tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

アップルクリスプ(1)

2007-09-28 20:17:55 | old good things

彼女が買い物袋にいっぱいのリンゴを抱えて、駅の改札に現れたのは7ヶ月前の2月下旬の粉雪ちらつく、ひどく寒い日のことだった。
「田舎からたくさん送ってきたの」
逢うなり、彼女は袋をぼくに手渡した。袋の中には真っ赤なリンゴが十個ほど入っていて、どっしりと重い。彼女は、この荷物を抱えて自分の部屋から2時間もかけてやってきたんだ。
「こないだ言ってたアップルクリスプの作り方を教えてあげる♪」
「アップルクリスプ?」
なにがなんだか分からずにぼくがたずねると
「リンゴの入ったケーキよ」

駅からの道を二人で歩きながら、ぼくは彼女からリンゴに関するブリーフィングを受けた。
セザンヌや岸田劉生、マグリットらが虜になったリンゴ。エデンから追放されたアダムとイブが食べたリンゴは緑色に描かれているらしい。いわゆるApple green。一方、セザンヌのリンゴは赤色。セザンヌは、対象を見たまま表すのではなく、様々な角度から見た個々を一つの画面に同居させ、物質の本質をとらえようとするそれまでにない全く新しい手法を産みだした。ニュートンのリンゴ以上に、セザンヌのリンゴこそ「科学」だったのかもしれない。
青果のリンゴを描いていると、毎日毎日表面の色が微妙に変化する。絵を描いていると、リンゴはすぐに傷んでしまう。セザンヌのような遅描きの画家でなくても困るらしい。リンゴにはデッサンの基本がすべてある。リンゴを描ければ全ての果物のデッサンは描けるようになり、他の絵でもある程度は描けるようになるとのこと。


Carpenters - Only yesterday

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