大木昌の雑記帳

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気候変動と異常気象―もう臨界点を超えてしまったのか―

2020-01-18 07:24:47 | 自然・環境
気候変動と異常気象―もう臨界点を超えてしまったのか―

2020年は、世界と日本の環境や生活にとって、新たな出発の年です。

というのも、2015年に締結された「パリ協定」(温暖化対策の新たな国
際協定)が今年(2020年)からスタートすることになっているからです。
この協定では、世界の平均気温の上昇を産業革命時の2度未満、理想的には
1.5度以内に抑える必要があります。そのためには、2050年までに温室
効果ガス(炭酸ガスなど)の実質排出量をゼロにする必要があります。

この目標を具体的に実行するための枠組みを議論する会議(COP25)が
昨年12月2日~13日にマドリードで開催されました。しかし、日程を40
時間も延長して議論したにもかかわらず、中国やインドなど、まだまだ化石
燃料への依存度が高い国などの反対で、参加国全体が合意できる方向を示す
すことができないまま閉会となってしまいました。

それでも、ヨーロッパを中心に66カ国が、2050年までに温室効果ガス
(炭酸ガス)の排出量をゼロにする目標を掲げました。

この会議で、日本は小泉進次郎環境相を送りましたが、全く存在感を示すこ
とができなかっただけでなく、温暖化の原因の一つとされている二酸化炭素
の削減目標さえ示すことができず、それどころか世界から批判を受けている
石炭火力の活用を縮小する姿勢も示すことができませんでした(注1)。

このため、世界環境NPO団体から、環境問題に消極的な国に批判の意味を
込めて贈られる「化石賞」を受賞しました。これで日本は二度目の受賞とい
う不名誉な評価をされたことになります。

では実際のところ、世界と日本で地球の気候変動、とくに温暖化と関連して
どんな環境の変化が生じているのでしょうか、そして、それは今年以降もつ
づくのでしょうか?

2020年1月13日に放送されたNHKBS1のドキュメンタリー番組、
「気候クライシス」は、ICPP(気候変動に関する政府間パネル)の最新
版の報告書(2019年)に基づいて、最近起こっている、気候変動にとも
なう災害を実際の映像で示しています。

温暖化は、海水温の上昇、それによる海面上昇、高潮、台風やハリケーンな
ど海水温の上場がもたらす大型の暴風雨、他方で乾燥(干ばつ)、森林火災
などをもたらします。

2019年に起こった主な災害のうち、気候変動と関連すると思われる主な
ものを幾つかあげてみます。

①アフリカ・モザンビークで発生した、南半球史上最大の暴風雨(サイクロ
ン)「イダイ」により185万人が被災しました。

②イタリアのベネチアで過去50年最悪の高潮が発生し街のかなりの部分が
海水に浸かりました。

③アメリカ。カリフォルニア州で発生した山火事(年間7800件)で、民
家も火災にあうようなったため、非常事態宣言がだされました。

④グリーンランドでは高温のため1日で125億トン、過去最大の氷が融解
しました。寒さが厳しいこの地の人にとっては「半袖で過ごしたこの夏ここ
ちよかったそうです(『東京新聞』2019年11月5日)

⑤海水温の上昇により北極圏の氷が溶けたためアラスカの沿岸地域では、近
年、海面上昇と高潮によって、海岸線が800メートルも後退し、沿岸のい
くつかの村は家が水没して生活できなくなっていまいました。

⑥直接的な被害は出ていないが、将来、海面情報をもたらすであろう現象と
して、南極の氷もすさまじいスピードで溶けています。南極の氷は地球上の
氷の90%を占めています。

これは南太平洋の島々でも大なり小なり長期的趨勢として生じています。

もし、このまま温暖化が止まらないと、今世紀末には海面は61センチから
最大で1.1メートル上昇するとみられています。

報告書は、海水面の上昇によって水没が予想されるコースタル・メガシティ
(沿岸巨大都市)としてニューヨーク、東京、ジャカルタ、ムンバイなどを
挙げています。

他方、陸地では海の2倍のスピードで劣化が進んでいます。とりわけ深刻な
のはサハラ砂漠以南のサヘル地区で、干ばつのため作物ができず、食べ物を
巡って周辺の民族間で凄惨な殺戮まで起こっています。

この部分をみて、20年ほど前に、北インドを訪れた時のことを思い出しま
す。当時、地元の人が、「これからは水のためだけで戦争が起こるだろう」
といった言葉を思い出しました。

このドキュメンタリーでは取り上げていませんが、オーストラリアにおける
森林火災は、昨年の9月から現在も鎮火することなく、森林原野を焼き尽く
し、何億匹とも思われる野性動物が死んでいます。

これにはオーストラリ全体が異常な乾燥状態にあるうえ、特殊な植生(ユー
カリが7~8割を占める、という特殊な植生、そしてユーカリが「ガソリン
の木」と言われるように、油分を多量に含み一度火災が起きると、なかなか
消えないという性質にも一因があります。

このテレビで紹介されたICPPの報告書が発している多くの警告の中で、
私は、二つのことが特に強く印象に残りました。

一つは、気候変動による環境の悪化が進行すると、もう後戻りできない臨界
点(ティッピング・ポイント)がある、という指摘です(注2)。

地球はかなりの回復力を持っていますが、それでも、ある限界を超えてしま
うと、もう後に戻れなくなってしまうというのです。問題は、まだ間に合う
のか、ひょっとしたら、もう、超えてしまったのだろうか?

もう一つは、この気候変動は元はといえば人間が生じさせたことだから、人
間が解決できる、という指摘です。まだ間に合うとしたら、何としてもこの
気候変動を止めなければなりません。

ところで、最近の日本の状況は、もう、臨界点を超えてしまったのではない
かと思われる現象が続いています。

2012年には九州北部の梅雨による豪雨があり、筑後川流域に大きな被害
がでました。私はたまたまその2年前に、三連水車で有名な朝倉地区を訪れ
たので、その水車が壊れてしまった写真を見てとてもショックでした。

2016年には広島県で豪雨と、それにともなう土砂災害で74人の直接の
死者と関連死3名という多数の死者が出ました。

2017年、再び九州北部が再び豪雨に見舞われ、死者40名、行方不明2
名という大災害となりました。

翌2018年7月の岡山県の豪雨では死者81人(うち関連死20名)、行
方不明3名、家屋の全壊が4820戸、半壊3355戸、一部損壊1122
戸、床下浸水5531戸、床上浸水1537戸という被害状況だった。

同9月4日に近畿地方に上陸した台風21号は、風速58メートル超、それ
は大型トラックが横転するほどの猛烈な風と高潮で、死者14名、家屋の全
壊68戸、半壊833、一部損壊9万7000戸、床上浸水244戸、床下
浸水403戸、という大きな被害をもたらした。

2019年(令和元年)8月、2019年には台風15号により、死者こそ
3人とすくなかったが千葉と東京では強風(千葉市で風速57メートル超)
により家屋に非常に大きな被害がでた(全壊391戸、半壊4204戸、一
部損壊72,279戸)。この時、千葉の房総では屋根が飛んでしまった家
が夥しい数にのぼった。強風で電柱が1000本以上倒れるなど、これまで
の台風では経験したことのない現象が起き、停電も広範囲におよんだ。

同年台風19号は10月12~13日にかけて、中部から関東、東北の1都
13県という広い範囲におよんで大雨、暴風、高浪、高潮を発生させ、信濃
川、阿武隈川を始め71河川128カ所で堤防の決壊が発生した。死者96
人、家屋の全壊2196戸、半壊12000戸、一部損壊15533戸、床
上浸水26774戸、床下32264戸、一つの台風としては前例のないほ
ど広範囲で甚大な被害が発生した。

ところで、これらの台風が強大な勢力となって、上陸しても勢力が衰えなか
ったのは、日本近海の海水温が上昇しており、台風や前線が海水からエネル
ギーと水分を供給され続けたからでした。

この意味では、台風の巨大化と大雨はやはり地球温暖化が主な要因であった
といえます。

ここ数年、気象庁の警報に「命を守る行動をとってください」という言葉使
われるようになりましたが、これは決して大げさではなく、実際に台風や大
雨で多くの命が奪われている野です。

IPCCの警告にあったように、30年に一度、50年に一度、という自然
災害が、世界で藻日本でも、毎年発生する可能性があるのです。

前回の記事では、日本の経済・社会の状況があまり好ましくないことを書き
ました。加えて、自然災害の面でも、決して油断ができない1年になりそう
です。
 

(注1)これについては本ブログ2019年12月14日の「地球温暖化と
    日本の立場」と題する記事で書きました。
(注2)「臨界点」に関する気象学者の警告は、National Geographic 2019.11.30
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/112900692/

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