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大木昌の雑記帳

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前原氏の幼児性と無責任―「希望」へ移った民進党議員の無念と苦渋―

2017-10-15 08:30:43 | 政治
前原氏の幼児性と無責任―「希望」へ移った民進党議員の無念と苦渋―

今回の民進党解体劇(ただし、衆議院だけで、参議院では民進党は存続している)は、見るも無残な「茶番劇」でした。

今年の9月28日に開催された民進党の両院総会で、代表の前原誠司氏は、小池百合子氏が代表を務める「希望の党」と
の「合流」を提案し、了承されました。

この時、前原氏は安倍一強を倒すために、「名を捨て実取る」と説明、その時には、民進党議員は民進党に籍を置いた
まま、全員が希望の党の公認を受けて立候補し、民進党としては公認を認めない、との説明でした。

民進党の議員からすれば、大きな反自民勢力を作って安倍政権を打倒する、という大義のために苦渋の選択として前原
代表の言葉を信じて、了承したのです。

ところが、翌日になると事態は一変します。つまり、小池氏は、民進党との「合流」ということではないし、民進党の
候補者を全て受け入れる気は「さらさらない」と断言。

さらに、安保法制と憲法改定(改正とはいえない)に賛成することを受け入れる、という「踏み絵」に賛同できない人
は「排除」する、とまで踏み込んだ発言をしました。

これでは約束が違う、と多くの民進党議員は動揺しましたが、この時点では選挙公示日まで10日余りしかありません。

十字架を踏むキリシタンほどの深刻な苦渋ではなかったかもしれませんが、多くの民進党議員と民進党から立候補を予
定していた人たち、合計110人ほどは、泣く泣く「踏み絵」に署名をしました。

ところで、9月28日の両院総会に先立つ21日、前原代表と小池代表との話し合いが行われて、この場で、安倍政権を倒す
ために民進党と希望の党が一緒になって協力することで二人は合意した、とされています。

ただし、この時、前原氏は民進党議員の全員が希望の党の公認を受けて立候補できる、との「感触」だけで両院総会に
「合流」を持ち帰ったのです。

この両院総会の様子を、後に立憲民主党を立ち上げた枝野氏はインタビューで、全員が希望の党の公認を得ることができ
る点について、前原氏は非常に強い確信と何らかの確かな担保があると思わせる口ぶりで話した、と言っています。

だからこそ、当然、もめると思われた両院総会で前原氏の提案が、枝野氏も含めて全員一致で了承されたそうです。

ところが、何の担保もないどころが、小池氏は「最初から全員を受け入れるとは全く言っていない」「さらさらない」と
全否定しました。

前原氏は、一つの政党が事実上解党に近い状態になるという重大な局面で、全員が公認されるかどうかを小池氏に確認し
たはずです。

もし確認していなかったとしたら問題外ですし、もし確認したとして、それを文書に残さなかったとしたら、政治家とし
て、あまりにも幼稚としか言いようがありません。

あるいは、小池氏の巧みな話術に、前原氏がうまく乗せられてしまったのかも知れません。

いずれにしても、前原氏の政治家としての能力がいかに未熟であるかを物語っています。

もし、小池氏の、「全員を受け入れるとは全く言ってない」という言葉が本当だとすると、前原氏は民進党の両院総会で、
皆を騙したことになります。

前原氏は、小池氏が実際に「排除」を始めて、多くの民進党議員が公認から外されたとき、「想定の範囲内」と言っての
けています。

もし言葉通りなら、前原氏は、当初から「排除」があることを分かっていたということになり、これは、民進党の議員に
たいする裏切り、詐欺的行為であり、犯罪的ですらあります。

「想定の範囲内」とは、単なる前原氏の開き直りなのか、自分が言ってきたことの矛盾にも気づかない、幼稚さの表れで
しょう。

いずれにしても、もう前原氏の言葉を信じる人はいなくなるでしょう。

私の推測では、小池氏と前原氏の一致点は、リベラル派を潰して第二保守政党を立ち上げ、キャスティング・ボード握り、
うまくゆけば自民の一部と連携して小池氏が首相の座を奪う、という点にあったのではないでしょうか?

しかし、小池氏の評判はあっという間に落ち、目算が狂ってしまいました。政権選択を叫んでいた小池氏が、自ら衆議院
に立候補し、首相候補として立ち上がらなかったのは、「負け戦」を避けたからだと思います。

ところで、民進党から希望の党に移った議員たちは、自分たちの思想・信条の変節をどのように思っているでしょうか?

2015年7月、国会内の衆院特別委員会で政府・与党が安保法案を強行採決に踏み切ろうとすると、野党席から怒号が
飛び交い
民主党(後に民進)など野党議員の多くが委員長席に詰め寄りました。

岡山4区で希望の公認を得た前職、柚木道義氏はその一人でした。柚木氏は「強行採決反対!」と書かれたプラカードを
掲げ、与党の国会運営に抗議しました。

「あの行動は今も正しかった」。7日午後5時過ぎ、倉敷市内で街頭演説した柚木氏は声を張り上げました。

民主党など野党は衆院採決時、採決に応じませんでした。柚木氏は当時、「民主主義は死んだも同然。廃案を諦めない」と
の談話を出しました。

希望の党は公認にあたり、10項目の「政策協定書」を作成し同意を要求しました。そこでは安保法制について「憲法にの
っとり適切に運用。不断の見直しを行い、現実的な安保政策を支持」との文言がありました。表現は多少柔らかくなってい
ますが、原案段階では現行の安保法制の容認を求めており、希望側の本音がはっきり表れています。

10月6日夜、柚木氏ら4区の出馬予定者の公開討論会で柚木氏は、協定書を参加者に示しながら「憲法違反の運用はしない、
と書かれている」と理解を求めました。

また、討論会後に取材に応じた柚木氏は「違憲の疑いがある部分は、法改正する。何の矛盾もない。時間をかけて丁寧に説
明したい」とも語っています。どことなく「引かれ者の小唄」のようで、痛々しい弁解です。

民進から希望に移った前職、小川淳也氏(香川1区)も安保法制の衆院可決後、自身のブログに「憲法違反の疑いが強い安
保法案。憲法を無視し、国民を軽視する安保政策の大転換」と書き込んでいます。

香川では昨年の参院選で、共産公認の野党統一候補の応援に汗を流したのが民進党県連代表だった小川氏でした。地元の市
民団体が主催した安保法制の反対集会にも参加しました。

今回、希望の党からの出馬に関して、7日午後1時過ぎ、高松市内の公民館で行われた国政報告会で「政治信条や姿勢はい
ささかも変わらない。新党が極端な立場を取れば、ブレーキ役を担う」と力説しました。

そして、報告会を終えた小川氏は取材に、「安保法制は慎重に運用すべきで、あり得ない政策ではない。ただ、もう一度議
論しなくてはいけない」とも語りました。

報告会に参加した無職男性(78)は「希望の政策と小川さんの考えには食い違いがあるように見える。選挙戦の中でよく
説明を見極めたい」と語っています(注1)。

柚木氏も小川氏も、どうにも説得力のある弁明をしているとは思いません。両者の弁明は痛々しすぎます。

森友・加計問題で安倍首相を追及していたのは玉木雄一郎氏、宮崎岳志氏、今井雅人氏、福島伸享氏、大西健介氏らはそろ
って希望の党に移りました。

彼らは果たして希望の党のなかでも変わらず疑惑追及の声を上げ続けられるのだろうか。

元民進党幹事長代理の玉木雄一郎氏は自身のブログで、自らの主張を曲げてまで別の党に移るつもりはありません」と述べ、
さらに安保法案のうち「武力攻撃事態法」の中には、やはり違憲の疑義がぬぐいきれない部分があることも認めています。

しかし、今回、希望の党に移ったのは、自民党と1対1の対決構造を作り政権交代を実現するために、前原氏の決断に従った
と、自身のブログで書いています。

しかし前原氏は、本来なら共に政権交代を目指す立憲民主党の立候補者を落選させようと刺客を送っています。この現実を見
ると、玉木氏の言い訳もむなしく響きます。

原口一博氏(佐賀1区)は「一寸の虫にも五分の魂」がある、と言い、希望の党の公認を受けながら、公認を拒否し無所属で
出馬することを決意しました。

彼は「とんでもない詐欺に引っかかって身ぐるみ剥がれたような思いを抱える仲間が少なくありません」とツイートしていま
す(10月6日)(注2)

この言葉に共感している、希望の党に乗り換えた民進党の前議員と新規の立候補者はかなり多いのではないでしょうか?

彼らに待っているのは、有権者の厳しい目と審判だけでなく、政治家として、また人間として、心のうちで湧き上がる無念と
と苦渋の葛藤です。もう、彼らの声に耳を傾ける人は空く成る成るでしょう


(1)『琉球新報』2017年10月9日 11:33 https://ryukyushimpo.jp/mainichi/entry- 590297.html
  毎日新聞2017年10月8日 09時33分(最終更新 10月9日 11時33分)
  https://mainichi.jp/senkyo/articles/20171008/k00/00e/010/134000c

(2)『MAG2News』20177.10.13
http://www.mag2.com/p/news/298800?utm_medium=email&utm_source=mag_news_9999&utm_campaign=mag_news_1013
玉木氏のブログ(10月3日)
https://ameblo.jp/tamakiyuichiro/entry-12316145342.html

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8月はほとんど雨の異常気象でした。この間、トマトはまったく収穫できなかったのですが、9月に入り、日照が戻ると、
 今度は、驚くほど多くの実を付け始めました。写真は、1回の収穫で、5キロありました。異常気象に対応してトマトは
 大急ぎで子孫を残そうとしたのかも知れません。

      


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「小池旋風」は吹き続けるのか?―策士 策に溺れる―

2017-10-08 09:46:30 | 政治
「小池旋風」は吹き続けるのか?―策士 策に溺れる―

小池百合子東京都知事は、9月28日、安倍首相の臨時国会冒頭解散をうけて翌日には、自ら代表となって、
新党「希望の党」を立ち上げることを宣言しました。

安倍首相は、野党の態勢の整っていないし、新党の準備も出来ていないので、今、選挙を行えば「勝てる」
と楽観的に考えていました。

しかし、この「希望の党」の立ち上げによって、にわかに雲行きが怪しくなってきました。

というのも、新党立ち上げの直後の9月29日、民進党代表の前原氏と小池氏の話し合いの結果、民進党と希望の党が「合流」
して、一大勢力として政権交代を実現する、という方向で合意した、と報じられたからです。

自民党内には、今をときめく小池百合子の人気と、民進党の組織、資金、連合の支持が一緒になれば、安倍政権は危うくな
る、との心配が広まりました。

実際、メディアには、「合流」の文字が踊り、本当に希望の党を中心とした、勢力が安倍一強内閣を倒せるのではないか、
という雰囲気を盛り上げていました。

小池氏との会談の後、前原代表は、民進党の両議院総会で、民進党が全員、希望の党に移り、民進党としての公認は認めない、
との方針を説明しました。

この総会で前原氏は、間違いなく全員が希望の党に移籍できることを小池氏との間で話がついている、と説明し、それならば
政権奪取も可能かもしれない、という期待を多く民進党議員は思ったようです。

このため、総会は大いに荒れるだろうとの予想を裏切って、何の反対もなく前原氏の方針が了承されました。

ここまでは、全て小池百合子氏の思惑通り、さすが百戦錬磨の策士の面目躍如でした。

ところが、小池氏は29日の会談終了後、記者団に「私たちの政策に合致するか、さまざまな観点から絞り込みをしたい。全
員を受け入れることは、さらさらない」と、選別を行う考えを示したのです。

つまり、安保法制と憲法改正という方針を認めない人は公認しない、とメディアに語ったのです。

この選別は、のちに「絞り込み」とも言い換え、さらに決定的な「排除」という言葉も飛び出しました。

この時点では、前原氏・民進党と小池氏との関係は、はっきりと、小池氏が上に立ち、前原・民進党の議員および立候補予定
者は、小池氏および希望の党の前にひれ伏して、公認をお願いするという状況になりました。

その際、民進党系の立候補者には、安保法制と憲法改正に賛成すること、選挙費用は自分でまかない、そのうえ党に100万
円の献金をすることなどを含む10項目について了承する「誓約書」にサインすることを求めています。

ここまで、小池氏の戦略はことごとくうまく行き、小池旋風は飛ぶ鳥を落とす勢いで吹いていたかのように見えました。

ここまでは、小池劇場の第一幕です。

しかし、その裏で、小池旋風の勢いがやや弱まり、小池氏が放った言葉が、少しずつ世間の反感を呼び、副作用としての逆風が
吹き始めました。

「さらさらない」「排除」に続いて、たとえば、衆議院選に立候補するか否かを問われて、私は当初から出ないと、日本語で言
ってきたでしょ
、と切り替えしています。

なぜ、ここで「日本語で」と言わなければならないのか意味不明です。いかにも上から目線で物を言う態度が表に出てしまった
た言葉でした。

上から目線といういみでは、小泉進次郎氏が、小池さんは国政に出るべきだ、という発言に対して、「進次郎さんは、キャンキ
ャン
とはやし立てていますが」、これも人を「小馬鹿」にした上から目線の言葉です。

こうした言動は、言葉の問題かも知れませんが、それでも、小池氏の人間性にたいする評価に大きなマイナスに作用し始めてい
ることは確かです。

小池氏を政治の世界に引き込んだ、細川護熙元首相は、「小池さん、なんか女帝っぽくなってきて」(『毎日新聞』2017年10月
4日 東京夕刊)と、小池氏の強引な手法に失望を隠せません。

しかし、逆風は、もっと本質的な場面でも吹き始めました。その逆風は二つの大きな「誤算」から吹いています。

一つは、希望の党の執行部(小池、細野、若狭)が排除した旧民進党の議員のうち、枝野幸男前民進党副代表が10月3日に新党
「立憲民主党」を立
ち上げたことです。

どうやら、希望の党の執行部は、民進党議員の大部分が希望の党から立候補するか、無所属で立候補するか、のいずれかだと思
っていたようですが、これは明らかに小池氏にとって「誤算」でした。

しかし、枝野氏が新党を立ち上げたことにより、希望の党からの立候補を拒否した人たちが、立憲民主党への参加を表明しまし
た。現段階(10月7日)では、60人超の立候補予定者が参加を表明しています。

この誤算には、さらにいくつか別の誤算がありました。まず、民進党の大きな支持団体である「連合」が、小池氏の「排除」に
怒り、組織として希望の党を支持することはない、との態度を示したことです。

「連合」は選挙の際の票としても重要でしたが、ビラを貼ったりする選挙運動の人手としても重要な存在でした。

次は、足下の都政における「都民ファーストの会」の創立当時からの主要メンバーだった、音喜多駿氏と上田令子氏が、小池氏
の都政運営の在り方に疑問を感じ、離党届を出したことです。

二人が記者会見で曝露した小池氏の都政運営の実態に対する批判は、かなり辛辣なものでした。

まず、都政に専念すると約束したのに、この段階で国政へ手を伸ばすことは納得がゆかない、との不満は大きかった、と述べて
います。

小池氏は、それまでの自民党支配下の都政が「ブラックボックス」(決定のプロセスが秘密にされていること)を批判し、情報
公開こそが「一丁目一番地」のはずだったのに、自分が知事になってからは、重要な決定事項、たとえば代表の決定、などに関
して、2~3の幹部だけで決めてしまったことを挙げています。

また、メディアなどで自由な発言をすると、幹部からそれを押さえる言論統制をしたり、パーティー券の販売ノルマを課したこ
となども、クリーンなイメージが売りだった、小池氏の独裁的なやり方に不満を持ったようです。

こうした小池氏の政治姿勢を批判したうえで、現在の希望の党は、選挙目当ての「野合」だと、断じています。

こうした、足元で起きていることも、小池氏のイメージを悪くし、小池旋風を弱める一因となっています。

小池氏は、キャッチコピーで人々の目を本質から外し、さまざまな策を繰り出してきましたと言う意味で、「策士」であること
は間違いありませんが、本性は隠せず、余計にはっきりと出てきています。

「策士 策に溺れる」といった様相を呈しています。

私個人として、どうにも合点がゆかないのは、小池氏は今回の衆議院選を、安倍一強政権を倒す政権選択選挙だと言い続けてき
ました。

しかし、同じく、安倍政権を倒すことを重要な目標とする立憲民主党が結成されると、希望の党は直ちに、その候補者に「刺客」
をたてることを発表しています。安倍政権を倒すなら、まず第一に自民党の候補者に徹底して「刺客」と送るべきでしょう。

ここには、明らかな矛盾があり、小池氏と希望の党に一貫性はありません。

こうした矛盾に満ちた言動をどう理解したらいいのでしょうか。

この問題も含めて、小池氏が希望の党と立ち上げた本当の目的は、日本からリベラル勢力を排除し潰してゆくことにあったので
はないか、と解釈するとよく理解できます。

小池氏の問題は、内容が示されていないことです。例えば、都議選では「東京大改革」と謳いながら、東京の何を改革し、どの
ような都市にするのかの内容は、全く語っていません。

同様に、国政に関しても、昨今の街頭演説で「改革を進めるチャンス」と言いながら、何を改革し、日本をどのような国に導く
のか、といった最も重要な点については示していません。つまり、本当は語るべき内容がなく、ただ「風」を吹かせて選挙に勝
つことが最大の戦略のように見受けられます。

今回の選挙でどんな結果が出るかは分かりませんが、私たち国民としては、表面を吹いている風に惑わされることなく、本質を
見抜く必要があります。

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不可解な衆議院解散―2/3をもつ与党はなぜ?―

2017-10-01 06:11:43 | 政治
不可解な衆議院解散―2/3をもつ与党はなぜ?―

2017年9月28日は、日本の政治にとって、もう一つの大きな転換点になりました。

安倍首相は同日の臨時国会の冒頭、「憲法7条に基づいて」、内閣総理大臣の「専権事項?」と自称する伝家の宝刀を抜
いて、衆議院を解散しました(いわゆる7条解散)。

ここで「憲法7条」とは、天皇の国事行為を定めており、その第三項「衆議院を解散する」という規定を指しています。

ただし天皇が国事行為を行う際には、「内閣の助言と承認」を必要としています(憲法第三条)。この部分を利用して、
実質的に総理大臣が解散できることになります。

しかし、解散権が内閣総理大臣(首相)の専権事項であるとはどこにも書いてないし、解散する場合には、首相が不信任
されたり、国論を二分するような重要な問題に直面した時など、それにふさわしい理由が必要である、とされてきました。

つまり、三権分立という制度の下で、内閣(首相)が勝手に国民の代表である立法府(衆議院)を解散させてはいけない
という了解があるのです。しかし、安倍政権は、2回、大義なき「7条解散」を行っています。

今回の解散はいくつもの点で異常であり、憲法の趣旨に反していると思われます。

まず、今年8月の内閣改造後、新しい閣僚の決定後の国会で、首相と閣僚の所信表明も、質疑応答もありませんでした。

今回の臨時国会は、野党が憲法53条に基づく召集を要求してから3カ月余も放置した末にようやく開かれたものです。

しかし、臨時国会も正規の国会の場であるのに、何の議論もないまま、冒頭解散とは、「憲法を踏みにじり、主権者であ
る国民に背を向ける行為だ」。

安倍首相の冒頭解散の意図は明らかです。

森友学園・加計学園の問題をめぐる野党の追及の場を消し去り、野党、特に民進党の混乱(山尾議員のスキャンダルと離党
ドミノが止まらない)と、新党の選挙準備が整っていない野党の状況の隙を突こうという狙いです。

さらに、一旦は下がった内閣支持率もどうやら持ち直したことも、解散へのひと押しになったと思われます。

安倍首相には、「今なら勝てる」、勝てば官軍の「権力ゲーム」が先に立つ「自己都合解散」であることは明らかです。

民意を政治に直接反映させる民主主義の重要な場である選挙を、権力維持の道具としか見ない「私物化解散」でもある(以
上『朝日新聞』29日の社説)(注1)。

こうした事情を考慮したとしても、どうにも腑に落ちない点があります。

小泉元首相が、「なぜ、この時点で解散するのか分からない。今、2/3の議席をもっているのに」と発言しています。

まったくその通りで、現在、衆議院で既に「勝って」おり、選挙をすれば、減ることは考えられても増える可能性はまずあり
ません。

万が一増えたとしても、安倍首相が狙う、憲法改正の発議に必要な議席数は既に確保しているのですから、意味がありません。

私は、森友・加計問題というは、安倍首相にとって、一般に考えられているより、はるかに深刻な問題として感じているので
はないか、と考えています。

たしかに、野党も多くメディアも、今回の冒頭解散は、森友・加計問題隠し、と批判していますが、それについてあまり重大に
考えていないようです。

むしろ、民進党の混乱と新党の準備不足が大きくクローズアップされています。

しかし、森友問題についていえば、最近、大阪地検特捜部の捜査で、森友側と財務省側との間で値段の交渉があったことを示唆
する音声テープが存在していること、両者の交渉記録が存在していることが、明らかになりつつあります。

とりわけ、これまでパソコンにも一切の記録は残っていないと、国会で証言した、当時の佐川宣寿元理財局長の証言が偽証とな
る可能性が出てきました。

もし、これが立証されると、一連の森友疑惑が、単に、一官僚の勝手な判断で行われたという理屈は通らなくなります。

ここで思い出してほしいのは、安倍首相はかつて国会の場で、もし自分もしくは妻が森友問題に関与していたとしたら、首相の
地位だけでなく議員も辞職する、と発言しています。

自民党の二階幹事長は、今回の解散は、森友・加計隠しではないか、との批判に対して、「そんな小さな」問題などまったく関係
ない、と答えていました。

しかし、これらの問題は「小さい」どころか、安倍首相の議員および首相としての進退に関わる「大きな」問題だからこそ、あら
ゆる民主主義的なルールを無視して、批判を承知のうえで、敢て解散・総選挙を強行したのだと思います。

臨時国会を通常通り開けば、森友・加計問題が蒸し返されるのは目に見えており、しかも、さまざまな証拠から以前にも増して、
官邸(安倍首相も含む)が直接間接の関わっていた疑惑が明らかになりつつあります。

安倍首相は繰り返し、疑惑には「丁寧に説明する」と言っている以上、証拠を突きつけられて追及されれば、かなり窮地に追い込
まれます。

なによりも、昭惠夫人と加計氏が、なだ何も証言していないことが重大な問題です。

安倍首相の頭の中には、総選挙で自民党が勝てば、安倍政権だけでなく安倍首相個人の問題も承認されたことになる、との狙いが
あったのではないでしょうか?

安倍首相は、まず、臨時国会の冒頭解散を決め、その理由(大義)は、まるで取って付けたような意味不明なものでした。

つまり、消費税の値上げから得られる増収分の使い道を変更して、教育と子育てに充てる、というものです。

しかし、これらは何も衆議院を解散してまで国民に問う問題ではありません。通常国会でも、もし本当に緊急に決める必要があるな
ら、今回の臨時国会で提案すれば済むことです。

突然の解散・選挙という事態になって、議員は一斉に選挙運動に走り始めました。このため野党の追及も、ここで一旦はストップし
てしまいました。

ここまでは、安倍首相の思惑通りだったのですが、いざ、解散してみたら、想定外の事態が、こちらも突如、現れてきました。

いうまでもなく、小池新党の台風並みの強風が吹き始めてきたのです。

これについて、また別の機会に考えてみたいと思います。


(注1)電子版は、『朝日新聞』デジタル(2017年9月29日05時00分) 
http://www.asahi.com/articles/DA3S13156471.html?ref=nmail_2017 0929mo


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東京都議選―「勝因」と「敗因」の背景―

2017-07-09 05:31:10 | 政治
東京都議選―「勝因」と「敗因」の背景―

東京都議選は、小池百合子知事が率いる「都民ファーストの会」(以下、「都民」と略記する)が、予想を超える圧
勝で終わりました。

「都民」は初めての選挙で50人の立候補者のうち49人を当選させ、他方、自民党は60人の候補者のうち23人
が当選しただけでした。これは、前回の議席数57の半分以下となってしまいました。

この結果はある程度は予想されていましたが、「都民」がこれほどの圧勝をするとは、小池氏も自民党も、その他の
党も想像していなかったのではないでしょうか?

「都民」圧勝の裏に、自民の「ボロ敗け」(竹下亘自民党国対委員長の言葉)という実態がありました。

この二つを考えると、小池「都民」の勝因と、自民の「敗因」とが問題となります。

これについては、すでに多くのメディアや政治評論家が分析しており、今さら繰り返す必要はないかもしれませんが、
私なりに整理しておきたいと思います。

まず小池「都民」の勝因ですが、それは一言で言えば、小池人気の強烈な「風」、それも「追い風」が吹き、無名の新
人でも、「都民」の立候補者であれば、個々の政治信条や能力とは関係なく、当選できたことです。

政治の世界でいう大量の「小池チルドレン」が生まれた背景です。

ただ、注意すべき点は、小池氏はこの「風」を1年前の都知事選で吹かし始め、今回の都議選が始まる前にはすでに、
強力な「追い風」につなげることに成功したのです。

それには、「都民ファースト」という名称も大きく貢献していると思います。

都政であるからには、「都民ファースト」であることは当たり前で、これが、「都民セカンド」だったら大変なことです、
と突っ込みを入れたくなります。

「都民ファースト」と聞くと、トランプ大統領が選挙運動中から言い続けている、「アメリカ・ファースト」を思いだして
しまいます。

トランプ氏の場合、今までアメリカは、アメリカ以外の国のため、特に安全保障面では「世界の警察官」として貢献してき
たが、これからはアメリカの利益を第一に考える、という主張です。

小池氏の場合は、政党や既得権者のためではなく、都民目線で都民の利益を第一に考える、という意味なので、言葉として
は似ていても、意味内容は全く違います。

選挙の本質とは関係ないかもしれませんが、選挙戦術に関して、小池氏は自民党をはるかに上回っていました。

まず、「緑」という視覚的なイメージを知事選を通じて定着させたこと、そして、選挙の焦点を、「古い議会を新しく」と
いう一点に絞ったことです。これは新人候補にとっては大いに役立ったでしょう。

議員経験のない、また特に何かの主張を持っているわけではない候補には、徹底して、このスローガンを繰り返し言わせま
した。

これは、どうやら小泉元首相の「郵政民営化 是か非か」の1点で圧勝した「ワンフレーズ」戦術から学んだのでしょう。

他方、必要な候補には、有権者一人一人に呼び掛け握手をする、小沢一郎氏のような「どぶ板選挙」を徹底的にさせました。

もう一つ、よく指摘されるのは、敵を作り、それに対する批判・攻撃をする「劇場型」選挙戦術で、これも小泉氏が、郵政民
営化反対者を公認しないばかりか、その選挙区に「刺客」を送り込む戦略をとったことを参考にしたのでしょう。

小池氏は、古い、秘密主義、隠蔽体質の自民党都議連(決して国政の自民党ではない)を「敵」に仕立てて、その敵を打ち破
る、「正義の使者」といった対立構造にもっていきました。

豊洲移転にともなう石原都政への疑惑、舛添前都知事の公私混同疑惑など、それまでの秘密主義的な体質に対して、都民はか
なりうんざりしていたのではないでしょうか?

そこに、「古い議会を新しく」という単純明快なメッセージは、都民の気持ちに入りやすかったのではないでしょうか?

ただ、個人的には、「古い議会を新しく」して、”何をするのか”、また、これからの”東京をどのような都市にしてゆくのか”
について明快な展望も示して欲しかった、という感想をもっています

他方、「ぼろ敗け」した自民党にも「風」は吹きまくっていましたが、こちらは「追い風」ではなく「強い逆風」でした。

それは、一言で言えば、国政におけるさまざまな疑惑や問題発言です。

自民党の中谷元防衛相は「THIS IS 大打撃」と言い、メディアでは「THIS IS 敗因」と言われる、(T)豊田
真由子議員の暴言・暴行、(H)萩生田内閣官房副長官の加計学園問題疑惑、(I)稲田防衛相の憲法違反の恐れがある応援演
説、(S)下村都連会長の加計学園関連の寄付金問題と、など疑惑と失言が都議選で自民党の足を引っ張ったことは間違いない
でしょう。

とりわけ豊田氏の絶叫調の暴言は、何度もテレビで流され、自民党に対する強烈なマイナス・イメージを人々に与えました。

自民党としては、「都民」に政策で負けたのではなく、さまざまなマイナス要因が集まっての敗北で、いわば「オウンゴール」
だと結論づけたいのでしょう。

ただ、自民党内からも、村上誠一郎元行革担当はテレビのモーニングショーで、あれだけの大敗をした第一の責任は安倍首相、
といった趣旨の発言をしています。

官邸としては、都議選の敗因を安倍首相と切り離したいのでしょうが、果たして、国民は納得するでしょうか?

森友学園、加計学園問題の双方に安倍首相と夫人が関わっており、その疑惑を否定する根拠となる文書もデータもない、と突っ
張ってきた安倍政権に対する国民の不信感は相当強まっています。

この点では、前川元文部科学省次官の加計学園問題に関する曝露発言も、安倍政権に対する信頼性を大きく損ない、選挙に少なか
らず影響を与えたと思います。

前回は自民党に投票し、今回は「都民」に投票した、ある会社員は、共謀罪法案の審議を十分説明することなく強引に採決したこ
となど、最近の安倍首相はイメージが悪すぎる、と語っています(『東京新聞』2017年7月3日)。

その象徴的なシーンは、投票日前日に、自民党にとっては「聖地」ともいえる、縁起の良い秋葉原で、今回の選挙で始めて安倍首
相が街頭演説をしたときの反応です。

安倍首相が話し始めると、聴衆から「帰れ」「辞めろ」コールが起こりました。最初こそごく一部の批判的なグループが言ったよ
うですが、次第に偶然の通りすがりの人の一部にも広がってゆきました。

この映像はテレビで何回も流され、多くの人が見ていたと思います。

安倍首相は、敗戦の弁として、自民党に”緩み“があったと語っていますが、はたして、今回の結果は”緩み“なのでしょうか、そ
れとも”傲慢“さのせいなのでしょうか?私は、やはり背景としては、安倍政権と自民党に対する批判が底流にあったと思います。

これからの政治を考える時、果たして「小池旋風」はこのまま吹き続け、うまくゆけば国政でも同様の風を吹かせることができるの
でしょうか?

豊洲移転問題にしても、オリンピック・パラリンピックにしても以前の都政からの持ち越し事項です。

したがって、都政も国政も、小池旋風が吹き続けるのかどうかは、とりあえずは小池知事が、どんな独自の展望と課題を提起し、都
民のために貢献できるかにかかっています。

「小池チルドレン」が次回の選挙でどれほど生き残れるかが、小池政治に対する一つの評価となります。

一方、自民党として、今回の大敗を、悪い条件が重なったための一時的な現象であり、時間が経てば、やがて安倍政権は支持を回復で
きると考えるか、そうではなくて、都議選とはいえ、やはりこれは安倍政治にノーと突きつけた、もっと根本的な動きであるとみるか
によって、自民党の対応も、国民の受け取り方も大きく変わってきます。

支持率の高さと選挙における常勝が安倍政権をここまで維持させてきましたが、最近では支持率も下がり、都議会選挙とはいえ、選挙
で大敗したとなると、簡単に支持の回復、政権の安泰となるかどうか、ここは政権の正念場です。

今までの、安倍政権にたいする一見、高い支持率は、「他に適当な選択肢がないから」という消極的な理由が大きかったと思います。
この点を安倍政権は過小評価してきました。

しかし、今回の選挙は、「都民」のような新たな選択肢が登場すると、自民党は惨敗することが証明されてしまいました。

これが、今回の都議選の結果からみた、非常に重要な結論の一つだと思います。

もう一つ、今回、公明党が自民党を支援しなかったことが自民党の大敗のもう一つの大きな要因と考えられます。すると、自民党だけ
の実力はそれほど大きくないことが、はからずも露呈してしまいました。これも、今回の都議選結果のもう一つの重要な意味です。

 

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スノーデン『日本への警告』を読んで(3)―監視を監視する必要―

2017-06-11 08:17:07 | 政治
スノーデン『日本への警告』を読んで(3)―監視を監視する必要―

ここからは、本書の第二に相当し、(1)で紹介した4人のパネリストが、スノーデンの『日本への警告』に関連して、司会者と聴衆
からの質問に答える、という形をとっています。

まず最初に、スノーデンの法律アドバイザーである弁護士・ワイズナー氏がアメリカの監視プログラムについて、簡単に説明します。

これは、日本人も知っておくべき基本的知識です。というのも、日本も近い将来採用するかもしれないからです。

一つは「バルク・コレクション」とよばれるもので、NSA(国家安全保障局)が電話のメタ・データをアメリカの電話会社に命じて、
アメリカと国外、アメリカ国内の通話を含む、全てのデータ(メタ・データ)を毎日提出させています。

二つ目は、プリズム(PRISM)と呼ばれるもので、フェイスブック、グーグル、アップルなどアメリカに本社を置くIT9社に命
じて電子メールやSNSによる通信内容などを秘密裏に提出させるプログラムです。

三つは、アップストリーム(Upstream)というプログラムで、外国人のインターネット上のありとあらゆる情報を収集するプログラムで
す。ただ、通信の相手が外国人であれば、アメリカ人も監視の対象となります。

アメリカの場合、実際には歯止めなく、情報の収集が行われています。

以上を念頭において、ワイズナー氏の警告を見てみましょう。

“実際にアメリカ政府は日本人同士の日本語のメールや電話であっても傍受しているのでしょうか?本当に内容をよまれているのでしょ
うか。”という司会者の問いに対して、
    そうです。それがNSAの仕事です。アメリカ市民であれば、NSAによる監視にたいして一定の保護が与えられます。
    アメリカの市民でない場合、何の保護もありません。

と答えています。つまり、日本人に関しては無制限に傍受・盗聴できるということです。

NSAは、「全てを集める」(Collect it All)の精神で、あらゆるデータ(メタ・データ)を集めていますが、その場合のメタ・デー
タとは、必ずしもいちいち内容を読む必要はないのです。
    メタ・データとは、電話で話した内容に関する情報ではありません。私たちが会話をしたという事実、通話の日時、通話時の
    場所などがメタ・データです。これは私たちの交際関係のすべてです。

NSAは、この交際関係の全てを保存しており、メタ・データは何年も過去にさかのぼることができる“監視のタイムマシン”です。

ある人に、何年か後に何らかの容疑が持ちあがると、ずっと以前に戻り、その人物がその間に何をしていたかを完璧に再現できるし、
その人と連絡を取った人も捜査の対象となるのです。

アメリカでは「9・11」事件以後、イスラム教徒に対する監視を徹底してきましたが、これに対する裁判で連邦の裁判所は、特定の
宗教に限定して実施された捜査は違反であることを認めました。

しかし、日本では2010年にインターネット上に流出した警察庁外事第三課の調査資料が明るみに出ました。これに関する裁判で、
昨年、最高裁がイスラム教徒の監視は合法であることを認めています。

日本のイスラム教徒の監視に関して、前出のワイズナー氏は次のように指摘しています。
    深刻な危機が存在し、これに対応するために監視システムが作られたのです。他方で、監視システムが存在するから危機を
    演出するということもあります。危機が去った後にも大規模な存在を正当化するために新たな危機を生み出すわけです。ム
    スリムの監視に関して日本で行われていることはこのようなことかも知れません。テロを防止するという目的のために監視
    が始まり、その後、監視を継続するために正当化を必要とするわけです(133-134ページ)。

これは、2016年6月4日のシンポジウムの際に語られた発言で、当時はまだ「テロ等準備罪」(共謀法)が国会に提出される以前でし
たが、その後の経過をみると、ワイズナー氏の危惧がそのまま現実になっているようです。

つまり安倍首相は、国連の国際組織犯罪防止条約(TOC)に加盟するために「共謀罪」は必要である、と繰り返して発言しています。

しかし、TOCは元来、マフィアのような犯罪集団の金銭的(経済的)詐欺や犯罪を阻止することが主目的で、テロ防止を目指したも
のではありません(『東京新聞』2017年3月26日) 参照)。

それは、政府も承知しているので、「東京オリンピック・パラリンピックを控え、テロ対策に万全を期すことは開催国の責務」と、別
の「脅威」を持ち出しています。

これは、客観的にみれば、国民総監視体制を合法化するための口実としてオリンピックを持ち出したとしか考えられません(『東京新
聞』2017年4月7日)。

深読みすると、政府は既に監視体制と、その手段(たとえば、スノーデン氏が暴露した、2013年にアメリカから提供されたとされるコ
ンピュータ監視ソフトのXKEYSCORE)を手に入れ、その使用を正当化するために「テロ等準備罪」を何が何でも導入しようと
していると推測できます。

シンポジウムに参加していた青木理氏は、監視体制と関連して、2016年5月に「盗聴法」(改正通信傍受法)が成立してしまったことに、
日本のメディアの警戒感が非常に薄い、と危機感を表明しています。

青木氏はかつて通信社に勤務していた時、日本の公安警察の内情を明らかにする著書『日本の公安警察』(講談社現代新書、2000年)
を出版しましたが、これが主な理由で、警備公安警察から排除されてしまった(つまり出入り禁止となってしまった)経験があります。

続いて青木氏は、最近の日本メディアは公安警察をはじめとする権力を監視する機能がますます弱まっている、と指摘しています。

その背景には、政府の持つ情報は、原則的には市民全員の共有財産であり、一時的には秘密が必要な場合があっても、それはいずれ公開
されて歴史の検証を受けなければならない、という原理原則が日本に根付いていないこと、政府に任せて守ってもらえば「安心・安全」
だというお上依存体質が非常に強いことも、現状をもたらしている要因だと指摘しています(144-145 ページ)。

以上の他にも、この本に関連して検討する問題はたくさんありますが、それは、別の機会にゆずり、以下に、世界と日本で、権力による
監視活動を国民の側が監視するシステムはどうなっているでしょうか?

実は、スノーデン事件をきっかけとして、国家が市民を監視することに対する歯止めを、21013年12月に国連決議で設けました。

この決議には、国連の全ての加盟国は、監視活動に対して独立して効果的な監視機関を設けるべきであるとする条項が含まれています。

これを実施するために、国連の特別報告者という人物が任命されており、彼らが日本を含む各国の国連決議の実施状況について調査をし
ています。

日本に対しては、このブログでも紹介した、国連の特別報告者のケナタッチ氏が、「共謀罪」が個人のプライバシーを侵害する危険性を
指摘し、さらにTOCを締結するため、というのは口実にすぎないことを安倍首相への公開書面で指摘しました。

安倍首相に懸念と見解を求めた公開書簡に関して、菅官房長官は今年の5月22日に、
    特別報告者は独立した個人の資格で、国連の立場反映するものではない。政府は(ケナタッチ氏に)直接説明する機会もなく、
    公開書簡の形で一方的に発出された、
と、あたかも一私人の個人的見解に過ぎない、と一蹴しました。

しかし、ケナタッチは国連から任命された、正規の調査報告者です。これに対して、日本政府の反論、といより単なる怒りと不満を綴っ
ただけで内容はない、とケナタッチ氏から再反論されています。

神奈川大学の阿部浩己教授は、この菅氏の対応にたいして、ケナタッチ氏の指摘には真摯に対応すべき、と言い、「ヒューマンライツ・
ナウ」の伊東和子弁護士は、「人権理事会の理事国なら範を示すべきなのに恥ずかしい」と批判しています(『東京新聞』2017年5月27
日)。

ケナタッチ氏と同じ国連特別報告者のデービッド・ケイ氏(言論と表現の自由に関する国連特別報告者)は来日し、6月2に記者会見しま
した。

そこで、ケイ氏は、5月30日に公表した対日調査報告書に関して、特定秘密保護法によりジャーナリストが処罰されないように、運用
基準ではなく、法的保護を明確にしてほしい、この法律によって報道の自由が萎縮することを懸念する、そして政府が放送局に電波停止
を命じる根拠となる放送法4条の廃止を勧告しまいた。

日本政府は「不正確で不十分な内容だ」と批判しましたが、「多くの人から話を聞いた。意見の違いはあるかも知れないが、報告書の事
実は正確だと自信を持っている」と述べました(『東京新聞』2017年6月3日)。  

ここでも、日本側の対応は、真摯さに欠けているようです。ケイ氏の報告書も6月12日の国連人権理事会で報告される予定です。

果たして日本は、民主主義国家として、人権と表現の自由が国際社会の中で胸を張って主張できるかどうか、国連の場でも試されます。

最後に、青木氏が紹介している、アメリカのもう一つの側面について紹介している部分を引用しておきます。

私はアメリカにおける監視体制には絶対賛成できませんが、紛争地取材にあたるジャーナリストやメディア記者たちを集めて国務省
長官のケリー氏が語った言葉は、これこそが国家とジャーナリズムのあるべき姿だと感じました。その趣旨は、
    危険地取材するジャーナリストの危険性をゼロにすることはできない。唯一の方法があるとすれば、それは沈黙することだ。
    しかし、沈黙は独裁者に力を与えることになるから、それはすべきではない。政府にできることがあったら言って欲しい
    (147-148ページ)。
これは、日本でシリアで拘束されたジャーナリストの後藤さんや、取材させないためにフリーのカメラマンのパスポートを取り上げ
てしまうなど、日本政府が自由な取材を抑え込もうとした時期に発せられた言葉です。彼我の違いに唖然とします



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スノーデン『日本への警告』を読んで(2)―プライバシーと知る権利―

2017-06-04 10:22:14 | 政治
スノーデン『日本への警告』を読んで(2)―プライバシーと知る権利―

スノーデン氏は、本書の冒頭「発刊にあたって」で、
    理念のために立ち上がることは、ときにリスクを伴います。私と同じこと、すなわち不正を暴くために自分の
    人生を完全に変えることを、誰もができるわけではありません。
と述べています。

彼のリスクとは、母国アメリカに帰れないこと、帰れば確実に逮捕・投獄されること、そして将来の人生を失うことです。

それでも彼が国家秘密情報を海外に持ち出した重要な動機の一つに、「犯罪と縁もゆかりもない世界中の市民のプライベー
トな活動を民主的な政府が監視していることの証拠」をジャーナリストに提供して世間に示すことだ、と言っています。

彼はプラバシーについて、「自分が自分であるために必要な権利」、「悪いことを隠すということではありません。プライ
バシーとは力です」「プライバシーとはあなた自身のことです。プライバシーは自分であるために権利」、「他人に害を与
えない限り自分らしく生きることのできる権利」など、繰り返し語っています。

ところが、アメリカにおいては、とりわけ「9・11事件」以降、政府は国民の通信を傍受することで監視するようになり
ました。

これほど重要なプライバシーを、政府などの権力をもった組織が、IT技術を駆使した監視システムを通して、常時、全て
の国民の通信の傍受し監視し、侵害していることに、スノーデンは危機感を抱いているのです。

前回も紹介したように、あらゆる電子情報を国民全体に網をかけて監視することをマス・サーベイランスと言います。

マス・サーベイランスの問題は、犯罪に関係していようがいまいが、国民の行動を無差別に監視し、それによってプライバ
シーを侵害していることです。

本書では詳しく語られていませんが、つい最近、スノーデンは共謀罪の危険性に関連して、マス・サーベイランスとその方
法について、『東京新聞』とのインタビューで、日本における実態を明らかにしています。

エックスキースコア(XKEYSCORE)―世界のインターネット上のデータを検索・分析するための大規模監視システ
ム。アメリカのNSAが使用している―は何ができるか、という質問に、
    私も使っていた。あらゆる人物の私生活の完璧な記録を作ることができる。通話で
    もメールでもクレジットカード情報でも。監視対象の過去の記録まで引き出すことができる『タイムマシン』のよ
    うなものだ
と答えています(『東京新聞』2017年6月2日)。

このエックスキースコアは、NSAから日本へ供与され、それを示す機密文書(スノーデンが持ち出した文書、2013年4月8日、
の中にある)は本物であることをアメリカ政府も認めている、という。

このシステムは日本国内だけでなく世界中のほぼ全ての通信情報を収集できるという。共謀罪が適用されると、「日本にお
ける(一般人も対象とする)大量監視の始まり。日本にこれまで存在していなかった監視文化が日常のものになる」とスノ
ーデンは危惧しています(『東京新聞』同上)

このシステムについては国会でも問題となりました。政府は、エックスキースコアが日本に供与されたことを否定していま
すが、スノーデンは、「日本だけが認めていないのは、ばかげている」と語っています(『東京新聞』同上)。

マス・サーベイランスに関与する官僚は、「隠すことがなければ恐れる必要はありません」と述べて監視を正当化するが、
このような説明は第二次大戦中、ドイツのナチスが用いたレトリックと全く同じだ」、また別の表現で、「隠すことがなけ
ればプライバシーの権利を気にする必要がないというのは、話したいことがなければ言論の自由は必要ないというのと同じ
くらい危険なことです」と述べています(66~68ページ)。

そういえば、安倍首相も、今回の共謀罪は一般の国民を監視対象とはしないと繰り返し言ってきましたが、言葉通りに受け
取ることはできません。

というのも、2月2日の衆議院予算委員会で金田法務大臣は、捜査で電話やメールなどを盗聴できる通信傍受法を使う可能性
を認めているからです。

これは、日本のさまざまなインターネット・プロバイダーや電話会社(代表的なNTTコミュニケーションズ)も、政府に
よる傍受を認めていることを、はからずも認めてしまったことになります。

エックスキースコアが日本の政府に供与されていたとすると、私たちの電話やメールは、すでに傍受されている可能性は十
分にあります。なぜなら、これこそがこの監視プログラムの目的だからです。

アメリカは日本をも対象として情報を傍受していたことが明らかになっています。たとえば、国際捕鯨委員会で日本の捕鯨
が批判の対象になることが分かっていた時、日本政府は、データを添えてそれに対する反論を準備していましたが、その情
報が筒抜けになっていて、全く意見を述べる機会もなかった、という苦い経験があります。

日本の捕鯨を批判していたニュージジーランドの元首相は、NSAからの方法は大変役に立ったと語っています(注1)。

また、NSAは日本の経済政策や気候変動対策に関する情報を収集するために、日本の大企業や政府の内部の会議を盗聴して
いたことが、ウィキリークスによって暴露されています(59ページ)(注2)。

アメリカはヨーロッパの要人の電話を盗聴していたことを認めました。メルケル・ドイツ首相は当時、オバマ政権に強い抗議
をし、それによって、一応は盗聴を止めたことになっています。

日本においても、首相を始め、要人の電話は盗聴されているはずですが、なぜか日本政府は全くアメリカに抗議していません。

国民の側は、自分についてどんなことが監視されているのかを知ることなく、政府の側は、政策の決定過程やその意図などに
ついての情報を秘密にしたままで、一方的に個人のプライバシーを覗く、という情報の非対象性にあります。

そこで、国民の側で政府の監視活動や政治・行政について知る権利があり、それは国会だけでなく、ジャーナリズムの大きな
責任である、というのがスノーデンの主張です。

しかし、スノーデンは、日本の報道は危機的状況にあると警告しています。

その態様は、ピストルを突きつけたり暴力的手段に訴えるのではなく、本当の恐怖は、静かな圧力、企業による圧力、インセ
ンティブによる圧力、あるいは取材源へのアクセスの圧力という形で表れるという。

スノーデンは危機的状況としている具体例として、「テレビ朝日(古館氏)、TBS(岸井氏)、NHK(国谷氏)といった
大きなメディアが、何年にもわたって視聴率の高い番組のニュースキャスターを務めた人を、政府の意に沿わない論調である
という理由で降板させた」ことを挙げています(カッコ内は筆者が補足した)。

また、政府はあたかも公平を装った警告のようにふるまう。「この報道は公平ではないように思われますね。報道が公平でな
いからといって具体的に政府として何かするわけではなりませんが、公平でない番組は報道規制に反する可能性がありますね」
などとほのめかします。(66~67ページ)

こうした類の脅迫はメディアの上層部に明確に伝わっており、事情は理解できるが、メディアはそれに屈してはいけない、と
スノーデンは日本のメディアに注文をつけています。

加計学園問題に関して、元文科省事務次官の前川氏が民法テレビ局のインタビューで、最近、NHKと1時間半ほどのインタビ
ューを受けたが、なぜか全く放送されなかった事実を語っていました。

これだけの時間、インタビューして全く放送しなかったのは、かなり異例で相手に失礼なことで、他の局では基本的に放映し
ています。

これについてNHKは何も言ってはいませんが(もっとも言えないでしょうが)、何らかの圧力なり忖度が働いたとしか考え
られません。

日本における報道の自由に関する疑念は、ケナタッチ氏や最近来日した、国連の「表現の自由」に関する特別報告者、デービ
ッド・ケイ氏も語っています。(注3)

今月、国連の人権委員会でケナタッチ氏とケイ氏の報告が検討されることになっています(ちなみに、日本はこの委員会の理
事国になっています)。

これまでの日本政府の対応を見ていると、「自由と民主主義を価値観」とする日本が国際社会を納得させるだけの反論ができ
るとは思えません。


(注1)NHKクローズアップ現代「スノーデンファイル」(2017年4月27日放送)
(注2)Wikileaks, “Tokyo Target”. https://wikileaks.org/nsa-japan/
(注3))『東京新聞』(2017年6月3日)
    http://news.livedoor.com/article/detail/13149798/ (2017.6.2)
なお、彼らの見解については、また別の機会に詳しく紹介したいと思います。

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奥入瀬渓谷の新緑は、目に沁みるような鮮やかさで、春ゼミの鳴き声とともに、久しぶりに初夏の自然を満喫しました。


新緑の奥入瀬渓谷(1)


新緑の奥入瀬渓谷(2)











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スノーデン『日本への警告』を読んで(1)―「共謀罪」との関連で―

2017-05-28 09:07:56 | 政治
スノーデン『日本への警告』を読んで(1)―「共謀罪」との関連で―

スノーデン氏の情報曝露に関しては、映画『スノーデン』を見た感想を、このブログの2017年2月11日と3月4日
の2回にわたって紹介しました。

スノーデンはCIA、NSA(国家安全保障局)、DIA(国防情報局)の職員を歴任した情報に関するプロであり、国家の
最高機密に接することができる、数少ない人物の一人です。

また、彼は日本の横田基地で2年間、スパイ活動に従事していましたので、日本の事情も良く知っています。

その彼が、アメリカ政府が行っている、理不尽な情報監視に疑問を抱き、2013年6月、大量の秘密文書を持ち出して
ロシアに亡命し、それをイギリスのジャーナリストに渡して機密文書を世界に曝露しました。

上記の映画『スノーデン』はそのブロセスは再現したもので、本人も登場します。

その後、NHKの「クローズアップ現代」で今年4月の24日と27日に、今まで公開されなかった、日本に関する
13の「スノーデンファイル」が公開されました。

24日には①アメリカが日本をスパイ活動に利用している、②アメリカが日本を監視対象に? の2点について、
27日には③大量監視プログラムを日本に提供? について紹介しています。

そして、NHKのスタッフは亡命中のスノーデンをモスクワに訪ねてインタビューもしています。

今回はこれらの映像も含めて、スノーデン著『日本への警告』(集英社、2017年5月)を読んだ感想を、とりわ
け「共謀罪」との関連で書いてみたいと思います。

『日本への警告』は2016年6月4日、東京大学本郷キャンパスで行われたシンポジウム「監視の“今”を考える」
を完全翻訳したものであり、スノーデン氏はインターネット画面を通じてこのシンポジウムに参加しています。

本書は二部構成となっており、一部は、スノーデン氏自身が登場して主催者の質問にスノーデン氏が答えるとい
う形の内容が収録されています。

二部は、それを基に日本側から4人のジャーナリスト(青木理)、弁護士(井桁大介、金昌浩)、憲法学者(宮
下紘)が、アメリカ側から、ニューヨークの人権団体のムスリム監視事件の弁護人(マリコ・ヒロセ)とスノー
デンの法律アドバイザー(ベン・ワイズナー)が、さまざま経験と観点から、スノーデンのメッセージとその意
義について討論しています。

まず、第一部、スノーデン自身が語っている内容を見てみましょう。

彼は、どのようにして情報の世界と関わるようになったか、という質問に次のように答えています。

彼は冒頭で、自分は真の意味で愛国者であること、しかし、NSAのスパイ活動を通じてアメリカという国家の民
主主義に強い危機感を抱くようになり、その実態を世界に知らせるために、極秘ファイルをもって亡命したこと
を語っています。

彼は、民主主義は政府が十分な情報を公開し、選挙で選ばれて初めて正当性を持ち得るのに、もし、政府の施策
について情報を隠し、嘘をついているとなれば、それは民主主義の根底が否定されることになる、と主張します。

    政府の中にこのことに反対する人がいるとするならば、それがトップの安倍首相であれ、自衛隊や防衛
    省の事務方であれ、地方自治体の職員であれ・・・・この民主主義の原理を信じていない人がいるなら
    ば、そこから政府の腐敗ははじまるのです。

ここでは、日本の政府にも、断定的ではなく、“もし~ならば” という仮定の話として語っていますが、彼は
日本の実情をよく知ったうえで、話していると思われます。

彼自身が従事していた、スパイ活動の中で、NSAの監視プログラムについて概略を説明しています。

一つは、ターゲット・サーベイで、主に軍事的な組織を標的にし、相手リーダーの電話を監視することです。

次は、軍事ではなく外交的、経済的、政治的に優位に立つために行われる監視です。例えばアメリカは同盟国の
ドイツのメルケル首相の携帯電話を盗聴していました。

このほか、石油会社、NGO、ジャーナリストを監視対象とします。これが無差別・網羅的な監視です。

これを行うためアメリカ政府は、グーグル、フェイスブック、アップル、マイクロソフト、ヤフーなどのインター
ネット・サービス・プロバイダやネットワーク・コミュニケーションのシステムとインフラ、光ファイバー回線、
衛星などの設備を提供する、通信事業社などに協力させます。

政府はこれらの会社を経由する全ての通信情報にアクセスして盗聴できます。そして膨大な量のマス・データから
自分たちが求めている情報を選り分けて入手しています。

これをマス・サーベイランスと呼び、無差別のマス・サーベイランスは国際法上、多くの国では国内法上、許され
ない捜査となっています。

本来、アメリカでも、犯罪に関わった疑いの無い人や犯罪に手を染めていない人は、国に詮索されない権利を持っ
ていました。

しかし、スノーデンが経験し目撃したのは、この権利が侵害されている実態でした。

あらゆる場所であらゆる人を監視対象とするようになったのです。

スノーデンは、日本でいえば、スイカ、パスモ、携帯電話を使うたびにマス・データを作っていることになります。
また、グーグルの検索ボックスに入力した単語の記録は永遠に残ります。

問題は、こうしたデータを警察なり政府が自由に利用できるかどうか、とりわけ、日本の現状はどうなっているか、
です。

現在、ヨーロッパおアメリカ間は光ファイバーによってつなげられ、それは海底ケーブルによって伝達されますが、
ここを経由した情報は最終的にはアメリカを通ることになる。

アメリカの通信会社は、こうした情報に関してNSAにたいして無制限のアクセスを許可しています。つまり、国
家は全ての通信情報を傍受・盗聴できるのです。

日本とアメリカとでは情報収集と交換に関してどのような協定があるのか、との質問に対してスンーデンは直接
には答えませんでしたが、彼の経験で、NASが保管している情報には日本発のものが多数あったということです。

また、彼が横田基地でアメリカと日本の情報機関の橋渡しをする施設で働いていた時、アメリカの情報機関は、常
時、日本の情報機関と情報を交換していた、と語っています。

今や、アメリカもイギリスも人権活動家やジャーナリストを常時監視し情報を交換していることは周知の事実とな
っています。

彼は、日本における政府の情報監視に関して、次のように危機感を述べています。
    ここ数年の日本をみると、残念ながら市民が政府を監視する力が低下しつつあるといわざるを得ません。
    2013年には、政府がほとんどフリーハンドで情報を秘密にできる特定秘密保護法を、多数の反対に
    もかかわらず制定されてしまいました。

このような秘密主義は、政治の意思決定のプロセスや官僚の質を変えてしまうから、ジャーナリスト、言い換えれ
ば国民は、それを知るべきである、と彼は言います。

    政府が安全保障を理由として、政策の実施過程は説明せず、単に法律に従っていると説明するだけでとな
    れば、・・・やがて政府による法律の濫用が始まるでしょう。政府からすれば、何をやっても伝えなくて
    はよいという普遍的な正当性の盾をもっているとおもうわけですから。

スノーデンは、非常に柔らかい表現ではありますが、日本の現状、とりわけ政府による法律の濫用に危惧をいだい
ています。

彼は、日本でも全体主義が拡大していることに危惧を抱くと同時に、憲法9条を正規の法改正ではなく「裏口入学」
のような法解釈を行ってしまったことを問題視しています。

なぜなら、「これは世論、さらには政府に対する憲法の制約を意図的に破壊したといえます」と述べています。に
危惧を表明しています。

    政府が「世論は関係ない」、「三分の二の国民が政策に反対しても関係ない」、「国民の支持がなくても
    どうでもいい」と言い始めているのは、大変危険です。

こうした状況に対して、メディアも連帯して、政府の政策や活動を批判しないようプレッシャーを掛けてくる政府
に対抗する必要があるのに、日本の報道は危機的状況にある、というのがスノーデンの認識です。

これについては、次回に詳しく紹介したいと思います。



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共謀罪(2)-問題山積みの法案―

2017-05-21 09:06:14 | 政治
「共謀罪」(2)―問題山積みの法案―

政府与党が提出した「共謀罪」法案が、昨日5月19日の法務委員会で強行採決され、自民・公明・維新らの賛成多数で可決されました。

安保法制の時も同様でしたが、安倍政権には強者の論理だけがあって、説明して納得してもらうという姿勢は全く感じられません。

「共謀罪」は、多くの国民の日常生活に影響を与える可能性があり、かつ日本の民主主義の根幹にかかわる重要法案であり、疑問点がた
くさんあるにもかかわらず、30時間の審議時間を費やしたから、十分審議は尽くされた、という政府側の言い分にはかなり無理があり
ます。

というのは、この法案に反対する野党議員の背後には、多数の国民がおり、これら野党を無視することは、彼らを送り出した国民を無視
していることになるからです。

この日、最後に質問に立った維新の丸山穂高氏は最終盤に「ピント外れの質疑ばっかり繰り返し、足を引っ張ることが目的の質疑はこれ
以上必要ない。直ちに採決に入って頂きたい」と促しました。

与野党が対決する法案であれば、問題点を指摘しながら、質疑時間をできるだけ確保しようと努めるのがこれまでの野党の姿でした。自
公との修正に合意した維新は、政権与党の一端を担っている姿を誇示するかのように、矛先を他の野党に向け、与党との一体化を演出す
る役割を担いました(注1)。

安保法案の時と同様、公明党は最終的には安倍政権の強行採決に賛成し、山口代表は今回も、審議は十分に尽くされたから採決すべきだ、
との声明を出しています。

もちろん、弁護士で法律の専門家である山口氏は「共謀罪」の危険性や問題性は十分に分かっているはずですが、ここにも政権与党にい
ることが至上目的と化してしまった公明党の本質がいかんなく発揮されています。

ところで、政府は、審議は十分尽くされたと言っていますが、本当にそうでしょうか?とりわけ、国民はこの法案についてどれほど分か
っているのでしょうか?

朝日新聞による直近のアンケート調査によれば、「法案の内容を知らない」が63%、「いまの国会で成立させる必要はない」が64%、
「政府の説明は十分ではない」78%でした。

それでは、安倍内閣支持層に対するアンケートの回答状況は順に60%、56%、73%と同じような傾向でした(『朝日新聞』2017年
5月20日 「社説」)

つまり、平均でも、安倍内閣の支持者でさえ、6割の人は法案の中身を知らず、7割以上の人が政府の説明は十分ではない、と答えてい
るのです。

国民の理解が得られないまま、国会内の絶対多数の議席数(それも小選挙区制のもとで得られた議席なのだが)をもって、問答無用の強
行採決をするというのは、いかにも無謀です。

ここはやはり、どっしりと構えて野党と国民の疑問に答える「横綱相撲」をとって欲しいと思います。

次に、「共謀罪」の対象となる処罰対象にはどんなものが含まれているのかを見てみましょう。

当初案では処罰対象は615ありましたが、最終的に277に絞り込みました。

ここにも、この法案の危うさがあります。というのも、政府は過去に、600以上の罪を対象としなければ国際組織犯罪防止条約(TOC)
(2000年11月15日成立)を批准できない、と説明していましたからです。

しかも、皮肉なことに。これが国連で議論された2000年当時、日本はこれに反対していたのです(『東京新聞』2017年3月26日)。

600以上というのは、ほとんどの住民の日常生活行為が含まれてしまいます。

しかも政府は、277に絞り込んだ根拠も全く示していません。

つまり、政府案では、思いつくものを一つ一つ真剣に検討した形跡はありません。

「共謀罪」全体の処罰対象は5類型に分けられます。

すなわち、類型1は「テロの実行」で処罰対象は110項目、類型2は「薬物」で29、類型3は「人身に関する詐取」が28、類型4は
「その他資金源」101、類型5は「司法妨害」9となっています。

これらの数字だけ見ると、政府が主張する「テロ等準備罪」法案のような印象を与えます。

しかし、前回の記事でも書いたように、政府が法案の目的としている国際組織犯罪防止条約は、テロ防止のための条約ではなく、マフィア
の資金源を断つこと、人身売買を防ぐためのものでした。

しかも、この条約に加盟するには、日本の現行法で十分であるという意各方面からの指摘を受けて、最近欧米で頻発しているテロや、2020
年の東京オリンピックにことよせて、テロという言葉を冠につけて「テロ等準備罪」として法案を提出したのが実情です。

しかし、中身を一つ一つみてゆくと、果たしてこれが「テロ」の防止に関係あるのか、あるいは既存の法律で十分、対応できるのではない
か、というものがかなりあります。

すでに、これらの277項目の具体的な内容とその曖昧さなどについては国会でも指摘されてきているので、以下に、二つだけ疑問に感じ
る点を書いておきます。

一つは、類型1の最後に挙げられている「クラスター爆弾禁止法」で、クラスター爆弾の製造と所持、ということになっています。


周知のように、クラスター爆弾は非人道的兵器として、2010年に「クラスター爆弾禁止条約」がオスロで30カ国が署名し、日本も国会で
承認しています。

ところが、現在、クラスター爆弾を製造している企業(米デキストロン社)へは、日本からは、大和投資信託、三菱UFJフィナンシャルグ
ループ、みずほ銀行、野村、住友信託銀行の五機関が投資しています。

なかでも、三菱FG、三井・住友FG、みずほ銀行の三大メガバンクだけで896億円投資している。

さらに問題なのは、「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」が、「クラスター弾」製造企業の株式を192万株(約80億円)
も保有していることが明らかになったことです。

民進党の長妻昭衆院議員は「国民の年金で買うのはおかしい」と主張しています(注2)。

政府は、欧州ではこうした企業を投資の対象から外す年金基金が複数あることから、識者からは「GPIFが特定の企業に投資できなくす
る仕組みが必要」との声が出ています。

「責任投資」を専門とする高崎経済大の水口剛教授によると、海外ではノルウェー、スウェーデン、オランダ、カナダなどの年金基金が、
クラスター弾関連企業を投資の対象から外しています。これは、議会が法律で明確に投資を禁止したり、独
立の第三者委員会が関与したりして実現したもので、日本も同様にできるはずです。

水口教授は「ルールを定めて外部の委員会を設けるなどすれば倫理に反した投資を客観的に選別することはできる」と提言している(『東
京新聞』2017年5月12日)。安倍政権は、クラスター爆弾の製造会社であろうとも、そこへの投資は禁止されていないとの見解を閣議決
定していますが、どう考えても腑に落ちません。


もう一つは、類型4に含まれる「種苗法」(育成者権等の侵害)です。これがどのようにテロと関係するのか、意味不明です。

全体を通して、上記の国際条約の早期過程に詳しい、元法務相幹部は「政府が言うようにテロ対策ならテロ条約を締結しているので十分だ。
ハイジャックや爆弾犯に対する対応はできている。TOC条約は薬物犯罪や人身売買などの組織犯罪に適用することを想定している」と述べて
います(『東京新聞』2017年3月26日)。

また、「共謀罪」にたいして、「プライバシーの権利に関する国連特別報告者のカナタッチ氏は、プライバシーや表現の自由を制約する恐
れがある、と強い懸念を示す5月18日付けの書簡を安倍首相あてに送付しました。

特に強い疑念は、①法案の「計画」や「準備行為」の文言が抽象的で恣意的に適用されかないこと、②対象となる犯罪が幅広くテロリズム
や組織犯罪と無関係なものを含んでいること、③どんな行為が処罰対象になるのか不明確、刑罰法規の明確性の原則に照らして問題がある
こと、④さらに、プライバシー保護の適切な仕組みが欠けていること、を警告しています。

プライバシー保護に関しては「国家安全保障のために行われる監視活動を事前に許可するための独立機関の設置が想定されていない」こと
も指摘しています。

つまり、現在の法案では、どのような状況があったら個人を監視できるかは、警察当局の主観的な判断で決まることで、それを審査する独
立機関がないことに、大きな問題がある、としているのです。

前回の記事でも書いたように、具体的な行為がなく、心で思っただけでも処罰の対象になる可能性(内心の自由への侵害)があります。

国会で、法務大臣は、何を計画しているかを知るためん、メールやLineの傍受も可能である、との答弁をしていますが、これこそ、上に引
用したカナタッチ氏が、プライバシーの侵害に当たると警告している点です。

政府は、「共謀罪」は一般の市民は対象にしない、と答えていますが、過去の歴史をみるとそsのまま信じることはできません。

1925年に成立した「治安維持法」は当初「国体」の変革を目指す結社などが対象でしたが、法改正がなし崩し的に進み、適用範囲が拡
大し、あらゆる市民活動に「共産主義運動」のレッテルを貼り、こじつけの逮捕と過酷な拷問が横行ししました。

この法律で逮捕されたり取り調べを受けたりした時とは数十万人、うち、6万8000人以上が送検sれ6150人が起訴されました。

そして取り調べ中の拷問等で死んだ人は93人に上ります(『東京新聞』2017年4月7日)。こうした苦い過去は繰り返すべきではない、
というのが多くの国民の願いではないでしょうか。


(注1)『朝日新聞』デジタル版 (2017年5月20日01時54分)http://digital.asahi.com/articles/ASK5M4JSJK5MUTFK00X.html?rm=792
(注2)Finance Green Watch 2014年11月28日 http://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/?p=717
   『週刊金曜日』(2011年6月15日)(2017年5月21日閲覧)
   http://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/?p=717 


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共謀罪(1)―本当の狙いは?―

2017-05-14 06:39:55 | 政治
共謀罪(1)―本当の狙いは?―

政府・与党は何が何でも、強行突破しようとしている「共謀罪」(組織犯罪処罰法改正案=テロ等準備罪)は、制度的・原理的
にも実際的にも問題が多すぎます。

共謀罪を簡単にいうと、組織的犯罪集団の2人以上で実行を計画し、うち1人でも準備行為をすれば、全員が処罰されるという
もので、現行案では対象犯罪は277あります。

まず、この法案が何のためか、政府側の見解に出発点から問題があります。

政府は、国際組織犯罪防止条約の締結のために、現行法では不十分だから、新たに組織犯罪防止のための法律が必要である、と
述べてきました。

ここに、第一の問題・矛盾があります。日弁連や有力な法学者は、現行法のままか、微修正で加盟できるとしています。条約は、
各国の裁量を広く認めており、具体的には各国の事情に合わせて法整備をすればよい、としています。

次に、条約は、本来、マフィア対策(特に資金面での)のために各国が協調しよう、との趣旨で設けられたものです。

つまり、マフィアのマネーロンダリングや人身売買、麻薬取引など金銭目的の犯罪を主眼としており、テロ対策が目的ではあり
ません。

政府は、過去三回にわたって共謀罪法案を国会に提出していますが、その際、テロ対策としなかったのは、この条約がテロ対策
条約ではないことを知っていたからです。

実際、今回の法案も最初、テロ対策は強調されていませんでしたが、法案の中身の審議の際、「テロ」という言葉がどこにもな
いことを指摘され、慌てて「テロ等準備罪」とし、「等」の中に何でも対象となるよう、表現を変えたのです。

安倍首相は、過去の経験から「共謀罪」に対しては国民の反対が強いので、テロ防止法がなければ2020年のオリンピック・パ
ラリンピックは開催できない、と説明してきました。

突然、「共謀罪」がオリンピックと関連づけられ、テロ対策法であるかのように名称を変えたのです。

これまでオリンピックが開催された国で、国際組織犯罪防止条約に加盟していなかった国でも特に問題はなかったし、この条約
に加盟していてもテロが起き時には起きるので、あえて安倍首相が「共謀罪」とオリンピックと結び付けることには、制度的・
原理的に正当性がありません。

それでも、共謀罪が「テロ対策」だと言い続けて、強引に突っ走っているのは、国会で一定の審議時間が過ぎれば、最後は強行
採決してでも、数の力で押し切れる、と考えているからでしょう。

数の力で強引に通過させることで、一時的に批判を浴びるかも知れないが、安倍内閣の高い支持率がある限り、国民は結局、安
倍政権を支持し続けるだろう、と高をくくっているように見えます。

今や、安倍首相は、何でもできる、という万能感に浸っているようです。

国民も随分、見下されたものだと思いますが、街頭でのインタビューなどをみていると、共謀罪について何も知らない、と答え
た人が結構いました。

このあたりも政府は見ているのでしょう。

次に、内容をみてみましょう。

すでに多くの法律家や識者が指摘しているのは、「「共謀罪」が「内心の自由」を侵害する危険性が大きいことです。

「内心の自由」とは、心では何を思っても自由、という近代社会における最も根源的な人権のことです。

たとえば、たとえば憲法学者の木村草太氏は次のように指摘しています(『東京新聞』2017年5月11日朝刊)。

    共謀罪の対象となる「組織的犯罪集団」と認定される要件は、犯罪の目的、団体の組織性と継続性があればよく、
    過去の犯罪歴や指定暴力団などの要件はありません。
    共謀罪ができれば、警察は、犯罪を計画した疑いがあれば捜査できる ようになり「不当逮捕」の範囲はどんどん
    狭まる。処罰範囲よりも捜査範囲の拡大によるインパクト方が大きい。

言い換えると、この法案では、警察が「疑わしい」と判断すれば捜査の範囲をどこまでも広げることができる、という危険性
をはらんでいということです。

では、犯罪の準備であれ実行であれ、具体的な行為に出る前の段階で、警察はどのようにして「疑わしい」と判断するのでし
ょうか?

ここに、もう一つの問題があります。つまり警察は常時、人々の行為だけでなく、通信(SNS、電話、インターネット、ス
カイプなどの電子通信)を監視・盗聴してゆくことになります。

これこそ、木村氏がその危険性を指摘する、「捜査範囲の拡大」です。

したがって、政府がどのように説明しようと、一般市民への適用や不当な乱用を排除する手掛かりは条文にはありません(注1)。

計画を心の中で合意しただけで処罰するのは、憲法が保障する「内心の自由」の侵害にあたります。

これを正当化するには、具体的かつ社会に重大な危険を及ぼす計画・準備行為を必要条件としなければなりませんが、今回の
法案からはそれを読み取ることはできません。

もうひとつ、今回の共謀罪には、日本の法体系を根本から覆してしまう可能性があります、

山口大名誉教授(近現代日本政治史、現代政治社会論)の纐纈厚氏は、
    共謀罪の最大の問題は刑法の原則を大きく逸脱する点です。現行の刑法では既遂での摘発が原則。加えて未遂でも処罰
    できる。ところが共謀罪の原案によれば、重大な犯罪に限り、「準備行為」でも処罰の対象とされる。共謀罪の特徴は
    計画や合意だけで犯罪が成立すること。それで「準備行為」をしていない者も処罰の対象となる。言論の自由にとって
    深刻な脅威となる(『東京新聞』2017年4月8日)。

と反対の理由を述べています。

つまり、日本の刑法では、実際に行為をした場合(既遂)にのみ罰則の対象になるのが大原則ですが、「共謀罪」は、心に思っ
ただけで、逮捕・処罰することができるのです。

纐纈氏は、共謀罪の本当の目的について、本質を突いた指摘をしています。

    米中枢同時テロ以降、先進諸国では監視社会の強化につながる法整備が進められています。監視や管理による国民情報
    の把握、警察権力強化への重大な一里塚として「共謀罪」が想定されているととらえるべきです。「特定秘密保護法」
    「安保関連法」との文字通り三位一体で、安倍首相の言う「戦後レジームからの脱却」、事実上の「戦前レジームへの
    回帰」が法的に担保されることになります(同上)。
    
纐纈氏は、これら三つの法律は三位一体で、一方で政府は大切な情報を秘匿し、他方で国民のプライバシーを監視する危険性が
あるというのです。

次回は、共謀罪がもたらす可能性のある問題、政府(特に法務大臣)の答弁などに見られる、説明のあいまいさや矛盾など、を
検討します。

    
(注1)まだ、多少、の変更はあると思いますが、これまでの成案全文は
http://static.tbsradio.jp/wp-content/uploads/2017/03/kyobozai20170228.pdf でみるこができます。



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「森友問題」の本質と深い闇(2)―証人喚問で「窮鼠猫を噛む」―

2017-03-26 11:07:52 | 政治
「森友問題」の本質と深い闇(2)―証人喚問で「窮鼠猫を噛む」―


2017年3月23日は、日本の政治史にとって、一つの記憶すべき日となるかも知れません。

それは、それまで参考人招致さえかたくなに拒否してきた自民・公明の安倍政権が、突如、籠池氏を証人喚問する、と言い出した
からです。

事態が急転直下したきっかけは、今年の3月16日、国会議員からなる調査団が小学校の予定地を現地調査した時、籠池氏の口から、
唐突に、次のような言葉が発せられたことでした。
    この学園を作り上げようとしたのは、みなさんのご意思があります。そのご意思の
    中には、大変恐縮ですが、安倍総理の寄付金が入っていることを伝達します。   

籠池氏はそれまで安倍首相をずっと尊敬してきたと、言ってきました。

しかし、2月24日の国会で安倍首相は籠池氏について“しつこい”と表現しました。このことが、籠池氏にとってどれほど衝撃を与
え落胆させたかを安倍首相は全く想像すらできませんでした。

翌25日に籠池夫人は安倍夫人に、「今国会のテープをきかせていただきました。ひつこいとは 安倍総理には失望しました。主人
は悪者ですね」とメールを送っています(『東京新聞』2017年3月25日)。

平たく言えば、籠池氏は“切れた”のです。

それまで、なんだか怪しげではあるが、愛国主義的、復古主義的な教育思想に対して、大いに共感し、支持してきた安倍首相周辺
の態度が一変しました。

竹下亘(自民党国対委員長)は早くも翌17日、籠池氏の発言を「首相に対する侮辱」である、とこちらも“切れた”感情的反応を示
しました。

どうやら、安倍首相が激怒したからのようです。首相も側近も理性を失ってしまいました。

政権としては、出席を拒否できず、虚偽の発言をすれば偽証罪に問われる証人喚問に引っ張り出せば、嘘は言えないし、籠池氏の
言動を抑え込める、と高をくくって見ていたようだ。

こうして、3月23日、午前と午後、2時間ずつの証人喚問が与野党合意の下で実現しました。

それまで森友問題は、メディア・ジャックといっても過言ではないほど世間の注目を集めてきたため、籠池氏がどんな表情で登場
し、どんなことを言うのか、私も含めて、国民は半ば野次馬的雰囲気も加わって、テレビの画面を見つめていました。

10時少し前、籠池氏は議場に入ってきました。さすがに、証人喚問の場となれば、緊張や恐怖を顔に浮かべて入ってくるのだろう、
と想像していた人は、彼の落ち着き払った足取りと表情に、“おやっ”と思ったかもしれません。

着席の後、宣誓、そして、署名・捺印と続きました。ここで、テレビカメラは、籠池氏の手元をアップで映していました。以前、
日商岩井の海部八郎氏が証人喚問の際、緊張で手が震えていたことが、籠池氏の場合も起こるのではないか、と注目していたので
しょう。昔の映像が何度も映されました。

しかし、ここでも籠池氏は手を震わせることなく、全く冷静に署名・捺印を済ませて着席しました。

自民・公明の議員は、「お白州」に引き出されて、籠池氏の手も震えるのでは、と、多少は期待していたのかも知れません。いず
れにしても、籠池氏は平静そのものでした。

通常、参考人招致で意見を聞き、さらに問い質す必要があった時、承認喚問へ進むのが筋ではありますが、今回は安倍政権が、籠
池氏の100万円寄付の発言で、いきなり証人喚問に呼び出したという事情を考慮し、10分間、籠池氏に自由に話す時間を与え
ました。

この冒頭の10間で彼の恨み節がさく裂します。実際の演説はずっと長いのですが、その大部分は、今回の問題の中身にふれるの
で、次回以降に紹介するとして、ここでは、彼の言動の背景にある心情を示す部分だけを引用します。

    教育者として私の思いに安倍晋三首相、昭惠夫人、大阪議会など多くの方々の理解をいただき、感謝している。応援して
    くれたと方々が、手のひらを返すように離れていくのを目の当たりにして、どうしてこうなってしまったのだろうかとの
    思いもある。

彼は、「手のひらを返えし」たのは安倍首相夫妻と大阪府であると名指ししています。

以前、安倍首相は籠池氏の幼稚園での教育は素晴らしい、と妻から聞いている、と国会でも持ち上げていました。その安倍首相を、
今度は恨み節の対象として名指ししているのです。

そして、このような、彼からすると「裏切り」にも似た、人々のやり方に対する憤りを、最後に述べています。
 
    私だけにトカゲのしっぽ切りで罪をかぶせようとするのではなく、まず私がこうして国会の場で正直にお話さえていただ
    きますので、どうぞ是非その他の関係の方を国会に呼んで、事実関係をお聞きいただき真相究明を進めていただきますよ
    う心からお願い申し上げます。

ここで、今回の政府の対応を、「トカゲのしっぽ切り」と断じ、安倍首相に対して闘うことを明確に宣言したと言えるでしょう。

「窮鼠猫を噛む」とはこのことです。

小学校の設立はおろか、幼稚園の存続も財政的に無理となった籠池氏にとって、もう失うものは何もない、怖いものは何もない状
況になっていました。

証人喚問を前にして籠池氏の長男が、“もう守る人もいなくなったから、自由に何でも話せる”、という趣旨のコメントをしていま
した。

籠池側は、これまで尊敬していた安倍首相および昭惠夫人と大阪府(実際は松井知事)を守ってきた、との認識をもっていたよう
です。この背景を考えると、上に引用した長男の、「守るべき人は誰もいない」という言葉の意味が良く分かります。

激情のあまり、安倍政権側はこの状況をまったく読み違えてしまったのです。そこで、証人喚問の冒頭の発言となったのです。

籠池氏は、証人喚問があった23日の夕方、前回、一度キャンセル(どこかからの圧力がかかったようです)した外国人記者クラブ
での会見で、

    私人を証人喚問するということはある面で異常事態。ちょっとでもウソをついたら偽証罪で留置場に入れるぞという脅か
    しが常にあったと認識している。総理を侮辱したということだけで私人を国会に喚問するとはどこの国であるんでしょう
    かと、今回の安倍政権による証人喚問のあり方に、非常にまっとうな批判をしています。

つまり、権力に逆らって権力を「侮辱した」という印象を与えたら、一種の「不敬罪」として証人喚問に引っ張り出す国はどこに
あるんでしょうか、と言っているのです。

さらに、2017年3月25日放映のTBS『報道特集』のインタビューに応じた籠池氏は、安倍首相に対して、かなり客観的で的確な
評価をしています。

彼によると安倍首相は「保守」ではあるが(その点では自分と同じであるが)、大企業中心の大企業主義で、虐げられた者には力
を入れていない。

保守の政治家ではあるが、大企業主義で虐げられた者には力を入れていない。私たち個人を見ていない、と述べています。

また、証人喚問での証言で、偽証罪に問われるかもしれない事柄を断定的に言っているが、大丈夫ですか、といった質問には、自
分は命を賭けて国会での証言を行っている、と言いきっています。

さて、首相を守り、籠池氏を断罪しようと手ぐすね引いて待っていた自民・公明・維新・の質問者の内容を見てみましょう。

まず、参議院では自民の西田昌司は、昭惠夫人と籠池夫人とのメールのやり取りを公表し、そこから、昭惠夫人が100万円をも
らったという事実はない、ということを盛んに追及していましたが、籠池氏は、やはり「ある」、と断定しています。

同じく自民党の葉梨康弘氏は、元警察庁官僚は、安倍晋三記念小学院の名前が印刷された、寄付依頼の用紙が、安倍氏が首相にな
った後も長い間使われていたことが詐欺に当たるのではないか、と警察の取り調べ官のように繰り返し問い質していま
した。

葉梨氏からは、今回の問題の本質を解明しようとする意図よりも、なんとか偽証罪に問える証言を引き出そうとしているとしか、
私には映りませんでした。

他の公明党、維新など安倍政権よりの質問者の質問内容からも、「なぜ、国有地がこれほど安く売却されたのか、なぜ、これほど
問題のある小学校の設立申請が、あっと言う間に認められてしまったのか、そこに官僚や政治がどうかかわっていたのか」という、
国民がもっとも知りたい疑問を解明しようとする気迫が感じされませんでした。

証人喚問後の政権側のコメントをみても、籠池氏の言い分がいかにいい加減であるかがはっきりした、という点に集中しています。

それにたいして、籠池氏のきっぱりとして質問に答えている様子は、はっきり言って、安倍首相を守り、何がなんでも籠池氏を葬
り去り去りたい質問者よりも、「腹をくくった」、籠池氏の方が、一枚も二枚も「役者が上」という印象はぬぐえません。

次回は、それでは、今回の証人喚問で何が浮かび上がってきたのかを検証します。私は、安倍政権にとって、実に重大な問題があ
ぶり出されたと考えています。


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「森友問題」の本質と深い闇(1)―キーワードは「忖度」と「記録破棄」―

2017-03-19 22:22:20 | 政治
「森友問題」の本質と深い闇(1)―キーワードは「忖度」と「記録破棄」―

「森友問題」に関して、キーマンの一人である籠池泰典理事長の証人喚問が、3月23日に行われることが決まりました。

証人喚問を渋っていた自民党が、唐突に喚問に走った背景については23日以降に再び整理したいと思います。

現段階では、この喚問で、何が明らかになり、あるいは曖昧になってしまうのか、フタを開けてみないと分かりません。
いずれの結果になるにせよ、そもそも「森友問題」の本質は何か、を押さえておく必要があります。

それは、大きく分けて①、なぜ、国有地があれほど安く売却されたのか、誰がその意思決定をしたのか、②だれが「瑞穂の
國記念小学院」の設立を認可したのか、の二つに絞られます。

①も②も、異常ずくめなのです。

①は、国有地を管理する、財務省理財局に関わる問題であり、②は小学校の設立の許認可権をもつ大阪府の問題です。

結論的に言えば、今回の一連の問題を核心は、「忖度」「記録の廃棄=隠蔽」がキーワードです。

ここで一般論としての「忖度」とは、「他人の気持、心、意向を思いやること」です。つまり、はっきりとは命令や指示を
受けるわけではないのに、まして文書での指令に従うのではなく、下級の関係者が上級者の気持ちや意向を察して、それに
沿って事案を処理することです。

もちろん、この際、上級者が非常に間接的に、意向を暗に匂わせて、実質的に圧力をかけて従わせる場合もあります。

これは、特に公共事業などを巡って、これまで政治家、国の行政機関、地方自治体、業者との間で行われてきた交渉の背後
で働いてきた力学の構造です。

②は、今回の問題の、一番重要な部分に関する公文書だけが、なぜか、合理的な理由なく「破棄」されていることです。

以上を頭の片隅に置いて、今回の森友学園の土地取得と小学校の認可の問題を考えてみましょう。

理財局は当初、この土地の評価額を9億5600万円としていましたが、この土地に地下にゴミがあることを考慮して、
8億2200万円安くして、1億3400万円で森友学園に売却しました。

つまり、評価額の10分の1の価格で売ったとされています。しかも、10年の分割払いでもよい、という好条件です。

国有地の売却は、一括払いが原則で分割は認められていません。これは異例中の異例です。

森友学園は224万円で土地を取得した

しかし、話はこれに留まりません。というのも、この土地は当初、賃貸契約で学園が校舎の建設を進めていたところ、ゴミ
が大量に見つかったので、国はその撤去費用(行政用語は「有益費」)として1億3176万円を学園に支払いました。そ
の結果、学園の支払いは224万円で済みました。

整理すると、9億5600万円―(8億2200万円+1億3176万円)=224万円。これが、学園が実際に理財局に
支払った金額です。

国が「有益費」を支払ったのは、当時、土地はまた国のもので借り手の森友学園に対してゴミを撤去する義務が持ち主(国)
にあったから、というのが一応の理由です。

国有財産(国民の財産)が、まるでバナナのたたき売りのように、ほとんどタダ同然で森友学園に売り渡されたのです。

誰が、なぜ、このような手品のような価格の値下げを決定したのでしょうか?

売却には土地価格の査定をする必要がありますが、ゴミの撤去費用を8億円2200万円と見積もったのは、不動産鑑定の専
門家ではなく、なんと大阪航空局でした。

この点を国会で追及されて、国土交通省航空局長の佐藤善信・国土交通省航空局長は、3月1日の国会で「(過去に)ごみの撤
去費を算定したことはない」と積算実績がなかったことを認めたうえで、しかし知見はある、と詭弁を弄しています。

しかも、撤去費用8億円2200万円の積算根拠を何ら示さなかったのです(注1)。

根拠もないまま、 国有財産の管理者である財務省理財局(当時の局長は迫田英典氏)、および財務省近畿財務局は売却を承認
したのです。

実は、森友学園のほかの学校法人が5億8000万円で買う意向を示していましたが、7~8億円で売ろうとしていた理財局
は、この安すぎると指摘したため、この学校法人は、購入をあきらめた経緯があります。

この一点だけでも、森友学園が、いかに特別な扱いを受けていたかが分かります。

ただし、これは話の半分です。

理財局が土地を売却するためには、まず、学校の開設が認可されていることが前提です。

しかし、学校の設立の許認可権をもつ大阪府の私立学校審議会(私学審)は、森友学園が認可申請を提出した2014年10月には、
資金面でも不安がある学園の状況を考慮して、なかなか許可をだしませんでした。

ところが、籠池理事長は、ある時から急にやさしくなった、と言っているように、事態は急に動き出し、なんと私学審は2015年
1月に「認可適当」と答申したのです。

この間の事情を、松井大阪府知事は、テレビ雄インタビューに答えて、国の役人が何回も大阪府を訪れ、国有地の売却について問
いただした、国は親切だなあと思い、また「圧力」も感じた、と述べています。

松井氏はさらに、大阪府全体が、安倍首相夫人が名誉校長を務める学校であることを、おもんばかったのだろう、とも述べていま
す。言い換えると、これは「政治案件」であるという認識が関係者の間にあったことを意味します。
「語るに落ちる」とは、このことで、国の意向と圧力があって、大阪府が、それを忖度して、「許可適当」の判断を下したと言っ
ているのです。

次に、「記録の破棄=隠蔽」について考えてみましょう。

大阪市の学校法人「森友学園」が小学校新設のため国有地を格安で購入した問題で、大阪府が土地の処分を担当した財務省近畿財
務局と協議した記録の大半を残していなかったことが3月15日、府の内部資料から分かりました。

特に、学校設置認可の申請があった2014年10月から府私立学校審議会(私学審)が条件付きで「認可適当」と答申した15
年1月まで、協議が本格化していた時期の記録は一切残っていなかったのです。

森本学園に評価額の14%の値段で売却された問題に関し、2月24日、昨年6の売買契約を巡る売り主の近畿財務局と学園側の
交渉や面会の記録が、既に廃棄されていることが分かりました。

財務省の佐川宣寿理財局長が衆院予算委員会で明らかにしました。佐川氏は、記録は同省の文書管理規則で保存期間1年未満に分
類されるとし、「売買契約の締結をもって、事案は終了した。記録は速やかに廃棄した」と説明しました(注2)。

PKOのスーダンでの活動に関する『日報』も既に廃棄されており、提示できないとの防衛省の発言が、後に、実際には残ってい
たことが判明したことと同様、この場合も、最も重要なところが、なぜか廃棄されているのです。

これは決して偶然ではなく、意図的に「廃棄」したことにしているとしか思えません。

もし、「売買契約の締結を持って、事案は終了した」、だから記録は速やかに廃棄した、とするなら、国有財産を管理する理財局
長は、とんでもない違反をしていることになります。

なぜなら、この売買契約は、10年年の分割払いとなっており、その返済はまだ始まったばかりで、決して「事案は終了した」と
は言えないからです。

もし、この10年の間に何か問題が起こった場合を考えて、日本の役所は必ず、記録を残しているはずです。実際、官僚経験者の
ある、ある国会議員は、自分の身を守るためにも、官僚が記録を残さないことはあり得ない、と語っています。

それが、売買契約の締結直後に「廃棄」したとすると、それは、どうしても見られたくない、見られると問題になるので廃棄した
のか、あるいは「廃棄」したことにしているのか、どちらかです。

いずれにしても、この問題の背後には、記録の廃棄という隠蔽が行われたと思われても仕方がないでしょう。

以上、今回は、「森友問題」の本質を理解するために、問題の本質を「忖度」と「記録の破棄=隠蔽」という観点から考えました。

23日の証人喚問で、籠池氏の証言が、この事件の解明に役立つことを期待しています。


(注1)『朝日新聞 デジタル』(2017年3月1日)http://www.asahi.com/articles/ASK31324HK31UTFK001.html
(注2)(『東京新聞』2014年2月24日 夕刊);『毎日新聞 デジタル』(2017年3月17日)
    http://mainichi.jp/articles/20170316/k00/00m/040/150000c#csidx6085d982feff4dfa0d4a86653991e38



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2016年参院選―「改憲4党」は本当に勝ったのか?―

2016-07-14 07:31:39 | 政治
2016年参院選―「改憲4党」は本当に勝ったのか?―

2016年の参院選は、7月10日に行われました。投票率は推計54.7%で、戦後四番目に低い投票率となりました。

結果としては自民党の大勝となり、前回より5議席多い、55議席を獲得しました。

自民党は今回、非改選議員も含めて、参議院で単独過半数を一つの目標としてきました。選挙後(7月13日)、一人が自民党に
入党したため合計122人となり、27年ぶりに参議院で単独過半数に達しました。

なお、非改選の参議院議員と、今回の選挙で当選した「改憲4党」(自民、公明、おおさか維新、日本のこころ)プラス改憲賛成
議員の合計は、改憲の発議に必要な三分の二(162議席)を超えて165議席に達しました。

安倍首相からすれば、9条を含む現憲法を改訂し、日本を戦争ができる国、個人より国家が優先する国へ転換させる足がかり
を得た、ということになります。

それにしても、公明党は「綱領」の(一)で、「戦争は国家の属性」であり、「平和にしても開発にしても、すべては究極目的である
人権の実現―人間が人間らしく平和に幸せに生きることの保障である、との位置付けがなされるに至っています」と、平和主義
を謳っています。

それにも関わらず、集団的自衛権に賛成し、「改憲4党」の一角、改憲勢力とされることに党の執行部も党員も、矛盾を感じない
のだろうか、と素朴な疑問を感じます。

安倍首相は選挙、今回の選挙はアベノミクスの是非を問う選挙であり、憲法改正を掲げた選挙ではない、と述べていますが、選
挙後には、直ぐに憲法論議を始めることを口にしています。

今回は、18,19歳の若者にも投票権が与えられた最初の国会議員の選挙である、という点で注目されていました。現段階での
推計値で、18歳の投票率は51.17%、19歳のそれは39.66%、両者の平均は45.45%でした。

全体の全投票率より9.25ポイント下回っていますが、過去の参院選でも若年層の投票率は低く、たとえば2013年の参院選の20
代の投票率(抽出調査)33.37%であったから、今回の18歳の投票率は18ポイントも高いことがわかります。

18歳といえば、高校生も含まれるので、一定の教育効果や関心の高まりがあったと思われます(『東京新聞』2016年7月12日)。

しかし、今回は19歳以下の新有権者がどのような投票行動をとるかに世間の関心も高かったので、このような結果になりました
が、次回からどうなるかは分かりません。

なお、共同通信社の出口調査によると、18歳と19歳の比例投票先は、自民党が40%でトップ、民進党の19.2%、公明党10.6%
を大きく離しています。

この理由についてはさらに調査が必要ですが、一つ考えられるのは、若年者にとって、将来の就職などが重要な関心事で、改憲
や集団的自衛権の問題は、また身近な問題とはなっていないからかもしれません。

ところで、今回の選挙を通して私は、安倍政権側の姿勢とメディアに関して、強い危機感をもちました。

まず、党首討論は公示後、TBSが放送した24日の1回だけで、その後は安倍首相によって拒否されてしまいました。

3年前と6年前の参院選では、公示後に4回ずつ開催されたことを考えれば、今回の選挙に対する安倍首相の態度がいかに異例
であったかが分かります(『東京新聞』2016年7月2日)

安倍首相は国民にアベノミクスの成果についても、都合の良い数字だけを並べただけで、マイナス面も含めた評価については触れ
ませんでした。

総じて、安倍首相と自民党、そして公明党は、何かを積極的に訴えるというより、民進党および民進・共産党の共闘体制に対する
攻撃を「野合」だと執拗に繰り返していました。

党首討論の場に出ると、安倍首相は、民進党や共産党の批判には耐えられなかったのかもしれません。公開討論を逃げていたこ
とは事実です。

次に、党首討論の問題とは別に、今回の選挙中、新聞やテレビなどのメディアは、選挙に関する報道は非常に低調でした。

テレビのワイドショーは、東京都の舛添前知事の追及に血道をあげ、参院選をほとんど取り上げませんでした。しかし、NHKのニュ
ースでは安倍首相の露出時間だけが長かった印象を受けます。まるで、NHKは政権の広報部になったかのようです。

今回の選挙の隠れたテーマは、「改憲」発議のための3分の2を「改憲4党」が確保するか否か、でしたが、選挙関係の報道の低調
さを反映して、「3分の2」が何を意味するのか分からなかった人たち、あるいは「改憲」が争点になっていたことさえ知らなかった人
もかなりいたようです。

たとえば、『高知新聞』の記者が街頭で行った調査では、100人中83人が、「3分の2」の意味が分からなったと答えています(注1)

また東京でも、改憲が争点になっていることを知らなかった人が少なからずいました(『東京新聞』2016年7月11日)。この意味で、安
倍政権は、徹底して「争点隠し」をしたといえます。

このように考えると、改憲を正面に据えてはいない今回の選挙で、「改憲4党」が勝ったとは言えないのではないでしょうか?


なぜ、選挙報道が減ったのかについて、岸井成格氏(毎日新聞特別編集長)は、安倍政権からの圧力と、「イチャモンをつけられるの
は嫌」なので、メディアの側が政権の姿勢を忖度して自分から萎縮しているためだろう、と語っています。

そして、「このままだとメディアは窒息しますよ」と危惧を語っています(『日刊ゲンダイ』2016年7月8日)。

もう一つ、政権のメディアコントロールに関して気になることがあります。

安倍政権は、テレビと新聞にたいしてはすでに強い圧力を加えてきましたが、これまでラジオについては全く問題視してきませんでした。

しかし、今回の参院選においては、ラジオ各局の要請にもかかわらず、共同会見を拒否し、安倍首相が指名した1社だけの代表質問を
受ける、としました。

ここで指名されたのは、安倍首相に近い『日本放送』でした。

こうして、安倍政権は新聞、テレビ、ラジオという三代メディアを非常に強い圧力の下においたと言えます。

安倍首相と官邸は、自分たちに好意的ですり寄ってくるメディアには取材の機会を与え、そうでないメディアは与えないか、さらには攻撃
さえする、という露骨な“アメとムチ”の手法を一貫して使っています。

権力がメディアを抑え込むという事態は、深刻な民主主義の危機です。とういのも、民主主義の大前提は、自由な言論が保証されている
ことです。

もし、これが保証されていないと、その社会は独裁国家への道を歩むことになります。

比喩的に言えば、国民は口と耳を塞がれ、目を覆われた状態に置かれていると言えます。

今回の選挙で、一つだけ重要な変化がありました。

それは31の1人区で、野党4党が統一候補を出すことで合意し、11の議席を獲得したことです。とりわけ共産党が自党の候補者を取り下
げたことが大きく貢献しました。

この野党の共闘は、さまざまな市民運動やSEALDSなどからの強い要請に突き動かされて、既存の政党が歩み寄った結果でした。

3分の2の議席を「改憲4党」に許したことの理由として、民進党の一部には、共産党に近づきすぎたからだ、と現執行部を批判する議員も
いました。

しかし、3年前の参院選では、野党は1人区で2議席しか取れなかったのです。今回、安倍政権のもし共闘が実現しなければ選挙の結果
は野党勢力にとって、ずっと悲惨な結果になったはずです。

これは、現在のように、事実上、自民党一極支配のような状況を打破するためには必要な方法だと思います。

最後に、自民党が権力のあらゆる手段を使ってメディア戦略を駆使しているのに対して、野党、とりわけ民進党は、メディア戦略と言えるほ
どの戦略が事実上皆無の状態でした。

おそらく、まだメディア戦略の重要性さえ気が付いていないのではないか、とさえ疑ってしまいます。

自民党も公明党もなりふり構わず、時には「えげつない」言葉で野党を攻撃したり、あらゆる手段をつかって選挙に臨んでいるのに対して、
民進党は、“おぼっちゃま”的な甘さが目立ちます。

もっと泥臭く、しつこく、そして知的に政治を考えてほしいと思います。

私は、看護師の宮子あずさ氏は『東京新聞』(2016年7月5日)で次のように書いています。
    
    やはり政権交代を諦めてはいけない。私が野党に望むのは、まず知的な態度である。与党に対して論理的反論ができない野党議員
    が歯がゆくてならない。過去の失敗を挙げ連ねられても決然とし、同じ土俵に乗らないで。浮足立たず、論理的な力をつけてほしいと
    願う。

私は宮子氏の提言に全面的に賛成です。

今回の選挙結果に落胆ばかりしている暇はありません。もう一度、態勢を立て直し、民主主義の本来あるべき姿を回復するよう進むしかありません。


(注1)『高知新聞』(2016年7月5日) http://www.kochinews.co.jp/article/32968/)。



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検証:アベノミクスと参院選(2)―英EU離脱と日本の将来―

2016-07-07 07:14:56 | 政治
検証:アベノミクスと参院選(2)―英EU離脱と日本の将来―

参議院選は、政権選択の選挙ではない、とはいいながら、それでも、ある意味で国民の審判を受ける重要な政治的行事であること
には変わりありません。

というのも、政権政党は、過去の政策の成果や是非を問われ、将来への展望を国民に示さなければならないからです。

安倍政権にとっては、アベノミクスの成果と憲法改正の是非が問われます。

前回のブログ記事で、アベノミクスの評価に関して、第一次安倍内閣の官房長官であった、与謝野馨氏のコメントを紹介しましたが、
今回も、その続きから始めます。

与謝野氏がアベノミクスに関連して警告しているのは、日本の財政破綻と、国民の金融資産の目減りです。

財政破綻についていえば、第三次安倍内閣発足の2012年には国と地方の借金(国債と地方債)は932兆円でしたが、2016年現在、
1062兆円に激増しています。これはGDP(国民総生産)の2年分、赤ん坊から老人まで全ての国民一人当たり1000万円弱の借金
に相当します。

この借金のツケは、いずれ次世代以降の国民に押し付けられるのですが、これだけ巨額の借金があると、国家予算のうち大きな部
分が元利払いに充てられてしまいます。

こうなると、借金の返済のために借金をする(国債を発行する)、という事態が考えられ、財政均衡どころか財政破綻の危険さえあり
ます。その時には、現在の政治家の大部分は政界にはいないか、亡くなっているでしょう。

国債価格
もし、安倍首相が訴えているように、年金も福祉も教育への予算も減らさず、さらに、景気浮揚のために公共事業を拡大しようとすれ
ば、赤字国債の発行に頼らざるを得なくなり、さらに借金を積み上げることになります。

これは、将来的に、国債の信用を落とし国際価格が暴落する危険性もあります。

国民の金融資産の目減り
財政破綻の問題とは別に、巨額の国債の発行は、国民の金融資産の目減りをもたらします。これに関して与謝野氏は次のように警告
しています。
    打ち出されている経済政策は非常に偏っています。私はとりわけ、日本の財政が心配です。私はいまの財政状況を『偽札財政』
    と呼んでいます。いわば『偽札』が毎年大量に発行されています。今、日本銀行は毎年80兆円のお札を刷っています。これだけ
    発行しても、企業活動や消費など実体経済にはほとんど良い影響が出ていません。このお札の量は、国民の金融資産の約5%
    に当たります。この分、国民の保有するお金の価値が毎年薄まっている計算になります。つまり、国民のみなさんのお金は毎年
    5%ずつ目減りしていっているのです。(1)
  
もし、GDPの成長が5%以上あり、勤労者の実質賃金も5%以上の伸びを示していて、市中に現金が足りない状況なら、5%ずつお札
を増刷しても問題はありませんし、人々の金融資産が目減りすることはありません。

しかし、この「偽札」の80兆円には実体経済の裏付けがありませんから、確実に国民の金融資産(1500兆円と見積もられています)を、
計算上は75兆円目減りさせます。

このような重要な問題に対して、政府はどのようにして財政の均衡を達成してゆくのか、の道筋を示していません。

実態経済を反映するGDPの成長率は、2012年こそ1.4%あったものの、2014年にはマイナス0.03%、IMFが試算した2016年4月時点
の成長率はかろうじてプラス0.49%(2)、そして同じくIMFによる2017年はマイナス0.1%と予測しています(2)。

したがって、毎年80兆円に見合う実施経済成長はとうてい達成できません。

年金積立金は大丈夫か?
もう一つ、国民にとって深刻な問題があります。それは、私たちの年金の原資に関わる問題です。

現在、国民年金などの積立金、約140兆円を年金積立金管理運用独立法人(GPIF)が運用しています。

年金の基金は減らさないことを前提とし、これまで資産運用基準として、安全な国債を60%、国内外の株式が24%(国内株12%、国外株
12%)、という割合を採用してきました。

安倍政権下で、2014年10月に、債券を35%に減らし、株式を50%に上げました。この背景には、円安効果もあり輸出も順調だったからです。

2012年の為替は1ドルが82円でしたが、異次元の金融緩和効果もあり、一時は120円台まで円安が進み、輸出企業に利益をもたらしました。
しかし、2015年後半から徐々に円高が進み、今年の6月半ばには104円台~103円台まで急速に円高が進むなど、足もとのアベノミクスは
「停滞感」を強めています(『毎日新聞』2016年6月17日)。

株価についてみると、2012年には日経平均株価は9446円でしたが、2015年前半には2万円を超えるまでに株価が上昇しました。

しかし、円高が進むにつれて、日経平均株価は今年の年明けから下落傾向が続き、6月半ばには1万6169円にまで下落してしまいました。

日本の多くの企業は、2017年3月期の想定為替ソレートを1ドル105~110を想定していました。トヨタのような大企業は1円、円高が進むと
円による受取額が400憶円減ってしてしまいます。

このような状況の中で、GPIFの2015年度の運用実績は5兆円の損失があることが明らかになりました(『毎日新聞』2016年7月2)。

これは明らかにアベノミクス失敗を示すものですが、通常は7月初頭に発表してきたのですが、今年に限って公式発表は参議院選後の7月末
に延ばしています。これは露骨な、損失隠し、アベノミクスの失敗の隠蔽です(『東京新聞』2016年7月2日)。

イギリスのEU離脱
こんな不安な要素を抱える日本経済は、本年6月24日に、イギリスが国民投票でEU離脱という結果を受けて大きく揺さぶられます。

世界通貨の中でも比較的安全と思われ日本が買われ、一時は99円台にまで円高が進み、株価も世界同時安で、日経平均株価も前日比で
1286円マイナス、1万4952円まで下落しました。

現在(7月7日)は、円ドル為替レートは100円前後で円高基調が続いており、それによる企業成績の悪化が想定され、株価も1万5000円台で
低迷し、イギリスのEU離脱以前の水準に戻っていません。

ということは、GPIFの年金原資の運用による2016年度の損失は、5兆円をはるかに超える額に達することが予測されます。実際、2016年度の3月
~6月期の3か月(したがって、イギリスのEU離脱はあまり影響ない時期)だけでも、5兆円の損失が見込まれています(『東京新聞』2016年7月
5日)。2015年度の分を含めると、なんと10兆円の損失が想定されているのです。

そして、今回のイギリスのEU離脱の影響は簡単には消えないでしょうから、年金の原資は長期的には減り続けることになるでしょう。

安倍政権は、たとえ損失が出ても、これまでの運用益があるから大丈夫、と言っていますが、本来年金は恒久財源で賄うべきで、その時々の株価
によって増えたり減ったりする財源に依存することは正しいありかたではありません。

安倍政権は、さらなる金融緩和(国債の発行と円の増刷)を行い、円安と輸出の増加・経済の回復を狙うと言っていますが、これについてはアメリカか
ら、為替操作をしないようにクギを刺されていますので、簡単にはゆかないでしょう。

それ以上に、アベノミクスによる、さらなる金融緩和の効果については国際的な批判だけでなく、国内的にもその効果が疑問視されています。

実際、物価関連の指標や為替相場の現状は、日銀が2013年4月に量的・質的緩和(通称、異次元緩和)を始めた時、あるいはそれより前の状態に逆
戻りしています。「大胆な緩和策」の効果が帳消しになった印象を与える可能性もあり、7月28~29日の次回金融政策決定会合に向けて日銀の判断と
対応に注目が集まりそうです。(3)。

それでは、金融緩和を唯一の原動力とし、貨幣を増刷し、年金の原資を危険な株式投資に大きくシフトさせ(これは国民の資産を犠牲にする危険性大)
るような金融政策を、安倍政権はなぜ実行しているのでしょうか。

安倍政権は、経済をアピールして、本音では安保法制と憲法改定を実現する、という戦略をとってきました。そのためにも、何が何でも経済で成果をあげ
なくてはなりません。

しかし、「三本の矢」のうち、機動的な財政政策は、ほとんど実行されることはありませんでした。

実際問題として、過去「失われた20年」と言われる不況期に、自民党は景気対策として、公共事業(特に建設・土木工事)という名の財政出動を多用して
きましたが、そのために景気が良くなったという過去の実績はありません。

かといって、土木事業以外に、成長をもたらす公共事業を見出すこともできませんでした。

それでは、経済の復活の王道である第三の矢である「成長戦略」はどうかといえば、全くと言っていいほど、手が付けられませんでした。というより、有望な
成長戦略を見出すことができなかったのです。

このような背景の下、安倍政権が目に見える成果を出す政策は、国会の承認も不要で、政府の意志だけで実行できる、金融政策ということになります。

安倍首相は今回の参議院選で、アベノミクスの果実を強調しアベノミクスのエンジンを最大限に吹かす」と言っていますが、その裏側にある財政と金融政策
の危うさに一切触れようとしません。

まさに『朝日新聞』(6月26日)が指摘しているように、アベノミクスにリスクを感じていない国民が半数近くいるということは、財政の行く先を案じる「あらゆる
警報装置が正常に作動していないからです。

政府寄りの日本経済新聞も、イギリスのEU離脱の翌日、「アベノミクス直撃を警戒」という見出しで、“経済行先に不安:政府・与党 参院選への危機対応急
ぐ”という記事を掲載していることからも分かるように、安倍政権は、このショックが選挙に影響しないよう、緊急対策を講じようとしています(『日本経済新聞』
2016年6月25日)。

選挙への影響は少ないかもしれませんが、7月6日現在の株価の低迷と円高に進行は止まっておらず、今後の日本経済には、ますます暗雲が垂れ込めつつあります。

それを承知で、安倍首相が「アベノミクスのエンジンを最大限吹かす」としたら、国民の生活に多大なダメージをあたえることになるでしょう。


(1)『朝日新聞』デジタル版(2016年6月23日)http://digital.asahi.com/articles/ASJ6Q61FNJ6QUTFK011.html?rm=233
(2)http://ecodb.net/exec/trans_country.php?d=NGDP_RPCH&c1=CN&c2=JP
(『東京新聞』2016年5月27日)。
(3)『日本経済新聞』(デジタル版 2016年7月4日)
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO04366160R00C16A7000000/?n_cid=NMAIL001



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検証:アベノミクスと参院選(1)―やはり失敗だった―

2016-07-02 06:37:52 | 政治
検証:アベノミクスと参院選(1)―やはり失敗だった?―

2014年12月の衆議院総選挙の直前、『朝日新聞』は「アベノミクス 恩恵と落胆」と題する検証記事で、次のような記事を載せています。

この記事は、安倍首相が訴える「アベノミクス」を次のように表現しています。
    中小企業のみなさん、円安や株高で大企業は最高の利益を上げています。これから大企業は、みなさんへの仕事を増やします。
    大企業の社員は消費を増やします。もう少しの辛抱です。必ず恩恵が来ます。

福岡県で20人ほどの社員を率いる町工場3代目はこの年、1万円あまりのベースアップをしました。消費増税3%分の生活費増を補う
のが社長の責務、と考えたためでした。

しかし、消費税が8%になって以降、仕事が減り、円安で材料費が値上がりした。4月から10月までで単月黒字は3カ月しかない。同じ
福岡県には、トヨタ自動車と日産自動車の工場があります。トヨタは9月中間決算で純利益が1兆円を超える過去最高を記録し、日産も
2千億円を上回りました。

この町工場の経営者は、「政治は大企業の声ばかりを聞いていませんか。アベノミクスの恩恵は本当に来ますか」と率直に不満と疑問
を呈しています。

安倍政権は、経団連などに法人税減税を約束している。国際競争力を高めるのが狙いだ。税収が減る分の穴埋めをどうするか。政府
税制調査会が出した案は中小企業への増税でした。

この中小企業増税は経団連も反対し、来年度の適用は見送られましたが、ここに安倍政権の本質とアベノミクスの構図がはっきりと現
れています。

国内の会社の99.7%を中小企業が占める。労働者の7割近くが働き、地域社会を支ええていますが、その中小企業とそこで働く人たち
に、恩恵は届いていません。

この記事は、結論として「社会の亀裂や格差を身近に感じることが増えた」としています(注1)。

当時、安倍内閣はアベノミクスの目標として、GDPの成長率を年3%にし、平均物価を2%上昇させ、デフレから脱却することでしたが、
どちらも達成していません。

言葉通りにゆけば、アベノミクスの「3本の矢」が企業業績を向上させ、輸出を増やし、その好循環がいずれ一般国民に行き渡って(トリク
ルダウン)、国民全体が豊かになるはずでしたが、トリクルダウンは起こりませんでした。

この年の総選挙で自民党は一貫してアベノミクスの恩恵ばかりを強調して大勝し、その後は多くの国民の声を無視して安保法制を強行し
たことは周知の事実です。

ところで、2016年7月10投票日に向けて安倍首相と自民党は何を訴えているのでしょうか?

安倍政権は今回の参議院選挙の最大の争点を「アベノミクスを進めるのか、暗い過去に後戻りするのか、安倍政権の是非の是非を問う」
という経済問題に絞り、憲法改定、安全保障の問題には直接触れることなく選挙に臨んでいます。3年半前の衆院選の時と同じ構図です。

今回は「アベノミクスのエンジンを最大限に吹かす」ことによって「名目GDP600兆円の実現を目指す」「デフレ脱却を確実なものにするた
め、消費税10%を2019年10月まで2年半延期する」を挙げています。

2012年から実施された「アベノミクス」は成功したのかしなかったのかの総括もしないまま、「アベノミクスのエンジンを最大限に吹かす」とい
うのです。

雇用
自公政権は、有効求人倍率や新卒者の就職率など雇用の改善、企業の収益増大、税収増をアベノミクスの成果である、と強調しています。

最近、夜のテレビの報道番組で安倍首相は、今回の選挙で最も訴えたい点を一言で表現すると、との問いに、「47」という数字を挙げました。

つまり、47の都道府県すべてにおいて有効求人倍率が1ないしはそれ以上に達したことをもって、アベノミクスが成功した証拠であるとして
いるのです。

安倍首相は、何かにつけて、「この3年間で110万人の雇用を生んだ」ことを強調します。しかし、その中身を見ると、正規雇用は36万人減り、
地位が不安定な非正規雇用が167万人も増え、その割合は2012年に35%から直近の数字では40%、実数で2000万人に達しています。

非正規雇用の平均賃金は正規雇用の三分の一しかない169万円ですから、後に見るように全国平均をすれば、実質賃金は確実に減ってい
るのです。(『日刊ゲンダイ』2016年7月2日。経済評論家、斉藤満氏のコメント)
1

現時点で、アベノミクスが「成功した」と断言する経済学者は、私が見る限りいません。

ただ、異次元の金融緩和が、一時的にせよ、円安と株高をもたらした、という点をプラスに評価する専門家はいますが、全体として見れば、や
はり、アベノミクスは幻想で、「失敗した」、と言わざるを得ません。

アベノミクスの失敗は、いくつかの点からはっきりしています。

まず、再延期は絶対にないと断言したにもかかわらず、安倍政権は2014年と2016年の2回にわたって消費増を先送りせざるを得なかったこと
に端的に表れています。(安倍首相にとっても想定外の、イギリスのEU離脱という突発的事件が起きる前のことです)

つまり、首相が自慢げに言うように、アベノミクスにより経済が順調に進展していたならば、消費税の値上ができたはずです。しかし、実際には
経済は、相変わらずデフレ基調は変わらず目標の物価水準2%の上昇もありませんでした。

次に、アベノミクスが実施されて3年半経ちましたが、国民の経済状況には好循環は届いていません。

実質賃金(名目賃金を物価上昇で修正した額)をみると、2010年を100とした場合、第二次安倍内閣発足時の2012年の99.2から、2016年の
94.6(いずれも3月期)に下がっています(注2)。

雇用 安倍首相は事あるごとにアベノミクスの成果として強調する有効求人倍率は今年4月に1・34倍となり、数字上はバブル期並みの高水準
になりました。

しかし、この背景には、少子高齢化の影響で求職者数が減っているという事情があります。さらに、上に書いたように、待遇が安定しない非正規
社員の伸び率が正社員を上回るなど雇用の「質」の改善が進んでいないという現実に注目しなければなりません。

消費 実質賃金が下がれば、当然、消費の伸びもありません。すなわち、上と同様の比較で、2012年の98.8から2016年には95.3へ、これも
下がっています。

物価上昇に賃金の伸びが追いつかず、家庭が自由に使えるお金は増えていない。消費税率を8%に引き上げた影響もあり、国内総生産(GDP)
の約6割を占める個人消費は低迷が続いています。

各種の調査によれば、8割以上の人が、アベノミクスの成果を実感できない、と答えていますから、消費が伸びないのか当然です。

安倍政権とアベノミクスに関して、第一次安倍内閣の官房長官で、経済のエキスパートである与謝野馨氏は、『朝日新聞』のインタビューで、次の
ように見事に本質を突いた発言をしています。
    
    私にはその(アベノミクス)中身が何なのかさっぱりわかりません。克服するというデフレとは何かも明示されておらず、そもそも物価を上げ
    るという目標はまともな先進国の政策として聞いたことがありません。国民にとって大事なのは物価ではなく実質購買力の上昇です(3)。

かつて安倍首相の側近であった身内の与謝野氏にさえ、アベノミクスの中身が何なのか分からないという。

与謝野氏は、政府が物価を上げようとするなど、先進国ではまともな政治ではあり得ない、実質購買力(言い換えると「実質賃金」)を上げることこ
そが政治の使命であると言っています。その実質購買力も消費も、安倍政権下で下がっているのです。

アベノミクスは、大企業と、株で資産の運用益を得たごくごく少数の人たちにとっては恩恵があったかもしれませんが、働く人の7割を占める中小企
業の人たち、そしてその家計には恩恵は届いていません。

それどころか、この3年のアベノミクスは、日本の将来にとって、大きな問題を抱えてしまいました。

次回も、アベノミクスの検証と将来への問題の検証を続けてゆこうと思います。

(注1)『朝日新聞』(デジタル版 2014年11月22日。 同日閲覧)
    http://digital.asahi.com/articles/DA3S11468797.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11468797
(注2)『朝日新聞』デジタル版(2016年6月23日)http://digital.asahi.com/articles/ASJ6Q61FNJ6QUTFK011.html?rm=233
(注3)以上、引用部分は『朝日新聞』2016年6月17日。


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甘利経済再生相辞任の本質(2)―秘書の口利き 生々しい録音テープとメモ―

2016-02-27 04:58:17 | 政治
甘利経済再生相辞任の本質(2)―秘書の口利き 生々しい録音テープとメモ―

前回のブログ記事(1月29日)に続いて、甘利氏辞任の本質に迫りたいと思います。

その前に、28日の甘利氏の釈明・辞任会見の趣旨を要約すると次のようなことになります。

まず、甘利氏は、①自身が、千葉の建設会社の総務担当(一色武氏)から100万円をを受け取り、それは”適正に処理されたこと”を認め、
また、②彼の元秘書が別途600万円受け取ったが、うち300万円を私的に流用したうえ、元秘書は繰り返し一色氏より接待を受けていた
ことを認め、③その監督責任を取る、との理由で経済再生大臣を辞任する、というものです。

ただし、自身についても、秘書についても、都市再生機構(以下UR)への「口利き」の報酬として金銭を受け取っていたこと(これは明確に
賄賂です)は、決して認めませんでした。

世間には、甘利氏の辞任を“潔い”と感ずる人もいて、大物政治家のスキャンダルとしては、ダメージを最小に抑えることができた、という
評価もあります。

では、甘利氏には全く問題はなく、元秘書の不祥事だけの問題なのでしょうか?

甘利氏及び自民党は、この記者会見をもってこの件について幕を引きたいと考えているでしょうが、なかなかそうはゆかないようです。

というのも、甘利氏の元秘書とURとの、金銭の問題を含む生々しいやり取りを録音したテープとメモが、建設会社の一色氏から民主党に
提出され、その一部が2回にわたって明らかにされたからです。

一色氏は、これまで渡された現金は、甘利氏事務所の元秘書に「口利き」をしてもらった謝礼であると、はっきり証言しています。

まず、今年2月15日に明らかにされたのは、甘利氏の元秘書が昨年11月2日、神奈川県大和市の喫茶店で一色氏に語ったとされる録音
テープの内容です。
   
   元秘書:だいたい、そしたらかっこ書きでもいいです。でも、一応、推定20億かかりますとか、かかると聞いておりますとか、そういう
       なんか言葉にしてほしいんですね。あっちの言い分も明確なあれがないって話だったんで、明確にしなきゃだめですよね。もし
       かしたら実際の金額について細かいとこまで絡めないですよ。こういうところは今だったらぎりぎり絡めるんで。

一見しただけでは分かりにくい部分もありますが、元秘書は、一色氏が具体的な金額、たとえば20億円、を言葉に出してくれれば、それで
URと交渉できる(絡める)と、言っているのです。

つまり元秘書側は、はっきりと、この補償交渉に積極的に関与したことが、この会話から裏付けられます(『東京新聞』2016年2月16日)。 

次に、16日午前の衆議院予算委員会で、民主党の大串博志議員により、甘利氏の元秘書が、建設会社の一色氏に、高級車の「レクサス」
(300万円から1300万円もする)を要求していた会話のテープの内容が明らかにされました(注1)。

   一色:これでURのほうがまとまっちゃうと思うんで、xxさん(元秘書)が レクサスでしたっけ。
  元秘書:いいんですいいんです。あいつは悪いから変なことばっか言うからね。
   一色:いやいや全然。
  元秘書:たぶん社長(*)に言われ慣れてるからちょっとやそっとのことで失礼だと思わない。
  元秘書:一色さんが「レクサス何色がいいか」って聞いているよって。
(*)ここでの「社長」とは誰を指すのかは不明。『朝日新聞 デジタル版』では、はっきりと「社長」と文字起こししている。
       可能性としては甘利事務所の「所長」(公設秘書」か甘利大臣が考えられる。  
      

2月23日の『テレビ朝日』の「ニュースステーション」のスタッフが一色氏と行ったインタビューの内容、及び、民主党が2月23日公開した新
たな録音テープの音声が放映されました。

それは、一色氏が甘利氏の元秘書にお金を渡し、URの件で口利きを依頼した時(2015年9月)の会話です。

  元秘書:もう一回国交省ルートでっていう話で。現場レベルの人間を紹介しろと、っていう話をさせるのと・・。
      (この時、一色氏が現金を渡そうとする)   
   一色:いやいやそんな所長*、受け取ってください。何か私、気持ち悪いんで。
  元秘書:いやいや、でもね・・・。
    一色:私のほうがちょっと、順序ずれちゃって。
  元秘書:いえいえ。
   一色:よろしくお願いします。いろいろ経費かかると思いますが、URの件で、なにとぞよろしくお願いします。
  元秘書:頑張ります。
                *甘利氏事務所の所長、元甘利氏の公設秘書

元秘書は、「いやいや でもね」と現金(15万円)の受け取りを拒むような素振りを見せつつ、「URの件で、なにとぞよろしくお願いします」と
いう依頼に対して、「頑張ります」と応えています。

これは、典型的な金銭の授受をともなう「口利き」の依頼と受諾で、「あっせん利得処罰法」に抵触する可能性が極めて大です。

2月25日に民主党が一色氏より提供を受けた音声テープから、さらに、なまなましい会話を公表しています。それは、昨年10月9日、甘利
氏の秘書がURの本社で担当者に「顔を立ててもらえないか」と語ったこと、またこれを受けて一色氏に『俺たちの顔立てるっつったよな』っ
たから」などと話したという。つまり、甘利氏秘書は一色氏に、自分たちがURに圧力をかけていたことを、述べ恩に着せているのです(『東
京新聞』2016年2月26日)。

以上は、一色氏と元秘書とのやり取りですが、甘利氏本人とどのような会話があったのかについても、インタビューで聞いています。

一色氏は、大臣室で甘利氏を交えた写真を示しつつ、甘利氏にはURとの交渉の経緯を説明したうえで、50万円入りの「白い封筒」(甘利
氏がが言うように、「のし袋」ではないと断言しています)現金を渡したこと、甘利氏は現金受け取りの前に、UR関係のファイルを持って行
っているので、このお金がURとの交渉に対する謝礼であることは、甘利氏も十分、分かっていたはずだ、と言っています。

これからも、いろいろな証言や証拠が出てくる可能性はありますが、以下に。もう少し全体的な構図から、今回の問題に関して整理してお
きたいと思います。

第一に、千葉の建設会社がURに要求した補償に関して、当初URの解答はゼロでした。それが、甘利氏の秘書が介入すると、2012年5月
に1600万円、翌13年には2億2000万円、15年3月には5100万円、計2億8700億円が建設会社に払われています。

しかも、2億2000万円が支払われたその日に、建設会社から甘利氏の秘書に500万円が渡されています。

この間の詳しい経緯については、『朝日新聞』は最近、一色氏にインタビューをし、今年2月25日のデジタル版で伝えています。

一色氏によると、道路建設をめぐる千葉県の建設会社とURの交渉について、甘利氏側に初めて相談したのは2013年5月9日。

6月に甘利氏側がUR本社を訪ねた直後、UR側から補償金約1億8千万円の提示を受けた。

さらに2千万円ずつ2度の増額を経て、8月6日に約2億2千万円で契約したという。この間、一色氏側はURに対して「もう少し何とかならない
か」と増額を求めていたという。

一色氏はこのころ、元秘書から「大臣は(URの)廃止論者だ」と説明を受け、その後も数回強調されたという。甘利氏は麻生内閣時代の08年
9月から約1年間、行政改革担当大臣を務め、URなど独立行政法人の統廃合や合理化を進めていた。
 
一色氏は「URはずっと『一切補償なし』と言っていたのに、秘書の面談後に交渉が動いた。増額要求にもすぐに応じてくれた」と振り返った。

また一色氏は14年2月ごろ、甘利氏の地元事務所や居酒屋で元秘書から、約2億2千万円の補償金について甘利氏に報告したことを聞かさ
れたという。

元秘書はその際、「大臣から『なんでもっと(増額)しなかったんだ』と言われた」と証言しています。いずれも元秘書の発言の録音やメモが存在
している、と述べています(注4)。もし本当なら甘利大臣の関与が濃厚です。

第二に、甘利氏は1月の釈明・辞任会見で、この件に関して(以下の「第三者のものと別に)調査をし、その結果を報告すると言いながら、現在
まで報告がありません。

第三に、野党から再三の要求にもかかわらず甘利氏は国会での証人喚問に応じていないどころか、国会にすら顔を出していません。

その理由は、自民党によれば「睡眠障害」のため、1か月の休養を要す、という診断書が出ている、とのことです。もうそろそろ1か月が経ちます
が、一向に表に出てくる気配はありません。

なお、今回の件に関してもっとも深く関与した元公設秘書は、家族ともども家にはおらず、所在は不明です。

第四に、この件に関して東京地検特捜部は操作に乗り出す、との報道が何度かなされましたが、動いている兆候はありません。

これは、小沢一郎氏に対する過去の執拗に裁判にかけ、結局は無罪となった事例と際立った違いです。

第五は、甘利氏が1月28日と30日の記者会見で言及した、第三者による調査結果そのものに関する疑惑です。弁護士で関西大学客員教授の
郷原信郎氏は、『甘利氏疑惑調査の「もと特装弁護士」は、本当に存在するのか』(注3)という記事で、数々の疑問を提出しています。

甘利氏の記者会見での説明において最大の拠り所とされたのが、「元特捜検事の弁護士による調査」でしたが、その弁護士が一体どこの誰なの
か、甘利氏は、一切明らかにしませんでした。

甘利氏は「特捜OBの第三者の弁護士」が元秘書からの聴取等による調査した結果として、「S社総務担当者からURとの間の補償に関する陳情が
あった」「URに行って話合いの進捗状況について確認した」「URに行って現状について教えてもらった」「秘書が金額交渉等に介入したことはない」
などと説明しました。

しかし、元秘書が露骨に金額交渉に介入したことは、録音された音声からほぼ明らかです。しかも、この弁護士はUR側にも事情聴取をしたことにな
っていますが、UR側は、そのようなことはなかったと証言しています。

つまり、この「弁護士による調査」そのものの信ぴょう性が問われているのです。

以上みたように、今回の甘利氏疑惑には、解明されていない問題がまだまだたくさんあります。これは、他の自民党議員の失言や不倫問題などと
共に、自民党に対してボディーブローのように効いてくると思われます。

(注1)朝日新聞デジタル で音声が聞ける 2016.2.16日
    http://www.asahi.com/articles/ASJ2J61NDJ2JUTIL059.html
    『産経新聞 デジタル』(2016年2月16日)
   http://www.sankei.com/politics/news/160216/plt1602160016-n1.html
(注2)この内容については「ニュースステーション」の他に、http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2710141.html
    また https://www.youtube.com/watch?v=JvWskqPuDU4 でも見ることができます2016年2月23日参照。
    『毎日新聞 電子版』(2016年2月24日) http://mainichi.jp/articles/20160224/k00/00m/040/030000c?fm=mnm
(3) 初出は郷原氏のホームページの2016年2月16日の記事で、Haffingtonpostが19日に引用したもの。
    https://nobuogohara.wordpress.com/2016/02/16/http://www.huffing tonpost.jp/nobuo-gohara/akira-amari_b_9269594.html
(注4)『朝日新聞 デジタル』(2016年2月25日)http://www.asahi.com/articles/ASJ2S5VL4J2SUTIL042.html?ref=nmail

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