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大木昌の雑記帳

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新型コロナウイルス禍の意味論―「コロナと共に」とは?―

2021-01-18 13:23:29 | 健康・医療
新型コロナウイルス禍の意味論―「コロナと共に」とは?―

現在の新型コロナウイルス禍に関して、ずっと一つの疑問をもってきました。

それは、なぜ、今、世界中で新型コロナウイルスの感染者と死者が日々増え続けるコロナ禍
が発生しているのか、という疑問です。

もちろん、今回の新型コロナウイルスは、未知の新型ウイルスであるといえばそれまでです。

つまり、サーズやマーズのようにすぐに症状がでたり、エボラ出血熱のように感染者を直ち
に重症化させたり死に至らしめるタイプのウイルスならば、発症した患者とその周辺の人び
とを隔離してしまえば、比較的簡単に抑え込むことができます。

しかし新型コロナの場合、感染したばかりの数日は発症せず、したがって本人も周囲も無症
状のままで歩きまわり人と接触することで、ウイルスをまき散らしてしまいます。

そして、このウイルスの死亡率はそれほど高くはありません。このため、ヒトは少しみくび
って警戒心をゆるめてしまいます。

こうして時間を稼いでいる間に、ウイルスは、思う存分子孫を拡散することができることに
なります。

この意味で、新型ウイルスはヒトにとって、非常に皮肉で意地悪な性格の持ち主です。

ところで、武漢で大規模な新型コロナウイルスの大規模な発症が生じて1年経ちました。

この間、医者や科学者は総力を挙げてその正体を解明してきました。その結果、今では変異
したタイプも含めて、この新型ウイルスの遺伝子構造は完全ではないにしても、かなり解明
されつつあります。

しかし、問題は、正体は分かったが、ではコロナに感染した場合、どのように治療すればよ
いのか、その方法は今のところ見つかっていないことです。

すでにワクチンもいくつか開発され、緊急避難的に接種が始められていますが、その有効性
も安全性も十分に検証されていません。

もう一つの頼みは、治療薬です。今のところ有効かも知れないという程度の治療薬の候補は
いくつかありますが、まだ特効薬と言える決定打は出ていません。

そこで、「コロナと共に」あるいは「コロナとの共生・共存」(with corona)といった言葉が
時々メディアなどで見られます。

こういった言葉は、コロナウイルスは簡単に消滅することはないから、コロナとの共存を覚
悟しなければならない、という意味で使われる場合が多いと思います。

あるいは、「自然との共存」と同じ文脈で「コロナとの共存」という表現を使っているのか
もしれません。

コロナも人間も「自然」の一部ですから、「コロナとの共存」は間違いではないでしょう。

しかも、ウイルスという生物は、人類が登場するはるか昔からこの地球上に存在している、
いわば人類の大先輩、それに比べると人類は新参者です。

コロナウイルスに限らず、そもそもウイルスという生物がこの地球上に存在し続けていると
いうことは、そこで何らかの役割を果たしているからに違いありません。

たとえば、人間との関係でいえば、母体の中の胎児は父親の遺伝形質を半分もっており、母
親の免疫システム(リンパ球)はそれを“異物”と認識して攻撃してしまいます。そこで、こ
のリンパ球が胎児の血管に入り込むのを防いでいるのがウイルスでることが分かっています。

この他にも、このような例は無数にあるでしょう。もし、ウイルスが他の生物を攻撃し傷つ
けるだけなら、今日のように、無数の種類のウイルスは存在できないでしょう。

ここで、新型コロナウイルスを例に、ウイルスの立場に立って、彼らがどのようにして生き
残り、場合によっては増殖してきたのかを考えてみましょう。

まず、新型コロナウイルスも、生物として一定の環境の中で生存しています。この際、ウイ
ルスは、その生存を脅かす幾つもの“敵”との生存競争に勝たなければなりません。

その“敵”の一つは、同類のウイルスです。

コロナウイルスにはサーズ、マーズ、インフルエンザなどいくつかの種類があり、それらの
間での生存競争があります。今年はインフルエンザが例年の0.3%しか発生していません。こ
れは、新型コロナウイルスとの“闘い”でインフルエンザのウイルスが抑えられたからだと考
えられています。

さらに、新型コロナウイルスも、時間が経つにしたがって次々と変異してゆきます。しかし、
その中でも、環境に最も適応したタイプの変異種のウイルスだけが生存競争の“勝者”となっ
て、他のウイルスを駆逐してゆき、その時、その場所における支配的なウイルスとなってゆ
きます。

この「環境」の中には気温、湿度などの自然条件だけでなく、後に述べるように感染相手の
ヒトの免疫、医療(ウイルスに対する攻撃)、社会状況などあらゆる外部条件が含まれます。

以上を念頭に置いて、「コロナとの共存」という言葉の意味内容をもう一度考えてみたいと
思います。

ここまで見てきたように、ある生物が生き残るには、食うか食われるかの熾烈な自然界の闘
争に打ち勝たなければなりません。

今回の新型コロナウイルスも、一方でウイルス同士の戦いのほか、ヒトとの闘いにも勝たな
ければなりません。

ウイルスは自己増殖できないので、さまざまな障害を乗り越えてなんとかうまくヒトの体内
(細胞内)に入り込み、子孫の増殖を図らなければなりません。

まず、ウイルスがヒトの体内に入ると、免疫システムをすり抜けるために、細胞の入り口と
なる突起と自らの突起(いずれもタンパク質)を合わせてまんまと細胞内に入り込んでしま
います。

一旦、ヒトの細胞内に入り込むと、直ちに暴れまわるのではなく、しばらく無症状の状態を
続けるので、その間にヒトは感染に気が付かず動き回っている間に増殖します。

宿主となったヒトをすぐに死なせてしまうのは、そこで増殖が止まってしまうという意味で、
ウイルスの増殖戦略としては“失敗”なのです。

私は、かつて感染症の問題に関わっていたとき、エイズの専門家が、エイズ・ウイルスはヒ
トに感染してもすぐに殺さず、できる限り多くの人にウイルスを増殖させるという、とても
ずる賢い戦略で子孫を増やしている、と言った言葉を思い出します。

今回の新型コロナウイルスの場合、感染したヒトの多くは死なないまでも、さまざまな症状
に苦しめられます。その中で、体力や免疫力が弱まっている高齢者や基礎疾患を持っている
人が亡くなってしまいます。

今回の新型コロナウイルスの場合、まだ未知の部分があり、これまで人間はこれとの闘いで
絶対に打ち勝つ武器や方法を見出していません。

これからは、人間がワクチンとい武器を使ってウイルス退治に乗り出し始めているので、こ
れからがヒトとウイルスとの、もう一段階進んだ命を懸けた闘争となります。

その闘いがどれほどの期間続き、その結末がどうなるかは全く分かりません。ただ、結末の
一つの形は「共生」です。

たとえば、私たちの腸の中には無数の腸内細菌、たとえば大腸菌、がいます。今でこそ、こ
れらの細菌はヒトの体の一つのパーツとして、ヒトの生体を維持する上で一定の役割を果た
すようになっています。

しかし、ここに至るまでは、やはりヒトと大腸菌との間で食うか食われるかの闘争の歴史が
あって、長い時間をかけて徐々に妥協点を見つけ、お互いに殺すことなく共存する、共生関
係に落ち着いたのではないかと思われます。

私は「コロナとの共存」というのは、それほど簡単ではないと覚悟しています。

さて新型コロナウイルス禍の意味論という意味では、「なぜ、今?」という問いも重要です。

先ほど、ウイルスは生き残りをかけて、可能なら最大限の子孫繁栄のために与えられた環境
の中で最善の適応をする、と書きました。

その環境の中で、人間の側の変化も重要な要素です。たとえば、グローバリズムの中で人の
移動が地球規模で激しくなっていること、人口の増加、貧富の格差拡大、温暖化に表れる自
然環境の悪化、精神的な状況(特にストレス増加)、心臓病・糖尿病・脳・血管疾患・高血
圧など基礎疾患の増加、人間関係の変化、さらにヒトの基礎的な免疫力や抵抗力の変化(特
に低下)、などなど、さまざまな要因が関与しています。

現在、世界を覆っている暗い影、新型コロナウイルス禍の意味論を総合的に解読しようとす
るなら、これら人間社会のあらゆる場面を考える必要があるでしょう。

政府は、”人類がコロナに打ち勝った証として」オリンピックを何が何でも開催する勢いで、
無観客の競技も想定しているといいます。

しかし、もしコロナが消えていない場合には、”人類がコロナに敗北した証として無観客で
行う”、というブラック。ユーモアになってしまいます。


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戸部良一ほか著『失敗の本質―日本軍の組織論的研究―』から学ぶ(2)―政府のコロナ対策はなぜ失敗したのか―

2021-01-02 21:12:12 | 健康・医療
戸部良一ほか著『失敗の本質―日本軍の組織論的研究―』から学ぶ(2)
政府のコロナ対策はなぜ失敗したのか―

明けましておめでとうございます。

昨年はコロナで明け、コロナで終わった1年でした。今年は、このうっとうしい気分が晴
れることを皆様と共に祈ります。

昨年の12月には、ずっとコロン禍のことを書いてきて、もう、この暗いテーマは止めた
いと思いながらも、日に日に深刻化する事態を目の前にして、やはり今回もこの問題から
目を背けることはできないので、『失敗の本質』(2)を書くことにしました。

その前に、現状を確認しておきます。2020年12月31日時点で、新型コロナ陽性確
認者は23万8999人、重症者は716人、死亡4541人、退院19万3714人で
す(いずれも累計)。

日本におけるコロナウイルの発生源である東京都では、12月31日時点の陽性者はつい
に1377人と、これまでの最多を記録しています。これには、さすがに国民も東京都民
も衝撃を受けました。

日本医師会と東京医師会の会長が、年末には強い危機感を表明したことも当然でした。と
いうのも、現場ではすでに「医療崩壊寸前」ではなく、事実上「医療崩壊」が起きている
からです。

この事態は誰が見ても、安倍政権と、9月にそれを引き継いだ菅政権のコロナ対策の失敗
に他なりません。

前回の記事で旧日本軍の問題点について、著者たちの区分に従って、1.戦略的失敗要因
と、2.組織上の失敗要因に分けて整理しておきました。

今回は、これらの多数に及ぶ旧日本軍の失敗の要因と、具体的な戦闘作戦を念頭に置きつ
つ、安倍=菅政権のコロナ対策がなぜ失敗したのかを検証してみたいと思います。

『失敗の本質』の著作の中で、著者たちが指摘した戦略的問題一つは、短期決戦・奇襲作
戦が中心で長期的戦略を持っていなかったことです。

ハワイの真珠湾攻撃で日本軍は成功をおさめ、米軍の艦船に多大な損害を与えました。

この緒戦における成功体験により日本軍には、科学的・合理的な分析をすることなく慢心
と、戦う相手の能力を過小評価する楽観論を抱くようになりました。

その一方で、もし、相手(米国)が本格的に反撃出て、長期戦になった場合、日本はどう
対応するのかの長期戦略はありませんでした。

では、昨年の日本のコロナ対策はどうであったかを見てみましょう。

2020年1月、日本でクルーズ船「ダイアモンド・プリンセス号」において、中国の武
漢発とみられる新型ウイルスの集団感染が発生しました。しかし、船という隔離された空
間での発生ということで、一般社会からの隔離がしやすかった、という状況に助けられて、
3月初めに一応の収束をみました。

しかし、この時、本当は新型コロナに対する長期的な戦略を立てておくべきでしたが、そ
の後、今日に至るまで、政府は長期的な戦略をもっていません。

これはコロナとの戦いにおける端緒、いわば“真珠湾攻撃”の成功にたとえられるます。

しかし、この成功体験は、次の大きな失敗の下地を作ってしまいました。3月になって首
相官邸はコロナ封じに自信を深めつつありました。国民の間にも、この新型ウイルスは大
した問題にはならないとの空気がただよい、「気のゆるみ」が蔓延していました。

実際、3月中旬まで、1日当たりの国内感染者は10~60人程度で推移していました。

当時官邸では、千人単位で感染者が出る日が相次いでいたイタリアなどヨーロッパの深刻
な事態は「対岸の火事」に映っていました。

官邸内の会合では「欧州はクラスター(感染者集団)対策が不十分。一体、何をしている
のかね」と、ヨーロッパ諸国での対応を揶揄する軽口も出ていまいた。

学生の卒業旅行などを通じたウイルスの侵入に対する警戒感は薄かったのです。

ところが、このころすでに、後に感染が急増するヨーロッパ経由とみられる「変異種」の
ウイルスがヒタヒと国内に侵入しはじめていたのです。

政府の中枢の「慢心」は国民に伝わり、3月20日からの三連休で全国の花見の名所は人
々でにぎわいました。この光景は何度もテレビで放送されました。花見客はもちろんマス
クをしていませんでした。

事態を心配した安倍首相は「緩んでいる」と周囲につぶやいていましたが、 菅官房長官
(当時)は「屋外は問題ない。花見はいいでしょう」と意に介していませんでした。

予想通り感染者は増え始めたため23日、小池東京都知事は「ロックダウン」(都市封鎖)
という言葉を発して注意を喚起しましたが、感染者は増え続けが末、3月27日には、1
日当たりの感染者は100人を超えるようになりました。

首相は緊急事態宣言の発令を考え始めましたが、菅官房長官と麻生副総理は、「人口から
すればたいしたことはない」と周囲に繰り返していました。「経済優先」を主張する政権
陣容の偏重が、裏目にでました。

ただし当時、政府にはまだ緊迫感はありませんでした。ある政府高官は、「4月直前まで
(緊急事態)宣言なんて考えてもみなかった。日本が世界で一番うまく対処していると思
っていた」と振り返ります(『東京新聞』2020年12月22日)。

しかし、感染は止まらず4月1日ころにピークに達する感染の「第一波」が首都圏を中心
に勃発しました。そこで政府はようやく4月7日、7都道府県に、そして16日には全国
に緊急事態を宣言しました。しかし、この時はすでに感染者は減少に転じていたのです。

そして、5月25日、この緊急事態宣言を終了させた日の夕方、安倍首相は記者会見で、
新型コロナウイルスについて「日本ならではのやり方で、わずか1カ月半で流行をほぼ収
束させることができた。日本モデルの力を示した」、と言い「すべての国民のご協力、こ
こまで根気よく辛抱してくださった皆さまに心より感謝申し上げます」と述べました。

安倍首相は自慢げに「日本モデルの力を示した」と世界に向かって宣言したのです。しか
し、この時、感染が減少した原因を徹底的に分析したわけではありませんし、「日本モデ
ル」とは何なのか、中身については言及しませんでした。

いずれにしても、この時の一時的「成功」が、第二の“真珠湾攻撃”の成功体験となって、
安倍首相にこのような言葉を言わせたのです。

ところがその後、有効なコロナ対策が講じられることなく、「第一波」から2か月後の7
月から8月にかけて「第二波」が、そして、11月後半からは「第三波」が燎原の火のよ
な勢いで全国に拡大しました。

この間、政府は感染抑制をしつつ「経済を回す」と言いつつ実際には感染抑制に対して何
ら有効な措置を講ずることなく、「経済を回す」ことに熱中し、Go To キャンペーンを年
末まで続行しました。

以上、今年の春からの状況を見てきましたが、ここまでの政府の対応策にはすでに、日本
軍の「失敗の本質」のかなりの部分が出そろっていいます。

まず、緒戦の真珠湾攻撃の成功体験が、軍部に相手の実力を過小評価させたように、第一
波の抑え込みの成功体験が、新型コロナの本当の怖さを過小評価させたことです。

日本軍が、真珠湾攻撃以降の大きな戦闘では全て負けたのに、同じ戦法で負けを繰り返し
ました。著者たちは、これは日本軍には長期的戦略がなく、失敗の反省や学習をせず、同
じパターンの戦闘を繰り返したからだと指摘しています。

この点では、安倍=菅政権でも同様で、長期的戦略がなく、一貫性を欠いた場当たり的な
政策を繰り返してきました。

日本軍で、攻撃に慎重論を唱える軍人を左遷し、積極派を重用したように、菅政権でも人
事面で、経済優先の政治家で閣僚を固め、異議を唱える官僚などは「飛ばす」「移動させ
る」と脅して、口を封じてきました。

また、『失敗の本質』は日本軍の本質的なの問題として、自分たちの過ちを認めること(
「自己否定」)をしないまま自己革新する能力を失っていたことを挙げています。

この点も安倍=菅政権は全く同じで、自らの過ちを認め、戦略的・組織的な革新を行うこ
となく今日に至っています。

その顕著な例は、コロナ感染を抑えつつ「経済を回す」という、ブレーキとアクセルを同
時に踏み、問題が発生すると小出しの政策でその場をしのごうとしている姿勢に顕著に表
れています。

これは、現実には無理であることは最初から分かっているのに、精神力で突破せよと号令
をかけて惨敗を続けた日本軍とよく似ています。

コロナ禍に対する政府の対応については、まだまだ書ききれない問題がたくさんあります
が、一旦ここで止めておきます。





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「死者の権利」を奪う新型コロナの残酷さ

2020-12-15 09:14:04 | 健康・医療
「死者の権利」を奪う新型コロナの残酷さ

2020年は世界にとっても日本にとっても、「歴史的事件」が起こった年として後世に言
い伝えらえるでしょう。

いうまでも、年明けに中国の武漢で新型コロナウイルス(以下、「コロナ」と略す)が
発見され、それは瞬く間に日本を含む世界中に拡散し、多くの人命が失われました。

しかし、失われたのは人の命だけではありません。私たちは実に多くのものを失いまし
た。

まず、巨視的にみれば、経済活動は大きく落ち込み、多くの人が失業や収入の減少とい
う厳しい状況に追い込まれました。

また、個人レベルでいえば、自由に動き回ること、親しい人と会っておしゃべりをする
こと、テーブルを囲んで食事をすること、などなど。これらの、何でもない日常が極度
に制限されてしまいました。

これらの背後には、コロナに感染する不安と恐怖が心から離れない心理状態があります。

コロナは確実に、人と人との関係を強く引き離してしまいました。見知らぬ人同士では
互いに疑心暗鬼になっています。

大学ではリモート授業が増えて、学生は先生の顔を見ることさえなく、あらかじめ録画
してある映像をオンデマンドで、勝手に観る形式の場合も珍しくありません。

この場合、学生は質問する機会も与えられず、授業において非常に重要な、先生と学生
とが作り出し共有する「場」が成立しません。

これでは、こんなことなら、いっそ、講義をDVD化して学生に買わせるようにした方が
明快です。

最近では、コンピュータを経由したリモートの授業だけで教育を行う大学も現れている
と、聞きます。もちろん、私は大反対です。

人と人との距離を永久に引き離してしまうことの究極の形が「死」です。いうまでもな
く、あらゆる死は、その近親者にとって、場合よっては社会にとって悲しいことですが、
コロナによる死は、特別な様相をともないます。

それを直截に言でいえば、近親者と死者本人にとっての「残酷」さです。

私が非常に大きなショックを受けたのは志村けんさんがコロナ肺炎で亡くなった(3月
29日)時でした。連絡を受けたあと、兄の知之さんが病院の霊安室にかけつけたのに
面会ができず、火葬場に向かう霊柩車を見送るだけだった、と語っていました。

しかも火葬場でもその場に立ち会うことや許されず、自宅近くで葬儀関係者から遺骨が
納められた箱を受け取ったのです。その時、箱は、“熱い”と感じるほど暖かく、重かっ
たと感想を述べています。ここの部分が妙に生なましく響きました。

コロナによる死は、大切な人を看取ることはおろか、最後のお別れの言葉をかけること
も許されないのです。

志村けんさんの死のショックが冷めやらない4月24日、テレビでは元気印の象徴のよ
うにいつも明るく元気な姿を見せていた岡江久美子さんが4月24日、やはりコロナ肺
炎でなくなりました。

夫の大和田莫さんは、妻のすぐに病院に駆けつけ、感染症防止策をとったうえで、遺体
の顔を見ることはできましたが、志村さんの時と同様、火葬には立ち会えませんでした。

大和田さんは、感染防止のため葬儀社の関係者が玄関先に置いていった遺骨を引き取っ
たのです。

玄関先で報道陣に、「久美子は今帰ってまいりました。こんな形の帰宅は本当に残念で
悔しく悲しいです」との言葉を残して家の中に入ってゆきました。

この時も、私はコロナによる死が内包する残酷さを感じました。

國分功一郎東大準教授(哲学者)は、イタリアのジョルジョ・アガンベン(哲学者)が
政府のコロナ対策(ロックダウン)を批判した論考を引用しつつ、コロナによる死の意
味と感染予防策との関連について哲学の観点から問題提起しています。アガンベンは次
のように疑問を提起します。
    ウイルスに感染しても集中治療を受けなければならなのかわずか4%と(国立
    感染症研究所が)言っているのに、なぜ、非常事態の措置(ロックダウン)が
    実施されなければならないのか(2月26日)

この論考が現れるとインターネット上でアガンベン批判の“炎上”が起こりました。

批判を受けてアガンベンは「補足説明」と題する文章を発表しました(3月17日)。
そこでは、
    病のもたらす倫理的・政治的帰結を問うことが必要。
    今回のパニックは、我々の社会がもはや剝き出しの生以外の何ものも信じてい
    ないことをあきらかに(した。筆者注)・・・

と、アガンベンは、現代人が「死」を最悪のもの、「生」だけが価値があるとする風潮
を批判します。

アガンベンの主張を引き取って國分氏は、アガンベンの主張は非常に明快で、彼が言い
たかったことは2点に要約できるとしています。

1 死者の権利について。
親族も亡くなった方に会えないことに対する憤り。これは死者の権利の蹂躙ではないか
という疑問。アガンベンは、人が亡くなった方を大事にしない、お見舞いさえできない、
死者に十分敬意を払わなくなったとき社会はどうなってしまうのか。生存以外のいかな
る価値も認めない社会というのは一体なんなんだろうか?人間関係はどうなってしまう
のだろうか、という根本的な問いを発している。

感染の危険性があるからという理由で死者が葬儀を受ける権利をもたない、そういう社
会に入ってしまっていて、そのことに少しの疑問ももたないとしたら、その時人間の関
係はどうなってしまうのだろうか。

死者に対して敬意をはらうことは、社会が大事にしてきた過去のことをきちんと守って
ゆかなければならないと考えることである。私たちが過去のこと(歴史)を考えたとき、
死んだ人たちの重みが私たちにかかってくる。それが原理や原則に対する敬意やそれを
守ろうという気持ちを持たせる。もし、死んだ人たちに対する敬意がなければ,現在だ
けの薄っぺらな社会になってしまう。

2 人間にとって根本的な移動の自由という権利について(4月15日発表)
アガンベンによれば当時実施されたロックダウンは、戦争中にも行われなかったほどの
移動制限である。移動の自由こそが最も大切な自由だ。近代の法体系における刑罰は最
高刑が死刑で、一番軽い刑が罰金。そして、両者の間にある刑罰はすべて移動の制限。
つまり監獄に閉じ込めること。近代社会は、移動の制限が人間にとって非常に大きな意
味をもっていることを認識していたので、これを刑罰として採用している。

東欧の革命の底流に移動の自由を認めてくれ、という強い欲求があった。その象徴がド
イツで起こった「ベルリンの壁」を取り払う行動であった、と國分氏は評価します。

これにかんして私たちの記憶に新しい、ドイツのメルケル首相のスピーチです。彼女は
東ドイツ出身で、移動の自由がいかに大切かを語った上で、それでも制限せざるを得な
いことを受け入れてくれるよう国民に訴えます。

日常生活における制約は渡航や移動の自由が苦難の末に勝ち取られた権利であるという
経験をしてきた私のような人間にとり絶対的は必要性がなければ正当化しえないもので
す。民主主義においては 決して安易に決めてはならず きめるのであればあくまでも
一時的なものにとどめるべきです。しかし今は命を救うためには避けられないことなの
です。(新型コレラウイルス感染症に関するテレビ演説2020.3.18)

このスピーチは日本人の私にとっても、胸に刺さる、説得力のある格調高い内容でした。

アガンベンは、緊急事態だからということで、ロックダウンのような措置を議会の審議
も経ないで行政機関がさまざまなルールをどんどん作ってしまう、つまり立法府がない
がしろにされる事態を民主主義の危機だと主張しています。

ひるがえって、日本の実情はどうでしょうか。日本では逆に、GoToキャンペーンで、で
きるだけ自由に出歩いて、経済を回してゆくことを首相自らが旗を振ってきました。

しかし、その結果、経済は回りましたが、感染者も死者も増え、医療の現場は逼迫し、
医療関係者は悲鳴を上げています。

日本で実施されてきた、移動を奨励するGoToキャンペーンと、イタリアやドイツで実施
された移動の自由に対する強い制限とを単純に比較して、日本の方が民主主義的である、
とは言えません。

なぜなら、感染症の専門家と国民の8割が、感染を食い止めるためにGoTo キャンペーン
は中止すべきと考えているのに、政府は昨日(12月14日)まで、このような声と感
染症の専門家の声に耳を貸さず、かたくなにこの事業を継続する方針を宣言していたから
です。

日本政府のコロナ対策の問題から離れて、もう一度、コロナがもたらす意味を考えてみ
るとき、改めてアガンベンの主張する「死者の権利」という視点の大切さを再確認しま
した。

また、死というところまでゆかなくても、コロナがもたらした文化的・社会的問題とし
て、最後にイタリアの高校のドメニコ・スキラーチェ校長がSNSを通じて生徒たちに送
ったメッセージを引用しておきます。

    社会生活や人間関係を汚染するものこそが、新型コロナウイルスがもたらす
    最大の脅威だ(注2)。

この内容がどれほど高校生に伝わったかは分かりませんが、日本の高校でも、このよう
なメッセージを学校から生徒に発して欲しいものです。これは文化の違いでしょうか。

(注1)『コロナ時代への提言―変容する人間・社会・倫理』
 (2020年5月23日)BS1スベシャル
(注2)『日経ビジネス』オンライン 2020年3月10日
  https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00065/?P=5210 58%



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コロナ拡散は止まらない(3)―政府への不信と医療崩壊―

2020-12-08 10:09:31 | 健康・医療
コロナ拡散は止まらない(3)―政府への不信と医療崩壊―

現在のコロナ禍には大きく二つの深刻な問題が横たわっています。

一つは、国民の菅内閣(具体的に菅首相)に対する不信です。菅首相は、9月の首相就任以来、
ずっと記者会見を開いておらず12月4日にようやく開きました。

この間、国民に対する、リーダーとしての強いメッセージも、感染を止める有効で具体的な手
を打っていません。

それだけに、4日に記者会見ではどのようなメッセージが発せられるのか、私も期待を込めて
いました。なにしろ、日々、感染者の数が更新されている現在、2か月半ぶりの記者会見で、
この間に相当の熟慮を重ね、方策を考えてきたはずですから。

ところが、菅首相の口から感染抑制に関して発せられた言葉は、マスク着用、手洗い、3蜜を
避けることの「お願い」だけでした。

これが、いかに的外れであったかは、感染症対策分科会の尾身茂会長が、11月20日の分科
会で「提言」をみれば明らかです。「提言」は、個人の努力に頼るだけでなく、GoToトラベル
とイートを見直すことの必要をはっきり述べています。

この「提言」は尾身氏をはじめごく少数のメンバーが「極秘会談」を行って決めたもので、事
前に首相によって圧力がかけられるのを防ぐために、会議の直前まで伏せられていて、他のメ
ンバーには会議の際に初めて議案として示されたようです。

これまで、まるで政府の代弁者のように発言してきた尾身会長もさすがに「公衆衛生の専門家
としての矜持があった」(厚労省関係者)ということでしょう。

これにたいして菅首相は激怒して、「なんでそんなこと言うんだ。専門家なのにエビデンス
(科学的根拠)がない。だいたい(スーパーコンピューターの)富岳の計算でもマスクをつけ
れば大丈夫だ」と側近にいらだちをあらわにしたという(注2)。

とにかく菅首相の頭の中には、自ら旗を振ったGoTo 事業を継続して経済を回すことしかない
ようです。

また27日の衆議院厚生労働委員会で尾身会長は、感染防止対策について「人々の個人の努
力に頼るステージは過ぎた」、と医者としての判断を示しいます。

こうした経緯をみても、12月4日の菅首相の発言がいかにピントはずれかがわかります。
医療関係者はいうまでもなく、私も含めて多くの国民は、深い失望を感じたのではないでし
ょうか。

菅首相のGoTo 事業継続への執念は、若年層を中心に、“政府が推奨しているのだから”、と
いう間違ったメッセージとして受け取られ、宿泊施設、とくに「お得感」が大きい高級ホテ
ルや旅館への予約はいっぱいだという。

そして、オンラインで集客できる大手の旅行業者は潤っていますが、企業・法人の団体旅行
を中心とする中小の旅行事業者は、ほとんど恩恵に浴していないのです。

一方で、「お得」を楽しんでいる人々がいる反面、日々名実ともに「命を張って」患者の治
療にあたっている医療関係者は、GoTo トラベルで旅行したりGoTo イートで食事を楽しむ余
裕はありません。

しかも、厳しい労働環境に加えて、給料やボーナスが減額される医療関係者は、「もう、や
ってられない」という不平等感をいだいています。

実際、大阪の「十三市民病院」では医師10人、看護師22人が離職してしまいました。

こうした実態をみて、菅内閣に対する不信感が高まっています。共同通信社が12月5日6
日に行った全国電話世論調査によると、菅内閣の支持率は、前回11月と比べて12・7%
も急落して50・3%に落ち込んでいます。

内閣支持率がわずか1か月で10%を超える下落は例はほとんどありません。不支持の理由
としては「首相に指導力がない」がトップで25.3%で、11月の8・8%より18%も
増えています。

中身を見てみると、菅内閣の新型コロナ対応を「評価する」は37・1%、「評価しない」
が55・5%と、過半数を超えています。

そして、GoTo トラベルにたいしても48・1%が全国一律に停止すべきだと答えています。

さらに、菅首相は感染防止をしつつ経済を回す、と繰り返していますが、「感染防止と経済
活動のどちらを優先すべきか」との問いにたいして、「どちらかといえば」を含めて「感染
防止」を挙げたのは計76・2%にのぼっています。

これには、コロナ禍だけでなく、安倍前首相時代の「桜を見る会」疑惑にたいしても、官房
長官として一貫して擁護してきた菅首相は、再調査を拒否しています。この問題にたいして
も国民の多くは菅首相に対する不信感を募らせています(『東京新聞』2020年12月7日)。

今回のように未知の感染症に立ち向かうには、政治に対する信用と信頼が最も重要ですが、
現在のところ菅政権にたいする信用は薄くなっていると言わざるを得ません。

12月7日、GoToトラベルに関して菅首相のこれまでの主張を覆す重要なデータが東大の
研究チームから発表されました。

菅首相は、ことあるごとに、4000万人がこのキャンペーンを使って旅行をしたが、感
染者はわずか、200人、最近は300人であり、このキャンペーンが感染の拡大の主要
因となっているエビデンスはない、と言ってきました。

このブログでも再三指摘しているように、政府がいう「GoToトラベルによる感染者の数」
というのは、実態のほんの一部にすぎません。(注3)

反対に、菅首相は、このキャンペーンが感染の拡大に寄与していない、ということの「エ
ビデンス」も示していません。ただ、都合の良い数字をつまみ食いしているだけです。

東大のチームは15~79歳の男女2万8000人を対象として8月末から9月末にイン
ターネット上で調査を行いました。

その結果、過去1か月以内に新型コロナの特徴である嗅覚・味覚の異常を訴えた人の割合
は利用者で2.6%なのに対し、利用しなかった人は1.7%でした。年齢や健康状態の
影響を取り除く統計処理を施すと、有症率の差は二倍に上った、というものです(『東京
新聞』2020年12月8日)。

それでも、菅首相は、GoTo キャンペーンはウイルスの拡大と関係ない、と強弁していま
すし、現在、政府はこの事業を来年の6月末まで延長さえしようとしています。

東大チームの調査がGoToトラベルと新型ウイルスの拡散との直接的な因果関係を証明する
ものではありませんが、両者には少なくとも非常に密接な関係があることは確かです。

そうである以上、菅首相は、政府の目的は「国民の生活と命を守ること」だと強調してい
ますが、一旦は止めて、感染が収まったら再開する方法をとるべきでしょう。

次に、医療に関して、札幌、旭川、大阪府(特に大阪市)、東京は、政府も自治体も「医
療現場が逼迫している」と言い続けています。

この「逼迫している」という表現に対して、大阪府病院協会会長の佐々木洋氏は、テレビ
の質問に答えて、この表現は、医療現場は大変な状況ではあるが何とか食い止めている、
というニュアンスを伝えているが、実態はすでに「医療崩壊」の状態であると認識すべき
だと言っています。

それは、大阪の場合、名目的には重症者が占めるベッド数は65・6%ですが、実際に使
用可能はベッド数をみると、90%に達しているのが実情だからです。

大阪府と旭川市は、ついに7日には自衛隊の看護師の派遣を要請しました。

また軽症や無症状の人は、本来なら自治体が用意したホテルなど宿泊施設での療養を原則
としていますが、それも確保が追いついてゆけないため、仕方なく自宅で療養する人が増
えています。

これ軽症・無症状者、そして本来なら入院すべき65歳以上の感染者も含めて入院できな
いでいるケースを「入院調整中」(自宅療養中)としていますが、そのような患者が今月
2日の時点で、全国で一か月前の1916人から5.7倍の6200人に達しています。

地域的にみると、最多は大阪の1700人、次いで東京1050人、愛知954人、神奈
川704人の順です。

自宅療養は家庭内感染につながり、感染者急増の一因となっています。しかも、埼玉県で
起こったように、自宅療養中に二人が相次いで亡くなりました。

高齢者の場合、病状が突然急変し、死に至る危険性がありますから、少なくとも65歳以
上の高齢者と基礎疾患をもった人は即刻入院できる体制が必要です。

しかし、現実は、入院はおろかホテルなどの宿泊施設さへ追いつかない状態です。これの
状況も、実態としては医療崩壊が起きているとみなすべきでしょう。

とりわけ、医療環境が脆弱な地方では、少し患者が増えただけでも、医療の現場はたちま
ち崩壊の危機に直面します。

全国にウイルスを拡散させた源泉ともいうべき東京は、医療施設が充実しているといわれ
ています。それでも上にみたように、どこも受け入れ先がなく1000人以上が自宅療養
を余儀なくされているのです。

東京都の場合、重症者の病床使用率は36%(54人 12月6日)ですが、「重症者」
の中には、ICU(集中治療室)への患者250人は含まれていません。

ICUはコロナ患者のためだけに使用するわけではなく、急性の心臓や脳疾患者、手術後の医
療ケア、さらには重度の事故などの受け皿として極めて重要です。これがコロナ患者によっ
て占められている状況は、それ以外の患者さんを犠牲にしていることになります。

また、大阪市立病院で、コロナ対応で看護師が不足したため、若年がん病棟が一時閉鎖さ
れています。これは明らかな医療崩壊の例です。

病棟の閉鎖まではゆかなくても、現在、多くの都道府県の病院ではコロナ対応のために手
術をストップしている状況がありますし、通常の医療業務ができないでいます。

こういう事態は、まぎれもなく医療崩壊がすでに起きている証拠だと思いますが、政府は
たんに医療現場「逼迫している」との姿勢を崩していません。

国民の命にかかわることですから、政治的な思惑ではなく、真実を国民に明らかにし、そ
のうえで、国として、自治体として、個人としてどのように対処すべきかを、政府は明確
な指針を示す必要があります。そうでなければ国民は安心できません。


(注1)分科会資料(2020年11月20日)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000697918.pdf
(注2)JCAST 2020年12月7日 
https://www.j-cast.com/kaisha/2020/11/30399981.html?p=all
(注3)GoTo トラベルによるウイルス感染者数の集計の具体的な方法については『東京新聞』デジタル版(2020年11月30日)、https://www.tokyo-np.co.jp/article/71349 を参照。政府の数字がいかんひ非現実的かが分かります。


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コロナ拡散は止まらない(2)―失政を認めない菅首相の無策が感染者を激増させる―

2020-11-30 15:24:18 | 健康・医療
コロナ拡散は止まらない(2)
―失政を認めない菅首相の無策が感染者を激増させる―

11月28日、東京都では561人の新規感染者が報告され、2日連続で500人を超えています。

ある感染症の専門家は、この状況に対して、かなり強力な措置を講じないと近いうちに新規感染者
が1000人を超えるだろうと警告しています。

感染者の数も問題ですが、医療現場では重症者の増加と病床・医療スタッフ不足は、医療崩壊が近
づいていることにも危機感を募らせています。

それでも、菅首相は相変わらず、マスク、手洗い、三蜜を避けると、この春から言い続けてきたこ
とを繰り返すだけで、有効は感染症対策を講ずる姿勢は見られません。

したがって、西村コロナ担当大臣も、赤羽国交相も関係各省庁も、誰も菅首相に逆らえず、感染予
防・抑制施策がないまま、ずるずると感染の拡大が続いています。

感染者の増加は東京だけではありません。大阪とその隣接県、名古屋、東京の隣接県(神奈川、埼
玉、千葉)、札幌などの大都市圏、さらにはこれまで小人数で留まっていた地方でも日々、新規感
染者の記録を更新しています。

ところで、前回も触れましたが、私個人は、現在の感染拡大の要因に一つ、それもかなり重要な要
因はGoToキャンペーンであると考えています。

菅首相は、4000万人がGoToで旅行したが、そのために感染した人は202人にすぎない(11
月26日時点)であり、GoToがコロナウイルスの拡散に影響したというエビデンスはない、と繰り
返して説明しています。しかし、この説明には隠された問題があります。

まず、菅首相が言う、GoToによる感染者とはどういう人で、その数はどのようにカウントしている
のかを確認しておきましょう。

まず、この数を管理しているのは観光庁ですが、観光庁などによると、GoTo事業を利用した感染者
数は、宿泊施設などに対し、保健所や利用者本人から連絡があった人数を、宿泊施設から環境庁に
報告した数字を積み上げたものが、202人ということです。

この場合、宿泊から日数がたって感染が確認される場合などは、保健所から宿泊施設に必ず連絡が
入るわけではありませんし、宿泊施設が観光庁に報告しているかどうかも分かりません(注1)。

これと関連して、宿泊施設の側においても旅行者が宿泊期間中に発熱などの症状が出て検査し、陽
性が確認された人数だけが集計の対象となるのです。したがって、感染した人が自ら保健所に連絡
しなければ、感染者の数にカウントされません。

通常の旅行者は2泊3日くらいが平均なので、たとえ旅先で感染しても、それが症状として現れる
のは5日~7日くらい後になりますから、おそらく発病は帰宅後ということになります。この場合
も、GoToにともなう感染とはみなされません。

菅首相が、金科玉条のようにいつ、GoToと感染との関係にはエビデンス(科学的根拠)がない、
という発言の根拠とは、以上のような、非常に限定された条件の中での感染者の数のことを言って
いるのです。しかし、この数字を信じている医者はいません。

今朝の情報番組である医師が、もし本当の数字を明らかにしたら、目が眩むほどの感染者数になる
でしょう、といったのはこうした事情があるからです。

もし、菅首相が言うように、GoTo事業が感染の拡大と関係ないとするなら、全国で感染者が激増
している事態の要因を、エビデンスを示して説明すべきです。

私がGoTo事業を、感染が拡大している今は止めるべきだと考えている理由はほかに幾つもありま
す。

まず第一に、この春、GoTo事業を導入することが閣議決定された時には、感染が収束した段階で、
経済がV字回復するための起爆剤として活用する、とされていました。

この時点では、GoTo事業が感染を拡大させることが政府にも民間にも共有されていたはずです。
しかし、収束どころか急激に感染が拡大している今、閣議決定の変更も説明もなしに、いつの間
にかずるずると事業が実効されてしまっています。

第二に、政府は、旅行者自身の感染ではなく、旅行者がウイルスを地方の人にまき散らしている
事実を意図的なのか認識不足なのか、全く触れていません。

子供でも分かることですが、ウイルスは自ら移動して増殖することはできません。人間の移動が
感染を広げているのであって、GoToは人の移動を積極的に推奨しています。

これまでの知見で、感染者の7~8割は、少なくとも当初は無症状です。しかし、無症状であっ
ても旅行者がウイルスを持っていれば、感染させる可能性は十分あります。

実際問題として、現在、感染地域が全国に広まっているのは、それぞれの地域でウイルスが突然、
地面から湧いてきたからではなく、外部の人が持ち込んだ結果なのです。

そのような経緯を考えれば、政府が盛んに推奨しているGoToによる「お得な旅行」は間違いなく、
ウイルスの感染に関係あると思います。

ただ、医師として、4000万人もの旅行者の感染の有無、行動、感染経路を追うことはできな
いので、事業と感染との因果関係を数字で示すことはできないだけなのです。

GoToを使って旅行している人のインタビューで、感染対策に万全を期しているから自分は大丈夫
という言葉をよく聞きます。しかし、このような人は、自分自身が旅行先の人たちに感染させて
いる可能性については全く考えていないようです。

また、旅行すれば、それぞれの地域での食事が重要な楽しみの一つになっており、GoToトラベル
とセットでGoTo イートを利用する人も多いでしょう。

こうした場合、お行儀よくお酒も飲まず、小さな声で話し、話す時にはマスクをすることを実行
していている人はどれほどいるでしょうか?

こうして、GoTo事業は二重に感染を全国に広めているといえます。

なお、この春、東京を発信源として新型コロナウイルスが拡散し始めましたが、政府は7月には
GoTo事業を発動しました。しかし、この際、東京は発着とも除外されました。

しかし、10月1日より、東京からの発着は全面的に認められました。予想されたことではあり
ましたが、それ以降、現在にいたるまで、東京だけでなく全国の感染者が急増しているのは周知
の事実です。

菅首相の認識では、GoTo 事業は東京が入ってこそ意味があるので、どんな批判を受けようとも
東京発着のGoToトラベル事業は継続すると決めているようです。それは、東京の経済と人口規
模が圧倒的に大きいからです。

GoTo事業は菅首相が官房長官時代に立ち上げ、旗を振ってきた肝入りの政策なので、東京を除外
する、あるいはGoTo事業を一時的にも全国一斉に止めるということは、自らの政治の失敗を認め
ることになるので、意地でもこれを維持する覚悟なのでしょう。

実際、感染を抑える有効な手を打たず、無為無策の状態が続いています。

しかし、そのためにコロナウイルスの犠牲者が増えるとしたら、これは単なる「失敗」では許さ
れません。

GoTo事業には、この他にも幾つもの問題があります。

一つは、政府が旅行と食事をすることを推奨しているのだから、コロナの問題はそれほど深刻で
はない、というメッセージとして受け取られることです。それが証拠には、コロナ対策会議の分
科会や医師会が警告しているにもかかわらず、ホテルや旅館は満室の予約状況になっています。

さらに、京都などの観光地では、2メートルのソーシャルディスタンスなどどこ吹く風で、観光
客がひしめき合っています。

こうした警戒心のなさの状況をみると、コロナ禍が収束に向かう要因はなく、これからも感染者
と、残念ながら死者も増えてゆくでしょう。

二つは、一方で、GoToキャンペーで「お得な」旅行と食事を楽しむ人々がいる反面、日夜患者の
治療に全力に闘っている医療関係者やその家族、いわゆる「エッセンシャル・ワーカー」と呼ばれ
る、運送、清掃、ライフラインの維持管理に携わっている人たちなどは、この事業の恩恵に浴す
ることはできません。

また、非正規で解雇された人、母子家庭など、本当に経済的に困っている人たちには金銭的な援
助は届いていません。

三つは、今回のGoToキャンペーンのうち、トラベルは1兆3000億円、イートは610億円
(これはほぼ全額使われるつつあります)の税金が投入されています。

これはどこからか降って湧いたようなお金ではなく、私たちの税金ですから、いつかその分を税
金で埋め合わせなければなりません。

今、キャンペーンの利用者は、「お得」だから、使わなければ損だ、とばかり旅行や食事を楽し
んでいます。しかし、そのツケは、近い将来確実に増税という形で私たち、あるいは将来世代に
押し付けられます。

四つは、上記のことと関連していますが、GoToイートが始まったかなり早い段階で、食事を予約
すればその時点で1000ポイント(1000円と等価)付くという仕組を利用して、一皿98
円の焼き鳥を何件も予約して何万円も稼いだ話が、SNSで拡散したことがありました。

同じくイート事業で、昼食は500円以上、夕食は1000円以上の金額なら対象となるという
仕組みを利用して、夕食の1000円のコースを頼むと1000ポイントつく、そしてそのポイ
ントで1000円のコース料理を頼むと、また1000ポイントもらえるという、「無限ループ」
と呼ばれる行為が、合法的に行われ、SNSで拡散しました。

驚いたことに、西村大臣がボードを使って、「無限ループ」ができるよ、説明していました。

また、昨日、GoToトラベルで、高級ホテルを3人5泊予約して、無断キャンセルし54万円分の
ポイントを詐取した男が逮捕されました。ホテル側の損害は500万円にも上っています。逮捕
された犯人によれば、この手口もSNSで紹介され拡散しているようです。

「お得」だからと税金をつまみ食いしたり、挙句に詐取する者まで現れるというのは、そもそも
の制度設計が間違っていたことと、とにかく多くの人に旅行に出て、どこでも食べてもらうこと
に駆り出そうとするキャンペーンは、少なくとも今、行うべきではないでしょう。

一部の人とはいえ、GoTo事業は、倫理的な腐敗をもたらしていると思います。これが医療崩壊と
ともに「倫理観の崩壊」につながらなければと願うばかりです。

いずれにしても、。菅首相は、今こそ、一国のトップがリーダーシップを発揮して、現状と今後
の展望について国民に語り掛ける必要があると思います。しかし菅首相は物陰に隠れて、記者会
さえ開いていません。本当に、首相として、これでいいのでしょうか。

(注1)『東京新聞』デジタル版(2020年11月30日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/71349

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コロナ拡散は止まらない(1)―Go To 継続にみるイエスマン内閣の悲劇―

2020-11-21 12:25:42 | 健康・医療
コロナ拡散は止まらない(1)
―Go To 継続にみるイエスマン内閣の悲劇―

菅イエスマン内閣がもたらす悲劇が日々拡大しています。

新型コロナウイルスの拡散が止まらないのです、11月17日の1日当たりの感染者が多か
ったのは、東京298人、大阪269人、北海道197人、愛知138人、神奈川133人
でした。

もう一つの数字が重要です。直近の1週間(11月10~16日)における10万人当たり
の感染者数を見ると、東京都22人弱、大阪府が24.7人、愛知県が16.5人でしたが、
北海道は38.7人、沖縄県23人弱でした。

いわゆる大都市だけでなく、日本の北端の北海道と南端の沖縄県において10万人当たりの感
染者が多かったことが注目されます。

北海道と沖縄で、このように高率の感染者が出たのは、偶然ではありません。これには間違
いなく本州からGoTo キャンペーンを利用しての旅行者の増加が関係していると考えられます。

特に11月17には北海道全体の感染者の7割を占める札幌市の事態は深刻で、人口197万3432
人に対して150人の感染者ですから、この日の10万人当たり感染者数は78.6人というとん
でもない数になります。

8月の第二波で沖縄での感染者が激増したのは、本土から大量の旅行者が押し寄せたことが主
要因でした。

今回の11月には、GoTo トラベルを利用した観光客が、やはり北海道と沖縄に押し寄せ、予想
されたとおり、感染者が急増しました。

第三波への突入が疑われる状況になった11月12日、日本医師会会長は「第三波と考えてもよ
いのではないか」と発言しました。

すると、政府は、人の往来を増やす「Go To (トラベルとイートを含む)」などは見直すのか
と思っていたら、政府は継続に意欲的な姿勢を続けています。

11月10日、記者会見でGo To トラベルと感染拡大との関係を問われた加藤官房長官は、こ
の事業が始まった7月偈頌雲から10月中旬までに、このキャンペーンを利用は3132万人
いたが、「利用者のうち、感染が確認されたのは131人」、「感染防止策を徹底して実施す
ることで、感染リスクを低減できる」と答えました。

つまり、Go To が感染拡大の要因ではない、だからGo Toはやめない、と言っているのです。

しかし、本当に、Go To による感染者は全国で131なのだろうか?

これに対して昭和大学の二木芳人客員教授は
    旅行前から感染していたかも知れないし、旅行先でうつされたのかも知れない。いず
    れにせよ、旅行中、現地で誰かに感染を広めている可能性が十分考えられるのが、そ
    ういう人たちはカウントされていない。ほんの一部しか見ていないのが百三十一人と
    いう数字で、何の根拠にもならない。
さらに、
    GoToが第三波を招く火種となったのは間違いない。一度立ち止まってじっくり考え直
    すべきだ。感染者が急激に増える中、これを続けるのは違和感しかないと明言してい
    ます。

誰が考えても、二木教授の言うことには合理性があります。つまり、政府の発表は、そもそも、
政府がいうGoToによる感染者]とは、GoTo対象施設に宿泊し環境庁に報告された人数だけです。

政府は、Go To に出かけた人がその先で感染させた人数には敢えて(もっとはっきり言えば、
意図的に)触れていませんが、たとえば北海道の札幌市や沖縄での異常な感染者の増加、ある
いは離島の利尻島に突如感染者が増えた事実をみれば、GoTo トラベルが、少なくとも原因の
一端であったことは否定できません。

政府は、感染を防ぎながら経済を回す、と言い続けていますので、Go To は継続する、と言い
続けていますが、感染を防ぐ施策を具体的には何もやっていません。

NPO法人「医療ガバナンス研究所」の上昌弘理事長も「無自覚で感染している人も当然いる
だろう。(GoToの)全利用者にPCR検査をすれば、感染者はもっといる。追いきれないだけ
だ」「経済対策のためのGoToが、逆に経済的なダメ―ジを深刻にする」、と指摘しています。

元北海道小樽市保健所長(医学博士)の外岡立人氏は「ウイルスの移動=人間の移動。旅行し
て動き回れば、ウイルスが全国に広がるのは当たり前」と、当然のことを、GoTo の旅行者
を受け入れる北海道の側からの本音を語っています。

さらに外岡氏は「GoTo で感染は拡大しないのであれば、(過去に)日本は何のために、緊急
事態宣言をして外出自粛を呼び掛けたのか。政府の専門家は『この時期のGoTo は危険だ、やめ
るべきだ』と強く提言すべきだ。一体何をやっているのか」と政府に疑問を投げかけています
(以上、『東京新聞』2020年11月13日より)。

ヨーロッパ各国でも、GoToと同様にキャンペーンを行っていますが、その結果、現在ヨーロッ
パで感染爆発が起こり、結局はロックダウンやそれに近い規制をしている事例をみれば、日本
でこれから何が起こるかは明らかです。

菅政権は、GoTo とウイルスの感染増加とは関係ない、現地と旅行者、あるいはGoTo イートの
場合には飲食店と消費者が気を付ければ大丈夫、との姿勢を崩していません。

GoTo トラベルは、大都市から地方の観光地へウイルスを運ぶ可能性が大きく、GoTo イートは、
会食を推進し、食事中に飛沫を飛ばしウイルスの感染に大きく関わる可能性が大きい。

こうして状況にたいして、加藤官房長官や西村経済再生相(新型コロナ対策担当大臣兼務)は、
GoToは、今後も続けることを強調しています。

11月18日、東京都の陽性感染者がそれまでの300人前後から、一挙に493人、とほぼ
500人の水準に達しました。

それでも、加藤官房長官は18日の記者会見で、「感染防止策をしっかりやれば、旅行による
感染リスクは低減できる。東京から除外してほしいという要望も受けていない」と、GoTo を
継続して推奨する発言をしています。

そして運命の11月19日、東京都の新規陽性者が500人を超えて534人に達しました。

しかも、東京だけでなく、隣接する首都圏の神奈川(205)、埼玉(108)、千葉県(106)でも1日
の陽性者が過去最高を記録しました。

大阪(336)、隣接する兵庫(130)も過去最高を記録し、愛知(219)などの大都市とその周
辺でも記録を塗り替えました。このほか北海道(266)でも次々と、

コロナウイルスは、すでに市中感染の状態になっており、誰もで、いつ、どこで感染してもお
かしくないまん延状態に入ったといえます。

この状況に対して、小池東京都知事は19日夕方、記者会見をするというので、どのような方
針を発表するのか、注目していました。

というのも、3月下旬には「ロックダウン」という言葉を発し、不要不急の外出を控えるよう
に強く訴え、それがターニングポイントとなって第一波では沈静化に成功したからです。

ところが、彼女が示したのは「5つの小」という、誰しも実施している行動をまとめただけで、
正直私は拍子抜けし、がっかりしました。

菅首相は「静かなマスク会食」「会食は5人以下で」という、まるで厚労省の役人が言うよう
な些細なことしか言いませんでした。首相ならば、もっと大局的な国としての大方針を語って
欲しと思います。以下にも小粒の首相という印象です。

ところで加藤官房長官も西村経済再生相も、GoToトラベルを管轄する赤羽国土交通相も、Go
To イートを管轄する野上農水相も、個人として本心からGoTo キャンペーンを推進すべきだと
考えているのでしょうか。私は、彼らの本心を聞いてみたいです。

気になるのは、本来なら中心的役割を果たすべき田村厚労相の声が聞こえてこないことです。

中川日本医師会会長は、GoToと感染者の増加との因果関係は分からないが、少なくともきっか
けになったことは確かだと思う、と言っていましたが、これは妥当な見解、医師の多くはその
ように感じているようです。

それでは自民党や公明党の議員はみんな菅首相のコロナ対策に賛成しているのだろうか?

本来、幅広い意見をもつ人々の集まりだったはずの自民党の中に、首相とは異なる意見があっ
て当然ですが、ずっと沈黙しています。この理由をジャーナリストの後藤謙次氏は
    そもそもGoTo の旗を振っていたのは菅首相と二階自民党幹事長。たとえおかしいこ
    とだとしても、両巨頭が推進していることに真正面から異を唱えるのはリスクが大き
    いと考えが党内にある。
    二階幹事長は、全五千五百の旅行会社などでつくる「全国旅行業協会」の会長を長年
    務めている。
    日本政府のコロナ対策へのアプローチが、ウイルス学や公衆衛生学からではなく、政
    治経済からだということ象徴しているのが今回の現象でしょう

と述べています。他方、菅首相は、来年の選挙をにらんで、ホテルや旅館が多数、倒産して、
「経済政策が悪い」と批判されると、票に響くので、一度やってしまった以上やめられない、
というのが実情のようです(以上、『東京新聞』2020年11月13日)。

こうして、政権政党の自民党では、イエスマンだけが幹部に取り立てられ、他の議員は沈黙を
続けています。

政府は「感染を防ぎつつ経済を回す」という題目のうち、「経済を回す」ことには熱心ですが、
「感染を防ぐことには、国民の自覚を促すこと以外、国として対極的見地に立った具体的方策は
何もしていません。

かくして、現状では感染が減る要素がないわけで、ただただ感染者が増加するという悲劇が続い
ているのが現状です。

さすがに、それまで政府寄りの発言を繰り返してきた政府の新型コロナウイルス感染症対策分科
会の尾身茂会長は、衆議院厚生労働委員会で「このまま行くと、国民の努力だけではコントロー
ルするのが難しく、さらに強い対応をしないといけない事態になる可能性がある」との見解を公
言し、翌20日には、GoTo 見直しの提言を政府に提出しました。

これに対して政府は、21日にどのように対応するのかを決断することになっていますが、これ
については次回に検討したいと思います。



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コロナは収束に向かっているのか?―「Go To」 キャンペーンのリスクと効果―

2020-10-01 22:22:26 | 健康・医療
コロナは収束に向かっているのか?―「Go To」 キャンペーンのリスクと効果―

2019年12月に中国の武漢で確認された新型コロナウイルスの感染者は、その後猛烈な勢い
で世界に拡散してきました。

この間ウイルスがヨーロッパに広まると、「武漢株」は「ヨーロッパ株」に変異しています。

今年の1月にクルーズ船とともに日本に上陸したウイルスは「武漢株」で、これはその後、急速
に抑え込まれて、3月以降に爆発的に増加したのは、ヨーロッパからの帰国者や訪問者が持ち込
んだ「ヨーロッパ株」ウイルスです。

ここで、最新の状況を確認しておきましょう(いずれも2020年9月30人現在までの累積人数)。

全世界の感染者は3380万人、死者は101万人です。日本の感染者総数は8万4306人、
死亡者は1588人です(ただし、この他、ダイヤモンド・プリンス号関連の感染者712人、
死者13人)。

日本における新型コロナウイルスの感染者は、東京、大阪、愛知、福岡などの大都市とその周辺
に集中しています。

政府は、「感染を防ぎつつ経済を回す」との掛け声の下、コロナ禍で落ち込んだ経済を何とか持
ち上げようと、あの手この手で巨額の税金をつぎ込んでいます。

企業にたいする持続化給付金や休業補償などに加えて、いわゆる「Go To」キャンペーンなるも
のが大々的に宣伝され、人びとの外出と消費を煽り立てています。

現在、国が推進しているGo Toキャンペーンは、①トラベル、②イート(飲食)、③イベント、
④商店街の4種です(注1)。

実際には、これらに加えて、各自治体は商店街、あるいはホテルなどが独自に行っているさまざ
まなキャンペーンがあります。

これまで、日本の消費全体に大きな比重を占める東京がGo To キャンペーンの対象から除外され
ていましたが、10月1日から全面対象となり、東京発着の旅行、都内での飲食・宿泊も割引や
特典が受けられるようになります。

確かに、こうした「お得情報」を毎日、これでもか、というほどメディアで流されていると、こ
の際、今まで我慢してきたから、思い切って高級ホテルに泊まり、高級料理を食べてみたい、と
言う人はいるでしょう。

実際、9月末の街でのインタビューでも、若いカップルは、コロナも収まってきているみたいだ
し、と答えていました。

しかし、医療関係者で、現在、コロナの感染が収束に向かっていると判断している人は、おそら
くいないでしょう。

人が動けば、ウイルスも動く。人が会食をすれば、唾液の飛沫でウイルスも拡散します。

というのも、9月の4連休(19~22日)に(東京を除く)Go Toトラベルを前倒しにして、多
くの人がどっと、観光地に繰り出しましたが、その結果、感染がどうなったかは2週間後、つまり
10月7日ころから出ることになるので、医療関係者は慎重になっているからです。

しかも、東京都の新規感染者は、9月29日の新規感染者は221人、9月30日は194人、
そして東京都がGo To キャンペーンの対象なった10月1日は235人にも達しているのです。

これだけの数字をみても、東京都の感染は決して収束に向かっているとはとても言えません。

思い出して欲しいのですが、政府が7都府県に緊急事態宣言を出した4月7日でさえ、東京の新規
感染者数は87人だったのです。そして、第1波が収束傾向となり、東京都が休業要請を解除した
6月19日の新規感染者数はわずか35人だったのです。

1日の感染者が100人を超えた、というニュースが流れると、私自身もそうでしたが、本当に
恐怖を感じました。

当初は、夏になれば、通常のインフルエンザと同じで、新型コロナウイルスの感染も自然に下火
になると、と予想されていました。

しかし、実際には、4月5月よりも、酷暑の7月、8月の方が感染者ははるかに多いのです。

このような状況下で、政府が積極的にGo Toキャンペーンを推進することで、人びとに根拠のな
い安心感を与え、結果として感染を拡大してしまうのではないか、と取り越し苦労をしてしまい
ます。

実際、すでにみたように、みんなが安心して旅行に出かけ、飲食を楽しむほどコロナの感染が収
まっているとは思えません。

いずれにしても、私は、今回の Go To キャンペーンの経済効果は一過性の線香花火のようなもの
で、長期的には日本経済全体の回復にはあまり効果はないと思います。

一方で、「お得」に惹かれて旅行に出かけ、高級ホテルやレストランを楽しむ人もいますが、多
くの日本人は、いくらお得だからといって何回も旅に出たり豪華な食事をすることはないでしょ
う。

働く人の賃銀は上がらず、コロナ関連の失業・雇止めは6万人を突破しており、これからはさら
に飲食店や宿泊施設などで、閉店や廃業が増えてゆくことが考えられるからです。

加えて、世界と日本の全般的景気低迷で、製造業そのたの主要産業・企業は新規の投資を渋って
います。これでは、いかに Go To キャンペーンを推し進めても、日本経済の根幹は相当傷んでお
り、それを修復しさらに強化することにはならないでしょう。

もう一つ忘れてはいけないことは、Go To キャンペーンで「得した」分は、私たちの税金なのです。

具体的には、赤字国債を発行して、言い換えると借金して作り出したお金です。したがって、この
キャンペーンで使われたお金は、いずれ私たちが税金(増税)で埋め合わせることになりますし、
現在の世代で埋め合わせることができない分は、次世代に借金を付け回すことになるのです。

これはタコが自分の足を食べるような構図で、私たちは自分の肉を食べていることになるのです。

それでは、「感染を抑えつつ経済を回す」(政府が好んで使う言葉でいえば、ウイッズ・コロナ)、
の「感染を抑える」方はどうなっているのでしょうか?

私が見る限り、これといって積極的な方策は講じていませんし、少なくとも「経済を回す」ことほ
ど力を入れていないことははっきりしています。

政府が行っているのはただ、三蜜を避ける、手洗い、マスクをしましょう、という掛け声だけです。
これで感染が防げるのなら、話は簡単で苦労は要りません。

今まで抑えてきた欲望を一挙に開放してしまえば、その後で何が起こるのか、ヨーロッパの例をみ
れば明らかです。

私には、Go To キャンペ―がもたらす「経済が回る」メリットよりも、リスクおよび感染拡大のデ
メリットとの方が大きいように思えます。

最大で最良の経済対策は、ウイルスを抑え込みであることをしっかり認識し、政府は大都市を中心
に、徹底的なPCR検査を希望者全員に無料で行い、陽性者を隔離する施設を準備することが重要
です。その費用は大したことではありません。

感染のリスクが減れば、Go To キャンペーンなどなくても、人びとは旅に出るし、飲食も楽しむで
しょう。

私が、さらに恐れているのは、政府が経済の回復に向けて入国制限をさらに緩和し、10月1日から
全世界を対象に、3か月以上の中長期の在留資格を持つビジネス関係者、医療や教育の関係者それ
に留学生などの外国人に日本への新規入国を認めることです。

水際対策の一環として、政府は、159の国と地域からの入国を原則として拒否していますが、すでに、
ベトナムや台湾など比較的、感染状況が落ち着いている一部の国や地域との間で、ビジネス関係者
を対象に往来を再開させています。

ただ、政府内では入国制限の緩和が国内での感染拡大につながらないか懸念もあることから、今回の
措置による日本への入国者は、陰性証明、14日間の外部との接触を断った待機(もちろん、ホテル
代などは自己負担)などの措置を確約できる受け入れ企業や団体がいることを条件とし、入国者数も
限定的な範囲にとどめることにしています。

しかし、14日間の待機も、基本的には性善説に立った「お願い」で、どこまで外国人がこれを守る
のか疑問です。

政府は今後、各空港でのPCR検査などの体制拡充を図るなどして、徐々に日本への入国者数を増やし
ていくとともに、各国の感染状況を見極めながらそれぞれの政府と往来再開の協議を進め、日本から
入国できる国を増加させていきたい考えです

これについても、医療者の間では、時期尚早で、もっと慎重に少しずつ門を開くべきだ、という見解
が多数です。

これから、ウイルスの活動が活発になる季節に入ってゆきます。新型コロナウイルスが拡大するのは、
これからが本番です。それに備えて、政府も自治体も、私たち一人一人が、Go To に浮かれることな
く、ウイルス感染に注意しましょう。

(注1)さし当り、環境庁のホームページを参照されたい。
https://www.mlit.go.jp/common/001339606.pdf


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検証「コロナの時代を生きる」(5)―“貧しき者は ますます貧しく過酷な状況に”―

2020-09-09 09:11:57 | 健康・医療
検証「コロナの時代を生きる」(5)
―“貧しき者は ますます貧しく過酷な状況に”―


「富める者はますます富み、貧しき者はその持て物をも奪われるべし」(新約聖書マタイ伝13章12節)
という冷徹で苛酷な現実が、コロナ禍の日本で進行しています。

今年の始めから世界に広まった新型コロナウイルスは、それまで社会の奥底に隠されていた深刻な問題
をあぶり出しました。

中でも、地球規模でも日本国内にも存在する貧富の格差と差別は深刻です。
ウイルス禍は、ある意味“平等な”側面を持っている、と言われることがあります。その根拠は、豊かな
人も貧しい人も平等に感染するから、というものです。しかし、現実は違います。

ニューヨークでは、貧しい黒人やそのたヒスパニック系マイノリティーなどが集中する地区の感染者の
方が、豊かな白人が住む居住区よりも、感染率も死者数もはるかに多いことが分かっています。

というのも、貧しい人たちは、コロナ禍のただ中でも、ゴミ収集人、街の清掃人や宅配の配達人など、
“エッセンシャル・ワーカー”(社会を維持してゆくうえで必要不可欠な働き手)、として、たとえロッ
クダウン(都市封鎖)の状況下で感染の危険をおかしてでも働きに出なければならないからです。

日本ではどうでしょうか。日本ではアメリカのように人種的、経済的事情によって居住区が分かれる
ということはありませんが、それでも別の形で、コロナ禍は貧富と格差という社会の傷口を一挙に広
げました。

今年の6月頃、テレビで、軽井沢で貸別荘を斡旋している不動産会社の職員の話を伝えていました。
彼によれば、当時すでに8月いっぱいまで、貸別荘は予約で満室だそうです。

このように自分の別荘や貸別荘で避暑とコロナを避ける一石二鳥の生活を送ることを、メディアでは
「コロナ疎開」と呼んでいましたが、これできるのは富裕層だけです。

では日本の貧しい人、弱い立場の人たちはどのような現実に直面しているのでしょうか?以下に示す
例は現在、日本のどこにでも起こっている現実の一端です。

千葉県に住む40代の女性は8月28日、仕事から帰宅してテレビをつけた。画面には、辞意を表明する
安倍首相の姿が映っていました。彼は誇らしげに「400万人を超える雇用をつくり出し……」と実績
を強調していましたが、この女性は、空しさがこみ上げた、といいます。

彼女は葬儀場で食事を提供する会社で14年間、非正社員として働いていました。繁忙期は休日返上で
職場に貢献してきたつもりでしたが、新型コロナウイルス禍で会社が休業すると、非正社員に休業手
当は出ませんでした。結局、7月で解雇。いわゆる「雇止め」です。

安定した次の仕事は見つからず、やむを得ず、個人請負の配送の仕事に就きましたが、「雇用保険も
なく、労働者として守られていない。不安だけど生活のためには仕方ない」と諦めでいます(注1)。

3年毎に行われる国民生活基礎調査(18年度版)によれば、非正規就業者は全体で約38%ですが、
男性21%なのに対して女性は55%強と、半数以上に達しています。明らかに女性は差別されてい
ます。

まだ現時点でも正式の統計は出ていませんが、おおざっぱにいって、現在は全就業者の4割近くが非
正規ではないかと思われます。

「労働問題弁護士ナビ」によると、「コロナ解雇」といえる「雇止め」は、今年4月末で3774人
でしたが、5月21日時点で葉1万6723人と、1か月で1万人以上増えています(注2)。

おそらく、6月末から7月末にかけての東京都、大阪府、愛知県、福岡県など大都市圏における爆発
的な感染者の増加以降、「雇止め」はさらに急速に増えていると思われます。

厚労省が9月8日に発表した、コロナ禍に関連する解雇や雇止めが、見込みも含めて5万2508人で、
4日時点で、先週より3,041人増え、うち、パートやアルバイトなどの非正規が77%を占めていた。
これも、ハローワークなどの事業所からの報告を基に集計したもので、実際はもっと多いと思われま
す(『東京新聞』2020年9月9日)

それは、日本経済全体が、これまでになく大きく落ち込んでいるからです。

新型コロナウイルス禍が直撃した2020年4~6月期に実質国内総生産(GDP)が前期比年率27.8%減と
いう、戦後最悪の衝撃的な落ち込みが明らかになりました。

それもそのはずで、昨年10~12月、1月~3月、4月~6月の3連続四半期(9カ月)で54兆
円のGDPが消えてしまったのです。日本の一般会計予算が100兆円であることを考えれば、いか
に大きな落ち込みかがわかります。

コロナショックの落ち込みは、リ―マンショック(1年で43.5兆円)、東日本大震災(9が月で
14.2兆円)と比べても、はるかに大きいのです(注3)。

人を雇う企業側は、非正規就業者を、いつでも解雇できる都合のよい働き手、と考える傾向がありま
す。景気が悪くなれば、経費削減のためにこうした人たちを真っ先に解雇しようとします。

しかも、現在ではコロナ不況を大義名分として、報告されている以上の「雇止め」が発生している可
能性があります。

「雇止め」以外でも、正規社員は自宅でのテレワークが認められているのに、非正規就業者には出社
を強制するなどの事例が報告されています。

それでは、このようなコロナと経済の後退の中で、とりわけ追い詰められている状況を母子家庭にお
ける実態から見てみましょう。

母子家庭は全国におよそ123万世帯で、ここ5年ほどほぼ横ばいです。このうち相対的貧困率(平
均世帯年収の半分以下)は50.8%、つまり半分強です。

子どもいる世帯に限って言えば、平均年収は707万円ですが、母子世帯では200万円以下が60
%弱です。300万円以下が80%です。

もちろん、母子家庭には、国からも生活や養育に対する公的扶助が与えられ、離別した父親からも養
育費が入る(しかしこれは必ずしも保障されない)ので、実際は、もう少し多いのかも知れません。

いずれにしても、シングルマザーは、残業も出張も頼みにくいし、子どもの健康状態によっては急に
仕事を休むかもしれないなど、マイナス点が多くあるので、企業はシングルマザーを正規労働者とし
て雇いたがりません。

そこで、シングルマザーはやむなくパートや非正規就業者になるしかないのです。しかしパート、ア
ルバイトの収入は極端に低く、平均年収は133万円しかありません(注4)。

こうした状況で、母子家庭はどのような生活を強いられているのでしょうか?

NPO法人「しんぐるまざーず・ふぉーらむ」が今年7月に行った「新型コロナによる母子家庭の食
生活美変化」にアンケート調査(1800人が回答)によれば、

1回の食事量が減った(14.8%)、1日の食事回数が減った(18.2%)、お菓子やおやつを食事の代
わりにすることが増えた(20.1%)、 炭水化物だけの食事が増えた(49.9%)、インスタント食品が
増えた(54.0%)、という結果でした。

説明は要らないと思いますが、これらの数字を見ただけで、胸が痛くなるほど残酷な状況です。

恐らく、食事といっても半数近くの世帯では、せいぜいお米+α、カップ麺、菓子パンなどの炭水化
物やインスタント食品が中心なのでしょう。

それでさえ、1日の食事の回数を減らさざるを得ない家庭が18%もいるのです。

こうした家庭の子どもの将来を考えるととても心配になります。

アンケートの自由記述では、「こどもたちには2食で我慢してもらい、私は1食が当たり前。3か月
で体重が激減」(二人の子どもを持つ30代)という切実な事情を書いています。

コロナは食事だけでなく子どもの教育にも母子家庭に深刻なダメージを与えています。

「子どもが学校にゆけなくなった。タブレット、パソコンがないため会話に入れずいじめに近い感じ。
子どもを守れていない自分が嫌で死にたい」(3人の子どもを持つ30代)、といったように、実態
は想像を超える過酷さです(『東京新聞』2020年9月7日)

こうした家庭で育った子どもたちが健全な身体や精神を培うことは非常に難しいでしょう。彼らは高
等教育を受けることは難しく、就職にも不利で、収入の低い職しか得られない可能背があります。そ
こでまた、貧困が生み出される、「貧困の連鎖」が生じます。

これが本当に、憲法で「健康で文化的な生活」を保障している、“豊かな”日本の実情でしょうか?弱
者に優しい国こそが、真の文化国家だと思います。

「Go To トラベル」も「Go To イート」も、貧困にあえいでいる母子家庭にとっては無縁の話です。

それでも「Go To トラベル」事業に1兆3500億円、「Go To イート」に767億円の予算が組まれ
ています。その本の一部でも貧困層に給付すべきではないでしょうか?

政府は、貧困層の問題にはあまり関心がないようですが、このような世帯の子どもたちも健康で文化的
な生活を送る権利があり、彼らこそがこれからの日本を背負ってゆく世代なのです。

子どもへの投資は、国にとって非常に価値のある投資なのです。

そして、コロナ禍の先が見えない現在、経済の縮小は不可避で、一部の富裕層は株などへの金融投資で
潤うかもしれませんが、大多数の国民は所得の減少に直面してゆきます。

雇用者数を季節による変動を差し引いて集計すると、今年6月までの3カ月で145万人減っています。ま
た企業活動の停滞で、非正規従業員の雇い止めなどが広がったからです。

1人当たりの現金給与総額も、残業代の減少などを受けて6月に前年同月比1.7%減と低迷しています。20
年の春季労使交渉の賃上げ率は前年より縮み、今夏のボーナスも鉄鋼や鉄道などを中心に減った企業が
多くあります。

4~6月期の雇用者報酬の減少は金額にすると2.6兆円程度。仮に1年間回復しなければ10兆円規模の減額
となり、計12兆円あまりの定額給付金の効果が薄れると家計はいよいよ厳しくなります。つまり、本当
に家計が苦しくなるのは、これからなのです。

ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎氏は「20年度の家計の可処分所得は給付金が押し上げ、21年度は反動で
落ち込む。雇用所得環境の悪化が消費の回復を遅らせる可能性が高い」と分析しています。分配が減り、
成長の妨げになる悪循環が忍び寄ってきます(注5)。

これを食い止められるかどうかは、政府と国民が真剣に貧困と格差・差別の解消に取り組むか否かなか
にかかっています。

「富める者はますます富み、貧しき者はその持て物をも奪われるべし」(新約聖書マタイ伝13章12節)
という古来の警句を、私はもう一度胸に刻んでおきます。


(注1)『朝日新聞』デジタル(2020年9月8日 5時00分)
https://www.asahi.com/articles/ASN976WVKN94ULFA02Y.html?ref=mor_mail_topix1
(注2)https://roudou-pro.com/columns/11/
(注3)『日経新聞』(2020年8月19日)
    https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62781930Y0A810C2EE8000/
(注4)「しんぐるまざーず・ふぉーらむ」https://www.single-mama.com/status/
(注5)『日本経済新聞』デジタル版(2020/8/20 23:00)    https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62867620Q0A820C2EE8000/?n_cid=NMAIL007_20200821_A
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
最近ではこのような古典的なアサガオは珍しくなりました。                   これは最近のはやり出したアサガオなのでしょうか
 


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検証「コロナの時代を生きる」(4)―日本政府に見捨てられる沖縄―

2020-08-13 09:06:06 | 健康・医療
検証「コロナの時代を生きる」(4)
―日本政府に見捨てられる沖縄―

感染症の感染が、東京都を中心とした首都圏に集中的に広がっていると思っていたら、大阪府、
愛知県、福岡県でも集中的な感染拡大の見られるようになりました。

東京都の1日当たりの感染者が100人を超えた時には、人びとは一様に驚きましたが、そのう
ち200人台、300人台が普通になってしまうと、次第にこれらの数字に慣れてきてしまいま
した。

しかし、そして8月1日には472人に達した時、さすがに驚きを通り越して、恐怖を覚えたの
ではないでしょうか?

それは、自分のいつどこで感染するかもしれない、という恐怖感に加えて、このまま増えると、
日本は一体どうなってしまうんだろう、そしてどこまでいったら感染は止まるのだろうか、といっ
た漠然とした不安が私たちの頭から離れないからです。

私たちの目が首都圏その他の大都市における感染者の増加に奪われている間に、沖縄では、ある意
味ではもっと深刻な事態が進行しています。

沖縄に関しては、「GO TOトラベル」キャンペーンの前倒しにより7月23~26日の連休に本土
から多くの観光客が押し寄せました。

沖縄には、これら本土からの観光客に加えて米軍基地の軍人や軍属からの感染もあります。

沖縄は感染症患者を受け入れる医療態勢も不十分な上に、観光客によると思われる感染者が急増し、
事実上、医療崩壊に近い状態にあります。

数字で見え見ると、通常は60人~80人台なのに8月9日に159人という驚異的な新規の陽性
者が発生しました。

沖縄県の人口は東京都の人口の10分の1ですから、この比率を適用すると東京都の1590人と
いう、とんでもない数字に相当します。

これは例外的に多かった日ですが、もう少し別の角度から沖縄の感染実態を見てみましょう。

8月10日の沖縄県の新規感染者は52人でした。これを人口10万人当たりの人数で示すと41.7人
で全国1位、東京の7~8人と比べると、いかに多いかがわかります。

また翌11日12:00までに382人のPCR行政検査が行われ、そのうち64名が要請でした。
したがって、陽性率は17%弱。東京が7%弱でしたから、沖縄県の陽性率はかなり高かったといえ
ます。

また、見逃すことができないのは、感染患者の病状です。8月10時点の入院患者は258名、うち
中等症(酸素の供給を受けなければならない患者)は54名でした。中等症患者は、重症者(集中治
療室での治療が必要)の予備軍と考えるべきです。そして重症者は、12名でした。

東京都は軽症者と中等症者とを一緒にした数字しか発表していないので直接的な比較はできませんが、
重症者は22名でした。

ここでも、東京都の人口比を当てはめると、沖縄県の重症者は東京都の120名に相当し、医療施設
とスタッフが東京と比べてはるかに脆弱な沖縄にとって、極めて厳しい状況に追い込まれていること
が分かります。

沖縄は6月25日まで、57日間も感染者がゼロであったことを考えると、8月の感染者の増加は驚
異的です。

ここまで急速に感染者が増加したのは、いうまでもなく本土からの観光客と米軍からもたらされたと考
えられる、一旦、沖縄に持ち込まれてしまった後の感染拡大はすさまじかったようです。

一人の人が何人に感染させるかという指標(実効再生産数)を見ると、関東圏は1.2、関西圏が1.6で
あるのに対して沖縄は3.2と以上と、格段に高い数値です。

もしこの数字が1なら、増減なしの状態、1より小ならやがて収束、1より大きい場合は当然増えます。

実効再生産数が3.2であれば、倍々以上に増えていってしまいます。

沖縄県が現在直面している深刻な危機は、重傷者用の病床数15しかないのその8割に相当する11床が
埋まっていることです。

しかも、中等症の患者さんが、いつ重症者となるかも知れません。これを考えれば、現在すでに満杯とい
う状況です。

本来なら、沖縄という本土から遠く離れた島で生じている非常事態に、政府は全面的に援助の手を差し伸
べるべきなのに、安倍政権は、沖縄にたいして冷めたく突き放しているように見受けられます。

菅義偉官房長官は3日の記者会見で、沖縄県が新型コロナウイルス感染者用のホテルを十分確保できてい
ないことについて、「政府から沖縄県に何回となく確保すべきであると促している、と報告を受けている」
と、婉曲的に沖縄側の対応を非難しています(注1)。

もちろん、口に葉出しませんが、私には、菅官房長官は政府がアメリカの意を受けて進めている辺野古の基
地建設に沖縄県知事が一貫して反対していることに、ここぞとばかりの「意趣返し」あるいは「いじめ」を
しているとしか思えません。

ちょっと、待って欲しい。沖縄は、このころすでに、まさに菅官房長官が肝いりで推進している「GO TO ト
ラベル・キャンペーン」で、本土からの観光客でホテルは満室だったのです。

さらに言えば、沖縄にある米軍基地の軍人にも多数の新型コロナウイルス感染者がいることは分かっているの
に、政府は、この実態の報告を強く求めてきませんでした。

このままでは県民の不安をぬぐえないと判断した玉城知事は、7月15日、防衛省に河野太郎防衛相を訪ね、
在日米軍基地内で新型コロナウイルスの感染が拡大していることについて「県民は大きな不安に駆られてい
ると伝達、日本政府として改善に取り組むよう求めました。河野氏は「非常に懸念を抱いている。対応をと
っていく」と応じました。

沖縄県は同日、米海兵隊キャンプ・ハンセン(金武町など)で新たに36人の感染が確認され、在沖基地内
の累計が136人、24日には205人となったと発表しました。すでに、沖縄での日本人の感染者に匹敵
する数です。

外務省によると、日米地位協定に基づいて、在日米軍人には出入国管理法が適用されない。家族や軍属も、
強化されている水際対策の例外と位置付けられており、入国時の検疫を受けません。

米国軍人の中には、基地外の住居に住んでいる家族もいます。また、基地内にいる軍人も自由に街に出てレ
ストランで食事することもできます。テレビでは、街で大騒ぎをする米兵たちの映像も流されました。
 
玉城知事は、日本に入国する全ての米軍関係者へのPCR検査実施や、検疫に関する日本の国内法が在日米
軍に適用されるよう地位協定の改定を求める要請書を、河野氏に手渡しました。会談後、玉城氏は「(河野
氏は)基地を受け入れている都道府県の立場を受け止め、米側に言うべきことはしっかり言っていただきた
い」と記者団に語りました(注3)。

しかし、現在のところ、基地に所属する軍人は入国時にPCR検査を義務付けられておらず、しかも外出して
街のレストランなどに行くことには何の制限もありません。(カリフォルニアでは厳しい制限あり)

ここで重要な問題は、米軍人の感染者の検体を分析すれば、彼らのウイルスの遺伝子の構造がわかり、現在沖
縄で広まっているウイルスのうち米軍由来のものがどれほど入っているのかがわかります。

米軍は当然、このような分析はしているはずですが、この重要な情報は日本側にはもたらされていません。

ところで、上に引用した菅官房長官の発言の4日後の8月7日、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会
(尾身茂会長)が東京都で行われ、地域における感染拡大の進行状況を4段階で示す「ステージ」と、その判断
材料となる指標や目安をまとめました。

会合後の会見で尾身会長は、沖縄が複数の項目で「緊急事態宣言など、強制性のある対応を検討せざるを得ない
」、とされる「ステージ4」、またはその1段階下の「ステージ3」の目安を超えているとの見方を示し、国の緊
急事態宣言を発出する対象になり得る可能性を示唆しました。

実際の判断は国や都道府県が行うことだとし、一つの指標で機械的に判断するのではなく「総合的に判断してほ
い」と述べるにとどめました。西村康稔経済再生担当相は、国の緊急事態宣言の発出は専門家の意見を聞いた上
で国が判断すると強調しました。指標の中でも病床の逼迫(ひっぱく)具合を重視する姿勢を示した(注3)し
かし、今のところ何の具体的アクションをとっていません。

思えば、沖縄は第二次世界大戦末期に、米軍の日本への進軍の防波堤として本土の日本人を守るために大きな犠
牲を払わされました。言い換えれば、沖縄は日本政府によって見捨てられたのです。

戦後は、日本の国土の0.6%しかないのに、在日米軍基地の70%を押し付けられ、土地を取り上げられ、航空機
の離発着にさいして危険と騒音という迷惑を押し付けられています。ここでも沖縄は日本本土のために見捨てら
れていると言えます。

もし、このまま政府が全面的に感染防止に動かなければ、これで三回目に見捨てたことになります。

政府にできることはたくさんあります。何よりもまず、国として強制力をもった「緊急事態宣言」を出し、できる
限り多くの島民にPCR検査を政府の負担で実施し、観光客には空港での検疫を義務化する。

他方、飲食街などへの休業要請を、補償金の裏付けをもって行う。島民には8割の外出自粛を強く求める、・・・
などです。

今、沖縄の県知事は、法律に基づく強制的措置を取ることができないし、さらに財政的な裏付けも持たされていま
せん。まさに、徒手空拳で闘わざるを得ない状態です。

玉城知事は、8月1日と5日に、独自の「沖縄県緊急事態宣言」を発出しますが、これはあくまでも「お願い」ベ
ースで、国が発する強制力をもった「宣言」ではありません。

それでも、県民と観光客に注意を喚起するという目的のために、このような措置を取らざるを得ないところに、沖
縄の置かれた状況が現れています。

沖縄県はもう、尾身会長が言っている「緊急事態宣言」を出さざをるを得ない段階に来ていると思われます。政府
は、沖縄に対する否定的な感情を捨てて、一刻も早くこれを実行し、感染の拡大と死者の増加を止めるべきです。

(注1)『沖縄タイムス』(2020年8月3日:12:30)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/610927
(注2)JIJI.COM (2020年7月15日 19:09)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020071500845&g=pol
(注3)『琉球新聞』(2020年8月8日) Yahoo ニュースに引用。https://news.yahoo.co.jp/articles/b10040d401fb96054dacfa5b56344d56fb243056
(注4) 沖縄県のホームページ 2020年8月1日、5日)  https://www.pref.okinawa.jp/documents/kinkyuzitaisengen.pdf https://www.pref.okinawa.jp/20200805.html
https://www.pref.okinawa.jp/20200805.html
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
アベノマスクの新用法 2題 (これが本当の用法かも)

  
『東京新聞』2020.8.1 『東京新聞』2020.8.8



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検証「コロナの時代を生きる」(3)―”With Corona”「コロナとの共生」とは「経済を回す」こと?―

2020-08-03 21:53:33 | 健康・医療
検証「コロナの時代を生きる」(3)
―ウイッズ・コロナ(コロナと共に)とは「経済を回す」こと?―

日本の新型コロナウイルスの新規の感染者の数は、東京をもっとも深刻な震源地として、大阪府、
愛知県、福岡県などの大都市圏とその周辺地域に確実に広がりつつあります。

東京都の感染者が8月1に472人に達し、7月29日には、それまでゼロだった岩手県で初めて
2人の感染者がでました。

これで全国、全ての都道府県で陽性患者が出たことになります。日本は名実ともに「コロナ列島」
となってしまったわけです。

このような事態に対して、医師や感染症の研究者は、政府に対する強い警告が発せられました。

たとえば東京大学先端科学研究センター名誉教務の児玉龍彦氏は、7月16日の参院予算員医会
(閉会中審査)で参考人として発言し、新宿区に新型コロナウイルスのエピセンター(感染の震
源地、集積地)が形成されつつある、と指摘しました。

そして、感染拡大防止に「国の総力を挙げないと、ニューヨークの二の舞」になる、「来週になっ
たら大変なことになる。来月になったら目を覆うようなことになる」と警告し、したがって、「大
規模なPCR検査の実施を通じて抑え込むことが急務だ」、と声を震わせて訴えました。

さらに、現在「極めて深刻な事態となっている事」ので、外出自粛を呼びかけるステイホームでな
く「遺伝子工学・計測科学を使った(感染者の)制圧が重要。致死率は時間とともに上昇する」と
提言しました(注1)。

児玉氏のこの発言は、テレビのニュースで何度も放送されたので、見た人も多いと思います。私は
児玉氏の発言を聞いていて、科学者として、また一人の人間としての真剣さ誠実さ、そしてこの危
機をなんとか乗り越えようという熱意と真摯な姿勢に、心が震えました。

また、児玉氏は21日には衆議院第二議員会館で講演し、「感染者が減った段階で検査を徹底して
無症状の感染者をあぶり出し、感染の芽を摘むべきだった。そうならなかった結果、無症状の感染
者が繁華街に集まり次々に感染を広げるエピセンターができてしまった」とも話しています。

つまり、打つべき時に打つべき手を打たなかった失政が今日の感染拡大をもたらしている、と言っ
ているのです。

そして7月28日には、感染の拡大状況について、「今、日本は(検査数が)世界で、人口あたり
158位から159位、バングラデシュとかカメルーンに抜かれて、世界の最貧国のグループに入
ってますからめちゃくちゃ少ない」。

したがって「政府は思い切って方向を変えるときが来ている」として、PCR検査の体制拡充や接
触確認アプリのさらなる普及など、国を挙げての取り組みを促しました(注2)。

この発言は、政府はやるべきことをやってこなかったから現在このような状況が生まれたのだ、と
政府の真剣で迅速な取り組みを要請しました。

児玉氏の発言とならんで、現状の厳しさを訴えたのは東京都医師会の尾崎治夫会長が7月30日に
行った記者会見での発言です(注2)。

尾崎氏は、医師として実際に患者と向き合っており、その治療に責任を負う立場から、「国の無策で
感染が拡大した。もう我慢できない」という国の無策に対する怒りを、ストレートにぶつけました。

尾崎氏は、具体的な方策として、(1)無症状者を含めた感染者の徹底的な隔離、(2)コロナ対策の
特別措置法を改正して法的拘束力を持ち補償を伴った休業要請、(3)エピセンター(震源地)化して
いる地域での一斉PCR検査の実施、の3本柱が必要だと提言しました。

東京だけでなく、愛知や大阪、福岡や沖縄でもエピセンター化が進んでいることを考えるならば、「こ
のまま強制力のない休業要請を続けたら、日本中が感染の火だるまに陥ってしまう。今が第2波だとし
たら、これが感染を抑える最後のチャンスだ。新型インフルエンザ等対策特別措置法改正のために、政
府は今すぐに国会を召集して議論を始めてほしい」と強く訴えました。

つまり、そのためには「国が動く」ことが必要で、「各都道府県にお任せして、『休業お願いします』、
『できれば検査もしてください』ではもう無理だ。 肝はここである「いますぐに国会を召集して、特
措法の法改正の検討していただきたい。私は今が感染拡大の最後のチャンスだと思っている」と語気を
強めて訴えました(注3)。

ここにも私は尾崎氏の「魂の叫び」を感じました。

尾崎氏はまた、政府の Go To キャンペーンに対して公然と「Not Go To キャンペーン」を
訴えてもいました。これが、常識ある日本人の感覚でしょう。

ちなみにこの会見を見た医師の多くは尾崎氏の発言に賛同していたようです。

では、このような「国難」ともいえる状況に対して、政府、とりわけ国家のリーダーである安倍首相は、
どのように対応してきたのか、そして、これからどのように対応しようとしているのでしょうか?

どこの国を見ても、大統領や首相が前面に出て、議会や記者会見の場で政府の基本的な考え方や方策につい
て説明しています。

しかし日本では、6月17日の通常国会閉会後、国会を閉じてしまっているので、尾崎会長が言うように、
法律改正の審議も決議もできません。

さらに安倍首相はこの1か月間、一度も記者会見を開いていません。おそらく、記者会見で厳しい質問を受
けるのを怖がっているのでしょうが、そんなことならリーダーの座を降りていただき、新たな体制の下でこ
の難局に立ち向かう方が国民のためです。

最初の感染の波が起こって以降、政府がやったことと言えば、使い物にならないアベノマスク(ちなみに、
最近はさすがに、正常な大きさのマスクに変えていますが)に500億円以上も使ったこと、全国民に1人
10万円の定額給付金をばらまいたこと、そして、突如の「GoTo キャンにペーン」の前倒しくらいです。

政府を代表して、西村康稔経済再生担当相は、口を開けば「感染症対策を徹底しつつ、経済を回す」ことを
強調します。すなわち、これが “With Corona”というわけです。

しかし、Go To キャンペーンを前倒しして7月22日からの四連休から始めるように急遽変更したこ
とに、さまざまなアンケート調査の結果をみると、6割から7割の人は、感染が急速にまん延しつつある今、
始めることには反対でした。

私も同感です。というのも、キャンペーンを積極的に進め、どんどん旅行に行ってくださいと、政府が人の移
動にアクセルを踏めば必ず感染は拡大し、結局は旅行者が減り、観光業界も干上がってしまうことが十分予想
されるからです。

しかも、旅行に出かける人も、地方に行って、どことなく後ろめたさを感じているようで、多少、国からの補
助がでたとしても、思い切り、楽しむ気分にはならないでしょう。

私が見過ごすことができないのは、この事業に関して国交省のある幹部が、国交省幹部は「正直、多少の感染
者が出ることは想定内」だと語ったことです。

彼の本音がついで出てしまったのでしょう。官僚は国民をこのように見ているのだ、ということが良く分かりま
した。

政府は「経済を回す」ことには熱心ですが、それでは他方の感染症の制圧にたいしては何ら手を打っていません。

今年の春にこのキャンペーンの実施を閣議決定した時には、コロナ感染が収束し、国民が安心して旅行に出かけ
られるようになったら、という条件つきで、しかもその開始は8月1日でした。

しかも今回、7月の4連休に間に合わせてGoToトラベル事業を前倒し(但し東京発着の旅は除外)した結果、
事業開始後の連休中に人の移動と感染者は確実に増えました。しかし菅官房長官は、「重症者は少ない」とした
うえで、事業の除外地域を広げる考えはない、と明言しています。

ここまでみてくると、With Corona という耳障りの良い言葉の本体は「経済を回す」ことだったということが分か
ります。

この事業で、一時旅行者が増えても、もともと設定されていた、8月以降の需要を「先食い」しているだけで、純
粋に旅行者が増えることになるのか大いに疑問です。

西村氏は旅行と「Go To イート」という飲食店支援など、「経済を回す」アクセルを思い切り踏む一方で、感染の
拡大に警戒感をあらわにしながら、企業に、在宅勤務率を7割目いっぱいに増やすこと、時差出勤の維持、大人数
での会食や飲食の自粛など企業に対策の一層の強化を求めます。その一方で、政権幹部の麻生氏は都内のホテルで
16日に、派閥のパーティーを開いています(『東京新聞』2020年7月28日)。

在宅勤務についていえば、現在、いわゆる「テレワーク」(在宅勤務)が認められる人は働く人の何割くらいいる
と考えているのでしょうか。

恐らく大企業の事務部門やIT企業などは、ある程度在宅勤務が可能かもしれません。しかし、中小企業、物品販
売業、飲食・宿泊を中心とするサービス業の大部分、営業関係の仕事、製造業、交通・運輸や清掃に携わる人たち
は、在宅勤務はできません。

いずれにしても、アクセルを吹かすことには積極的ですが、ブレーキとして国はお金を出すことなく、企業と個人へ
の「要請」だけです。これでコロナの感染が抑止できたら奇蹟です。

ところで、国としてどのように感染を抑止するかを検討する機関として、政府の有識者分科会があります。

7月31日に開かれた会合で尾身茂会長は感染状況を四段階に分け、レベルに応じて必要な対策を講じるという大枠
を示すにとどまり、具体的な指標も方策も示しませんでした。

児玉名誉教授や尾崎東京医師会会長のような専門家が現実を直視するように訴えているのに、なぜ政権の面々は危機
的な状況を認めようとしないのでしょうか。

政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏は、「頭にあるのは経済対策だけ。第二波の到来を認めてしまうと経済の話をストッ
プさせ、外出自粛や休業補償などを考えなければいけなくなる。それを避けたいから現実を直視しない」とコメントし
ています(『東京新聞』2020年7月22日)。これでは全く本末転倒です。

リーダーが国会を開かず逃げ回っている現在の日本は、国家の体を成していません。

今のところ、感染が収束にむかう要素はなにもない状態ですから、感染は長期にわたって拡大してゆくでしょう。

コロナ対応は私たち国民一人一人に丸投げされ、その結果は自己責任という状況で、感染に脅えつつ、しばらくは現政権
の下で「コロナの時代」を生きてゆかなければならないことを思うと暗澹たる思いです。


(注1)FNNニュース(2020年7月16日午後8:43)。映像はhttps://www.fnn.jp/articles/-/63758
(注2)TBS Nステ (2020年7月28日 15:48)https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4039348.htm 
(注3)尾崎会長の怒りの会見は、ノーカットで見ることができます。https://www.youtube.com/watch?v=uisuAyrY67g&feature=youtu.be
また記事としては『医療維新』(2020年7月30日) https://www.m3.com/open/iryoIshin/article/804643/?category=report
を参照。」
(注4)https://news.livedoor.com/article/detail/18574145/

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地下生活者たちの痕跡1 セミが這い出た後の穴。どれほどの年月、地下で暮らしていたのか?   地下生活者たちの痕跡2 アリの出入り口。この中でどんな生活をしているのか? 

 



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検証「コロナの時代を生きる」(2)―船長不在で漂流する日本丸―

2020-07-25 16:55:32 | 健康・医療
検証「コロナの時代を生きる」(2)
―船長不在で漂流する日本丸―

7月始めに東京都の感染者数が100を超えて、多くの人がショックを受けましたが、
あっと言う間に200人台が続き、23日にはついに366人、と300人台に上がっ
てしまいました。

恐らく、これとても控えめな数字で、検査を拡大すればすでに500人台、あるいはそ
れをはるかに超える感染陽性者がいることは間違いありません。

皮肉にも、7月23日は4連休の初日で、「Go To トラベル」キャンペーンを前倒して
設定した初日でもありました。

ところで、現在のコロナまん延状況をどのようにみるべきでしょうか。医療者も市民も
「(第二波は)とっくに来ている」とみなしているのに、政府は頑なに、第二波である
ことを認めようとしません(『東京新聞』2020年7月22日)。

5月に一旦、感染者が減った時、安倍首相は、欧米諸国のように強制的なロックダウン
(都市封鎖)などせずにコロナを抑え込んだのは、これぞ「日本モデル」と内外に向か
って豪語しました。

実際にはロックダウンをしたくても、現行の「新型コロナウイルス対策特別措置法」
(「特措法」と略す)では、強制力をもった都市封鎖ができないから、やらなかっただ
けなのです。

それでも、欧米に比べて感染者数も死者も圧倒的に少ないことは確かで、安倍首相が豪
語したくなるのも分からないではありません。

ただし、このブログ(6月22日の記事)でも指摘しておいたように、人口10万人当
たりの死者数をみると、東アジア諸国の中では、日本は劣等生であることを安倍首相は
決して口にしませんでした。

「日本モデル」を豪語して1か月ほど経った6月末から、コロナ感染者の数は徐々に増
え始め、7月から今日まで激増しています。しかし、安倍首相は「日本モデル」につい
てはおろか、新型コロナウイルスに関してはほとんど積極的な発言をしていません。

現状をみれば、恥ずかしくて言えないのかもしれません。

最近の日本政府の方策はあまりにも一貫性も有効性も欠いており、日本は本当に一人前の
国家なのか、果たして今の内閣でこのコロナ禍を克服できるのか、との危機感をいだかざ
るを得ません。

まず、第一に指摘しなければならないのは、現在の日本には、コロナ問題に関して全体を
把握し、国家としての基本方針を示すべきリーダーが不在だという致命的な問題です。

いうまでもなく、国家のリーダーは、日本の場合、安倍首相です。そして、国民を代表し
て議論し、必要なら立法化をする機能は国会にあります。

しかし、まだ日本の新型コロナの感染がどうなるか全くわからなかった6月17日、政府
は国会を閉じてしまいました。

この背景には、今年2月に定年に達し定年退職となるはずだった黒川弘務元検事総長を、
1月31日の閣議決定で半年延長としたこと、警察庁法の改訂問題、「桜を見る会」の名
簿の一部削除などなどに対する安倍政権への批判が噴出することが想定されること、など
の要因があったと思われます。

こうした問題を批判されることを恐れて(あるいは避けるために)国会を閉じて逃げ回っ
ているのは、首相としての責務を放棄したことになります。

これだけ新型コロナウイルスが蔓延した現状では、ある程度強制力をもった方法が必要で、
そのためには特措法の一部改正をしなければなりません。

しかし法律の改正には国家に審議と決議が必要ですが、国会を閉じてしまっている現在、
立法機能や停止されられてしまっています。

第二は、コロナ問題に関して安倍首相あるいは安倍政権は当初、あまり深刻にとらえてい
なかったことです。

本来、コロナ禍への対応は厚生労働省の管轄のはずですが、加藤厚労相はカヤの外で、経
済産業省出身の西村康稔氏が閣府特命担当大臣(経済財政政策)、経済再生担当大臣が、
安倍首相に意向を受けて前面にでています。

これは、日本のコロナ対策にとって大きな問題を持ち込むことになっています。

政府は“with corona”(コロナと共に)という表現を良く使います。これは元来、感染症対
策をやりながら「経済も回す」という意味ですが、コロ西村大臣の口から出てくるのは、
感染症対策にはほとんど熱意が見られず、もっぱら「経済を回す」方に力点が置かれてい
ます。

東京だけでなく全国的に感染者が激増している最中の7月22日からGo To キャンペーン
を強行したことにも現れています。

しかも、このキャンペーンの実施に関しても一貫していません。当初は日本全国に適用す
るはずでしたが、途中で東京都を除外し、さらに、赤羽国交相は、それによるキャンセル
料を国は払わない、と明確に否定したのに、世間の批判を浴びると、舌の根も乾かないう
ちに、やはり払う、と方針の転換をします。

もちろん、こうした発言は赤羽国交相が独自に発言しているわけでなく、安倍首相からの
指示です。

その安倍首相が、感染の抑え込みにはあまり熱心ではないのです。以前、PCRの検査能力
を1日2万件まで増やす、と言ったことがありましたが、その後、一向にこの方針を先頭
に立って推進することがありませんでした。

昨日(24日)に、記者からコロナ禍にたいする方針を記者から聞かれて、コロナ陽性者
の激増を「高い緊張感をもって注視する」、「緊急事態宣言を出す考えはない」と答えて
います。

つまり、緊急事態宣言を出さないで経済を回すことに力を入れる一方、コロナ感染者の増
加にたいしては、「緊張感をもって注視する」だけなのです。

もっとはっきり言ってしまうと、コロナに関しては、「我関せず」で傍観しているだけな
のです。

安倍首相が経済にこだわるのは、彼が支持されるのは、「アベノミクス」(実態は実にあ
やふやなものですが)という経済政策の成功であると、思っているらしいことです。

さらに、安倍首相は、自民党のスポンサーである経済界に意向を十分、忖度しているから
でもあります。そうでなければ、この状況でGo To キャンペーンを強行することはないで
しょう。

しかし、「経済をまわしつつ感染症を抑える」、という表現には根本的な誤りがあります。

この表現には、あたかも経済の活性化と感染症の制圧とを同時進行的に追及してゆけば両
者を両立が可能であるかのような印象を与えるからです。

Go To キャンペーンを管轄する国交省の幹部は、実施すれば「多少の感染者がでることは
想定内」と言い放っています。(注1)おそらく安倍政権の本音でもあるのでしょう。

安倍首相は、一日当たりで過去最多の720人を上回ったことに関連して、「医療提供体
制は逼迫した状況ではないと承知しております」と発言しました。

これに対して東京都のモニタリング会議で杏林大学医学部の山口芳裕主任教授は「逼迫し
ていないのは誤りだ」と、安倍首相の発言を真正面から否定し、実情を説明しました。つ
まり、安倍首相は現状認識がまったく欠如しているのです。

また、日本医師会の中川俊男会長は22日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染が再燃
している状況から、23日からの連休について「我慢の4連休としてほしい。国民のみなさま
まには初心に帰って不要不急の外出を避けてほしい」と呼びかけました。これが正常な感
覚でしょう。

実際、現在の全国的な感染者の増加が続けば、回り回って、経済活動どころではなくなって
ゆくことは十分考えられます。そのことに想像力が及ばない人たちが政権や政策を担当して
いることは、実に不安です。まずは、感染の克服です。

今回は国の問題を取り上げましたが、実は感染の震源地になっている東京都の小池知事に関
しても問題があいます。

小池氏は、ロックダウン、東京アラートなどの言葉を連発し、最近では、「感染拡大警報」
を出すべき段階にある、など、次々と言葉を発して、警戒を訴えていますが、それでは具体
的に何をするのか、というとほとんど傍観状態であることは、安倍首相と同じです。

政府も小池氏も、感染の予防は皆さん一人一人でやってくださいね、と自己責任を押し付け
る一方、それでは政府や行政は感染を食い止めるために何をするのか、の具体策を提示して
いません。

船長なき日本丸の漂流がいよいよ始まった、という印象です。

このまま徹底的な対策が採られないと、8月末には1日3300人ほどの
感染者がでるだろう、との試算もありあります。

また、東大児玉教授も、早く抜本的な策を示して、それを実施しないと来月には「目を覆う」
ほど悲惨な状態になるだろうと、警告ししています。しかし、政府からも都知事からも何の
飯能もありません。

いよいよ船長不在の日本丸の漂流が始まったようです。

(注1)Livedoor ニュース 2020年7月15日 13時16分
https://news.livedoor.com/article/detail/18574145/
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
一緒に「行く」のはだれか。                                   結局、ステイ・ホームが一番だ
 

『東京新聞』2020年7月18日                                       『東京新聞』(2020年7月25日)
自分は気を付けるから大丈夫、と言って、多数の感染者を出している大都市圏から地方に出かける人は、   Go To 4兄弟(トラベル、 イート、 イベント  商店街)兄弟に踊らされてへとへと
行った先にコロナウイルスを持ち込む危険性には無自覚であることを皮肉っている。


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検証「コロナの時代を生きる」(1)―コロナ禍の現状から何が見えるか―

2020-07-08 11:12:56 | 健康・医療
検証「コロナの時代を生きる」(1)
   ―コロナ禍の現状から何が見えるか―

かつて、ペストが中世ヨーロッパ(特に西ヨーロッパ)にまん延し、国によっては人口の
3分の1から半分が死亡しました。

ペストはたんに疫病による多数の死者を出しただけではありませんでした。

ペストは社会の基本構造(政治・経済体制)に多大な打撃を与え、さらに新しい価値観や
文化・芸術、人間性の「復興」「再興」を目指す文化運動(ルネサンス)によりキリスト
教会による支配をはねのけ、ヨーロッパ文明を中世から近世への扉を開けたのです。

それでは、今回の新型コロナウイルス禍は、これまで、どのような打撃を日本や世界に与
え、それは、果たして新たな世界、大げさに言えば新たな文明への転換を引き起こすので
しょうか?

あるいは、かつてのペストほど劇的ではなくても、今回のコロナ禍は、これから長い時間
をかけて展開するかも知れない文明の転換への一つのきっかけ、「一押し」になるのでし
ょうか?

こうした、文明の転換というほど大げさではなくても、現代世界を形作っている構造の基
幹的な部分における重要な変化、パラダイム・シフトが起こるのでしょうか?

これに関して、もうコロナ以前には戻れないと考える人と、やがて、世界は元通りに戻る、
と主張する人もいます。それは、何を基幹的な部分とみるかによっても異なります。

どちらの意見が説得的かは現時点では何とも言えませんが、少なくとも今回のコロナ禍は
全世界を巻き込んだ歴史的大事件であることは間違いありません。

その意味で、歴史の時代区分の一つとして、従来の「BC」(Before Christ)=キリスト誕
生以前=紀元前と、「AD」(Anno Domini)=「主の年に」=紀元後、に加えて新たに、
BC(Before Corona)=コロナ以前と、AC(After Corona)という言い方が使われるよ
うになるかもしれません。

新型コロナウイルスのまん延が未だに収まっていない現在、ポストコロナについて語るの
は、あまりにも無謀だとは思います。

何よりも、現在のところ新型コロナウイルスの正体さえ、まだ分かっていないのですから。

それでも、現段階までに、どんな領域にどのような影響を与えたかを検証することで、そ
の後にやってくるであろうポストコロナの時代をある程度予想することができるのではな
いか、と考えています。

以上の判断から今回は、現在までにコロナ禍がもたらしているさまざまな影響を、4つの
領域に分け、その中に含まれる検討すべき問題を挙げておきました。後日、それぞれの項
目を検証してゆくことにします。

I コロナウイルスの感染拡大と対応
1)コロナウイルスの感染者と死者数。2020年7月7日現在における日本の感染者は累計
  で2万人強、死者は980人弱です。世界では感染者は1160万人、死者は53万
  7000人です。しかも、これらの数字は増加し続けています。
2)現在、ワクチンも未完成で、特効薬も開発されていません。これが、今後、どうなっ
  てゆくのか、ほかにコロナに対抗する手段はあるのか?
3)外出自粛や補償を伴う休業要請は一時、コロナのまん延を抑えたが、これから秋以降
  に再燃が起きた場合、もう国にも地方政府にも補償を支給する余力はない。
4)ベッド数と医療スタッフ、医療資材(機械、防護服、マスクなど)を含めた医療体制
  は十分か。
5)PCRによる検査は十分か?
6)日本では、ほとんどの病院が赤字に転落しており、コロナの患者だけでなく、一般の
  患者の健康維持は大丈夫か?

II コロナ禍と経済
1)一言でいえば、経済規模の「縮小」の状態。大量の失業者の発生と外出自粛のため、と
  りわけ経済を支える消費(総需要)の落ち込みが激しく、それが事業の不振、収入の減
  少、賃金低下をもたらし、さらに消費の落ち込みをもたらす、負のスパイラルが起こっ
  ている。
2)多くの国ではこの春から失業や事業の損失にたいして財政的な支援をしてきたが、これ
  らの措置もこの秋からの財政的余力はなくなっている。
3)これから国からの支援があてにできなくなると、これまで何とか踏ん張ってきた中小企
  業の倒産が増えてゆく。これは当然、失業の増加にもつながる。
4)世界のサプライ・チェーン(部品調達の国際的分業体制)が寸断されていて、生産活動
  が部分的に滞っている。
5)各国が自国第一に走り、グローバル経済、グローバリズムが今後も維持されるのか。
6)米中の貿易摩擦(貿易戦争)は、これまでグローバル経済を支えてきた二大支柱を破壊
  しかねない状況にいたっている。
7)これまでの経済を推し進めてきた新自由主義(市場原理主義)は今後、どうなるのか?
8)GAFAのような巨大なIT企業の独占や寡占化が進み、実際に物を作ったり、体を動かして
  働くサービス部門の収益の上前を、これらIT企業が吸い上げている。
9)コロナに対する恐怖と収入の減少は、心理的な「萎縮」を生み、さすがに欧米でも消費
  より貯蓄へ向かう傾向を生み出している。この心理的萎縮が、これからの世界にどのよ
  うな影響を与えるか。

III コロナ禍と政治
 1)絶対的な覇権国家がない状況の中で、各国は自国第一主義に走っている。これで国際的
   な安全保障は維持できるのか?
 2)コロナ禍に由来する米中貿易戦争が、政治的な対立、新たな「冷戦」の段階に入ったと
   考えられる。これが新たな国際的緊張を生み出している。
 3)経済がひっ迫してくるなかで、移民や他人種にたいする偏見が強まり、最悪の場合、彼
   らに対する攻撃が行われ、政治不安を醸成する。
 4)上記の政治と関連して、コロナ危機に乗じて、人びとを煽るポピュリズムと排他的なナ
   ショナリズムが台頭する危険性がある。
 
IV コロナ禍と社会・文化
 1)富裕層と貧困との格差、人種的な差別が浮き彫りになり、社会に分断が生じた。
 2)ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離を保つこと)の風潮は、必要ではあるが人と
   人との心理的な距離感を広げているのではないか。
 3)いつ終わるとも分からないコロナの脅威に長期間さらされて、人びとの間に精神的な問題、
   とりわけ鬱病的な傾向が浸透するのではないか。
 4)コロナの感染を避けるため、人と人との接触を避ける事務的な作業のテレワークやオンラ
   イン会議が推奨されている。これらは移動時間の節約という点では合理的である。他方、
   電子媒体への依存はバーチャル世界と現実世界との区別をあいまいにさせる。この傾向は
   コロナの収束後もいっそう進むと思われる。これが、次の時代の文化の一旦を担うように
   なるのかどうかは現段階では分からない。

以上、思いつくままに、コロナの時代を生きる私たちの置かれた状況を挙げておきました。もち
ろん、これらが全ての領域や問題を網羅しているわけではありませんが、取敢えず、上記のI~IV
の問題を検証してゆきたいと思います。

その際、まずは日本の事情を検証し、その後で世界の状況を検討します。
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気の早いサルスベルがもう花をつけ始めました                             今はムクゲの花が最盛期です
 



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日本は本当にコロナ制圧に成功したのか?―ファクターXは何か―

2020-06-22 12:57:32 | 健康・医療
日本は本当にコロナ制圧に成功したのか?
   ―「ファクターX」は何か―

安倍首相は5月25日、緊急事態宣言解除の記者会見の冒頭、「わずか1か月半で流行をほぼ
収束させることが出来た。日本モデルの力を示した」と内外に向かって豪語しました。

首相は、ロックダウンなど罰則を伴う強制的な外出規制などを実施することなく、「お願い」
ベースで自粛を呼び掛けただけなのに、わずか1か月半で今回の流行をほぼ収束させることが
できた、これこそ“日本モデル”と言いたかったのでしょう。

しかし、この発言には多くの批判が寄せられています。実際、政府は具体的にどんな政策を行
い、それがどのような効果をもたらしたのかは全く検証されていません。

はっきりさせておく必要がありますが、そもそも安倍政権がロックダウンを導入しなかったの
は、たんに法律的にできなかったからで、何らかの具体的な展望のもとで政策的に導入しなか
ったわけではないのです。

コロナウイルスを抑える上で最重要のPCR検査「能力」は1日2万2000件に達したと言
いましたが、制度的・人員的な問題から実際にはその数分の一程度しか実施されていません。

それにもかかわらず、主要メディアの中には、あたかも“日本モデル”なるものに実質的な中身が
あり実際に有効であったかのような報道さえ見受けられます。

その、最大の根拠となっているので、新型コロナウイルスによる死者の絶対数が、欧米諸国と比
べて圧倒的にすくないことです。

確かに、5月15日の段階でみると、日本の死者は713人であったのに対して、アメリカ、
8万7568人、イギリス、3万4078人、イタリア、3万1610人、スペイン、2万74
59人、とケタが違います。

これだけを見ると、日本はすごい、と自慢したくなる気持ちも分からなくありません。では、な
ぜ、と問われると、なかなか決定的な答えは見つかりません。

私が見聞きした“説”は、実にさまざまです。たとえば、強制されなくても自主的に自粛した日本人
の優れた国民性、手洗いを頻繁に行う衛生観念と習慣、マスクを付ける習慣などを挙げます。

そのほか日本人の多くがBCG接種を受けてきたこと、国民皆保険制度があること、医療体制の
充実、医療水準の高さ、などなど、医学的にも疫学的にも実証されていない“説”もたくさん出さ
れてきました。

どんな素人の“説”でも、私は、あながち否定することはできないと思います。しかし、山中伸弥
教授が、日本人の死亡者数が少ない要因を、「ファクターX」と名づけて、それを医学と科学の
目で探ろうとしていることからも分かるように、今のところ、専門家の間でさえ解明されていな
いのが実情です。

私は日本を特別視すること自体が、かなり的外れだと思っています。

菅谷憲夫氏(慶應義塾大学医学部客員教授,WHO重症インフルエンザガイドライン委員)が、
『日本医事新報』に寄稿した「日本の新型コロナ対策は成功したと言えるのか─日本の死亡者数は
アジアで2番目に多い」と題する論文で、巷に流れている「日本は成功した」とする言説に疑問を
菅谷氏は人口10万人当たり新型コロナウイルスによる死者数を示しています.

アジア諸国では、インド(0.20)、中国(0.32)、パキスタン(0.40)、シンガポー
ル(0.38)、バングラデッシュ(0.21)、インドネシア(0.44)、日本(0.56)、
フィリピン(0.77、)、韓国(0.71)、タイ(0.88)、台湾(0.71)です。

これに対して欧米諸国は、アメリカ(26.61)、イギリス(50・46)、スペイン(58.
75)、イタリア(58.20)、フランス(42.27)、ドイツ(9.47)、ベルギー
(78.96)、オランダ(33.61)、スイス(22.15)
菅谷[2020.5.30]より作成 2020年5月15~16日現在(注1)

これらの数字ら明らかなように、10万人当たりの死者数でみるとアジア諸国全体で欧米の10
分の1から100分の1で、比較を絶して低くなっています。

しかし、見て欲しいのは、日本の死者数率(0.56)人はアジア諸国のなかではフィリピンの
(0.77)人に次いで多くなっています。しかも、上記のアジアの国の中には、死者がゼロのベ
トナムは入っていません。

つまり、日本はアジアでは優等生どころか、むしろ劣等生なのです。

ここで、これまで日本が特別に死者数の比率が少ないと言われてきた幾つかの根拠に大きな疑問符
が付きます。

たとえば、日本人は手を洗う衛生観念が発達しているから、とかマスクを付ける習慣があるから、
といった理由を考えてみましょう。

私は中国と台湾を除いて現地に行ったことがありますが、たとえばタイで地元の人が日本人よりも
頻繁に手を洗っているとは考えられないし、ましてマスクをしている姿は見たことがありません。
インドでもパキスタンでも全く同様です。

これらの国が、医療体制や医療水準をみても、日本より低いとは言いませんが、少なくとも日本よ
りずっと優れているとも言えません。

それでもタイの10万人当たりの死者数は0.08人と日本の7分の1、ベトナムでも同様に手洗い、
マスク姿は見たことがありませんが、死者はゼロです。

あるいは、これらの国の国民は日本人より自主的に自粛を守り、ソーシャルディスタンスをきっちり
守っている、という証拠もありません。

都市封鎖(ロックダウン)、あるいは外出規制についていえば、アジアの多くの国で適用されてきま
したが、それが原因で死者数が少なかったことを説明することはできません。

たとえばベトナムの場合、4月1日から23日までロックダウンが適用されましたが、その前と後に
は現在にいたるまで適用されていません。それでも今日まで死者がゼロに留まっています。

一方、フィリピンではドゥテルテ大統領が、外出規制を守らなかった人を警察官は射殺しても良いと
の指示を出し、実際に射殺された人もいます。それほど、厳しく外出規制をしても、フィリピンの人
口当たりの死者数はアジア諸国の中でも最悪です。

アジア諸国内での違いを含みながらも、対照的になのは欧米諸国です、時には警察力を用いてまで長
期間、ロックダウンを続けてきても、やはり人口あたりの死者数はアジア諸国とはケタはずれに多く
なっています。

そもそも、公権力による法的な外出規制がコロナウイルスの抑制効果にたいして、先に言及した菅谷
教授は疑問をもっています。

ロックダウン期間中に人々が免疫を獲得したわけではなく,またSARS-CoV-2が完全に消失するとは
考えられず、単に厳しい外出制限により人と人の接触が減ったので,患者数が一時的に減少したに過
ぎない。

つまりロックダウンの有無は死者の数とはあまり関係ないということです。

以上のようにみると、日本だけが突出してコロナ制圧に成功したという根拠はほとんど消えたと言えま
す。私は、クルーズ船での感染防止対策とPCR検査を最初からもっと大々的に行っていれば、死者はさ
らに少なかったのではないかとさえ思っています。

要点はむしろ、アジア諸国と欧米諸国との違い、という点にあります。

いずれにしても、日本をはじめアジア諸国の人口当たり死亡者が少ないことに関して菅谷氏は、原因は
不明であるが可能性として考えられるのが,①人種の差,②年齢構成の違い,すなわちアジア諸国では
若年層が多い,③BCG接種の影響,④欧米諸国では,高い感染力を持ち病毒性の強い,アジアとは別の
SARS-CoV-2流行株が出現した─等が考えられる、としています(注1)。

さらに、最近、偶然ラジオで物理学者(名前は失念)が語っていた仮説も興味深い。彼は、アジアでは
米を主食とし繊維質を多く摂っていて肥満が少ない(6%)が、欧米人は食物繊維の摂取が少なく肥満
が多い(30%)点に着目します。このため欧米人に肥満からくる心疾患、脳血管系疾患、糖尿病など
の基礎疾患をもつ人が多くなり、新型コロナ肺炎に感染した場合の死亡率を高めているのではないか、
という推論です。これも一考に値します。

また、日本の特殊事情に関して、京都大学大学院医学研究科の上久保靖彦特定教授らは、新型コロナの
うち、「K型」と「G型」という2つの型があるとし、日本人ではまったく無自覚のうちに、1月中旬に中
国発の弱毒性『K型』が流行のピークに達したと考えます。

中国からの厳密な入国制限が3月中旬までもたついたことが幸いし、中国人観光客184万人を入国させ、
国内に『K型』の感染が拡大して集団免疫を獲得したとされます。

一方、欧米は2月初頭から中国との直行便や中国に滞在した外国人の入国をストップしたので、国内に弱
毒性の『K型』が蔓延しなかった。その後、上海で変異した感染力や毒性の強い『G型』が中国との行き
来が多いイタリアなどを介して、欧米で広がったとされます(注2)。

いずれにしても、現段階では何が決定的な「ファクターX」であるのかは依然として究明すべき課題です。
アジアと欧米との違いについては、要因が判明し次第報告します。


(注1)『日本医事新報』 No.5014 (2020年05月30日発行)(最終更新日: 2020-05-20) https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=14724
(注2)『NEWSポスト セブン』5/21(木) 16:05配信 https://news.yahoo.co.jp/articles/24f74208d7c271723fe24bcd5163f1122588b07c?page=2



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「雑」について―雑草と薬草に関する雑学―

2020-06-07 09:13:36 | 健康・医療
「雑」について-雑草と薬草に関する雑学―

世の中には、動植物や物事に「雑」を付けて、ひとつの大きな性格付けをすることがあります。

たとえば、動植物では雑草、雑木、雑魚、物事では雑念、雑事、雑食、雑学、雑誌、雑記、雑然
など、挙げればきりがありません。実際、このブログのタイトルも「雑記帳」となっています。

それでは、“雑”とは何でしょうか? これを考える時、“雑”の反対の概念は何かを明らかにすれば
分かり易いでしょう。

辞書的には、“純”あるいは“整”で、混ざりもののない純粋の“純”、あるいはばらばらではない整理
されている“整”ということになります。

いずれも、辞書的には特に否定的な言葉としては扱われていませんが、実際には、“雑”には、一
段劣って、価値が低い物や事柄、という意味合いを含んで使われます。

たとえば、「雑木」といえば、元々“望まれた木ではない”さまざまな木を一くくりにした言葉です。
つまり、スギやヒノキのように、人間の役にたつ、あるいは商品として売れるような価値のある
「有用木」以外が“雑木”という枠組みの中に入れられています。

しかし私は、純でないものごと、整然としていないものごとも、やはり社会にとって必要なのでは
ないかと考えています。

というのも、新しいこと、素晴らしいことは、”雑”の中から生まれてくる可能性があると考えてい
るからです。

それでは改めて、「雑草」とは何でしょうか?これも、雑木と同様、人間にとって価値のない草、
有用ではない草、ということになります。

では、人間にとって価値のある草とは何か、といえば、一つは、その美しさが観賞用として価値があ
り、商品としても価値がある草で、もう一つは、有用性という意味では、食用として、あるいは薬草
としても利用価値が高い草ということになります。

いずれにしても、私たちは、人間にとっての有用性を基準として価値のない草を勝手に「雑草」と
してあつかっています。考えてみればこれは、自然界にあるものに、人間の価値観で序列をつける
傲慢な態度と言わなければなりませ。

さらに、雑草という言葉には、人工栽培の対象にならず、野山に自然の状態で生えている草、とい
う意味もあります。

ところが、現在では一般には薬草として利用されず、たんなる「雑草」として見向きもされません
が、かつても、現在でも一部の人たちには薬草として利用されていた草もたくさんあります。

私は薬草に関心があるので、今回は、「雑草」と薬草の関係について考えてみたいと思います。

雑草と薬草について考える時、私には常に思い出されるエピソードがあります。

それは、紀元前5世紀、ブッダ(釈迦)が生存したマガダ国で活躍したジーヴァカ(耆婆)の話で
す。

耆婆は当時第一の名医といわれた師匠について医術を学びました。そして、もう学ぶ事がなくなっ
た最後の段階で師匠から、ここから1ヨージャナ(約7200メートル)四方)の区域を探して、
自然の植物の中で薬草にならないものがあったら、それを持ってこい、と言われました。

耆婆は薬草にならない草があるかどうか探しに出かけました。

ところが耆波は自然の植物の中には薬草にならないものはないことを知って、何も持ってこなかっ
た。これを見た師匠は、もうお前は全ての医術をマスターした。よって何も教えることはない。医
術で立派に生計を立てることができる、と言われました。

こうして耆波は、この国のすぐれた外科医となりブッダの侍医として活躍しました。

このエピソードには、細部において若干異なるものもあるが、全体としては、耆婆が、この自然界
にある植物で薬にならないものはないことを悟ったということは、彼が医術の奥儀を極めたことを
意味する、という点にある。

『ブッダの医学』の著者、杉田氏はこのエピソードについて「宇宙と人間は一体であるという思想
からすべての自然の植物は薬草になり得るという合理的な理論を耆婆がもっていたことが推察され
る」とコメントしています(注1)。

私は、上記のエピソードは、古代インド人の世界観・自然観と医術とのかかわりを示唆しているよ
うに思えます。

つまりこれは、自然界の全ての植物は人間の医療に必要なものを与えてくれている。ただ、多くの
人はそれに気が付かないだけなのだ、というメッセージなのです。

さて、ひるがえって、現代の日本に住む私たちは、どれほど“雑草”の中の薬草について知っている
でしょうか?

今回は誰も知っている“雑草”をいくつか取り上げます。なお、説明のうち、最初の部分は、著者が
経験的に利用してきた効能や用法を書いた、一条ふみ『草と野菜の常備薬』(1998 自然食通信社)
より引用しました。

その後に[ ]内に示した効能と説明は、もうすこし学術的、体系的な著作、伊澤一夫『薬草カ
ラー大辞典:日本の薬用植物のすべて』(主婦の友社 1998)からの引用です。後者には826種が
掲載されており、900ページ、写真入りで私見の限り、日本の薬草に関して最も網羅的な本です。
この本をみると、まさにインドのブッダの侍医となった耆波が見抜いたように、薬草にならない
草はない、という感じがします。

以上を念頭に置いて、ここでは四種類の、私自身が近くの森でみつけた、ごくありふれた”雑草”、
実は薬草を取り上げます。

ドクダミ                                              ツユクサ
 

もっとも普通に見ることができるドクダミです。ドクダミは薬が使えない時代に頼り     ツユクサは名前のとおり、梅雨のころから本格的な夏にかけて繁殖します。             にされた薬草です。採ったドクダミを風通しの良い場所で陰干しします。          使い方は大きく育って花が咲く前に太めの茎から選んで根っこごと三日くらい陰干し
十分に煎じ、ドクダミ茶として飲みます。名前のとおり、ドクダミは体の毒を出す、     にして、生乾きの時に煎じてお茶にして飲みます。効能対象は、腎臓病です。
と考えられてきました。このため、特定の病気に対して、というより、むしろ万病      [解熱・下痢止め]
を防ぎ健康を維持するために常日的に頃飲むお茶として用いられてきました。 
[利尿・便通・高血圧予防]

フキ                                         カントウタンポポ
                                              
フキをよく食べると中風にならないといわれています。また、フキの葉をすりつぶして     良く知られた薬草です。効能は、胃をものすごく丈夫にするほか強壮剤
絞った汁を飲んだり、乾燥させて煎じたものを飲むと、咳や痰、気管支喘息などを抑え     でもあります。根っこは肝臓にも効果がある。タンポポの根をよく乾燥
てくれる。フキの根は解熱作用もある。                          させて鉛筆を削るように少し削ってお茶にしてのみます。これは浮腫や
[咳止め]                                         婦人病、さらには母乳の出をよくします。切り傷とは腫物には花の下のの                                           所を折って出てくる白い液をつける。
                                            [健胃・催乳・B型肝炎・咳止め・去痰・強壮・切り傷]

薬草による病への手当は、民間療法、と言われ、それは近代医学より遅れた、信頼でき
ない療法である、との認識があります。確かに、現代医学が生んだ抗生物質を始め、多
くの化学製剤は病の治療に大きな役割を果たしつつあります。

しかし、抗生物質には耐性ができてしまった菌の問題があり、さらに慢性化した疾患に
は必ずしも有効でない場合もあります。

薬草は、近代製薬のように劇的な効果はないかもしれませんが、副作用は極めて少なく、
なによりも、長い時間をかけて日本人が試してきて安全と、ある程度の効果が確認され
たものです。

そして、薬草というのは、先人が残してくれた、貴重な財産であり、文化でもあります。
それを、失うことは、あまりにも大きな損失です。




(注1)(注1)杉田暉道『ブッダの医学』(1987年 平河出版社):92~93ページ。







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検証「新型コロナウイルス肺炎」(8)―コロナは社会的弱者に過酷を強いる―

2020-05-31 09:28:08 | 健康・医療
検証「新型コロナウイルス肺炎」(8)
―コロナは社会的弱者に過酷を強いる―

ある社会がどれほど成熟しているかは、その社会が危機や厳しい状況に直面した時、どれほど
弱者を守ることができるかをみると良く分かります。

成熟社会は平時から、いざという時に備えて、制度として社会的弱者を救済する仕組をもって
います。

さて、今回のコロナ禍は、はたして社会的弱者を守っているのでしょうか、あるいはどの程度
守っているのでしょうか? 今回はこの点を検証してみたいと思います。

ここで取りあげる「社会的弱者」とは、従来から生活上の困難を抱えている人で、とりわけ経
済的に不安定で低所得の状態にある人、具体的には契約社員、パート労働などの非正規で働い
ている人たちです。

中でも、このコロナ禍でもっとも深刻な困難に直面しているのは、子どものいる一人親家庭
(その大部分は子どものいるシングルマザー家庭)です。

NPO法人「しんぐるまざあーず・ふぉーらむ」の赤石千衣子理事長は、新型コロナウイルスの
影響で困窮するシングルマザーについてコメントしています。その内容はあまりに衝撃的です。

もちろん、シングルマザー家庭だけが困窮しているわけではありませんが、これらの家庭が特
別に深刻な状況に追い込まれている、という意味で象徴的です。

赤石氏によると、4月以降、シングルマザーからの相談が急増し、「子供がおなかをすかせてい
ても、食べさせるものがない」「公園の水や野草で空腹を満たしている」など、驚くべき内容
もあったそうです。

また、彼女たちの多くがパートなどの非正規で雇用されているため、自粛と企業の休業などで
自宅待機で収入が減るという人が半数以上。中には、子供の保育園が休みになったと相談した
ら、「だったら来なくていい」と言われたケースもあったという(注1)

あるいは、離婚した夫から養育費はもらっておらず、借金もある。フードバンクからの食材を
少しでも長持ちさせるため、自身は1日1食で済ませているという(注2)。

もっと、厳しい事例では、子どものため2日に1度しか食事をしない母親の例も報告されてい
ます(注3)

休校で給食がないため、食費が多くなってしまい、「お米のヘリが早すぎる。助けて!」とか、
保育園の都合で休むと収入は保障されない、など切実な問題もごく一般的な状況です(注4)。

また、シングルマザーの家庭の子どもにとって、もっとも重要な栄養源は給食だったのに、休
校のためそれが無くなってしまったことが大きな痛手だという声は多い。

多くのシングルマザーは、コロナ感染の危険と経済苦との二重の苦悩を抱えています。
    現金給付が10万円で決定されたのはありがたいが、4月上旬から外出自粛が始まり、支
    給が5月では4月の支払いはできません。親がコロナになった時に、子供を見てくれる人
    がいない。子供を一人残すわけにはいかない」、「休校にしたりする前にしっかりした保
    証を先に考えてほしかったです。家ですごそうといいますが、本当に困っている家庭は
    一日分の給料さえ大事なので休む事もで゙きません」。

「ひとりじゃないよプロジェクト」のウエッブ・アンケートによれば、シングルマザーの9割は
コロナの影響をうけ、8割は経済的に苦しいと答えています。苦境への対応は、74%が食費を
切り詰めている、そして貯金を切り崩することです(注5)。

同様の悲壮な声は他にも幾つもあります。たとえば、
    仕事ができなく収入が減って、食べるばかりの子達なのでお金がない。電気代水道ガス
    代がかかるからもう家族全員で路上生活するしかありません。わたしは血圧が高く救急
    車のお世話になり、 何回も病院に行った糖尿病もあります。どうすればいいのかわから
    ないので神さま子達を守ってくださいと祈ってます。
とった切羽詰まった声もあります(注6)。

シングルマザーに対して企業は、一方的に退職を突きつける場合が多い。しかし、こうした措置
にたいして個々のシングルマザーは裁判などで争う資金も手段もなく、泣き寝入りしているのが
実態です。

上記の「ふぉーらむ」が4月上旬、同法人会員を対象に調査を実施し、子どもがいるシングルマ
ザー約200人から回答を得ました。

それによると、一斉休校により仕事を休んだ母親は16%、うち休業補償の対象となる小学生な
どのいる親に聞いたところ、休業補償を受けられるか「分からない」と答えた人は56%に上り
ました。

政府は小学校や幼稚園などに通う子どもの世話をする必要がある保護者に特別な有給休暇を取得
させた企業に対して日額8330円を上限に助成金を支給することにしましたが、企業が申請し
なければ補償を受け取ることはできません。

シングルマザーのうち26%が「(保障を)受けられないと答え、望むこととして78%は「す
ぐに現金支給が欲しい」が78%と最多で、経済的な困窮ぶりが浮き彫りになりました。

4月の前半までに、実際に受け取ることができたのは、4月19%にとどまっていました(『東
京新聞』2020年4月14日)。

もちろん、苦境にたたされているのはシングルマザーだけではありません。たとえば、派遣社員
の場合をみてみよう。

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、企業の一部で在宅勤務(テレワーク)が定着する中、
非正規社員には在宅勤務は認められていないのが実態です。

今年の4月から施行された、非正規社員への差別的扱いを禁じる「同一労働同一賃金関連法」は
賃金だけでなく待遇差別も禁じています。

しかし、実際には派遣社員は賃金格差どころか、正社員より高い感染リスクという「命の格差」
に直面する場合さえあります。

東京都内の大手企業で働く派遣社員の30代女性Aさんに、人事部は「派遣は出勤か、自己都合
で休むかの二択です」と言い放ったという。

Aさんは妊娠中で、妊婦が肺炎になると重症化しやすいため、感染のリスクがある満員電車での
通勤が不安でした。Aさんの仕事はパソコンの入力です。

正社員の場合、3月から在宅勤務が認められており、Aさんは「自分も」と相談したが、「派遣
の場合は不可」の一点張り。やむなく休業を選びましたが、休業手当も派遣会社に拒否され収入
がゼロになってしまいました。

Aさんの夫は労働局に救済を求めましたが、「在宅勤務の扱いは法律の条文になく、問題はない」
と門前払いされてしまいました(『東京新聞』2020年5月29日)。

5月から、妊婦にかんしては医師診断を受け在宅勤務などを希望した時には企業に応じるよう義
務付けました。しかし、妊婦が雇い止めを気にして申告できるかどうか疑問です。

これは、派遣会社が得意先の企業に遠慮して、派遣社員の処遇をなおざりにしているからです。

企業が休業させる社員にひとまず休業手当を支給し、その財源としてハローワークや労働局に申
請すると助成金が出ます。これを「雇用調整助成金」といいます。

しかし、これまで会社が休業手当を非正規社員に手当を支給しない例が相次ぎました。というの
も、法律上は、政府や知事の要請での休業は企業都合でないため、休業手当の支給を免除する場
合があり、企業が支給の「義務がない」と主張してきたからです(『東京新聞』2020年5月28
日)。

安倍首相は、助成金のメニューだけは、あれこれ揃えて、これほど手厚い助成は世界でも類がな
い「空前絶後」の手厚さである、と胸を張りますが実際はどうでしょうか。雇用調整助成金を例
に、その実数を見てみましょう。

2020年5月26日現在、雇用調整助成金の受理された申請は計5万954件、うち2万6507
件の支給が決まりまっています(まだ振り込まれているわけではありません)。

この数字だけ見ると、約半分(それでやっと半分)近くは決定しているので、まあなんとか機能
しているように見えますが、それは全体の一端を示すにすぎません。

というのも、そもそもこの助成金を申請するために相談した件数は、37万6400件あり、そ
れが実際に受理されて、決定に至ったのが、わずか2万6500件、つまり7パーセントにすぎ
ません。残りの93%はおそらく受理さえされなかったのでしょう。

金額ベースでみると、5月22日時点では、1次、2次補正予算で計1兆6000億円計上され
ましたが、実際に決定したのはわずか90億円だけです(注8)。

しかも、この申請のために立ち上げたオンライン申請は、受付開始から一時間でシステムトラブ
ルが発生して停止してし、再開のめどが立っていなません。

コロナ禍の影響が大きい観光、飲食、小売などの中小事業者を中心に、助成金の申請をあきらめ
る事業者もでています。

申請手続きは煩雑で、経理担当の社員でも記入は大変で時間がかかります。余裕がない会社はで
きるだけ早く資金を確保しなくてはならず、支給まで待てません。申請を社会保険労務士などの
専門家に依頼することもできますが、中小の事業者にはこうした専門家に依頼する資金的余裕も
なく、あきらめて廃業や倒産に追い込まれてしまう可能性をかえています(『東京新聞』2020年
5月28日)。

最後に、日本全体の状況を見ておきましょう。今や、非正規だけでなく正社員さえもいつ解雇さ
れるか分からないのが現実です。

新型コロナウイルスが、子育て中や非正規など立場の弱い労働者の雇用を直撃しています。解雇
や雇い止めだけでなく、働いていた店舗が休業となって、実質的に仕事を失った人も多い。5月
29日発表の完全失業率は前月比0・1ポイント悪化の2・6%で、休業者は前年同月から420万人増
えて(!)597万人になったのです。失業者からは「コロナ不況」が本格化することへの懸念の
声が漏れてきます。

正社員の解雇の実例をひとつだけ挙げておきます。首都圏の旅行会社に正社員として勤めていた
40代女性は3月上旬、社長に呼び出され突然解雇を告げられました。会社から詳しい説明はなか
ったが、退職日に渡された解雇証明書には「新型コロナウイルスのまん延による極端な業績低下
(予約のキャンセル等)」の一文が記されていまし。Aさんの先輩の男性社員も同時に解雇され
ました(注7)。

こうして解雇された人や失業した人には家族が、子どもがいることを考えると、政府は本当に弱
い立場の人たちにこそ、第一に手を差し伸べるべきだと思います。

これまでの政府の施策をみていると、優先順位が違うのではないか、と思われる事業が多くあり
ます。人口減少に歯止めがかからない日本の現状を考えるなら、将来を担う子どもと、こどもを
抱えて苦闘しているシングルマザーへの援助は最優先課題の一つだと思います。

(注1)『朝日新聞』(デジタル版) 2020年5月13日 18時30分
https://digital.asahi.com/articles/ASN5F5FPHN5FULFA003.html?pn=2
(注1)日経ビジネス 2020年5月26日
    https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00075/

(注2)西日本新聞 2020年5月29日
    https://www.nishinippon.co.jp/item/n/601757/
(注3) 『朝日新聞』(デジタル版)2020年5月20日
   https://digital.asahi.com/articles/ASN5M6Q7DN5MUTFL00F.html?pn=4 
『朝日新聞』(デジタル版)2020年5月20日 
https://www.asahi.com/articles/ASN5M6Q7DN5MUTFL00F.html?ref=mor_mai     l_topix3_6 
(注4)『認定NPO法人フローレンス「一斉休校に関する緊急全国アンケート」』
『HUFFPOST』(2020年03月12日11時30分)    https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5e697c03c5b6bd8156f11a33
(注5)『Business Insider』(May 8,2020:12:00 pm)
https://www.businessinsider.jp/post-212523
(注6)FRaU (2020年4月8日)https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71964
(注7)『毎日新聞』(電子版2020年5月29日19時29分(最終更新5月29日19時30分)
https://mainichi.jp/articles/20200529/k00/00m/040/189000c?cx_fm=mailasa&cx_ml=article&cx_mdate=20200530
(8)日経新聞 デジタル(2020/5/31 2:00)https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59799750Q0A530C2EA3000/?n_cid=NMAIL007_20200531_A
----------------------------------------------------------------------------------------
梅雨を前に咲き誇るアジサイの近映                                         アジサイの群落
  



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