tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

モンゴル・ワンコ

2019-02-18 22:59:28 | 人々

通訳のプージェーが触らないほうがいいよとアドバイスをくれる。
モンゴルで飼われている牧畜犬は、狂犬病の予防注射などされてないから、噛まれたら大変だという。

モンゴルの人たちは飼っている犬を、ゲル周辺を警備し、余所者の侵入を防ぐ忠犬としてゲルの成員に加えてはいるものの、その扱いはそっけない。
おじいちゃんのゲルにも2匹のモンゴル犬がいるのだが、ワンコたちと家族の接点はおばあちゃんがくれる羊の骨のご飯だけ。
あとは互いに無関心だ。子供たちが外で何をしようが、ワンコたちは目をやることもなく、冬の日差しを浴びて丸くなって寝ている。
もちろん、牧畜犬として立派な仕事をする。朝の牛追いの時は、左右に広がろうとする牛たちをコントロールして一塊にして、後ろから追うおじいちゃんを助ける。
夕方、牛たちが帰ってくると、ほえて誘導し家畜小屋へ急がせる。それも誰の指示も受けずに彼らだけでやる。

プージェーがワンコたちに対して無関心なのは、狂犬病の心配以外に、モンゴルではかつて遊牧民の間で人糞を犬に食べさせて飼育する風習があったことからかもしれない。
プージェーが小さいころ、そんな風にして育てられたワンコたちを見ていたとすれば、犬に近づきたくないのも理解できる。

夜中に起き出して外で星空の写真を撮っていたら、真っ暗な中、ワンコの一匹が三脚のにおいを嗅ぎにきた。外はマイナス30℃以下。
顔の周りは息が凍って白くなってる。思わず抱きしめてあげると、ワンコは困った様子。きっと、人に抱かれるなんて子犬のとき以来なのだろう。
でかい体のモンゴル・ワンコの困った様子を見ると、なおさらかわいく思えてくる。なので、きつく抱きしめてやる。


誇り高き老人

2019-02-17 11:47:26 | 人々



このゲルの住人のおじいさんは、何万頭もの家畜が凍死した2010年のゾドで30頭ものヤギやヒツジを失い、残った70頭余りのヤギやヒツジを連れて西の果てからウランバートル近郊へ移ってきた。こちらの方が元居た場所よりも気候が安定していて、家畜たちも楽だ。
ただ、この地に移って一昨年、15頭いた馬のうち13頭が盗まれてしまった。
昔は、遊牧民でこんなことをする奴はいなかった、とおじいちゃんの顔が曇る。手塩に育てたかわいい馬たち。馬肉として売られてしまったのだろう。ゾドの牙は遊牧民の魂さえも変えてしまったのだろうか。

ゾドの周期は約10年。前回が2010年だったから、来年2020年にまたその牙をむくかもしれない。今年2019年の春も油断できないと、おじいちゃんは言う。

ウランバートルの近くへやってきたのは、気候のせいだけじゃない。政府の仕事を少しだけ請け負っている。いわば公務員。おじいちゃんはこのドキュメント写真にいなくてはならない存在なのだが、そうした事情から名前を明かすことは遠慮。

彼の3人の娘たちは、ウランバートルに嫁いでいる。ツァガンサル(白い月)で孫の顔を見るのが何よりも楽しみだ。


モンゴル伝統料理

2019-02-16 12:43:15 | 人々

今はどうか知らないが、遊牧民は移動中にゲルがあれば(知ってる人でも知らない人でも)立ち寄るのが習わしだったそうだ。馬などの家畜を外で放し飼いにしていることから、怪しい者じゃないとアッピールする意味もあるのかもしれない。

「いつでもうちの扉を開けて、待っているから」。
かつて草原では、自分が留守にするとき、ゲルに立ち寄る誰かのために食卓にお茶や食べ物が置かれた、という。もちろん扉にカギなどなかった。

そのため遊牧民は、自分の食器を持参で移動してたようだ。水の便が不便なので、食べた食器を洗いづらいケースもある。・・・布で拭いておしまい。
こんな古い遊牧民の習慣をなんかの本で読んで、ぼくは今回のゲルのホームステイにアウトドア食器を持参しようかと本気で迷っていた。

行ってみたら、ゲルは清潔だった。おばあちゃんは、ひとつの鍋で次から次へとおいしい伝統料理を作ってくれた。まさにモンゴルマジック。もちろん、食べ物を入れる器も、その都度きれいに洗ってた。モンゴルでは、羊肉と小麦粉、牛乳をおもな食材とし、羊肉を煮たチャナサン・マフ、野菜入りの麺ゴリルタイ・シュル、ひき肉を生地で包んで蒸した小籠包のようなボーズといった伝統料理をつくる。香辛料をほとんど使わない。

羊肉は脂身が多くなかなか噛み切れず苦手だったな。なのでもっぱら通訳のプージェーが担当。素朴な味のゴリルタイ・シュルは安心して食べられた。



男の勲章

2019-02-15 22:41:13 | 人々

おじいちゃんの息子さん。3人の子の父親だ。ツァガンサル(白い月)で奥さんが子供を2人連れて実家に帰省中。残った子が5歳の女の子。
彼は働き者だ。奥さんが不在の分、夜明け前から家畜の世話、お正月の準備にゲルの飾りつけ、そして夜は乳しぼりと休む間もなく働いている。
マイナス30℃にもなる冬の朝を、ゲルの外で仕事をしているから顔は凍傷になって赤くなっている。まさにモンゴルの男の勲章。。

仕事の合間に、手巻きの紙タバコ。映画とかで見たことあるけど、実際にタバコを手で巻いて吸ってるのを見たのは初めてだ。日本ではとっくの昔に失われた習慣だ。おじいちゃんはおじいちゃんで、刻み煙草をキセルで吸っている。

モンゴルの客を迎える儀式に、嗅ぎタバコがある。人と挨拶をする時、自分の嗅ぎタバコ入れを相手の嗅ぎタバコ入れと交換して、互いに相手の粉末タバコを嗅ぐ。嗅ぎタバコ入れは、小さな大理石のような瓶で、中に粉のタバコが入っていてこれを鼻孔にすりつけて香りを楽しむらしい。

ただし、モンゴルでも、最近の若者は嗅ぎタバコを吸わなくなっているらしく、儀式は形だけ。通訳のプージョーも嗅ぎタバコはやらないけど高そうな嗅ぎタバコ入れを持ってて、お正月の挨拶するときにはそれを使ってた。
ぼくも見様見真似で、相手から差し出された嗅ぎタバコ入れを両手で受けとり、瓶の蓋の所を嗅ぐ振り。蓋は開けないからタバコの香なんてしない。


モンゴルの男の子

2019-02-14 22:44:32 | 人々

彼の名はメンクバト(たぶん)。うランバートの小学校に通う7歳の男の子。
冬休みには、いつもおじいちゃんのゲルに泊まりにやって来る。
モンゴルの7歳の子供はたくましい。学校が休みの時に手伝いに来るだけだけど、家畜の扱いは一人前。
朝、仔牛たちを牧草地に連れて行くのだが、容赦なく仔牛たちをビシバシひっぱたく。あるいは頭ほどある岩を地面に叩きつけて、モタモタしている仔牛たちを追っていく。
親牛と仔牛は違う牧草地へ。親牛たちは、おじいちゃんが牧羊犬とともに牧草地へ追っていく。夕方、お腹の空いた仔牛たちは自分たちで牛舎に戻り、鳴いて母牛を呼ぶ。親牛たちは仔牛に乳をあげるため、やはり牛舎へ戻ってくる仕組みだ。

親牛たちの牛舎への戻りが遅かったある晩に、彼は牛舎の壁にもたれかかって泣いていた。日が暮れて親牛たちの帰りがあまりにも遅かったので、その日の乳しぼりは真っ暗な牛舎に電灯をともしてやることに。
旧正月前日の忙しい晩だったので、彼の乳しぼりの出番はなかったわけだ。カウボーイとしてのプライドを傷つけられた彼は、一人で壁にもたれて落涙。

こんなとき、モンゴルの人々は放っておく。通訳のプジェーは見て見ぬ振りだ。きっと、これが狭いゲルの中で、大勢の家族たちがうまくやっていく秘訣なのだろう。
・・・下手な干渉はしない。そういえば、おじいちゃんもそっけない。牛の放牧に付き合って、明け方、数キロ牛を追ってったのだが、その間、なんの話をするわけでもなし。もっとも、ぼくはモンゴル語ができないから、端から会話をあきらめてたのかもしれないが。。