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大木昌の雑記帳

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アジアインフラ投資銀行(1)―中国の思惑と背景―

2015-04-18 06:07:34 | 経済
アジアインフラ投資銀行(1)―中国の思惑と背景―

2013年10月,アジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議において,習近平国家主席は,中国主導で,アジアインフラ
投資銀行(以後,AIIBまたは「投資銀行」と略す)を設立することを発表しました。

AIIBは,アジア諸国におけるインフラ(道路,港湾,鉄道,水道,通信,教育など)整備にたいする膨大な資金需要に対応する
ための国際金融機関を目指しています。

中国が新たに投資銀行を提案したのには,いくつかの背景があります。

まず,戦後の,アジア諸国にかかわる主な国際緊急機関は3つあります。金融危機に陥った国への融資を行う国際通貨基金
(IMF),世界銀行,そしてアジア開発銀行(ADB)の三つです。

IMFと世界銀行は第二次大戦末期の1944年の合意に基づいて設立されて、欧米中心の「ブレトンウッズ体制」と呼ばれる
国際金融システムが築かれていました。

IMFと世界銀行はアジア諸国をも対象にはしていますが,特にアジアを対象とした金融機関ではありません。しかもアジア
諸国には,これら国際金融機関への反感が共通してあります。

1977年のアジア通貨危機でIMFから緊縮を強いられたタイやインドネシアでは農村部の経済が疲弊し,不満がくすぶり
続けています(注1)。

これにたいして,アジア開発銀行は1966年に発足し,日本とアメリカが最大の出資国で主導権も持っています(注2)。

中国も一応,これらの国際金融機関に加盟していますが,世界第2位の経済大国となったのに、出資制限のため米国など
に比べて発言権が限られ「自分たちの主張が通らない」と強い不満を持っていました。

また,中国は世界銀行や国際通貨基金の改革を要求してきたのに,日米欧が築いてきた国際金融秩序を崩すことはできま
せんでした。

そこで,自分たちも主導権をもてる国際金融機関を設立し,「新秩序」の形成を目指したのです。これがAIIB設立の
背景にありました(『『毎日新聞』「なるほどドリ」2015年4月1日,『東京新聞』2015年4月16日)。

習主席は,2013年10月以来,東南アジアを歴訪し,各国首脳にAIIBの必要性を説明して回りました。
他方,インフラ整備を進めたい途上国は,中国の呼びかけに応じました。

中国の外交努力は今年に入ってさらに強化されました。

アジア開発銀行の副総裁を務めた中国の金立群氏や経済閣僚などが世界を回り,創設メンバーの「特権」やポストをちら
つかせ,欧州諸国を切り崩しました(『東京新聞』2015年4月15日)。

こうした外交努力の成果として,習主席の提言から1年経った2014年10月には,東南アジア諸国をはじめ,
21か国のアジア諸国が加盟を表明するまでになったのです。

そして,2015年4月15日現在,AIIB加盟国はヨーロッパの17か国を含めて57か国にも達し,この加盟国数は,
アジア開発銀行の67か国に匹敵するまでに膨らんだのです。これは,習体制が各国首脳を説得した積極外交の成果です。

しかも,アジア,アフリカだけでなく,17か国ものヨーロッパ諸国をも引き込むことに成功したことは,「新金融秩序」
の形成という経済面だけでなく,国際社会における政治や軍事など,多方面での発言権をも増大させたことは間違いあり
ません。

これも,AIIBの設立に込められた中国の大きな狙いでした。

ここで注目すべき点は,アメリカがAIIBへの参加を見送るよう世界各国を説得したにもかかわらず,それを無視して,
最大の盟友であるイギリスをはじめ多くのヨーロッパ諸国が加盟したことです。

参加を決めたヨーロッパ諸国にとって,巨大な市場である中国との関係を築いておくことは,自国の経済的発展のために
非常に重要であると判断したのでしょう。

つまり,アメリカの影響力が,もはや以前と比べてかなり低下したことを誰の目にもはっきりと示しています。

中国は,AIIBの創設メンバーの募集を2015年3月末としてきました。創設メンバーは,この銀行の目的や組織体制から、
議決権の分配方法、業務の進め方まで、最も重要な約束事となるのが設立協定の策定作業に参加できます。

中国は当初から日米に加盟を呼び掛けてきましたが,日米はずっと参加を見送っています。

その表向きの理由は「融資や審査の透明性が確保されていない」というものです。しかし,本当の理由は別にあります。

戦後世界の金融システムを支配してきたアメリカは,投資銀行を,既存のアメリカによる金融支配に対する挑戦であると
みなし,相対的な地位の低下を防ごうとしたことにあります。

アメリカが加盟しないスタンスをとっていたため,日本はアメリカに追随して同じ理由で,現在まで加盟を見送っています。

加えて日本の場合,尖閣列島の問題で中国への不信感と警戒感が強く,この感情的な外交姿勢も,加盟を見送ってきた
理由の一つでした。

こうした政府の立場を麻生太郎副総裁・財務相が3月24日の記者会見で次のように説明しています。

つまり,中国はAIIBで最大の出資国となり、総裁も送り込む見通しだ。中国が自由に融資先を決めれば、
域内での影響力は一段と強まる。

日本の経済界には,ビジネスの機会を確保するために参加を求める声もあるが,「中がよく見えない」。したがって,
AIIBの理事会が個別の融資案件を審査できない点が改善されなければ参加は難しい,との考えです(注3)。

しかし,日本の財界は政府とは異なる見解をもっています。というのも,成長著しいアジアのインフラ整備需要には,
日本の産業界は熱い視線を注いているからです。

たとえば経済同友会の長谷川閑史代表幹事は,「AIIBに加盟しないことによって,インフラビジネスが不利になること
は避けてほしい」と語っています。

また,日本財務省の副財務官やADB研究所長を務めた東京大学公共政策大学院の河合正弘人教授は,
AIIBにおける中国の影響と日本の立場について次のように語っています。

日本が参加すれば欧州諸国と合わせた発言権は中国を上回り,中国にたいして日本と欧州がチェックすることができます。

逆に日本が参加しなければ,中国が欧州の発言権を上回り,中国の言いなりになる可能性が高くなってしまうのです。

しかも,日本が加盟しないことには大きな問題があると,河合氏は警告します。

日本がAIIBに入らずに,中国とアジア諸国で新しいインフラ整備のためのルールを作ることは決して望ましいことでは
ありません。

低いレベルでビジネスの競争がなされることになりかねません。

つまり河合氏は,日本も加盟して欧州諸国と協調すれば,中国の独走は防げるが,加入しないと,中国が独走してしまう
だけでなく「低いレベル」でビジネスの競争がなされる危険がある,警告しています(注4)。

河合氏が言う「低いレベルで行われるビジネスの競争」が具体的に何を指すのかは必ずしも明らかではありません。
恐らく,環境への配慮を欠いたインフラ整備への融資や,返済能力を厳しく査定しないで融資してしまうことなどでしょう。

いずれにしても,河合氏は日本は加盟してルール作りに積極的関与すべきだと指摘しています。

日本がアメリカの顔色を伺い,主導権をもっているADB(アジア開発銀行)にこだわるのは理解できますが,
ADBの融資枠はアジアお開発途上国の資金需要をまかなうほど大きくはありません。

ADBは融資枠
のインフラ需要は,少なくとも年間7000億ドル(約84兆円)~7500億ドル(90兆円)と試算されています。

ADBの融資枠では資金がまったく足りておらず、中国はAIIBで資金不足に対応する意義を強調しています。
(なるほどドリ 『毎日新聞』2015年4月1日)

日米にとって,AIIBと関連して気がかりなことが一つあります。それは,米国主導の環太平洋経済連携協定(TPP)
交渉の参加12カ国のうち、5カ国がAIIBに参加を表明し、オーストラリアは既に加盟を決定し,カナダも参加を検討
していることです。

中国がTPPへの対抗手段として重視するRCEP(東アジア地域包括的経済連携)構想の交渉に参加している16カ国
で見ると、日本を除く15カ国がAIIBに参加を表明または検討しているのです。

中国はTPP陣営の切り崩しに成功し、貿易・サービスと金融という経済の両輪で日米を脅かしています(注5)。

中国は,TPPに対抗して,陸路と海路で中国とヨーロッパとを結ぶ「新シルクロード経済圏」を目指しており,
AIIBをその重要なステップと位置付けているのです。

次回は,日本政府の「想定外」に多くの国がAIIBへ加盟することになった経緯を,日本政府はなぜ事態を見誤った
のかを,アメリカへの追随,それに由来する情勢の誤認,情報不足という観点から検証してみたいと思います。

(注1)『日本経済新聞』(2015年4月15日。電子版)
    http://www.nikkei.com/article/DGXMZO85670160U5A410C1I10000
(注2)世界銀行はアメリカから,アジア開発銀行は日本から総裁を出しています。
(注3)『日本経済新聞』(2015年3月25日 電子版)
    http://www.nikkei.com/article/DGXLASDC24H0F_U5A320C1EA2000/
(注4)『日本経済新聞』(2015年4月15日。電子版)
    http://www.nikkei.com/article/DGXMZO85670160U5A410C1I10000=2/
(注5)『日本経済新聞』(2015年3月25日 電子版)
    http://www.nikkei.com/article/DGXLASDC24H0F_U5A320C1EA2000/
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日本 2014年の選択―アベノミクスの虚像と実像―

2014-12-27 09:46:48 | 経済
日本 2014年の選択―アベノミクスの虚像と実像―

2014年も残りあとわずかとなりました。人はこの時期,この1年を振り返り,来年がどんな年になるのか,
またはどんな年にしたいかを考えます。

同じように,国レベルでも,今年度についてどのような選択をし,来年度からどのような方向に進むのかを考える時期です。

とりわけ,今年の12月行われた衆議院総選挙で同24日には第二次安倍内閣が誕生しましたので,この2年間の安倍政権
の政策を総合的に評価する必要があります。

安倍政権がこの2年間で決定した国家的選択のうち,際立つのは,マスメディアに盛んに登場した「アベノミクス」という経済政策です。

衆議院選挙でも,「アベノミクス」という経済政策だけを前面に出して,安倍首相にとって「本丸」である,「戦争の出来る国」
への政策は封印しました。

しかし,この2年で安倍政権が実行した重要な決定を挙げてみると,軍事的分析や戦略の策定を検討する「安全保障会議」
の設立(2013年),武器輸出三原則の見直し,(2014年4月 事実上の武器輸出を可能にしたこと),「集団的自衛権」の行使容認
の閣議決定(2014年7月),「特定秘密保護法」の施行(2014年12月)などの政治・軍事的政策が目につきます。

このほか,法制化というわけではありませんが,原発再稼動の積極的推進,TPPの推進なども今後の日本の政治・経済・社会
に大きな影響を与えます。

これらの問題は既に,このブログでも何回も取り上げましたが,今回は「アベノミクス」について,もう一度整理し,
今まで取り上げなかった問題をみてみようと思います。

「アベノミクス」について経済評論家の内橋克人氏は,アベノミクスとは実体のない「国策フィクション」
であると断定しています(『世界』今月発売の2015年1月号)。

内橋氏によると,第一の矢である黒田日銀総裁による「異次元金融政策」で,お金は市中にあふれ,それによって企業の設備投資
を増やすことが期待されていました。

しかし実際には,投資は増えませんでした。それどころか,実際には市中にも出回らず,あろうことは日銀にそのまま眠って
いるのです。

増えた通貨の行き着いた先は実体経済の水流ではなく,ほかならぬ日銀内部の冷蔵庫の中で,「氷漬け」となっていたのです。

数字を見ると,異次元緩和が始まった2013年3月末から2014年10月末までの1年半の貨幣供給量の増加額約118兆円に
対して,各銀行が日銀に開設している当座預金の額は,それまでの47兆驚くことに,これまでの預金額も加えて
120兆円にも達しているのです。

言い換えると,この間に増加したお金を上回る金額が全く使われないまま日銀の当座預金として眠っているのです。

2014年度の国家予算(一般会計)が約95.5兆であることを考えると,この金額がいかに巨額であるかがわかります。

こうした実態を内橋氏は「影も見えない『マネー』は人びとの頭の上,すなわち政府~日銀~銀行の間に架けられた遥かな
『天空回路』をただぐるぐる回りしているにすぎない」と表現しています。

安倍首相は,金融緩和によって企業の設備投資が増え,企業業績が上がり,動労者の賃金も増える,という
「好循環」が生まれると力説しています。

しかし,このような実態を見ると,金融緩和といっても市中にお金が回ったのではなく,お金は実体経済の中で循環
しなかったのです。

これをはっきりと示すのが,貨幣供給量の増加→設備投資の拡大という図式がまったく起こらなかった実態です。

10月機械受注統計でみると,「船舶・電力を除く民需」が前月比6.4%も減少したのです。(『日刊ゲンダイ』
2014年12月13日)

さらに,今年7~9月期のGDPが,V字回復どころか,マイナス1・9%と二期連続で減少し,物価上昇分を
差し引いた実質賃金も10月まで16か月連続で低下しています。

これらの数字のどこを見ても「好循環」はみられません。ただ,部分的に輸出企業や大企業の利益が円安により
「円換算」で増えただけで,輸出が増えたわけではありません。

また,安倍首相が自慢する賃金の上昇も,それら大企業に勤務している労働者の賃金が少し上がっているだけで,
国全体では賃金上昇はありません。

問題は他にもあります。日本金融財政研究所所長の菊池英博氏の試算によると,昨年4月から現在まで,
約77兆円が日本の金融機関
からどこかに消えました。

その行く先はアメリカのウォール街のヘッジファンドに貸し出されたようです。ヘッジファンドは安い金利で借り
た金で,日本の株と「ドル」を買いに走り,日本の株高と円安というアベノミクス「幻想」を支えているのが実態
だといいます。

こうしたことから菊池氏は「アベノミクスとは,日本を『アメリカの財布』にする政策です。

異次元レベルの金融緩和で,国民の富をひたすら米国に差し出しています」と断定しています。(『日刊ゲンダイ』
2014年12月13日)

異次元緩和により日銀が増加供給したお金の行く先を厳密に調べる必要はありますが,かなりの部分は,金融機関が
日銀にもっている当座預金として「氷漬け」になっているほか,海外のヘッジファンドに流れている可能性は大いに
あります。

というのも,現在,日本の株式取引の60%は外国のヘッジファンドによるもので,最近の株価の上昇で最も利益を得
ているのはこれらファンドであることは明らかだからです。

安倍首相は,日経平均株価(つまり,日本の大企業の平均株価)の上昇をもって自らの経済政策が成功していること
の指標として自慢しています。

しかし,現在のところ,実体経済の成長によって企業収益が増え,労働者の賃金が増え,地方の隅々まで恩恵が行き
渡りつつある,という好循環は全くありません。

むしろ,経済に関するほとんどの指標は,経済の下降,デフレへの進行を示唆しています。

2014年の衆議院選挙で日本が選択したことになった「アベノミクス」は本当に良かったかどうか,おそらく
ここ1年ではっきりするでしょう。

株高という現象も,実体経済とはかけ離れたマネー・ゲーム上での虚像に過ぎないのです。

選挙の投票では自民党に入れた人たちも含め,実はアベノミクスなど,安倍政権の個々の政策には否定的な意見が
多くあります。

共同通信の世論調査によれば,アベノミクスで景気が良くなるとは「思わない」が62.8%,九州電力川内原発に
「反対」が51.7%,
安倍政権の安保政策を「支持しない」が55.1%,と,重要課題に関して,いずれも安倍政権に対して過半数が
否定的なのです。

私たちは来年も,実態と虚像とを厳しい目で見つめてゆく必要があります。




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『21世紀の資本論』の衝撃(2)―日本の現実を直視すると―

2014-09-26 05:44:52 | 経済
『21世紀の資本論』の衝撃(2)―日本の現実を直視すると―

前回に続いて,ピケティの『21世紀の資本論』を手掛かりに,資本主義経済の行方を考えてみます。彼の結論は,
資産を持てる者は,その収益を再投資することによって,ますます豊かになっていくが,資産を持たない大部分の人の賃金所得
はますます貧困化し,中産階級を緩やかな消滅に向かう,とうものでした。

今回は,このピケティの図式が日本にどの程度当てはまるかを検証してみます。

ピケティは「私の主張を裏付ける端的な例は日本社会だ」と述べていますが,その理由の一つは少子化という人口動態です。
急速に人口が減る少子化社会では,子どもの数が少ないので,一人の子どもが受け取る相続財産,つまり過去に蓄積された
富の割合が大きくなります。

逆に子供の父親にも母親にも富がなければ,どちらからも財産を継承できません。こうして,世襲によって受け継がれる不平等が
とても大きくなってしまうのです。

少子化の問題とは別に,日本では,一人当たり平均賃金は1997年をピークに現在まで2013年までに13.5%も下がっています。

こうした長期の賃金の減少をもたらした重要な要因はとして,次のような背景があります。

近年,日本は多くの分野で開発途上国から安い製品を輸入品するようになっています。国内のメーカーはこれに対抗するにも生産
コストを下げる必要があり,そのためにまず,労働者の賃金を安く抑える傾向にあります。

こうした企業の姿勢によって,非正規雇用の増加,残業代のカット(成果主義の導入),企業規模の大小を問わず労働者を襲う
解雇リスクの増大など,労働者の所得は現状維持どころから,ますます減少傾向の危険性にさらされています。

日本における所得格差の拡大は,そのまま資産格差の拡大につながっています。1988年に,金融資産をもたない世帯(2人以上)
は3.3%でしたが2013年には31%に上昇しています。(注1)

つまり,かつてはほとんどの世帯である程度まとまった金融資産(預貯金や株など)を持つ余裕があったのに,現在では3分の1は
その余裕がないのです。

以上の状況を考える,ピケティが指摘している中産階級が没落してゆく二つの危険,「就業のリスク」と「金融の規制緩和」は
日本においてもあてはまります。この状態をさらに具体的にみてみましょう。

1970年代,日本人の多くはマイホイーム,車,家電,旅行などの消費を謳歌し,自分は中流階級に属していると感じていました。
当時,「1億総中流社会」という言葉がよく使われました。

しかし,1990年代初頭にバブルが崩壊すると,一気に景気の悪化,失業,賃金の減少が日本人を襲い,これ以後は「格差社会」
という言葉が頻繁に語られるようになりました。

「1億総中流社会」といい「格差社会」といい,現状にたいする感覚的な言葉です。それでは,実態はどうだったのでしょうか?

すでに上に示した,金融資産をもたない世帯の増加も「中流」世帯の減少を示しています。これ以外にも,「中流」
の減少と全体的な貧困化を示す指標はいくつかあります。

まず,図1を見てみましょう。ここには,生活保護受給者数の変化が示されています。この図から明らかなように,
バブル期の1980年代後半に受給者数は減りますが,その後急速に増えます。


                             

実数で言うと,1970年代の70万世帯,人数で130万人から,最も少なかったバブル期の,60万世帯,80万人から,
2014年の4月には世帯数で約162万世帯,人数は210万人へと,史上最多,最悪の水準になっています。

次に,「相対的貧困率」(図2)をみてみよう。「相対的貧困率」とは,その国の標準的な世帯が年間に得る手取り収入(中央値)
の半分―これを貧困線という―に満たない国民の割合,を意味します(注2)。

                            

厚生労働省によれば,1985年の中央値の半分は108万円,で貧困率は12%でしたが,2012年の中央値は122万円で,
貧困率は16.1%と着実に上昇しています。

ここで,もう一つ注目すべき数字は,貧困家庭で暮らす18歳未満の子どもの貧困率も上昇していることです。

すなわち,厚生労働省が公表している最も古い1985年の子ども貧困率は10.9%であったものが,2012年には16.3%と,
過去最悪の高率になってしまいました。(注3)

子どもの貧困率が上昇したのは,母子家庭の労働環境が非正規雇用の場合が多く,収入が少ないことが大きな理由
となっています。

いずれにしても,現在の日本では大人も子供の,日本人の6人に1人が貧困層ということになります。

さて,以上のような状況が日本の現状と将来にどのような問題や影響をもたらすのでしょうか。

上に述べた子どもの貧困の問題を引き続いて考えてみると,これら貧困世帯の子どもたちが将来,経済的に自立する
ためには十分な教育を受ける必要があります。

しかし,貧困家庭の子どもは,高等教育を受けたり,高度の職業資格を確保することは困難です。こうして
「貧困の連鎖」が生じてしまう可能性があります。

反対に富裕層の子どもたちは,家庭教師や塾などへ十分な教育投資を受けることができ,恵まれた教育環境のなかで,
ますます有利な職や経済的立場を築いて行くことが来ます。

こうした教育や訓練における不平等を解消するためには,国家的な援助が必要です。政府はようやく2014年8月29日に
「子供の貧困対策大綱」を決定しますが,これによりどれだけ事態が改善されるかはこれからの課題です。

現状に対する不満と将来に対する不安は,前回の記事で書いたように,ヨーロッパでは極右政党の進出やナショナリズム,
人種差別的なポピュリズムが広がっています。

日本では,尖閣列島や竹島をめぐる隣国との対立が,排他的なナショナリズムに火をつける恰好の材料を与えました。

また,国連の人種差別撤廃委員会で,日本におけるヘイトスピーチや人種差別的言動が批判されました。

こうした動きは,やはり国民の貧困化と密接に関連していると思います。

ヨーロッパで起こっている,政治の右傾化,国民の人種差別的感情の高まりという傾向が,日本でも同じ文脈で
起こっているといえまず。

最後に,ピケティが資本主義と民主主義に関する非常に重要な指摘をしているので,それを示しておきます。

彼は次のような例を出してそれを指摘しています。

   たとえばある人の庭で世界中の人が使える石油が発見されたとする。この人が石油を100%独占して,
   世界中の他の人は死ぬまで   彼のために働き続ける。
   資本主義の考え方に基づけば,こうした方法も否定されない。しかし,民主主義の考え方に基づけば,
   これは受け入れ難い。

つまり,資本主義と民主主義とはまったく同じというわけでないのです。


(注1)水野和夫「ブローバル資本主義の中で中間層は解体されてしまう」『週刊東洋経済』,2014年7月26日号:42ページ。
(注2)図1と2は上記『週刊東洋経済』,47ページ。
(注3)厚生労働省 「国民生活基礎調査」平成25年版
    http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa13/dl/03.pdf

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『『21世紀の資本論』の衝撃(1)―資本主義社会では中間層が緩やかに消滅する―

2014-09-21 14:14:09 | 経済
『21世紀の資本論』の衝撃(1)―資本主義社会では中間層が緩やかに消滅する―

フランスの経済学者,トマ・ピケティが昨年2013に出版した『21世紀の資本論』は母国のフランスよりも,翌年に出版された英訳版は,
700ページもある大著にもかかわらずアメリカで大反響を呼びました。

この本の日本語版は今年の年末には出版される予定ですが,幸い,『週刊東洋経済』(7月26日号)は,ピケティとの独占インタビューと,
数人のエコノミストのコメントを掲載しています。

この本の大きな特徴は,資本主義が世界経済の主流になった18世紀後半から今日までの300年間に所得や資産の分配状況がどのように変化してきたかの歴史的,
数量データを集め,それを分析したことです。

もちろん,これだけの期間の,そして日本を含めて世界の主要国の経済データを一人で集めることは不可能で,世界の経済学者30人以上がかかわり15年
という歳月をかけています。

タイトルにある『21世紀の資本論』とは,言うまでもなくカール・マルクスの『資本論』(第一巻 1867年,第二巻 1885年, 第三巻 1894年)
を意識しています。マルクスの主張の中でも,

ピケティが強調したいのは,資本主義経済の下では,資本家は収益の多くを取り蓄積してゆくが,労働者の取り分は少なく,労働者は相対的に
ますます貧困化するとう点です。

以下に,インタビューの内容を中心に,彼がどんな結論を引き出し,それがこれからの世界や日本にとってどんな意味を持つかを考えてみたいと思います。
ただし,日本についての詳しい検討は,次回に回し,今回はピケティの全体的な議論についてみてみます。

15年間に集めた膨大なデータを分析した結果,ピケティは結論として3つの重要な点を指摘しています。

①経済成長率よりも資本収益率が高くなり,資本を持つ者にさらに資本が蓄積していく傾向がある。

②この不平等は世襲を通じて拡大する。

③この不平等を是正するには,世界規模で資産への課税強化が必要である。

結論だけをみると,このために15年もかけてきたのか,と思うかもしれませんが,この著作が欧米の知識人に与えた衝撃は,とりわけアメリカで強烈でした。

英訳版が出た今年の4月からわずか3か月で英語版は40万部を売り上げるベストセラーとなりました。うち,75%はアメリカでの販売でしたが,その背景には,
アメリカでは貧富の格差が極端に進んでしまっているという事情があるからです。

19世紀末から第一次世界大戦の勃発(1914年)までの,もっとも繁栄した「ベル・エポック」(文字通りの意味は「美しい時代」)は欧米の消費社会が頂点に
達した時期です。

この時期,アメリカでは,上位10%の富裕層が国全体の富の80%を占めていました。

しかしピケティの分析では,この現象はアメリカだけではなく,現代の先進資本主義国では「ベル・エポック」の時代に近づきつつあり,中産階級は緩やかに消滅
しつつあると指摘しています。

今年,ニューヨークで,「99%」(写真参照)と書かれたプラカードをも持ち,「ウォール街を占拠せよ」という激しい抗議デモがニューヨークで起こりました。

あるいはつまり,ごく少数(つまりわずか1%)の富裕層が株などで巨額の利益を得ているのに,99%の国民は貧困にあえいでいることに対する反乱です。


                           
           
              「我々99%の国民は貧しい」というプラカードをもつ,ウォール街でのデモ参加者 (画像をクリックすると拡大できます)


ところで,ピケティの膨大な論考の中で特に重要なのは,資本を持つ者はさらに資本が蓄積していくのはなぜか,という問題です。これは逆にいうと,
普通の労働者は資本の蓄積はできないか,できたとしても極めて緩慢で,富裕層との所得と富の不平等がますます拡大してゆくことを意味しています。

上記のメカニズムは次のような事情によってもたらされている,と説明されています。これをピケティは r>g という単純な式で表現されます。
この式は,資本収益率(r)が経済成長率(g)をつねに上回るという意味です。

この式をもう少し具体的にいうと次のようになります。資本収益率(r)というのは,株や不動産,債権などへの投資によって得られる利益の収益率です。

例えば1000万円投資して100万円の収益があれば,資本収益率は10%ということになります。

現代では,資産のなかでも,とりわけ金融資産の収益率が高く,それを運用する余裕のある人たちに,さらに利益を得るチャンスと大きくしています。
というのも,金融のグローバル化が爆発的に進み,世界中の動向をいち早く察知し瞬時に資産を移動させて利益を得ることが可能なったからです。

資本収益率に対比される経済成長率(g)とは,一般的には,たとえばGDPの伸びが昨年比で2%というような場合に使う意味での経済成長率のことですが,
ここでは少し違った側面を含んでいます。

つまり,経済成長で得た利益は,労働者の賃金,株主への配当,法人として企業の収益(企業利益,内部留保金など)に分配されます。

ここで,株や債券などの資本(資産)ほとんどもたない一般の労働者は賃金所得という形で経済成長の利益を受け取ることになります。

ピケティはフランス,イギリス,アメリカ,日本など20か国以上の税務統計を,統計が得られる過去200年さかのぼって収集し,富と所得分配の変遷を検討しました。

その結果,資本収益率は平均すると5%であったという。これにたいして,資本主義先進国における経済成長は平均して1~2%(平均して1.5%ほど)
の範囲で収まっていました。

したがって,仮に資本収益率が5%で経済成長率が1%だとすると,多くの富(資本)をもっていれば,その利益の5分の1を再投資するだけで,
あとは消費することができます。

もし富裕層が継続して再投資すれば,さらい富を増やすことができます。

これに対して労働者の賃金は,仮に経済成長に合わせて上昇したとしても,資本収益率よりはるかに低いので,賃金所得者との格差はますます拡大してゆきます。

しかも歴史上,賃金は常に経済成長に遅れて,しかもそれより小さい範囲でしか上昇してきませんでした。

こうして歴史的にみると,先進国では,資本を多く持つ富裕層は再投資によって富を雪だるま式に膨らませ,労働賃金によって生活している人の富は増えず,
結果的に格差は広がってきました。

ただ格差が広がるだけでなく,中間層やそれより下の階級では失業や病気などをきっかけに,簡単に貧困に陥ってしまいます。ピケティは,そこには主に二つの危険
(彼は「リスク」と呼ぶ)があるといいます。

一つは,「就業のリスク」です。良い仕事に就くためには良い高等教育を受けたり,高度の職業資格(例えば弁護士資格や医師免許など)を持っていたほうが
圧倒的に有利です。

しかし,そのためには,そもそも経済的にある程度恵まれていなければなりません。この点で,中間層は不利な立場に置かれます。アメリカの教育は信じがたいほど
不平等なシステムになっているようです。

もう一つは,金融の規制緩和がもたらす中間層没落のリスクです。さまざまな資産の中でも金融資産は高い収益を見込めます。多額の富を持つ人はリスクを
おかすことの許容度が高いし,個人の資産を管理してくれる優秀な財務管理人を雇えるなどの理由で,平均的により高い収益率を得られます。

これにたいして中間層にとって,利益を得るのは現在の状況では非常に難しい。というのは,中途半端な資産はほとんど利益を生まないことが多いからです。

ピケティは富の不平等を是正するためには,世界的規模で資産に対する累進的な課税をすべきだと提案しています。そうしないと,世界の先進国では中間層は
緩やかに消滅してゆくだろう,との展望を示しています。

ピケティの主張は,さらに根本的な問題へと及んでゆきます。世界的な規模で進行する不平等や格差が拡大すると,社会に危険な緊張を生み,第一次大戦までの
ヨーロッパにおけるように,外国人や移民労働は,他人種のせいだ,といったスケープゴード(身代わりの犠牲者,犯人)を求めようとする危険性があります。

ピケティは,今年5月の欧州議会議員選挙で極右やポピュリズム政党の得票が増えているのは,グローバリゼーションの恩恵を受けていないと感じている人たちが
いることを示している,と語っています。

彼はまた,こうした状況が,過去において第一次世界大戦に結びついてしまったという歴史的事実に強い危惧を表明しています。

彼によれば,資本主義の力は,イノベーション,経済成長,生活水準の向上を可能にするものであるが,当然ながら道徳的(倫理的)な規律がありません。

これをピケティは,次のような例で示しています。たとえば,ある人の庭で世界中の人が使えるほどの石油が発見されたとする。それを独占してしまい,
世界中の他の人間は彼のために働き続けなければならないとしても,資本主義ではそのような独占は許されるのです。

つまり,資本主義と民主主義とは必ずしも同じではないのです。

次回は,日本の事情を見てみましょう。




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戦略なき「新成長戦略」-本当の目玉は原発・武器輸出とカジノ解禁-

2014-06-28 05:55:49 | 経済
戦略なき「新成長戦略」 ―本当の目玉は原発・兵器輸出とカジノ建設―

第二次安倍政権は,その出発時点からアベノミクスの経済政策の一つとして「三本の矢」を強調してきました。

「第一の矢」は貨幣供給を増やす金融政策,「第二の矢」は財政出動(公共事業への支出拡大),「第三の矢」が成長戦略です。
アベノミクスの評価,この「成長戦略」の成否にかかわっています。

政府は6月24日,産業競争力会議が示した新成長戦略案に基づいて「新成長戦略」と「経済財政運営と改革の基本方針」
(骨太の方針)を閣議決定しました。

戦略の理念は「少子高齢化による人口減少社会」を踏まえて,日本経済の「稼ぐ力の強化」が目標です。この場合の「稼ぐ力」
とは,はっきり言えば「企業にとって有利な」という意味です。

「成長戦略」とは本来,これからの日本を支え成長させてくれる産業をどのように創出し,成長させてゆくかの戦略のはずです
が,以下に見るように,今回の「新成長戦略」にはそのような戦略はまったく見られません。

ではとりああえず「新成長戦略」の中身を見てみましょう。「新成長戦略」は「日本産業再興プラン」と「戦略市場創造プラン」
と二つからなっています。

「産業再興プラン」の主な項目の一つは,「時間ではなく成果で評価する労働時間制度」の創設です。これに関しては,前回の
ブログの記事で詳しく書いたように,「成果主義」の名のもとに「残業代ゼロ」政策の推進が中心です。

現在は年収1000万円以上の所得制限を設けてはいますが,経済界などは早くも対象の拡大(それ以下の年収にも)を求めて
おり(『朝日新聞』2014年6月25日),所得制限も順次外され,やがてほとんどの勤労者を対象とした残業代のカットに進む
可能性があります。

勤労者の収入が減ることは,結局国内市場をせばめることになり,回り回って企業の成績を押し下げるので,これが長期的に
成長戦略となるかどうかは,
疑わしい政策です。

これと並行して外国人技能実習制度枠を拡大し,期間も3年から5年に延長するなど,外国人労働者の積極的な受け入れると同時
に,「国家戦略特区」で,外国人家事支援人材に新たに在留資格を与えることも盛り込まれています。

これらは少子化に伴う労働力不足を安い外国人労働者によって埋め合わせようとする政策で,これについても前回の記事で問題
点を指摘しておきました。

二つは,法人実効税率(国税と地方税)を現在の34.62%から数年のうちに20%台まで引き下げることです。これは,日本企業の
国際競争力を高めると同時に,海外企業の誘致するねらいがあります。しかし,法人税を軽減すれば,その分の財源をどこかに
確保する必要があります。

政府は携帯電話やパチンコの景品交換にも課税したらどうか,という意見まで出されています。いずれにしても,企業を優遇した
分,庶民に負担させようという意図が見えます。

三つは農業の規制改革で,農業協同組合、農業生産法人、農業委員会の3点セットで農業改革に取り組むことなどを柱に、規制
に守られた農業に,企業的要素を積極的に導入することです。

それによって「農業が競争力と魅力ある産業に生まれ変わる」ために「守りから攻めの農業への転換」を目指すとしています。

しかし,農業に関連してTPPの早期妥結も盛り込まれています。TPPが導入されれば外部から安い農産物が入り,当然,
日本の農業は大打撃をうけます。

静岡大学の土居英二名誉教授は「TPPに関しては農業機械など農業関連産業も含めると,経済波及効果は年間十五兆円のマイ
ナスになる,とし,TPPと同時に農業を成長産業に掲げることに疑問を投げかけています(『東京新聞』2014年6月17日)。
これは,ごく常識的な見解だと思います。

なお,当初の改革案で、全国の農協を指導する司令塔を担う全国農業協同組合中央会(全中)を「廃止」することを考えていま
したが,選挙への影響を心配する自民党の反発が強く、「廃止」を撤回し全中を「新たな制度に移行する」というあいまいな
表現で決着させました。

四つは医療改革で,通常の保険診療の他に,保険対象外の高額な「自由診療」を併存させる,いわゆる「混合診療」を認める
ことがうたわれています。

これも,成長戦略とは呼べません。しかも自由診療の導入は,医療における所得格差をますます助長することになります。


五つは,年金積立金管理運用独立法人の運用見直し。これについては前回の「年金は百年安心ですか」で書いたように,問題
山積みです。

六つは,学童保育の充実や「子育て支援員」の資格創設で女性の就労を促す。学童保育の充実はあまりにも当然で,あえて成長
戦略というほど大げさな政策ではありません。

さらに,「子育て支援員」の資格創設が,どれほど女性の就労を促すかは疑問であり,まして成長戦略に挙げるほどのことでは
ありません。

政府は所得税の配偶者控除や,専業主婦などを対象で社会保険料の負担が少ない「第三号非保険者」の見直しなども検討してい
ます。

このため,家庭によっては負担が増す可能性があります。

もし本当に,女性の就労を促すなら,出産などで一旦休職しても,本人が希望すれば,以前と同じ条件で職場復帰ができること
を保障するよう制度化することの方がはるかに効果的です。

労働問題に詳しい関西大学の森岡孝二名誉教授は「現状では三年も育休すれば職場に席がなくなる。政府の方針と現実が乖離し
ている」と述べています(『東京新聞』2014年6月17日)。

こうした本質的な問題を放置していては,実効性がありません。

最後にロボット技術の活用を広げ製造分野を拡大することです。しかし,これらは既に長い間実施されていることであり,あえて
成長戦略として打ち出すほどの内容はありません。

こうして並べてみると分かるように,「第三の矢」とか「成長戦略」という言葉だけは立派ですが,年金基金の運用の変化にして
も,混合医療にしても,子育て支援にしても,それらは,ほとんど成長戦略と関係ないことです。

また,医療や農業の規制緩和は,これまで何回も登場する成長戦略の「常連」です。そして,年金基金の株式投資への運用変化は,
安倍政権が人気のバロメーターとしている株価のつり上げには役立つかもしれませんが,国民の大切な年金の原資を危険にさらす
可能性さえあります,

しかし,これらの,成長戦略とは言えない「戦略」をかき集めなければならないほど,政府の「成長戦略」には手詰まり感があり,
中身がない空っぽの内容なのです(注1)。

はっきりしているのは,残業代カットと法人税の減額にはっきり見られるように,徹底して企業優遇,労働者の冷遇政策です。
これでは,低賃金によってもたらされた,「賃金デフレ」は解消しないどころか,ますます深刻になります。

それでは,政府が本当に狙っている,経済成長の目玉は何かといえば,原発と武器の輸出とカジノの合法化です。

原発輸出については,このブログの「原発輸出の危険な罠」(2012年11月6日)で詳しく書いていますが,日本は既にベトナムと
輸出契約を結んでおり,さらにトルコ,ヨルダン,リトアニア,最近ではインド,インドネシアと交渉中です。

ここで注目すべき点は,日本の原発は,日本の企業単独で製造しているわけではない,という実態です。日立はアメリカのゼネ
ラルエレクトロニック社(GE)と,東芝はアメリカのウェスティングハウス社と提携しており,それに部分的に三菱重工業も
参加しています。

原発輸出の魅力は,何といってもその金額の大きさです。現在,日本で稼働している原発は安くて2000億円,最新のものは4000
億円台です(注2)。

以前,民主党政権の時,30年以内に原発を廃止するとの方針を公表したとき,アメリカ側から強烈な圧力がかり,日本はすぐに
撤回しました。

実は原発輸出で儲けようとしているアメリカも,日本と協力しなければ原発ビジネスを維持・推進できないという事情があった
からです。

しかし,原発は未完成の技術だし,使用済み燃料や高濃度放射性物資の処理については全く解決の見通しがありません。

まして,輸出した原発に事故が発生して放射能が飛散した場合,輸出国である日米の原発メーカーはどこまで責任を持てるのか
が不明です。

次に,武器輸出です。安倍政権は今年の4月にこれまでの「武器輸出三原則」を破棄し,新たに「防衛装備移転三原則」を設け,
積積極的に輸出をしようとしています。

事実,6月16日からパリで開かれた兵器。防衛装備品などの国際展示会(ユーロサトリ)に,日本から13社が初参加し,
「日本パビリオン」が設けられました。

日本企業が出展する主な企業と武器・防衛装備は,三菱重工業(新型装輸装甲車,戦車用エンジン),川崎重工業(地雷探知機,
戦闘機の射撃訓練時に使う空対空の小型標的機,四輪バギー),日立製作所(橋を架けることができる「機動支援橋などの車両」
-模型展示-,富士通(次世代野外訓練用システム-模型,パネル展示-),東芝(気象レーダー-パネル展示-),NEC
(民生用の無線機,顔認証機)です。

慶応大学の金子勝教授は,安倍政権の経済政策について海外では「兵器と原発輸出だけだ」と報道されている,と述べていますが
(『東京新聞』2014年6月12日),以上の記述からも,納得できます。

集団的自衛権を容認し,武器と原発の輸出に力を入れる安倍政権は,非常に危険な領域に踏み込んでしまったという印象をもちます。

そんな中,6月18日,カジノの運営を合法化するための「統合型リゾート施設を推進する法案(IR推進法案)が衆院内閣委員会
に提出され審議入りしました。

その理由として,このようなリゾート施設は観光を促進し地域経済の振興に寄与する,というものです。

一部のマスメディアは,その経済効果は1兆円にのぼる,などと書いていますが,それは非常に甘い考えです。アジアにはシンガ
ポールやマカオのようなカジノがすでに存在し,それらと競争して勝つのは至難の業です。

なにしろ日本はカジノ経営のノウハウがないので,それを海外から学ぶことから始めなければならないのです。

それよるも,ギャンャンブルも成長戦略の一つに加えるというのはいかにも安易で,不健康な発想です。

こうして,客観的にみてみると,安倍政権の成長戦略は,企業の優遇と労働者の賃金カット,産業としては,武器と原発輸出と
いう危険な分野,そしてカジノ解禁に集約できます。

以上,「新成長戦略」の骨子を中心に安倍政権の経済政策を見てきましたが,全体を通して,理念の貧しさ,アイディアの枯渇,
一言でいえば,政治集団としての自民党と政策集団としても官僚の思考の「劣化」が強く印象付けられます。

(注1)
『北海道新聞』電子版(「社説」 2014年6月17日)http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/545805.html

(注2)マイナビニュース http://news.mynavi.jp/news/2013/03/15/100/
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お金に頼らない「里山資本主義」(2)-社会経済の原理として-

2013-10-27 23:10:14 | 経済
お金に頼らない「里山資本主義」(2)-社会経済の原理として-


今回も前回に引き続いて、藻谷浩介・NHK広島取材班『里山資本主義-日本経済は「安心の原理で」で動く-』
(角川 2013)を手掛かりに、日本や世界の現状と今後を、新たな視点から読み解いてみたいと思います。

前回は、個人と企業レベルで「里山資本主義」を実践している実例を紹介しましたが、今回はもう少し話を広げて、
「里山資本主義」を日本や世界の社会経済の原理として考えます。

というのも、現在、世界を席巻している「マネー資本主義」にはあまりにも問題が多過ぎ、このシステムでは原理
的に、経済的に弱い国、弱い人たちはますます苦境に追いやられる可能性が大きいからです。

さらに「マネー資本主義」には、経済行為における倫理観をまったく無視して、ただひたすら利潤を追求する、
とても“不健康”な面が強いからです。

今さら説明は必要ないかも知れませんが、「マネー資本主義」とはどんな原理で、そこにどんな問題があるかを、
少し長くなりますが、大切なことなのでおさらいしておきます。

資本主義は、あらゆる経済活動が利潤動機に支えられており、そのため創意工夫や市場での競争をとおして経済が
活性化することを原理としています。

これは、結果として、より良い物がより安く供給されるとういプラスの面がある反面、見込みで生産するので、
資源が必要以上に消費される傾向にあります。

他方、全ての経済行為は、貨幣で計られた金額によって評価されるので、人々や企業は法律に違反しない限り、あらゆる
手段を使って利潤をあげようとします。ここに、違法ではないが倫理的には問題のある行為が発生する原因があります。

この問題を、世界経済を混乱におとした2008年の「リーマンショック」を例に考えてみましょう。

リーマンブラザースという証券会社が破綻した背景の1つに、「サブプライムローン」という仕組みが大きく関わって
います。住宅を例にこの仕組みを説明しましょう。

アメリカ経済は日本や新興工業国の追い上げで、世界市場で長期的に競争力を失い、経済は停滞気味でした。

そこで、新たな需要を創り出すために、住宅を欲しいけれど収入も担保能力も無い人たちに、住宅を買わせるための
方法として、「サブプライムローン」を考え出しました。

これは「プライム」(優良な)借り手より信用の低い(サブプライム)、通常は所得が低い人たちに借金を可能にする
方法です。

たとえば、ある家が4000万円だとすると、銀行は担保無しで4000万円をこのような人たちに貸します。

その時、買い手には、この家は将来6000万円にはなるから、4000万円借りても、まだ2000万円の利益が出
ると持ちかけます。

すると買手は家を手に入れただけでなく、2000万円まで使える購買力を持つことになります。実際、多くの人が、
この架空の購買力で多額の買い物をしました。

一方、銀行はこの債権を直ちにウォール街の金融機関や証券会社(たととえばリーマンブラザース)に売ります。

債権を買った金融機関は、それを何万もの債権に分割しこれを他の債権と一緒にして新たな金融商品として世界に
ばら撒きます。

たとえば、4000万円の債権を100万口の債権に分割すると、1口当たり40円ということになり、理論的には
リスクはほぼゼロと考えられます。

これがいわゆる「金融工学」とよばれる数学的加工です。ここで、市場には4000万円の住宅需要、2000万円の
購買力、そして新たな金融商品が生まれます。ほとんど魔術です。

ただし、これら金融商品を買った人たちは、その商品の中にどれほどのサブプライムローンの債権が入っているか分
かりません。

ところが、最初に借金で住宅を購入した人たちの返済期限がくるとたちまち返済不能、破産が発生しました。

金融商品を買った個人や銀行は、疑心暗鬼となり、金融商品は投げ売り状態になります。

こうして、世界の金融に大混乱をもたらし、日本の銀行もそれぞれ数千億円の損害を出しました。その影響は現在も
ギリシアやEUの経済に悪影響を出し続けています。

このように、マネー資本主義では貨幣(金融資産)が動くことが大事です。そもそもサブプライムローは、借金する
能力の無い人たちにどのようにお金を貸し付けるか、というところから考えられた、倫理的には邪道で、ある意味、
犯罪的ですらあります。

金融商品は、物やサービスという実体経済とは全く関係ない、コンピュータのデータとして数字が移動するだけの、
「虚」の商品なのです。この意味で、「マネー資本主義」はしばし「ギャンブル資本主義」とも呼ばれます。

しかも、この「虚」の経済が、実態経済をはるかに上回る額に達し、コントロール不能の状態になっています。

どうやら、安倍政権になってから、日本は「マネー資本主義」への道をさらに速度を上げてひた走り始めています。

日本の現状をみてみましょう。

人間が生きてゆくには水と食料と燃料が必要ですが。これらのうち、日本は食料も燃料その他の地下資源も自給
できないので、輸出産業が稼いだお金で食料と燃料を輸入しています。

水は豊富にあるはずですが、それでも輸入したペットボトルの水もかなり飲まれています。

水道の水も都市部では大規模な上水道システムを膨大な電力を使って動かしています。

日本経済はかつての国際競争力も失いつつあり、国内経済も長期停滞にあります。

そこで、手っ取り早い方法として、金融を緩和し、お札をどんどん刷るか、政府が発行した国債を日銀が買い、
お金を印刷して市中に現金を大量に流しています。

ここで取り上げた本の著者たちの言葉を借りると、現在の日本政府は、「お金をぐるぐる回せば万事がうまく解決する」
論に染まり始めています。

これはあたかも「自分の尻尾を噛もうとしてぐるぐる回る犬のように、実際にはやればやるほど体力を失って、自分の
首を絞めてしまう話」なのです。

政府が「景気対策」と称していくら金を増やしても、投資も消費も一向に増えていません。悪いことに、今では国民の
預貯金の総額と同じ、1000兆円の国債残高が積み上がっています。この国債の返済と利払いが国家予算を圧迫して
います。

平成25年度でみると、一般会計の歳入の46%が赤字国債で賄われ、歳出のほぼ4分の1にあたる24%が国債の
元利払いに充てられているのです。人間で言えば完全に“病人”の状態です。それでは貿易による収入はどうなって
いるのでしょうか。

日本は必死で頑張ったおかげで、震災、ユーロショック、超円高が連鎖した2010年でさえ、先進工業国を新興工業国から
合計14兆円の貿易黒字を稼いだのです。しかし、その儲けは全部アラブ産油国などの資源国に持ってゆかれ最終的には
31年ぶりにマイナス2兆円もの貿易赤字に落ちこんでしまいました。

日本は今まで、遠く離れた地球のあちこちから自然資源(たとえば鉄鉱石)を輸入し、多量のエネルギーを使って製鉄・
加工して自動車などの工業製品を輸出するという、加工貿易立国としてやってきましたが、資源とエネルギー(化石燃料)
の輸入価格の高騰で、現在では「逆ざや」になっています。

今年に入って安倍政権は、金融緩和で円安を誘導したため、輸出収入は多少増えたものの、石油をはじめ自然資源の輸入
価格が高騰し、今年の上半期だけで5兆円ほどの貿易赤字を出しています

食料にいたっては、カロリーベースで自給率が40%を切っている状態で、昨年は約8兆円も輸入しているのです。(注1)

しかも、輸入した食料の30~40%を廃棄しているのです。

食料を手に入れるためにも、工業製品を輸出しなければならず、そのためには大量の石油を工業用のエネルギー源として輸入
しているのです。

冷静に考えると日本は、食料とエネルギーを確保するためにエネルギーを輸入するという、実にばかばかしいことをやって
いることがわかります。

金銭的に見ると、死にものぐるいで働いて稼いだ金の大部分が食料とエネルギーを手に入れるために使われているのです。

しかし、発想を変えてゆけば、食料とエネルギーを、これほどまでに外国に頼る必要はありません。

ここでもう一度、「生きるのに必要なのは水と食料と燃料だ」という言葉を思い返してみてください。

日本は、良質の水は既にあります。農業に必要な水も日照も温度にも恵まれた環境にあります。

私たちは、これを当たり前のこととして特に気にしませんが、先進国で、この3つの条件が揃っている国は日本くらいしか
ありません。

あとは農地ですが、現在の日本には耕作を放棄した広大な耕地もあります。つまり、食料生産の潜在的な可能性は大です。

漁業資源も豊富です。エネルギーに関しても、日本は膨大な量の森林資源が潜在的なエネルギー源として蓄積されています。

つまり、日本は潜在的には生きるのに必要な物を全て備えているのです。もちろん、木質系の燃料で日本のエネルギーが全
てまかなえるわけではありません。

しかし、真剣に取り組めば、一般に考えている以上にエネルギーの自給は可能になります。

中国山地でバイオマス(木くずのペレット)の発電所を設立した銘建工業の中島氏は、そのアイディアをオーストリアから
学んでいます。

オーストリアは、森林管理をしっかり行い、森林資源を木材としてもエネルギー源としても積極的に活用しています。

まず、木材資源を十分に利用するために、日本では捨ててしまう間伐材なども集成材(木片を貼り合わせて強度と大きさ
を確保した木材)として利用し、すでに8階建てのアパートでさえ集成材を積極的を使用しています。

次に、製材過程で出た木くずはペレットにされ、発電と一般家庭の燃料として使われています。

こうして、現在オーストリアのエネルギー生産量の28.5%は木質系再生エネルギーでまかなわれています。

しかも、このような傾向は他のヨーロッパ諸国にも広まりつつあり、EU全体は2030年までに再生可能なバイオ
エネルギーを34%まであげることを目指しています。

日本ではお金にならない多くの山林が間伐されずに放置されているのに対して、オーストリアでは山林所有者は隅々まで
管理することを義務づけられています。そのために、森林マイスターの育成と資格制度が確立しており、彼らが「持続可能
な豊かさ」を守るために70%の森林を管理しています。

オーストリアは木材関連産業だけで年に30億ないり40億ユーロの貿易黒字を出しています。

それでもまだ、森林が1年間に新たに蓄積する量の70%しか利用していないといいます。

こうした努力がこの国を豊かにし、雇用を増やし現在では国民一人当たり所得は日本より高いのです。

オーストリアは、一方で「打倒 !化石燃料」というスローガンを掲げ、他方で、脱原発を憲法に明記している国家
でもあり、平和利用も軍事利用も原子力の利用禁止しています。

オーストリアの例に見られるように、本気になって取り組めば脱原発は可能であり、食料自給もかなりの程度可能です。

さて、前回と今回の2回にわたって「里山資本主義」について考えてきましたが、冒頭に示した本の著者たちは、

「マネー資本主義」へのアンチテーゼ(対抗または抵抗する考え方)として3つ挙げています。

①「貨幣換算出来ない物々交換」の復権

「里山資本主義」は、「マネー資本主義」のサブシステム(補完的システム)として、貨幣を介さない取引を重視します。
その一つが物々交換ですが、それにも貨幣で買った物の物々交換と、そうでない物品(たとえば自分で作った野菜)を贈
って「絆」や人間関係の「ネットワーク」が広がる、という利益を得るという交換もあります。
後者の方が本来の「里山資本主義」の理念にかなっています。「絆」や「ネットワーク」はいざというときに力を発揮し
ますが、お金には換算できません。

②規模の利益への抵抗

「マネー資本主義」はなるべく需要を大きくまとめ、一括して大量供給した方がコストは減り経済は拡大する(「規模の利益」)
と考えます。
しかし、規模の利益は、リスクの拡大と裏腹です。3・11の原発事故で周辺には計り知れない被害を与え、東電管内の家庭や
工場・事業所は機能停止に陥りました。
個人個人が木のペレットをエコストーブ燃やし農産物を育てて暮らしたり、地元で採れた半端な野菜を地元の福祉施設や地域の
マーケットで売る、といった「里山資本主義」的生き方はこれと正反対です。

③分業の原理への異議申し立て

分業は、各人ができる得意分野に専念して、その成果物を交換することが最も効率的であるという、現代社会の根幹をなす原理
です。しかし「里山資本主義」では一人がいろんな仕事をこなします。
前回紹介した庄原市の和田さんやその仲間は、薪も切れば田畑も耕す。少々の大工仕事は自分でこなし、料理もする。
観光業者のようなことをすれば通信事業まがいのことをするかとおもえば、あちこちをつなぐためのイベントプロデューサー
にもなります。

極端な分業は、その一部に何か起こったら、全体が機能しなくなりますが、一人が多役をこなせば、欠陥が生じたばあいでも、
すぐにそれを埋め合わせることができます。

以上の3点の他に、私は次の2点を、「里山資本主義」の特に優れた面だと考えます。1つは、「里山資本主義」は、
さまざまに変化する生活環境に臨機応変に対応する能力、つまり生き残りの可能性が大きいことです。

これに対して効率重視の分業社会では、変化に対して硬直的で適応能力が極めて弱いシステムです。

二つは、「マネー資本主義」ではお金が人と人を間接的に結ぶだけです。このシステムでは人々は孤立し、孤独に襲われます。

とりわけ高齢化社会に向かっている日本では、高齢者が孤立してしまいます。

これにたいして「里山資本主義」では、人と人との直接的な人間関係や絆で結ばれ、助け合いながら生きて行けます。

こうした良さが発揮されるには、地域ごとのコミュニティが理想的で、経済的にはできる限り地産地消を目指すべきだと思います。

いずれにしても、私たちはライフスタイルの根本的な見直しを迫られていることは確かです。

(注1)http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kokusai/pdf/yusyutu_gaikyo_12.pdf


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お金に頼らない「里山資本主義」(1)-水と食べ物と燃料があれば生きてゆける-

2013-10-20 20:35:53 | 経済
お金に頼らない「里山資本主義」(1)-水と食べ物と燃料があれば生きてゆける-


今、日本の地方、それも、これまで「過疎地域」と呼ばれた地域で新し動きが始まっています。それは決して、
声高に叫んでいるわけではなく、むしろ、静かに、しかし着実に進行しているのです。それは一言で言えば、
「お金に頼らない経済」の実現の動きです。

今回は、このテーマを、藻谷浩介・NHK広島取材班『里山資本主義-日本経済は「安心の原理」で動く-』
(角川oneテーマ2、2013年8月)を手掛かりに考えてみたいと思います。(注1)

タイトルにある「里山資本主義」は、「マネー資本主義」に対抗する言葉として著者たちが考えた造語です。

「マネー資本主義」とは、現在の世界経済で支配的な、物も労働もサービスも全ての経済はマネー(貨幣)
によって評価され取引される、貨幣中心の資本主義のことです。

ここで「里山」とは一般に、人が出入りして活用している身近な山や林という意味です。江戸時代や、一部では
戦前の日本人は燃料としての薪も水も、さまざまな食べ物や資材をこうした里山から得て里山とともに生活して
いたのです。

こうした歴史を念頭において、著者たちが主張する「里山資本主義」とは、お金では買えない大切なものに大き
な価値を置く考えかたで、できる限り地域社会で生産し消費する、いわゆる「地産地消」の循環型社会経済を指
します。

本書は内容的に個人、企業、地域社会が取り組んでいる「里山資本主義」の実例と、もう少し大きな視点で、
日本や世界の経済社会のあり方としての「里山資本主義」を論じた部分と二つからなっています。今回は、
前者の実例から私たちの生活を考え直すヒントを探ってみたいと思います。

まず、マネー資本主義の世界で「経済の常識」に翻弄されている人とは、「もっと稼がなきゃ、もっと高い評価を
得なきゃと猛烈に働いている。必然、帰って寝るだけの生活。ご飯を作ったりしている暇などない。

だから全部外で買ってくる。・・・」というような人たちです。

これはもちろん、極端な表現ですが、本質を突いています。

重要な点は、猛烈に働いている人たちは、実はそれほど豊かな暮らしをしていないという現実です。

「もらっている給料は高いかもしれない。でも毎日モノを買う支出がボディーブローになり、手元にお金が残らない。

だから彼はますますがんばる。がんばったらがんばった分だけ給料は上がるが、その分自分ですることがさらに減り、
支出が増えていく。」

著者の一人は皮肉を込めて、こういう人は、「世の中の経済」にとってありがたい存在だという。

彼らは国のGDPを押し上げ、モノやサービスをたくさん買ってくれるから、消費が増えて企業の利益が増え、
結果として経済全体が活性化する、というわけです。

「ちまちま節約するな。どんどんエネルギーや資源を使え。それを遙かに上回る収益を上げればいいのだ。

規模を大きくするほど、利益は増えていく。それが『豊か』ということなのだ。」

100年ほど前にアメリカで起こったこの「常識」は日本などの先進諸国に浸透し、その後世界の「常識」と
なったのです。

“ガンガン働き、たくさん稼ぎ、どんどん消費する”、著者たちはこんな生き方を「やくざな人生」、
そのような経済を「やくざな経済」あるは「マッチョな経済」と表現します。

確かに、現代はお金がなければ何事もできないし人生を楽しめないと、頭から決めつけています。

しかし、この“常識”にはどこか落とし穴はありませんか?

この本では、田舎から都会に出て猛烈社員として働いていたが、会社の人件費カットのためリストラされ、
故郷に帰ってきた青年の話が、脚色を加えて紹介されています。

この青年は、故郷で完全無添加ジャムを作るジャム屋さんで働くことにしました。

給料はかつての10分の1に減少してしまいました。

しかし、彼は知り合いのおじさんに教えて貰って、薪で煮炊きをするエコストーブの作りました。

このストーブを使うと裏山で拾ってきた雑木5本で一日分のご飯が炊けました。

彼は、近所のおばさんがもてあましている畑を借り受け野菜作りも始めました。始めたばかりで、そんなに
たくさんは収穫できませんでしたが困ってはいませんでした。

というのも、近所のおばさんたちが、「腐らせてしまうから食べて」といって野菜を持ってきてくれるからです。

こうして、スーパーに行く回数は減り、また行っても、野菜はほとんど買わないようになりました。

彼の給料は10分の1になったけれど、生活には全く困りませんでした。

財布から消えるお金が劇的に減ったので、食べる物が劇的においしくなったといいます。

彼は、暮らしが楽しくなり、人間らしくなったと感じたそうです。都会で猛烈に働いていたときには職場以外で
話をするのはコンビニの店員くらいだった。

ところがこの田舎暮らしでは、近所の人たちとの会話や交流がある。確かに「豊か」になったと実感します。

つぎに、広島県と岡山県、島根県との県境にある、庄原市に住む和田さん(70才)を紹介しましょう。

ここは、やはり中国山地に懐深く抱かれた典型的な過疎高齢化地域です。

和田さんは週に一度、自宅の裏の里山から木の枝を拾ってきて、エコストーブの燃料にし、畑で野菜を作り、
近くの小川で採れるクレソンを摘んだり、野草を採っては食べています。

畑は無農薬で刈り取った草を肥料にしています。彼はこのような生活を「里山を食い物にする」と表現します。

近所の田総川で、」外来種のブルーギルやブラックバスが増えていると聞けば、「ひとつ、じっくり調理して
おいしく食べようじゃないか」と、地元の漁協や小中学校と協力して「田総川を丸ごと食べる会」を開く。

猪や鹿が麓の畑を荒らすと聞けば、そうした害獣を使った新しい鍋を考案し、創作鍋のコンテストに出場する。

これら全てを楽しみに変えてしまうのです。

もう一つ、彼が「過疎を逆手に取った」町おこしにも成功します。

この町に毎年2月になるとあちこちで咲くセツブンソウ(節分草)が日本でも珍しいと知ると、「節分草祭り」
を開きました。この直径わずか2センチの可憐な姿を見ようと、大勢の人が押し寄せ、今では西日本一の自生地
として有名になりました。

和田さんは、価値がないと思い込んでいたものが実は町作りの武器になる、東京にはないものだからこそ、
東京とは違う魅力がある、何もないと思われていた山奥は雑草をはじめ、宝の山であることを悟ったといいます。

今では、「和田哲学」への共感は北海道から沖縄まで、じわじわと広がっています。

彼は造語の名手でもあります。高齢者といわず「光齢者」(輝ける年齢に達した人)といい、里山暮らしの仲間は、
明治維新で活躍した志士たちのような、行政や政治にまかせるのではなく、社会のために自分で動ける人、
と言う意味で「市民」ではなく「志民」と呼びます。

さらに、我慢ではなく笑いながら楽しくエネルギーを使おうという意味で、省エネを「笑エネ」と言います。

和田さんの近くに住む熊原さんは、ベランダや家庭菜園などで作り、今までは腐らせていた野菜をデイサービスの
施設の食事に使って貰うようにし、有効利用のシステムを作りました。

個々の家庭ではまとまった量が揃わなくても、それらを集めて地域消費すれば、それまで野菜を外から買っていた
分の支出が要らなくなります。

さらに、地域通貨を作り、現金を使わない循環型の地域経済を実現しています。

和田さんや熊原さんの発想の原点には、きれいな水と食料と燃料、そして信頼相互に信頼できる隣人や知人との
人間関係があれば、お金なんかそれほどなくても生きてゆける、という体験に基づいた強い生活実感があります。
「原価ゼロ」の生活こそが、彼らの目指す生き方です。


以上は、個人のレベルでの新たな生き方の実例ですが、つぎに、会社という組織で進行している新し事業のあり
方を紹介します。

岡山県の中国山中にある真庭市に、従業員200名ほどの製材と住宅建材メーカー、銘建工業があります。

木材産業は1990年以来、住宅着工の低迷から20年間不況に喘いでいました。この会社の社長中島氏は、こんな
逆風を180度転換して、斜陽の産業を世界の最先端に生まれ変わらせようとしています。

中島さんは1997年、建材だけではじり貧だと感じて製材所の廃材(樹皮や木片)を利用した「木質バイオマス発電」
の発電所を建設しました。

その発電所は24時間フルタイムで稼働し、一時間に2000キロワット、一般家庭の2000世帯分でした。

それから17年、何が起こったのでしょうか。

まず、毎年電力会社に払っていた電気代1億円が無くなりました。また、夜間にできた電力を電力会社に売った代金
が5000万円、これで1億5000万円のプラスです。
しかも、毎年4万トンの廃材の処理に2億4000万円かかっていたのがゼロになりました。これで、約4億円も得
したことになります。

建設には10億円かかりましたが、元を取っただけでなく、大きな利益をあげています。

しかも、当初は電力会社の買取価格は1キロワット3円だったのが、2002年には9円に、そして現在では33.8円
まで上昇しています。

これだけでも会社としては大成功ですが、中島さんの挑戦はさらに続きます。年間4万トンの木くずは発電所では使い
切れません。

そこで、木くずを直径6~8ミリ、長さ2センチほどの円筒状のペレットに固めて燃料として販売しました。

これを使うには専用のボイラーが必要ですが、灯油と同じようにペレットを燃料タンクに放り込むだけでいい、という
手軽さが大きな利点です。

銘建工業はこのペレットを1キロ20円で販売しており、顧客は全国に広がり一部は韓国に輸出されています。

現在では、ペレットを使うボイラーは地元の小学校や公共施設で、暖房だけでなく冷房にも使われています。さらに、
農業分野で、これまでの重油式のボイラーに代えてペレットのボイラーでハウス栽培を行う人が出てきました。

これもエネルギーの「地産地消」です。

2013年2月には、銘建工業、真庭市、地元の林業・製材業組合など9団体が「真庭バイオマス発電株式会社」を設立し、
2015年には出力1万キロワットを発電する予定です。

以上の他にも、銘建工業は、従来は廃材として捨てられていた、細い木材を貼り合わせて作る集成材の開発を始めて
います。

集成材はすでにオーストリアなどでは8階建てのアパートに使っているように、将来は鉄骨に代わって使われるように
なるでしょう。

以上に紹介した真庭市や庄原市での動きは、鳥取県や高知県の過疎地域でも実現しつつあります。

本書について紹介すべきことはまだまさたくさんありますが、ここで一旦、中国山地の過疎地域で起こっている新たな
動きの、意義を整理したいと思います。

まず第一に、今までお金を払って処分していた製材の廃材が発電とペレット燃料として利用されるようになったことです。

現在、真庭市の総電力消費の11%はこうした地元の電力で賄われています。日本の再生エネルギーの総量が1%である
ことを考えれば、これは大きなことです。

第二に、銘建工業は、衰退する林業・木材産業を逆手にとって、収益性の高い企業に成長しましたが、これは新たな
ビジネス・モデルを提供したといえます。同時に、企業誘致が難しい過疎地域に、新たな雇用機会を創出しました。

しかも従業員の給料は、周辺の一般企業よりもボーナスが良い分、高い水準にあります。

第三に、日本規模で考えると、日本は森林面積が66%を占めているから、エネルギー資源はほぼ無尽蔵にあるといっても
過言ではありません。

既存の森林を一斉に伐採してエネルギーに転換すると森林資源が枯渇してしまうのでは、という心配はあります。

しかし、現在、日本の森林資源はほとんど活用されていていないのです。

日本には1000万ヘクタールの人工林があり、ほとんどが50年以上経って伐採適期を迎えていますが、木材需要は
1973年の1億758万立方メートルから2011年には7272万立方メートルに減少しています。

林は適切に伐採することにより、一酸化炭素をより多く吸収し酸素を排出する若い樹木が更新して健康な林になるのです。
この意味で再生可能な資源なのです。

第四に、地域社会の赤字の主要な部分は電気、ガス、石油などのエネルギーと「モノ」の購入代金です。

このうちエネルギーをできる限り地域で地産地消することにより、この体質から抜け出すことが可能となります。

地方のスーパーでは外部から買った野菜が売られています。地域で生産された野菜を地域内で流通することにより、
地方経済が健全化します。

第五に、以上の地産地消の経済は、エネルギーも食料も外部への依存を減らすことができるので、その分、
外部の影響を受けにくい、自立した経済が可能となります。これについては、次回、グローバル化の中での里山
資本主義の意味、として再び、検討します。

最後に、里山資本主義の非常に重要な良さは、地域の人間関係を再び取り戻す機会をふやしていることです。
それはモノとカネとヒトの動きが直接に密着しているからで。これは全てが分業化し、直接的な関係性が失われている
都市のマネー資本主義の大きな欠点です。

次回は、もうすこし巨視的な観点から、グローバル化とマネー資本主義への対抗原理としての里山資本主義について考えます。


(注1)この取材の映像は、2011年1月1日のNHKスペシャル「2011ニッポンの生きる道」および2同じく2012年1月1日の
    NHKスペシャル「めざせ! ニッポン復活」で放映されました。

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アベノミクスの光と影―劇薬の副作用は心配ないか―

2013-07-13 07:41:08 | 経済
アベノミクスの光と影 ―劇薬の副作用は心配ないか―


今年の2月,このブログで「アベノミクスで日本経済は回復するのか」というタイトルで,3回にわたって検討しました。

あれから5カ月たち,安部首相自慢の経済政策が,どんな影響を与えたかが,少しずつ見えてきました。

最近では,参議院選挙を前に安部首相は,「昨年日本を覆っていたあの暗く重い空気は,一変したではありませんか」
と一つ覚えのセリフとして絶叫しています。

今度の参議院選挙についていえば,圧勝が予想される自民党は,とにかくこの半年の経済政策の成果を強調しています。

一方安部首相は,選挙の圧勝を確信してはいますが,憲法改定問題については今あえて強調しなくも,選挙後に衆参ともに
過半数を確保してしまえば,何でもできると考えています。

安部自民党の本音は,「ねじれ」を解消して,一方で「日本を取り戻す」というスローガン(この中には,軍事力の増強と
日本ナショナリズムの復活)と,小泉改革をさらに徹底した新自由主義の推進です。

こうした方向性は,かつてアメリカの共和党の伝統である「強いアメリカ」と「小さい政府」(新自由主義)と良く似ています。

しかし,選挙前の現在は,とにかく経済を上昇傾向に乗せることを至上命令としています。

その推進力となる武器は,2年間で国債を今の2倍発行し,政府支出と市中への貨幣供給量を増やし,物価を2%上げることです。

最近では,非常に野心的というか,国民に淡い幻想をもたせる,「10年間で国民1人あたり総国民所得を150万円上げる」と,
威勢の良いことを言い始めています。

ここで,「1人あたり総国民所得」という言葉はちょっと分かりにくい表現ですが,総国民所得を人口数で割った金額が「1人
当たり国民所得」のことです。

いずれにしても,この表現は,おそらく意図的な「目くらまし」です。

「1人あたり」という言葉で,あたかも私たち1人1人の所得が(平均して)150万円増えるかの印象を与えようとているのす。

もし,4人家族なら600万円増えることになります。そんなバカなことはあり得ない,と思いつつ,満額とはいかなくても,
少しぐらいは増えるのではないかと,思ってしまう人がいないとも限りません。

安部首相の言葉は,こぅした思い違いを期待し,計算に入れていると思われます。

もちろん,私たち1人1人の所得が150万円増えるわけではありません。

企業も含めた国全体の所得を人口でわっただけですから,企業の所得も入ります。

現実には企業はこの間,労働者への配分を抑えられるだけ抑え,利益をせっせと「内部留保」としてため込んできました。

その額,現在では250兆円にも達し,これは国民総生産(GDP)の約半分にも達しているのです。

しかも,所得150万円の増加というのは10年先の話で,その時には安部氏がどうなっているのか分かりません。

ところで,自民党もマスコミも「アベノミクス」という言葉だけが独り歩きして,あたかも特別な経済政策のようにはやし立てて
いますが,実際には,自民党がこれまでやってきたことと何ら変わりはありません

それでは,実際に今年の初めの「目標」や景気の回復は現在どんな状態にあるのでしょうか。

安部政権が成果として掲げていることは,一言でいえば「デフレからの脱却」です。選挙演説で頻繁に使われる「昨年まで日本を
覆っていたあの暗く重い空気」とは,デフレのことです。

デフレの特徴は,物が売れず,物価水準が低い水準にとどまったまま,企業成績が上がらず,雇用が低調で給与が上がらない,
経済全体が沈滞している状態です。

それでは,これらの面で何が実際に変わったのでしょうか?

貨幣の供給量を増やすということは,円の価値を下げることですから,当然円安になります。

円安になれば日本製品は海外からみれば安くなり輸出企業は輸出し易くなります。

確かに輸出に関しては円安の効果は出ているようで改善し,それにともなって大企業や製造業では業績が1年9カ月ぶりにプラスに転換しました。

しかし,中小企業は原材料価格の高騰と景気の停滞を直接にかぶり,現在でもまったく景気の回復は見えてこないどころかマイナス成長です。

さらに言えば,首都圏や大都市はともかく,地方の疲弊は本当に深刻です。私は最近,よく調査で地方へ行きますが,地方都市のメインストリート
でさへ,軒並み「シャッター通り」化しています。政府は東京しか見ていないようです。

安部首相は参院選の応援演説では必ず「有効求人倍率は0.9倍,(2008年9月の)リーマン・ショック前に回復した」ことを持ち出しています。

日銀の黒田総裁は7月11日,景気判断を「持ち直している」から「穏やかに回復しつつある」と,2年半ぶりに上方修正しました。

そして,テレビなどでは百貨店での高級品の売り上げが伸びたと,いった映像がしきりに流されています。これは,アベノミクスの「光」の部分です。

輸出企業の好調と,円安の進行への期待感から,株価は日経平均で昨年の1万円前後から今年の7月には1万4000円台まで上昇しました。

株価の上昇によって利益を得た人もいるでしょう。しかし,考えてみれば,日本の株取引の60%は今や海外(特にアメリカ)のファンドです。
彼らは,自分たちの売買行動が株価を事実上操作できることを利用して,短期間に莫大な利益を得ています。

それでは,日本人の投資家が株で大儲けをした人はどれくらいいるだろうか。百貨店で高級品を買いあさる人たちは,国民のごくごく一部で,
一般の人たちにはほとんど関係ありません。

こうした光景を頻繁に流してアベノミクス効果をあおっているマスメディア,特にテレビは,権力の監視役という本来の役割を完全に放棄し,
今や安部内閣の応援団となってしまっています。

しかし,この「光」の反対側では,影の部分が劇薬の「副作用」として確実に進行しつつあります。

まず,安部首相が自慢する雇用の改善ですが,5月の有効求人倍率のうち,正社員は42.1%で,昨年の12月の42.9%,2008年8月の46.8%より
低くなっているのです。

企業は不況への対応で,いつでも解雇できる非正規雇用を増やし,賃金コストを下げることで競争力を維持しているのです。非正規雇用は
19901の2割から,今や35%,つまり3人に1人となっています。

自民党は,解雇に関して裁判で負けても金銭で解決して,実態としていつでも解雇できるよう法改正をしようとしています。今回の参議選で
過半数をとれば,確実にこれは実現してしまうでしょう。

これは企業側にとって一方的に有利な制度で,雇用の破壊です。

以前,このブログでも書きましたが,非正規雇用の男性はなかなか結婚に踏み切れない心理状態にあります。これは,隠れた少子化要因の一つです。

次に,円安は輸出企業に有利に働いた半面,食糧品や燃料などをはじめ,あらゆる分野の輸入価格を上昇させています。

金融面では,政府は国債をどんどん発行しているので,当然のことながら,国債にたいする信用はそれだけ低下し,その国債と引き換えに増刷した
お金の価値は低下します。

政府も日銀も抑えられると思っていた長期金利が,一時1%を突破してしまい,連動する住宅ローン金利も3カ月連続で上がり続け,
経済活動や景気の流れに水をさしています。

今後,さらに国債の発行を増加させてゆけば,貨幣価値はさらに下がり,長期金利は上昇します。

政府は,国債の発行によって市中にお金を大量に流す一方,いままで金融機関が持っていた国債を買い上げています。

これによって,現在の日本には,さらにお金がダブついています。

これは,かつてのバブル期と同じ状態で,うまく制御できないと,バブル崩壊をもう一度起こすことになります。

市中にお金をどんどん流す「異次元の金融緩和」の狙いは,これによって企業が金融機関からお金を借りやすくし,新たな投資を刺激し,
それを起爆剤として経済を活性化し,やがて労働の賃金も上がり,経済全体が上昇させることにあります。

しかし,現実には,4月から始まった「異次元の金融緩和」によって発行され,日銀が供給した札束は,いまだ日銀の倉庫に眠ったままです。

他方,国債の発行によって政府は公共事業などに巨額のお金を投ずる財政出動を行おうとしています。公共事業の拡大によって景気を刺激
する手法は,自民党が戦後ずっと行ってきたことですが,「失われた20年」の実績を見ればわかるように,これでは経済は回復しません。

企業は巨額の内部留保金をもっているうえに,今の日本には,あえて借金をして設備投資をするだけの利益が見込める可能性がないから,
金融機関から借りないのです。

つまり,いくら市中にお金を流しても,資金需要がなければ意味がないのです。

さらにいえば,多くの企業は海外にも生産拠点を移しているので,国内での設備投資にはあまり関心がありません。

2012年末現在の日本の公的国債残高は国内総生産(GDP)の2.4倍に達し,先進国の中では最悪の水準にあります。

EUなどは,一方で「異次元の金融緩和」による景気回復の一つのモデルとして,日本の状況を見守っていますが,IMFのブランシャール
調査部長は今月9日,アベノミクスの財政出動や成長戦略がうまく行かない場合,「投資家たちは日本の債務の持続性を懸念し,
より高い金利を要求するようになるリスクがある」と警告しました。

平たく言えば,そんなに借金ばかり増やすと,国債価格の暴落,金利の上昇を招きますよ,といているのです。

さらに言外には,日本の財破綻をひそかに懸念しているのです。

安部政権は,とにかく参議院選で勝利するまでは,景気の回復をほとんど唯一の宣伝材料に使う方針です。

しかし,その裏では,これだけ景気も回復したのだから,来年から消費税を上げることが可能だ,という風潮を作り出そうという狙いが見
えています。なぜなら,この巨額の国債を返すには,消費税の増税しか方法がないからです。(注)

物価高と増税が確実に日本を覆いつつあります。とてもアベノミクスに浮かれている状況にはありません。

老後に備えてせっせと貯金しても,いざ使うときになったら,貨幣価値が大幅に下落している,という悪夢もありえないことではありません。


(注) 数字などについては『毎日新聞』(2013年7月11,12日)を参考にしました。

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“アベノミクス”で日本経済は回復するのか?(3)-土木事業と成長戦略-

2013-02-22 22:27:34 | 経済
“アベノミクス”で日本経済は回復するのか?(3)-土木事業と成長戦略-


前回は「三本の矢」のうち「第一の矢」である「大胆な金融緩和」について書きましたが,今回は「第二の矢」の「機動的な財政政策」と,
「第三の矢」の「成長戦略」について考えてみたいと思います。

まず,「第二の矢」は「機動的な財政政策」ですが,平たく言えば「大規模な公共事業」のことです。

安倍首相は所信表明で,補正予算によって「復興・防災対策」「成長による富の創出」「暮らしの安心」,「地域活性化」を図ると述べています。

現在,国会において2012年度の補正予算委についての論議が行われている最中なので,金額,内容とも確実なことは言えません。

しかし,政府案は,たとえ野党が参議院で否決しても衆議院で可決しているので,このまま実現するでしょう。

政府案によれば,補正予算は10兆円ほどになるようです。政府は,これと2013年度の本予算約92兆円を使って,
「機動的な財政政策」を行おうとしています。

金額の問題はともかく,「機動的な財政政策」,つまり「大規模な公共事業」でデフレを解消し,
経済回復を図るという発想そのものを問題にしてみたいと思います。

これは,民間の需要が少ないときには政府が公共事業を発注して有効需要を作り,景気回復の起爆剤にしようという,
経済学の入門書に出てくる古典的な戦略です。

この背後には,“乗数効果”という考え方があります。理想的な経過をたどった場合の効果を示すと次のようになります。

まず,国や自治体が,道路,橋,港湾,空港,ダム,鉄道,上下水道,防波堤などの公共工事を発注すると,受注した建設業者にお金が入ります。

次に建設会社は資材や部品をメーカーに注文します。ここで建設会社,資材や部品メーカーの収益が増えるので,従業員の雇用と給料が増えます。

さらに従業員は食費や衣料,家電製品,旅行などへの消費を増やし,それぞれの分野のメーカーや小売業の会社が利益を得て,
経済全体が活性化します。

こうした経済の波及効果が全体として国民粗総生産(GDP)をどれだけ押し上げたかを示す数値が「乗数効果」とよばれるものです。

たとえば,この乗数が10%なら,100兆円の投資をすればGDPが10兆円増加することになります。

以上は,公共事業を増やして,景気が回復する最善のシナリオです。

高度経済成長期やバブル期には,次々とお金が回り,乗数効果も大きかったのですが,現在では余り期待できないと考えられています。

というのも,公共事業というのは,名前の通り「公共」の事業であり,道路や橋のような社会経済基盤(インフラ)の整備です。

高度経済成長期には,たとえば道路ができることによる経済効果は大きかったのですが,現在では基本的なインフラは既にかなり整備されているので,
公共事業による経済効果は少なくなっています。

さらに,局地的には雇用も増えるかも知れませんが,全国的には土木工事も機械化が進み,かつてのように雇用が増えることもありません。

企業は,利益が見込めれば従業員の賃金を上げることが期待されますが,実態はそうではないようです。

すでに,岩手県,宮城県,福島県,仙台市では,資材価格の高騰に加えて,人手不足から労働者の人件費が上昇し,
多くの建設会社はその賃金を出せないため,入札の40~50%は不調に終わっています。(『毎日新聞』2013年2月20朝刊)

受注した建設会社,利益を労働者に分配するよりも,内部留保金に回してしまう傾向がからです。

これは建設会社だけでなく,日本の多くの企業が行ってきたことです。

自民党政権がずっと続けてきた公共事業へ支出にもかかわらず,「失われた20年」と言われる不況が続いたのも,この内部留保が主要因のひとつでした。

こうなると,最善のシナリオが示す,お金が循環するという条件が崩れてしまいます。

さらに,たとえ労働者の賃金が多少上がっても,現状ではすぐに消費が伸びる保障はありません。

まず,多くの日本人は老後の生活に不安を抱いており,出来る限り蓄えておこうとする傾向が強いからです。

次に,日本のように成熟期に入っている社会では,家電製品や車などはおおむね揃っていて,どうしても欲しい物は少なくなっているからです。
これは,1970年代から80年代とは大きく違うところです。

実際には,繰り返して書いているように,勤労者の平均賃金は長期低落傾向にあります。

むしろ,新たなインフラを造れば,将来の維持や管理が必要になり,将来,国や自治体に巨額の負債が残ります。

1990年代前半の国債残高は200兆円でしたが,2012年度末で700兆円に膨らみましたが,GDPは20年前と同じ500兆円のままです。

つまり,500兆円の国債を積み増しても,GDPの伸びはゼロだったのです。

自民党は,「国土強靱化法」に基づき,今後10年間で200兆円の公共事業を行うことを決めています。

政権を取ってから,「今までとは違う」と言い続けていますが,何がどう違うのか,説得力のある説明していません。
私には,やっぱり自民党は変わっていないとしか考えられません。

つまり,選挙の票田を確保するために公共事業をでお金をばらまく,というこれまでやっていることと本質的に何も変わっていません。

BNPバリバ証券のチーフエコノミストの川野龍太郎氏によれば,「経済効果は一時的で,政府は民間のように合理的なお金遣いもできない。
将来の借金返済まで考えれば乗数効果はマイナスだ」と述べています。(『東京新聞』2013年2月11日)

安倍氏の経済政策のアドバイザーは,経済担当の内閣官房参与,浜田宏一,エール大学名誉教授(76才)ですが,彼は現在の日本の実情を無視して,
恐ろしく時代遅れの考えを安倍首相に提言し,安倍氏はそれを参考にしているようです。

考えられるシナリオは,莫大な借金(国債)と物価の上昇,福祉予算のカット(すでに始まっています),賃金の長期低落です。

次に「第三の矢」である,成長戦略について考えてみましょう。

「第一の矢」と「第二の矢」は,政府の意志で決定し,実行に移すことができる政策です。そして,過去20年にもわたって実施してきましたが,
うまくゆかなかった政策です。

これに対して成長戦略は,民間企業の戦略や国民の消費が主役になり,政府は間接的にしか影響力を発揮できません。

たとえば,安倍首相は経団連に,賃金を上げるよう申し入れをしましたが,企業側はほとんど応じていません。

安倍首相の所信表明にみられるように,今の政府に総合的な成長への戦略を描くチエはありません。

一応,所信表明では iPS細胞を使った医療を成長産業として位置づけてはいますが,これが国の成長を支える大きな産業になるとは思いません。

安倍首相は,かつての高度成長とバブル期と現在とは,日本経済をめぐる環境が全く違うことに気が付かないようです。

かつては日本製品は世界で競争力を持っていましたが,今や日本で出来ることのほとんどは韓国,中国をはじめ多くの新興国でも,
より安い人件費を利用してより安い価格で生産が可能となりました。その分,日本製品は競争力を失っているのです。

私は,安倍政権下で実施される大胆な金融緩和と「機動的な財政政策」(大規模な公共事業)が,実体経済の成長なきインフレ(物価高)と,
子孫に押し付ける巨額の借金(国債)をもたらす結果に終わるのではないかと危惧しています。

この間に,株の取引で利益を得る人もいるかも知れませんが,大部分の国は株で利益を得るほどの資産をもっていないので,実際には無縁の話です。

むしろ,貨幣価値の下落によって,現在多くの日本人が老後のために蓄えている預貯金が,確実に減少してしまうことだけは確かです。

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“アベノミクス”で日本経済は再生するのか?(2)-金融緩和と円安は何をもたらすのか-

2013-02-18 23:01:34 | 経済
“アベノミクス”で日本経済は再生するのか?(2)-金融緩和と円安は何をもたらすのか-


前回は,“アベノミクス”の経済政策を全般的に見ましたが,今回は,「三本の矢」をもう少しくわしく検討したいと思います。

今回はまず,安倍首相の標的は,「第一の矢」である大胆な金融緩和政策です。

これは,2パーセントの物価上昇が達成されるまで貨幣の供給を増やすこと,言い換えれば,2パーセントのインフレ・ターゲットを
設定します。

そのために,「無期限・無制限の金融緩和」を打ち出すという。これは,世の中に出回るお金を増やすために「いつやめるか」という
期限と,「いくらまで買うのか」の上限なしで,政府が国債(借金の利子付き証文)を発行することを意味します。

国債の大部分は日本の金融機関や保険会社などが買い,一部を個人や外国の投資家が買います。

そして,日銀は必要に応じてそれらの国債を買ってお金を市中に供給することができます。

また,現在では特別な場合を除いて法律で禁じられていますが,政府は日銀がもっと弾力的に直接引き受けられるよう,日銀法を改訂しようと
しています。

日銀が国債を買う場合でも,市中から買う場合でも,必要なお金は輪転機を回して紙幣を無制限に刷ることによって調達します。

これにより,政府は「第二の矢」である大規模な公共事業を行う資金を,無制限に調達できることになります。

政府は,民間にお金が大量に流れれば,デフレから脱却することが期待しています。それは,どういうことでしょうか?

まず,国内的にどんなことが起こるか考えてみましょう。

実際に,国民経済において物とサービスにたいする実際の需要があり,それをまかなうだけの貨幣が十分でない場合には,
実需に見合う紙幣を刷ることには問題ありません。

しかし,国民の間にそれだけの需要も購買力も無いのに(実体経済に何の変化もないのに),ただ貨幣を増やすと,
当然のことですが,貨幣の価値が下がり,物価が上がることになります。

実体経済に何の変化もないのに流通している貨幣を倍にすれば,単純に考えれば,貨幣価値は半分になり,物価は倍になる理屈です。

ただ,政府は,公共事業を大規模に増やして実需を人為的に作り出せば,それが「呼び水」となり,巡りめぐって経済を活性化させる,
と主張しています。

この問題点については「第二の矢」について説明する際に,もう一度検討します。

いずれにしても,貨幣量が大量に市中に出回れば,物価が上昇することは間違いないでしょう。

そうすれば企業の収益も増加し,税収も増えるというわけです。

政府が,市中に大量のお金を流すことのもう一つの狙いは,それによって,企業がお金を銀行から借りて,
設備投資をしたり,新たな事業を起こしやすくするということです。

金融緩和でお金が大量に出回れば,銀行などの貸し出し金利は当然下がり,企業は金融機関からお金を借りやすくなります。

しかし,これまで企業が新たな設備投資をして事業を拡大してこなかったのは,資金不足と借入金利が高かったことが原因ではなく,
むしろ,資金は内部保留金という形で企業にダブついているのが実情です。

企業にとっての問題は,投資して新製品を世に送っても売れる見込みはなく,収益が見込めるような投資先が無いから投資しないのです。

では,なぜ売れないかといえば,国民の間に購買力がないからです。

前にも書きましたが,国民の平均所得は過去,十数年間ずっと下がり続けているのです。

これには,「失われた20年」と言われる長期の不況に加え,小泉政権時代の法改正(改悪!)によって,
非正規雇用が大幅に増加したことが大きな原因となっています。

国債を大量に発行することによって発生する重大な問題が二つあります。

一つは,国債が大量に出回ることによって,国債価格が下落し,今までどおりの金利では国債を買う銀行や個人,あるいは外国の投資家は
いなくなります。

このため,国債を発行する条件として,政府はいままでより高い金利を保障しなければなりません。

国債の金利が上がれば,国債の償還と利払いのために国家予算がそのために使われるため,財政を圧迫します。

現在日本の国債残高は,年間GDPの二倍の1000兆円で,世界でも断然高い異常な水準に達しています。

これからさらに借金を増やすのは,将来の子ども達にさらに大きな負債を押しつけることになります。

「呼び水」として国債の発行によって,政府が真剣に日本経済の基盤を強化する政策を実行するならいいのですが,
どうやらそれは期待できないようです。

元経済産業省官僚の古賀茂明氏は次のように説明しています。

    自民党内部に,「アベノミクス」は参議院選に勝利するためのものと位置づけているフシがあるからだ。
    夏までに農協,医師会,建設業界といった既得権益グループにバラマキを行い,組織票を固めようという動きが垣間見える。
    これでは規制緩和は進まず,とてもではないが,既得権益と闘う成長戦略は実行に移せない。(注1)
  
こうして,大量の国債発行の結果は,現役世代にとっては物価を上昇させ,将来の子供たちに対しては負債を先送りする結果にな
る可能性が大です。

他方,物価の上昇よりも早いテンポで賃金が上がることは現実的には考えられないので,大部分の国民の生活は苦しくなるでしょう。


次に金融緩和がもたらす対外関係への影響を見てみましょう。

金融緩和政策では,大量の貨幣が刷られて市中に出回るので,円の価値を下げ,円安をもたらす要因となります。

日本の安倍政権の姿勢だけが原因ではありませんが,実際に円は昨年の11月ころまで80円前後から,
2013年2月の10日ころには90円台にまで,13%ほど下落しました。

円安になると,日本製品が相対的に安くなるので,自動車などの輸出製品は競争力が増し,
さらに円での受け取り額が増えるという為替差益も加わるので,輸出企業は大きな利益を得ます。

たとえばトヨタ自動車は,1円安くなると数十億円の為替利益を得るといいます。

さらに,輸出企業を中心とした企業業績の好転を期待して,ここ2ヶ月ほど,とりわけ輸出関連企業の株価が上昇していいます。

ただし,今のところ,日本の輸出が増えたという実績はありません。現在は,あくまでも株価と為替差益の上昇という,
金融面での利益だけが強調されて報道されています。

それでは,円安の影響は一般の国民にどんな影響を与えるのでしょうか。

最近の株高で利益を得ている人もいることはたしかですが,株で儲けるほどの資産をもっている人は,個人としてはごくわずかでしかありません。

また,大きな利益を得た企業も,今のところ賃金を上げる予定はないようです。

円安の影響がもっとも端的に表れるのは,輸入価格の上昇です。

2012年末に発表された国債収支統計によれば,経常収支の黒字は前年に比べて50.8%減の4兆7036億円となり,
統計データを比較できる1985年以降で最小の黒字でした。

さらに昨年の12月だけに限って言えば2641億円の貿易赤字で,1985年1月以降初めて2ヶ月連続赤字におちいりました。

しかもこの記事の(1)で書いたように,2013年の1月の10日間だけで1兆700億円の貿易赤字となってしまったのです。

これは,原発を止めているために,石油や天然ガスの輸入が増えたことが主要因です。

このため,北海道などの寒冷地では,冬の暖房に欠かせない灯油価格が上昇しています。

また,全国的にガソリン価格が上昇しています。

おそらく,円安の本当の問題が私たちの生活に大きな影響を与えるのはこれからでしょう。

それは石油や天然ガスだけでなく,あらゆる天然資源,そして何よりも食糧もかなり大きな部分を輸入に頼っているからです。


(注1)http://wpb.shueisha.co.jp/2013/01/17/16561/

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“アベノミクス”で日本経済は再生するのか?(1)-誰が利益を得るのか?

2013-02-15 05:50:45 | 経済
“アベノミクス”で日本経済は再生するのか?(1)-誰が利益を得るのか-

前回の記事「安倍晋三首相の所信演説-語られたことと語られなかったこと-」で,安部晋三首相の所信表明において,
「語ったことと語らなかったこと」について検討しました。

安倍首相の所信表明を要約すると,大胆な金融政策,機動的な財政政策,そして民間投資を喚起する成長戦略,
という「三本の矢」で経済再生を推し進める,というものでした。

「三本の矢」をまとめてマスコミでは“アベノミクス”と表現しています。

これは,以前アメリカのレーガン大統領が実施した経済政策を「レーガノミクス」(文字通りの意味は「レーガン経済学」)
と呼んだことに由来する,いわばマスコミ用語です。

しかしそこに,「安倍経済学」「安倍経済政策」と言えるほどの内容があるとは思えません。

まず,前回の内容の確認も含めて,安倍政権が描く経済再生戦略を要約しておきます。

現状の認識は,国内において需要が少ないため物価は下落し,企業収益が上がらず,従って賃金も上がらない。

賃金が上がらないから,国民の消費(需要)が伸びない。つまりデフレ状態にある。

そこで,政府が消費者として率先して大規模に公共投資(土木事業)をとおしてお金を使えば企業にお金が回る。

企業の収益が増えれば,やがて,働いている人たちの収入も増えて,消費が伸びるから物価も上がる。

これがさらに,企業の売上と利益を伸ばして,経済全体が上向きになる。

これに必要な資金は国債(借金)によってまかない,国債は日銀に引き受けさせる。

一方,輸出依存度が高い日本経済を圧迫しているのは,円高が大きな要因であるから,円高を是正するために,
円を大量に発行し(円の価値を下げ),円安に導く。

これにより,国内経済が活性化すると同時に,低迷する経済も改善に向かう。

以上が,安倍政権が描く,長期にわたるデフレからの脱却シナリオで,インフレ誘導政策です。

安倍首相のシナリオを単純化すると,日本経済の悪循環を,まずは国債の大量発行による公共投資を出発点として,
企業から労働者へとお金がまわり日本経済は再生する,というものです。

しかし,ここにはいくつもの「もし~ならば」という仮定の条件があります。

まず,“アベノミクス”の出発点である,大規模な公共事業が,果たして日本の企業利益全般を本当に押し上げるのか,という点です。

国債の発行によって公共事業を行えば,すくなくとも市中に出回るお金は増え,公共事業にかかわる企業の利益は上がるでしょう。

しかし,過去「失われた20年」で,いくら公共事業を拡大しても日本経済が回復しなかったのです。

これは,利益を得たのは主に建設・土木会社,およびそれらに資材を提供した関連企業だけだったからです。

さらに,もし公共事業によって雇用が増え,労働者の賃金が上昇するという現象が,日本全体で短期間のうちに生じれば,
やがて消費も増え,日本経済は回復に向かうでしょう。

多くの人が指摘しているように,企業は,先行きの不透明感から,賃金の上昇を見合わせるため,
賃金の上昇までには少なくとも2~3年はかかるでしょう。


というのも,利益を得た企業は,それを労働者に配分しないで,企業の内部保留金としてため込んでしまったのです。

実際,日本における名目賃金は,過去20年間,一貫して下がり続けているのです。

公共事業は一時のカンフル剤としては有効な場合もありますが,日本経済全体を押し上げる力にはなり得ません。

次に,円安による貿易への影響をみてみましょう。

円の為替相場は,安倍政権発足以前の1ドル=79円台から,現在では94円まで急落しました。

これのため,輸出企業の収益見込みは大幅に増大しました。ここで気を付けなければならないのは,これは企業の生産性が向上したとか,
新製品の売れ行きが好調になったからではない,という点です。

そうではなくて,輸出代金は米ドルで輸出企業に保有されていますが,これを日本円に戻す際に,
円安ならば円での受取額が20%増える計算になるからです。
 
たとえば1ドルの輸出代金があったとして,以前ならば日本円に戻すと79円しか受け取れなかったのに,
94円も受け取れるようになっただけなのです。

実際,現在,為替利益の増大が見込める自動車メーカーをはじめ主要な輸出企業は,賃金を上げる予定はないと言っています。

円安は企業にも国民一般にも大きなマイナス面をもっています。

一見すると,円安は日本製品の輸出品が相対的に安くなり(現行の為替レートで以前と比べて15~19%),国際競争力が増すような印象を与えます。

たしかに,一部の輸出企業にとっては,有利かも知れませんが,日本全体でみるとそうとばかりは言っていられません。

というのも,天然資源に恵まれない日本は,工業製品の原料とエネルギーの大部分を輸入に頼っているからです。

円安の影響を輸入面から見ると,全ての輸入価格が上昇することを意味します。

たとえば,私たちの生活に直結する石油(ガソリン)価格は最近急上昇しています。

また,現代の日本の農業は,ハウス栽培が大きな比重を占めていますが,ハウス内の温度を上げるために,大量の石油を消費します。

その上,トラクターやコンバインなど大型の農機具は石油で動いています。石油価格の上昇は,農産物価格を押し上げ,家計を圧迫します。

トラックによる物の輸送にもガソリンは不可欠ですし,これは商品価格を上げます。

また,原発の稼働停止により火力発電用の石油と天然ガスの輸入が増えたため,円安の影響で発電コストが上がっています。

これが電気代の値上げとなって工業部門での生産コストを押し上げ,家庭の電気代の負担を上昇させています。

石油はエネルギー源としてだけでなく,繊維やプラスチック,ビニールなどおびただしい種類の石油製品の原料でもある,
ということも忘れてはなりません。

以上,天然資源とエネルギーの大部分を輸入している日本にとって,極端な円安は日本の生産活動に対して大きなマイナス面をもっています。

こうした事情は,貿易収支にはっきりと現れています。

2012年の貿易収支(輸出額から輸入額を引いた額)は年間で6.9兆円でしたが,2013年1月1~10日のわずか10日間で,
なんと1兆709億円の赤字になっているのです。

1月は,暖房のため多量の石油・天然ガスを輸入した,と言う事情を考慮しても,この額を年間に換算すると,恐ろしい数字になります。

今までは,円高のお陰でエネルギーや原材料価格が比較的安く抑えられていた,という面があるのです。

次回は,「三本の矢」の一つ一つをみてゆくことにします。

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政権公約(2)-民主党の経済政策-

2012-12-05 07:10:03 | 経済
政権公約(2)-民主党の経済政策-


民主党は11月27日に,ようやくマニフェストを発表しました。

民主党の経済施策には自民党と似たところも,異なる面もあります。

似ている点は,民主党も金融緩和,デフレ克服(インフレ誘導),経済成長名目3%(実質2%)を目指すことなどを目標と
していることです。

しかし,自民党の場合と同様,金融緩和をどこまで進めるのかは簡単ではありません。

これは金融緩和は劇薬ですから,用法を誤れば,むしろ国民経済を混乱させます。

また,経済成長名目3%も,現在のデフレ経済の中で実現することはかなり困難です。

民主党の経済政策が自民党の政策と大きく異なるのは,民主党は,新たな成長産業として具体的に分野を挙げている点です。

前回にも書いたように,自民党は大胆な金融緩和(紙幣を大量に刷って市中に放出する)と公共事業の拡大以外,具体策は示
していません。

たとえば,「成長戦略の推進」,「ニッポン産業再興プラン」,「国際転換戦略」などは具体的な産業分野も中身には一切触
れていません。

これに対して,民主党は具体的に3つの成長産業分野を挙げています。

一つは,「グリーンエネルギー革命」のために新エネルギー産業(環境・エネルー分野)です。

この産業分野で,国内的だけでなく,海外市場の需要をも取り込むことを目指している,と記されています。

たとえば,太陽エネルギー,風力,小水力,それらによって作られた電気を貯める高性能蓄電池の開発は確かに成長産業になる
可能性をもっています。

現在,脱原発,卒原発の機運が高まっていることを考えると,この分野の研究・開発は経済の根幹に関わる重要産業であること
は間違いありません。

二つは,医療・介護分野の研究体制を強化し,成長産業に育成することです。

この分野では,再生医療,特にiPS 細胞などの研究に集中的な支援を行うとしています。

これは,中山教授のノーベル賞にあやかった感じがしないでもありません。

しかし,これを別にしても,医療・介護技術の研究は,日本の高い技術力を考えれば,十分成長産業として期待できるでしょう。

さらに,介護の分野では,もっと多くの雇用が生まれる可能性があります。

三つは,農林業を6次産業へ転換し,2015年度までに3兆円産業に育成することです。

この分野に関しては,突然,数値目標が掲げられています。

あと3年で,農林業を6次産業に成長させることは簡単ではありません。

しかし,私個人としては,農業の再生こそが,日本の将来にとって,死活の問題になると考えています。

なぜなら,日本は一方で,広大な面積の耕作放棄農地を抱えているのに,食糧の6割以上を輸入に頼っているからです。

日本は,鉱物資源こそ少ないものの,日照,気温,水という農業に必要な3要素を全て備えている,先進国としては希な農業
資源大国なのです。

以上の3分野はこれまでの民主党,あるいはその他の政党が正面から取り上げてこなかった分野で,これからの成長産業とし
て大いに期待されます。

ただ,グリーンエネルギー革命も,医療・介護も,その技術開発には成果がでるまでには多額の研究開発費と時間がかかります。

さらに,成果が出ないかもしれないという大きなリスクが伴います。

とりわけ農林業の活性化には,たんに生産性や国際競争力の問題だけでなく,農業従事者の絶対的な減少と高齢化という,
人的な要素が関わっています。

なお,特定の産業分野ではありませんが,中小企業の支援も掲げています。

この点で,どちらかとえば大企業中心である自民党とは異なります。

以上見たように,民主党のマニフェストに現れた経済政策は,自民党の政権公約より具体的で,納得できる内容を含んでいます。

もし,このような政策をもっていたのなら,なぜ,今まで推進してこなかったのか,その点が疑問です。

民主党は,自民党や日本維新の会と同様,日本を貿易立国と考え,TPPへの交渉参加を表明しています。

しかし,日本経済にとって貿易だけでなく国内経済を活性化することも重要です。

現在の円高・デフレは不況の原因であると同時に,あるいはむしろ,結果でもあります。

まず,円高は日本の事情というより欧米の金融不安が原因です。

デフレは需要の低迷から物が売れない状態です。

この問題につては,前回,自民党の政権公約と同じことがいえます。

つまり,国民の所得が低く抑えられているため,購買力が減少しているのです。

企業は利益を確保するため,あるいは輸出企業は国際競争に勝つため,賃金をずっと低く抑えています。

このことが,巡りめぐって国内市場を狭くしているのです。

いわば,自分で自分の首を絞めている面があります。
日本維新の会が,最低賃金制度を廃止し,さらなる低賃金を誘導しようとしています。

これは,企業にとっては短期的な利益をもたらすかも知れません。

しかし,長期的には国内景気を一層低下させ,経済を破綻させる可能性さえあります。

以上,総合的に考えて,民主党の経済政策の方向は間違ってはいないように見えます。

しかし,消費税増税は,せっかく国内経済を活性化させる諸政策の良さを帳消しにしてしまう要素ももっています。

現在の日本経済の低迷は根が深く,一発逆転という博打的な政策では回復しません。

金融緩和で無理に引き上げようとすれば,かえって不況の値を深めることになりかねません。

むしろ,地道に内需を拡大することから始めるほうが,結局は近道なのです。

そのためには,雇用の安定と賃金の上昇が是非必要です。

これらは企業の利益を損なうことのように見えますが,国民の所得が増えれば,これは巡りめぐって,消費が増え
企業業績の向上につながります。

これは企業にとって容易なことではないかも知れませんが,雇用不安と低賃金によって景気が回復することはあり
得ません。

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政党の政権公約(1)-自民党の経済政策-

2012-12-01 22:08:34 | 経済
政党の政権公約(1)-自民党の経済政策-


各政党の選挙公約が発表されました。

今回から何回かに分けて,各政党の選挙公約をみてゆきますが,とうてい全ての分野を扱うことはできません。

そこで,国民の関心が最も高い経済政策を中心に考えてゆきたいと思います。

第一回目は,もうすっかり政権をとったかのようにはしゃいでいる自民党についてです。

ただ,経済政策といっても,たとえば原発・エネルギー問題は日本経済に非常に大きな影響を与えますが,

これは別個に原発についての評価を書きたいと思います。

自民党の経済政策の柱は,金融緩和(市中にお金を大量に流すこと)と財政政策です。

これらを通じて,1)明確なインフレ目標2%を設定,2)名目3%の経済成長を達成,そして3)円高の是正のを図る
ことです。

このため,新政権発足後,速やかに第一弾緊急経済対策を断行し,本格的な大型補正予算と,

新年度予算を合わせて切れ目のない経済対策を実行する,としています。

これには少し補足説明が必要です。

まず,現在の日本経済はデフレ不況で物が売れず物価が低下傾向にあり,他方円高のため輸出が伸び悩んでいるという認識
から出発します。

これでは企業の利益は上がらないので,市中に金を潤沢に流すことによって個人の消費と企業の投資を増やし,

2%程度のインフレ(物価上昇)を起こさせる。

こうした一連の政策を矢継ぎ早に,かつ切れ目なく実行することによって,名目3%の経済成長を達成する。

阿部氏は,民主党はできないことをマニフェストに掲げたために政治への信頼を失わせたが,自民党は「できることしか公約
しない」と大見得を切っています。

それでは,自民党の政権公約をもう少し詳しく見てみましょう。

まず,デフレを克服しインフレを誘導するためには,個人と企業が十分な購買力と投資資金を持つ必要があります。

それでは,そのお金はどこから調達するのでしょうか。

政権公約では「大胆な金融緩和」による,としています。

具体的には,建設国債を大量(必要な限り無制限)に発行し,外債ファンドを創設して,外債を購入することです。

しかし,金額的には,外債購入より建設国債の方が圧倒的に大きくなるでしょう。

安部氏は当初,建設国債を全て日銀に直接買い取らせると言っていました。

これは垂れ流し的に日銀が札を刷ることを意味し,「禁じ手」とされています。

党の内外から激しい批判を受けて,直接の買い取りではなく,政権公約では「買いオペ」(日銀が市場を通じて株などの
有価証券を買うこと)

を通じて,と修正しています。

こうして調達した資金を何に使うかといえば,大型の公共投資(道路や橋,その他の「箱物」などの土木事業)に向けら
れます。

建設国債とはいえ結局は国の借金で,いずれ国民が何らかの方法で払うことになります。

こうしてみると,自民党の経済政策の根幹は,過去60年間,まったく変わらず,土木事業を全国で展開することです。

阿部氏が,建設国債を無制限に発行し,それを日銀に買い取らせる,と述べた直後,

株価はあがり,円の為替レートは1~2円ほど円安に振れました。

安部氏は,得意満面に,私の方針が正しかったと述べました。

現在の不況の一因として,円高のための輸出不振が挙げられます。

確かに,円安は輸出業者にとっては歓迎でしょう。


以上は,自民党の政権公約とこれまでの経過です。

それでは,今回の政権公約を実行すると,本当に「できることしか」公約しないという言葉通りになるのでしょうか。

その前に,自民党が主張する大量の建設国債の背景について少し説明しておきます。

自公民の三党が消費税の値上げを合意した際,自民党は野田首相に,合意の条件としてある要求を飲ませました。

それは,国土を災害に強くするための「国土強靱化法案」を受け入れることです。

当時,自民党は10年間で200兆円の公共事業を実施すると公言していました。

また,財界人を集めたパーティーで,ある自民党の幹部は,今回,公共事業の拡大が法律として通ったことを自慢げに報告
していました。

この法律が通ったため,事実上,全ての土木事業は「国土強靱化」事業として公共事業として認められることになるでしょう。

ついでに言えば,公明党も,災害に強い国土をつくるため100兆円の公共投資を行うことを発表しています。

建設国債を事実上無制限に発行すれば,現在でも940兆円という天文学的な国の借金が,さらに膨らむことは確実です。

すると,その元利払いのために国家予算からかなりの額を割かなければなりません。


ところで,巨額の建設国債の発行により大規模な公共事業をすれば,本当に景気は浮揚するのでしょうか。

前回のブログ記事にも書いたように,「失われた20年」の間,ずっと公共事業を「切れ目なく」行ってきましたが,
一行に景気は良くならなかったのです。

というのも,公共事業で潤うのは,一部のゼネコンだけだからです。

さらに,現在のデフレ不況のうち,国内の消費が伸びないのは,多くの日本人はすでに必要な「物」はもっていて,
新たに買う必要がないからです。

つまり,日本の国内市場は飽和状態にあるのです。

さらに深刻な問題は,国民の所得が長期減少傾向にあることです。

サラリーマンの平均年収は,平成13年の454万円から平成23年までの10年間に409万円へと激減しているのです。

購買力そのものが弱っているのです。

これには,前回も書いたように,雇用の不安定化や非正規雇用の拡大が背景にあります。

国内市場の活性化があまり期待できないとすると,輸出の拡大を目指すことになります。

円高は,確かに輸出価格を引き上げるので,日本からの輸出を不利にします。

さらに,輸出企業にとっては,輸出額を円で受け取る際に,手取りが少なくなるので打撃です。

これが,さらに輸出企業で働く労働者の賃金を押し下げることになります。

ただし,現在の輸出不振は,円高が主要因とは考えられません。

これには,ヨーロッパの金融不安,これまでの主要な輸出先だった中国経済の停滞,日本の製品(特に工業製品)が,

そもそも国際競争力を失っていることなど,複数の要因が関係しています。

もう一つ,金融緩和では景気の浮揚が望めない理由があります。

現在,日本の銀行にはお金がだぶついています。だからこそ,金利が限りなくゼロに近いのです。

問題は,一般の国民に広く回っていないことなのです。

このような状況で,さらにお金を市中に流しても,


自民党の政権公約には成長産業の育成が謳われていますが,これは,ずっと言われてきたことであり,

なかなか決定的な産業が生まれていないので実情です。

いずれにしても,財政・金融政策に依存した経済政策には限界があります。

エコノミストの間では,経済成長の3%はおろか,せいぜい1%程度が限界という厳しい見方があります。

さらに,国債の発行で市中に大量のお金がばらまかれた場合,大きな危険も考えられます。

まず,ハイパーインフレと呼ばれる急激かつ激しいインフレで,物価が急激に上昇してしまう危険性があります。

価格の上昇は,土地や株などを持つ資産家にとっては喜ばしいことです。

しかし,多くの国民にとっては,それにともなう賃金や収入の上昇がなければ,物価の上昇で生活は一層苦しくなります。

もし,公約通り札を大量に刷ってインフレを起こせば,貧富の格差はさらに拡大するでしょう。

国債の大量発行は劇薬なのです。

ハイパーインフレを避け,かつ適正なインフレを達成・維持するのは至難の業です。

安部氏は,ある大学の経済学者のアドバイスを受けているようです。

しかし,安部氏自身がどれほど経済についての深い理解があるかどうかは分かりません。

いずいれにしても,財政・金融政策頼みの経済政策では,景気の回復は望めません。

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「失われた20年」の正体-経済学はなぜ不況への処方箋を書けないのか?-

2012-11-27 22:49:01 | 経済
「失われた20年」の正体-経済学はなぜ不況への有効な処方箋を書けないのか?-


最近の世論調査によれば,今度の選挙で最も関心があるのは,景気回復でした。

それほどまでに,現在の日本経済は疲弊し,国民の生活は苦しさを増しています。

日本には数千人もの経済学者がいるのに,なぜ有効な処方箋が書けないのか,疑問に感じる人が多いのではないでしょうか。

一般に経済学は,経済の仕組みを理論的に解き明かす学問であると理解されています。

これ自体は間違いないのでですが,経済学と経済政策の立案や運営とは別なのです。

実を言えば,私も経済学を勉強するために学部も大学院も経済学部に所属していました。

しかし,現実の経済の前に経済学がほとんど有効性をもたないことにショックを受けました。

現在,私の関心が歴史研究に移ったのも,こんな経緯があったからです。

もちろん,経済「学」の主な目的は,経済現象を理論的・体系的に説明することです。

したがって,実際に起こったことを,後から解説するのは得意ですが,困難に陥った経済を立て直すことは得意ではありません。

むしろ,ほとんどの経済学者は,そんな実用的な面には関心さえないでしょう。

それでは,経済学という学問分野は意味がないのか,といえばそうではありません。

実際の社会では日々経済行為が行われており,少なくともその主要な部分に対する筋道の通った説明は必要です。

それにしても,政府には多くの経済学者が協力しているはずなのに,不況から脱却できないのはなぜでしょうか。

それは,ある意味で当然なことです。なぜなら,実態経済は理論とは別の要因で動いているからです

現実の経済はあまりにも多くの要因が関係しているので,経済理論はそれら全てを取り込むことは不可能なのです。

したがって,ある程度,現状分析と過去の経済現象の説明はできても有効な政策立案はできないのです。

ところで,日本経済は過去20年間,デフレと不況でずっと下降線をたどっています。

このため,この20年間はしばしば「失われた20年」と呼ばれています。

この20年間のほとんどは自民党(単独ないしは公明党の連立)が政権を担当してきました。

この間に経済政策を立案,実行していたのは内閣と財務省の官僚たちです。

しかし,これらの人たちは,経済学を学んできたわけではありません。

ここで,「経済学を学んだ」というのは,少なくとも大学院レベルで研究をしてきた,という意味です。

政治家やエリート官僚は特に経済学と経済理論を熟知しているわけではありません。

実際,財務省(旧大蔵省)のエリート官僚は伝統的に,東大を中心とした法学部出身者で占められてきました。

では,「失われた20年」に自民党政府は何をしてきたのでしょうか。

自民党の基本政策は,公共事業(実態は土木事業や,いわゆる「箱物」建設)にお金を使い,それによって景気を浮揚させる
ことでした。

それにより,一部の土建業者にはお金は回ったかも知れませんが,日本経済が浮揚することはありませんでした。

経済学理論の中では,ケインズ経済学は景気の調整にたいしてある程度有効だとされています。

ケインズ経済学では,物が売れずデフレとなっているのは有効需要(実際にお金を使って財はサービスを買う能力)が足りない
からだということになります。

そこで,有効需要の足りない分(需給ギャップ)を,政府の公共事業などで埋めてあげれば,景気は回復するはずだ,という
ことになります。

しかし,過去20年間,巨額の公共投資をしたのに景気の回復をもたらしませんでした。

それは当然で,公共事業にはしばしば,政治家が選挙地盤の地元に工事をもってきて,それによって選挙の時の支持を確保する,
という思惑が働いているからです。

つまり,税金を使って,自らの票を買ってきた,というのが実情です。

加えて,公共事業をとおして利権の拡大を狙う官僚の思惑もあります。

ここには経済合理性も,日本経済の浮揚もまったく関係ありません。

公共事業の効果は,ごく一部のゼネコンが一時,潤っただけで,国民にとっては,膨大な借金だけが残りました。

現時点で,国民の借金となる国債は709兆円,日本人一人当たり556万円,です。

これに地方債を加えると,940兆円,一人当たり734万円の借金が残っています。

この借金の利払いだけでも巨額にのぼります。

それでは,この「失われた20年」の正体はなんだったのでしょうか?

出発点は1991年のバブル崩壊でした。

それまでのバブル期には,日本人は土地,株,ゴルフ場会員券の売買に血道を上げていました。

これらは,将来の産業の種になることに全く貢献しない虚構の商品でした。

当時,アメリカは不景気のどん底にいましたが,それでもコンピュータのハード,ソフト,

そして全米にコンピュータ・ネットワークを張り巡らすという,大事業に取り組んでいました。

バブルが崩壊した時,日本には何も残りませんでしたが,アメリカはIT産業で遙かに先を走っていました。

信じられないことですが,今でも日本はコンピュータの心臓部(CPU)をつくる事も,基本プログラム(OS)を作る
こともできません。

バブルはいずれ弾けることは分かっていながら,政府は何の手も打ちませんでした。

バブルが弾けた後,政府は景気回復のため,従来通り毎年公共事業に税金をつぎ込んできました。

この結果が上に挙げた,巨額の借金になって,現在の財政破綻と国民の負担としてのしかかっているのです。

次は,小泉政権時代の「新自由主義」あるいは「市場原理主義」政策です。

これは,経済活動の規制をゆるめる代わりに,失敗や倒産は自己責任という考え方です。

この一貫として,非正規雇用の対象を,非熟練労働にも広げ,事実上,あらゆる分野で非正規雇用が可能となりました。

企業は正規雇用を減らし,契約社員などの非正規雇用を増やし,さらに賃金水準を下げました。

このことがさらに,国内の授業を減らし,不況を長引かせているのです。

現在のデフレ不況のもう一つの大きな要因は,2008年の「リーマンショック」を引き金とする,世界同時金融不安と同時
不況でした。

これは。今日のユーロ危機にも引き継がれ,世界経済を混乱させています。

このため,比較的安定している日本の円が買い進まれ,日本経済はデフレ不況と円高による輸出不振の二重苦に悩まされ
ています。

しかし,これは,外部要因なので,日本ができることには限界があります。

こうした全てのことを考量して,現在,各政党が選挙で訴えようとしていることを,これから何回かに分けて書いてゆこう
と思います。

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