大木昌の雑記帳

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“アベノミクス”で日本経済は再生するのか?(1)-誰が利益を得るのか?

2013-02-15 05:50:45 | 経済
“アベノミクス”で日本経済は再生するのか?(1)-誰が利益を得るのか-

前回の記事「安倍晋三首相の所信演説-語られたことと語られなかったこと-」で,安部晋三首相の所信表明において,
「語ったことと語らなかったこと」について検討しました。

安倍首相の所信表明を要約すると,大胆な金融政策,機動的な財政政策,そして民間投資を喚起する成長戦略,
という「三本の矢」で経済再生を推し進める,というものでした。

「三本の矢」をまとめてマスコミでは“アベノミクス”と表現しています。

これは,以前アメリカのレーガン大統領が実施した経済政策を「レーガノミクス」(文字通りの意味は「レーガン経済学」)
と呼んだことに由来する,いわばマスコミ用語です。

しかしそこに,「安倍経済学」「安倍経済政策」と言えるほどの内容があるとは思えません。

まず,前回の内容の確認も含めて,安倍政権が描く経済再生戦略を要約しておきます。

現状の認識は,国内において需要が少ないため物価は下落し,企業収益が上がらず,従って賃金も上がらない。

賃金が上がらないから,国民の消費(需要)が伸びない。つまりデフレ状態にある。

そこで,政府が消費者として率先して大規模に公共投資(土木事業)をとおしてお金を使えば企業にお金が回る。

企業の収益が増えれば,やがて,働いている人たちの収入も増えて,消費が伸びるから物価も上がる。

これがさらに,企業の売上と利益を伸ばして,経済全体が上向きになる。

これに必要な資金は国債(借金)によってまかない,国債は日銀に引き受けさせる。

一方,輸出依存度が高い日本経済を圧迫しているのは,円高が大きな要因であるから,円高を是正するために,
円を大量に発行し(円の価値を下げ),円安に導く。

これにより,国内経済が活性化すると同時に,低迷する経済も改善に向かう。

以上が,安倍政権が描く,長期にわたるデフレからの脱却シナリオで,インフレ誘導政策です。

安倍首相のシナリオを単純化すると,日本経済の悪循環を,まずは国債の大量発行による公共投資を出発点として,
企業から労働者へとお金がまわり日本経済は再生する,というものです。

しかし,ここにはいくつもの「もし~ならば」という仮定の条件があります。

まず,“アベノミクス”の出発点である,大規模な公共事業が,果たして日本の企業利益全般を本当に押し上げるのか,という点です。

国債の発行によって公共事業を行えば,すくなくとも市中に出回るお金は増え,公共事業にかかわる企業の利益は上がるでしょう。

しかし,過去「失われた20年」で,いくら公共事業を拡大しても日本経済が回復しなかったのです。

これは,利益を得たのは主に建設・土木会社,およびそれらに資材を提供した関連企業だけだったからです。

さらに,もし公共事業によって雇用が増え,労働者の賃金が上昇するという現象が,日本全体で短期間のうちに生じれば,
やがて消費も増え,日本経済は回復に向かうでしょう。

多くの人が指摘しているように,企業は,先行きの不透明感から,賃金の上昇を見合わせるため,
賃金の上昇までには少なくとも2~3年はかかるでしょう。


というのも,利益を得た企業は,それを労働者に配分しないで,企業の内部保留金としてため込んでしまったのです。

実際,日本における名目賃金は,過去20年間,一貫して下がり続けているのです。

公共事業は一時のカンフル剤としては有効な場合もありますが,日本経済全体を押し上げる力にはなり得ません。

次に,円安による貿易への影響をみてみましょう。

円の為替相場は,安倍政権発足以前の1ドル=79円台から,現在では94円まで急落しました。

これのため,輸出企業の収益見込みは大幅に増大しました。ここで気を付けなければならないのは,これは企業の生産性が向上したとか,
新製品の売れ行きが好調になったからではない,という点です。

そうではなくて,輸出代金は米ドルで輸出企業に保有されていますが,これを日本円に戻す際に,
円安ならば円での受取額が20%増える計算になるからです。
 
たとえば1ドルの輸出代金があったとして,以前ならば日本円に戻すと79円しか受け取れなかったのに,
94円も受け取れるようになっただけなのです。

実際,現在,為替利益の増大が見込める自動車メーカーをはじめ主要な輸出企業は,賃金を上げる予定はないと言っています。

円安は企業にも国民一般にも大きなマイナス面をもっています。

一見すると,円安は日本製品の輸出品が相対的に安くなり(現行の為替レートで以前と比べて15~19%),国際競争力が増すような印象を与えます。

たしかに,一部の輸出企業にとっては,有利かも知れませんが,日本全体でみるとそうとばかりは言っていられません。

というのも,天然資源に恵まれない日本は,工業製品の原料とエネルギーの大部分を輸入に頼っているからです。

円安の影響を輸入面から見ると,全ての輸入価格が上昇することを意味します。

たとえば,私たちの生活に直結する石油(ガソリン)価格は最近急上昇しています。

また,現代の日本の農業は,ハウス栽培が大きな比重を占めていますが,ハウス内の温度を上げるために,大量の石油を消費します。

その上,トラクターやコンバインなど大型の農機具は石油で動いています。石油価格の上昇は,農産物価格を押し上げ,家計を圧迫します。

トラックによる物の輸送にもガソリンは不可欠ですし,これは商品価格を上げます。

また,原発の稼働停止により火力発電用の石油と天然ガスの輸入が増えたため,円安の影響で発電コストが上がっています。

これが電気代の値上げとなって工業部門での生産コストを押し上げ,家庭の電気代の負担を上昇させています。

石油はエネルギー源としてだけでなく,繊維やプラスチック,ビニールなどおびただしい種類の石油製品の原料でもある,
ということも忘れてはなりません。

以上,天然資源とエネルギーの大部分を輸入している日本にとって,極端な円安は日本の生産活動に対して大きなマイナス面をもっています。

こうした事情は,貿易収支にはっきりと現れています。

2012年の貿易収支(輸出額から輸入額を引いた額)は年間で6.9兆円でしたが,2013年1月1~10日のわずか10日間で,
なんと1兆709億円の赤字になっているのです。

1月は,暖房のため多量の石油・天然ガスを輸入した,と言う事情を考慮しても,この額を年間に換算すると,恐ろしい数字になります。

今までは,円高のお陰でエネルギーや原材料価格が比較的安く抑えられていた,という面があるのです。

次回は,「三本の矢」の一つ一つをみてゆくことにします。
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