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シオングァンロン


シオングァンロンは、白亜紀前期アプト期からオーブ期に中国甘粛省に生息した中型のティラノサウロイドで、2009年に記載された。2007-2008年の「恐竜大陸」で、まだ研究中の「小型獣脚類(ティラノサウルス類)」として公開されたものである。ワニのように顔が細長い謎の獣脚類として、当時最も興味をひかれた恐竜であった。模式標本として、ほぼ完全な頭骨(下顎はない)、完全な頸椎と胴椎、部分的な腸骨、大腿骨が見つかっている。同時代の動物相にはテリジノサウルス類(スジョウサウルス)やオルニトミムス類(ベイシャンロン)が含まれる。
 ティラノサウルス類(上科、ティラノサウロイデア)の進化史の中で、白亜紀前期バレム期の原始的なティラノサウロイド(エオティランヌス、ディロング)と白亜紀後期のティラノサウルス科との間には時間的にも形態学的にもギャップがあった。シオングァンロンはこの間をつなぐもので、原始的なティラノサウロイドにはない、いくつかのティラノサウルス科の特徴を獲得している。系統解析の結果、シオングァンロンは、ティラノサウルス科+アパラチオサウルスと姉妹群をなすという。

 シオングァンロンは中型のティラノサウロイドで、顔が非常に細長く、眼窩より前方の部分(吻)が頭骨の長さの2/3以上に達するという特徴をもつ。また白亜紀後期のティラノサウルス科では鼻骨の表面に粗面が発達し、涙骨には顕著な角状突起があるが、シオングァンロンはそれらの形質をもたないことで区別される。一方、脳函 (basicranium)の長さよりも幅が広い、方形頬骨の背方突起が広がっていて後縁が横に曲がっている、前上顎骨歯の舌側に稜がある、頸椎のうち軸椎の神経棘の端に側方突起をもつ、鼻骨の側縁に含気孔がないなどの点で、バレム期の原始的なティラノサウロイドよりも進化している。

 頭骨は長く丈が低く、眼窩より前方の部分の長さが後方の部分の2倍以上ある。吻は細長いが後頭部は側方に広がっていて、その幅は吻の幅の約2倍である。前上顎骨の体部は長さと高さが同じくらいで、4本の歯がある。上顎骨は長く丈が低く、腹側縁は白亜紀後期のティラノサウルス科のようにカーブしていない。前眼窩窩ははっきりしていて、その底面は破損していて不明瞭であるがmaxillary fenestraはあったとしても小さく、前眼窩窩の腹側縁から離れている。前眼窩窓は短く、前眼窩窩の半分以下を占めるのみである。上顎骨の口蓋突起maxillary palatal shelfが後方にのびて、吻の長さのほとんどにわたって二次口蓋を形成しているが、これはティラノサウルス科やディロングと同様である。
 左右の鼻骨は前方で癒合している。鼻骨の両側縁は白亜紀後期のティラノサウルス科では中央がくびれた形をしているが、シオングァンロンではより平行である。シオングァンロンの鼻骨は系統上、重要な特徴を示すようである。エオティランヌスやディロングでは、鼻骨の側方縁が含気性であり、また低い稜として発達している。一方、白亜紀後期のティラノサウルス科では鼻骨の背面に粗面rugosityが発達し、また大型のものほど鼻骨が膨らんだ曲面vaultingをなす。ところがシオングァンロンの鼻骨はどちらの特徴も示さず、厚いがシンプルな鼻骨となっている。このことから、シオングァンロン自体は吻が非常に細長く特殊化したもので咬む力は強くないが、ティラノサウルス類が強く咬みつくことに適応して進化する過程で、鼻骨が含気性や稜を失う段階がまずあって、その後に膨らんだ、ごつごつした鼻骨が発達したと考えられるという。
 涙骨の前方突起の背側には稜があるが、はっきりした角状突起はない。前前頭骨は背面からみて三角形で、白亜紀後期のティラノサウルス類と同様に、眼窩の縁から排除されている。一方、ディロングでは前前頭骨が眼窩の縁に面している。鱗状骨の腹方突起と方形頬骨の背方突起は共に広がって、下側頭窓の中に突出している(B字形)。これはティラノサウルス科と同様であり、ディロングとは異なる。方形頬骨の背方突起は広がるとともに後縁が横に曲がっている。
 ほとんどの歯が歯槽に残っているが、保存状態がよいものは数本しかないという。前上顎骨歯はティラノサウルス科に特徴的な、舌側の中央に稜があるD字形の断面を示す。ティラノサウルスの幼体と同様に、前上顎骨歯には鋸歯がない。上顎骨歯は、原始的なティラノサウロイドやティラノサウルス科の幼体と同様にナイフ状で、前後両方の稜縁に鋸歯がある。上顎骨には15本の歯がある。ティラノサウロイドといえば前上顎骨歯のD字形の断面が出てくるが、このシオングァンロンの研究では、単にD字形で舌側が平らなものと、強く非対称なD字形で舌側の中央に稜があるものとを区別している。後者はティラノサウルス科、アパラチオサウルス、シオングァンロンに特徴的としている。

 模式標本は、神経弓と椎体の間がほとんど閉じていることから成体と考えられ、頭骨の長さ504 mm、体重が272 kgと推定されるという。これはバレム期のディロングやエオティランヌスと、白亜紀後期のティラノサウルス科との中間になるので、ティラノサウルス類の大型化の傾向は白亜紀を通じての現象と考えられる。(ただしディロングは祖先よりも小型化した種類かもしれないという。)

参考文献
Daqing Li, Mark A. Norell, Ke-Qin Gao, Nathan D. Smith and Peter J. Makovicky. (2010) A longirostrine tyrannosauroid from the Early Cretaceous of China. Proc. R. Soc. B 277, 183-190. first published online 22 April 2009.


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