫するとの理由でこれらを削減していますが,年間10兆円の土木事業がどれほど
有効に働くかを真剣に考えるべきです。
いままで公共事業によって自民党の票田は確保されたかもしれませんが,経済が良くなり,一般の国民が豊かになったためしは
ありません。それより,この土木事業予算からできるだけ多くを社会保障に回す方が社会経済的には有効です。
「支え合う社会」の実現には,経済的な再配分だけでなく,むしろそのような価値観を国民が共有することの方が大切かも
知れません。
そうすれば,自ずと経済的な問題にも反映されるはずですから。
今こそ「奪い合う社会」から「支え合う社会」へ発想を転換することが,21世紀への正しい選択だと思います。
(注1)『東京新聞』2014年12月21日,朝刊8-9面は,さまざまな角度から格差問 題を図表とともに解説しています。
(注2)平均的な年収の半分以下の世帯の18歳以下の子供の割合で,日本の場合122万円が「貧困ライン」です。
(注3)(注2)と同じ。