大木昌の雑記帳

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バブル超えの株価高騰に浮かれる危うさ―「貯蓄から投資」への背後に何が―

2024-02-27 07:03:46 | 経済
バブル超えの株価高騰に浮かれる危うさ
―「貯蓄から投資」への背後に何がー

2024年2月22日の東京株式市場は、日経平均株価が、バブルの絶頂期だった1989年12月
29日の3万8915円87銭を上回り、終値は前日比3万9098円68銭が34年ぶりに史上最高
値を付けました。

ここで、株価について引用される「日経平均株価」とは何かを確認しておきましょう。

日経平均株価とは、日本経済新聞社が、東京証券取引所プライム市場上場銘柄から選定した
225銘柄から構成される平均株価のことで、日経225とも呼ばれます。

つまり、これはあくまでも日本経済新聞が選んだ、225の優良企業の平均株価で、日本の
企業全体の傾向を示すものではありません。

したがって、特に高値を付けた企業がいくつか選ばれれば、平均株価も上がる仕組です。

この点は十分留意したうえで、図1を見ると、1989年のバブル絶頂期から、バブルがはじ
けて株価は劇的に下がり始め、2008年のリーマンショックを底に達し、その後は徐々に値
を上げ、ついに今回の史上最高値に達した経緯が分かります。


出典 『東京新聞」(2024年2月23日)

それでは、そもそも今回の株価上場はなぜ生じたのか、それはどんな意味を持つのか、そ
して私たち一般の国民の家計や経済事情にどんな影響があるのでしょうか?

バブル期の最高値を突破した瞬間、ある証券会社では「くす玉」を割って祝うお祭り騒ぎ
の様子がテレビで映し出されていました。

野村証券の親会社「野村ホールディングス」の奥田健太郎社長は、
    成長力や技術力、今後の期待を海外投資家から評価されている。デフレ脱却の
     信頼感を確認できて感慨深 い。4万3000円までいくとみている
と、興奮気味に報道陣に話しました。

証券会社のトップがこのように言うのは理解できますが、はたして今回の株高はそれほ
どおめでたいことなのでしょうか? 私はそうばかりとは言えない気がします。

このような高揚感は、金融業界や投資家を除くと日本国内に広く行き渡ってはいません。

実際、街の声を聞いても、大多数の人は日本経済がそれほど好調で、国民が豊かになっ
たという実感はないと言います。それはなぜでしょか?以下に、この疑問を考えてゆき
たいと思います。

その理由の一部は、現在日本での株取引の中身を見ると分かります。現在、海外投資家
が年明けから7連続で買い越し、取引の3分の2を占めています(『東京新聞』2024年
2月23日)。

したがって、株価上昇の恩恵は主に日本人ではなく、主として海外投資家の手に落ちて
いるのです。

たとえて言えば、地上では大部分の日本人が所得の減少と税金の負担に喘いでいるとき、
雲の上では一部の富裕な日本人投資家と海外投資家が繁栄を楽しんでいる、という構図
になります。

それでは、海外投資は日本の何を評価して株の買い越しに走っているのでしょうか?日
本経済が、名実ともにしっかりした基盤をもち今後も成長が期待できるからでしょうか?

残念ながら、そうではなさそうです。株価を押し上げるもっとも大きな要因は円安です。
以前にバブル期には、1ドルが100円前後でしたが、現在は150円へと、大暴落とい
ってよいほど、円が安くなっています。

このため、たとえば以前は150円した株が、今は100円で買えるのです。私に言わ
せれば、日本円と日本株の「たたき売り」状態なのです。

ほかにも、景気が停滞から下降している中国経済に見切りをつけた海外の投資家が、中
国(香港を含む)から割安な日本株へ資金を移したことも株価を押し上げました。

さらに、23年春には「投資の神様」と呼ばれる米投資家ウォーレン・バフェット氏が、
総合商社大手5社など日本株への積極投資を表明したため海外メディアでは「日本株ブ
ーム」の特集が相次ぎました(注1)。

彼の発言がどれほど影響したのかは分かりませんが、巨額のオイルマネーが日本株に流れ、
それが株価を押し上げたことも知られています。

ただし、今後のことを考えると、海外投資家による株購入は、長期間保持して日本企業の
成長に貢献するというより、株の売買によって、儲かると思えば直ちに「売り逃げ」に走
ります。「買うときはまとめて買い、逃げるときは一気に逃げてゆく」のがオイルマネー
の特徴です(注2)。

これは特に、オイルマネーについて言えることですが、海外の投資家というのは多かれ少
なかれ売買差益を目的としており、長期間にわたって日本の企業を育てることなど期待す
ることの方が無理です。

それでは、今回の株高と日本経済、とりわけ一般の国民にとってどんな意味があるのでし
ょうか?

国内投資の中で企業の自社株買いや銀行その他の企業による大口の投資筋を除いた、一般
の個人投資家は株高により大きな利益を得たのでしょうか?

確かに、以前から有望と思われる株を購入していた一部の投資家は恩恵を受けたはずです。
テレビなどのメディアでも、投資によって大きな利益を得た人の例がたびたび紹介されます。

しかし、日銀の資金循環統計によると、日本人の家計の金融資産に占める比率(2022年度)
は、53.8%の現金預金が最も多く、株式や投資信託は16.1%にすぎません。

新しいNISA(少額投資非課税制度)によって個人投資家が増えつつあるとはいえ、株や投資信
託の比率が約5割に上るアメリカに比べ、株高が一般家庭の家計に波及しにくい状況にありま
す(上記『東京新聞』)。

くわえて、円安は輸入物価の上昇によって家計を圧迫しています。2023年度の消費者物価は
バブル期の1989年に比べて2割以上増えたのです。

追い打ちをかけるように、昨年12月の実質賃金は22年4月以来、前年同月比率で21か
月連続マイナスでした。これでは、多くの日本人は株式投資をする余裕がありません。

日本の株価が34年ぶりに高値を更新したといっても、それは日本の経済が34年ぶりに強
くなったということではありません。

具体的には、2023年の日本のGDPが、それまでの米・中に続き3位であった日本のGDPが、
2023年にはドイツに抜かれ4位に転落したことに表れています。

しかも衝撃的なのは、ドイツの人口は日本の3分の2に過ぎないという事実です。

国民1人当たりの豊かさでいえばドイツは日本の1.5倍(日本は3分の2)と経済格差がつ
いたというのが、このニュースの本質です。

以下にIMFの2023年版で世界の情勢を整理すると、第1集団は1人当たりGDPで8万ドル(約
1200万円)を超える国々でアメリカはここに入りますし、アジア太平洋地域ではシンガポー
ルとカタールがここに入ります。第1集団は世界から投資が集まる国々です。

それに次ぐ第2集団が、1人当たりGDPが5万ドル(約750万円)前後の国々で、ドイツ、イ
ギリス、フランス、カナダなどG7の国々はほぼこのグループに入ります。ほかにオーストラ
リア、香港も入ります。第2集団は経済が順調な国々や地域です。

そして第3集団は、1人当たりGDPが一段低い3万ドル台前半(約500万円前後)の国々です。
日本は約3.4万ドル(約510万円)でこの集団に入ります。

近隣諸国・地域では韓国、台湾がほぼ日本と同列です。G7に所属するイタリアは3.7万ドル
とこの第3集団の先頭を走り、同じくEUに所属するスペインが3.3万ドルと、日本のすぐ後
ろにつけています。

この第3集団はイタリア、スペイン、日本のようにかつては世界のトップだった国が斜陽化
した国と、韓国、台湾のように経済が発展して追いついてきた国や地域が混在します。

第3集団で何が深刻かというと、第2集団と違って第3集団の国では輸入物価が上がるタイ
プのインフレが起きてしまうと、庶民の生活が貧しくなることです(注3)。

つまり、賃金の上昇が物価の上昇に追いつかない状況、これが、今多くの日本人が日々直面
している日本の現状なのです。

日本がなぜ、第3集団に転落してしまった理由については別の機会に詳しく検討したいと思
いますが、今回は、日本株が高騰したのは生産性も高く、多くの利益を稼ぎ国民の所得も多
い(つまり、経済が好調)からではなく、むしろじり貧に向かっているにもかかわらず、円
安のおかげで株価だけが突出していることを確認しておきます。

ところで、前回のバブル期の株高と今回の株高の背景をみると、明らかに異なっています。

まず、前回の為替レートは1ドルが100円ほどでしたが、それでも輸出は好調でした。し
かし現在は150円まで円安になり、これは輸出価格を30%以上安売りしてようやく輸出
できているのです。

つぎに、当時は多くの国民が「金回り」が良く、人びとは猛烈に働き、飲み・食い・遊び、
元気でした。多くの人は、今日より明日、明日より明後日の方が良くなると信じることがで
きました。

しかし、現在の株高の場合、日本経済と自分の生活が将来に向かって良くなって行くという
楽観的な見通しを持てにくくなっています。このため、株価が34年ぶりに最高値をつけて
も、大部分の日本人には高揚感がないのです。

岸田内閣は、盛んに「貯蓄から投資へ」と金融投資を煽っています。新NISAにせよ株式
投資にせよ、「投資」とは所詮はギャンブルでリスクを負うのは個人、つまり自己責任で、
政府は一切責任を負いません。

私には、投資を煽る政府の言動には、実物経済(実際経済)で経済がうまくいっていないの
で、金融投資で何とか経済を回そうとする意図がうかがえます。

しかし、国民にとっては、まず投資に回せるほど収入(賃金)が増えることが本質的な問題
なのです。

また、政府が投資を煽る背景には、国の公的年金では老後の生活を保証できないから、個人
個人が自己責任で財産形成をしてください、という隠された狙いが感じられます。

以上は、私の危惧に過ぎないかもしれませんが、国民の老後の最低限の生活を保障すること
は、仮にも「先進国」を自称するなら政府の最も大事な仕事のはずです。

身分不相応な軍備を、アメリカの要請のまま巨額の税金を使って購入しているのは、歴代の
政府はh、どこを向いて政治を行っているのか疑いたくなります。


(注1)『毎日新聞』デジタル版(2024/2/22 20:53(最終更新 2/22 22:24)https://mainichi.jp/articles/20240222/k00/00m/020/357000c?utm_source=article&utm_
     medium=email&utm_campaign=mailasa&utm_content=20240223
(注2)『Yahoo News』2/21(水) 12:04
https://news.yahoo.co.jp/articles/a46720b7fe388b2c54c5d6168285dae3b4afcb00
(注3)『DIAMOND』2023.11.3 6:00
https://diamond.jp/articles/- /331728?utm_source=daily_dol&utm_medium=email&utm_campaign=20231103
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