鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

蝶図小柄 後藤一乗 Ichijo Kozuka

2010-06-05 | 小柄
蝶図小柄 後藤一乗



蝶図小柄 銘 後藤法橋一乗(花押)

 水辺の風景を描いた、後藤一乗(いちじょう)の綺麗な小柄。この作例のような風景の文様化は江戸時代に広く流行している。琳派と呼ばれる桃山頃に隆盛をみた様式もその一つ。我が国の自然美、殊に四季の美しさは古来様々な芸術分野で作品化されており、琳派の構成美も自然の美しさを背景にして様々な表現が試みられ、表現空間が限られてしかも小さいという装剣金工においては、平象嵌など独特の技法や構成が見出されている。江戸時代後期になると琳派の視野も広がり、琳派という捉え方そのものも怪しくなってくる。もちろん、同時代に琳派の呼称も意識弥なかった。
 金工では、度々紹介しているが桃山頃では埋忠明壽、中期以降では加賀金工などがその例で、この小柄でもわかるように幕末の後藤一乗にも風景の文様表現を極めた作例がある。
 赤銅魚子地を高彫にし、金と銀の色絵、細部には平象嵌を施して絵画的な表現としている。魚子地は空間の省略だが、綺麗に揃っており、爽やかな空気のありよう、あるいは透明な陽の光を暗示している。