大木昌の雑記帳

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飽食の背後で進行する食料危機(2)―温暖化・水不足、そして解決策は?―

2021-02-16 19:30:49 | 食と農
飽食の背後で進行する食料危機(2)
―温暖化・水不足、そして解決策は?―

前回は、世界には飽食、特に肉の飽食が存在する一方、深刻な食料危機に直面している
地域や人々がいることを、NHKスペシャル「飽食の悪夢」(2021年2月7日放送)を
紹介しつつ、いくつかの観点から検討しました。ざっとおさらいしておきましょう。

食料危機をもたらす一つの要因は、日本を含む先進諸国における飽食です。そして、そ
の飽食は、一方でたんにたくさん食べるだけでなく、大量の食料を廃棄していることに
も大きな問題があります。日本で廃棄される食料だけで世界の食糧支援量の1・5倍に
もなりり、2億人に人々の飢餓を救えます。

さらに、過剰な肉食も世界的に食料危機をもたらす要因となっています。というのも、
肉1キロを生産するには6~20キロの穀物飼料が必要だからです。

実際、世界の穀物生産の3分の1は、人間が食べるのではなく、家畜の飼料なのです。
その分を食料不足に悩む人々に分けるだけで、世界の食料不足はかなり緩和されます。

飽食がもたらす食料危機を、今回は温暖化と、農業に必要な水資源の枯渇という観点
から考えてみましょう。

農業にとって水と太陽の日照と温度は、絶対に欠かすことができない要素です。

日本は、1年を通して、ほぼまんべんなく雨がふり、川には水が流れているので、農
業用水が不足する、というのは想像しにくいかもしれません。

しかし、日本でも少し雨の降り方が少ないとたちまち農作物の生育に影響します。私
自身、ここ10年ほど、小規模ながら農業をやってきました。その経験からすると、
数年に一度は、雨が降って欲しい時(たとえば梅雨)に雨が降らなかったり、夏の間
の渇水のため作物の成長が止まったり、枯れてしまう場合がありました。

それでも日本は、まだ水資源に恵まれていますが、世界を見渡すとむしろ特別に恵ま
れている国かもしれません。

日本にとっても水不足は間接的にも大きな問題を抱えています。というのも、日本は
家畜飼料(トウモロコシや大豆)を海外からの輸入に頼っていますが、主な輸入先で
あるアメリカの中西部その他の地域で深刻な問題が進行しているからです。

たとえば、前回も紹介したカンサス州では、トウモロコシをはじめ飼料穀物を、地下
から汲み上げた地下水を強大なスプリンクラーを廻転させながら、円形の圃場で栽培
します。

これはとても奇妙な光景で、私もアメリカ中西部の上空を飛行機で飛んだことがあり
ましたが、通常の畑のイメージはなく、眼下には円形の緑の畑が点在していました。

しかし、カンザス州の穀倉地帯では、50年ほど前には40メートルほどの深さから
水をくみ上げることができたのに、現在では100メートルまで井戸を掘らないと水
が得られなくなっているのです。つまり60センチも水位が下がってしまったのです。

この地でトウモロコシを栽培している農家の方の話では、あと10年で地下の帯水層
の水は涸れてしまうだろうということです。

アメリカの中央部も、オーストラリアの大部分も、雨水が地下に溜まって帯水層を形
成するのではなく、古代に出来た地下の大帯水層から水を汲みあげています。

しかし、この水は補充がないので、使い切ったらそれで終わりです。そのことは誰も
分かってはいますが、目前の収穫を得るために、汲み上げ続けているのが実情です。

世界の水の使用の7割が農作物の生産に使用されています。一つの作物または食物を
作るためにどれほど水を使うかを、“バーチャル・ウォーター”(仮想水使用量)とい
います。いくつかの例を挙げておきます。

トマト1個は53.5リッター、パン500グラムは804リッター、チーズ200
グラムは635.6リッター、 コーヒー1杯は132リッター、という具合です。

先に、牛肉は1kgを生産するのに6~20kgの穀物が必要であることを指摘しておき
ましたが、それに必要な水は15,415リットル(実にお風呂77杯分以上)必要です。

南アフリカの場合、ワイン1本作るに650.2リットル必要ですが、この量はスラ
ムの人たちの2週間分の水(1日バケツ2杯)に相当します。

食料生産と必要な水の量を考えると、これは日本にとっても非常に重要な問題である
ことが分かります。

つまり、日本の食物自給率は、カロリーベースで38%しかありません。そこで、輸
入食糧を水に換算すると、80兆リットルにもなるのです。

日本は、食物という形では62%を輸入している計算ですが、輸入食料には、たとえ
ば肉類は45%、牛乳および乳製品は37%自給していることになっていますが、牛
を飼うための飼料はほぼ輸入なので、これを自給と言っていいかどうか疑問です。

これまで水の問題は特定の国の特定の地域の、いわばローカルなものであるとみなさ
れてきました。

しかし自由貿易の拡大で食料が世界的規模で取引される今日、その背後では膨大な水
が世界中で消費されていることに注目しなければなりません。

したがって、私たちは世界的な視点で水の枯渇を心配しなければならなくなっている
のです。

こうした状況の中で、途上国では食料を輸入する現金を手に入れるために、モノカル
チャー(単一作物栽培)への傾斜を強めています(ウガンダのコーヒーなど)。

そのために追い出された小規模農民は森林を焼いて耕地を確保しようとします。こう
した行為そのものが土地の保水力を失わせて乾燥化を進め、水不足と温暖化をもたら
す、という悪循環を生んでいます。

それでは一体、どうしたら世界の食料危機を回避することができるのでしょうか?

「世界資源研究所」のクレイグ・アリソン副代表は以下の4つを挙げます。

①既存の農地で持続可能な方法で生産性を高める。
②既存の食糧システムは森林破壊の最大の原因となっているため生態系や熱帯雨林を
 守ってゆく必要がある。
③食糧需要を減らすために食品ロスや廃棄物を減らし食生活を変える。
④劣化した農地を回復し、自然も取り戻す。
     
これらのうち①と④とは密接に関連しています。すなわち、農薬や化学肥料の大量使
用は土地の荒廃をもたらし、それは次に大規模な砂嵐や表土の飛散をもたらして農地
はさらにダメージを受けます。このような方法は、持続可能な農業とはいえません。

②の森林破壊は地球温暖化をもたらします。たとえば昨年かにアフリカで発生したバ
ッタによる被害は温暖化が原因と考えられています。

これとは別に、イギリスの環境経済学の専門家がまとめた「フード・システム・ショ
ック」という報告書を発表しています。これは、危機の連鎖という観点から、これか
らの食糧問題をシュミレーションし、その解決策を提案しています。

それによると、まず、危機の連鎖ですが、温暖化が進むと数か国の穀倉地帯が同時に
不作となる。すると、食糧不安が世界に広がり、各国に輸出停止が連鎖する。輸出停
止と価格の高騰が発生し、食料不足国に講義行動や暴動につながる。それはさらに隣
国を巻き込んで地域的な崩壊に導く、と危機の連鎖を描いています。

脆弱化している世界の食供給システムのなかで、10%から15%食料が失われるだ
けで、現在よりはるかに大きな社会的混乱を引き起こす恐れがあります。

日本はお金さえ出せば、食料はいくらでも買える、と思っていると、ある日突然、食
料不足に直面するかもしれません。あるいは日本が買い占めてしまえば、今でもその
傾向はありますが貧困国は食料を買えず飢えに直面するでしょう。

それでは、この食料危機を回避するためにはどのようにすればいいのでしょうか?

食料問題解決のために立ち上げられた国際会議「EAT」が第一に推奨しているのは、
「プラネタリー・ダイエットへの転換です。これは、あまり聞きなれない言葉です
が、つまり植物食物への食生活への転換です。

具体的には、牛や豚肉については先進国で週98g 鶏肉は203gに減らすべきだと提
案しています。

これを実現するには、先進国は肉を8割、日本は7割減らす必要があります。

すでに書いてきたように、肉の生産には膨大は飼料穀物が必要ですが、その穀物を貧
困国にまわすことで、貧困国の食料不足はかなり緩和されます。

こうした食生活の転換に付随して得られるメリットとして、肉を大幅に減らす(大豆
など)ことで水の使用量は87%マイナス、温室ガスは89%マイナスとなる、つま
り水資源を節約し、温暖化を和らげることができることです。

映像で紹介された、「バーガー・キング」の大豆で作った、人工肉のハンバーガーを
食べてみましたが、触感も味も、まったく肉と変わりませんでした。

EATは、農業においては不耕起で下草を刈らない方法を推奨しています。これにより
土の保水力を確保することができるし、余分な水を使わなくてすみます。

今回引用したテレビ番組では最後に、売れない食糧を回収するアメリカの大学生グル
ープが紹介されています。このグループは全国に会員700人を擁し、廃棄する前の
情報があれば近くの人が取りに行きます。こうして、これまで1万1600トン、全
米の7%を回収し、貧困者に配布しています。

このような活動は日本でも是非、推進していってほしい活動です。
 
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