彦四郎の中国生活

中国滞在記

東京夏五輪・北京冬五輪、五輪開催を巡って―日本人としての矜持(きょうじ)

2021-03-20 16:46:55 | 滞在記

 2月以降、東京オリンピック・パラリンピックの開催、及び組織委員会を巡って、眼を覆いたくなるような混乱が続いてきている。2月上旬、「会議に女性が多いと時間がかかる」との失言?を追及され、翌日に謝罪会見をした森喜朗組織委員会会長。IOC・国際オリンピック委員会も森氏の発言は極めて不適切とコメント。謝罪で一件落着かと思いきや、辞任に追い込まれた。

 こんな中、毎日放送(TBS)「グッとラック!」(朝の報道番組)でコメンテーターを務めているタレントのロンブー淳氏が聖火リレーのランナーを辞退することを番組内で発表。その理由とは、森会長がコロナ感染対策のためには、市・県道や国道だけでなく「田んぼの道を聖火ランナーが走ることもある」との発言への怒りだと話した。ロンブー淳氏は、自ら希望して愛知県犬山市内の区間を走る予定だったが、たったこれだけの理由で辞退した。感染対策としてコースを変更して田んぼ道を走るということもありうる。ランナーをバカにしているとのロンブー淳氏のコメントは、彼の五輪などへの見識の低レベルを示すものだが、「グッとラック!」の司会者の立川志らく氏も含めて、番組自体の程度の低さを感ぜずにはいられなかった。

 森氏の後任を巡る人事。森氏からの要請で川渕三郎氏(五輪選手村村長・Jリーグ初代チェアマン)が後任を引き受ける流れとなりかけたが、密室での会長人事決定への批判を懸念し、政府もこの人事案に難色を示し、川渕氏は辞退。森氏が「女性の話は長い」と発言してしまったその女性とも目されるのが谷口真由美氏。彼女は森氏と同じく日本ラグビー協会に所属し理事も務めている人だ。

 TBSの日曜朝の報道番組「サンデーモーニング」に、コメンテーターとして時々出演していたが、なかなか優れたコメンテーターがそろうこの報道番組の中で、彼女一人はだらだら話す程度の高くないコメンテーターとの印象が強い人だった。肩書は「全日本おばちゃん党代表代行」、出身大学の「大阪国際大学教授」、「大阪大学非常勤講師」など。40代のはじめでなぜ、「全国おばちゃん党代表代行」なのか、売名ねらい的な、何か引っかかる嫌味っぽい感じの人との私の印象だった。

 森氏が彼女に対して私同様の思いをもっていたとしても不思議ではない。ポロっと出てしまったのだろう谷口氏などへの思いが。ちょっと森氏や川渕氏が気の毒にも思える面もあるが、しかし、JOC(日本オリンピック委員会)会長のポロリの一言でも、公の場で言ってはいけないことであるとは思う。彼はまたジェンター的には首相経験者の政治家としても不見識だ。

 中国のインターネット記事でも、「太突然!他提出辞職 森➡川渕」との見出し記事が掲載されていた。JOCの後任会長人事は、結局、橋本聖子五輪大臣に決まったが、彼女の過去の男性へのセクハラ行為問題が週刊文春などで掲載されるなど、東京五輪があと半年後に迫る中、世界にさまざまな恥をさらした2月となってしまった。

 朝日新聞の東京五輪開催に関する世論調査結果が2月中旬に発表された。2月13・14日に調査されたもののようだ。それによると、①「21年夏に開催」(昨年12月・30%➡今年1月・11%➡2月・21%)、②「再び延期」(昨年12月・33%➡今年1月・51%➡2月・43%)、③「中止」(昨年12月・32%、今年1月・35%、2月・31%)となっていた。

 こんな東京五輪への世論の中、鳥取県知事の丸山達也氏が「県内での聖火リレーの中止を検討する」との発表会見を行った。中止検討の理由として①コロナ感染拡大の問題への政府の対応への批判、②島根県内の飲食業者に対する政府補償金などに関する不満を挙げていた。まあ、丸山氏は基本的には「五輪開催」そのものに反対だった考えだったようだが、それにしても、知事としての、日本の政治家としての総合的見識の小ささにはちょっと驚く。

 中国での2022年2月の北京冬のオリンピックまで1年をきった。アメリカやイギリスなど欧米諸国から、中国共産党政権の人権問題(香港や新疆ウイグル自治区)への批判が、この北京冬季オリンピックへの参加も含めて、改めて問題が大きくなってきている。アメリカ政府は議会も含めて中国政府のウイグル族への政策を「ジェノサイト」と認定。北京冬季オリンピックの開催にも影が射し始めてはいる。

 中国政府は東京及び北京でのオリンピックに参加する選手や選手団・役員などへの、新型コロナウイルス対策として中国製造ワクチンの配給支援を行うと発表。IOCのバッハ会長はこれを歓迎する会見を行った。中国はすでに、アジア26か国、アフリカ34か国など計80か国と3国際組織に中国製ワクチンの対外援助を行うことを決定していると、19日に中国新華社通信が報道した。(香港では中国製ワクチンを接種した人のうち6人が死去した。香港行政長官の林鄭月娥氏は、「死者のことよりもワクチン効果のほうが上回る」とコメント。)

    中国は現在、中国製ワクチンを接種した証明があれば、中国入国に際しての2〜3週間隔離を免除することを検討し、実施に向かうこことなりそうだ。中国製ワクチンの全世界への承認・普及、北京冬季五輪を見据えた、世界に先駆けた対策を実施しようとしている。

 世界の新規コロナ感染種数は最近に至りやや減少傾向とはなっているが、既存のウイルスにとってかわり変異種の感染拡大が世界的に広まってきている。この変異種ウイルスへの各国のワクチンは効くのかどうかの不安も。ヨーロッパのフランスやイタリアでは変異種の感染拡大で再びロックダウン政策が開始されている。

 そんななか、日本では東京はじめ一都三県の緊急事態宣言の解除が明日21日に行われる。東京の新規感染者数は300~400人を推移、昨日の全国の新規感染者数は1400人台と3月上旬を大きく上回っても来ているなかでの解除だけに「お手上げ解除」とも報道されている。3月4月5月にコロナワクチンを接種して感染対策を行うという日本政府のねらいも、この変異種などの広がりの中で不安が高まる。感染拡大予防策の基本中の基本であるPCR検査の国民的広範な実施をこの1年間ずっと先送りにしてきた安倍政権、特に菅政権のコロナ対策の失政責任は大きいものがある。

 そして、3月中旬すぎに、東京五輪・パラリンピック開閉会式の演出を総括する佐々木宏氏が突如辞任した。中国の新浪体育は、「東京五輪 またも不祥事 演出家が女性タレントをブタに変装させる案」と報道した。タレントの渡辺直美さんの容姿をもじって開会式で「東京オリンピッグ」のピッグ(豚)にかけるという駄洒落のような演出の案を1年前ラインで提案していたことが問題視され、辞任になった。この佐々木氏の程度のあまりの低さに同じ日本人としてとても恥ずかしさと怒りを覚える。

 最新号の週刊ポストには、「こんな状況下の中で五輪を開催する意味なんてあるのか」というテーマでの特集記事が掲載されていた。2月上旬に発売されたビートたけしの『コロナとバカ』(小学館新書)。書籍表紙帯には、「ウイルスよりよっぽどヤバいぞ、日本人。」「いつからこの国はこんなに薄っぺらくなっちまったんだ?」の言葉が。ビートたけし氏は東京五輪開催に反対の意見。その理由として、「そろそろ日本は、サッカーやラグビーの世界大会や五輪、万博、カジノ誘致などのお祭り依存の体質から抜け出した方がいい」ということなのだが。まあ、それはそれでわかるが‥。

 2021年1月18日付の私のブログ「東京五輪中止となれば、"22年北京冬季五輪"は人類がコロナ克服と中国政府アピール大会になるが❶❷」でも書いたことだが、この東京五輪中止決定の場合は、さまざまな面で日本が、日本人が失うものの大きさは、これまたはかり知れないものがあるだろう。日本人、日本としての誇り、「喪失感」である。聖火ランナーを人気取りのように辞退したロンブー淳氏や丸山島根県知事に、日本人としての矜持(きょうじ)はあるのだろうか…。東京五輪中止のネット世論や報道に、大阪府枚方市で聖火ランナーとして走る予定のタレントのハイヒール・リンゴさんは、「走りたい人も大勢いる‥。聖火ランナー辞退を"称賛"の世論や報道に悲しい」と語る。

 来週の3月25日から東京五輪に向けた聖火リレーが東北の福島からスタートする。海外からの観客はなくして開催する方針が打ち出される方向のようだ。「コロナに人類が打ち勝った証の東京五輪」には程遠いが、それでもまだ、「コロナに人類が打ち勝とうとしている東京五輪」の開催となればいいとは思うのだが‥。

 東京五輪完全中止となれば、日本、日本人が失うもののはかり知れない大きさを思うと‥。改めて思うが、2021年2月に、中国習近平主席に「人類が、とりわけ中国共産党が導く中国政府と中国人民が、コロナに打ち勝った証となった五輪開催をここに宣言します」と言わしめていいのだろうか…。どんな顔をして、どんな気持ちで日本人はこの北京五輪をテレビで視聴するのだろうか…。歴史のパロディ、悲喜劇が近づきつつある2021年3月の世界。そんなことを感じながら、東京五輪の行方(ゆくえ) を見守っている。

 

 

 

 

 

 


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