鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

宝尽文図鐔 平田 Hirata Tsuba

2010-06-21 | 
宝尽文図鐔 平田


宝尽文図鐔 無銘平田

 渋く沈んだ漆黒の赤銅石目地を背景に、雅な文様を散らした作。江戸時代後期の平田派の作と極められている。
 七宝とは、元来は天然の宝飾素材を中心とした、金、銀、瑠璃、玻璃、シャコ、珊瑚、瑪瑙(真珠を入れる場合もある)の七つを指し、これらを嵌入した装飾品が奈良時代以前に流行しており、装剣類においてもこれを用いた飾剣(かざりたち)と呼ばれる貴族の儀式太刀が良く知られている。このような天然の宝飾素材をガラス質の素材で再現したのが、現在七宝と呼ばれる細工物である。加熱溶融させたガラスを文様部分に流し込んで固着させるという技法が基本。古く七宝は奈良時代に流行したが、以降、使用される機会は少なくなり、再度興隆するのは桃山頃。飾り職人であった平田道仁が、中国あるいは西洋から伝来した工芸品を手本としてこの古法の再現に挑み、見事に再興させたといわれる。江戸時代を通じて平田各代は美しいガラス質の再現に挑み、江戸時代中頃には透明度が強くしかも多彩な色合いのガラスが生み出され、七宝金具として用いられるようになった。しかし平田の初期の作品は、一般に透明度が低く、それ故に渋い味わいがあり、現代でも泥七宝などと呼ばれて数奇者に好まれている。
 この鐔は、江戸時代の文化の洗練を受けて、文様としても美しく、素材のガラスも美しく、そのガラスの色合いをより美しく見せるため工夫もなされ、さらには平田派の得意とする金線との組み合わせを巧みとした作品。まさに宝尽と呼ぶに相応しい作である。