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大木昌の雑記帳

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検証「新型コロナウイルス肺炎」(7)―文化・芸術は「不要不急」か?―

2020-05-24 17:07:32 | 健康・医療
検証「新型コロナウイルス肺炎」(7)
 ―文化・芸術は「不要不急」か?―

新型コロナウイルスの脅威にさらされて緊急事態宣言下にある日本で、意外と注目されて
いませんが、深刻な問題があります。

それは、音楽、演劇、映画、スポーツ、さまざまな分野のエンターテイメントなどを含む
広い意味での文化がほとんど窒息状態にあることです。

というのも、これらの発表や公演は「不要不急」だと見なされているからです。

私は、ある有名なオーケストラ楽団に所属するトロンボーン演奏が、「私たちがやってい
る音楽は不要不急なのか」と寂しそうにつぶやいていたことに、とてもショックをうけ胸
が痛みました。

確かに、音楽がなくても私たちは生きてゆけます。しかも、コロナウイルスがまん延しつ
つある現状では、音楽会で多くの人が密集するのは危険が多すぎます。

しかし、もしそうなら、そうした音楽家の生活を保護するための経済援助を大幅にすべき
です。

同じことはスポーツでも演劇でも、美術展、落語、いわゆるエンタメと言われる「お笑い」
でも、人が集まる状況を生み出すことは全て、「不要不急」の一言で、活動の場を奪われ
ています。

政府も、カメラマン、デザイナー、プログラマーなど特定の会社や組織に所属せず、仕事
に応じてその都度契約する、いわゆるフリーランスへの給付を一部認めていますが、実態
は、これらの人たちの生活を保障するには、とうてい少なすぎます。

俳優2600人を背負う、「日本俳優連合」理事長の肩書をもつ、西田敏行氏(72)は、
改めて「アベNO」の声を上げました。

今年3月、理事長として、「私たちにとっては仕事と収入の双方が失われ、生きる危機に瀕
する事態。どうか雇用・非雇用のないご対応で、文化と芸術を支える俳優へご配慮下さいま
すよう」などと書いた要望書を内閣府と労働省に出しました。

それから2か月後お5月後半に、取材すると、「政府に要求したけど、歯牙にもかけない感じ。
残念ながら、われわれ表現者はあまり優遇されていない」とのコメントし、苦渋と怒りをに
じませたという。

コロナ禍で苦しんでいるのは俳優だけではありませんが、エンタメ業界は数千億円規模の損
害が生じています。しかし、政府からは抜本的な補償の話は今になってもないままです。

西田しが、「われわれ表現者」という言葉を使ったことには意味があります。もちろん、そ
れは「演劇」あるいは他の媒体での演技でもありますが、人間としての意見や考えを表現す
る、と言う意味での「表現者」という意味も含まれています。

検察庁法改正を強行しようとし、多くの芸能人が反対を表明したことについて水を向けると、
声を荒げて「改正案はおかしい!私もそう思います。果たしてそれをコロナが蔓延している
この時期に、政府が率先してやるべきですか。腹立ちますね、本当に!」と答えたといいま
す(『日刊ゲンダイ』2020年5月22日)。

同志社女子大学教授(メディア論)の影山貴彦氏は、「エンタメは不要不急だけど不可欠な
もの」との見解を示しています(『日刊ゲンダイ』同上)。

坂本龍一氏も、「『芸術なんて役に立たない』 そうですけど、それが何か?」と問いかけ、
    積載量過剰のまま猛スピードで突き進む資本主義文明がわずかなりともバッファを
    取り戻せるのかどうかは不明だが、そうしたゆとりや遊びという「無駄」をどれだ
    け抱えているかは、少なくとも社会の成熟度の指標となる
とコメントしています(注1)。

たしかに、社会の成熟度というのは、いかに「無駄」―もちろん、本当は無駄ではないのです
が―をどれだけ抱えているかが指標となります。

なお、坂本氏も言及していますが、ドイツの文化大臣モニカ・グリュッタース氏は今年3月11
日に、「フリーランスの芸術家、文化産業従事者にも無制限の援助を行う」と発表したことは、
日本を含む世界各国で報道され、「文化大国」の矜持と姿勢を示すものとして賞賛と羨望を集
めました。

彼女は、また、「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命の維持に必要」とも言っ
ています。実に至言です。

私は、「生命の維持に必要」というところまで踏み込んでいる点が、意表を突く素晴らしい。
ここには、確かな哲学があります。日本の政治家にも是非、このような哲学をもって欲しい
と願わずにはいられません。

食べ物があれば生命は維持できますが、それと同じくらい芸術家(これは西田氏がいう「表現
者」でもいいし、エンタメの芸能人でもいいのですが)は、人として生きてゆくうえで必要で
あると。彼女は言っているのです。

実際に、3月、個人のアーティストなどを対象に、3か月最大9000ユーロ(約100万円)
を受け取れる制度を創設しました(『東京新聞』2020年5月20日)(注2)。

テレビでコメントを求められた、ドイツ在住の日本人の音楽家は、実際にすぐに振り込まれた、
と証言していましたから、大臣の施策は実施されたことは間違いありません。

日本の文化庁長官の宮田亮平氏は、自身が金属工芸のアーティストでありながら、コロナ禍下
にあって窒息しそうなアーティストや広く文化芸術・芸能を守るための情報を発信していない
し、まして、政府や財務省、経産省などと交渉することもありません。

残念ながら、文化庁長官という役職は、たんなる飾り物としか思えません。

考えてみると、現在の政権与党の中で、文化や芸術の重要性を哲学として認識している人は見
当りいません。

ドイツの文化大臣の
最後に、今回の新型コロナ禍で、エンタメ界の主たる担い手となったテレビのあり方について
考えてみます。

テレビ業界で起こったことの一つは、ドラマ撮影などができなくなったため、以前の番組の総
集編や名場面集のような再放送で時間を埋めていることです。

また、以前、見損なった番組や、改めて見たい番組を見ることができることは、決して悪いこ
とばかりではありません。

もう一つテレビのエンタメ界に起こったことは、リモート出演番組です。前出の影山教授は、
これによりニセモノと本物がはっきりした、といい、つぎのようにコメントしています。
    まず、出演者が多すぎた。バラエティ番組のひな壇芸人のことです。大物芸人に必死
    でゴマをする中堅芸人が並ぶ状態がもう何年も続いていましたが、ソーシャルディス
    タンシングで出演者が大幅に削られ、いなくても問題なかった。情報ワイド番組では
    何の専門知識もなりタレントや芸人が画面を埋めていたけれど、結局、専門家がいな
    ければ井戸端会議にすぎない。・・・キャスターとアンカーと専門家がいればいいこ
    とが明確になりました(『日刊ゲンダイ』2020年5月22日)。

私も、全く同感です。つまり、今まで、多くのバラエティ番組では、いなくても何の問題もな
いタレントが多すぎることがはっきりしたということです。

その反面、たとえ素人でも、その芸人がいるから番組が面白くなったり、あるいは専門家から
興味深い解説やコメントを引き出せる芸人は、生き残れるでしょう。

いずれにしても、これからは、実力がないニセモノ芸人はテレビのエンタメ界では不要となっ
たことは確かです。

今回の新型コロナ禍は、いわゆるタレントや芸人の中で本物とニセモノが峻別され、これから
はニセモノは生き残れない厳しい時代がやってくると思われます。

                                         

(注1)『朝日新聞』(デジタル 2020.05.22) https://www.asahi.com/and_M/20200522/12369021/?ref=and_mail_M&spMailingID=3451409&spUserID=MTAxNDQ2NjE2NTc4S0&spJobID=1240368046&spReportId=MTI0MDM2ODA0NgS2.
(注2)さらにくわしいグリュッター氏の政策については、Jazz Tokyo (2020年4月3日)を参照。https://jazztokyo.org/news/post-51270/
    を参照。
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今年はコロナ関連で新たな言葉が出回りました。ここに佐藤氏の秀逸な風刺漫画を転載させていただきます。
                    


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検証「新型コロナウイルス肺炎」(6)―全国一律休校は本当に合理的・科学的根拠があるのか―

2020-05-14 12:22:50 | 健康・医療
検証「新型コロナウイルス肺炎」(6)
 ―全国一律休校は本当に合理的・科学的根拠があるのか―

安倍首相は本年2月27日、新型コロナウイルス感染症対策本部で、3月2日から春休みが始まる
20日まで、全国一斉の小中高校と特別支援学校への休校要請することを突然発表しました。

休校措置は、実質的に5月の連休後まで続き、都道府県によりばらつきがありますが、概ね五月末
まで続く状況にあります。今でも、あたかも当然のように思われる休校、特に全国一斉の休校要請
の有効性を検証してみたいと思います。

まず、休校要請が出された経緯をたどってみましょう。

要請が発せられた5時間ほど前の27日の午前、文科省事務次官は安倍首相から休校要請について
知らされ、直ちに萩生田文科相に報告しました。

この報告を聞いた萩生田氏は直ちに官邸にかけつけ、首相に真意をただしました。というのも、そ
れまでは臨時休校要請には政府内に慎重論があり、それを振り切っての決断だったからです。

「休業補償はどうするんですか」。萩生田氏は、休校に伴い保護者が仕事を休まなければならない
世帯への補償が課題だと訴えました。

「大丈夫」と今井尚哉首相補佐官らは応じたが、多くの国民の日常生活に影響するだけに、萩生田
氏は「補償の問題をクリア出来ないと春休みの前倒しは出来ない」と食い下がった。しかし首相は
最終的に「こちらが責任を持つ」と言いその場を引き取りました。

以上の経緯を見ても分かるように、学校を管轄する文科相にさえ、当日の5時間前にようやく会っ
て伝えるというドタバタぶりです(注1)。

では、どうしてこのような慌てふためいた決断をしたのでしょうか。実は、安倍首相は2月16日、
首相官邸で開かれた新型コロナウイルス感染症対策本部で「国民の命と健康を守るため、打つべき
手を先手先手で打ってもらいたい」と指示していたのです。

そして、続いて開かれた専門家会議で「政府としましてこの専門家会議で出された医学的、科学的
な見地からのご助言を踏まえ、先手先手でさらなる対策を前例にとらわれることなく進める」と述
べました(注2)。

ところが、その後は、具体的には何らの策を打ち出すことがなく時間が過ぎてゆきました。そうこ
うしているうちに、26日までに北海道、大阪市、千葉県市川市が独自の判断で小中高の一斉休校
を実施していたのです。つまり、先手先手といいながら、実はもうこの時は「後手後手に回って」
いたのです。

そこで急遽、全国一斉に、というある意味、博打を打ったわけですが、これは、例のアベノマスク
の件で、国民に2枚ずつマスクを配れば、不満はぱっとなくなりますよ、と首相に進言した今井首
相補佐官の進言だったと言われています。

この突然かつ長期の休校要請にたいしては、当然のことながら当事者である児童・生徒、保護者、
学校関係者の間には戸惑いが広がり、対応に追われました。

28日の衆議院予算委員会の審議の中でも、安倍首相が突然、休校を要請した根拠について問う動き
がありました。

宮本徹議員(日本共産党)は、政府が休校の効果や影響について専門家会議に諮問していないと追
及しました。宮本氏によれば、専門家から一斉休校は「あまり意味がない」「国民に負担を強いる」な
ど苦言が相次いでいることを紹介し、休校要請の「エビデンス(根拠)はなにか」と首相に質問しま
した。

これに対し安倍首相は、専門家会議が24日に出し、25日発表の政府の基本方針の土台となった「こ
れから1~2週間が急速な拡大に進むか収束できるかの瀬戸際となる」という見解が根拠だと繰り返し
主張しました。

その上で「科学的、学術的な観点からは、詳細なエビデンスの蓄積が重要であることは言うまでもあ
りませんが、1〜2週間という極めて切迫した時間的制約の中で、最後は政治が全責任を持って判断
すべきものと考え、今回の決断を行った」と答弁しました。

つまり、安倍首相は、この要請には科学的な根拠がないまま、また専門家委員会に相談することなく
政治決断で発表したことを認めているのです(注3)。

専門家会議は、地域によるばらつきを考慮して、「患者が出ていない地域まで休校にする必要はな
かった。効果より、家族の負担がが大きかったまたのではないか、とも言っています(『東京新聞』
2020年3月20日)。

これを裏付けるように、政府専門家会議のメンバーで、川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長が28
日、神奈川新聞社の取材に応じ、全国の学校に一律の休校を要請した政府の対応について「国民への
負担が大きく、現時点では取るべきではないと思う」と話しました。現時点では地域によって感染状
況に差があることから、「地域ごとの対策が有効」との見解を示しました。

さらに岡部氏は、今回の休校措置について、「専門家会議は提言しておらず、諮問もされていない。
政治判断だ」と明らかにしました。(注4)。

休校措置の有効性に関して、もうもう少し根本的な問題を考えてみましょう。

4月1日の専門家会議の見解は「子どもたちは地域の中で(新型コロナウイルスの)感染を拡大させる
役割にほとんどなっていない。そういう情報を得ている」(尾身副座長)。

また、西浦博北海道大学教授(感染症疫学。厚労省クラスター班)は「千人以上の感染者のうち、学校
の中で(新型コロナウイルスの)伝播が起きて流行を拡大させているというエビデンスはない。多くは
家庭内で起きている伝播だ」として「学級や友だち同士で感染が広がっているインフルエンザと相当違
う」との見方を示しています。この点、多くの日本人は誤解しているかも知れません。

また感染症対策理事会理事を務める小児科医の藤岡雅司氏は「つまり、こどもが感染するのは、家庭で
親にたち大人から感染するケースが大半で、子どもから子どもへの感染ではない、とみています。

極論をいえば、「むしろ学校の方が安全?」なのかもしれません。

藤岡氏は中国のデータから、学校での感染事例が報告されていないうちから早々に一斉休校が実施され
たのは「子どもにとってむしろ健康や教育面のデメリットの方が大きい」と一斉休校を批判しています。

実際、休業対象外の保育所や密集が問題となった学童保育では集団感染が起きていないことからも、子
どもから子どもへの感染のリスクは極めて少ないと言えます(『東京新聞2020年4月4日』。

こうした専門家の見解を分かっていたからだと思われますが、専門家会議には相談せず、かといって独
自の科学的根拠をもたないまま、全国一律の一斉休校を要請したのです。

この場合の「要請」とは事実上、地方自治体への指示・命令に近く受け取られたことは良く知られてい
ます。

ここで重要なことは、日本人のほとんどは根拠もなく漠然と、感染を防ぐために学校を休校にすること
は有効で、仕方がない、と思っていることです。

安倍首相は、このような国民感情を計算した上で、全国一斉休校を要請したのでしょう。

そこには、北海道、大阪市、市川市に先を越され、後手後手に回ってしまったことにたいする批判をか
わすため、一気に全国一斉の休校で一気に挽回しようとしたものと思われます。

考えてみればわかることですが、もし、本気で感染症のまん延を防ごうとするなら、家庭にウイルスを
持ち込む危険性のある大人の通勤をストップする方がはるかに効果的です。

しかし、仕事をストップすると、当然のことながら補償の問題が発生します。これにたいして全国一斉
休校は、口先だけでお金は一切かからず、何かを”やってる感”を演出し国民に印象付けることができる、
という安倍首相にとっては、理想的な施策なのです。

しかし、安倍首相の思わくと計算のために実施された全国一律の一斉休校は、当の児童・生徒、彼らの
保護者、教育関係者と社会に多大な混乱と苦しさと与えました。

『東京新聞』(2020年4月30日)の特別報道部編集局は、野外でマスクをして遊んでいる子どもたち
に「三蜜」の問題もないのに、「外出自粛のはずだろう」と声を荒げる事例が各地で起きているに対し
て次のように指摘しています。

「子どもたちに一律に自粛や休校を強いるのは、およそ合理的ではない、それでもまだ強いるとすれば、
「大人も自粛だから子どもも自粛」といった理不尽な自粛ファッショ、あるいは「自粛と言っておけば、
自粛をしなかった者が悪いと責任転嫁できる」という打算ではないか、と。

続いて、編集局は、一か月前の会議で、専門家会議は「三月の休校に感染防止の効果はなかった」とは
っきり言うべきだったにもかかわらず、座長の脇田隆字氏は、「国民にコロナにたいする対策を呼び掛
けると言う意味ではかなりのインパクトがあった」と、独断で一斉休校を決めた安倍政権への忖度とも
とれる、ズレた発言をしている、と手厳しい。

この一斉休校の代々の被害者は児童・生徒で、大人の自粛とは異なり、金銭的補償の問題はありません。
しかし、前文部次官の前川喜平氏は、教育の機会を奪ったと言う意味で、「教育の補償」という大きな
問題が残る、また「子どもの一日は大人の一か月にも匹敵する。一日一日が大切な遊びと育ちの時間な
のだということを忘れてはならない」と本質を突いた問題を提起しています(『東京新聞』2020年4月
12日)。

このほか、子どもが家にいることで出勤できず収入が減少して経済苦に追い込まれた家庭(とりわけシ
ングルマザーの家庭)、特に深刻なのは生活困窮者の子で、給食が重要な栄養源になっている子が多い
のに、その給食が学校とともに止まってしまっています。

当の児童・生徒にとっても親にとっても、学年最後と最初の学習の機会を奪われ、卒業式や入学式は一
生の思い出に残る大切な機会を奪ってしまった休校。

一斉休校は果たして、あまりにも大きすぎる犠牲を強いることを正当化するに値する必然性と合理的根
拠があっただろうか?

もう一つ、国会での議論も内閣内での検討もなく、あたふたと出した休校要請を出した時、安倍首相の
頭の中に、それによってどれほどの犠牲が発生するのかを描く想像力が働いたのだろうか?

私には、どうひいきめに見ても、安倍首相にそのような想像力が働いたとは思えないし、確固たる哲学
に基づき熟慮の末に要請を出したとも思えません。

私は、休校そのものを前面的に否定するものではありません。それは既に紹介した岡部医師が主張する
ように、「地域ごとの対策」を考えるべきだと思う。

(注1)『朝日新聞』(2020年2月28日 22時28分)
https://www.asahi.com/articles/ASN2X74BSN2XUTFK03F.html?ref=mor_mail_topix1
(注2)『毎日新聞』デジタル(2020. 2/16)
https://mainichi.jp/articles/20200216/k00/00m/040/095000c
(注3)BusinessInsider (Feb. 28, 2020, 07:15 PM)
https://www.businessinsider.jp/post-208585
(注4)『神奈川新聞』(2020年02月28日 21:31)
    https://www.kanaloco.jp/article/entry-284598.html





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検証「新型コロナウイルス肺炎」(5)―PCR検査に関する専門家会議への疑問―

2020-05-03 09:42:14 | 健康・医療
検証「新型コロナウイルス肺炎」(5)
―PCR検査に関する専門家会議への疑問―

今回のコロナ問題が始まった、かなり早い段階から、私自身も感じていたし、テレビでもずっと
疑問を投げかけてきました。

私の疑問は、なぜ、PCR検査(遺伝子解析による検査)の数が増えないのか、という問題です。

2020年4月28日現在、1000人当たりPCR検査の割合を見ると、トップのアイスランドは別
格の135人ですがが、日本は1.8人でOECD36カ国中下から2番目の35位です。欧米諸国は20
人代から少なくても10人前後です(注1)。

最近は大学や医療機関が独自におこなうばあいもありますが、通常はPCR検査を希望する人は、
まず保健所に相談して、検査機関につないでもらう、という手順をふむことになっています。

しかし、保健所への電話がとても繋がりにくい上に、つながっても、よほどの重症と見なされない
かぎり、検査にまではゆきません。

こうした実態に対して、メデイアなどではこれまで、希望者全員が検査を求めて押し寄せたら医療
崩壊が起こるから、というもっともらしい説明がしばしば行われてきました。

しかし、こうした説明は当然のように見えて、実は実態をみていない的外れです。なぜなら、誰も、
希望者全員に、といっているのではありません。かかりつけの医師か、町のクリニックの医師が必
要と認めた場合は、という条件の下で、という意味広く検査すべきなのです。

しかし実際には、かかりつけ医が必要を認めて直に連絡しても、受付窓口である保健所ができる限
り検査人数を絞っているのが実態です。

ある医師はテレビで、自分が患者を診察して、明らかに検査が必要だと認めて、保健所に連絡して
も、保健所の職員は患者を診てもいないのに、検査を拒否している、と怒っていました。

そもそも保健所は、患者の治療に関与する臨床の場ではありません。その保健所で検査が必要かど
うかを判定していること自体おかしなことです。

それでは、保健所はどんな根拠で、検査の必要性と受信を判定しているのでしょうか?保健所、国
民向けホームページで、保健所などへの相談の目安として「風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日
間以上(高齢者や基礎疾患がある人は二日程度)続く」か「強いだるさや息苦しさがある」と示し
ています。ただ、これに当てはまらなくても「医師が必要と判断したもの検査も受けられる」と示
しているが、同じ場所に記載がありません。

この「目安」(事実上基準)は、政府の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」(以下「専
門家会議」と略す)が2月17日に示したものです。

しかし、専門家会議の副座長の尾身茂氏は国会に参考人として呼ばれ、その「4日」の根拠を聞か
れて、特に根拠があるわけではなく、ただ実施機関のキャパシティーを考慮して、4日とした、と
答えています。

専門家会議というのは、あくまでも「科学」の目で分析し、そこから得られた知見を正確に世の中
に伝えるべきで、現場の事情に忖度して物事を決めるべきではありません。 

この「発熱4日以上」の縛りで、どれほどの人が不安を抱え、ある人はそのために重症化したり亡
くなったかも知れないのに、誤りを認めることもなく、さらっと、言ってのけたことに私は、この
専門家委員会とは一体、誰のために、どんな倫理感を持っているのか疑問に思いました。

専門家会議はPCR検査について、2月24日の「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針の具体化に
向けた見解」の中で、「急激な感染拡大に備え、限られたPCR検査の資源を、重症化のおそれがある
方の検査のために集中させる必要がある」と表明しているのです。

医療は、早期発見、早期治療が大原則ですが、専門家会議の方針は全く原則に反しています。

検査を絞った背景には、専門家委員会が、検査を重症者と「クラスター(感染集団)」を見つけるこ
とを戦略としていたことも大きく影響しています。

当初の屋形船での集団感染のような感染パターン、あるいはライブハウスが発生源となった大阪のク
ラスターなどの事例から、クラスターを見つけて潰してゆけばこの新型コロナ肺炎は撲滅できる、と
の印象をもったのかもしれません。

しかし、クラスターに照準を定めて検査を絞ってゆく戦略は、とりわけ今年の4月以降には経路の分
からない(つまりクラスター感染ではない)感染が半分から3分の2を占める状況では、もはや破綻
していると言わざるを得ません。

言い換えると、重症者に検査を集中している間に、検査をしてもらえなかった比較的症状が軽い人た
ちが周囲に感染を広め、いわゆる市中感染が広がっているのです。

東京および首都圏や大阪などの大都市では、市中感染が浸透してしまっているので、いくら「三蜜」
(密閉、密集・密着)を避ける行動変容を、と呼びかけても、コロナウイルスはすでの広く浸透して
しまっているので、陽性者はなかなか減りません。

私は、こうしてPCRを絞りに絞ってきた厚労省と、厚労省に医学的なアドバイスを与えてきた専門
家委員会の責任は重大だと思います。

徹底的に検査の範囲を広げ、感染がどこまで広がっているのかを確認しないかぎり、これからコロナ
ウイルスとどのように戦っていくかの戦略は立てられないのです。

しかし、実態は、悲惨な状態です。たとえば、自らの体験談を話した女性は、せきが一か月以上続き、
微熱や倦怠感、味覚・嗅覚の異常もあったが、検査はすぐには受けられなかった、という。しかし、
このような話は、テレビで何回も紹介されています。

日本医師会の横倉義武会長は4月28日の記者会見で、PCR検査につて「医師が診察し、検査をす
べきだと判断した人にはしていくべきだ」と述べ、検査の必要性は保健所ではなく医師の判断で行う
べきである、と、まっとうな発言をしています(『東京新聞』2020年4月29日)。

では、実際に、どれほどの相談があって、実際にどれほどがPCR検査に至ったのかを、東京都を事
例としてみてみよう。

厚労省のホーム・ぺ―ジから「帰国者・接触者相談センターの相談件数等(都道府県別)(2020年4月
4日掲載分)にゆくと「2月1日~3月31日」の間の「相談件数」と「外来受診患者数」およびその内の
「PCR検査実施件数」の県別統計を見ることができる。

東京都の場合、「相談件数」は41,105件であるのに対して「受診者数」は1,727人で、その内のPCR検
査実施件数は964件でした。

「相談」の内容はくわしくは分かりませんが、「相談」から「受診」まで漕ぎつけるのは4.2%で、さ
らに「検査」に漕ぎ着けられるのは2.3%、残り97.7%は検査にまで至っていないのです(注2)。

5月1日に行われた専門家会議の議論の結果は公表されています。その中で、
    日本では、保健所による積極的疫学調査により、地域に感染者が複数出た場合に共通の感染
    集団(クラスター)を特定し、次のクラスターを潰してゆくことに取り組んできた。しかし、
    感染者数の急増とともに、クラスター対策が困難になりつつあり、したがって検査に関して、
    政府は、感染者の迅速診断キットの開発等による早期診断、早期把握に向けて、PCR等検査
    体制の拡充に努めていかなければならない。・・・この感染者の早期把握の能力をあげてい
    くことが重要である。 ・ また、今後、中長期の対応を見据える中で、より簡便な検査手法の
    開発と診療現場での使用に向けて全力で取り組むべきである。・・・・ PCR等検査について
は、次の専門家会議で再度議論を行う(注3)。

この段階になってようやく、クラスター中心の対策が困難になったこと、したがって今後、検査を拡
充する(つまり広く網をかける)必要があることを認めています。

しかし、この「提言」には、これまでのクラスターを追いかけることに集中し、検査を絞ってきたこ
とが間違っていたことを認める文言はありません。

ここでも、いつの間にか、検査抑制論から拡充論へ、するりと方針転換しています。この間、国民は
実に三か月を空費したのです。このような転換に際していは、まず、謙虚にこれまでの政策の是非を
検証する必要があります。

検査の拡大に関して韓国は、ドライブスルーやウォークスルーなどの方法で徹底的に検査を行い、陽
性者をさまざまな施設に隔離し、治療することで、コロナウイルスの制圧にほぼ成功しました。この
方法は今や、世界標準になりつつあります。

PCR検査に関して、最近、アメリカ、香港、イタリアなどで治験が進められており、その有効性が
実証されつつあります。日本では北海道大学血液内科の豊嶋崇徳教授も唾液によるPCRの臨床をお
こなってきて、次のように語っています。すこし長くなりますが、重要なことなので、引用します。
    新型コロナウイルスというのは、ある特定の受容体にくっつき、その発現が口の中で多いこ
    とが分かってきました。おそらく症状の出ない人の味覚に異常が出るのも、このためだと思
    われます。つまり、口の中でウイルスが増えてうつす、こういう流れです。そのため、すで
    に米国ニュージャージー州ではドライブスルー方式で唾液を採取するPCR検査法が始まっ
    ています。
    今のPCR検査のやり方(綿棒方式)の問題点は、熟練した採取者の確保が困難なことや、
    採取者や周囲の感染リスクがあること、隔離された採取場所が必要なこと――が挙げられま
    す、しかし、この唾液を使ったPCR検査だと、容器に唾を吐いてもらうなどして検体を採
    取して調べることができます。これだと感染のリスクも抑えられるし、隔離された場所も必
    要ありません。ただでさえ、ひっ迫する防御具を浪費する心配もないのです。今のところ臨
    床段階ですが、綿棒採取と唾液採取の結果は変わりません」
    米ラトガース大の試験によると、60人に対する綿棒方式と唾液採取によるPCR検査の結果
    は同じ。イェール大の試験では、新型コロナウイルスのPCR検査の検体として、咽頭ぬぐ
    い液よりも唾液の方が、ウイルス量が約5倍多かったという。海外のデータを取り入れなが
    ら症例を重ね、いずれは(唾液採取に)切り替えた方がいいのではないか(注4)。

唾液検査なら、自分でも、町のクリニックでも可能で、しかも採取者が飛沫を浴びる危険もありませ
ん。いまのところ感度が低い、という意見もありますが、試薬の改善によって、さらに精度は上がる
と思います。

唾液検査にたいして、現態勢に既得権益をもつ人々から反対されるかもしれませんが、何よりも、で
きる限り広く検査をし、陽性の人を隔離し、陰性の人は経済活動や社会活動に復帰すべきです。

自らも医師でダイアモンド・プリンセス号の患者を受け入れた山梨大学の島田学長は、PCR検査を
もっと広げるべきなのに、日本におけるPCR検査の状況は、日本の恥、途上国並、と現状を痛烈に
批判しています(注5)。

最後に、今、国のコロナ対策を事実上統括している、専門家会議についてある危惧を抱いていますの
で、それを補足しておきます。

医療ガバナンス研究所理事長の上昌弘氏によれば、この専門家会議は国立感染症研究所(感染研)の
意向が通よく働いているという。委員は全部で12名。座長は国立感染症研究所の所長です。

3月からPCR検査は保険適用になったが、対象は限定されていて、検査は広がっていません。上氏
は、
    一番の問題は、感染研にあると思います。当初から、感染研が検査を全部引き受けることに
    なっていました。感染研はあくまでも研究所であり、日本中の検査を引き受けたら、どう考
    えてもキャパ(受け入れ能力)を超えます。その結果、目の前で「検査が必要」というのに、
    受話器の奥にいる保健所が「必要ない」と医師を説得に回る“異常事態”が広がった
と述べた後、「私は感染研がお金とデータを握りたいことが関係していると思う。保険適用が広がれ
ばお金もデータも外に出ていきますから」と分析しています(『毎日新聞』2020年3月18日 夕刊)。

本年2月13日、第8回の新型コロナウイルス感染症対策本部会議に提出された「新型コロラウイルス
(COVID-19)の研究開発について」という資料3によると、緊急対策として総額19.8億円が措置され
ている。内訳は、感染研に9.8億円、日本医療研究開発機構(AMED)に4.6億円、厚労科研に5.4億円。

この資料は「資料3 健康・医療戦略室提出資料」と書かれている。その「健康・医療戦略室」を仕切
るのは、国土交通省OBの和泉洋人室長(首相補佐官)と、医系技官の大坪寛子次長だ。最近、週刊誌
を騒がせているコンビが、この予算を主導したことになる。大坪氏の経歴も興味深い。慈恵医大を卒
業し、感染研を経て、厚労省に就職している。専門家会議のメンバーと背景が被る(注6)。

この予算配分をみると、感染研向けの予算配分が突出していることは明かです。

私は、専門家会議が、「原子力村」と揶揄された、原発推進グループのような、「感染研村」のような
組織にならないことを祈っています。

(注1)『Yahoo ニュース Japan』4/30(木) 21:51
    https://news.yahoo.co.jp/byline/takahashikosuke/20200430-00176176/
(注2)厚労省 https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000619807.pdf
Yahoo NEWS Japan 4/9(木) 14:00
https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20200409-00172312/
(注3)(注2)この会議の「提言」は本文14ぺ―ジと参考資料からなる。https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000627254.pdf 引用は12ページ。
(注4)『日刊ゲンダイ』デジタル 4/28(火) 16:10配信 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200428-00000028-nkgendai-hlth
(注5)「医療維新」山梨大学 (オピニオン 2020年4月22日)
    https://www.yamanashi.ac.jp/wp-content/uploads/2020/03/6bf1e59badd192ea0597a659e94a9d59.pdf
(注6)上昌広 「帝国陸海軍の「亡霊」が支配する新型コロナ「専門家会議」に物申す(上)Foresight (2020年3月5日) https://www.fsight.jp/articles/-/46603  
 


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検証「新型コロナウイルス肺炎」(4)―布マスク製造の4社目をひた隠しする政府―

2020-04-25 17:22:21 | 健康・医療
検証「新型コロナウイルス肺炎」(4)
―布マスク製造の4社目をひた隠しする政府―

4月の17日から、安倍首相の肝いりで実際されている、布マスクの配布が進行していますが、
この施策には多くの問題があります。

この深刻な事態の下で、布マスク配布は、全体からみると小さな問題のように見えるかも知れま
せん。しかし、この施策は、安倍政権の性格とコロナ肺炎に対する姿勢を象徴的に、しかも鮮明
に浮き彫りにしている、という意味で、決して小さな問題ではありません。

現在、多くの中小企業、とりわけ飲食業界や観光関連事業者は、倒産の危機に瀕しています。

パートや非正規の人たち、フリーランスのひとたちもこれまでの収入と比べれば激減しています。

経済的問題については、別の機会に検討しますが、非常に多くの人が、今日・明日の生活をどうす
るのか、というギリギリのところに追い込まれています。

それでも、命の方が大事だ、と言われればそのとおりで、自粛を受け入れています。

こうした事情を考えると、巨額の税金をつかって実施されている布マスクの配布には、苦境に立た
されている人びとの感情を逆なでする疑問と疑惑があります。

以下4点に絞って、考えてみましょう。

第一に、安倍首相の肝いりで始めた布マスクの配布です。安倍晋三首相が41日、新型コロナウイ
ルスの感染防止策として、全国の約5000万世帯に対し布マスクを2枚ずつ配ると表明し、17
日から東京都内で配達を開始し、5月中に全国への配達完了を目指しているとのことです(注1)。

しかし、この布マスク配布に背景と実態を知ると、国民の感情を逆なでする問題が幾つもあります。

安倍首相の布マスク配布に対する多くの国民の反応は冷ややかで、これをアベノミクスならぬ「ア
ベノマスク」と嘲笑し、“外国のメディアは、“これはエイプリル・フールではないか“(つまり”冗談“
ではないか)と揶揄しています。

それでは、この「英断」にどれほどの深い洞察や思慮があったのでしょうか?『朝日新聞』(2020年
4月3日)によれば、この策は「経済官庁出身の官邸官僚」が「全国民に布マスクを配れば。不安は
パッと消えます」と発案したのだという。

前文科省事務次官の前川喜平氏は「アベノマスクという愚策」というタイトルのコラム記事で、この
「官邸官僚」が、今井尚哉首相秘書官にちがいないと書いていますが、これは今や公然の秘密です。
どうやら2月27日の突然の「全国一斉休校要請」も彼の発案だったようだ。

前川氏の言う通り、「どうせ国民は愚かだ。いくらでもだませると見くびっているのだ」、「こんな子
供だましでだませるほど国民は愚かだと思いっているのか」と怒りのコメントをしています。まったく
同感です(『東京新聞』2020年4月5日 「本音のコラム」)。

ここには、真剣にマスク不足を解消し、国民の健康を守ろうという政治家としての真摯な配慮は全く見
られません。逆に、なんと思慮の足りない、浅はかな政治家なのか、という印象を与えてしまいます。

井戸まさえ氏は、“全国民が唖然・・・「マスク2枚」で完全に露呈した安倍政権の「闇」 なぜ誰もと
めなかったのだろうか」”のタイトルで、「対策本部の面々の中でひとりだけ顔に比して小さなマスクを
かける安倍総理の姿は、コロナ対策への足らざる対策を象徴するようで、さらに不安を掻き立てる」と、
バッサリ(注2)。

井戸まさえ氏が言うように、“なぜ誰も止めなかったのだろうか”と思ってしまいます。これが、自民党政
権の現実といてば現実なのですが、本当になさけなくなります。

自民党議員でさえ、布マスク2枚配布に賛同している人はいませんし、第一、この布マスクを使っている
自民党議員は安倍首相を除いて誰一人いません。

第二に、1世帯2枚という数という数が何を根拠にしているのか分かりません。もちろん、1世帯当たり
の人数はバラバラで、それらをいちいち考慮したのでは、早い配布には間に合わない、という理屈は成り
立ちます。

しかし、例えば二人世帯だとしても、それぞれの洗い替えを考えれば、4枚は必要です。今のままでは、
1人世帯の人しか有効ではありません。

第三は、この布マスクの配布に関する費用です。菅官房長官は記者会見で、1枚当たり200円ほどで、
予算としては200億円ほどになる、と答えていました。

ところが、フタを開けてみると、配布する経費を466億円と見積もり、2020年度補正予算案でまずは
233億円、20年度当初予算の予備費で233億円を支出する計画だという。

これはあまりにもひどい税金の無駄使いです。しかも、問題はそれだけではありません。

厚労省によると、全戸配布用の布マスクの納入元は計3社で契約金額は興和が約54億8千万円、伊藤忠約
28億5000万円、マツオカコーポレーション約7億6000万円で、合計しても90億9000万円に
しかなりません。

それでは、あとの375億円はどうなったのでしょうか?ここに、大きな疑惑があります。

菅官房長官は、コストを抑える努力をしたために安くあがった、という趣旨の説明をしていますが、あまり
にも金額の差が大きすぎるのです。

厚生労働省は受注企業について「興和、伊藤忠商事、マツオカコーポレーションの3社プラス1社」と説明し、
残る1社については公表していません。残る1社についても公共調達のルール上、公表する義務があり、野党
は公表を強く求めていますが厚労省の担当者はかたくなに拒み、かえって疑念が広がっています(注3)。

政治家や官庁が、ひた隠しに隠しているのには何か知られたらまずい、何か秘密があるにちがいありません。

万が一にでも、この第4社目が、政治家との関連が疑われる企業だとしたら、それは、あまりにも国民を愚
弄しています。

社民党の福島瑞穂議員、厚労省に問い合わせて得た回答では3社分の金額しか示されていません。福島氏は、
地震のツイッターで、厚労省は4社と言っていたのに、3社になったことは疑問だと書いています。

この点はメディアも再三質問しましたが、厚労省も菅官房長官も曖昧にして逃げています。

計算すれば小学生でもわかるように、常識的に考えれば、第4社が375億円分を納入したのか、あるいは、
この税金を他の目的につかうつもりなのか、いずれにしても、国民の税金の使い道は、その使途と明細を明
らかにすることが義務付けられています。

菅官房長官は、記者会見でこの375億円の使い道に関して記者会見で問われても、正面から答えず、会見
場を後にしました。

こういう、誰が見てもおかしいと思う、お金にまつわる疑惑を明らかにしないのは、安倍政権下でこれまで
も何度も見せられてきました。

こうした体質が、今回の布マスク配布にも、はからずも出てしまった感があります。

多くの人が自粛で苦しんでいる、この状況下で、これほど巨額の税金がどのように使われているのかを明らか
にしないということは、政府のコロナ対策に対する信頼性を失わせます。また、日々、倒産や生活破綻の危機
に直面している人たちの感情を逆なでするものです。

第四は、配布された布マスクの品質に関する問題です。

これに関してはすでにテレビその他のメディアで再三取り上げられているように、配布された妊婦向け、一般
向けの布マスクの中に、カビが生えていたり、髪の毛らしい物が入っていたり、ひどいのは虫が袋に入ってい
たようです。

厚労省によれば、 政府が妊婦向けに配布した布マスクに汚れなどが見つかった問題で、加藤厚生労働相は4
月21日の閣議後記者会見で、同日午前までに見つかった不良品の総数が、143市区町村で7870枚に上
ることを明らかにした。そして、全世帯用でも同様の問題が発生しています。

これらのマスクは、日本のメーカー4社が海外の工場で製作した物で、その海外とは中国、ベトナム、ミャン
マーの工場であることが分かっています(『読売新聞』20204月21日)ここでも日本のメーカーは4社であ
ることが明記されています。

この4社は、数さえそろえば問題ないと軽く考え、製造課程での品質管理を全く無視したとしか思えません。
もしそうだとしたら、これらの日本企業の経済倫理感は最低です。

しかも、日本を代表する商社の一つである伊藤忠でさえもこの状態なのです。

思い付きのパフォーマンスで、全国民に2枚の布マスクをあてがっておけば、みんな喜んで、政権への支持が上
がるとでも思ったのでしょうか?

そんな風には思いたくありませんが、どう考えても、それより深い思慮と配慮があるようには感じられません。



(注1)『東京新聞』電子版(2020年4月24日 13時55分)https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020042490135553.html
(注2)https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71569?page=1 (2020.4.3)
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(注3)『毎日新聞』電子版 2020年4月24日 19時44分(最終更新 4月25日 08時28分)  https://mainichi.jp/articles/20200424/k00/00m/010/208000c




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検証「新型コロナウイルス肺炎」(3)―首相と都知事の初動の対応の遅れ―

2020-04-18 20:47:24 | 健康・医療
検証「新型コロナウイルス肺炎」(3)
―首相と都知事の初動の対応の遅れ―

前回の検証記事は、クルーズ船「ダイアモンド・プリンセス」において、日本人乗船客の中に
700人を超える感染者を出してしまったことの経緯を書きました。

しかし、不思議なことに、この感染爆発に関して政府も厚労省も、なぜこのような事態が発生
したのかを検証しようとしません。したがって、誰も責任をとっていません。

クルーズ船以降にも取り上げる問題は幾つもありますが、その前にどうしても気になる二つの
問題を検証してみたいと思います。

一つは、今回のコロナは肺炎の震源地ともいえる中国からの入国制限と全面禁止の遅れです。
これは初期の段階で実施していれば、状況はかなり変わったはずです。

中国の湖北省武漢市を中心として新型コロナ肺炎のまん延がはっきりした今年の1月、日本政
府は同月29日、30日、31日の3回に分けてチャーターで現地の日本人を帰国させました。

また、1月31日には、14日以内に湖北省に滞在したことのなる外国人、湖北省で発行され
た中国旅券の所持者の入国を拒否する決定をし、2月1日から実施しました。言い換えると、
湖北省以外の地域からは入国できることになります(後に浙江省も追加)。

これについては、このブログの2月25日の記事「続「新型コロナウイルス肺炎の波紋」でも
指摘してきました。

ここに最初の大きな落とし穴がありました。今年の中国の「春節」(日本の正月)は1月25
日で、国民は24日から30日までが休暇でした。つまり、武漢を含む湖北省から大勢の中国
人が春節休暇に日本に入国していたのです。

このように考えると、2月1日の入国制限は、実に微妙なタイミングです。

台湾政府は、中国での新型肺炎のまん延をみて2月初旬に中国全土からの入国を禁止しました。

しかし、日本政府は2月末になっても、中国全土からの入国制限や禁止をしていませんでした。

2月末でさえ、たとえば26日には首相補佐官など複数の自民党議員が政治資金パーティーを開
いていたことからも分かるように、政治家の間でもまだ危機感は弱かったのです。

あるメデディアは、安倍首相が中国人の入国を全面禁止できない要因として、①インバウンド、
②4月の周近平国家主席の訪日、③7月の東京オリンピックの3つを上げていますが、私も同感
です(注1)

①のインバウンドとは、年間700万人もの訪日中国人が“爆買い”や宿泊、旅行などで使ってく
れるお金で、日本の観光業にとって大きな収入源です。

政府は、これも考慮して中国人の入国全面禁止になかなか踏み切れなかった可能性がありあます。

②の周主席の訪日は、4月に中国の習近平国家主席を国賓として迎えること、そこで初めての日
中首脳会談を行うことです。

③は、7月に行われる予定だった東京オリンピック・パラリンピックの開催です。

上記のうち、安倍首相は②と③を、後世に残したい「政治的レガシー」として重要視していたよ
うです。「レガシー」とは通常、「遺産」を指しますが、ここでは「後に残る偉業」といったほ
どの意味です。

まず、②の周主席の訪日ですが、3月5日、新型コロナ肺炎まん延の影響で、周主席の来日が延
期となることが中国より日本政府に知らされました。

偶然かどうか分かりませんが、その日の夕方、急遽開かれた「新型ウイルス感染症対策本部」の
会議で、中国と韓国の人に発給済みのビザの効力を停止する、との決定がなされました(施行は
9日から)。ここでは湖北省という限定はなくなり、中国全土を対象にはしていますが、まだ、
2週間の待機期間をどこかで過ごせば入国は可能でした。

考えようによっては、周主席の訪日が延期となるまで、中国側に忖度して、中国全土からの入国
制限を伸ばしていたとも解釈できます。これが、初動の防疫が遅れた第一の問題です。

ちなみに、中国からの名実ともに全面禁止は4月1日まで待たなければなりませんでした。

次に③のオリンピックにと防疫との関係です。新型コロナ肺炎が市中感染の段階に入った3月の
中旬以降、はたして東京オリンピックは今年の7月に開会できるのか、中止になるのか、延期に
なるのかが毎日のように議論になっていました。

というのも、3月13日には世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が「欧州がパンデミッ
ク(世界的大流行)お中心になった、という「パンデミック宣言」を発しました。

日本側は、ひょっとしたらオリンピックが中止になるのではないかと、とかなりの危機感を持っ
ていました。
3月20日を過ぎたあたりから、安倍、小池両氏にとって、「東京五輪」が重大テーマとなって
いました。

今日の東京都における感染拡大に一つの大きなきっかけとなったのは、3月20からの3連休で、
この3連休で「気が緩んで多くの都民が外出してしまった」ことだと考えられています。

しかし、直前の19日の記者会見で小池氏は、まだ延期の決定前だったオリンピックについて、
「中止も無観客もあり得ない」と強調する程度で、3連休の外出自粛には特に触れませんでした。
これと対照的だったのは大阪府の吉村知事でした。19日に緊急会見を開き、府内の感染者が数
十倍に拡大する可能性を示唆した厚労省の“非公開”試算を提示して、「3連休は(兵庫県との)往
来は控えていただきたい」と強く求めました。

この時の結果は、2週間以上経った4月の初旬に現れました。共に人口規模は1400万人前後の
「東京都」と「大阪府+兵庫県」の感染者を比べると、4月2日~5日まで、連日「東京都」は「
大阪+兵庫県」の2倍以上であった。

ここまで差がついたことについて『日刊ゲンダイ』(2020年4月7日)は、小池知事が「五輪ファ
ースト」だったからだろうと書いていますが、同感です。

実は東京都にも大阪同様、感染者の増加が厚労省からとどいていたのだ。小池知事は、大阪府知事
と同様、連休の前に外出の自粛を強く求めておくべきだったのです。

ところが、小池氏も政府も関係者も、オリンピックは中止だけはなんとしても避け、せめて延期に
持ち込めないか、とIOC(国際オリンピック委員会)に必死の説得を続けていました。

その功もあって、3月24日、バッハIOC会長から、1年程度延期するとの同意を得ました。

これを境に、雰囲気が急転したのが小池百合子東京都知事でした。

それまで、コロナ肺炎にたいしてはほとんど言及がなかったのに、オリンピックが延期と決まった
翌日の3月25日、突如、東京都の感染が「重大局面」にあり、「ロックダウン」(都市封鎖)の
可能性さえある、と言い始めたのです(『東京新聞』2020年4月1日)。

翌26日の朝日新聞は、「ロックダウン」発言後の小池氏は「終始上機嫌だった」と報じた。連日
テレビ行脚し、NHK「日曜討論」では「今が『いざ』という時だ」と危機を煽っていたが、内心
は大はしゃぎだったらしい。

前出『日刊ゲンダイ』の都政記者によれば、小池氏は「『今日は〇〇っていうテレビに出る』『今
度はXXに出演するの』と周囲に語り、やたらとハイテンションです。連日テレビに出られるのがよ
ほどうれしかったのでしょう」、と書いています。

いまでは、小池氏はコロナ肺炎と先頭に立って闘う勇ましリーダーのように振る舞っています。し
かし、どう考えても、3連休の前に、大阪府知事のように、強く自粛を求めなかったことは大きな
失策だったと思います。

オリンピックが延期になったことで、急遽、コロナ肺炎のまん延について話し出したのでは、との
記者の質問に、「貴紙はそのように書いていますが、そんなことはありません」と突っぱねていま
す。この前後の彼女の言動をみると、私にはにわかに信じられません。

ニューヨーク州はカリフォルニア州より、わずか3日遅く外出禁止令をだしたために、4月7日現
在、ニューヨーク州の感染者は16万人、死者が7000人にたいして、カリフォルニア州はそれ
ぞれ2万人と500人にとどまっている。

初期段階での3日間は、非常に大きな影響をもちます、まして、日本の場合、たんなる3日ではなく、
3連休という特別な3日間で、予想通り、多くの人がお花見やレジャーに繰り出しました。

責任ある立場の人は、過ぎたことだから、と曖昧にしないで、責任の所在を明らかにすべきです。

(注1)たとえば『東洋経済 ONLINE』 2020/02/26 7:40 https://toyokeizai.net/articles/-/332702)






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検証「新型コロナ肺炎」(2)―全てはクルーズ船から始まった―

2020-04-13 14:27:36 | 健康・医療
検証「新型コロナ肺炎」(2)
―全てはクルーズ船から始まった―

新型コロナ肺炎の感染者と死者の数は、日を追って増え続けています。4月11日現在、日本全体
で7000人超の感染者が発生し、日々、増加し続けています。

私たちは、なぜ、このような事態にいたったのか、また、この先、一体、どこまでこの感染症が広が
り、いつまで続くのか、とても不安を感じています。

このような時は、ただ恐れたり、不安に思ったりするだけでなく、冷静に、なぜここまで事態が深刻
になってしまったのかの原因を、遡って検証することが是非必要です。

そこで、今回は、日本で最初に集団感染が起こった、クルーズ船ダイアモンド・プリンセス(DP)
における集団感染の実態を時系列を追って検証しましょう。

1月20日 ベトナムや台湾、沖縄を経て2月3日に横浜に戻る予定で横浜港出発
  25日 途中、香港に寄港(香港在住の80才の男性が下船)
2月1日  香港で下船した男性の新型コロナ肺炎感染が判明。
  3日  DP横浜沖停泊 
  4日  乗員・乗客の中から10人の感染者が判明
  5日  検疫検査(PCR)を拡大。 乗客に対して個室待機を要請し、潜伏期間を考えて19
      日までの健康観察を実施することを決定
 10日 この日までに135人の感染が判明
 14日 持病のある高齢者を船外施設へ移動
 17日 全ての乗客の検体採取(PCR検査)を完了
 19日 健康観察期間終了。陰性で健康状態に問題のない乗客449人下船
3月1日 それまで残っていた乗員・乗客全員が下船。これで3711人が下船船したことになる。
     この時までに日本人感染者は710人以上に達していた。

それでは、クルーズ船内でなにが起こっていたのか、そして政府や厚労省はどのように対応していた
のかを乗客の証言も含めてくわしく見てみましょう。

1日深夜には香港政府が、香港で下船した乗客(80)が、新型コロナウイルス肺炎と確認されたと発
表しました。しかし、この事実は乗客には知らされませんでした。

2月3日には横浜港に向けて出航しました。ところが、ある乗客によれば、この日の昼には船内調理室
の見学ツアーがあり、男性も参加した。調理スタッフも使う通路を通り、すぐそばで調理もしていた。
参加者は200人ほどいたが、マスクを着けている人は、ほとんどいなかったという(注1)。

このころの様子を、金沢市の70代の別の男性が『東京新聞』の取材でつぎのように語っています。

この男性は一人でツアーに参加し、1月20日に横浜港を出港し、鹿児島、香港、ベトナム、沖縄な
どを巡り、2月4日に横浜港で下船予定でした。

異変に気付いたのは既に荷造りを終えていた2月3日の夜のことでした。船内放送で4日に下船でき
なないことを知ります。この時、金沢にいる妻からのメッセージで、感染者が出たことを知りました。

ここで注意すべきは、3日には船内感染の可能性があったにもかかわらず、船内調理見学ツアーが行
われていたことです。しかし、まだ全体に危機意識は薄かったようです。

さて、金沢の男性の話に戻しましょう。3日には船は横浜港の埠頭に横付けされました。しかし4日
ははまだ船内での行動は制限されず、朝昼晩と感染リスクの高いバイキング形式で食事していました。
マスクをした乗客は記憶にないそうです。

船内のバイキング形式の食事は、感染リスクが非常に高く、一度自分の皿に盛ったものをまた戻した
りりする人がいるような状況でした。

4日といえば、翌日からの検査と客室待機が始まる前日で、この段階では検疫所も政府もすでに感染
防御に動き始めていた時期です。

客室待機となったのは5日。部屋の前の通路には、外出しないよう見張りがつきました。感染者の数
は日を追うごとに増えていたが、どの階で出たかまでは知らされなかった。
 
食事や飲料は、食堂に行くのではなく、部屋で乗務員から手渡しで受け取るようになり、一日に何度
も別の乗務員が訪れるようになりました。

この男性は、「乗務員から感染が広がるのではないか」と不安になり、繰り返し手を洗いました。

7~10日は2日に1回、11日からは毎日、一時間ほどデッキでの散歩が認められました。不安の
中で、電話で家族や友人から励まされ「自分が陽性のはずがない」と自分に言い聞かせ何とか平常心
を保ちました。

PCR検査を受けたのは14日で、18日の夜、陰性と下船決定を伝える書面が部屋のドアの下から
入れられました。「やっと解放される」と、ほっとしました。19日に下船し、新幹線で金沢に戻り
ました(『東京新聞』2020年3月25日 夕刊)

ここまで、見てきて分かるように、感染が起こった当初(おそらく、80才の男性が香港で下船した
2月1日以前からはじまっていた)には、中国の武漢におけるコロナ肺炎の広がりについては広く知
られていたにも関わらず、4日くらいまでは、船内にはほとんど危機感も緊張感もありませんでした。

陸上の政府・厚労省では、全く別の事態が起こっていました。

ダイヤモンド・プリンセス号が横浜港沖に停泊した2月3日の午後10時すぎ。厚生労働省の会見室は、
報道陣でごった返していました。乗客をいつ、どう下船させるのか。記者たちから矢継ぎ早に質問が
飛びました。

「問題なければ、自宅に帰ってもらいます」。厚労省の担当者は、そう説明しています。当時ある幹
部は「症状のある人を中心に検査する」と話していた。無症状なら、検査もせずに帰宅させる――。
それが政府の方針と受け止められていた、と述べています。

この時点では、厚労省は感染の可能性はあるが、楽観的に構えていました。

しかし、事態は一転する。翌日、そんな楽観を吹き飛ばす「問題」が判明したからです。4日午後10
時ごろ、加藤勝信厚労相から菅官房長官に「これは大変なことになりました。これから対応を協議し
ませんか
」との電話が入りました。

「大変なこと」とは、乗員乗客10人の感染が判明したことを指していた。最初に検査結果が出た31
人の約3分の1が感染していた事実が、政権幹部に内々に伝えられた直後のことでした。

感染拡大を防ぐため、乗員乗客に14日間ほど船内にとどまってもらう「全員の船内隔離」が決まり、
加藤厚労相は5日朝の記者会見で発表した。「残る乗員、乗客の皆さんには、引き続き船内にとどま
っていただきたい」との方針が決定されました。

同時に厚労省は、当初は14日間の健康観察期間が終わった段階で症状がない人は検査を行わずに下船
させる予定でいたが、10人の感染者が出たため、急遽、検査が陰性だった乗客だけを順次下船させ
ていく方針に転換しました。

「船内隔離」を決めてから10日が経った2月15日。中国・武漢からチャーター機で帰国した人のうち、
健康観察期間に症状がなかった人は、期間終了後の検査でも1人を除いて陰性だった、というデータを
判断の根拠に挙げ、厚労省は、下船者に感染の恐れはないとして公共交通機関での帰宅も認めました。

当時は、高齢者が多い乗客を船内にとどめておくことに国内外から批判が高まっており、加藤厚労相
は「ギリギリの判断で決めた」と説明しました。

ところが、陰性だったとして下船した栃木県の女性が、22日、陽性になったことが発覚しました。
船内の感染防止策や、下船者を公共交通機関で帰宅させた対応などに、疑問や批判の声があがった。
結局、厚労省は、下船者に公共交通機関の利用を避けるように求めたりと、ここでも対応の変更を迫
られることになりました(注2)。

しかも、船内の驚くべき実態は、後になって関係者から次つぎに明らかにされてゆきました。

クルーズ船で働いていた日本人乗員が『共同通信』の取材に応じて、政府が乗客に室内待機を求めた
2月5日以降も「乗員は行動を制限されず、ウイルス検査で陽性だった乗客と接触していた。マスク
着用以外の感染防護策は乗員任せだった」ことを明かしました。

また、2月10日に政府の依頼でクルーズ船に乗り込んだ専門家チームの一人(東京慈恵会医大感染
制御科の吉田正樹教授)は、感染しているかも知れない乗員が「手袋をしていたが、手指のアルコー
ル消毒が不十分な様子」で乗船手続きをしている光景に違和感を覚えた、という。

聞き取りを進めると、乗員は二人部屋に泊まり、食堂で食事をしていることが分かりました。「乗員
同士で感染する状況はあった」と振り返っています。

吉田教授に続いて船内に入った岩手医大の桜井滋教授は、感染の可能性がある区域は分けられていた
が、「食事の配膳をする乗員がわれわれが待機するエリアにも入っていた」。

政府は乗客にたいて5日から船室待機を要請しましたが、乗員はその後も業務で動き回っており、感
染が続いたと考えられる。

実際、もし乗員が感染していれば、彼らが食事を運んだり部屋の清掃などの業務のため、多くの乗客
に接し、感染を拡大した可能性は十分ある。

乗員だけでなく、船内で事務作業にあたって厚労省の職員と検疫官も感染してしまった。

専門家チームは、政府が、あえて対応が難しい船内に多くの人を待機させる手法を問題視し、早期に全
員下船させる提案をした。しかし、収容数する場所がない、という理由で提案は受け入れられなかった
(『東京新聞』2020年2月25日、同3月9日)。

2月18日に災害派遣医療チーム(DMAT)の一因としてクルーズ船に乗り込んだ感染症専門医、神
戸大学の岩田健太郎教授が、目撃した実態をユーチューブで明らかにしました。

同氏によれば、感染症の現場では危険ゾーンと安全ゾーンをきちんと分け、危険ゾーンでは防護服を着
用するのが鉄則になっている。ところが、クルーズ船の内部はそうした区分けができていなかった、
    それはもうひどいものでした。エボラやSARSと立ち向かった時、自分が感染する恐怖を感
    じたことはなかったけど、クルーズ船の中はものすごい悲惨な状態で、心の底から怖いと思い
    ました。

岩田氏がさらに驚いたのは、検疫官ですらいつ感染してもおかしくない状態だった。ある時、検疫所の
職員と船内を歩いている時、患者とすれ違った。その際、職員が「あ、今、患者さんとすれ違った」と
笑顔で話したことに岩田氏はショックをうけました。危険ゾーンと安全ゾーンの区別もなく、感染者が
自由に自室と医務官の間を行き来していたのです。

こうした報告に菅官房長官は19日の会見で「乗員はマスクの着用、手洗い、アルコール消毒などの感
染防御を徹底している」と説明し、船内での対応に問題はないことを強調しました。

「確かに『まずい対応であることがバレる』っていうことは恥ずかしいことかもしれないですけれど、
これを隠蔽するともっと恥ずかしいわけです。やはり情報公開は大事です」と、岩田氏は政権の隠蔽体
質を非難しています。

政府に批判的だった岩田氏は1日でクルーズ船を追い出されてしまいました(『日刊ゲンダイ』2020年
2月21日号)。

著名な医学誌「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に、中国・武漢市でのヒトか
らヒトへの感染は昨年12月中旬から始まっていたとする疫学論文が掲載された。感染がかなり前から広
がっていたことを示唆する内容で、研究者の間で話題になっていました。

中国の知見を日本の状況にあてはめると、すでに2月初めには各地で感染が広がっていたことも十分考え
られるのに、船上での隔離の妥当性を左右する重要な情報が、政府内で果たして吟味されたのだろうか。

NPO法人医療ガバナンス研究所の上昌広理事長は「日本政府の対応をみていると、科学的、医学的に正
しい情報がきちんと上にあがっているとはとても思えない」という。

これら厚労省の対応をみても分かるように、厚労省の認識と対応は、事態を楽観的に見過ぎ、対応が後
手後手にまわったり、方針がコロコロ変わったのです

『日経新聞』は編集委員の矢野寿彦氏の「クルーズ船対応『五輪バイアス』の代償大きく」との署名記事
で、政府の対応のちぐはぐさの背景にはオリンピックの開催を見据えて、事態をできるかぎり軽くみよう
とする「バイアス」が働いたからではないか、と疑問をなげかけています(注3)。

実は、次回以降に検討するように、この問題はのちのちまで尾を引いてゆきます。

(注1)((朝日新聞 デジタル 2020年3月30日 9時00分 
 https://www.asahi.com/articles/ASN3T66BDN3TULBJ00J.html?ref=weekly_mail
(注2)『朝日新聞』デジタル 2020年3月28日 11時00分
https://www.asahi.com/articles/ASN3T64KBN3MUTFL008.html?iref=pc_ss_date&iref=pc_extlink
(注3)『日本経済新聞』(電子版 2020年2月28日 11:30) https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56079570W0A220C2I00000/?n_cid=SPTMG053
-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
三月初めには河津さくらが満開でした。                                 四月にはソメイヨシノ八重桜とつつじに代わっていました
  



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検証「新型コロナウイルス肺炎」(1)―歴史と文明の転換をもたらすか?―

2020-04-02 08:07:25 | 健康・医療
検証「新型コロナウイルス肺炎」(1)
     ―歴史と文明の転換をもたらすか?―

今回の新型コロナウイルス肺炎の流行は、これまで想像できなかった事態を、国内と世界に引き起こ
しています。

実は、このブログでも、今年の2月6日の記事「新型コロナウイルス肺炎の波紋―終わりが見えない
不安が問題―」と、同25日には「続新型コロナウイルス肺炎の波紋―政府の無策と真剣さの欠如で
肺炎のまん延防げず―」いう記事を掲載しています。

これら二つの記事のうち、とりわけ25日の記事で、日本における新型コロナ肺炎に対する政府・
厚労省の対応のまずさが、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の集団感染を引き起こして
しまったことを検証しています。

当時はまだ、この新型肺炎はパンデミック(世界的大流行)に指定される前で、欧米ではあまり広
がっていませんでした。

しかし、3月11日に、WHO(世界保健機関)は3月11日、この肺炎がパンデミックであるこ
とを宣言したころには、事態がすっかり変わっていました。

まさに、新型コロナ肺炎は、中国から日本、韓国、東南アジア、ヨーロッパ、アメリカへと、燎原
の火のように燃え広がっていたのです。

4月1日現在、世界の感染者は90万人に迫り、死者も2万人を超えました。

当初は、中国から発して、韓国、日本など、東アジアで拡散する一種の風土病的な感染症として考
えられていた新型コロナ肺炎は、ここまで拡大すると、もはや、世界史的「事件」「できごと」と
いう段階に入ったと言えます。

そこで、新型コロナ肺炎の問題を、もう一度丹念に検証し直す必要を感じました。

その検証の第1回目として、今回は、まず、新型コロナ肺炎の世界的大流行となったことは、どん
な意味を持つのかを、歴史的、巨視的な観点から考えてみようと思います。

日本における新型肺炎のまん延の経緯とその具体的問題を、2回目以降に検証してゆきます。

それでは、以下に世界史的「事件」「できごと」という観点から、今回の新型肺炎が投げかけた意
味を文明史的に考えてゆきます。

人類史の中で、感染症の世界的大流行(パンデミック)が歴史と文明を変えてしまった事例はいく
つかあります。

良く知られた事例としては、14世紀にヨーロッパで多数の死者を出したペストの大流行がありま
す。ペストにより、当時の西ヨーロッパの人口の三分の一から国によっては三分の二が死亡したと
言われています

当時のヨーロッパ社会をみると、都市では上流階級の人びとはいうまでもなく、役人や警察官まで
都市から逃げ出し、田舎に逃げ出しました。

これは象徴的な出来事ですが、言い換えると、ペストの流行によって、人々はパニック状態となり、
既存の社会システムが壊れていったのです。

歴史・文明論的にみれば、アジアから持ち込まれたペストの流行は、ヨーロッパの中世的世界とそ
のシステムの殻を打ち破り、近世への扉を開いたと言えます。

この時代の現代的意味を考えるために、「グローバリズム」という視点から見直してみましょう。

上に書いたように、ペストは中国からシルクロード(絹の道)を経由して持ち込まれたと考えら
れています。

シルクローとは、言うまでもなく中国から中央アジアを経てヨーロッパ世界まで、ユーラシア大陸
の東西を結ぶ交通路です。

では、このシルクロードがペストの伝播ルート、「ペスト・ロード」となったのはなぜでしょうか?

14世紀のアジアとヨーロッパ世界を見渡すと、一つの重要な事実に突き当たります。つまり、シ
ルクロードは、モンゴル帝国という単一の政治権力によって支配されていたおり、人と物の往来が
安全にかつ活発に行われたことです。

この意味で、モンゴル帝国とは、当時にあっては複数の世界を含み、つなげる「グローバル世界」
だったのです。

そこを行き来する人と物に付いていたノミやシラミに媒介されてベスト菌が中国からヨーロッパに
もちこまれたと考えられています。

ところで、今回の新型肺炎のパンデミックは、現代世界のグローバル化と無縁ではありません。

すなわち、現代では飛行機や車やインターネットで世界を超短時間で結び付け、人も物も以前とは
比較にならない速さと量の移動を可能にしています。

現代のグローバリズムの進展は、私たちの生活に便利さと、世界中の物が簡単に手に入る、という
恩恵を与えてくれると同時に、感染症もあっという間に国境や大陸を越えて拡散させます。

今回の新型コロナ肺炎のまん延が、かつてのペスト大流行のように今日の世界を根底から変えてし
まうかどうかは分かりません。

文明の転換とまではゆかなくても、少なくても、既存の政治・経済・社会システムの、決して小さ
くない変更を迫るでしょう。

とりわけ、今回の世界的大流行は、間違いなく私たちの価値観の転換を迫ります。

人類は地球上の覇者となり、全ての生物の頂点に立ったという思いあがりが、突如、目に見えない
ウイルスという微生物によって、その足元を揺さぶられています。

あるいは、世界で最強の軍事力を誇るアメリカが、ウイルスという“見えない敵”の前では全く無力
です。ウイルスに対してはロケットも爆撃機もまったく役に立ちません。

現在では、アメリカでの感染者は19万人にせまり、死者も4000人を超えており、今なお増え
続けています。

また、物作りが世界的な規模で分業化されているので、どこかの国で、あるいは工場で部品の生産
ができなくなると、それは直ちに世界中の生産体制をストップさせてしまいます。

さらに、こうした命にかかわる感染症は、国内でも国際社会でも、人びとを二分してしまいます。
国内では、非正規の労働者、シングル・マザーの家庭、零細企業、そして高齢者、病を抱えた人な
ど、いわば、弱者に大きな負担を強います。

国際社会では、貧しく医療資源が乏しい国では、これから非常に大きな犠牲者がでると思われます。

これらは、社会の公正と公平、正義といった、根本的な問題にもう一度問いかけるきっかけとなり
ます。

というのも、この感染症は命をも奪う危険性があるため、自分自身にとって、そして社会にとって、
何が本当に大切なものか、一人ひとりが自分に問いかけるきっかけを与えているからです。

この変化は、今は気が付かなくても、後から振り返ってみて、あの時が転換点だった、と思うとき
が来るかもしれません。

そもそもウイルスは、ヒトよりずっと古く長い歴史をもっています。ヒトは地球上の生物界では新
参者なのです。

そのため、ヒトはさまざまな細菌やウイルスと戦い、時には犠牲を払いつつ、何とか免疫を獲得し
てきました。

しかし、そこに至るまで、ヒトは多くの犠牲を払ってきたはずです。現在、私たちの体内に生存し
ている無数の微生物のうちで、たとえば大腸菌なども、始めは死闘を繰り返し、長い年月をかけて
ヒトは免疫を獲得し、現在では大腸の中でお互いに共存共栄をはかっています。

これは、何ら医学的な対抗策を講ずることなく、自然状態でヒトとウイルスが築いてきた免疫と共
存関係です。

しかし、ヒトは、ただ漫然と自然の経過に任せてきたのではなく、免疫力を強化する食事や健康法
などさまざまな方法でウイルスの侵入を食い止める方法を実践する一方、医学的にワクチンを接種
したり、抗ウイルス薬を投与するなどの方法を講じてきました。

そうしている間に、ヒトは特定のウイルスに対する免疫をつけてきました。その結果、今日では季
節的なありふれた病気となっているカゼやインフルエンザ(これらもコロナウイルスが原因です)
も、そのウイルスとの長い時間をかけた闘いの末にようやく多くの人が免疫を獲得すると、比較的
軽症で済むようになっているのです。これを「集団免疫」といいます。

さて、それでは、今日の新型コロナウイルス肺炎は、どのような経緯をたどるのでしょうか、私た
ちは何とか克服できるのでしょうか?

これは、誰も予測はできませんが、世界中で対抗するワクチンと薬の開発が行われているので、期
待したいところです。しかし、それでも、今日、明日というわけにはゆきません。

しかも、恐らく全ての病について言えますが、私たちの基礎的な免疫力が弱くては、ワクチンも薬
もその効力が弱くなります。

そのためには、農薬などに汚染されていない健康な食物を食べ、適度な運動をし、そしてストレス
の少ない生活をすることが必要です。

しかし、現代社会にあっては、これらの条件を満たすことは簡単ではありません。もし、私たちが、
何が大切かの価値観を変えれば事態は変わるでしょう。

今回の新型コロナ肺炎をきっかけに、生きることの価値観を変えれば、ひょっとしたら文明の転換
が起こるかも知れません。




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「トランプに握られた日本人の胃袋」(1)―安い米国産牛肉にご用心―

2020-03-05 11:23:19 | 健康・医療
「トランプに胃袋を握られた日本人」(1)
―安い米国産牛肉にご用心―

2020年は、新型コロナウイルス肺炎の問題で幕を明け、その波紋は今でも続いています。

毎日、新しい感染者の発表があり、世の中は全体に脅威と自粛ムードです。しかし、新型肺炎は、
悪くすると命にかかわるだけに、無視はできません。

健康と命という意味では、新型肺炎ほど直接的な脅威を与えてはいませんが、じわじわと私たち
の体を蝕んでゆく食べ物の危険性に、もっと気を使うべきではないでしょうか。

日本の食に関する問題について、『日刊ゲンダイ』は昨年10月と11月、二つの連載記事を掲載
しています。

一つは、「日本の台所が危ない」(昨年10月より)で、日本の食に関する内外の事情を、『日刊
ゲンダイ』紙の取材陣が調査に基づいて書いた連載です。

二つは、ノンフィクション作家の奥野修司氏は、『日刊ゲンダイ』で昨年末より、20数回にわた
って掲載された連載記事で、その全体のタイトルが、「トランプに握られた日本人の胃袋」です。

ちなみに奥野氏は、『ナツコ 沖縄蜜貿易の女王』で講談社ノンフィクション賞(2005)と大矢壮
一賞を受賞しており、他に多数の著書がある、本格的なノンフィクション作家です。


これら二つの連来には多少重なる部分もありますが、まずは、二つ目の連載から、私のコメントを
交えて紹介してゆきたいと思います。この連載では、食品のうち、肉と野菜・穀物を扱っています
が、その第一回は、米国産の肉にまつわる危険性の話です。

ご存知のように、昨年の日米貿易協定により、本年1月1日より、米国産牛肉の輸入関税が38.5%
から段階的に引き下げられて、最終的に9%にまで下がることになりました。豚肉は重量税で1キ
ロ当たり関税は482円から50円に引き下げられ、最終的にはゼロになります。

本来は、アメリカへの日本からの自動車輸出にたいする関税を撤廃する代わりに、アメリカからの
農産物の輸入関税を下げることになっていたのが、こちらのほうは将来の検討課題として(つまり、
関税は撤廃しないで)日本だけがアメリカの農産物輸入に関税を下げることを約束させられてしま
ったのです。

この時、トランプが採った作戦は、もし農産物で妥協しなければ、自動車の輸入関税を25%に上
げる、との脅しでした。そして、安倍政権は、この脅しに何の抵抗もできず、牛肉の関税引き下げ
に応じてしまったのです(12月17日)(注1)。

ところで、アメリカの牛肉と一口に言っても、高級牛肉と、一般消費者向けの比較的安い牛肉とが
あり、問題は後者の私たちがスーパーなどで見る牛肉です。

現在、スーパーなどで売っている米国産牛肉は和牛肉の半分から三分の一くらいで、とにかく安く
売っています。それでは何が問題なのでしょうか?

話を今から40年ほど遡って発覚した、ある出来事に注目してみましょう。

1980年代、合成ホルモンを投与した米国産牛肉を輸入していたイタリアとプエルトリコで、幼
い少女に初潮が始まり乳房が膨らむという奇怪な事件が発生しました。

調べたところ、米国産牛肉の合成ホルモンが原因物質ではないかと推定されました。

これをきっかけに、欧州各国でホルモン剤の使用に抗議する運動が起き、ヨーロッパ共同体(EC、
現在のEU)は、米国産牛肉に残留する成長促進剤ホルモンである女性ホルモン(エストロゲン)
の中のエストラジオールは「完全な発がん物質とみなす証拠がある」として、そのような牛肉の輸
入を禁止しました。

これに対してアメリカは直ちに、訴訟を起こし、EUは敗訴しました。しかし、輸入禁止措置はがん
として撤回しませんでした。

EUは、たとえ有害性が立証できなくても、疑わしいものは禁止する、という「予防原則」を徹底し
ているからです。

この点、日本では「絶対に危ない」ことが明確でなければ禁止しない、という、なんとも緩い姿勢
です。

そもそも、ある物質と病気や体の異常との因果関係を科学的に証明することは、不可能な場合が多
いのです。というのも、ある食品をだれかに長期間食べさせてその結果を測定する、とうような人
体実験は事実上できないからです。これは、薬の治験とは異なります。

そのような場合、ヨーロッパの基本的な考えは「疑わしものは禁止する」という予防原則なのです。

アメリカでは1960年代から女性ホルモン(エストロゲン)を成長促進剤として牛に使用してき
ました。

女性ホルモン(肥育ホルモンとも呼ばれる)を与えると成長が早く、体も丸まると大きくなり、そ
れだけ農家の利益は大きくなるからです

それでは、米国牛肉にどれほどのエストロゲンが残留しているのでしょうか。これに関して、日本
のスーパーの店頭で売られている米国牛肉で調べた研究があります。

2009年に発表された「牛肉中のエストロゲン濃度とホルモン依存性癌発生増加の関連」という
論文だです。それによると、米国牛肉の残留エストロゲン(女性ホルモン)の濃度は、国産牛肉に
比べて、赤身で600倍、脂肪で140倍も高かったという。

この論文を執筆した北海道大学遺伝子病制御研究所客員研究員の半田康医師によると、この140
倍とか600倍という数字は、米国牛肉を大手スーパー数カ所で購入し、30~40検体を計測し
て得た平均値だという(12月19日)。

これだけ高濃度のホルモンを含んだ肉を食べていれば、体に異変が生じても不思議ではありません。
あるがん研究者はかつてこう指摘しています。

同じ日本人でも、米国に移住すると卵巣がんとか乳がんとか子宮体がん(子宮内膜がん)のような
女性ホルモンに起因するがんが増えるのです。どこに違いがあるのか、これまで謎とされてきまし
たが、考えられるとしたら食事くらいしかないのです。

つまり、アメリカ人と同じような食事を続けていると、日本人は乳がんなど“ホルモン依存性がんに
なりやすいとの疑いがあるという指摘なのです。

かつて、乳がんの発症率を日本人が「1」とすれば、アメリカ在住白人は「2・5」もあり、最近
は「1・3」に近づいているといわれています。同じ日本人でもハワイに移住した日本人は、白人
の発症率に近づくというデータもあります。これは明らかに食事を中心とした環境が関係している
ことをうかがわせます。
 
2005年、ハーバード・メディカルスクールの研究者が、9万人の女性を対象にした調査結果を
発表しまし。それは、牛肉に代表される赤肉をたくさん食べると乳がんのリスクを大きく増加させ、
その原因は牛に与えられるホルモン剤の残留ではないかとの内容でした(12月20日)。

ホルモン剤に一つ、エストラジオールには発がん性が強く疑われていますが、日本、オーストラリ
ア、ニュージ―ランドでも認められています。しかし、少なくとも日本では使われていません。と
いうのも、家畜業界に健康問題への認識があるからです。

それでも、アメリカからホルモン剤使用の牛肉をたっぷりと輸入している限り、健康被害の問題は
解決していません。

アメリカで乳がんや男性の前立腺がんなどホルモンに起因するがん(ホルモン依存性がん)が増加
していますが、日本もアメリカの後を追っているようです。

米国産牛肉の問題をもうすこしくわしく見てみましょう。

いわゆる肉だけをみると、米国産の牛肉は日本の国内商品の25%で、国別では第一位です。しかし、
問題はさまざまな形で、輸入されているのです。

その代表が、牛脂です。これは赤身に牛肉注入されて、一見「霜降り肉』のように見せるために使わ
れたり、ハンバーグなどに混ぜられています。

このようなハンバーグを食べ続けると乳がん、子宮がん、不妊を引き起こす危険があります。また、
エストロゲンは脳血管にはいってしまうので、中枢神経に影響します。思春期の子どもにとっては
特に危険で、最近の研究では、性同一性障害も女性ホルモンが関係しているんではないか、という
指摘もあります。

牛脂は、以上のほかにも、カレーやシチューの原材料としても使われているので、意外と日常的に
使われています。エストロゲンは脂質に溶けやすいので、牛肉の赤身と比べて牛脂は3~7倍のエ
ストロゲンを含んでいます。

また、思春期の子供だけでなく、閉経後の女性でも高濃度のエストロゲンを取り込むと、婦人科系
がんになり易いとも指摘されています(2019年12月27日、2010年1月7日)。

牛脂のほかにも、約1000トンの「くず肉」をアメリカから輸入しています。「くず肉」とは、
脚、耳、頭、心臓、脳、胸腺など、あらゆる部位の肉のようなものを含んでいます。

これらは牛脂と混ぜて「成形肉」として激安ハンバーグなどに使われます(2010年1月8日)。

次回は、アメリカ産の安い牛肉に関する残されたいくつかの問題と、豚肉、鶏肉などの問題と、
トランプがどのようにして日本に危険な肉を押し付けているのか、の背景を検討します。

(注1)ここで引用した『日刊ゲンダイ』の記事はすべて電子化されて公開されています。それ
ぞれのURLは肉に関しては次回に、カッコ内の日にちごとに、示します。


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(続)新型コロナウイルス肺炎の波紋―政府の無策と真剣さの欠如で肺炎のまん延防げず―

2020-02-25 14:17:15 | 健康・医療
(続)新型コロナウイルス肺炎の波紋
―政府の無策と真剣さの欠如で肺炎のまん延防げず―

現在、日本では新型コロナウイルス肺炎(以下「コロナ肺炎」と略す)の感染者が日々増えて
います。

しかも、その増え方をみると、初期のころの武漢や湖北省、さらにはクルーズ船「ダイアモン
ド・プリンセス」関連から離れて、今やすでに「市中感染」(感染経路が分からない)状態に
移りつつあります。

つまり、街中にウイルスが拡散し、ヒトからヒトへの感染が進行している状況にあります。

これにたいして、個人でできることは一人一人が気をつけることは当然ですが、国としても明
確な方針をもって対処に動く必要があります。そのために国民は税金を納めているのですから。

しかし、残念ながら、今回のコロナ肺炎の流行に関連して、幾つもの疑問と危惧を感じます。

第一に、政府の対応です。まず驚くのは、第1回、「新型コロナウイルス感染症対策専門家会
議」が開かれたのが、何と2月16日なのです!いかにも、遅いと思いませんか?

ということは、それまで、政府は医者を含む医学と医療の「専門家」がいないままコロナ肺炎
への対策をおこなってきた、ということです。

しかも「専門家」会議は、何ら有効な基本方針を提示できないまま今日に至っています。

さらに、憂慮すべきことがあります。専門家会議と同日の2月16日、首相官邸で新型コロナウ
イルス感染症対策本部会議も開かれました。この会議は全閣僚がメンバーとなっており、公務
か病気以外、全閣僚が出席しなければなりません。

しかし、3閣僚が欠席したことが後で分かりました。3人とは、小泉進次郎環境相、森雅子法
相、萩生田光一文部科学相です。

欠席の理由が、小泉氏は地元の新年会、森氏は地元の書道展、萩生田氏は地元の消防団関係者
の叙勲祝賀会に出席した、というものです。

いずれも、国会議員でありながら、国政よりも地元の行事を優先させていたわけです。つまり
これは、選挙の際の票を確保するための選挙運動を優先させたということです。

なかでも、小泉環境相にとってこの会議は、厚労省とならんで、まさに所管の緊急課題を討議
する重要な会議のはずです。

小泉氏は、政務官を代理出席させていたので、危機対応には問題ない、と弁解しました。他の
2人も、官僚が用意した弁解をおうむ返しに言っただけでした。

代理で済むなら大臣は要りません。

欠席について立憲民主党の本田氏から質問されると、自分の口からは新年会に出席した、とは
言わないで、「本田先生の言う通り」を何度も繰り返し、どうにもならなくなって、白状した、
という情けなさです。なぜ、最初から、自分の口から言わなかったのでしょうか。

私は、小泉進次郎氏の国会答弁を聞いていて、つくづく情けなくなりました。こんな人に、日
本の環境行政をまかせていいのだろうか、と不安になりました。

この件に関して菅官房長官は「必要な公務や用務であれば欠席はやむを得ない」との認識を示
しました。これら3閣僚の欠席理由が「公務」ではないことは明かです。すると、「用務」と
いうことになりますが、「用務」って、結局「私用」、平たく言えば個人的な用事、というこ
とです。

国会議員は「私用」で大事な公務をさぼっていいというのが官邸の認識であるとするなら、税
金から高額の報酬を受け取る資格はありません。

菅官房長官の言葉は、これは自民党(あるいは安倍政権)の体質かも知れませんが、国会議員
としての政務よりも地元の選挙民対策、つまり選挙運動こそが重要な政治活動であるとの認識
が染みついていることを、はからずも露呈しました。

もうひとつ、あまり取り上げられていませんが、16日の会議の主催者である安倍首相が、会
議の椅子に座っていたのは、わずか8分です(注1)。

何か他の用事があったのかも知れませんが、コロナ肺炎対策は、現在の緊急かつ重要な課題で
す。何としても、時間を確保すべきではないでしょうか?

トップが、今回の新型肺炎に対する真剣な危機感がないので、下の者はそれに倣え、とばかり、
地元の行事で選挙運動に励むことになるのです。

専門家会議がようやく2月16日に開かれたことと、3閣僚が私用で欠席したこと、など、ど
う考えても、政府と政治家に危機感も真剣さも薄いような気がします。

要するに、政府にとっても、厚労省にとっても新型肺炎は他人事なのです。

第二に、クルーズ船内の対応です。

クルーズ船の乗員・乗客の感染者が2月24日までに691人に達しましたが、これは、「危
険ゾーン」と「安全ゾーン」との区分ができていないまま感染が進行したことを示しています。

しかし加藤厚労相は、船内の区分はできているし、2月5日以降の感染者はいない、と断定し
ています。ところが、2月14日に乗船した厚労省の職員にコロナ肺炎の陽性反応がでており、
船内感染はあきらかです。

18日に災害派遣医療チームの一員としてクルーズ船に実際に乗り込んで調査した神戸大学の
感染症専門家、岩田健太郎教授は、船内で「安全ゾーン」と「危険ゾーン」の区分ができてい
ないことを指摘したうえで、ユーチューブで次のように語っています。

それはもうひどいものでした。エボラやSARSと立ち向かったとき、自分が感染する恐怖を
抱いたことはなかったけど、クルーズ船の中はものすごい悲惨な状態で、心から怖いと思いま
した」と語っている(注2)。

これが実態なのです。彼がもうひとつ驚いたのは、船内に感染症対策の専門家が常駐していな
いことです。ちなみに、岩田教授は乗船1日で、厚労省により強制的に下船させられました。

第三に、市中感染への対応です。多くの日本人は、自分がひょっとしたら感染しているかもし
れない、という不安を抱えています。

しかし厚労省はつい最近まで、37.5度以上の発熱に加えて湖北省あるいは武漢での滞在経
験、あるいはそこから来た人との接触という、いわゆる「湖北省・武漢縛り」という原則で、
それ以外の人の新型肺炎検査(PCR)を拒否するよう医療機関に指示してきました。

これはさらに、入国拒否の対象を、2月1日以降は湖北省または同省発行のパスポートを持っ
た人、直近の2週間いないに同省を訪れた人に限定してきたこととも関連しています。

12日になって、浙江省も同様の入国拒否の対象となりましたが、たとえばアメリカ、シンガ
ポール、オーストラリア、香港などは、早い段階で中国全土を対象としています。

日本がなぜ、全土ではなく湖北省(後に浙江省も)に限定してきたのか、について『日本経済
新聞』は、全土を対象にしてしまうと経済的な影響が大きいから、と書いています(注3)。

もし、そうだとすれば、政府は国民の健康と命より経済を優先させたということになります。

いずれにしても、感染の発見が遅れ、その間に感染者が広がっているのが現状ではないでしょ
うか?

つい最近、ようやく、この「湖北省・武漢縛り」がなくなり、医師が必要を認めた場合には検
査を受けられることになりました。

厚労省は、検査能力が現状では十分ではないから、一度に多くの人が検査を受けても、検査能
力が十分ではないから、という理由を述べています。

しかし、これは検査機関を、国が管理している国や地方自治体が管轄する国立感染症研究所や
一部の国立大学に限定しての話です。しかし、これらの機関は基本的に研究を主体としており、
検査の処理能力も大きくありません。

他方、私たちが病院で検査を受けると、それはほとんどが専門の検査会社に回され、そこで検
査が行われているのです。その方が、会社としては慣れているし、巨額の費用を投じて一度に
多くの検体を検査できる高性能機器をそろえています。

要するに政府は、なんとか国の管轄権がおよぶ国立ないしは公立の機関で検査を処理しようと
しているのです。私企業に検査を委託すれば、検査結果の実態が分かってしまうことを恐れて
いるのでしょうか?

韓国では大量の感染者が出た段階で、1日に5000人の検査を実施しています。日本は韓国
より検査能力が劣っているのでしょうか?

さて、この度の新型肺炎の問題に関連して、思いもかけないことが明るみに出ました。

連日、マスク不足で、マスクを求める人が薬局に押しかけていることが報道されています。こ
の光景は、かつてオイルショックの時のトイレット・ペーパーを求めて人びとがスーパーに押
し寄せ、死者まで出したことを思い出します。

実態を知って驚いたのですが、今まで国内に流通していたマスクの7割から8割は中国からの
輸入品であったこと、そして、国内産の場合も、その材料となる不織布の大部分もやはり中国
からの輸入品であることです。

健康を守るための、これほど日常的で基本的なマスクさえ中国からの輸入に頼っていたことに
驚きました(ちなみに、中国は自国民を優先し、当然ですマスクの輸出を規制しました)。

さらに、日本の食生活にとって深刻なのは、中国から野菜の輸入が激減していることです。と
くに、タマネギ、長ネギ、ニンジン、キャベツ、干ししいたけなどは、安い中国野菜に頼る割
合が大きく、もし、この状態が長期に続くと、主な利用者である外食産業にとっては深刻な問
題となります。

もし、日本が先進国を自称するなら、せめてマスクや基本的な野菜くらいは自前の物で賄うべ
きでしょう。

最後に、日本には、アメリカやそのたいくつかのアジア諸国にはすでに設置されている、研究
と感染症対策を実際に行う、CDC(疾病対策センター)の創設を早急に創設すべきです。

こうした、命を守るために税金を使うことには誰も反対しないでしょう。

しかし、どれほどの必要性があるのかについて国民から支持を得ているわけではないのに、戦
闘機を1兆円も爆買する余裕があったら、国民の健康と命を守り、食糧を自給するために税金
を使うべきです。

2月24日、専門家会議が出した報告(注4)に基づき、政府は25日の昼、政府としての基
本方針を発表しました。

しかし、その内容は、ほとんどがこれまで言われてきた常識的なことばかりです。これで、ま
ん延が防止できるとは到底思えません。

しかも、最悪なのは、「基本方針」は政府としては要望だけを示し、後は、地方自治体なり現
場で考えなさい、というスタンスになっていることです。

つまり、政府も官僚も責任をとりたくないので、具体的な施策を全て現場に丸投げしているの
です。これでは、いくら、ここ一週間か二週間が瀬戸際だ、と叫んでも説得力がありません。

少なくとも、国民全員とはいわなくても、不安を抱いている人が、建て前ではなく、面倒な手
続きなしに町のかかりつけの医院でも検査を受けられるよう体制を整えるべきです。現実には
検査を受けること自体が非常に難しい状態にあります。

現場のお医者さんたちは、本当にこれで日本は大丈夫か、と深刻に受け止めていますが、政治
家や官僚に真剣さに欠けていることに不安を抱いています。

(注1)『朝日新聞』デジタル (2020年2月20日)
https://www.asahi.com/articles/ASN2M6QNYN2MUTFK00Z.html
(注2)この投稿記事は削除されてしまいましたが、その書き起こしは、
    https://note.com/chocolat_psyder/n/n37115c09d500 で見ることができます。
(注3)『日経新聞』デジタル版(2020年2月8日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55421270Y0A200C2MM0000/
(注4)この報告の全文は、『日経新聞』 2020/2/24 20:49 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56000670U0A220C2PE8000/
    で見ることができます。
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谷津の斜面から湧き出る清水の流れに自生するクレソンの群落                     清水に自生する日本のセリの群落
 




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新型コロナウイルス肺炎の波紋―終息が見えない不安が問題―

2020-02-06 05:45:13 | 健康・医療
新型コロナウイルス肺炎の波紋―終息が見えない不安が問題―

2019年12月、突如、中国湖北省武漢市の海鮮卸売市場「華南海鮮城(2020年1月1日に
閉鎖)」の関係者を中心に感染者が発生し、その後、瞬く間に武漢市から湖北省全域へ、そし
て中国各地に広まりました。

今回の新型肺炎の流行はさまざまな問題を含んでいますが、それらを考える前に、この感染症
に関する基本的な性格を押えておきましょう(注1)。

現在存在が知られているコロナウイルスは6種類あり、うち4種類は通常ヒトの間で流行する風
邪の原因ウイルスで、ほとんどの人が幼少期に感染しています。

今回のように重症の肺炎を起こしやすいのは残る2種類で、これは動物からヒトに感染するこ
とが分かっています。

一つは、2002に中国広東省から世界32カ国に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)を、
もう一つは、2012年に中東から広まったMERS(中東呼吸器症候群)のコロナウイルスです。

SARSはコウモリ(ハクビシンの可能性もある)、MERSはヒトコブラクダの中にいたウイル
スがヒトに感染するようになったようです。

今回の新型肺炎ウイルスがどのような動物を経由してヒトに感染したのかは、解明されていま
せんが、遺伝子配列はSARSと酷似しているようです。

今回の新型肺炎では、2月4日時点で感染者は2万642人(うち中国人は2万438人)、
死亡者は427人(うち中国人は425人)で、中国人が圧倒的な部分を占めています。

これらの人数は、さらにこれから増えてゆくと思われますが、ここで、致死率(死亡率)につ
いてみておきましょう。

MERSの場合、感染者は2494人で858人が死亡し、致死率は34%、SARSの感染者は
8098人で死者774人、致死率は10%弱、今回の新型肺炎の致死率は現段階では2~
2.2%ですから、致死率だけを比べると、決して特に高致死率の肺炎というわけではありあ
りません。

しかも、死亡者の大部分は中国で発生し、日本国内では発生していません。恐らく、日本の医
療環境を考えれば、致死率はさらに低くなると思います。

問題の一つは、日本において、これから新型肺炎はいつごろ終息するのか、という点です。こ
れまでの、日本における感染者は、直接・間接に中国、とくに湖北省武漢との関係で発生して
いました。

現在は、湖北省からの入国を拒否していますので、日本における今後の趨勢は、武漢あるいは
中国とは全く関係ない人々の間で新型肺炎が、二次、三次、四次感染で広がっていくのかどう
か、にかかっています。

この点に関して専門家も、もう少し経過をみないと何とも言えない、と述べています。

二つは、日本においてマスクが店頭から消えてしまい、多くの人がマスクを求めてあちこちの
店を回っている問題です。

この状況は、ずっと昔、オイルショックの時に、トイレット・ペーパーを買おうとスーパーに
多くの人が殺到し、死者まで出した状況とよく似ています。つまり、パニック現象です。

ウイルスの感染ルートは、①空気感染(空中に浮遊しているウイルスを吸い込んでしまう)、
②飛沫観戦(ウイルス保菌者の唾液や咳などの飛沫吸い込んでしまう)、③接触感染(ウイル
ス保菌者がウイルスの着いた手などで触った場所を触ってしまう)の3つです。

このうち、今回の新型肺炎に関しては、医学的には①の空気感染の可能性はほとんど無い、と
されています。恐らく、多くの日本人がマスクを買いあさっているのは、空気感染を恐れてい
るからだと思われますが、もしそうだとしたら、思い違いです。

そして、②の飛沫感染は、保菌者から2メートル以内の距離で長時間接触する濃密接触をした
り、対面で唾をとばすような会話をしたり、対面で食事をしたりする場合に感染の危険性は高
まりますが、そのような場面では、たとえマスクを持っていても使用することはないでしょう。
本当に恐れなければならないのは、接触感染です。

実はWHO(世界保健機関)がすでに一般人に対し、新型コロナウイルス肺炎に対する感染リス
ク低下のための推奨行為として、以下の5点を示しています。
 1 アルコール洗浄剤か石けんを使って水で頻繁に手を洗う
 2 咳やくしゃみはひじの内側で押え、ティッシュを使った場合はすぐに捨てて手を洗う
 3 発熱や咳のある人に接触しない
 4 肉や卵はよく加熱する
 5 野性動物や家畜に防御無しで接触しない

これら5点のうち、4と5は日本人にとってはまあ問題はないし、3は常識的な対応です。

ここで注目すべき点は、5つの中にマスクの使用がはいっていないことです。

そうです、ウイルス感染から防ぐ意味ではマスクはほとんど有効ではないことは、医学的に証
明されているのです。というのも、通常のマスクでは、ウイルスは簡単に通過してしまうから
です。
WHOも指摘しているように、もっとも基本的な防御方法は、こまめに手を洗い、可能ならアル
コールなどの消毒液で消毒することです。

それでは、マスクは何のためにするのでしょうか?マスクの効用は、自分がウイルスを持って
いた場合、咳やくしゃみや話している時に飛沫と一緒にウイルスを周囲に飛ばさないことです。

この点に関してWHOが推奨しているのは②の、衣服の腕の部分(ひじの裏側)で口元を押える
ことなのです。

欧米諸国でも新型肺炎が流行し始めているのに、人々は外出の際にもマスクをしていません。

現在、国民の多くがマスクをしているのは主に日本、中国、韓国、台湾、香港など東アジア諸
国ですが、それぞれの国で医療環境、情報の開示状況、人びとの栄養状態、気候条件などが異
なるので同列に扱うことはできません。そこで、ここでは日本におけるマスク不足の問題を考
えてみましょう。

私も、試しに近所の薬局やホームセンター、コンビニなどでマスクを探してみましたが、どこ
も売り切れでした。

日本人の多くは、マスクが買えなくなる、との不安からとにかくあるだけ買いあさり、買い溜
めし、そのことがマスク不足を一層深刻にしているという悪循環を招いているのです。

私には、マスクを探し求めて薬局を回る姿は、決してこの感染症に対する正しい知識に基づい
た行動というよりむしろ、日本人の多くが現状と将来にたいして感じている漠然とした不安が、
いつ終息するとも分からない新型肺炎に対する恐怖を増幅させているからなのだと思えます。

何の問題でも、事態を正しく理解し、冷静に“正しく恐れる”ことが必要です。

最後に、日本政府の対応について一つだけ指摘しておきます。現在、湖北省の住民(湖北省発
行のパスポート所持者)と二週間以内に湖北省に立ち寄った人の入国を拒否しています。

しかし、新型肺炎はもはや湖北省だけでなく、中国全土にひろまっており、アメリカやフラン
スでは早くから、中国全土からの外国人の入国を拒否しています。

日本政府は、あくまでも湖北省に限定しています。日本は、多くの工業部品や消費財、とりわ
け食糧を中国からの輸入に依存しているため、中国全土を対象とした人の入国拒否をできない
のです。

今回のような事態に直面して、改めて日本の経済基盤のぜい弱さが浮き彫りになりました。

(注1)今回の新型肺炎に関する一般的な説明は、多くのメデイアが伝えていますが、さし当り、
Gendai Ismedia (2020年2月2日)  https://gendai.ismedia.jp/articles/-/70176 が要領よくまとめています。


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病という厄介者―あなたはどう付き合いますか?―

2019-09-23 14:06:42 | 健康・医療
病という厄介者―あなたはどう付き合いますか?―

2019年『日刊ゲンダイ』1月1日号は、作家の五木寛之氏と、天皇陛下の心臓の手術をした
心臓血管外科医の天野薫氏との、病気に関するなかなか面白い対談記事を掲載しています。

五木氏は、昨年、戦後72年振りに初めて一般の病院(歯医者を除いて)に行って驚いたのだ
そうです。それは、病院の入り口の広いホールに集まっている患者の数の多さでした。

「医学が進歩したら病人は減るはずなのに、なぜこれほど増えているんですかね」という問い
に、天野氏は次のように応えています。
一つは日本人は薬が好きだということでしょうか。・・・・日本の薬はよく効きます。で、
全体が高齢化していることもあって、体の不調に対して薬に頼る人が増えているんです。
まずは自分自身で健康管理からというところから入る人はあまりいませんね。どこか悪く
なったら病院にかかればいいやという文化が作られています。

五木氏は、「朝起きて調子いいから病院に行く」という、とても面白いシルバー川柳を紹介し
ています。つまり、今朝は体調もいいから、病院でも行くか、という一種のブラック・ユーモ
アです。

これにたいして天野氏は、病院に行っていつものメンバーが来ていないと「あいつ具合悪いん
じゃないか」みたいな・・・、と応じています。

この会話は、なかなか真実を突いている面があります。つまりい、いかに多くの人が薬と病院
(医師)に頼っているかを、他人事としてジョークで表現しています。

しかし、いざ、自分の問題になったとき、私たちは病と医者や病院とどのように付き合ってい
ったらいいのでしょうか?

もちろん、体の不調や不具合と一口に言っても、命にかかわる症状なのか、腰痛や風邪や頭痛
のような日常的な問題なのかによって対応は異なります。

難ししのは、命にかかわるのか、あるいは少し様子を見ていればいいのか、なかなか判断でき
ない場合もあるからです。最近の私の体験を書いてみたいと思います。

最近、まったく偶然の機会に、ある体の異変が確認されたので、何年かぶりで近くのクリニッ
クに行きました。何種類かの検査をした結果の数値は確かにひどいもので、さらに精密な検査
を大きな病院で受けるように、と指示され、紹介状を渡されました。

最初のクリニックで複数の検査を受けるまでに何日かかかり、その結果を知るためにほぼ1か
月近く待ちました。

それから、大病院(ある大学病院)の専門医に予約を取ることになるのですが、それが早くて
1か月先です。

そして、いよいよ診察・検査ということになりますが、その検査の結果に基づいての診断を聞
けるのは、さらに1か月後です。

数えてみると、最初のクリニックの診察から、大学病院での検査結果を聞くまでに要した日数
は2か月半です。

そこから、何らかの治療が始まることになります。

これだけの時間を要して、ようやく治療が始まるのですが、その治療の予約は、おそらく1か月
後になることが予想されました。ちなみに、私の知人のケースなど2か月後でした。

冷静に考えてみると、これだけの日数がかかるとなると、もし深刻な病気なら進行して、取り返
しができなくなってしまう事だって、十分考えられます。

問題はそれだけではありませんでした。私の場合、病院が指定した検査は三種類で、そのうちの
一つは体への侵襲が大きく、極めて確率は低いとはいえ、ショック死することもあり得えるもの
でした。

この検査を受ける場合には事前に、これには死んでも文句は言わない、という誓約書にサインす
ることからも、その危険性は分かります。

私は、一旦は承諾してサインしましたが、検査当日の、それも直前に、やはりこの検査は受けま
せん、と拒否しました。今思うと、この時、私の体が本当的に拒絶していたのかも知れません。

その理由の一つは、まずは体への侵襲がない二つの検査を受け、そこで異常が発見され、もし別
の検査がどうしても必要だ、という医師の判断があれば、その時考えようと思ったからです。し
かし、こうした二段階のプロセスは踏んでくれませんでした。

しかも、検査までの1か月の間に、体の状態は急速に良い方向に変化しつつあり、その変化をつ
ぶさにに観察して総合的に判断すると、当初の問題は解決しつつある、と考えられました。

もう一つは、たまたま検査の前日に偶然、知り合いの母親が退院間近にこの検査を受けて亡くな
った、という話を聞いたことも心理的に影響していたのかも知れません。

担当の医師は、私が第三の検査を受けなかったことが非常に不満で、この検査を受けないで万が
一重篤な事態に至っても(実際には、死に至っても、というニュアンスで)いいんですか、と迫
りました。

私は、検査を受けなかったことから生ずるかもしれない事態は「自己責任」として受け入れます、
と言って診察室をでました。

私は、病院での検査と治療を一旦、離れる決断をし、鍼灸に通い、いろいろ調べて、問題を自分
で解決する方法を試しています。幸い、もっとも気にしていた症状は、今は消えています。

私は、病院の検査を受けるかどうかを、勝手に自分で判断することを推奨しているわけではあり
ません。

たとえ、ある程度の危険性や副作用があったとしても、検査によって病状の原因が明らかとなり、
それによって有効な治療が可能となるメリットの方が大きいと思えば、やはり検査を受けるべき
だと考えています。

その判断は、まず一義的には医師がおこないますが、それだけでなく私たちも自分なりの判断力
を持つ必要があります。

それには、自分の体が発している声を聞く、ということが大切です。具体的には、天野氏も言っ
ているように、睡眠、食事、排泄などの状態を常日頃確認しておくことです。

五木氏は、毎日朝起きた時と寝る前に体重を計って帳面につけているそうです。また、彼はエッ
セイ集で、彼は自分の足の指に名前を付けて、1日の終わりに1本1本話しかけながら丹念に洗
うとも書いています。

そのことが、どれほど健康に役立っているかは別として、こうして自分の体と常に向き合い、体
の声を聞く姿勢が大切だと思います。

私は、できるだけ1日5000~8000歩ちょっと速足の散歩をして、その時々の体の状態を
それとなく観察するよう心掛けています。

おおざっぱに言えば、食事がおいしく食べられて、よく眠れて、排泄が順調で、気分よく散歩が
できていれば、まあまあの健康状態だと考えます。

そのような状態の中でも、時には胃腸の調子が悪くなったり、体の一部に痛みを発することはあ
ります。そんな時、慌てて病院に駆け込むことはせず、しばらく「様子をみる」(大体2週間を
目途としています)という姿勢で体の不調を付き合ってきました。

さて、ここまで読んで、皆さんはどんな感想をもったでしょうか?私が抱いた疑問は大きく二つ
です。

まず第一に、病院の予約には、なぜ、こんなに日数がかかるのでしょうか?

理由は簡単です。それはあまりにも患者が多いからです。何年か振りで大病院に行って驚いたの
は、五木氏と同様、なんと患者さんが多いのかということでした。

もちろん、病院側も精一杯対応していると思います。多くの患者が押し寄せる診療科では、一人の
医師が1日に何十人、あるいはそれ以上の患者を診ても追いつかないくらい診察を望む患者が多い
のです。この点は同情します。

第二に、上記の状況には、私たち潜在的な患者の方にも問題がありそうです。とにかく、体の不調
があれば条件反射的に、医者と薬に頼る、という行動パターンが沁みついてはいないだろうか、と
いう点です。

たとえガンのように自分で治療することができないような重篤な病気で、医師による治療を受ける
際にも、ただ医師に任せるのではなく、自分でできることはできる限りやるという覚悟が大切だと
思います。

最後に、健康診断について書いておきたいと思います。多くの医者は、病気に対処するには「早期発
見、早期治療」が最善の方法と言います。確かに、それも一理あります。

しかし、近藤誠氏(近藤誠がん研究所研究所長・元慶応大学医学部講師)は、漫画家の東海林さだお
氏との対談で、がんについて、

健康でご飯を美味しいと思っていて、症状がなく普通に生活できている人は、たとえ人間ドックでが
んが見つかっても、診断されたことを忘れて、二度と検査に近寄らないほうがいいんです(東海林さ
だお『猫だいすき』文春文庫。238-9ぺージ)、と語っています。

これは近藤氏独特の見解で、多くの医師からは反論があるでしょう。それでも、ご飯を美味しいと思
っていて、日常生活が普通に送れていれば、健康診断を敢えてする必要はない、という意見には共感
するところがあります。

現役で勤めていた時は健康診断は義務化されていますが、職場を離れて以後、私は一度も健康診断を
受けていません。

これが正しいかどうかは言えませんが、私たちは自分の健康に関しては、医師の診断や治療方針を重
視しつつ、最終的には自分の命と体のケアは「自己責任」で、という覚悟を持つ必要があるのではな
いでしょうか。

さて、あなたは、どんな風に病と付き合いますか?

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お彼岸には、忘れず花を咲かせる「彼岸花」赤だけでなく黄色や白っぽい花もあります。            季節は確実に秋に向かっています。木の陰でそっと穂を開いたススキ
 



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当世ペット考(2)―イヌのもつ不思議な癒しの力―

2019-06-24 19:53:12 | 健康・医療
当世ペット考(2)―イヌのもつ不思議な癒しの力―

3週前に「当世ペット考(1)」を書いた後、一旦、このテーマの記事を休止しましたが、
今回、まず、イヌから再開します。

人は、イヌがもっている高い能力の助けを借りてきました。たとえばイヌは、番犬、猟犬、
牧羊犬、救助犬(雪山などでの遭難者を救助する)、盲導犬、セラピー犬(治療犬)、麻
薬・違法食物などを検知する検知犬、犯罪者を追う警察犬など、多方面で活躍しています。

イヌがこれほどの目的で活躍ができるのは、人とイヌとが長い年月をかけて築いてきた相
互の信頼関係があるからで、これは他のペットには見られない極めて特別な関係です。

この関係がどんなメカニズムで、どのようにして生確立されてきたのか、また現在、人と
イヌとはどのように共存しているのでしょうか?

これらの問題を考える上で、ドキュメンタリー『ベイリーとゆいちゃんが教えてくれたこ
と―病の子どもたちに寄り添い続けたセラピー犬』(2019年5月26日、NHKBS1で放映)
は、重要なヒントを与えてくれます。

このドキュメンタリーには国内や国外の、何匹かのセラピー犬やそれらと接した人たちが
登場しますが、中心となるのは、タイトルにもなっているベイリーというセラピー犬(11
歳)と、ゆいちゃんという、難病を抱える10歳の女の子が中心です。

ベイリー(犬種はゴールデンレトリバー、)は、アメリカで訓練され、日本初の大病院専
属のセラピー犬として、「神奈川県立こども医療センター」で、週5日、朝9時から専属
の看護師とともに働いてきました。

ベイリーはこれまで3000人以上の、さまざまな病を抱える子どもたちを癒してきまし
たが、人間で言えば80才になる老犬で、近く引退することになっており、後継の犬も一
緒に病院を訪れています。

しかしベイリー担当の女性は、最後の仕事として、ゆいちゃんの退院まではベイリーに付
き添ってもらおうと決めていたし、どうやらベイリーもそのことを感じているようでした。

大きな手術が行われる前日、ベイリーは真っ直ぐにゆいちゃんのところに行きます。それ
まで、不安でお母さんに抱き着いていたゆいちゃんは、ベイリーをみるなり顔に笑みを浮
かべます。日記にも、ベイオリーがきてくれて緊張がほぐれた、と書いています。

手術の時間がくると、ゆいちゃんベイリーのリードをもって、しっかりした足取りで手術
室に向かい、ベイリーは手術室のドアの前まで付き添い、しばらくその前に留まります。

手術は成功しますが、ゆいちゃんは術後の痛みに苦しみます。そんな時、ベイリーがやっ
てくると、病室の空気は一変して明るくなります。

ベイリーはゆいちゃんのベットに乗り、そっとゆいちゃんの体に寄り添ってじっとしてい
ます。ゆいちゃんは、優しくベイリーの体を撫でます。

こうして、ゆいちゃんは術後のさまざまな苦しみや困難をベイリーのおかげで克服するこ
とができたのです。

ゆいちゃんのケースの他に、他人との意志の疎通ができず、自分の世界に閉じこもってい
る自閉症の男の子は、最初のうちセラピー犬(ベイリーとは別)と接することを避けます
が、次第に馴染んでゆく、しばらくすると笑顔でセラピー犬を自分の膝に抱きかかえるよ
うになります。

また、脳しゅようや白血病などの難病をかかえて長期入院している子どもたちの中にセラ
ピー犬が入っていくと、子どもたちみんなが寄ってきてセラピー犬に触ります。

セラピー犬が病院で積極的に活動するようになったのはイギリスでした。そこでは重度の
認知症の老人のところにセラピー犬を連れてゆくと、老人はそっと犬の体を撫でます。す
ると笑顔がうかび、次第に昔の記憶がよみがえってくる姿も紹介されます。

こうした交流の間、セラピー犬は、じっとなすがままにまかせています。

このようなことは、他のペットでは生じないという事実です。

なぜイヌが人を癒すことができるのか、この謎を解くために、多くの研究者がさまざまな
実験や研究が行なわれてきました。

その結果、人間とイヌとの間には癒し合う特別な仕組みがあることが少しずつ分かってき
ました。

以下に、これまでに分かっている、その仕組みについて紹介しましょう。

まず、歴史的にみると氷河期には犬の祖先であるオオカミと人間とは、食料を巡って敵対
的な関係でした。

しかし、農耕が始まった1万2000年前頃から、オオカミの中のある個体が人間と共存
するようになりました(恐らく人間の食料を分けてもらうことから)。人間と共存するよ
うになったオオカミはやがて、イヌなってゆきます。

その過程はまだ完全には解明できていませんが、興味深い事実が明らかになっています。

たとえば、大人のオオカミの頭蓋国とイヌの頭蓋骨を比較すると、大人のイヌの頭蓋骨は
子どものオオカミとほぼ同じ構造です。

遺伝子(12番染色体)レベルでみると、このような脳の働きに差がありました。オオカ
ミの、状況にたいして柔軟に対応する遺伝子は、こどもの時には働いていますが、成長と
ともにオフの状態になってしまいます。

これに対してイヌは、柔軟性に富んだ脳の状態を保ったまま大人に成長していることが分
りました。

このことから、イヌは成長しても柔軟な脳のおかげで、記憶力が増え、新しいことをどん
どん身に着けることができるようになり、同時コミュニケーション能力が高まってきたこ
とで人間との距離が近くなり、イヌも人間に愛情をもつようになったのでなないか、と推
測されています。

それでは、イヌはそのような能力や性質はどのようにして獲得されたのでしょうか?これ
に関して、ロシアで行われている実験は非常に示唆的です。

ロシアの研究施設では、野性に近いキツネ(イヌ科)と、人間になついているキツネが飼
育されています。野性に近いキツネは人間が近づくと、非情に攻撃的に威嚇してきます。
しかし、おとなしいキツネたちは、イヌとおなじように尻尾をふって喜びます。


この違いは、どうして生じたのでしょうか?この研究施設では、キツネが何匹か生まれた
時、その中で特に穏やかなキツネを選び、それを別個に飼育してゆきます。そして、こう
したキツネから生まれたこどもの中から、特に穏やかなキツネを選んで繁殖させるという
方法を繰り返します。

こうした繁殖を6世代くらい繰り返すと、緊張や興奮ホルモンであるコルチゾールの値が、
野性的なキツネの半分くらいになったそうです。

そして、16世代たつと、ほぼイヌのように人間になつくようになったということです。

現在はこの実験を始めて56世代目になりますが、これらのキツネは、普通のイヌと同じ
ように穏やかで人間の指示に従うようになっています。

この実験から推測できることは、人間の身近にいたオオカミの中の、比較的おとなしい個
体を選び、そのようなオオカミの子どもたちの中から、さらにおとなしいオオカミを選ぶ
過程を長い年月をかけて何十回も繰り返すことによって、次第に野性のオオカミとは異な
る、「イヌ」に進化した、と考えられます。

こうして人間と暮らすイヌが誕生することになるのだが、現在のイヌの解剖学的特徴を比
較すると、さらに多くのことが明らかになってきました。

たとえば、イヌは人間と同じような聴覚野が存在し、怒っている声と優しい声を聞きわけ
ることができるができるし、人間の顔の表情からも、相手の感情を読み取ることができる
ことが多くの実験で確かめられました。

これらの能力は、長い時間をかけて人とイヌとが一緒に暮らす過程でイヌが獲得してきた
と考えられています。

また、ドイツでのさまざまな実験の結果、イヌはかならずしもご褒美にエサをもらえるか
ら人間の指示にしたがうのではなく、人間を助けたい、喜んでもらいたいという強い本能
に突き動かされて行動をしていることも、ほぼ確かめられています。

イヌの優れた能力があるから、セラピー犬は病を抱えた人を癒すことができるのです。

最後に、私が重要だと思ったのは、人間とイヌとが目と目を合わせると、両方にオキシト
シンというホルモンが分泌されているという事実が研究で発見されたことです。

オキシトシンは、心を癒したり、体の痛みを和らげたり、相手を思いやる気持ち、コミュ
ニケーションを促進する効果があるホルモンです。

一般の動物の間でも、同じ種類の生き物同士では目と目を合わせることでオキシトシンが
分泌されることはありますが、たとえばネコとタヌキとの間のように異なる種の動物間では
起こらないそうです。


こうした特性が、セラピー犬が病人の心と体を癒すうえで大きな能力を発揮する基礎になっ
ているのだと考えられます。

イヌに限らず、私たち人間と動物との間には、分かっていない多くの領域があるかも知れま
せんし、広い意味での動物による癒しと治療(アニマル・セラピー)は大きな可能性を秘め
ていると思います。

セラピー犬として病院で働くためには、しっかりした訓練期間と技術の習得が必要ですが、
普通の家庭で飼うイヌでも、愛情を込めて育てれば、私たちは大なり小なり癒しを得られる
ことは間違いありません。



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堤未果『日本が売られる』(1)―医療が売られる―

2019-04-14 07:22:02 | 健康・医療
本の紹介 堤未果『日本が売られる』(1)―医療が売られる―

政府はこれまで、日本経済は順調に成長を続けていること強調してきました。しかし、私たちの
実感としては、とても成長や生活の改善は感じられません。

一方で、日本が置かれた現状は、安心どころか、非常に危機的な状況にあることを警告する人た
ちもいます。

私たちは、できるだけ悲観的な現実からは目をそむけて明るいメッセージに飛びつきたくなりま
すが、客観的にみて、やはり憂慮すべき状況にあることの方が事実に近いと思われます。

事実を直視するために、是非読んでほしい本が何冊かありますが、とりあえず、以下の5冊を挙
げておきます。

①今回取り上げる堤未果『日本が売られる』(玄冬舎新書、2018)、
②明石順平『アベノミクスによろしく』(集英社インターナショナル新書、2017)
③明石順平『データが語る日本財政の未来』(同上、2019)
④植草一秀『『国富』喪失―グローバル資本による日本収奪と、それに手を貸す人々―』(詩想
社新書、2017)
⑤吉田太郎『タネと内臓』(築地書館、2018)

上記5冊のうち①については今回取りあげるので、他の4冊についてごく簡単に説明します。

②と③は、同一著者が別の観点から現在の日本経済の実態を、政府発表のデータに基づいて解明
した本です。②は、いわゆる「アベノミクス」なる経済政策の本当の姿は成功どころか、安倍首
相が批判する民主党政権時代より悪化していることを実証しています。

③は、現在、日本は1000兆円もの国債という形の財政赤字を抱えており、これはいずれ財政
破綻(したがって日本経済の破綻)は避けられないことを警告します。

④はエコノミストの植草氏が、日本の政治経済構造の頂点にアメリカがいて、その下に日本の官
界・業界・政治・電(電波メディア)が従属しつつ、日本の国富がどのような形で失われている
のかを実証している力作です。

これらの著作は、思わず本を閉じたくなるほど、日本がひどい状態にあることを反論の余地がな
いほど事実と数字で証明しています。

さて、今回取り上げる『日本が売られる』について説明しましょう。

著者の堤氏は国際ジャーナリストで、ニューヨーク市立大学を卒業後、同大学で学位を取得。国
連・米国野村證券を経て、米国の政治、経済、医療、教育、農政、公共政策、エネルギーなどを
テーマに現地取材や公文書による調査報道で活躍中。御主人は参議院議員の川田龍平氏。

本書は初版以来、すでに8刷まで増刷しており、累計13万部を突破していることからもわかる
ように、本書は堅い内容の本としては多く読まれています。

本書は、第1章「日本人の資産が売られる」(10項目)、第2章「日本人の未来が売られる」
(8項目)、第3章「売られたものは取り返せ」(6項目)の全3章から成っています。

今回は、このうち、第2章の中から「医療が売られる」を取り上げます。理由は、この問題に関
して、私はあまり注意を払ってこなかったので、本書の指摘で驚いたからです。

医療に関する第一の問題は、国民健康保険(国保)が外国人によって乱用される危険性です。

私たちは、保険証一枚あれば、いつでもどこでも誰でも、その日のうちに良い医療を受けること
ができます。

日本には、一定額以上の高額医療を受ければ、後で国が払い戻してくれる。まさに世界が羨む
「国民皆保険制度」(国保)があります。

その、国保が今や、目に見えない危機にさらされていることに、どれほどの日本人が気づいてい
るだろうか、と堤氏は警告しています。

その原因の一つは、医療目的を隠して来日し、国保に加入して高額の治療を受けに来る外国人が
急増していることです。

現在、3か月間滞在すれば外国人でも国保に加入できるため、留学生や会社経営者として入国す
れば国籍に関係なく、すぐに保険証がもらえるからと、来日したその日に高額治療を受けに病院
に行くケースが増えているそうです。

特に中国人患者が多いC型肝炎薬などは、3か月1クールで455万円が国保を使えば月額2万
円です。また高額すぎて問題となった、肺がん治療薬のオプジーボは1クール1500万円が自
己負担60万円、残りは私たち日本人の税金で埋め合わせます。

日本の医療を利用するために、実態のないペーパーカンパニーでビザを取る斡旋業者が横行して
いるため、自称会社経営者の場合でも摘発は非常に困難だという。

出生証明書さえあればもらえる42万円の出産一時金も中国人を中心に申請が急増しています、
提出書類が本物かどうか役所の窓口では確認のしようがありません。

安倍政権は、外国人労働者50万人の受け入れを目途に、出入国管理法改正法を昨年12月8日
に国会を通過させました。これにより、これまで認めてこなかった単純労働に外国人に門戸を開
くことになりました(本年4月1日より施行)。

この法律に関して、受け入れた外国人を移民として受け入れるのかどうかという問題(これも大
問題ですが)とは別に、ここでは、もし何十万人という外国人が日本来て国保を利用することに
なったら、果たして国保制度は維持できるだろうか、という重要な問題は発生します。

彼らが受けた医療の医療費の大部分を日本人が払った税金から補てんすることになり、直接間接
に私たちの医療費負担に跳ね返ってきます。

政府は、人手不足に悩む企業からの要請で、何とか安い労働力として外国人労働者を「輸入」す
るために法改正を行ったのですが、政府が医療保険のことまでも考えていたとは考えられません。

企業は安い労働力さえ確保してくれさえすれば、たとえ外国人労働が日本の医療を受け、その補
てんを税金からはらうことになっても、一向にかまわないのです。ただ、一般の国民がその分を
税金から払わされることになるだけです。

日本は移民(特に難民)をもっと受け入れてもいいと思いますが、それには単に「労働力」とし
てではなく、家族もいる人間として日本社会に受け入れる体制を整えるべきでしょう。もちろん、
その時は、医療の負担も含めて日本人と同等の権利を与え、義務を履行してもらいます。

医療に関する第二の問題は、アメリカのよる高額医療機器と薬品の押し付けです。

政府が毎年、「医療費40兆円」(何と、一般会計予算の40%です!)と騒ぎ立て、とりわけ
高齢者の医療費が問題視していますが、堤氏によれば、その最大の原因は、高齢化に伴う医療費
の増大ではありません。

そうではなくて、アメリカから毎年法外な値で売りつけられている医療機器と新薬の請求書が日
本人の税金で支払われているからです。

これは1980年代に中曽根首相がレーガン大統領と交わした「MOSS協議」によって、日本
政府は医療機器と医薬品の承認をアメリカに事前相談しなければならなくなったことが根拠とな
っています。

日本の医療機器メーカーや製薬会社はこれにより一気に不利になり、90年代にはこれらの輸出
と輸入が逆転してしまったのです。

それ以来、日本はずっと、アメリカ製の医療機器を他国の3~4倍の値段で買わされています。

私たちが受けた医療費は国民皆保険制度でカバーされるので、国民は薬や機器の仕入れ値がそん
なに高いとは夢にも思っていません。

高齢者が医療費増大の犯人のようにいわれて肩身の狭い思いをする一方で、政府は消費税の増税
分を社会保障に使うといいながら約束を破り、患者の窓口負担をどんどん上げています。

医療機器とともに、あるいはもっと重大な問題は薬の高騰です。日本の人口は世界のわずか1%
強なのに、薬の支出量はOECD3位(2018年)という薬消費大国です。

アメリカの医産複合体(製薬企業、医療機器メーカー、医療保険会社)は今やアメリカの最大の
圧力団体の一つで、彼らにとって、日本以上の優良顧客はいません。

2018年に、米国研究製薬工業協会はアメリカの通商代表部に要望書を出し、変更を求めたのが、
「新薬創出・適応外薬解消等促進加算制度」です。

これは、新薬の値段が毎年引き下げられる日本独自のルールの中で、条件を満たした薬に限り、
日本が外国の製薬会社に一定期間差額を支払うことで高値を維持する特別な制度です。

薬を高値のままでずっと売りたいアメリカの製薬会社は「条件をはずして全新薬を対象にせよ」
「一定期間でなく、ずっと差額を出せ」と要求しています。

医療分野は特許が大きく物を言う領域ですが、アメリカはそれらを知的財産権として、最大限の
利益を引き出そうとしています。今やアメリカの最大の産業は「知的財産」です。

これらの要求は、本来TPPでアメリカが日本に呑ませる予定でしたが、トランプ大統領は就任
早々、TPPから離脱し、一旦頓挫しました。

しかし、今月15~16日にワシントンで始まる、日米FTA交渉(安倍政権は今だに、「物品
貿易協定(TAG)」と嘘ぶいていますが)では、アメリカ側は、「これはFTA交渉できっちり
落とし前をつける」と息巻いています。

医療費の問題は、政治の問題(日米の力関係)が大きく影響しているのです。

以上みたように「医療が売られる」では、一方で外国人労働者による国保の利用(場合によって
は乱用)により、他方、医療機器と薬の面では医産複合体の攻勢で、国民の医療が外部の人と企
業に売り飛ばされてつつあります。

「医療が売られる」というのは、実は「命が売られる」と言った方が正しいかもしれません。
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大根畑に見事に張られたビニールの”トンネル”                          春がくるとビニールは取り外されてプラゴミに

 
冬季の作物の保温に有効とされる。トンネルの中にはもう一枚のビニールの覆いがあり、 これはほんの一部で、毎年、新たにビニールは交換される。こうして全国では毎年膨大な量の
周囲には化成肥料が散乱していた。                         プラスチック・ゴミが廃棄され環境を汚染する。
                                                                                                                  



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喫煙考―受動喫煙の肺がんリスクは「ほぼ確実」から「確実へ」―

2016-09-03 04:25:46 | 健康・医療
喫煙考―受動喫煙の肺がんリスクは「ほぼ確実」から「確実へ」―

タバコが健康に悪い、ということは以前から分かっていました。国立がん研究センターによると、肺がんによる死亡のうち、
男性は70%、女性は20%で喫煙が原因とされています。

しかも、これは肺がんだけに限った数字で、その他、心臓、脳血管障害、様々な肺疾患、ぜんそくなど、喫煙と深く関わる
病気はたくさんあります。

今回の研究でも、喫煙は全てのがんリスクとの関係が(確実)、肺がん(確実)、肝臓がん(確実)、胃がん(確実)、大腸がん
(可能性あり)、直腸(可能性あり)、乳がん(可能性あり)」となっています。

以上は喫煙者本人の問題なので、ある意味で自己責任、自業自得と言う面があります。

しかし、自分が吸わないのに、周囲の喫煙者の煙で、肺がんになるのは実に、はた迷惑です。

今でこそ、喫煙の害を書きたてる私自身も、20代から40才くらいまで、かなりのヘビー・スモーカーでした。

とりわけ、オーストラリアに留学中、論文の作成のために没頭していた時期には、自分で刻みタバコの葉を、紙で巻いて吸う
方式のタバコを吸っていました。

このタイプのタバコは、全部吸い終わっても、短くなったタバコの紙をほどいて葉を集め、もう一度、紙に巻き直して吸うことが
できます。

これは、当時、お金のない学生の間ではごく普通でした。しかし、短くなったタバコの葉には、肺がんの原因となるニコチンや
タールその他の有害化学物質が濃縮されるので、健康には最悪となります。

実際、こうしてニコチンやタールが濃縮されたタバコは、一服吸っただけで、頭がクラクラッとします。

喫煙に関して、留学中に、いろいろ考えさせられました。

私がいたオーストラリアの首都特別州(ACT)では、1970年代にはもう、マリファナの喫煙は「違法ではない」(「合法」とは言
わず、「違法ではない」と言うところがミソです)状態にありました。

マリファナが違法ではないニューサウスウェールズ州(州都はシドニー)のニンビンでは毎年、マリファナの収穫祭が大々的
に行われており、そこでは幾らでも大麻(マリファナ)が買えますし、もちろん喫煙もできます。(注1)


ファリファナの栽培と売買は違法ですが、喫煙は違法ではない、という矛盾した法律の構成となっています。

それでは、誰がどのようにして生産し、手に入れるのか、は不問に付されています。

留学間もないある朝10頃、学生ホールに行ったところ、2階のビリヤード台などが置いてある娯楽室に足を踏み入れた途端、
マリファナ・タバコの独特の臭いに、むっとしました。

広い部屋は。マリファナの煙で遠くがかすんでしまうほどでした。

そして、ビリヤード台では、ビールを飲みながら、そしてマリファナを吸いながらビリヤードを楽しんいる学生が何人かいました。

これは、少なからずカルチャーショックでした。

当時、主にキリスト教関係者から、マリファナは麻薬の一種なので、法律で禁止すべきだ、という声がずっと発せられていました。

しかし、それに反対する人たちから、マリファナは、パイプなどで吸えば、肺がんなどの健康リスクは、紙巻きたばに比べればほ
とんどない、との論理で反論され、結局、違法にはできませんでした。

というのも、紙巻タバコ(普通に売っている、箱に入ったタバコ)の害のうち、紙が燃えて発生する化学物質が、肺がんその他の
病気と深く関わっていることが知れられているからです。

さらに、紙巻きタバコの喫煙者は、どうにも抑えがたい強烈な衝動に駆られてしまい、なかなか止められません。

これは、紙巻きタバコを吸い続けることによる習慣性、もっとはっきり言えばニコチン中毒というれっきとした病気です。

マリファナにはまず習慣性がありません(つまり中毒ならない)。

以上、肺がんをはじめ紙巻きタバコのもつ健康への害、そして習慣性がない、という2点で、首都特別区ではマリファナを法律的
に禁止することはできないまま今日に至っています。(注1) 

日本では、マリファナは、一時的にせよ幻覚をともなうこと、そして、覚せい剤などの本当の麻薬へ進む第一歩となる、という理由
で、これを法律で禁止しています。

話が、マリファナの問題に移ってしまいましたが、再び受動喫煙に戻ります。

私は、紙巻きたばこの害については十分に知ってはいましたが、まさしくニコチン中毒の域に達していたため、留学後も10年ほど、
タバコを止められませんでした。

留学から帰国してからも、しばらく吸っていましたが、40才過ぎに、健康への影響を考えて、ある時を境にピッタリ禁煙し、それ以後
全く吸っていません。

ずいぶん周囲の人に迷惑をかけてきたと、懺悔の気持ちがあります。

タバコから完全に離れた今では、自分自身の健康と周囲の人に健康に害を与えなくなって、本当に良かったと感じています。

ところで、受動喫煙がどの程度、健康被害、とりわけ肺がんと関わっているかについて、従来は「ほぼ確実」と表現されていました。

しかしこの度、国立がんセンターが、家庭内での影響を調べた1984~2013年公表の9論文を解析した結果、次のようなことが明か
となりました。

これらの論文が対象としたのは約20万人の女性で、受動喫煙している人の肺がんリスク(肺がんに罹る確率)は、受動喫煙してい
ない人に比べて1.3倍高いことが確かめられました。

この数字は、これまでに実施された同様の国際的研究と、ほぼ同じ結果です。

1.3倍というのは一見、たいしたことはないようですが、受動喫煙をしていない人の肺がんリ罹患率100人の時、受動喫煙者の肺
がん罹患率は130人、つまり30人も多いことを意味します。

これは、因果関係としてはかなり高いと言えます。

今回の研究は、複数の研究対象を統合し、かつ、対象数を20万人と大幅に増やしたこと、そしてその結果が国際的な研究結果と
ほぼ同じであったことなどを総合して、受動喫煙の肺がんリスクは、「ほぼ確実」から「確実」と表現されることになりました。

日本は、受動喫煙に関する規制が、世界的にみて非常に緩い状態にあります。せめて、室内での喫煙は禁止し、各家庭では、受動
喫煙の危険性についてもっと啓蒙を推進すべきだと思います(注2)。


(注1)オーストラリアでは州によって、マリファナの喫煙、所持、販売、栽培がどのように規制されているかは異なります。ニンビンの
    マリファナ祭りに関しては、さしあたりhttp://masi-maro.com/det/6582 を参照。
(注2)以上の記述のうち、がん研究センターの発表に関しては、『東京新聞』2016年8月31日から引用した。







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新がん治療薬への期待と財政負担―画期的治療薬オプジーボの光と影―

2016-08-27 09:24:50 | 健康・医療
新がん治療薬への期待と財政負担―画期的治療薬オプジーボの光と影―

現在、日本人の生涯のがん罹患率はほぼ50%、つまり2人に1人で、がんで亡くなる人の割合は3人に1人だと言われています。

治療法が進歩したとはいえ、がんを宣告されると、私たちは「死」を宣告されたようなショックを受け、絶望感に打ちのめされます。

がんの標準的治療法は、手術、放射線、抗がん剤の3つですが、これまでの治療法とは異なる原理に基づく二つの治療法が開発、
あるいはその途上にあります。

一つは、新たながん治療薬、オプジーボの登場であり、もう一つはがん「光免疫療法」です。

「光免疫療法」は2011年にアメリカで日本人を中心に開発された治療法でがん細胞を直接たたくのではなく、がん細胞についてい
る、特殊な蛋白に近赤外線をあて、間接的にがん細胞を死滅させる、一種の免疫療法です。

「光免疫療法」の検討については別の機会に回し、今回はすでに国内で承認されているオプシーボについて、その光と影を検討し
ようと思います。
           
従来の抗がん剤は、正常細胞まで攻撃してしまうので、さまざまな副作用が強くなってしまいます。

また、分子標的薬は、がん細胞だけを標的にして攻撃する抗がん剤ですが、やはり副作用はきついうえに、次第に効かなくなるこ
ともあります。

これにたいしてオプジーボは従来の抗がん剤や分子標的薬のようにがん細胞を直接攻撃するのでなく、人に備わる免疫の働きを
活性化する「がん免疫療法薬」です。

人が持つ免疫細胞は、敵(がん細胞)を見つけると、それを攻撃し死滅させます。しかし、がん細胞が免疫細胞と結合すると、がん
細胞は免疫細胞に「敵ではない」と認識させてしまいます。

すると、免疫細胞は攻撃を止め、その間にがん細胞は増殖していきます。

オプジーボはその結合を防ぎ、免疫細胞に「がん細胞は敵だ」と知らせ、がん細胞を攻撃、死滅させる免疫療法薬です。

                   

オプジーボは2014年に皮膚がんの「悪性黒色腫(メラノーマ)」の新薬として、世界に先駆けて日本で承認され、2015年12月に
は肺がんで追加承認され、公的保健の適用薬となりました。

オプジーボ(一般名ニボルマブ)の効果につて、国立がん研究センター中央病院では、昨年12月以降約80人の肺がん患者(ステ
ージ3)がオプジーボの治療を受けたが、効果(5年生存率)が出たのは全体の約2割でした。

この数字は一見、低いように見えますが、ほとんど治癒効果が認められない従来の抗がん剤と比べれば、2割に顕著な効果(がん
の治癒もふくめて)があった、ということは、やはり高い治療効果が示された、といえるでしょう。

ただし、欧米などでの治験(試験的治療)では驚く結果が出ました。従来型の抗がん剤が効かず再発した扁平上皮がんの患者272
人にオプジーボと標準治療の抗がん剤(ドセタキセル)で比較した結果、1年後、ドセタキセルの生存率24%に対し、オプジーボは、
42%と高かったのです。

日本と欧米における効果の違いがなぜ生じたのかは、今後の課題となりますが、いずれにしても、完全ながんの治療薬は、治療法は
まだ人類は手にしておらず、オプジーボにたいする期待は高まっています。

治療効果が高いうえに、副作用がない、という点もオプジーボの大きな利点です。

実際、この新薬を使ってがんを消滅させた実例では、副作用も全くありませんでした。
しかし、オプジーボにもいくつか問題はあります。

その一つは、効く人と効かない人がある、という点です。免疫療法薬は、その人に備わっている免疫力を活性化させる薬ですから、もと
もと免疫力が弱い人の場合には、ほとんど効きませんし、もちろん免疫疾患を持っている人は対象外です。

次が、医療費が非常に高価なことです。

肺がん治療では2週間に1回点滴をし、投与量は体重に比例します。例えば、体重70キロの男性だと1回約160万円。保険適用(3割
負担)で高額療養費制度を使えば、実質負担(所得で異なる)は減りますが、70歳未満で年収370万~770万円だと最初の3カ月は月
11万円かかります。4カ月目からはさらに下がります。

患者の負担が減ってゆくことは、逆に見れば、国の財政負担が大きくなる、ということです。

現在、肺がんの新規患者は年約11万人。4月の財務省審議会で、日本の医療費年約40兆円(うち薬剤費約10兆円)に対し、5万人
が1年使えば1兆7500億円で「財政を逼迫(ひっぱく)させる」との意見も出ました。

これは、日本の医療費における薬剤費が八兆円だとすると、この薬だけで2割以上増えてしまうことを意味します。

一方、オプジーボの製造元、小野薬品工業は今年度、肺がんで使われる患者は1万5千人(平均使用期間は6カ月)で、売り上げは1220
億円と想定しています。

九州大の中西さんも「財政破綻(はたん)は大げさすぎる」。投薬をやめる場合も多く、現状では1年続ける人は約2割。一方、どのくらい
投薬を続ければよいかわかっておらず、「そこを見極める研究を進めてほしい」、と述べています。

日本肺癌学会は、オプジーボを使う場合の詳細な治療指針を年内にまとめることにしていおり、医療経済の専門家も加え、費用対効果も
含めた検討を進めていく方針です。

オプジーボは胃や食道、肝臓などでも治験が進められ、腎臓は年内に承認される見込みです。

小野薬品ほかの製薬会社でも同様の仕組みの薬の申請や治験を進めているので、こおタイプのがん治療薬はこれから、さらに開発が進
むと思われます(注1)。

世界が血眼になって取り組んでいる、免疫療法薬の開発は、将来、間違いなくがん治療に大きな貢献をすると思われます。

その反面、人の命の救済とそのコストとのバランスをどうとるのか、という新たな問題も解決しなければなりません。

(注1) この問題については、以下を参照されたい。
『日本経済新聞』電子版(2016年5月26日01時40分) http://digital.asahi.com/articles/ASJ5F4J5LJ5FULBJ00D.html?rm=440
   『日本経済新聞』電子版(2016年1/5日 23:50  http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ05HQK_V00C16A1TJC000/
   『東京新聞』2016年8月23日 



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