goo blog サービス終了のお知らせ 

大木昌の雑記帳

政治 経済 社会 文化 健康と医療に関する雑記帳

検証「安倍政権」(1)―総裁選にみる「終わりの始まり」―

2018-09-23 09:01:33 | 政治
検証「安倍政権」(1)―総裁選にみる「終わりの始まり」―

自民党の総裁を決める総裁選が9月20に投開票が行われました。立候補者は現職の安倍晋三氏と石破茂氏でした。

投票は国会議員票と全国の党員票がそれぞれ405票ずつ、計810票です。

安倍政権側は、勝つことは当然、目標は大勝することだ、と強気の発言をしていました。

メディアも、石破氏の得票は議員票が50前後、党員による地方票を含めても200票を超えるかどうかが一つの判
断基準だ、と報じていました。200を超えれば、石破氏は今後、ある程度の影響力を保持できる、という意味です。

しかし、蓋を開けてみると、政権側もメディアも、石破陣営さえ予想をしなかった結果でした。
た。
         議員票         地方票          計
安倍晋三  329(81.2%)  224(55.3%) 553(68.3%)
石破 茂   73(18.0%)  181(44.7%  254(31.4%)

これらの数字を見る限り、安倍氏は大差で石破氏を破ったといえそうです。

麻生蔵相は、安倍氏が全体の7割もとっており、しかも議員票は2012年の時より増えている、石破氏が善戦した、
などとは言えないとコメントしています。もちろんこれは、予想が裏切られたことのショックと危機感の裏返しです。

まず、議員票の329票ですが、派閥単位で相当締め付けが強く、事前調査では343票は固めたはずなのに、実際
にはそれより十数票も少なかったのです。

これは安倍陣営にとって深刻です。というのも国会議員の中には、選挙の際に、公認をもらえたから当選した人も多
いのです。しかも、首相と官邸は公認を決める実質上の権限をもっています。

もし、総裁選で石破氏に投票したら、次回の選挙で公認をもらえないかもしれない議員はたくさんいます。公認をも
らえないということは、事実上、議員としては“即死”で、ただの“おじさん”と“おばさん”になってしまうこと
を意味します。

国会議員にたいしては派閥の締め付けと、議員個人の議員として生き残るための保身動機の両面から、安倍支持は堅
いとみられていたのです。

それでも十数人の取りこぼしがでたのは、根底には「安倍一強」と傲慢さに対する潜在的な不信と拒否的心情がかな
り強かったことの現れと理解すべきでしょう。

その現れが、例の圧力問題です。斎藤健農林水産相は14日、総裁選で安倍晋三首相を支持する国会議員から「内閣
にいるんだろ。石破茂元幹事長を応援するなら、辞表を書いてからやれ」と圧力を受けたことを明らかにしました。
ただし議員の名前は明らかにしていません。

これにたいして斎藤氏は「ふざけるな。(首相は)石破派と分かってて大臣にした。俺が辞めるのではなく、クビを
切ってくれ」と反論したという。その上で「首相の発想と思わないが、そういう空気が蔓延(まんえん)しているの
を打破したい」とも語りまし(注1)。

齋藤氏のこの曝露発言は、他の議員や党員に、安倍政権に対する強い悪感情をもたらしたはずです。彼は、この発言
で一躍「ヒーロー」となりました。

こうした発言が公然と語られたということは、もう政権の締め付けや圧力を恐れる必要はない、という自民党議員の
中に秘められた感情の現れで、首相と官邸は、内心、かなり衝撃を受けたと思います。

20日夜のテレビ朝日の「報道ステーション」に出演した安倍首相はこの点を聞かれて、「自民党議員に聞いたとこ
ろ、皆、そんなことはありえないと答えた。もし本当なら、その人物の名前を明らかにして欲しい」と、反論してい
ます。

しかし、これほどのことを齋藤氏が作り話として発言するとは思いません。それと、安倍首相は、本当に安倍支持の
国会議員に聞いたのでしょうか?安倍氏お得意の、その場しのぎの言い訳なのでしょうか?

次に、地方票は、安倍氏が70%は取れると踏んでいたのに、実際には55%強、と大きく事前の読みを下回ったこ
とです。

しかも、地方党員にたいても露骨な“恫喝”が行われていたことが明らかになりました。

自民党所属の神戸市議が、自分のフェイスブックで、官邸の幹部でもある、ある国会議員から露骨な恫喝、脅迫を自
分たち地方議員が受けており、もはや地方議員の人格否定ともいえる状態になったため、兵庫県議員有志は、石破候
補を応援する決意をかためました、と書きこみました。圧力をかけたのは、兵庫県9区選出の西村官房服長官だと言
われています(注2)。

西村氏はインタビューで、自分は断じて言っていない、と否定していますが、この市議は、ありもしないことを、誰
でも見ることができるフェイスブックで公表するでしょうか?

安倍氏は37都道府県で石破氏の得票を上回りましたが、10県では石破氏が上回り、13都県では得票率が10%
以内の接戦でした。

安倍陣営が、裏でそんなに“汚い”手を使っているのか、という印象を広く自民党議員や党員の間に与えてことは確
かです。

それだけ、安倍陣営に「一強のおごり」があり、同時に「焦り」があったと思われます。

地方票が伸びなかったことにたいして、安倍陣営では「地方の反乱だ」との声も上がりましが、まだ、問題の本質を
理解していないようです。

参考までに、石破氏が上回った県とは、山形、茨城、群馬、富山、三重、鳥取、島根、徳島、高知、宮崎でした。

地方票はある程度、国民一般の評価を反映していると言われています。これを考えると、議員票の82%と、地方票
の55%とのギャップは、議員票の異常さと、政権と国民との大きな乖離を示しています。

ところで、私は、今回の総裁選を通じて、安倍政権の「終わりの始まり」という思いを強くもちました。その理由は
いくつかあります。

まず、石破氏が立候補を表明しても、安倍首相は告示日ぎりぎりまで立候補を表明しませんでした。もし早く表明し
ていたら、当然、石破氏との公開の論戦を行うことは避けられない。しかし、公開討論では、石破氏に論戦に勝つ自
信がない、だから“逃げた”としか考えられません。

さらに、告示後も、北海道地震の対策と、ロシア訪問を理由に、論戦の機会を極力減らしまた。これも、いかにも
“逃げている”、“ずるい”、と言う印象を与えました。

安倍陣営は、論戦を避けたことで、うまく切り抜けたと思ったのでしょうが、これが逆に不信感を与えることになっ
てしまいました。

次に、安倍首相の任期は、あと3年である、つまり、終りの年月を切られている、という意味で、「終わりの始まり」
です。まだ3年、あるとも言えますが、あと3年しかないとも言えます。すると、多くの国会議員は、もう3年待てば、
安倍首相もいなくなる人、と考えるでしょう。つまり、新しい政権の発足は、即「終りの始まり」でもあるのです」。

もう一つは、自民党内部においてさえ、安倍支持と求心力が低下した、と言う意味で、「終わりの始まり」です。

私が、もっとも強く、安倍政権の終わりを感じたのは、安倍政権の母体である細田派の中堅の「昨年の衆院選の時も、
支持者の半分くらいは首相を信用できない。これが党の現状」という言葉です。

また、派閥の意向で首相に投じた岸田派の衆議院議員は「次の選挙を安倍首相で戦いたい人はいない。かなりしんどい
と思う」と新聞記者に語っています(『朝日新聞』2018年9月21日)。

これは、安倍氏にとっては致命的な言葉です。なぜなら、安倍氏が何とか自民党内でリーダーシップを維持できたのは、
「選挙に強い」という評価があったからです。

しかし、この二つのコメントを見ても、まず、自民党内で、首相が信用されていないこと、そして、もう「選挙の顔」
としては受け入れられないことが、明らかです。

いまは、権力があるのでおとなしくしているけれど、“もう、うんざり”、というのが自民党の議員の中に確実に浸透
しつつあるようです。

一旦、「終わりの始まり」の兆候が現れると、権力は「レイムダック化」(死に体化)してしまいます。

今回の戦況で首相の支持に回った議員には、そのことによって、何か甘い汁をすうことができのでは、と期待していた
かも知れませんが、80%以上の議員が安倍支持に動いたのでは、彼らに論功行賞は回ってこないでしょう。これも、
また彼らの不満を呼びそうです。

安倍首相は、モリ・カケ問題、財務省の文書改ざん問題などは、一応、乗り切ったとの判断でしょうが、自民党支持者
の中でさえ、首相の対応に納得している割合は多くありません。

とりわけ、「丁寧に 真摯に説明する」と言いながら、一度もそのように説明したことはありません。それどころか、
「はぐらかし」が常態化し、自分への批判には、激しく攻撃するという態度が、どれほど国民の不信と怒りを買ってい
るかに気が付いていません。

来年の統一地方選挙と参議院選で自民党が低調だと、安倍政権はさらに政権運営が難しくなるでしょう。

しかし、石破陣営にしても、今回の結果が自分たちに対する支持であると考えるとしたら、少し甘いし、事態を見誤っ
ていると思います。

確かに、石破氏への地方票は安倍氏に肉薄しており、国民一般の声をある程度反映していると思います。しかし、今回
の“善戦”は必ずしも石破氏の政治理念や政策を支持しているとは、限らないからです。

つまり、安倍政権に対する反発の矛先として石破氏しか選択肢がなかった、という面もあるのです。

しかも、石破氏は憲法問題に関して、戦力の不保持を定めた9条2項を削除して、確固たる軍事力の保持を掲げる改憲
論者でもあります。

石破氏を評価する場合、彼の政治理念の全体にも注意を払う必要があります。

(注1)『産経ニュース』(2018年9月14日)
 https://www.sankei.com/politics/news/180914/plt1809140098-n1.html   
    Share News Japan(2018年9月15日)snjpn.net/archives/67899">https://snjpn.net/archives/67899 
(注2)Yhoo ニュース (2018年9月11日)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180911-00000023-kobenext-l28
PRESIDENT Online (2018年9月19日)
    https://president.jp/articles/-/26216

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

文脈全体から真相に迫る(3)―加計学園問題の場合―

2018-06-10 10:07:19 | 政治
文脈全体から真相に迫る(3)―加計学園問題の場合―

前回の「森友問題」の記事では書ききれませんでしたので少し補足しておきます。以下に書くことも、あくまでも自分
なりの「真相」に迫る方法で、必ずしも「事実」や「真実」というわけではありません。

私が政治家や官僚の答弁や発言を聞いていて、真偽を判断する着眼点は以下の6点です。
①理由を示さず、疑問や疑義を強く否定し続ける。②質問に正面から答えず、話をすり替える。③問題の本質に関わる
発言を、「言った、言わない」の水掛け論に持ち込もうとする。④どうでもよいことは、はっきり言うが、肝心なこと
は、「覚えていない」または「記憶にない」といつでも言い逃れできる表現を使う。⑥どうにも逃れられなくなると、
調査する、とその場を逃げ、時間稼ぎをして問題をあいまいにする。

佐川前理財局長は国会で「交渉記録はない」、と表情を全く変えずにウソの答弁をしていました。官僚とは(そして恐
らく政治家も)都合が悪くなると平然とウソを言える人たちなのでしょうか?

さて、加計学園問題も森友問題と同様、もうとっくに安倍首相+官邸の「王(王将)」は詰んでいます。

この問題については森功氏の『悪だくみ』(文芸春秋社、2017.12)が完璧に立証して「王を詰ませている」ので、今
さら取り上げるのは気が引けます。

しかし、それはそれとして、この本の出版以降、今年に入って想像を絶する仰天発言が加計学園側から飛び出したので、
それも含めて「真相」に迫ってみたいと思います。

森友問題の場合、震源地は安倍昭惠夫人で、安倍首相が国会で、「私や妻が(国有地売却に)関係していたということに
なれば首相も国会議員も辞める」と強い調子で否定したことでした。

これに対して加計学園問題全体の文脈は、安倍首相のアメリカ留学時代からの「腹心の友」である加計孝太郎氏が理事長
を務める加計学園が申請した獣医学部新設が認可された過程で、安倍首相による直接・間接の(官邸や関連省庁の忖度も
含めて)働きかけや特別な計らいがあったのではないか、という点です。

そして、この問題の発火点は、またしても国会での安倍首相の断定的で強気の答弁でした。

安倍首相は、加計学園が国家戦略特区の枠で獣医学部の新設を申請していることを知ったのは、加計学園の申請が認めら
れた2017年1月20だった、という発言です。

もし、この日以前に安倍首相が加計学園の申請を知っていたとしたら、森友問題と同様、首相も国会議員も辞めなければ
ならなくなるのです。この点を頭において、時系列を追いながら問題の文脈を見てみましょう。

①2007~14年まで、愛媛県、今治市が構造改革特区で獣医学部開設を15回申請し、いずれも却下。

②2013年に「国家戦略特区制度」ができ、14年9月9日、その諮問会議(議長は安倍首相)で安倍首相は獣医学部新設
解禁を含む規制改革について「早急に検討」すべし、と発言した。

③愛媛県文書によると、2015年2月25日、加計氏は安倍首相と面談し、獣医学部新設計画を説明し、首相が「そういう
新しい獣医大学の考えはいいね」と言った。首相は加計氏との面談を否定。(「愛媛県文書」に記載、後で触れます)

④2015年3月24日。柳瀬氏は学園関係者と会い、特区を使って学部新設を実現するために協議した。そのためにも特区
を仕切る藤原豊(内閣地方創生推進次長(当時)に引き合わせた上で官邸に呼び出す段取りを組んだ。

⑤2015年4月2日。柳瀬氏が学園関係者、愛媛県、今治市職員と面会。この時の面談内容を愛媛県の職員が記録しておい
た「愛媛県文書」があります(後で再び触れます)。柳瀬氏は「記憶のかぎり」会ってないと否定。

⑥同6月4日、愛媛県、今治市が国家戦略特区による獣医学部新設を申請。同日前後、柳瀬氏と官邸で面会し、特区に申
請したことを報告。

⑦6月30日、安倍首相は「日本再興戦略」を閣議決定し、獣医学部新設を明記した。

⑧2016年11月9日、競合していた京都府が実質的に申請できない地位的条件を加えた上で特区での獣医学部新設を決定
した。京都府は断念に追い込まれた。

⑨2017年1月4日。今治市での学部新設を特区設定し、事業者(新設希望の大学)を公募開始。

⑩2017年1月20日。唯一応募した加計学園を事業者に決定。

以上が、加計学園が獣医学部を新設するまでの簡単な経緯です。本当は、まだまだ書くべきことはたくさんありますが、キリ
がないので、ここで一旦止めて、表面に現れた部分と、表面からは見えない部分について、幾つかの疑問点を取り上げます。

第一に、加計学園が15回も構造改革特区で獣医学部の新設を申請しながら、全て却下された理由は、そもそも獣医師は足り
ているか(獣医師会は今でも反対、農水省も獣医師が不足しているとは考えていない)、あるいは申請の内容(教授陣やカリ
キュラム、研究体制)が不十分だったか、いずれかであると思われます。

また国家戦略特区を使う場合でも、通称「石破4条件」があり、文科省は加計学園の申請内容ではそれを満たしていないと判
断していた。(加計学園は、こお4条件を検討した形跡さえみえない)

「石破4条件」とは以下のとおりです。
1.現在の提案主体による既存の獣医師養成ではない構想が具体化すること。
2.獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要が明らかになること。
3.既存の大学・学部では対応が困難なこと。
4.留意事項として近年の獣医師の需要の動向も考慮して全国的見地から検討がされること。

当時の文科省のトップ・前川喜平事務次官は(特区の責任者である内閣府の藤原氏から)「総理のご意向」「これは官邸の最高
のレベル」と言われたと証言していますが。「総理のご意向」と言う文言は、内閣府から文科省への「大臣ご確認事項に対する
内閣府の回答」と言う文書(注1)に登場します。

第二に、柳瀬氏は激務の間を縫って、加計学園の職員、愛媛県、今治市の職員と2015年2~3月の間に3回も面談し、実質的に
は申請の助言と推進役を果たしながら、首相には申請については一度も報告していいなかった、と主張し続けています。

しかし、首相の秘書官が、首相が非常に力を入れている国家戦略特区の進展に関して何の報告もしていなかった、とは、どんな
に否定しても到底信用できません。不自然すぎます。

第三に、安倍首相と加計氏とは、首相静動で公になっているだけでも、2013~14年には7回面会しており、加計学園の申請が急
速に進展していた15年から16年には12回面会(ゴルフや飲食店で)しています。

とりわけ、特区申請の審査が佳境を迎える16年の3月から12月末までだけで7回も会っています。しかし、17年1月20
日に、加計学園が事業者に決定した時以降は、面会はゼロとなっている。とても分かり易くありませんか?

最後に、上の⑥で触れた「愛媛県文書」とは、愛媛県に残されていた、加計学園の獣医学部新設に関わる二つの文書です。

最初に今年の4月に見つかった文書には、2015年4月に愛媛県、今治市、加計学園の職員が官邸を訪れて柳瀬氏と面会した時の
記録文書。その際に柳瀬氏は「首相案件となっており、内閣府藤原次長の公式のヒアリングを受けるという形で進めていただき
たい」との発言が記録されています。出席者の一人は、この面会と「首相案件」との言葉を事実として認めています。

これについて柳瀬氏は「首相案件」とは「言ってはいない」と否定するのではなく、「覚えていない」と発言しました(『東京
新聞』2018年4月11日)。

二つは、愛媛県側がさらに調査した結果今年5月に新たに見つかった文書で、4月に公表された部分と、加計学園が愛媛県と今
治市へ経緯を説明した部分を含む、政府・官邸側との折衝、会合時の発言などかなり長く、詳細な内容です。

その中に「2月25日に理事長が首相と面談(15分程度)。理事長から・・国際水準の獣医学部教育を目指すことを説明。
相からは『そういう新しい獣医大の考えはいいね』とのコメントあり」
との文言があります。この他2月25日の「首相と加計
理事長との面談について何回も言及しています。

さらに柳瀬氏かの「総理案件となっている。なんとか実現を、と考えている」と学園側に発言があったことも記録されています。

ところが、国会で加計問題の集中審議が行われる今年の28日2日前になって突然、加計学園の事務局長から、15年2月25
日に首相と加理事長との面会は、「当時の担当者が実際にはなかった総理と理事長との面会を引き合いに出し、県と市に誤った
情報を与えてしまったように思う」(あくまでも「思う」です)とのファックスが書く報道機関に送られました。

中村愛媛県知事は、一貫して、県の職員は真面目に一字一句聞き漏らすまいとして書きとったものを文書にしているので、それ
については全面的に信用している、愛媛県として、わざわざウソの文書を残す必要が全くない、と怒りを込めて断言しています。

しかし、3年間も一緒に設立準備をしてきた加計学園が、突如、あれはウソでした、と言い始めたのです。

これは、民間の事業者が県や市という公共機関に突然「ウソでした」と「自白」するなど、まさに前代未聞の「想像を絶する言い
訳」(野党)、昔風に言えば「ちゃぶ台返し」が公の前で行われたのです。

どう考えても、集中審議を2日後に控えて、何らかの圧力か忖度が働いて、安倍首相を擁護しようとした、あまりにも露骨な「自
白」としか考えられません。この事務局長は、記者会見で、見え見えの言い訳しましたが、内心、どんな心境なのでしょうか?

こうした、露骨なウソを言わなければならないこと、それ自体が、逆に文書の信ぴょう性を裏付けています。

案の定、安倍首相は二日後の国会で、加計学園の「ウソ発言」根拠に、加計氏との面会はなかったと答弁しています。

しかし、愛媛県文書読めば、たとえば、面会時間としえわざわざ(15分程度)としるされており、他の記述も非常に具体的です。

もし、意図的に愛媛県と今治市を騙すつもりで、安倍首相の名を出して「ウソ情報」を与えたとすると、そのような学園が「国家
戦略特区」を利用した教育機関としての見識と資格を持っていないことを意味しています。

前川氏が、政治の力によって「行政が歪められている」と発言し、そのことを重大視しているのは、本当に大切なことです。

以上、大変長い文章となりましたが、全体の文脈をみると、結論から言えば、安倍首相は2017年1月20以前から加計学園の獣医
学部新設の申請を知っていた、というより他の結論は考えられません。

やはり私は、この将棋の対局で安倍政権の「王は詰んでいる」と思います。


(注1)この部分を書いた文書の一部の写真版は、https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/what-is-kakegakuin11?utm_term=.lxLyxjMQ8L#.nrzxvjDb84 で見ることができる。



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

文脈全体から真相に迫る(2)―「森友問題」の真相を考える―

2018-06-03 06:44:19 | 政治
文脈全体から真相に迫る(2)―「森友問題」の真相を考える―

いわゆるモリカケ問題というのは、簡単に言えば、安倍首相の妻・昭惠夫人や安倍首相本人が関わっていた
のではないか、という疑惑です。

そして、結論から言えば、この将棋では安倍陣営(安倍首相と昭惠夫人)の「王」は、「もう詰んでいる」
のです。あるいは、相撲で言えば、「土俵を割っている」のです。

それでは、「詰んでいる」はずの「王」がなぜ、まだ盤上にあるのでしょうか?

現在の政界状況では、どんなに疑惑が深まろうと、証拠が出てこようと、それを抑え込んで政権を維持する
ことが可能な状況にあります。

それは、与党(自民・公明)その他政権派が国会の衆・参両院において絶対多数を占めているので、どんな
に野党や国民が批判しようが、政権は、強行採決をしてまでも法案を通してしまうからです。

小選挙区制のもとでは議員が公認をもらえるかどうかが、当選できるかどうかのカギを握っており、公認す
るかどうかは官邸の意向できまってしまうため、ほとんどの自民党議員は、何があっても首相に逆らえず沈
黙を決め込んでおり、政権は安泰なのです。

しかし、たとば、参議院だけでも与党が過半数を割れば、あるいは衆議院で三分の二を割れば、政権は法案
を通すことが難しくなり、与党内からも首相に対する批判が出てくるし、そのため政権交代という事態に追
い込まれます。

これは、「ねじれ国会」状態だった福田政権時代を想い起せばよく分かります。法案は野党の反対で通らな
かったり、「各駅停車」と言われたように、参議院で否決されると廃案か、もう一度衆議院に戻して審議し
直しになっていました。

いずれにしても、与党の国会運営が思うにまかせず、自民党内部からの批判や不満を受けて福田首相は、最
後は政権を放り投げざるを得なかったのです。

しかし現段階では、公明党も含めて与党内部からの批判はなく、あっても政権を引きずり下ろすほどの勢力
にはなっていません。

もちろん、政治は「一瞬先は闇」と言われるように、これから何が起こるかは分かりません。

今回は、「モリカケ問題」のうち、森友学園問題に焦点を絞って、その真相に迫りますが、その前に、そも
そも「モリカケ問題」を取り上げることの意味は何なのかを考えてみます。

この問題がもつ一番大きな文脈とは、一言で言えば「民主主義の危機」、「政治不信」ということになり、
この文脈の中で安倍政権が抱えた「モリカケ問題」が存在しているのです。

与党の中でもこのことに気付いて危機感をもっている人がいます。たとえば『毎日新聞』(2018年5月31日
夕刊)は、「特集ワイド」で、「『いつまでモリカケ』論は正しいか 改憲、アジア外交、安保 『もっと
大切な議論』この政権にできる?」というタイトルで次のような記事を載せています。その中で、つぎのよ
うな文章があります。

    自民党の村上誠一郎元行政改革担当相がテーブルにつくなり、語気を強めて言うのだ。「『たかが
    モリカケでいつまで騒ぐんだ』論をどう思うかって? 話にならないね。今起きていることは民主
    主義の危機なんだ」

村上氏は、メディアの質問に怒りを込めて安倍政権による「政治の私物化」を批判しています。さらに続けて、
    ところが、だ。今はそんな次元を超えている。森友問題で言えば、記録文書があるのに、財務省の前
    理財局長が『記録はない』とウソをついて記録を廃棄し、さらに国会提出資料は改ざんされた。加計
    学園問題も、経緯を巡る首相秘書官(当時)の説明は真実から遠く、首相の説明を覆すような文書ま
    でも出てきた。『政治家や役人は国民にウソをついてはならない』という民主国家の大原則をも壊し
    かねないのに、野党やメディアに責任転嫁。本末転倒だ。

村上氏は「『もっと大切な議論を』と言うが、その議論を、信を失いつつある現政権に任せられるか。『たか
がモリカケ』でこの有り様なのに、安全保障や外交でまともな議論が期待できるか」とも言っています。

これがまっとうな見識というものでしょう。村上氏は以前、「皆本当のことを知っている」とも言っています。

ところで、私たち一般の国民には、本当に何が起こったのかについての「真実」を知ることは極めて困難です。
たとえば、当人同士が2人だけで直接話し合ったこと、電話で話したこと、などは外部の人間には分からない
し、たとえ記録があったにしても、肝心なところを隠蔽されてしまったら、もう「真実」を知る手立てがない
からです。

そのような場合、どうしたら「真相」に迫ることができるのでしょうか?

私自身は歴史家ですが、歴史研究において、どんなに資料を集めても、それらから得られる情報は歴史上の出
来事全体からすれば、ほんの断片的な情報にすぎません。

そのような状況で歴史家は、断片的な既知の事実を全体の文脈のなかで評価してつなぎ合わせて全体像を描こ
うとします。「モリカケ問題」についても同じです。

前段がだいぶ長くなってしまいましたが、森友問題も加計学園問題も、問題の本質はおなじですが、今回は森
友問題に絞って考えてみます。要点は、相互に不可分な二つの文脈です。

一つは、森友学園が小学校を設立し、そのために建設しようとしていた国有地が、不当に安く売られたことに
関して首相の昭惠夫人の関与があったのではないかという疑惑です。

二つは、森友問題の発覚後の昨年2月17日の衆議院予算員会で安倍首相は「私や妻が(国有地売却に)関係
していたということになれば首相も国会議員も辞める」と強い調子で否定したことです。

私たち一般の国民はメディアを通してしか情報を得られませんが、それでも断片的な「事実」を全体の文脈の
中に正しく位置付けて考えれば、自分なりの「真相」に迫ることはできます。断片的な情報(明らかになった
事実)はたくさんありますが、以下、昭惠氏の結びつく8点を挙げておきます。

①森友学園の籠池氏は当初、小学校の認可申請に当初は「安倍晋三記念小学校」という名称で小学校の認可申
請を出していた(問題が発覚以後は、「瑞穂の國記念學校」に変更)。

②安倍昭惠夫人は、2015年9月、上記小学校の名誉校長に就任。

③昭惠夫人は籠池氏の教育方針に感激し、森友学園が経営する「塚本幼稚園」を訪ねた時、子どもたちが教育
勅語を暗唱したり、安倍晋三首相がんばってください、などの言葉に感激して涙を流した。

④財務省側の記録に、昭惠夫人が森友学園を訪問したさい、小学校に建設予定地をみて籠池氏に「いい土地で
すから前に進めてください」と言った。この部分は後に財務省側で削除された。

以上は、昭惠夫人が籠池氏の教育方針に感激しており両者の間には強い結びつきがあったことを示しています。
以下は、そのことを前提として、財務省が籠池氏の要請に沿う形で、9億5600億円の土地を1億3400
万円、8億円の値引きするまでにいたった背景です。なお、会計検査院は、財務省からの決裁文書に、改ざん
前の文書と改ざん後の文書2種類あるが、改ざん後の文書だけで売買に違法性はない、との報告をしています。

⑤ 昨年の証人喚問で、籠池被告は「そのときは『神風が吹いたかな』と思ったので、『なんらかの見えない
力が動いたのではないかな』と思いました」と証言。「そのとき」とは「15年10月、11月頃」とされています。
(昭惠夫人は9月に名誉校長に就任し、対外的にもこの小学校に昭惠夫人が関与していることがはっきりした)

⑥財務省が、佐川理財局長(当時)が、交渉過程での文書は廃棄したと国会で証言したことに合わせ、決裁文
書に300カ所もの実際に廃棄・改ざんをしたことが明らかになった。最近、廃棄したはずの交渉記録文書、
数百ページが出てきた。しかし、その文書からは、安倍昭恵氏が年に2度も塚本幼稚園を訪問し森友学園との関
係が濃密であった2014年の「経緯」は綺麗さっぱり削りとられている。さらには「特殊性」など、国有地取引の
異例さを示唆する文言はすべて削除する念の入れよう。

⑦交渉記録によれば、昭惠夫人付きの政府職員の谷査恵子氏が、2015年11月10日、財務省理財局に「森友側に
よる国有地の賃料減額の優遇制度について問い合わせた」との記録がある。二日後の12日に財務省国有財産
管理室長(本庁)から谷氏に「最大限の努力をしているが、先方が理解してくれない」と回答している。つま
り、今回の土地問題に昭惠夫人は谷氏を通じて財務相に「問い合わせ」をしていますが、このような「問い合
わせ」とは、一般的には「口利き」、つまり関与と理解される。

⑧土地の値引きの根拠になったのは、大量のごみが見つかったからだと財務相は説明してきたが、「八億円か
けて搬出するとダンプカー四千台にもなるが確認したか」と国会で追及された後、財務省は森友側に連絡をと
り「『トラック何千台も走った気がする』といった言い方をしてはどうか」と口裏合わせを持ちかけていたこ
とが判明した。

籠池氏は近畿財務局を訪れたさい、昭惠夫人と一緒に写っている写真を職員に見せたり、「棟上げ式に昭惠氏
を招待するスケジュールを組んでいる。これができなければ私は切腹する覚悟」など財務局を追い詰めている。

安倍首相は、財務省への「問い合わせ」は谷氏が個人的にしたこと、と答弁していますが、このような重要な
問題を昭惠氏との相談なく、勝手に行うとは信じられません。しかも、谷氏は、籠池氏から昭惠氏への問い合
わせを受けて、財務省に連絡しているのです。二日後に財産管理室長から返事がきていることから、財務省は
この件を「昭惠案件」扱としていることがわかります。

なお、キーパーソンの谷氏は、問題発覚後、なぜか突然、海外勤務に転勤させられました。これも、文書の改
ざん・隠蔽と同様、事実の隠蔽工作の一つではないでしょうか。

④の「いい土地ですから・・・」の部分は、財務省側で後に削除されています。この点が重要です。「これは
良い田んぼんになりますね」と言う意味だったという説もありますが、学校を訪問して、いきなり田んぼの話
をするのは、あまりに不自然です。全体の文脈からすれば、やはり学校の建設地として「いい土地ですね」と
解釈するのが自然です。

以上、記録文書を破棄や隠蔽したこと、文書から昭惠氏の名前を丹念に削除したこと、関係者が国会で虚偽答
弁したこと、土地の値引きのため、財務省が森友学園側にウソの証言をするように働きかけていること、これ
らを総合的に考えると「真相」は分かりやすくなります。

私は、個々の「事実」の真偽ではなく、全体の文脈を見た場合、やはり昭惠夫人は「関与」していたと考える
ことがもっとも自然です。

今年の5月になって財務省は、新たに「見つかった」3000ぺ―ジもの決裁文書を国会に提出しました。し
かし、籠池氏が昭惠氏と一緒に写っている写真を見せながら財務省側に迫ったころの文章は削除されています。

最後に、安倍首相との関係ですが、安倍首相は5月の党首討論で、昭惠夫人には「金品の授受はなかった」と
発言していますが、誰も金品の授受があったとは言っていません。つまり、「関与はしていたかも知れないが、
金品の授受はなかった」、言っているのです。これこそ「語るに落ちる」というものです。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

劣化する官僚と政治―柳瀬唯夫氏と加計問題―

2018-05-13 13:51:06 | 政治
劣化する官僚と政治―柳瀬唯夫氏と加計問題―

5月10日の国会へ参考人招致として出席した柳瀬唯夫(元)内閣総理大臣秘書官の発言を聞いて、多くの人は、
あまりに幼稚な言い訳に唖然としたのではないでしょうか?

エリート官僚がこれほど見苦しい、みじめな姿を国民の前にさらしたのは、佐川元財務相理財局長(後に国税庁
長官)、そしてセクハラ問題で辞任に追い込まれた財務相事務次官の福田淳一氏に続いて3人目です。

柳瀬氏側(安倍首相も含めて)には、大きな誤算があったと思われます。

実は、5月10日の参考人招致に先だって柳瀬氏と安倍首相は訪米の旅に出ており、その間中、国会での想定さ
れる質問に対する答えを十分に話し合ったと思われます。

国家での、柳瀬氏の証言の要点は、以下の通りです。

1 柳瀬氏は2013年5月に、安倍首相別荘で加計学園側の加計孝太郎理事長と会った。

2 2015年2~3月ごろ学園関係者と首相官邸で面会し、学園の獣医学部新設計画を認識した。

3 同年4月ごろ(正確には4月2日)、首相官邸で学園関係者と面会した。この時、愛媛県と今治市の職員が
  10人近い随行者の中にいた可能性もあり得る。(以前は、記憶にある限り彼らとは会っていない、と言っ
  ていた)名詞の交換をしたか、との問いに、それには答えず、「私が保存している名詞の中に愛媛県や今治
  市の方の名刺はなかった」と答えました。

4 首相ではなく「総理」という言葉ではあったと思わるが、「首相案件」とは一般論で、個別のプロジェクト
  と言っていない。

5 官邸で学園関係者と会ったのは計3回。3回目は今治市が特区申請した6月4日前後。いずれも自らの判断。
  国家戦略特区関係で、他に面会はしていない。

6 首相には一切報告せず、指示も受けていない。

7 の下村博文文部科学相の発言について。述がある、との質問に、総理と加計孝太郎氏との会食の際、の方と
  の間で、獣医学部新設の話がでた覚えは全くない、と答えた。

他にも柳瀬氏の答弁には疑惑がいくつもありますが、取りあえずここまでにしておいて中身の検証に入ります。

おそらく、当日は以上の答弁で逃げ切ったと思ったことでしょう。

しかし、この練りに練った答弁の中でも問題は山積みです。

まず、首相秘書官が、個別の事業者と3回も、地方の職員と事業者と官邸で面会するとうことは常識的に考えら
れないだけでなく、明らかに公平性を欠いています。

次に、首相が力を入れて、早急に勧めるよう要請を受けていた柳瀬氏が国家戦略特区の進捗にかんして、首相に
全く報告しないということは、あり得ないことです。

というのも、愛媛県の職員と加計学園に、他ならぬ官邸で会うことについて、安倍首相の指示か了解なしに官邸
で会うことをセットすることはあり得ないし、まして、その結果を首相に報告しないこともあり得ません。

首相秘書官を務めた経験をもつ江田憲治氏は、「柳瀬氏が加計学園関係者と面会したのは、総理大臣か政務の首
席秘書官からの指示があったとしか考えられない」も明言しています。

ところが、この参考人招致の翌日(11日)、安倍首相と柳瀬氏の想定ストーリーをくつがえす予定外の反撃が
待っていました。

それは、4月2日に柳瀬氏に面会した愛媛県職員が残したメモと柳瀬氏の名刺です。

中村時弘愛媛県知事は記者会見を開き、カメラの前で柳瀬氏への怒りと強烈な反論を展開しました。

まず、名刺の問題ですが、参考人招致の際に柳瀬氏は名刺交換を否定しました。その時点では、愛媛県側に名刺
があるはずで、それが出てこないというのは、やはり交換がなかったのでは、という柳瀬氏の援護射撃をする人
もいました。(下の図を参照)

それを意識して、中村知事は記者に名刺のコピーを公開しました。この時点で、柳瀬氏の答弁の信頼性はグラリ
と揺らぎました。

次に、当日官邸にいたのは10人ではなく6人で、うち3人が愛媛県職員だった。柳瀬氏は、当日10人ほどい
たので、果たして愛媛県側の人がいたかどうか、認識できなかったと述べています。とにかく、ここで、愛媛県
側の職員の存在を否定したかったのでしょう。

というのも、あとで触れますが、当日官邸にいた職員が会談の詳細なメモを残しているからです。

柳瀬氏は、4月2日の会談で、吉川康弘元東大教授が、獣医学教育に関して情熱的に話した、と述べていますが、
愛媛県側の記録では、吉川氏は当日いなかったことが判明した。

愛媛県の職員について柳瀬氏は「バックシートに何人か座っていたように思う」と答えましたが、中村知事は、
メインテーブルに座っていた6人のうち右の3人が県諸君であった、と述べています。

柳瀬氏の県職員について、「あまりお話しにならなかった方は記憶からだんだん抜けていく」という発言にたい
して、中村知事は「子どもの使いで行っているわけではなく、県職員として県の状況を説明した、と明確に指摘
しています。

まさに、ここがポイントで、柳瀬氏はあたかも、県職員が何も言わずに座っていただけのような言い方に、強い
怒りを表わしています。

中村知事は、県職員が書いた4月2日の会談のメモをも公開しました。

この会談前のある日、安倍首相と加計孝太郎氏が会食した際、(安倍首相が)「下村文科大臣が加計学園は課題
への回答もなくけしからんとの発言があった」とのことであり、その対策について柳瀬氏に意見を求めところ、
柳瀬氏から「今後、策定する国家戦略特区の提案書と併せて課題への取組状況を整理して、文科省に説明するの
がよい」とのアドバイスがあった(『東京新聞』2018年5月12日 より)。

以上の証拠に基づいて中村知事は柳瀬氏が「誠心誠意、真実を語っていない」「強烈な言葉で言うなら、うそ」
とはっきりいています。

元首相秘書官に対して、公に「うそ」と言っているのは、よほど腹に据えかねたからでしょう。「相手は総理秘
書官。行った職員は必死になって一言一句もらさず報告したいという気持ちだ。県が文書を改ざんする余地はな
い」と強調しました。

ごく常識的にみて、柳瀬氏の言っていることと、中村知事の言っていることの、どちらが真実であるかは、いう
までもなく明らかです

問題は、次の点にあります。

出発点は、安倍首相が国会で、加計学園が戦略特区で獣医学部を申請していることを知ったのは、昨年(2017年)
1月20だった、と答えていることです。

したがって、2015年の4月までに加計学園および愛媛県側と総理秘書官が官邸で面会し、アドバイスをして
いたこと、そしてその経過を首相に報告していた、となると、首相の国会での答弁が、くつがえされてしまいます。

柳瀬氏は、これの点を防ぐために、あくまでも自分だけの判断で面会し、首相に報告しなかったと強弁しているのです。

同様に、県職員のメモで、まことに安倍首相にとって不都合なことは、2015年4月の面会前に安倍首相と加計孝太
郎氏が会食し、その場で下村文科大臣が加計学園の申請について安倍首相に話した、との内容です。

これも、安倍首相は、当初から加計学園の申請を知っており、加計学園の申請を通すために、いろいろ画策していたこ
とを証明してしまうことになります。

中村知事は、必要なら国会で証言すると、言っていますが、自民党はこれを拒否しています。理由は、中村氏が、直接
に面会に立ち合ったわけではないから、というものです。

しかし、前の知事も面会に立ち合ったわけでもないのに国会によんで、獣医学部新設の必要性を話させているのです。
自民党の言い訳もまったく筋が通りません。

一つ、うそをつくと、それに合わせて次から次へとうそを重ねなければなりません。

今回の加計問題の本質は、やはり安倍首相のお友達である加計氏の念願を通すためにすべての歯車が回っていたことに
つきます。

昔風に言えば、東大出の「優秀」な官僚のトップといえども、恥も外聞も捨てて、ウソにウソを重ねた答弁をしなけれ
ばならないと、傍で見ていて痛々しい限りです。

国民の税金で養われている国家公務員が、国民のために奉仕するのではなく、首相のために奉仕する構造は、官僚の幹
部人事を官邸が握るようになったことの弊害の一つです。


そして、自民党議員は、何が本当かは分かっているはずです。それでもほとんど安倍政権のやり方を正面から批判して
いません。官僚だけでなく政治家の劣化も相当進行しています。





柳瀬氏の名刺と会談の人物配置図 (『東京新聞』2018年5月12日より転載)





  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

病巣は広く深い政と官(1)―福田財務省事務次官の場合―

2018-04-22 09:16:13 | 政治
病巣は広く深い政と官(1)―福田財務省事務次官の場合―

前回の記事で、日本の三権分立という民主政治の根幹が揺らいでいることを書きました。

それらが具体的な形で表面化した事例が、森友学園問題、加計学園問題、防衛省の日報隠蔽問題、厚生労働省の虚偽
データ問題、そして止めは財務省(元)事務次官のセクハラ問題、と、これでもかと続いています。

日本社会を蝕んでいる病巣は想像以上に広く深いことを実感します。

これらの問題に関わった政治家や官僚は、判で押したように、「記憶にない」「そのような認識はない」「文書やデ
ータは廃棄したので残っていない」と言い続けています。

これらの、国民をバカにしたような政官の対応は、ただひたすら逃げ道を作っておいて時間を稼ぎ、そのうち国民は
問題をあいまいのうちに忘れてしまうだろう、だから逃げ切ることができるだろう、と高をくくっています。

私たちは個々の問題の内容や経緯を新聞、テレビ、雑誌などのメディアを通じて知ることができるし、それらに関す
る解説や評論を聞いたり読んだりすることもできます。

しかし、メディアはいつも正しいとは限りません。大切なことは、これらメディアが伝えることを参考としながらも、
最終的には自分なりに、どのように事態を理解し「真実」に迫ることができるかを考える必要があります。

突き詰めて言えば、どうしたら、自分なりに問題の「真実」にたどりつけるのでしょうか?その方法を考えてみまし
ょう。

もちろん、この場合の「真実」とは神の目から見た「絶対的真実」という意味ではなく、あくまでも、「自分なりの」
という相対的で条件付きであることは言うまでもありません。

以下に、具体的な事例を取り上げて検証してゆきますが、その際、文書、メールなどの電子データ、音声など、厳密
な意味での証拠、特に物的証拠を必ずしも必要としません。

というのも、たとえば、当事者が直接口頭や電話で話した場合、物的な証拠は残らないし、私たち一般の国民が物的
証拠に直接に接することはできないからです。

そこで大切なことは、どのように理解したら、起こっている問題が筋の通ったものとして素直に、「腑に落ちる」形
で納得できるかを、想像力を精一杯働かせて事態を見つめる感性を磨いて置くことです。

まず、比較的分かり易い事例として、福田淳一(元財務相事務次官)のセクハラ疑惑について考えてみましょう。

この問題は最初、2018年4月12日発売の『週刊新潮』で報道され、多くのメディアが取り上げて世間の知るところ
となりました。

この週刊誌には、もし本当なら、官僚の頂点に立つ財務省の事務次官が言った言葉としては信じられないほど低級で
卑猥な言葉に満ちていました。

しかし、当初、福田氏は、女性記者と一対一で会い、週刊誌に書かれているような会話をしたことはない、と言ってい
ました。

また、福田氏の上司・任命権者である麻生財務相は、記者に問われて、本人が否定している以上、調査をするつもりも
ないと、調査することさえ否定しました。

しかし、それを裏付けるように、13日には『週刊新潮』電子版で、女性記者が録音した音声が公開され、世間の空気
が一変しました。

この音声データが公開されても福田氏はセクハラを完全に否定し続けました。

16日、福田氏は省内の聴取時に「(新潮が公開した)音声データからは、相手が本当に女性記者なのかも分からない」
「女性が接客をしている店に行き、店の女性と言葉遊びを楽しむことはある。しかし、女性記者にセクハラ発言をしたと
いう認識はない」、と言ったそうです。

記者会見で麻生財務相は、財務省内部の調査で福田氏はセクハラを全面否定したが、内部の調査だけでは納得いただけな
いので、外部の弁護士に調査を依頼した、と述べました。

そして財務省は、「福田事務次官との間で週刊誌報道に示されたようなやりとりをした女性記者の方がいらっしゃれば、
調査への協力をお願いしたい。」などとする文書を報道各社に配布し、調査への協力を求めています。

この「お願い」では、協力してくれる女性記者は、財務省の顧問弁護士、つまり第三者ではなく、身内の、いわば「お抱
え弁護士」
の事務所に出向いて調査に応じるように、と言っているのです。

麻生財務相も被害者が名乗り出ない限り、セクハラと認定できないという見解を崩していません。

麻生氏及び財務省内部では、おそらく、誰も名乗り出ないだろうということを読んだうえで、このような、姑息としか言
いようのない手法を採ったのだと思います。

誰が考えたか分かりませんが、この麻生大臣と財務省の官僚の傲慢さと浅知恵には驚きます。このような態度は直ちに世
間の反感を買うことを想像できなかったのだろうか?

財務省の官僚は優秀なエリート集団だと言われますが、本当に優秀なのか信じられません。

このような調査方法にたいして、弁護士らが反対の署名を募ったところ、18日午後の時点で1万4000人が署名し、
19日午後までに3万5000人が署名しました。

また、財務省の記者クラブ常勤24社のうち20社が、財務省が調査を依頼した弁護士事務所が同省と顧問契約であるこ
とから「被害女性のプライバシーや取材記者としての立場がどのように守られるのかが明確でない」などと指摘した抗議
文に賛成しました。

しかも、この無神経な調査方法にたいしては、政権内部や自民党内からも批判が続出しています。

たとえば野田聖子総務相は17日の記者会見で、財務省の対応を問題視し、「被害者の立場に立てば高いハードルがある」
と、麻生氏と菅義偉官房長官にも伝えたことを明らかにしました。

さらに同日の自民党役員連絡会では、橋本聖子参院議員会長が「財務省の対応は国民の感覚とはずれている。襟を正してほ
しい」と批判しました『朝日新聞』(4月18日朝刊)。また「権力をもった人が、下位の人に高圧的な態度をとることは
人絹問題として許されない。国際社会では当たり前だが、財務省の中で認識されていなかったのかと残念に思う」とも語っ
ています(『東京新聞』2018年4月20日)。

福田氏は18日に辞任しましたが、その理由は「職務を遂行することができない」というもので、セクハラについては相変
わらず否定しました。

この辞任に関しても自民党参議院議員の片山さつき氏は「弁護の余地はない。辞任は当然だと思う」と断罪し、財務省につ
いては「落城一日、再築城十年だ」と語っています(『東京新聞』2018年4月20日)。

18日の辞任というのは、おそらく、19日に『週間新潮』の第二弾が発売になり、第一弾に続いてさらに多くの事実や音
声データが発表されることが予想される、という事情があったものかもしれません。

も一つ微妙なタイミングで、19日の深夜0時から『テレビ朝日』が、緊急記者会見で、問題となっている女性記者が『テ
レビ朝日』の社員であることを発表します。つまり、セクハラを受けたとする女性が特定されたのである。しかも、福田次
官の辞任会見について「セクハラ行為を否定しているが、事実であると考えている」と断定しました。

この発表が事前に財務省側に漏れていたのかどうかは分かりませんが、辞任の五時間後での発表は、かなり微妙なタイミン
グです。

さて、以上はごく簡単な経緯ですが、果たして、福田氏のセクハラはあったのか、本人が否定しているようになかったのか、
私たちとしてはどのように「真実」に迫ることができるでしょうか?

福田氏辞任の翌日、麻生大臣は、「週刊誌に言い、弁護士になぜ言えぬ」と語り、次官職代行予定の矢野康治官房長は、「
名乗り出ることがそんなに苦痛か」とも語っています。この二人はまだ事の本質をまったく分かっていません。

その参考になることを二つだけ挙げておきます。

まず、財務省内部で部下が行った福田氏への聴取結果には「時には女性が接客をしているお店に行き、お店の女性と言葉遊び
を楽しむようなことはある。しかし、女性記者が不快に感じるようなセクハラに該当する発言をしたという認識はない」と答
え、たとえばキャバクラでならセクハラのような言葉遊びをしたことがないわけではない、とも語ったようです。

ところが、録音された店はキャバクラのような「女性が接客をしている店」ではなく、東京・中目黒のダイニングバー「S」
であることが分っています(『週間新潮』2018年4月26日号の扉に、「S」が入っているビルの写真。記事は20ページ)。

二つ目は、『週刊新潮』が公開した音声に対する福田氏の反論です。福田氏は記者に対して「提供したのは音声の一部。全体
を見れば齟齬がないと分かる」と語っていますが、これこそまさに「語るに落ちる」というものです。

福田氏は、女性記者との会話をなかったと言っていたのに、公開された音声は一部(多分、女性記者の反応がなかったことを
指していると思われる)だから、会話の全体をみればセクハラはなかったことが分る、と言いたいのでしょう。

しかし、ここで彼はうっかり、公表されている卑猥な言葉は、部分ではあるけれど、実際に発したことを事実上認めてしまっ
ているのです。しかも、全体であろうと部分であろうと、彼が語った言葉は明らかにセクハラです。

ほかにも彼の言動には、矛盾した点はいろいろありますが、それらをどのように解釈するかは、最終的には私たち自身です。




  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

溶解する国家の骨組み―三権分立は正常に機能しているか?―

2018-04-15 10:53:58 | 政治
溶解する国家の骨組み―三権分立は正常に機能しているか?―

森友・加計・防衛省・厚生労働省の見るに堪えない不祥事にただただ、あきれるばかりですが、それら
の検討は次回以降にして、今回はこれらの根っこにある本質的な問題について考えてみたいと思います。

誰でも知っているように、日本の統治機構は「司法」、「立法」、「行政」という三本の柱から成る、
三権分立制度をとっています。

今さら説明するまでもありませんが、ちょっとだけ復習と確認をしておきますと、これら三権は憲法
でその権限を規定されています。

国権の最高機関は、国民によってえらばれた国会議員によって構成される国会です(憲法41条)。
国会の最も重要な役割は法律を制定することで、立法府とも呼ばれます。

「行政」とは、国会議員によって選ばれた内閣総理大臣(首相)によって内閣が組織され、それは
法律を行使する権限をもっています。通常、政府と呼ばれる組織で、首相と国務大臣から構成される。
実際の業務は各省庁によって遂行される(憲法65条)。

「司法」は最高裁判所およびその下級裁判所からなり、それは具体的な紛争や犯罪にたいして法を用
いて裁定することを指す(憲法第71条第1項)
こうして、国家の統治権を三つの機関に分けたのは、他の機関を監視しお互いにけん制し合って、権
力の暴走に歯止めを掛けられるようにするためです。

たとえば、王が自分に都合の良い法律を作ったり、人々を勝手に逮捕し裁判にかけて死刑にしてしま
ったり、人びとを徴兵して戦場に送ったり、重い税金を取ったりできる支配体制のもとでは、統治さ
れる市民は一方的に権利を奪われ苦しめられる可能性があります。

この典型的な例は、フランスのルイ14世が言ったといわれる「朕は国家なり」という言葉に象徴さ
れるように、全ての統治権が一人の権力者(王)に握られている状態です。

近代国家は、支配者による一方的な支配を避ける仕組みとして、さまざまな工夫をしてきましたが、
その一つが、日本も採用している三権分立制度です。

制度としての三権分立は理想的ですが、実態としてその本来の精神が実現しているかどうかは別問題
です。

たとえばヒットラーは、民主主義的な選挙に選ばれた議員によって選出された首相ですが、実態とし
ては一人で三権を全て行使した独裁者でした。

さて、日本の三権分立の現状をみるとき、以下の3点に注意する必要があります。

第一点は、国会(立法府)と内閣(行政府)との関係です。制度上は、国会が国権の最高機関となっ
ており、内閣の行政を監視する役割と機能を持っています。

しかし、「安倍一強」といわれる日本の状況の下で、絶対多数を占める与党(自民党と公明党)の中
には、首相の意向に異議を唱える議員がほとんどいません。小選挙区制の下で、官邸に逆らえば選挙
で公認をもらえなからです。この意味で、内閣にたいするチェック機能を果しているとは言い難い状
態にあります。

他方、野党の方は議員数では与党には遠く及ばないので、抵抗はしますが最後は数の力で押し切られ
てしまいます。

こうして、行政府(政府)+国会の圧倒的多数の与党勢力が現実の政治を動かしている構図となって
います。

つまり、現状は実態として三権分立は、その本来の相互監視の機能は十分に果たしていません。

しかし、いかに政府の権力が強力でも、それは憲法に基づいて行政を執行しなければならない、とい
う原則が「立憲主義」の立場で、民主主義の根幹であると考えられています。

行政に関して注意しなければならないのは、政府と行政の実務を担当する各省庁との関係です。

各省庁には、職員(官僚)がおり、彼らはそれぞれの分野の専門家集団として行政の各分野を分担し
て政府の政策や法律を実行してゆくことになります。

この際、政府の意図と省庁との間に意見や方針の違いがなければ行政はスムーズに進むのですが、も
し違ったばあいには大きな問題が発生します。

最近の例で言うと、加計学園の獣医学部新設に関して、文部官僚のトップであった前川元事務次官は、
専門家として加計学園が新設の申請した獣医学部は、認可に必要な要件を満たしていないとの考えを持
っていました。

しかし、前川氏の言葉を借りると「総理のご意向」だという圧力のもとで、政府は強引に認可してしま
いました。これにたいして前川氏は「行政が歪められた」と発言しました。

この例のように、省庁は政府の強い圧力のもとに自らの判断を曲げなけばならない状況も発生します。

もっと明白な事例として、森友学園の土地売却に関連して、森友学園への不当な国有地払下げに深く関
わっていた近畿財務局の職員が自殺しましたが、彼は「汚れ役」を押し付けられたことを遺書に残して
います。

この「汚れ役」とは公文書の改ざんのことを指していることはほぼ間違いありません。

ここで、公文書(決裁文書)の改ざんをすれば罪に問われる可能性があるにもかかわらず、前代未聞の
これほど大規模な改ざんをするのは、よほどの圧力が「上」からかかっていたとしか考えられません。

この事例は、「上」とは財務省内に限定されるのか政治家からのものなのかを証明することは困難ですが、
やはり政府の上層部からと考える方が自然です。

こうした場合の、検証の仕方については次回以降、加計学園問題と森友問題について詳しく検討したいと
思います。

ただ、最近の各省庁の幹部が国会や野党のヒアリングの場で問い詰められた時など、おそらく本人の内心
では言いたくない弁解を、自分の保身と出世のために必死で防戦している姿がテレビで映し出されます。

今はただひたすら官邸の覚えがめでたくなることばかりを考える官僚が増えています。自らの信念に基づ
いて、官邸の意向に逆ってでも国民全体のために意見を言える官僚はいなくなってしまったかのようです。

こういった姿を見ていると、これが優秀なエリートのなれの果てなのか、と思うと痛々しさと同時に哀れ
をもようします。

彼らの内心では、誇りや正義感はズタズタ、ボロボロになってしまっているのではないか、と心配します。

ある政治評論がテレビで、今や官僚は、野党は言うまでもなく、自民党でさえ配慮することなく、ただ安
倍首相一人の意向だけを上目づかいで見ている(頭の上に目がついている魚のヒラメに例えてヒラメ官僚
という)のが実態だ、と言っていましたが同感です。

憲法では、公務員は全体の奉仕者であって一部の奉仕者ではない、つまり「公僕」(文字通りの意味は、
公=国民全体の従僕・召使)であると規定されています。今一度、エリートではなく国民への奉仕者であ
るとの意識と信頼を戻してほしと思います。

ところで、意外と混同しがちなのは、警察や検察と司法との関係です。

うっかりすると、警察も検察も「司法」の領域の中に含まれ、行政府からは独立した機関であるかのよう
な印象をもちますが、これらは首相の下にある行政府の中の法務省に設けられた行政機関の一部です。

したがって、悪く解釈すると、行政府の長や官邸に忖度して検察が立件をためらうことがあるとすれば、
それこそ検察行政が大きくゆがめられてしまいます。

たとえば、「森友学園」(大阪市)への国有地売却を巡り、財務省の決裁文書が改ざんされた問題で、
大阪地検特捜部は、前国税庁長官の佐川宣寿氏ら同省職員らの立件を見送る方針を固めたようです(最終
決定はまだ)。

地検の見解は、決裁文書から売却の経緯などが削除されたが、文書の趣旨は変わっておらず、告発状が出
されている虚偽公文書作成などの容疑で刑事責任を問うことは困難である、との解釈です。

この解釈は相当無理があります。というのは、文書の趣旨さえ変わっていなければ(私は趣旨そのものも
変えられていると思いますが)、その途中の経過につては、決裁文書をいくら改ざんしてもかまわない、
ということになってしまいます。

そもそも全ての公文書か国民共有の知的財産なのです。そして、それがあるからこそ私たちは後に、どの
ようにして、ある決定がなされたのかを検証できるのです。

いずれにしても、ある人物の犯罪を立件するかどうかは、行政府の一部である検察のさじ加減で決まる、
という点は大いに問題です。

しかも国民にとって重要なことは、法律論的に有罪を問えるかどうかという技術論ではなく、行政が正常
におこなわれているかどうか、という点なのです。

現在の日本の政治状況をみていて私は皮膚感覚で、日本では三権分立や立憲主義に基づく民主政治が、相
当壊れつつあるのではないか、危機感をもっています。

というのは、国会と政府が実態としては一体となっており、国会が政府のチェック機能をはたしていると
は思えないからです。

私は、日本社会の重要な部分が壊れている、というより、ぐにゃぐにゃに溶けだしているという強い危機
感をもっています。

三権のうち、司法については、別の機会に譲りたいと思います。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

(続)森友問題―外国人記者が見た日本の本当の闇―

2018-03-25 12:44:25 | 政治
(続)森友問題―外国人記者が見た日本の本当の闇―

森友問題の背後には、政治と官僚との間に、癒着、というより主従関係が定着してしまっていることが
明らかになりました。

官僚の出世街道をトップでひた走ってきた佐川前財務省理財局局長はエリート中のエリートのです。

その佐川氏でさえも、公文書偽造という絶対にやってはいけない行為に関わらざるを得ない状況に追い
込まれ、国会でも不自然で苦しい弁明を強いられてきました。

この姿をみて、エリートといっても所詮は、時の権力の使い走りに過ぎないんだな、と哀れを感じたの
は、私一人ではないでしょう。

官庁の中でも財務省は特別に重要な官庁であるとの誇りをもっていた財務省のトップですら、屈辱的な
答弁の姿を国民の前にさらす役割に甘んじている状態です。

そもそも官庁というのは、政治や政権が変わろうとも国の行政が国民の利益のために間違いなく維持さ
れるように働くことが使命で、官僚はそのことに誇りをもっていたはずです。

しかし今や、それは遠い過去の話になろうとしています。

これまでの、公文書改ざんに関して「森友 9つの疑念」という記事で整理されているので、そちらを
読んでいただくとして(注1)、森友問題を在日外国人記者はどうみているかを見ておこう。

一つは、『毎日新聞』が何人かの在日外国人特派員のコメントをまとめて紹介しています(注2)。

まず、イギリス『タイムズ』紙の東京支局長ロイド・パリー氏は、『「改ざん」は英語ではfalsifyなど
と訳される。これはたんなる書き換え(alter)ではない。 改ざん以外の言葉では語れない」と指摘します。

イギリス『フィナンシャル・タイムズ』(FT)紙の東京支局長、ロビン・ハーディングさんも「公文書
をあれほど大きく変えるのは『改ざん』以外の言葉では語れない」と言っています。

明治学院大教授でニューズウィーク誌日本語版などに寄稿してきたマイケル・プロンコさんは「官僚の改
ざんと聞いて、ショッキングなほど悪い印象を受けた。普段は真面目な人が、実は盗みを働いていたよう
な、裁判で偽証したような重さがある」と驚きのコメントをしています。

いずれにしても、世界の常識では、「改ざん」以外の表現はありえないのに、政府も財務省も、問題を小
さく見せるために必死で「書き換え」と繰り返しているところに、後ろめたさがはっきり表れている。

FTのハーディングさんは、かつて日本は政官がつながっている特殊な国との評価があったが「1990年代
からのルール改正などでじわじわと環境は良くなり、日本特殊論はなくなりつつあった。それなのに、公
文書改ざんを財務省がやったとなると、やっぱりまだ日本と付き合うのは難しい、独特のルールがあると
思わざるを得ないと思う」と述べています。

つまり、日本とはまだまだ通常のお付き合いができない特殊な国だ、との認識です。

前出のプロンコさんも「他の省庁でなく財務省が改ざんしたという衝撃が大きい。効率や管理、規律の高
さ、良きロボットのような正確さが日本政府のイメージだったが、その中心とも言える財務省があれほど
恥ずかしいことをしたとなると、『あれ、大丈夫?』となる。この先、信用できるのかと」。

やはり、日本という国は、その中枢の部分で改ざんという犯罪的なことをやって、本当に信用できるのか
な、と疑問を表明しています。

つぎに、タイムズ紙のパリー氏の的を射たコメントを紹介しよう。彼によれば、今回の問題は首相の妻が
土地取引に関与したかどうかという「小さな問題」なのに、ただそんな「比較的小さな問題」のために財
務官僚がこれほど必死に改ざんに手を染めたとなれば、昨年発覚した南スーダン派遣の自衛隊の日報隠蔽
(いんぺい)問題に見られるように、安全保障問題などでより深刻な情報を隠すだけでなく、都合のいい
ように変える可能性がゼロとは言えないだろう」と懸念を表明しています。

日本の政治全体が海外の信用を失いつつありことを、首相も官邸も官僚も、本当に真剣に考え直す必要が
あります。

二つ目の記事は、レジス・アルノー『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員の単独
記事です(注3)

アルノー氏は、まず日本のこの問題について欧米のメディアはほとんど関心を指名していないことを挙げ
ています(昨年、取り上げた記事は『ニューヨークタイムズ』は2本、『ワシントンポスト』は1本だけ
だった)。

アルノー氏によれば、海外でこの事件に無関心な理由の一つは、日本の政治家のほとんどが50歳以上の男
性で、英語が話せないうえ、外国の要人ともつながりが薄いため、国際的なレーダーにひっかかることが
ほとんどない、という事情がある。

「政治家たちのもめごとの多くが個人的なものであり、知的なものではない。外から見ると、日本の国会
はまるで老人ホームのようだ。そこにいる老人たちが時折けんかをするところも似ている」と辛らつです。

    こうした中、数少ない報道が日本についてのぶざまなイメージを与えている政府は、対外的には、
    日本では「法の支配」が貫徹していると説明し、これを誇ってきたが、森友スキャンダルは日本
    の官僚が文書を改ざんする根性を持っているというだけでなく、(これまでのところ)処罰から
    も逃れられる、ということを示しているのだ。

平たく言えば、日本という国では「法の支配」が実現していない、民主主義の基本がいまだに根を下ろし
ていない国、と海外では受け取られている、ということです。

最後にアルノー氏は、スキャンダルそのものよりも悪い、本当の闇は以下の点だ、と述べています。それ
は、こういった行為が処罰されなければ、もはや政府を信頼することなどできなくなるからです。
    
    もしフランスで官僚が森友問題と同じ手口で公文書を改ざんしたとしたら、公務員から解雇され、
    刑務所に送られるだろう。処罰は迅速かつ容赦ないものとなることは間違いない。

と、フランスの上級外交官は話したそうです。

また、
    改ざんにかかわった官僚の自殺、といった由々しき事態が起これば、その時点で国を率いている
    政権が崩壊することは避けられない。しかし、どちらも日本ではこれまでに起こっていない。麻
    生太郎財務相と安倍首相は、このまま権力を維持すると明言している。(中略)
    しかし、スキャンダルそのものより悪いのは、政府と官僚がスキャンダルを隠蔽しようとしたこ
    とだ。だがその隠蔽よりさらに悪いのは、隠蔽に対する国民の反応だ。ほかの国々から見ると、
    森友問題によって日本社会がどれほど政治に無関心になったかが示されたことになる。

アルノー氏は政府の府政に対する国民の反応に関して日本と韓国を比較しています。

韓国では朴大統領の不正に対する抗議として100万人をこす一般市民が、マイナス14度という厳寒の
なかで座り込みのデモを行い、ついに大統領を辞任に追い込みました。

そして裁判所も、朴元大統領を厳正に裁く姿勢を貫いています。

アルノー氏の指摘を待つまでもなく、もし、今回、公文書の改ざんに直接かかわった官僚、彼らに指示し
たり改ざんに圧力をかけた政治家や官僚が罰せられないとしたら、日本の統治機構は崩壊してしまったと、
言わざるを得ないでしょう。

そして、安倍政権が、数の力で何とか事態を抑え込んだとしすれば、安倍政権だけでなく日本という社会
全体が国際的な信用を失うことになります。

財務省だけでなく、安倍政権の働き方改革にそうように、残業時間1日45時間などと言う数字を平気で
出した厚生労働省、防衛省の日報隠しにしても、今や、行政全体が溶けだしてしまったような印象を持ち
ます。

本当に、日本は大丈夫なのでしょうか?

(注1)『朝日新聞 デジタル』(2018年3月18日05時00分)
 https://digital.asahi.com/articles/DA3S13408211.html?rm=150
(注2)毎日新聞2018年3月19日 東京夕刊
https://mainichi.jp/articles/20180319/dde/012/040/006000c?fm=mnm
(注3)『東洋経済 ONINE』レジス・アルノー : 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員(2018年03月23日)http://toyokeizai.net/articles/-/213722?




  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「森友問題」とは何なのか?―エリート官僚の哀しさ―

2018-03-18 16:25:59 | 政治
「森友問題」とは何なのか?―エリート官僚の哀しさ―

そろそろ世間の話題から消えてしまいそうになっていた、いわゆる「森友問題」が、今年に入って、
にわかに火を吹き始めました。

全ては、昨年2月17日の衆議院予算員会で、安倍首相が「私や妻が関係していたということになれ
ば、これはもうまさに総理大臣も国会議員も辞めるということははっきり申し上げておきたい」、と
いう言葉から始まりました。

この時から、政府と官僚との間で、前代未聞の、決裁文書の改ざんが始まったのです。

確認しておくと、決裁文書とは、各官庁が何らかの決定をした際に、その経緯や内容を記した公文書で、
そこには決裁に関係した官庁の役職者が内容を確認して確認印を押したものです。

これは、ある決定がなぜなされたのかを、後から歴史的な検証できるようにするために作成されるもの
で、もしろん、これは国民の知的共有財産であり、民主主義の根幹です。

もし、こうした決済文書を隠したり改ざんされるなら、国民には本当のことが知らされることなく、権
力を持つ者は何でもできてしまうのです。

森友学園に関連して、今年に入ってさまざまなことが、明るみに出てきました。

そのきっかけは、『朝日新聞』が今年の3月2日に、森友関連の公文書(決裁文書)が書き変えられた
疑いがある、と報じたことです。

政府は、もう森友問題は乗り切ったと思っていた矢先に重大な問題が勃発したのです。

その後の経緯は、メディアで繰り返して報じられているので、ここでくわしく説明するまでもありません
が、要点だけを整理しておきます。

① 佐川宣寿元財務省理財局長は国会答弁で、森友学園との土地取引に関する文書は、事案が終了したの
で全て破棄した、と何度も証言した。

② ところが、実際には、その時の決裁文書が存在していたことが後に判明し、財務省理財局も認めて、
決裁文書を国会に提出した。

③ しかし、この決裁文書は改ざんされたもので、それとは別の決裁文書(改ざんまえの文書)が存在す
ることも明かとなった。

④ 新たに明るみに出た決裁文書と国会に提出されたものと比較すると、国会に提出された方の文書から
は、政治家(安倍首相、麻生財務大臣、ほか政治家4~5名)、安倍昭惠夫人の名前、値段交渉の経緯な
ど、この契約が「特例的である」ことの記載などが大幅に削除されていることが判明。

⑤ 全14の文書、70ぺ―ジに300か所に近い改ざんが行われていた。

⑥ 現在まで、所管の大臣である麻生財務大臣は、森友関係の決裁文書書き変えは、財務省理財局の一部
の職員が勝手に行い、その責任は佐川元局長にあると繰り返し述べています。

さて、以上の中には多くの矛盾と虚偽が含まれています。

まず、①について、佐川氏は、事案が終了したから関連文書を廃棄した、と言っていますが、もし本当だ
としたら、これは明らかに問題です。なぜなら、この土地取引は売り払い前提の10年の借地契約です。
そして、1億円あまりの土地代金も10年の分割払い、という特例中の特例です。いずれにしても、10
年間はまだ取引は完結していないのです。

もし、何らかの問題が起こった場合、国の財産を管理する理財局は、契約条件の証拠として文書は残さな
ければなりません。

②改ざんした文書を国会に提出したことは、国権の最高機関であり国民によって選挙で選ばれた国民の代
表が構成する国会(したがって国民)を欺いたことになります。公文書を偽造した者は1年以上10年未
満の刑事罰に該当します。

付け加えると、財務省は、国会だけでなく国土交通省にも大阪地検にも改ざん後の文書を提出しています。

③決裁文書とは、最終決定の文書であり、一つの案件については「最終」文書はひとつしかないはずですが
全く同じ日付で同じ人物が承認印を押した文書が二通あるという事自体、絶対にあり得ないし、あってはな
らないことです。

④と⑤ 政治家や昭惠夫人の名前だけでなく、財務局とのやり取りなども削除されていたことは、これらの
事実が明るみに出ると政権にとってまずいからでしょう。

むしろ、これらの名前を消してつじつまを合わせるために文書全体の大幅な削除と書き変えが必要となった
としか考えられません。

⑥に関して、もし、国の行政に関わる決裁文書が、一部の職員によってどうにでも書き換えられたとすると、
それは民主主義の根幹を揺るがす大事件である、という認識が麻生氏の頭には全くありません。

とにかく麻生には、佐川氏個人に全ての責任を押しつけることしか頭にないようです。

官僚が、自分の判断で文書を改ざんすることはあり得ません。佐川氏は、決裁文書の改ざんが重大な罪にな
ることを十分知っていながら、それでも、なぜ、あのような虚偽発言をしなければならならなかったのか。
ここが問題の本質です。

つまり、自らを危険にさらしてもウソを言わなければならないほどの大きな力が働いていた、ということし
か考えられません。

これに関して自民党の村上衆議院議員は、防衛省(稲田防衛相当時)のPKO日報隠蔽問題、加計学園問題
の加計氏、今回の籠池氏をめぐる森友問題、これら全ては安倍氏のお友達関係、安倍さんから発している、
と、テレビカメラの前で率直に発言しています。

ところで、最近、二つの重要な事実が明らかになりました。

一つは、森友学園の小学校建設の工事を請け負った土木会社が大阪地検に、土地の地下から出てきたゴミの
量に関して、財務省理財局の方から虚偽の報告を書くよう要請され、そのように書類を作ったと証言してい
たことです。

つまり、8億円以上の値引きの根拠となる地中のゴミは、地下9メートルどころか3.8メートルでさえ確
認していなかったことが明らかになったのです。この部分はすっぽりと削除されています。

二つは、財務省がこれまで「本省には残っていない」と言い張っていた森友関連の決裁文書の改ざん前の原本
が本省の電子決裁システムに保存されていたことが分かったことです。

このシステムは中央省庁が採用している文書管理システムで、参議院財政金融委員会の委員の1人が先週、
この中に書き換えの記録が残っているのでは?」と質問すると、現太田充理財局長は
     
    文書を一元的に管理するシステムで、書き換えを行うと、書き換え後の文書とともに書き換え前の
    文書も保存される。更新履歴をたどれば確認できる。調査の過程でこのことを知った

と曝露してしまいました(注1)。

このような重要なことを佐川氏のようなエリート官僚が知らないわけはありません。

こうしてみてくると、一つの核心的な事実を隠そうとすると、次々と他の部分もつじつま合わせのために改
ざんが必要となることが分ります。

しかし、こうしてボロボロといろんな事実が明るみになっているということは、隠そうとしてもすべてを隠
すことはできない、という実態も明らかになりました。

佐川氏は国会で証人喚問に呼ばれるようですが、辞任と退職に追いやられてもなお、やはり死ぬまで本当の
ことを言わないでしょう。

佐川氏だけでなく、野党のヒヤリングに出席している財務省の富山一成氏も、佐川氏と同様、鉄面皮の顔で、
苦しい言い訳を言い続けていますが、内心ではどんな気持ちでいるのでしょうか?

東大を出て誇り高い財務省のキャリア官僚となった人物が、カメラの前で苦しい言い訳をしている姿をみて
いると、プライドも権威も失われ、哀れをもようします。

彼らは心の中で、自分は日本を背負って仕事をするために官僚になったのに、なぜ、こんなことのために自
分のようなエリートが恥をかかされなければならないのか、と思っているのではないでしょうか?

(注1)『日刊ゲンダイ デジタル』(2018年3月18日) https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/225274


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鳩山由紀夫著『脱 大日本主義』―日本はアメリカの「保護国」?―

2017-12-10 10:33:25 | 政治
鳩山由紀夫著『脱 大日本主義』への道(1)―日本はアメリカの「保護国」?―

今回は、鳩山由紀夫著『脱 大日本主義―「成熟時代」の国のかたち』(2017年6月 平凡社新書 846、221+15ページ)
を紹介しつつ、これからの日本がどのような国家像を描くべきかを考えます。

本書は、新書という形をとってはいますが、記述は非常に緻密で論理的にも現実的にも説得力があり、内容の濃い一書となっています。

このため、要点を整理・紹介するだけでも多くの文章を必要とします。

さて、鳩山由紀夫氏(以下、たんに「鳩山」と略記する)は1947年2月11日 東京生まれ。今年満70才。祖父鳩山一郎は首相にもな
った政治家、父の威一朗は大蔵官僚から参議院議員となった政治家、母安子は、(株)ブリジストンの創業者石橋正二の娘という、名実
ともにエリート家系出身です。

由紀夫自身は、政治家を目指す人たちが法学部や経済学部ではなく、東京大学の理工学部出身でスタンフォード大学に留学し工学博士号
を取得しています。

政治家としての経歴は、1986年に初めて自民党から立候補(父の地盤の北海道)し当選。1993年には新党さきがけに加わるも、1996年に
離党し民主党を立ち上げました。

2009年の総選挙で民主党が圧勝し内閣総理大臣となりましたが、翌2010年に辞任。2012年には政界を引退しました。

2013年、財団法人東アジア共同体研究所を設立し、理事長に就任し、2016年にはアジアインフラ投資銀行(AIID)国際諮問委員会委員に
就任しました。

由紀夫という人物は、近年の日本の政治家の中でも、他に類をみないユニークな存在でした。私人となった今日でも、時として周囲の人
からみると、唐突で常識を超えた言動をして周囲を驚かせ、「宇宙人」と呼ばれることもあります。

日本政府がアメリカに気を使って参加を見合わせているAIIDの諮問委員になったり、政府の中止要請を振り切ってロシアン併合されたク
リミアを訪問するなど、「宇宙人」の面目躍如です。

さて、今回、を取り上げたのは、ますます混迷する日本の政治経済状況にたいして、私たちはどんな国家像を描いたら良いかを考える上
で、本書は非常に示唆に富む指摘と提言をしており、私自身も多くの点で同感できたからです。

本書の全体をとおして鳩山氏が言いたかったことは、「大日本主義」(大国主義)を捨てて、リージョナリズムを基盤とした「中日本主
義」を貫くべきだ、という提言です。

言い換えるとそれは、「脱 大日本主義」「中規模国家」「成熟国家」への転換のススメです。

ここで「リージョナリズム」(文字通りの意味は「地域主義」)とは、具体的には東アジア(日本、中国、韓国、台湾、ASEAN)という
地域をベースにした地域経済統合を意味しています。

以上に示した鳩山氏の問題意識を念頭において、本の内容をもう少し具体的にみてみよう。

第一章のタイトルは「大日本主義の幻想―グローバリズムと日本政治―」です。その冒頭で由紀夫は、自らの政治行動の羅針盤としてい
るのは、祖父一郎が政治思想として行き着いた、フランス革命のスローガン「自由、平等、友愛(博愛)」の中の友愛である、と述べて
います。

由紀夫は、冷戦後の世界と日本で起こっている政治状況を、ナショナリズムとポピュリズムの「異常」な拡張期であると認識しています。

アメリカは、市場原理主義と新自由主義を普遍的経済原則として世界に広げようという政治経済的潮流、つまり「グローバリズム」を推
し進めてきた。

それは結果として、国民国家を基盤とする諸国の国民経済的伝統を破壊し、社会的格差を著しく増大させた。

アメリカにおいては貧富の格差が拡大し貧困が広まり、中間層の解体をもたらし、「1%の富裕層と99%の貧困層」との分裂を生じさせ、
国家の政治的統合を危険にさらしました。

この社会的分断は、一方でサンダースのように平等や社会主義的政策を支持する動きを増大させ、他方で、こうした状況で統合をもたらす
手段として、過激なナショナリズムに支配されたポピュリズムが時代の前面にでてきました。いうまでもなく、トランプ氏のような政界の
異端児を大統領にまで押し上げたのです。

日本でも預貯金や株などの資産を持っていない世帯の割合は、かつては数パーセントに過ぎませんでしたが、現在は30%を超えています。

こうして、日本も、欧米と同じようにグローバリズムを温床とするナショナリズムに異常拡張期でも同様の現象が起こりました。

鳩山氏は、グローバリズムへの対抗理念として「友愛」を掲げます。これは言い換えれば「自立と共生」の思想だという。

しかし、現在の日本に「自立と共生」が失われている。

それは、一方でアメリカ発のグローバリズムを積極的に取り入れ、他方で覇権国家であるアメリカと軍事・外交面での協力を強化し、その
力を借りて日本の影響力を増大させ、日本を大国にしようとしている。これこそ、鳩山氏が「大日本主義」と呼ぶ現代日本の保守勢力、特
に安倍政権の姿勢です。

ただ、アメリカの民主党政権のブレーンを務めたブレジンスキーは自著で日本を「保護国」(プロテクトレイト)と呼んで憚りません(30
ページ)。

日本が「協力」と呼ぶ対米関係をアメリカ側は「従属」とみていることがわかります。この認識は、現状をみると、彼だけの個人的な見解
とは思えません。

「保護国」とは国際政治においては「従属国」または「半植民地」に近い位置づけです。

「協力」の具体的な姿は日米安保条約ですが、これは仮想敵国に対応するための軍事同盟ですが、その仮想敵国は、盟主であるアメリカに
よって、その時々に決められます。

鳩山は、「どこの国を敵とするかを自分で決められない国は独陸国家ではなく従属国家、保護国ということになります」と規定しています。

民主党が勝利した総選挙に際し鳩山内閣ができるのですが、その時掲げた公約は「自立した外交で世界に貢献する」「緊密で対等な日米関
係を築く」「東アジア共同体の構築を目指し、アジア外交を強化する」でした。

これは親米派の政治家や官僚、とりわけアメリカは、鳩山内閣は反米的政権とみて露骨に妨害してきた、と書いています。

そして、鳩山自身の言葉を借りると、「独立国家とは思えないような官僚たちの対米位負けの習性」により鳩山内閣の倒閣運動が始まり、
さまざまな手段を使って鳩山首相を自任に追い込んでいったと述べています。

その結果、親米保守路線の行き着く先は、日本の国家としての自立の喪失ということです」という(36ページ)、実に陰鬱な結論です。

ただ、アメリカの中国封じ込め政策に加担した日本は、2度、挫折を味あわされています。一つは、TPPという経済連携を装ったシステムが、
ほかならぬアメリカのトランプ大統領によって破棄されたことです。

二つは、TPPに対抗して中国が主導して立ち上げたAIIB(アジアインフラ投資銀行)に、アメリカは当然不参加で日本もアメリカに追随して
不参加を決めていますが、まさか賛成するとは思わなかった、アメリカを除く他のG8のメンバー国が続々と参加をしていったことです。

続く第二章は「自立と共生への道―対米従属からの脱出」です。二章以降については次回から紹介してゆきます。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

トランプ大統領の訪日(2)―ジャイアンとスネオ?-

2017-11-19 06:46:41 | 政治
トランプ大統領の訪日(2)―ジャイアンとスネオ?―


前回に引き続いて、まず、コラムニスト小田嶋隆氏の批評を参考に、トランプ大統領の訪日の意味について考えてみます。

それは一言でいうと、日米関係における、露骨な主従関係が明らかになた、ということです(注1)。

日本での公式日程を終えたトランプ大統領は、帰り際に、
    私の訪日がもたらした安倍総理との親密な関係は、わたしたちの偉大な国に多大な利益をもたらすだろう。軍事、
    エネルギー関連について、巨大な受注が発生している」
というツイートを発信しています(注2)。

もしこれが、アメリカに帰国した後の発信であったとしたら、訪日の成果としてのアピールとみれば、分からないわけで
はありません。

しかし、このツイートは、日本滞在中に発信されたもので、安倍首相から、アメリカという偉大な国に、大きな利益を引
き出した、と吹聴しています。

これでは、いかにも安倍首相はカネをむしり取られただけ、と言っているに等しいし、馬鹿にした印象を与えます。

コラムニストの小田嶋隆氏は、「どうしてこの人は、あえて他人の神経にさわるようなものの言い方をするのだろうか?」
と問いかけ、 その回答に近い記事を発見した、と書いています。

「日本のリーダー、安倍晋三氏は、トランプの忠実な相方の役割を演じている」(Japanese leader Shinzo Abe plays the
role of Trump’s loyal sidekick) と題された『ワシントン・ポスト』紙の記事を引用しています。

ここで小田嶋氏が問題にしているのは、トランプ氏からみて安倍首相は「sidekick」という露骨に軽蔑的な言葉です。

”sidekick” には 《口語》として、通常、仲間 (companion); 親友 (close friend); 相棒, 同類 (partner, confe-
derate)という訳語が当てらており、必ずしも「下僕」(servant)、あるいは「下っ端」(follower)という意味ではあり
ません。

しかし、”role of royal sidekick”という言い方からして、「忠実な仲間」「忠良な相棒」ぐらいのことにはなるわけで、
ニュアンスとしては、やはり「子分」に近くなります。

いずれにしても、小田嶋氏が言うように、新聞が一国の首相を評するにあたってヘッドラインに持ってくる言葉としては、
十分に軽んじた言い方だと思う。

この『ワシントン・ポスト』の記事の中で、トランプ氏の言葉としてこんなエピソードが紹介されています。
    「日本は発展し、日本の都市は活力に満ち、世界でも有数のパワフルな経済をつくりあげている」と言った。ここ
    でトランプは、読み上げていた原稿から目を離して、アベの方を見ると、
    「でも、我々ほどうまくいっているだろうか。私はそうは思わない。“そうだろう 分かってるね”(“okay”)?」
    と、強権を持つ親が子共に言い含めるかのように ”そうだろ 分かってるね“ を強調して言った。
    「われわれはそれを維持して続けていく」、ついでにいえば「君たちは二番手だ」と付け加えた。
    翻訳者に内容を伝えられたアベは、黙って微笑んでいた(注3)。

安倍首相は、内心、苦々しくみじめな言葉として受け取ったか(私としては、せめて、それくらいの自負心をもっていて欲
しいのですが)、あるいは、何も感じなかったのか、そこは分かりません。

このやり取りを、小田嶋氏はアメリカのテレビドラマに出てくるクラスのいじめっ子そのものの態度に見える」と表現して
いますが、私の目には、「どらえもん」に登場するガキ大将のジャイアンと、馬鹿にされ、いじめられながらも、強いジャ
イアンに着き従わざるを得ないスネオとの主従関係のように映ります。

そして、安倍首相は、ジャイアンの威光を借りて、周囲に威張って見せるスネオの姿もほうふつとさせます。

さらに小田嶋氏が危惧しているのは、「深刻なのは、トランプ大統領がこのように振る舞い、安倍首相がそれをこんなふう
に受けとめていることが、世界中に伝えられていることだ」という点です。

今回のトランプ訪日について、『東京新聞』(11月16日)の「こちら報道部」は、「欧米は冷ややか」「『大成功』のシン
ゾー・ドランルド外交」、「日本のメディアはヨイショばかり」と、否定的な評価をしています。

具体的には、欧米メディアは、共通の趣味のゴルフ場でのハプニングだけに着目していたことしてきしています。

アメリカNBCテレビは、安倍首相がバンカーで転倒した時の動画を公開し、またイギリスBBC放送も「安倍首相がバン
カーに落ちている時、トランプ氏はゴルフを続けた」と題して同様の動画を流しました。

『ワシントン・ポスト』は「ゴルフコースで安倍首相は転んだ。そしてトランプ氏は気づいてさえいなかった」とやゆして
います。

この映像は、安倍首相が一回転して背中からバンカーに転げ落ちたところをテレビ東京が上空から撮影したもので、同放送
局はニュースで扱いましたが、日本の他のテレビ局では取り上げていません。やはり、このみじめな光景を忖度して扱わな
かったのでしょうか。

この光景は、偶然とはいえ、はからずも安倍首相とトランプ氏の本当の関係を伝えているようです(『日刊ゲンダイ 2017
年11月18日』)。

また、『ニューズウィーク日本語版』は、アメリカでトランプ氏の訪日に関して取りあげられたのは、トランプ氏の鯉の餌
やりだけだったが、それだけ、他に伝えるべき内容がなかった、ということだ、と論評しています(注3)。

元レバノン大使で外交評論家の天木直人氏は、首脳会談の成果について、「結局、武器を買わされたといことだけでしょう。
個人的関係を重視するあまり、国としての外交をしなかった。その大きな外交的失策を日本のメディアは分析していない」
と日本のメディアを批判しています。(『東京新聞』11月6日 同上)

トランプ大統領は、日本が北朝鮮のミサイルを上空で迎撃できるようになるとして、米国製の武器調達を増やすことも要請
しました。

安倍首相は、「日本は防衛力を質的に、量的に拡充しなければなららない」と発言。F35Aや新型迎撃ミサイルのSM3
ブロック2Aなどを米国から導入することを指摘した上で、「イージス艦の量、質を拡充していくうえで、米国からさらに
購入していくことになるのだろう」とも述べました。

また、日本が北朝鮮の弾道ミサイルを打ち落とすことについては、「必要あるものについては迎撃をしていく」と説明した。
日本は自国の領域に落下してくる恐れのある弾道ミサイルや、同盟国の米国など親密な他国に向かって飛ぶミサイルに限っ
て迎撃することができる、とも述べています(注5)。

しかし、米国と日本の連絡担当を務めた軍事専門家のランス・ガトリング氏は9日の講演で、トランプ氏は「(米国からの)
軍事兵器購入が完了すれば、安倍首相は北朝鮮のミサイルを撃ち落とせる」と胸を張っていましたが、北朝鮮の大陸弾道弾
ミサイルを日本は迎撃できるのかと問われたら、答えは“ノー”です、と発言しています。

    (迎撃するには)どこからどこへ発射されるか「正確」に捕捉しなければならない。しかも、北朝鮮が日本の上空
    に向けてミサイルを飛ばすときは、ほぼ真上に発射するロフテッド軌道になる。
    この場合、高高度を飛翔して落下スピードが速いため、通常軌道よりも迎撃が難しい。迎撃にセカンドチャンスは
    ありません。当然ながら、推測ではのうにもできないのです(『日刊ゲンダイ』2017年11月11日)。

どうやら、トランプ氏の訪日で日本は、北朝鮮危機をネタに高い買い物をさせられただけの結果に終わったようです。これ
が、国際社会の一般的な評価でしょう。

(注1)『日経ビジネス ONLINE』2017年11月10日(金)
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/110900118/?n_cid=nbpnbo_mlpum
(注2)https://twitter.com/realDonaldTrump/status/927645648685551616
    原文は My visit to Japan and friendship with PM Abe will yield many benefits, for our great Country. Massive military & energy orders happening.
(注3)『ニューズウィーク 日本語版』(2017年11月8日)
http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2017/11/post-953.php
(注4)Washingtong Post (2017/11/6)
https://www.washingtonpost.com/politics/japanese-leader-shinzo-abe-plays-the-role-of-trumps-loyal-sidekick/2017/11/06/cc23dcae-c2f1-11e7-afe9-4f60b5a6c4a0_story.html?utm_term=.8b6e2035b2a7
(注5)Reuters(ロイター) (2017年11月6日 / 15:46)
 https://jp.reuters.com/article/abe-trump-presser-idJPKBN1D60IW




  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

トランプ大統領の訪日―無神経と傲慢の不快―

2017-11-12 20:05:28 | 政治
トランプ大統領の訪日(1)―無神経と傲慢の不快―

2017年11月5~7日、アメリカ大統領トランプが訪日しましたが、私は個人的には非常に不快な思いを抱いていました。
これに関して、コラムニストの小田嶋隆氏は誠に的を射た批評をしています。彼の議論に沿って、トランプ訪日の意味を
考えてみます。

まず、最初の不快は、トランプが横田基地に舞い降りたことです。ここは入国手続きなしに自由に出入りできる、実態と
しては“アメリカの領地”と同等の場所です。しかも、トランプを乗せた飛行機は、ゴルフ場への移動も含めて、米軍が
管制権をもつ「横田エリア」だけを飛行したのです。

元外務省官吏だった孫崎享氏は、米国民の多くはこの光景を見て「ああ、日本はいまだに米国の占領下が継続しているの
だ」と思っただろう、とコメントしていますが(『日刊ゲンダイ』(2017年11月11日)同感です。

従来の大統領の訪日には通常の国際空港経由で入国しているので、トランプの横田入りはやはり異例であり非礼です。
外交の基本は、相手の国民感情を察してうまく付き合うことですが、トランプは、自分が横田基地に直接降りることが、
日本国民にどのような感情をもたらすかを分かった上て、敢て横田に降りたのです。

トランプには、これ見よがしに日米の主従関係を見せつける意図があったものと思われてもしかたありません。

次の不快感は、トランプ訪日に関して、日本のテレビ局はトランプの動きを、ゴルフ場での行動や食べた料理のことな
ども含めて、どうでもよいことを逐一映像を流し続けたことです。とりわけ、NHKは極端で、ほとんど垂れ流し的に映
像を流していました。

ところが、北朝鮮問題に関して日米でどこまで話しが進んだのか、という最も肝心な点に関しては、ほとんど取り上げ
てきませんでした。

NHKには、このようなトランプとの話し合いの中身ではなく「行動」だけを垂れ流す、忖度が働いたのか、何らかの圧
力があったのか、と勘ぐりたくなります。いずれにしても、このNHKの姿勢は、とても無神経に思いました。

トランプ大統領は、来日に先立ってハワイに立ち寄り、真珠湾を訪れています。その夜、以下のようなツイートを書い
ています(注2)。
    リメンバー・パールハーバー、リメンバー・戦艦アリゾナ
    今日は私にとって忘れられない一日になるだろう!(小田嶋氏の訳)

言うまでもなく「リメンバー・パールハーバー」「真珠湾(での日本の卑怯な奇襲攻撃)を忘れるな」は、アメリカと
日本が敵国であった時代の言葉で、もっぱら対日戦への戦意高揚のために使われていたスローガンです。

何かの間違いでないとすると、日本を訪問する前日に、あえて、この挑発的なフレーズをぶつけてきたことになります。

この言葉は、パールハーバーで戦った勇気あるアメリカ兵士の貢献を忘れずにいたい、といったぐらいの意味をこめた
軽口に過ぎないのかも知れませんが、敢て訪日に先立って発したのはやはり無神経で非礼です。

トランプも、パールハーバーのことを持ち出すことが、日本人の感情を逆なですることぐらいは分かっているはずです
が、安倍首相や政府から抗議がくることはあり得ない(実際、安倍首相も外務省も何の抗議もできませんでした)と確
信していたのでしょう。

さて、いよいよ横田基地への到着ですが、大統領が来日して最初に顔を合わせたのは、日本の外交官でもなければ政治
家でもなく、自国の軍人で、第一声もその米軍兵士たちに向けたスピーチでした。

少なくとも、トランプは大統領として日本との外交に来たにもかかわらず第一声がこのようなスピーチであった。これ
も異例で非礼だと思います。

その演説の中でトランプ大統領は、自分がアジア歴訪に際して最初に降り立つ場所として、この基地よりふさわしい場
所はほかに無いという意味のことを言っています(注3)。
 
そして、この時の演説でトランプは、
    われわれは空を、海を、そして陸地と宇宙空間を支配している。誰も――どんな独裁者も、どのような統治体
    制も国家も――アメリカの決意を見くびることはできない。かつて、われわれを軽く見た者たちは、不愉快な
    目に遭っている。そうじゃないか?(注4)

小田嶋氏も言うように、この言葉は、自国の基地の中で、自軍の兵士たちを前に(聴衆には自衛官も含まれていたが)
話したわけで、その限りにおいては、兵士に対するエール以上の言葉ではないかもしれません。

しかし、これが日本という独立国の国土の上で発せられた言葉として聞くと、かなり神経をさかなでする内容を含んで
でいます。

トランプが、「われわれは、空を、海を、陸を、宇宙を支配(dominateという単語を使っている)している」というこ
の言葉を、米軍の兵士に向けて呼びかけることは、「米軍が日本を支配している」というニュアンスを生じさせかねま
せん。

彼は、陸地を「the land」と言っており「日本」とは言っていませんが、陸は定冠詞の着いた「土地」ですから。その
意味では、日本を名指ししたと言い切ることはできませんが、それにしても無神経な表現ではあります。

しかも、続いて、「かつてわれわれを軽く見た(underestimated)者たちは、不愉快な目に遭っている。そうじゃない
か?」とも言っています。

この言葉を、先の「the land」と考え合わせて考えると、文脈によっては、「日本」そのものを指しているように聞こ
えます。

つまり、かつてアメリカを軽く見て、太平洋戦争を仕掛けた日本は、敗戦し、みじめな境遇に遭っているではないか、
という風に。

小田嶋氏は、トランプのツイッターのつぶやきは、「単なる無知や無神経の発露ではなく、もう少し深刻な「意地悪」
に近い何かである可能性」があると書いています。とても適切な比喩をしているので、紹介しておきます。

    パワハラ上司によくある振る舞い方として、人のいやがる言葉や仕草をあえて小出しにして相手の顔色を観察
    するパターンがある。
    「イノウエ君はアレだろ、ほら、アタマの地肌が露出してるから、直射日光は苦手だよな?」。
    「……あ、いや、なんと言いますか……部長もお人がお悪い」
    「はははははは。気にしてるのかやっぱり。あ?」

などと言いつつ、部長は、イノウエがどこまでナブれば怒り出すのかの限界を観察しているのです。

つまり、この種の人間は、無邪気なふうを裝いつつ神経にさわる言動を繰り返すことで、人々の反応を見ている、とい
うのだ。

とりわけ、何でも言うことを聞く安倍首相に対する態度をみていると、今回の訪日では、トランプ大統領の言動の端々
に、その意識的な尊大さがあらわれていたように思います。

これが、単なる考えすぎであれば幸いですが、どうやらそうばかりではなく、つい、心の奥底にある、安倍首相と日本
をかなり見下した言動が見られます。

そもそもトランプ大統領が、「トランプタワーではじめて安倍晋三総理と握手をした時の、握手の仕方(相手の手を思
い切り強く握りつつ自分の側に引き寄せる「トランプ式握手」と呼ばれる独特の進退運用)に、すでにすっかり現れて
いたところのもので、要するに彼は、他人の忠誠度を常に観察せずにはおれないタイプのリーダーだ」、ということで
す。

この態度は他にも露骨に表れますが、それは次回に書くことにします。



(注1)『日経ビジネス ONLINE』2017年11月10日(金)
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/110900118/?n_cid=nbpnbo_mlpum
(注2)https://twitter.com/realDonaldTrump/status/926707692395102219
(注3)『朝日新聞 デジタル版』(2017年11月5日14時05分)
http://www.asahi.com/articles/ASKC54GDBKC5UHBI00V.html
(注4)この部分の原文は、
    “We dominate the sky, we dominate the sea, we dominate the land and space,” Trump said. “No one
      -- no dictator, no regime and no nation -- should underestimate ever American resolve. Every once
      in a while in the past they underestimated us. It was not pleasant for them, was it.”(注1)の資
      料より。小田嶋氏はどこかの誰かの発言を引用したと思われますが、その引用先が示されていないので、私は
直接は見ていません。
--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
熟した柿の実が木いっぱいについていて、秋の深まりを感じさせます。                すぐ近くにはサザンカの花が満開です。昔なら”たき火”のころに咲く花です。

  



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2017年総選挙―「保守」対「リベラル」の闘いの本質は?―

2017-11-05 08:09:39 | 政治
2017年衆院選(3)―「保守」対「リベラル」の闘いの本質は?―

今回の衆院選を通じてしばしば「保守」と「リベラル」という二つの政治的立場が対抗軸として取りざたされました。

小池氏は希望の党の性格を、「改革保守」あるいは「寛容な保守」と規定しているように、「保守」であることを明確にしています。

これに対して、枝野氏は立憲民主党を「リベラル」と位置付けています。

「リベラル」という言葉は、ヨーロッパで生まれ、当初は資本主義経済における「自由放任主義」など、国家の干渉をできるだけ排し
て自由な経済活動を重視する考え方でした。

しかし、一橋大学の中北浩爾教授(政治学)によると、日本における「リベラル」とは現行憲法の価値と精神を肯定的にとらえる考え
方であると言います。つまり、まずは国家ではなく平和主義、基本的人権の尊重、国民主権ということになります。

一方、「保守(主義)」の辞書的な意味は、「現状維持を目的として伝統、歴史、慣習、社会組織を固守する考え方」となっています。

自民党は保守政党を名乗っていますが、安倍首相は「現状維持」よりもむしろ、「戦後レジーム」を変えて、戦前の日本に戻そうとし
ています。

自民党の「保守」は、社会主義・共産主義など左翼的な思想に対抗するイデオロギーとしての意味合いが強いようです。

また、民族的優越主義(その裏返しとして民族的・人種的排外主義)や戦前への回帰など復古主義というイデオロギーも含んでいます。

ただし、今回の選挙で争われた「保守対リベラル」という文脈では、「保守」には、敗戦後の日本が背負ってきた、アメリカとの関係
をどのように考えるか、という本質的な問題として横たわっています。

『永続敗戦論―戦後日本の核心―』(太田出版)を著わした京都精華大学講師(政治学)の白井聡氏は、今回の選挙との関連で、日本
における「保守」とは、日米従属関係を積極的に進める考え方であると規定しています(注1)。

白井氏によれば、「希望の党」をつくったのは、「民進党の主流派、対米従属派を全部吸収してリベラルの左派を切ることによって、
民進党を対米従属の党として純化すること、言ってみれば第二自民党として民進党を純化することの主眼だったのではないか」
、と
も指摘しています。(赤字部分は筆者)

したがって、もしこれがうまくいっていたら、ふたつの自民党のどちらがよりよくアメリカのご機嫌をとるかを競い合う、そういう
すさまじい状況になったかもしれない
(赤字部分は筆者)、とも言っています。

選挙の際に、立憲民主党の応援演説にもかけつけた漫画家の小林よしのり氏も、ほぼ白井氏と同じ見解を述べています。

小林氏によれば、安倍首相は主権を守り漸進的な改革を望むと言う意味の「保守」ではなく、単なる対米従属主義だ、と断じています。

さらに小林氏は、これに対して枝野氏に代表される立憲民主党の方向は、“自国の主権を守りながら、アメリカと、その範囲の中でちゃ
んと付き合おう、NOはNOと言おう、と言う意味の保守である”、と述べています。

この観点からみると、小池氏が率いる希望の党と、その前に立ちはだかった枝野氏との闘いは、日本の内政・外交の基軸を日米従属に置
く小池氏と、自国の主権を守ろうとする立憲民主党との、非常に重大な闘いであったと言えます。

『東京新聞』(2017年10月29日)のコラム(「週刊誌を読む」)は、“安倍政権の対抗勢力として登場した希望の党は、結局安倍政権と同
じ全体主義勢力で、「一時は選挙そのものが『全体主義VS全体主義』という地獄絵図に陥りかけた」という映画作家の相田和弘の文章を
引用し、”立憲民主党の躍進は、それにたいする反発の表れだったというわけだ“と結んでいます。

上に引用した白井氏の、アメリカのご機嫌取りを競い合う“すさまじい状況”といい、相田氏の「全体主義VS全体主義」という地獄絵図
といい、今回の希望の党の立ち上げは、日本にとって非常に重大な問題をはらんでいたと言えます。


安倍首相は、一方で徹底的な対米従属を貫きながら、「日本会議」の理念に象徴される強烈な国粋主義をも併せ持っています。

もし、枝野氏が立憲民主党を立ち上げなかったとしたら、希望の党に合流しなかった元民進党の議員や民進党系の新人は、選挙には不利
な無所属で立候補せざるを得なかったでしょう。

さらに、比例の投票先をどこにしたらよいか迷っていた有権者が相当数いたので、立憲民主党が立ち上がって、そのような人たちの投票
先ができた、という意味でも、立憲民主党の立ち上げは、今回の選挙において非常に大きな意味をもっていたわけです。

小池氏は、旧民進党の有力議員が希望の党から立候補してくれれば、彼らの比例票で、多くの議員が当選できることを、期待していまし
たが、彼らがそろって無所属で立候補してしまったので、そのことで非常に失望したようです。

この意味で、民進党の大部分を取り込んで、安保法(集団的自衛権)と改憲の容認・推進勢力の拡大を図った小池氏の狙いは頓挫したと
いえます。

希望の党の当選者の内訳をみると、結党メンバーが5人(11人中)、小池氏の友人などが3人(9人中)、元々希望の党から立候補した新
人が1人(政治塾出身者など98人中です!)、解散時に民進党現職が25人、民進党などの候補だった元職・新人は16人、計41人(117人
中)でした。

つまり、全体の8割が民進党系の議員なのです。本当の意味で、希望の党が新たに獲得したのは、小池氏の友人3人と、新人1人、計4
人だけです。

10月25日に開かれた希望の党の両院議員懇談会では、複数の民進系議員からは、「安保法は容認しない」「首相の九条改憲はだめだ」
と指摘し、党の立場の確認を求めました。

希望の党からお立候補に先だって、安保法を違憲としてきた民進党系議員に容認を迫る「政策協定書」を受け入れることを要請しました。
いわゆる「踏み絵」を踏ませました。

当初の協定書では、安保法と改憲を容認することがはっきり書かれていたようですが、民進党系の立候補者の立場を考慮して、「憲法に則
り」安保法を容認する、と表現をぼかした形になりました。

しかし、当選した議員からは、「憲法に則り」とあることから「集団的自衛権の行使を容認した違憲部分は認められない」と主張しました
(『東京新聞』2017年10月27日)。

いずれ、そう遠くない将来、安保法制と改憲について、希望の党は党としての立場を、そして構成メンバーの議員は一人一人の立場をはっ
きりさせなければならない時がきます。

TBSテレビ26日の午後の情報番組(「ひるおび」)に出演した、希望の党から比例で復活当選した柚木道義氏は、民進党時代には、先頭切っ
て安保法案に反対していましたが、必死で自分はいかに一貫しているかを熱弁していました。

彼は他の番組のインタビューでも、「政策協定書」では「憲法に則り」という条件が入ったので私は、同意して署名した、だから変節では
ないと述べていますが、これは苦しい言い訳です。

というのも、かつては、集団的自衛権は憲法違反であるから認められない、とこれに反対していたからです。自己弁護をすればするほど、
柚木氏に痛々しさを感じました。

ここで柚木氏を個人的に批判しているのではなく、彼の言葉がテレビなどで多く見られたからで、実際には、同じような苦しい弁明を心の
中で行っている、希望の党に合流した民進党系の議員は少なからずいると思われます。

ところで、メディアではあまり取り上げられませんが、今回の選挙で注目すべき変化がありました。一つは、自民党と連立を組み強固な組
織的選挙戦を闘う公明党が35議席から29議席へ、6議席減らしたことです。

山口代表は、今回は厳しい選挙戦だったが検討した、とコメントしています。もちろん本心ではないでしょう。

本来、平和と福祉を党是とする公明党が、与党に留まるためだけに自民党と組んで安保法や、特定秘密保護法、共謀罪などに賛成してきた
ことで、これまで支持してきた人たちを離れさせた、という事情も一部にはあったものと思われます。

二つは、維新の会が14議席から11議席に減らしたことです。結党時には50議席(奇しくも希望の党の当選者と同数)あったものが、
今回の選挙では11議席まで減ってしまったのです。

これらの政党の敗因が実際に、何であったかは、それぞれの党で分析するでしょうが、公明党も維新の会も、現状では改憲勢力です。

この減少は偶然ではなく、その背景には改憲と安保法に対する危機意識があったのではないでしょうか。

安倍首相は、一方で徹底的な対米従属を貫きながら、「日本会議」に象徴される強烈な国粋主義をも併せ持っています。「対米従属主的国
粋主義」という、根本的な矛盾をかかえつつ、現在は対米従属が全面にでているようです。


(注1)以下、中北、白井、小林氏のコメントは、『テレビ朝日』「鳥羽慎一モーニングショー」(2017年10月26日)の中で紹介されたも
のからの抜粋・引用です。

--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

11月3日 国会前で行われた「9条守れ」の集会 主催者発表で4万人が参加                   同じ11月3日 銀座の歩行者天国(4丁目交差点から新橋方面を臨む)
   






  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2017年衆院選(2)―小池戦略の成功と挫折―

2017-10-28 07:17:36 | 政治
2017年衆院選(2)―小池戦略の成功と挫折―

2017年の衆院選は、表面の現象だけをみると、自民284、公明29、立憲民主党55、希望の党50、
共産党12、維新11、社民2、無所属22、という結果に終わりました。

しかし、今回の選挙には、以下に述べるように、単なる当選議員の数以上に、日本の将来にとって非常に重
大な意味が含まれています。

自民党は当初、民進党と希望の党が、本当に1本化したら自民党はかなりの数を減らし、政権交代もあり得る、
あるいは、政権交代まではゆかなくても、安倍政権は退陣せざるを得なくなる、との危機感がありました。

民進党は、10月3日に立ち上げたばかりの立憲民主党への参加者、希望の党への合流組、無所属の3グループ
に分かれました。

野党の分裂という「敵失」があったことも自民党に有利に作用し、メディアは公示後の早い段階で自民党が
300をうかがう情勢、希望の党は100議席、立憲民主党は30議席前後の議席と予想していました。

しかし結果は、上に示したように、自民圧勝、立憲民主党躍進、希望の党の失速(または敗北)でした。

自民党から見ると、“最大の功労者”は小池百合子・希望の党代表と前原誠司・民進党代表ということにな
ります。自民党幹部は以下のように言ってはばかりません。
    
    小池と前原には足を向けて寝られない。負け戦を勝つことができただけではない。最大野党の民進
    党を解体して野党連合を破壊し、再び自民党長期政権の道筋をつけてくれた。立憲民主がいくら議
    席を増やしても、左派政党は国民の広い支持を集めることはできないから恐くない。功労者の小池
    と前原の2人なら喜んで自民党に迎え入れてもいい(注1)

メディアでは、今回の希望の党の失速が、あたかも小池氏の「排除」と「さらさらない」の言葉が決定的な
原因のように報道していますが、それはきっかけにすぎないと考えるべきでしょう。

むしろ、小池氏は選挙期間中に、自民党との連携について問われ、それは選挙結果次第だと答え、自民党と
の連携も視野に入れていることを匂わせていました。

また、憲法改定に関して安倍首相からも希望の党を改憲勢力とみなしていることを示唆する発言がありました。

小池氏の政治的立ち位置について、希望の党の設立会見で小池氏は、希望の党を「日本のこころを守っていく
保守」と答え、そのほか「改革保守」「寛容な保守」などとも表現しています。いずれにしても希望の党は保
守、それもかなり右寄りの保守政党であることははっきりしています。

それは、小池氏が希望の党からの立候補を望む民進党系の立候補者に課した協定書10項目には、(2)安保
法制は憲法に則り適切に運用。不断の見直しを行い現実的な安保政策を支持(4)憲法改正支持、の二項が含
まれていることからも分かります。

また、選挙において、九州ブロックの比例代表の優先第一位に極右と言ってもよい中山成彬氏を置き、当選さ
せたことにも現れています。

以上を考えれば、希望の党は結局、自民党の補完勢力あるいは第二自民党以外の位置づけは考えられません。

希望の党が失速したのはやはり、「排除」「さらさら」と言う言葉の問題よりも、改憲と安保法制推進という、
この政党の危うさを有権者に見透かされたことが、本質的な理由だと思います。

小池氏が意図して民進党を分裂させたのかどうかは分かりませんが、以下に、小池氏がどのような読みと狙い
をもっていたのかを検証してみましょう。

まず、小池氏は今回の選挙で、本気で政権交代を目指したのかどうか、という点です。もし、本気だとしたら、
自ら首相候補として衆議院選挙に立候補していたはずです。

選挙に出るか出ないかの判断をギリギリまで延ばしていたのは、世の中の風の流れを読んでいて、かなり早い
段階(多分、例の「排除」発言以後)どうも希望の党の情勢が芳しくないと読んだので、立候補しなかったの
ではないでしょうか?

もし、圧倒的に有利な風が吹いていたら、恐らく立候補していたでしょう。選挙後に、“私は最初から立候補
せず都知事の仕事に専念すると言いってきた”、との趣旨の発言を繰り返していますが、どうもこれは、後付
けの言い訳のように聞こえます。

次に、もし政権交代を狙うなら、過半数の233人以上の候補者をたてなければ、本気度を疑われるので、か
なり無理をして、何とか235人の候補者を擁立しました。しかし、民進党からの合流組を除けば、ほとんど
素人をかき集めた、という感じでした。

この際、小池氏は、民進党の大部分を取り込むことができれば、彼らがそれぞれの地盤でもっている支持層、
組織、そして100億から140億円とも言われる民進党の政党交付金(小池氏は否定していますが)、そし
て連合の応援・支持を手に入れることができると考えたと思われます。

それに加えて、都知事選と都議選で見せた小池ブームの風は、東京はいうまでもなく、全国的に吹いている、
との思い込み(実は“おごり”)があったはずです。

もちろん、小池氏には、自民党と並ぶ保守党勢力を結集し、自ら女性初の首相になることも視野に入れていた
と思われます。

つまり、小池氏は前原氏に、あたかも希望すれば民進党の全員が「希望の党」の公認を受けることができる、
との確約ではなく印象だけを与え、前原氏を彼女の筋書きに引き入れることに成功しました。

一方、前原氏は、インタビューで民進党の全員が希望の党から公認されることになっていたのか、と問われて
「そうしたかった」と答えています。つまり、口頭でも書類上でも、何の確約もないまま、民進党の両院総会
で、安倍政権の一強と倒すために、あたかも全員が希望の党の公認を受けられるかのごとく、言ったことが判
明しました。

また、『テレビ朝日』の番組のインタビューで前原氏は、「希望の党」との合流の意図を、「自衛隊や日米安
保を否定する政党と選挙協力を行うことはできない」、と語っています(注2)。

つまり民進党のリベラル派を排除する必要があった、と言っているのです。

ここまでは、小池氏の目論見は、あと一歩で大成功の所まで来ていました。ところが、例の「排除」発言がき
っかけとなって、事態は急変しました

例えは適当でないかも知れませんが、今回の小池氏の言動は、民話「いなばのしろうさぎ」を想起させました。
しろうさぎは、海を渡るため、数を数えるからと二ワをだまして向こうの陸地まで並びに並ばせ、あと一歩で
陸に到達できるところでワニに、だましたことをついうっかり口にしてしまいます。それに怒ったワニたちが、
白うさぎの毛皮を剥ぎとって丸裸にしてしまいます。

小池氏は、枝野氏に代表される民進党のリベラル派を切り捨て民進党を保守党に転換しようとし、実際、あと
ほんの少しで成功するところまで来ていました。

しかし、つい、おごりか傲慢か、油断からか、「排除します」という本音がとびだしてしまい、追い風の流れ
は強い逆風となってしまいました。

枝野氏に代表されるリベラル勢力を「排除」して、民進党を実質的に保守党に改変しようとしたのです。

その後の運命は、いなばのしろうさぎと同じで、有権者と立憲民主党に手ひどいしっぺ返しを食らってしまい
ました。

(注1)『BLOGS』2017年10月23日 16:00 http://blogos.com/article/254237/
(注2)『テレビ朝日』「鳥羽慎一モーニングショー」(2017年10月26日)。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2017年衆院選(2)―小池戦略の成功と挫折―

2017-10-28 05:53:52 | 政治
2017年衆院選(2)―小池戦略の成功と挫折―

2017年の衆院選は、表面の現象だけをみると、自民284、公明29、立憲民主党55、希望の党50、
共産党12、維新11、社民2、無所属22、という結果に終わりました。

しかし、今回の選挙には、以下に述べるように、単なる当選議員の数以上に、日本の将来にとって非常に重
大な意味が含まれています。

自民党は当初、民進党と希望の党が、本当に1本化したら自民党はかなりの数を減らし、政権交代もあり得る、
あるいは、政権交代まではゆかなくても、安倍政権は退陣せざるを得なくなる、との危機感がありました。

民進党は、10月3日に立ち上げたばかりの立憲民主党への参加者、希望の党への合流組、無所属の3グループ
に分かれました。

野党の分裂という「敵失」があったことも自民党に有利に作用し、メディアは公示後の早い段階で自民党が
300をうかがう情勢、希望の党は100議席、立憲民主党は30議席前後の議席と予想していました。

しかし結果は、上に示したように、自民圧勝、立憲民主党躍進、希望の党の失速(または敗北)でした。

自民党から見ると、“最大の功労者”は小池百合子・希望の党代表と前原誠司・民進党代表ということにな
ります。自民党幹部は以下のように言ってはばかりません。
    
    小池と前原には足を向けて寝られない。負け戦を勝つことができただけではない。最大野党の民進
    党を解体して野党連合を破壊し、再び自民党長期政権の道筋をつけてくれた。立憲民主がいくら議
    席を増やしても、左派政党は国民の広い支持を集めることはできないから恐くない。功労者の小池
    と前原の2人なら喜んで自民党に迎え入れてもいい(注1)

メディアでは、今回の希望の党の失速が、あたかも小池氏の「排除」と「さらさらない」の言葉が決定的な
原因のように報道していますが、それはきっかけにすぎないと考えるべきでしょう。

むしろ、小池氏は選挙期間中に、自民党との連携について問われ、それは選挙結果次第だと答え、自民党と
の連携も視野に入れていることを匂わせていました。

また、憲法改定に関して安倍首相からも希望の党を改憲勢力とみなしていることを示唆する発言がありました。

小池氏の政治的立ち位置について、希望の党の設立会見で小池氏は、希望の党を「日本のこころを守っていく
保守」と答え、そのほか「改革保守」「寛容な保守」などとも表現しています。いずれにしても希望の党は保
守、それもかなり右寄りの保守政党であることははっきりしています。

それは、小池氏が希望の党からの立候補を望む民進党系の立候補者に課した協定書10項目には、(2)安保
法制は憲法に則り適切に運用。不断の見直しを行い現実的な安保政策を支持(4)憲法改正支持、の二項が含
まれていることからも分かります。

また、選挙において、九州ブロックの比例代表の優先第一位に極右と言ってもよい中山成彬氏を置き、当選さ
せたことにも現れています。

以上を考えれば、希望の党は結局、自民党の補完勢力あるいは第二自民党以外の位置づけは考えられません。

希望の党が失速したのはやはり、「排除」「さらさら」と言う言葉の問題よりも、改憲と安保法制推進という、
この政党の危うさを有権者に見透かされたことが、本質的な理由だと思います。

小池氏が意図して民進党を分裂させたのかどうかは分かりませんが、以下に、小池氏がどのような読みと狙い
をもっていたのかを検証してみましょう。

まず、小池氏は今回の選挙で、本気で政権交代を目指したのかどうか、という点です。もし、本気だとしたら、
自ら首相候補として衆議院選挙に立候補していたはずです。

選挙に出るか出ないかの判断をギリギリまで延ばしていたのは、世の中の風の流れを読んでいて、かなり早い
段階(多分、例の「排除」発言以後)どうも希望の党の情勢が芳しくないと読んだので、立候補しなかったの
ではないでしょうか?

もし、圧倒的に有利な風が吹いていたら、恐らく立候補していたでしょう。選挙後に、“私は最初から立候補
せず都知事の仕事に専念すると言いってきた”、との趣旨の発言を繰り返していますが、どうもこれは、後付
けの言い訳のように聞こえます。

次に、もし政権交代を狙うなら、過半数の233人以上の候補者をたてなければ、本気度を疑われるので、か
なり無理をして、何とか235人の候補者を擁立しました。しかし、民進党からの合流組を除けば、ほとんど
素人をかき集めた、という感じでした。

この際、小池氏は、民進党の大部分を取り込むことができれば、彼らがそれぞれの地盤でもっている支持層、
組織、そして100億から140億円とも言われる民進党の政党交付金(小池氏は否定していますが)、そし
て連合の応援・支持を手に入れることができると考えたと思われます。

それに加えて、都知事選と都議選で見せた小池ブームの風は、東京はいうまでもなく、全国的に吹いている、
との思い込み(実は“おごり”)があったはずです。

もちろん、小池氏には、自民党と並ぶ保守党勢力を結集し、自ら女性初の首相になることも視野に入れていた
と思われます。

つまり、小池氏は前原氏に、あたかも希望すれば民進党の全員が「希望の党」の公認を受けることができる、
との確約ではなく印象だけを与え、前原氏を彼女の筋書きに引き入れることに成功しました。

一方、前原氏は、インタビューで民進党の全員が希望の党から公認されることになっていたのか、と問われて
「そうしたかった」と答えています。つまり、口頭でも書類上でも、何の確約もないまま、民進党の両院総会
で、安倍政権の一強と倒すために、あたかも全員が希望の党の公認を受けられるかのごとく、言ったことが判
明しました。

また、『テレビ朝日』の番組のインタビューで前原氏は、「希望の党」との合流の意図を、「自衛隊や日米安
保を否定する政党と選挙協力を行うことはできない」、と語っています(注2)。

つまり民進党のリベラル派を排除する必要があった、と言っているのです。

ここまでは、小池氏の目論見は、あと一歩で大成功の所まで来ていました。ところが、例の「排除」発言がき
っかけとなって、事態は急変しました

例えは適当でないかも知れませんが、今回の小池氏の言動は、民話「いなばのしろうさぎ」を想起させました。
しろうさぎは、海を渡るため、数を数えるからと二ワをだまして向こうの陸地まで並びに並ばせ、あと一歩で
陸に到達できるところで、ワニにだましたことをついうっかり口にしてしまいます。それに怒ったワニたちが、
白うさぎの毛皮を剥ぎとって丸裸にしてしまいます。

小池氏は、枝野氏に代表される民進党のリベラル派を切り捨て民進党を保守党に転換しようとし、実際、あと
ほんの少しで成功するところまで来ていました。

しかし、つい、おごりか傲慢か、油断からか、「排除します」という本音がとびだしてしまい、追い風の流れ
は強い逆風となってしまいました。

枝野氏に代表されるリベラル勢力を「排除」して、民進党を実質的に保守党に改変しようとしたのです。

その後の運命は、いなばのしろうさぎと同じで、有権者と立憲民主党に手ひどいしっぺ返しを食らってしまい
ました。

(注1)『BLOGS』2017年10月23日 16:00 http://blogos.com/article/254237/
(注2)『テレビ朝日』「鳥羽慎一モーニングショー」(2017年10月26日)。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2017衆院選―立憲の思想「民主主義は暴走する」―

2017-10-20 07:53:36 | 政治
2017衆院選(1)―立憲の思想「民主主義は暴走する」―

小池百合子東京都知事の目論見は、9月28日までは、予想以上にうまく行っていたように見えました。

「どんな手段を使っても安倍政権を打倒する」「そのために選挙では自公と1対1の対立構造」を確立する必要がある、との理屈で、
前原民進党代表は、両院総会で民進党議員全員が希望の党の公認を得て立候補することを提案し了承されました。

この結果110名もの民進党系の議員と出馬予定者が小池氏に膝まづいて、公認を乞う事態が出現したのです。しかも、安保法制と
憲法改正に同意するという誓約書への署名という「踏み絵」を踏まされて。

この時点が、小池氏にとっても前原氏にとっても、絶頂でした。

しかし、29日の小池氏の「排除」発言を境に、小池氏の勢いは大失速し、前原氏とともに両者の目論見はにわかに狂い始めました。

加えて、10月12日、立憲民主党からの候補者の応援に出た民進党の小川敏夫民進党参院会長は、小池代表が課した「踏み絵」に猛反
発し、「民進党は解党しない。民進党を守り、再びリベラル勢力を結集する」と発言しました(注1)。

ただし、この民進党の再結集に、枝野氏は立憲民主党の旗を立ち上げたからには、この旗を守ってゆく、民進党の最結集には応じな
い、と明言しています。

参議院の民進党が「リベラル勢力を結集する」と発言した裏には、このままで行くと、前原前民進党代表に、100億円を超える党
の財産(政党助成金)を持ち逃げされるのを防ぐために前代表を解任してしまいたい、との狙いもあるようです。

これとは別に、今回無所属で立候補した前民主党代表の岡田克也氏は公示前に自身のブログで、「(分散した野党を)しっかりと一
つにしていく接着剤、中軸としての役割を無所属議員が果たしてゆきたい」「これからの野党、大きな塊をつくっていくことを見据
えて良い人材をたくさんのこしたい」と書いています。とりあえずは、政党と言う形ではなく、「岡田ネットワーク(仮称)」とし
て同士を結集してゆくようです(注2)。

こうなると、いわゆる「野党」勢力としては、「希望の党」「立憲民主党」「岡田ネットワーク」、「社民」「共産党」、「自由党」、
そして非自公の無所属議員、という構成になります。

今回の衆院選後に、実際の当選者がどのような勢力分布になるのか分かりませんが、当初、は100人を超える当選者を出すと言われ
ていた「希望の党」は、その後、失速して現有勢力の57人を確保できるかどうか、というレベルに下がり、さらに直近(10月18日)
の予想では、後発の「立憲民主党」と野党第一党」を争う47議席前後にまで落ち込んでいます。

これからあと3日のうちに何が起こるか分かりませんが、野党第一党は「立憲民主党」になる可能性もかなりあります。

民進党から希望の党に乗り換えた「合流組」のある候補者は、テレビのインタビューで、「立憲民主党から立候補したほうが100倍
良かった」と語っており、希望の党からの立候補が逆風にさらされていることを物語っています。

なにしろ、地元で訴えるにしても、まずは、思想・信条を曲げて「希望の党」に移った言い訳から始めなければならないからです。

いずれにしても、選挙後、これまで安保反対、憲法改定反対を叫んでいた、旧民進党の議員は、首班指名で誰を書くのか定まっていま
せん。万が一、小池氏が念頭に置いている自民党の石破氏あるいは橋本聖子氏を総理候補に書くよう言われたとき、彼らはどのように
対応するのでしょうか。

さらに深刻なことに、安保法案と憲法改定に反対を唱えてきた旧民進党議員は、これらの問題で自民党と見解を同じくする希望の党に
入ったことについて、外に向かっては色々理由を述べて言い訳をするでしょうが、自分自身の心の内をごまかすことはできません。

朝日新聞のアンケート調査に、希望の党が擁立した235人のうち、226人が回答しました。そこで、安倍政権が安保関連法を成立
させたことへの評価を聞いたところ、「希望の党」への合流組以外は69%が「評価する」「どちらかと言えば評価する」という評価
寄りの立場でした。

これに対し、民進党からの合流組で評価寄りだったのは10%にとどまり、71%が「評価しない」「どちらかと言えば評価しない」
と答え、否定的な立場を示しました。合流組とそれ以外で、正反対の評価になった形です(注3)。

つまり、内心では、大部分の合流組の民進党系の立候補者は今でも安保関連法案には反対なのです。だからこそ、これまで自民党では
なく民進党から立候補して議員活動をしてきたのです。

それもで、安保法案と憲法改定に賛成することを認めたうえで立候補する、というこの矛盾を、これからも心のうちに抱えたまま、政
治家を続けるのでしょうか?普通に考えれば、政治家としてはこの変節は「死」にも等しいのではないでしょうか?

ところで、現段階では、選挙の結果がどうなるのか分かりませんが、どうやら自公合わせて300議席は突破しそうな情勢です。

『朝日新聞』は、自公が圧勝すれば、安倍政権は憲法改定論議を加速させる、と書いています。ただ、公明党は、野党第一党が納得す
る状況になったら、という条件を付けています。

もし、憲法改定に前向きな「希望の党」が第一党になったら、その時、安倍政権が一挙に憲法改定に突き進む可能性は十分あります。

この意味で、希望の党と立憲民主党のいずれが野党第一党となるかは、日本の今後の進路を決める重要な問題となります。

ところで、各社の最近の世論調査をみると、安倍政権の支持示よりも不支持の方が4~5ポイント多くなっています。

それでも、投票率が低ければ、固定的な支持層が厚い自公は優位であり、しかも小選挙区制のもとでは死に票が多くなる野党に不利で、
自公が議会で圧倒的に優位に立つことになります。

理由はどうあれ、現行制度のもとでは、結果として数が多い方が権力を握ることになります。最後は多数決によって決める。それが民
主主義のルールだからです。

しかし、この民主主義のルールに問題ないのだろうか?

小林よりのり氏は、10月14日、新宿における立憲民主党の”伝説の”応援演説で、ドイツのナチス党の党首、独裁者ヒットラーでさえ、
民主主義のルールにのっとって選挙で勝ち、権力を掌握したことを指摘しました。

続けて、小林氏は、「民主主義は暴走する。だから憲法が権力を縛る必要がある」と強調しました。つまり、原理的には、民主主義は
独裁的権力を生むこともあり得るのです。これは、今回の選挙において非常に重要な問題提起だと思います。

現行の憲法は、主権在民、すなわち国の主権者は国民であり、この憲法が国権を縛る構造になっていますが、自民党の「改憲草案」では、
国民が国の権力を縛るのではなく、逆に国の権力が国民を縛る構造になっています。

この観点から小林氏は、単なる民主ではなく、「立憲」民主であることが重要だ、したがって、枝野氏が「立憲民主党」を立ち上げたこ
とは非情に重要だ、とも述べました(注4)。

確かに枝野氏は、「民主党」に戻るのではなく、「立憲」民主党を立ち上げたのです。たとえば、集団的自衛権を認めた安保法案は、憲
法違反であることを訴えています。

改憲がどうなるかは、選挙結果に大きく影響されますが、単純な獲得議席だけでなく、与野党の再編も重要な要素です。

改憲推進派は自公と維新の会、希望の党が中心です。

他方、改憲反対勢力にも再編は必至です。立憲民主党、共産党、社民党は今後も改憲に関しては協調してゆくと思いますが、その他に、
今回は無所属で立候補した民進党の当選者および、希望の党から立候補した民進党の合流組のうち何人かは立憲民主党に移籍したり、あ
るいは新しい会派を結成して連携してゆくことも考えられます。

いずれにしても、民進党の分裂、希望の党の登場で、政界再編成は避けられません。

この事態を隣国はどうみているのでしょうか?

韓国の『中央日報』は、安倍首相、小池氏、前原氏を保守派のリーダーで改憲派とし、「誰が勝とうが右向け右」「今回の選挙戦は『日本
政治の保守化、右傾化をさらに浮き彫りにする舞台』との分析がある」と報じています。 中国も、安倍首相は北朝鮮にたいして圧力ばか
りを強調しているが、どこ出口を見いだすのかわからない、また日本の右傾化に強い警戒感を示して(注5)。

選挙の投票日まであと3日。日本はどんな判断をくだすのでしょうか。



(注1)Nifty ニュース 2017年10月14日 09時26分
https://news.nifty.com/article/domestic/government/12136-420715/
(注2)http://blog.goo.ne.jp/kokkai-blog/e/3705e741c36ed6882902d3a0c4d4ff2c

(注3)朝日新聞 デジタル 2017年10月14日20時30分
    http://www.asahi.com/articles/ASKBF5VM2KBFUTFK00V.html?ref=nmail
(注4)youtube https://www.youtube.com/watch?v=sKAls7bXlN8

(注5)『日本経済新聞』電子版 2017年10月19日 18:07
   https://www.nikkei.com/article/DGXMZO22454670Z11C17A0000000/?n_cid=
NMAIL005


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする