偽装・隠蔽社会日本-企業・政治モラルの崩壊-
最近,日本のホテルやレストランにおける素材の偽装が次々と明らかになっています。事の発端は,今年の5月末に,東京ディズニートランドと
ディズニーシーをもつディズニーレゾート内の3つのレストランで,安いブラックタイガーを高級な「車エビ」と,普通の国産鶏を地鶏と偽装して
いることが発覚したことでした。
ディズニーレゾートの事例が悪質なのは,一方で食べ物の持ち込みを禁止し,レゾート内のレストランでしか食事ができないようにしていて、
他方でこのような偽装をすることです。これは明らかに確信犯的な詐欺です。
ディズニーランドもディズニーシーも,人気が高く年間を通して常に満員の盛況です。それにもかかわらず,このようなケチくさいごまかしを
するのはなぜだろうか? どうやら,アメリカのディズニーランド本社へのロイヤルティーの支払いが非常に高く,少しでも経費を削り利益を
出そうとしたことが,このような偽装に走った原因のようです。
ディズニーレゾートの偽装事件以来,しばらく食材偽装は表面にでなかったので,私たちも,この問題について忘れていました。ところが,
10月になってプリンスホテルグループ18施設で,アブラガニをズワイガニと偽り,オーストラリア産牛肉を国産牛であると偽装していること
が発覚しました。
これに続いて同月,阪急阪神ホテルズの,トビウオの魚卵を「レッドキャビア」(マスの魚卵)と,バナメイエビを芝エビと,そして普通の
青ネギをブランドの「九条ネギ」していたことが判明すると,マスコミが一斉に食材偽装問題が報ずるようになり,社会問題といってもいい
ほどの広がりをみせるようになりました。(注1)
阪神阪急に続いて続々と偽装が発覚するようになりましたが,10月25日に発覚した,世界的にも高級ホテルとして知られているザ・リッツ・
カールトン(大阪)で,冷凍ジュースをフレッシュジュースと偽り,業者から買ったパンを自家製パンと偽装し、バナメイエビと「芝エビ」、
ブラックタイガー・エビを車エビと偽装していたことが発覚すると,さすがに、「あのザ・リッツ・カールトン」が、と思わずうなってしまい
ました。(注2)
札幌市のルネッサンスサッポロホテルでは中華レストランで「タイショウエビ」「シバエビ」としたメニュー表示と異なる単価の安いエビが使
われていたことが判明しました。
JR四国では、ホテルクレメント徳島(徳島市)の和食レストランなど3店舗で、既製品の漬物を「自家製」とするなどしていたことが判明。
同ホテルは11年4月から阪急阪神ホテルズの経営指導を受けていたにもかかわらず、です。
また浜松市の「ホテルコンコルド浜松」が、カレーのメニューで静岡県産食材の使用をうたいながら、実際には使っていないケースがあったと
公表し、大津市の大津プリンスホテルは「乳飲料」を「低脂肪牛乳」と誤った表示で提供していたことを認めました。
10月31日は近鉄ホテル・旅館システムズの9施設(6ホテル+3旅館)でオーストラリア産成型肉(油脂を注入したり小麦粉を混ぜるなど
の手を加えた肉)を「和牛」ステーキと表示したこと、またブラジル産鶏肉などを「地鶏「大和肉鶏」と表示していたことが発覚しました。
とりわけ、高級な和食レストラン、奈良万葉若草「三笠」では、「和牛朴葉(ほおば)焼き」「和牛ステーキ」の偽装表示だけでなく、
格安のタラやサメの魚卵を高級食材の「からすみ」(ボラの卵)、ブラジル産鶏肉を地鶏「大和肉鶏」と表示。中国・韓国産など産地が異なる
野菜を「大和野菜」としていたのです。
皮肉にも、「三笠」は3年連続で「ミシュランガイド」のホテル部門で優良レストランとして格付けされた有名店ですが、ミシュランガイドの
調査担当者もまんまとだまされていたわけです。調査官の舌もたいしたことはないと考えるべきなのか、あるいは、実は食材によって味には
それほど大きな違いない、と考えるか微妙なところです。
豪州産成型肉を「和牛」と偽った「三笠」の料理長は「和牛と思い込んだ」と説明しました。北田社長(後に辞任)は「あってはならないこと
で弁解の余地がない」と述べ、謝罪しました。確かにテレビの映像で見ると肉の容器には「豪州産」「牛脂 国産」と明記されています。
牛脂注入成型肉は牛肉の半額くらいです。
11月に入っても、偽装の発覚は止むことなく続き、1日には名鉄グランドホテルで、添加物が入った食パンを「無添加」と表示し、
「ロブスター」を「伊勢エビ」と表示していたことが発覚しました。
そして、11月5日になって、百貨店内にテナントで入っているレストランや食品売り場での偽装が次々と明らかになりました。たとえば、
高島屋、大丸松坂屋、三越伊勢丹、そごう、西武、東武鉄道、小田急の各デパートなど、世間の評価が確立しているデパートでも偽装が行
われてきたのです。
こうした偽装表示を法律で罰することには微妙な問題があります。JAS(日本農業規格)法の対象は主に容器・包装の状態でスーパーなどで
小売りされる食材、加工食品で、レストランメニューは詳細な表示基準を定めた同法の枠外にあります。しかも、冷凍魚を解凍してもJAS法
では「生鮮食品」にふくまれ、食品衛生法上も冷凍の魚は「鮮魚介類」に分類されています。
法的な問題とは別に、このような偽装に対して食品を提供しているホテルやレストラン側の弁解はまったく消費者を馬鹿にしています。
たとえば、今回の偽装発覚のきっかけとなった阪急阪神ホテルズのエビの問題で見てみましょう。バナメイエビを「芝エビ」と表示する例は、
ルネッサンスサッポロホテルでも行われていました。
同ホテルの原田博総支配人によると、営業を始めた約9年前から、当時、調理場に中国人スタッフが多く、大きいものを「タイショウエビ」、
小さいものを「シバエビ」と呼ぶ業界の習慣に基づいて表示したと弁明しています。
どこのホテルやレストランも、エビに関しては口裏を合わせたかのように。全く同じ弁解をします。業界でどのような慣習があったにしても、
それは消費者には関係ないことで、明らかに虚偽表示です。
しかも、意図的に行っている偽装表示を「偽装ではなく誤表記」と言い張っているのは、反省が全く感じられず、ずるさだけが伝わってきます。
バナメイエビの仕入れ値は、シバエビより100グラム当たり約40円も安いので、コスト削減という意図ももちろんあります。
それだけでなく、偽装表示は、料理に高級感を与えて高い料金を取るための意図的な虚偽以外なにものでもありません。
近鉄旅館ホテルズは、「値段相応の食材やサービスを提供していた」と述べており、「三笠」を除いては返金には応じないと開き直っています。
それにしても、偽装の多くがエビと牛肉に集中していることは、興味深いことです。エビの場合、ととえば車エビにしても、それに似た代替品が
何種類もあるため、調理してしまえば見た目も食べても一般のお客には分からない、という事情がありそうです。
しかも、伊勢エビや車エビなどは、高級感があるので、売る側からすると、高いお金が取れるという思惑があると思われます。
また、牛肉に関しても日本人は、ステーキにとても高級感を抱いているようで、「和牛ステーキ」と聞いただけで、消費者も「高級」と感じ、
高いお金を払います。
いずれにしても、食材偽装にはホテルやレストラン側の「どうせ、お客は分からないだろう」という思い上がりが感じられます。
そうだとすれば、事実を隠し、高級感を与える食材名を表示して儲けを大きくしようとして意図的に「誤表記」をしたことに疑う余地がありません。
これは、日本における企業倫理がもはや崩壊しつつあることを示しています。
たとえば、もし「ブラックタイガー・エビのフライ」では高い金額は取れないし利用者も払わなくても、「伊勢エビのフライ」と表記すれば
一挙に高額料理になってしまいます。
同様に、オーストラリア産の肉に和牛の牛脂を入れた「成型肉のステーキ」ではたちまち高級感はなくなり、高い値段は付けられませんし、
利用者も高いお金を払いません。
一方、これらの施設を利用する私たちは、ホテル、レストラン、百貨店の確立された名声を頼りに、品質を信用しているわけですが、
これからは、名前に騙されず、自分の舌で確かめる他はなさそうです。
ところが、偽装表記や倫理の崩壊は、食品の分野だけではありません。先日、新潟県の泉田知事がラジオ番組に出演し、柏崎刈羽原発
の再稼働に関して、東電を痛烈に批判していました。
泉田知事が絶対に許せないと指摘したのは、東電は3月11日の震災の日の夕方には福島の原発でメルトダウンが起こりつつあることを
知っていながら、その事実を2ヶ月も隠し続けたことです。
もし、最初からメルトダウンを公表していれば、犠牲はもっと少なくてすんだはずだ、と知事は述べています。
そして、誰がなぜそのような隠蔽を行ったかをはっきり公表しない限り、柏崎の原発再稼働など、もっての他である、と述べています。
その後の東電の事実を隠蔽する発言はご承知の通り、まだまだ重大な問題が隠されたままです。とり分け重要な問題は、東電はメルトダウン
と原子炉の爆発の原因をあくまでも、津波による電源喪失にしようとしていることです。
他方で、実際には津波による被害の前に、地震そのものによって原発の重要なシステムが破壊された可能性を隠し続けています。
もし、それを認めてしまうと、津波の可能性が無ければ、あるいは津波対策用の高い防波堤を作れば原発は安全という「神話」が崩れて
しまうからです。
そうすると、地震国日本にある全ての原発は、非常に危険な状況にあることになり、再稼働は不可能になってしまいます。
従って、これは東電だけでなく、日本全体の原発政策の根幹を揺るがすことになってしまうのです。
私の推測ですが、この点に関しては東電を経産省とは連携しているように思えます。
『朝日新聞』が連載した「プロメテウスの罠」の「追いかける男」の第1回(2013年9月10日)、第9回(9月19日)、10回(同20日)、
11回(21日)、17回(27日)は全て、津波の前に地震によるパイプその破断がメルトダウンと爆発の本当の原因であることを
明らかにしています。
このシリーズの第1回は『「津波で壊れた」疑え』です。記者が、地震による破壊を確認できる個所を見せて欲しいというと、あるゆる理屈を
持ち出て見せることを拒否しています。その時の状況を記者は、第11回で「東電にしてやられた」というタイトルで書いています。
隠蔽を偽装は、政治にも蔓延しています。オリンピック2020の開催地が東京に決まった9月7日(日本時間8日)に先だって行われた
プレゼンテーションで、安倍首相は、福島原発事故に起因する汚染水流出に関して、「湾内の0.3平方キロメートルの範囲に完全にコントロール
されている」と身振り手振りで述べました。
その後も、同じ言葉を繰り返してきましたが、一時期、「全体としてコントロールされている」と表現一部を変えました。しかし、再び
「完全にコントロールされている」と戻しています。
ところが、9月18日にウィーンで開かれた、国際原子力機関(IAEA)の科学フォーラムで、気象庁気象研究所の青山道夫主任研究館は、
原発北側の放水路から放射背物資のセシウム137とストロンチウム90が1日計600億ベクレル外洋(原発湾外)に放出されていると
報告しました(『毎日新聞』2013年9月19日)。
これらの数値は、1リットル当たりの値としては基準値以下であることも、付け加えられていますが、とにかく「0.3平方キロメートルの
範囲に完全にコントロールされている」状態とはほど遠い状態にあります。
東電にしても安倍内閣にしても、現状に関して事実を隠し真実とは異なる「安全」状態であると偽装しています。
今や日本は、企業も政府も、基本的な倫理が崩壊しています。私たちは、偽装を見破る目と判断力を持つ必要がありそうです。
(注1)(『毎日新聞』2013年11月2日)には偽装表示の一覧表が掲載されています。
(注2)食材偽装に関しては、新聞やテレビでその都度紹介されているほか、インターネットで多数の報道がなされている。
以下は、インターネットで簡単にみることができる一部の例です。
http://hochi.yomiuri.co.jp/topics/news/20131030-OHT1T00002.htm (『報知新聞』電子版 2013.10.31)
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/hokkaido/news/20131030-OYT8T00048.htm?from=popin (『読売新聞』電子版 2013.10.3)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2013110202000146.html (『東京新聞』電子版 2013.11.2)
ttp://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00256779.htm(フジFNN)
http://www.shimotsuke.co.jp/news/tochigi/local/news/20131101/1399087 ([『下野新聞』電子版 2013.11.1])
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/yamagata/news/20131031-OYT8T01421.htm (『読売新聞』電子版
2013.10.31)
http://www.asahi.com/articles/OSK201310310010.html(『朝日新聞』電子版 2013.10.31)
http://mainichi.jp/select/news/20131101k0000m040160000c.html (『毎日新聞』電子版 2013.11.1)
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/131031/waf13103121570038-n1.htm (産経ニュース)
最近,日本のホテルやレストランにおける素材の偽装が次々と明らかになっています。事の発端は,今年の5月末に,東京ディズニートランドと
ディズニーシーをもつディズニーレゾート内の3つのレストランで,安いブラックタイガーを高級な「車エビ」と,普通の国産鶏を地鶏と偽装して
いることが発覚したことでした。
ディズニーレゾートの事例が悪質なのは,一方で食べ物の持ち込みを禁止し,レゾート内のレストランでしか食事ができないようにしていて、
他方でこのような偽装をすることです。これは明らかに確信犯的な詐欺です。
ディズニーランドもディズニーシーも,人気が高く年間を通して常に満員の盛況です。それにもかかわらず,このようなケチくさいごまかしを
するのはなぜだろうか? どうやら,アメリカのディズニーランド本社へのロイヤルティーの支払いが非常に高く,少しでも経費を削り利益を
出そうとしたことが,このような偽装に走った原因のようです。
ディズニーレゾートの偽装事件以来,しばらく食材偽装は表面にでなかったので,私たちも,この問題について忘れていました。ところが,
10月になってプリンスホテルグループ18施設で,アブラガニをズワイガニと偽り,オーストラリア産牛肉を国産牛であると偽装していること
が発覚しました。
これに続いて同月,阪急阪神ホテルズの,トビウオの魚卵を「レッドキャビア」(マスの魚卵)と,バナメイエビを芝エビと,そして普通の
青ネギをブランドの「九条ネギ」していたことが判明すると,マスコミが一斉に食材偽装問題が報ずるようになり,社会問題といってもいい
ほどの広がりをみせるようになりました。(注1)
阪神阪急に続いて続々と偽装が発覚するようになりましたが,10月25日に発覚した,世界的にも高級ホテルとして知られているザ・リッツ・
カールトン(大阪)で,冷凍ジュースをフレッシュジュースと偽り,業者から買ったパンを自家製パンと偽装し、バナメイエビと「芝エビ」、
ブラックタイガー・エビを車エビと偽装していたことが発覚すると,さすがに、「あのザ・リッツ・カールトン」が、と思わずうなってしまい
ました。(注2)
札幌市のルネッサンスサッポロホテルでは中華レストランで「タイショウエビ」「シバエビ」としたメニュー表示と異なる単価の安いエビが使
われていたことが判明しました。
JR四国では、ホテルクレメント徳島(徳島市)の和食レストランなど3店舗で、既製品の漬物を「自家製」とするなどしていたことが判明。
同ホテルは11年4月から阪急阪神ホテルズの経営指導を受けていたにもかかわらず、です。
また浜松市の「ホテルコンコルド浜松」が、カレーのメニューで静岡県産食材の使用をうたいながら、実際には使っていないケースがあったと
公表し、大津市の大津プリンスホテルは「乳飲料」を「低脂肪牛乳」と誤った表示で提供していたことを認めました。
10月31日は近鉄ホテル・旅館システムズの9施設(6ホテル+3旅館)でオーストラリア産成型肉(油脂を注入したり小麦粉を混ぜるなど
の手を加えた肉)を「和牛」ステーキと表示したこと、またブラジル産鶏肉などを「地鶏「大和肉鶏」と表示していたことが発覚しました。
とりわけ、高級な和食レストラン、奈良万葉若草「三笠」では、「和牛朴葉(ほおば)焼き」「和牛ステーキ」の偽装表示だけでなく、
格安のタラやサメの魚卵を高級食材の「からすみ」(ボラの卵)、ブラジル産鶏肉を地鶏「大和肉鶏」と表示。中国・韓国産など産地が異なる
野菜を「大和野菜」としていたのです。
皮肉にも、「三笠」は3年連続で「ミシュランガイド」のホテル部門で優良レストランとして格付けされた有名店ですが、ミシュランガイドの
調査担当者もまんまとだまされていたわけです。調査官の舌もたいしたことはないと考えるべきなのか、あるいは、実は食材によって味には
それほど大きな違いない、と考えるか微妙なところです。
豪州産成型肉を「和牛」と偽った「三笠」の料理長は「和牛と思い込んだ」と説明しました。北田社長(後に辞任)は「あってはならないこと
で弁解の余地がない」と述べ、謝罪しました。確かにテレビの映像で見ると肉の容器には「豪州産」「牛脂 国産」と明記されています。
牛脂注入成型肉は牛肉の半額くらいです。
11月に入っても、偽装の発覚は止むことなく続き、1日には名鉄グランドホテルで、添加物が入った食パンを「無添加」と表示し、
「ロブスター」を「伊勢エビ」と表示していたことが発覚しました。
そして、11月5日になって、百貨店内にテナントで入っているレストランや食品売り場での偽装が次々と明らかになりました。たとえば、
高島屋、大丸松坂屋、三越伊勢丹、そごう、西武、東武鉄道、小田急の各デパートなど、世間の評価が確立しているデパートでも偽装が行
われてきたのです。
こうした偽装表示を法律で罰することには微妙な問題があります。JAS(日本農業規格)法の対象は主に容器・包装の状態でスーパーなどで
小売りされる食材、加工食品で、レストランメニューは詳細な表示基準を定めた同法の枠外にあります。しかも、冷凍魚を解凍してもJAS法
では「生鮮食品」にふくまれ、食品衛生法上も冷凍の魚は「鮮魚介類」に分類されています。
法的な問題とは別に、このような偽装に対して食品を提供しているホテルやレストラン側の弁解はまったく消費者を馬鹿にしています。
たとえば、今回の偽装発覚のきっかけとなった阪急阪神ホテルズのエビの問題で見てみましょう。バナメイエビを「芝エビ」と表示する例は、
ルネッサンスサッポロホテルでも行われていました。
同ホテルの原田博総支配人によると、営業を始めた約9年前から、当時、調理場に中国人スタッフが多く、大きいものを「タイショウエビ」、
小さいものを「シバエビ」と呼ぶ業界の習慣に基づいて表示したと弁明しています。
どこのホテルやレストランも、エビに関しては口裏を合わせたかのように。全く同じ弁解をします。業界でどのような慣習があったにしても、
それは消費者には関係ないことで、明らかに虚偽表示です。
しかも、意図的に行っている偽装表示を「偽装ではなく誤表記」と言い張っているのは、反省が全く感じられず、ずるさだけが伝わってきます。
バナメイエビの仕入れ値は、シバエビより100グラム当たり約40円も安いので、コスト削減という意図ももちろんあります。
それだけでなく、偽装表示は、料理に高級感を与えて高い料金を取るための意図的な虚偽以外なにものでもありません。
近鉄旅館ホテルズは、「値段相応の食材やサービスを提供していた」と述べており、「三笠」を除いては返金には応じないと開き直っています。
それにしても、偽装の多くがエビと牛肉に集中していることは、興味深いことです。エビの場合、ととえば車エビにしても、それに似た代替品が
何種類もあるため、調理してしまえば見た目も食べても一般のお客には分からない、という事情がありそうです。
しかも、伊勢エビや車エビなどは、高級感があるので、売る側からすると、高いお金が取れるという思惑があると思われます。
また、牛肉に関しても日本人は、ステーキにとても高級感を抱いているようで、「和牛ステーキ」と聞いただけで、消費者も「高級」と感じ、
高いお金を払います。
いずれにしても、食材偽装にはホテルやレストラン側の「どうせ、お客は分からないだろう」という思い上がりが感じられます。
そうだとすれば、事実を隠し、高級感を与える食材名を表示して儲けを大きくしようとして意図的に「誤表記」をしたことに疑う余地がありません。
これは、日本における企業倫理がもはや崩壊しつつあることを示しています。
たとえば、もし「ブラックタイガー・エビのフライ」では高い金額は取れないし利用者も払わなくても、「伊勢エビのフライ」と表記すれば
一挙に高額料理になってしまいます。
同様に、オーストラリア産の肉に和牛の牛脂を入れた「成型肉のステーキ」ではたちまち高級感はなくなり、高い値段は付けられませんし、
利用者も高いお金を払いません。
一方、これらの施設を利用する私たちは、ホテル、レストラン、百貨店の確立された名声を頼りに、品質を信用しているわけですが、
これからは、名前に騙されず、自分の舌で確かめる他はなさそうです。
ところが、偽装表記や倫理の崩壊は、食品の分野だけではありません。先日、新潟県の泉田知事がラジオ番組に出演し、柏崎刈羽原発
の再稼働に関して、東電を痛烈に批判していました。
泉田知事が絶対に許せないと指摘したのは、東電は3月11日の震災の日の夕方には福島の原発でメルトダウンが起こりつつあることを
知っていながら、その事実を2ヶ月も隠し続けたことです。
もし、最初からメルトダウンを公表していれば、犠牲はもっと少なくてすんだはずだ、と知事は述べています。
そして、誰がなぜそのような隠蔽を行ったかをはっきり公表しない限り、柏崎の原発再稼働など、もっての他である、と述べています。
その後の東電の事実を隠蔽する発言はご承知の通り、まだまだ重大な問題が隠されたままです。とり分け重要な問題は、東電はメルトダウン
と原子炉の爆発の原因をあくまでも、津波による電源喪失にしようとしていることです。
他方で、実際には津波による被害の前に、地震そのものによって原発の重要なシステムが破壊された可能性を隠し続けています。
もし、それを認めてしまうと、津波の可能性が無ければ、あるいは津波対策用の高い防波堤を作れば原発は安全という「神話」が崩れて
しまうからです。
そうすると、地震国日本にある全ての原発は、非常に危険な状況にあることになり、再稼働は不可能になってしまいます。
従って、これは東電だけでなく、日本全体の原発政策の根幹を揺るがすことになってしまうのです。
私の推測ですが、この点に関しては東電を経産省とは連携しているように思えます。
『朝日新聞』が連載した「プロメテウスの罠」の「追いかける男」の第1回(2013年9月10日)、第9回(9月19日)、10回(同20日)、
11回(21日)、17回(27日)は全て、津波の前に地震によるパイプその破断がメルトダウンと爆発の本当の原因であることを
明らかにしています。
このシリーズの第1回は『「津波で壊れた」疑え』です。記者が、地震による破壊を確認できる個所を見せて欲しいというと、あるゆる理屈を
持ち出て見せることを拒否しています。その時の状況を記者は、第11回で「東電にしてやられた」というタイトルで書いています。
隠蔽を偽装は、政治にも蔓延しています。オリンピック2020の開催地が東京に決まった9月7日(日本時間8日)に先だって行われた
プレゼンテーションで、安倍首相は、福島原発事故に起因する汚染水流出に関して、「湾内の0.3平方キロメートルの範囲に完全にコントロール
されている」と身振り手振りで述べました。
その後も、同じ言葉を繰り返してきましたが、一時期、「全体としてコントロールされている」と表現一部を変えました。しかし、再び
「完全にコントロールされている」と戻しています。
ところが、9月18日にウィーンで開かれた、国際原子力機関(IAEA)の科学フォーラムで、気象庁気象研究所の青山道夫主任研究館は、
原発北側の放水路から放射背物資のセシウム137とストロンチウム90が1日計600億ベクレル外洋(原発湾外)に放出されていると
報告しました(『毎日新聞』2013年9月19日)。
これらの数値は、1リットル当たりの値としては基準値以下であることも、付け加えられていますが、とにかく「0.3平方キロメートルの
範囲に完全にコントロールされている」状態とはほど遠い状態にあります。
東電にしても安倍内閣にしても、現状に関して事実を隠し真実とは異なる「安全」状態であると偽装しています。
今や日本は、企業も政府も、基本的な倫理が崩壊しています。私たちは、偽装を見破る目と判断力を持つ必要がありそうです。
(注1)(『毎日新聞』2013年11月2日)には偽装表示の一覧表が掲載されています。
(注2)食材偽装に関しては、新聞やテレビでその都度紹介されているほか、インターネットで多数の報道がなされている。
以下は、インターネットで簡単にみることができる一部の例です。
http://hochi.yomiuri.co.jp/topics/news/20131030-OHT1T00002.htm (『報知新聞』電子版 2013.10.31)
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/hokkaido/news/20131030-OYT8T00048.htm?from=popin (『読売新聞』電子版 2013.10.3)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2013110202000146.html (『東京新聞』電子版 2013.11.2)
ttp://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00256779.htm(フジFNN)
http://www.shimotsuke.co.jp/news/tochigi/local/news/20131101/1399087 ([『下野新聞』電子版 2013.11.1])
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/yamagata/news/20131031-OYT8T01421.htm (『読売新聞』電子版
2013.10.31)
http://www.asahi.com/articles/OSK201310310010.html(『朝日新聞』電子版 2013.10.31)
http://mainichi.jp/select/news/20131101k0000m040160000c.html (『毎日新聞』電子版 2013.11.1)
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/131031/waf13103121570038-n1.htm (産経ニュース)