鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

扇流図小柄 加賀 Kaga Kozuka

2010-06-17 | 小柄
扇流図小柄 加賀


扇流図小柄 無銘加賀

 まさに文様化された風景。扇流(おうぎながし)とは京都の西を流れる桂川の上流、渡月橋において川の流れに扇を投じ、その揺れて落ち、川面を流れ降ってゆく様子を楽しむという、雅な遊びの一つ。起こりは古く南北朝時代に遡る。
 足利尊氏が、天龍寺や嵐山を訪れたおりのこと、この一行に従っていた一人が、風にあおられたものであろうか扇を渡月橋の上から落としてしまったのである。このとき扇は、蝶のようにひらひらと舞い、風にのるように空をすべって水に落ち、後はその流れのまま波にもまれるように降って行った。この様子を目撃した尊氏は、粗相をして平伏している従者を前に、むしろ感動の声を上げた。偶然の出来事はこれほどに美しいものかと。そして尊氏自ら川面に扇を投げて風雅を楽しんだという。これが伝統的な遊びとなり、また、後に文様化されたのが『扇流文』である。
 『破扇文』も良く知られているが、金工作品の中には、破れた扇に川の流れを想わせる構成とした作があり、破扇の意匠も、実は水に落ちた扇の、その地紙が次第に破れてゆく様子を意匠したものではないだろうかと推測している。
 赤銅の微細な石目地を背景に、川の流れも扇も金の平象嵌。金の色調は微妙に違っており、細い毛彫を加えて文様に深みを持たせている。