彼女の話は料理ではなく、絵画やデッサンの話で終始した。そういえば、映画「マルメロの陽光」でも、マルメロの実に映る光と影のコントラストが実に良く捉えられていた。輝きを持つからこそ、人は生きる事が出来るのかもしれない。「秋のさなかに夏の太陽がぶりかえし、あまりに強いその日差しから子供を隠したほうが良い」というスペインの言い伝えがある。それが、9月28日のマルメロの陽光の日。
そもそも彼女との出逢いは、1年前の行きつけのスポーツクラブのダイビングツアーだった。9月下旬、台風シーズンの真っ只中に組まれた伊豆海洋公園ツアーに彼女も参加していた。心配された台風の影響もなく、マルメロの陽光を思わせる9月の太陽の下、地上とはまったく異なる青の世界をぼくらは思い切り満喫した。3人のインストラクターを含め、年齢がバラバラの10人のツアー。そのうち、女性は4人。社会人に混ざって学生で参加した彼女は一番年下だった。
4人の女性ダイバーの中で、とりわけ彼女が魅力的だったわけではない。美人と言えば幼稚園の保母さんの方がずっと美人だったし、若い女性インストラクターの方がざっくばらんで明るくてより魅力的だったことは確かだ。どちらかと言えば、チビでやせっぽちの彼女は、最高のおせじとして、上戸彩に似ているって言えば言えないこともない。マスクに髪の毛が入らないように、頭のてっぺんで髪の毛を結んでいた。ものおじせず底抜けに明るい彼女は育ちのよさを思わせたが、その時は芸術学部に通う学生とは夢にも思わなかった。
彼女は何が気に入ったのか、2日間のツアーでぼくとバディになった訳でもないのに、ずっとぼくに話しかけてきた。そして、次にダイビングツアーに参加する時も同じツアーにということで、ぼくは携帯の電話番号を彼女に教えるしかなかったのだ。
Chicago - Hard To Say I'm Sorry (1982
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