彦四郎の中国生活

中国滞在記

「人権問題・ゼロコロナ政策」問われる中、北京冬季五輪いよいよ始まる―張芸謀:開会式演出

2022-01-25 08:44:24 | 滞在記

 2022北京冬季五輪の開幕があと10日後に迫った。

 2月4日の北京国家体育場(鳥の巣)で開催される開会式や閉会式の総合演出を務めるのは、2008年北京夏季五輪の時と同じく張芸謀(ヂャンイーモウ)氏である。彼は世界的映画監督であり、生まれたのは1950年で今年72歳となる。北京夏季五輪の開会式では、中国の歴史・文化の壮大な大絵巻のような世界を演出し、素晴らしい、感嘆されられる開会式演出を行った。

 私はこの張芸謀の映画が大好きだ。ざっと、私が観た彼の素晴らしい作品を挙げると次のようになる。「赤いコーリャン(1987)」、「活きる(1994)」、「あの子を探して(1999)」、「初恋の来た道(1999)」、「至福のとき(2000)」、「単騎、千里を走る(2005)」(※主演は高倉健)、「サンザシの樹の下で(2010)」、「妻への家路(2014)」、「グレートウォール(2016)」(※万里の長城を巡る歴史的戦いを描く)、「SHADOW/影武者(2018)」など。東洋的な芸術性と内容の優れた作品は、日本の黒澤明監督と双璧をなす。

 10日後の北京冬季五輪の開会式の演出について張芸謀は「中国人の世界観を伝えながら、最終的にそれが人類が共有できる物事の見方であることを示す」などと、中国国営中央テレビ(CNN)で1月21日に語ったと伝えられた。この張芸謀の発言に関し、中央テレビは「中国の歴史や文化を知らしめることに重点を置いた2008年の(北京夏季)五輪と違い、全人類共有の精神や理念、『人類運命共同体』を訴える内容になる」と解説したようだ。「人類運命共同体」は習近平国家主席が外交などで頻繁に用いているスローガンでもある。そして、最近では「西欧式の民主とは違う中国式の民主の正当性についての言及」も、中国共産党は大々的に行ってきている。

 さて、10日後の開会式は、どのような「中国人の世界観」「最終的にそれが人類が共有できる物事の見方」というものを張芸謀は演出するのだろうか。そこに、「人権」や「民主」は、どのように描かれるのだろうか。おそらく中国政府からの演出内容に関する厳格なプロパガンダ的要請は強くあるだろう(例えば、「中国共産党の指導」あっての"民主や人権"の演出など)が、張芸謀ならではの、深みのある演出を期待はしたいところだが‥‥。はたして‥。張芸謀の心中も複雑な思いはあるだろう‥。世界が注目する「開会式セレモニー」だ。

 中国のネット記事には、「北京奥会開幕式最新劇透来了 張芸謀給大家一个"惊喜"」という見出し記事があった。北京オリンピック開会式の新たな劇場の内容が垣間見えてきた。張芸謀がみんなに一つの喜びを与えてくれるだろうという意味となる。

 今年の中国の春節まで、あと5日と迫った。1月30日は大晦日となる。超厳重・厳格な「ゼロコロナ政策下」の中国だが、12月中旬に入り、かなりの規模の新型コロナ感染拡大が続いた。そして、春節を目前にして、かなりその感染状況が抑えられてきている。散発的に、中国各地で新規感染者が出ているというところまで。北京では、一人のオミクロン株の市中感染が確認されて以来、超厳重な防疫措置は、人間だけでなく、荷物にも及んでいる。

 中国のネット記事には「奥密克戒突然北京冒出 背後元凶終于査明?」(オミクロン株が北京にも突如現れた。オミクロン感染の元凶[原因]がついに明らかにされたか?)の見出し記事。「病例于1月11日 収到郵件」(オミクロン株の原因は郵便物だった)の見出し記事。中国政府は「カナダから送られてきた郵便物にオミクロン株のウイルスがついていたための感染だった」と発表した。(※中国政府とカナダ政府はここ数年対立関係にある。)  そして、中国全土から北京に送られる国内郵便物も現在、文書・手紙・書類にいたるまで、液体散布による徹底的な消毒が指示されている。まあ、徹底した「ゼロコロナ政策」だ。

 「感染症と戦う人民戦争、総力戦、阻止戦を展開し、武漢と湖北省を守る戦いを綿密に行った」。昨年11月に採択された中国共産党創立100年の歴史を総括する歴史決議は、武漢封鎖をこう讃えた。中国各地ではこの2年間、武漢封鎖の成功体験を受けて、コロナの感染拡大が少しでも確認されるとすぐに、同様の措置がとられるようになった。武漢封鎖後、欧米や世界各国のような爆発的な感染拡大が起きてきておらず、中国国民からも超厳格・厳重・強権的な防疫政策は支持もされており、ゼロコロナ政策は習近平政権の誇るべき看板政策となった。ゼロコロナ政策の見直しは、習政権の成果を否定することにもつながりかねないと警戒する。

 ゼロコロナ政策の暖和や政策の見直しを求める声には、政府はネットなどを通じて組織的に国民世論を形成し、そのような声には猛烈な批判の嵐を巻き起こさせることを行った。ただここにきて、中国国民の中に、ゼロコロナ政策への不満や疲れが醸成されつつあることも指摘されている。北京冬季五輪が終わるまでは、我慢はするが‥‥という感の思いも中国国民のなかに生まれているのかもしれない。

 12月中旬以降、西安や陝西省、河南省、広東省、天津などでおきたコロナクラスターにおいては、感染者がでた地区・都市の全住民が、隔離措置やPCR検査を受けることとなった。(※天津市ではこの3週間で1人につき4回に渡る全市民対象のPCR検査を実施) 黒竜江省ハルビン市では、今月22日、市中感染者が一人も確認されていないにも関わらず、当局が全市民に対してPCR検査を行うと表明するなど、行き過ぎも指摘されている。感染が拡大すれば、地元当局幹部が責任を問われて処分されるため、どうしても過剰な対応を行うことになると指摘もされている。

 昨日、中国のネット記事を閲覧していたら、「鄭州特大暴雨災害 逮捕8人 問責89人 市長候紅被党内厳重警告 政務降級」との見出し記事があった。この処分記事は一昨日24日に発表されたもので、昨年7月に起きた河南省での大水害において被害や死者に関する過小な報告を行った河南省の省都鄭州市の市長や書記(トップ)、幹部などの処分や逮捕についての記事だ。コロナ感染が拡大したら地方幹部たちはその責任をとせされて処分されるが、水害においても処分・逮捕されることを物語る記事だ。

 2年前に武漢で感染拡大が初めて始まったころ、そのことを隠蔽した武漢市や湖北省の幹部たちの行いによって、中国全土に拡散し、ついには世界的な大パンデミックに至っている。この隠蔽体質は、一党支配の中国においてはなかなかなくならない。地方幹部たちも、事実が明るみにでることによって自分たちが処分されることが恐怖なのだ。武漢でコロナ発生の警鐘を鳴らしながらも感染により死去した医師・李文亮の「一つの声しかない社会は健全な社会ではない」という言葉は重い。張芸謀は、この言葉のもつ中国社会に突き付けられた警鐘を、北京冬季五輪の開会式セレモニーで、中国人にとっての「民主・自由・人権」という普遍の価値というものを、どのように演出するのだろうか…。

 先日、京都市内の丸善書店の中国コーナーに立ち寄った。『命がけの証言』、『再教育収容所 地獄の2年間』『重要証人 ウイグル強制収容所を逃れて』などのウイグル族が今置かれていることを知らせる書籍も多く並べられていた。

 1月24日付朝日新聞の社説は「中国の人権 なぜ出国を認めないのか」と題された記事だった。それによると、「①人権派弁護士の唐氏の長女(25)は、日本に留学中の昨年4月病に倒れた。唐氏は急きょ訪日しようとしたが、北京の空港で当局により出国を阻止された。その後、何度も出国を訴えたがこの12月に行方不明となる。当局により拘束されているとみられる。長女は今も意識不明の重体で日本の病院にいる。②新聞の紙面に当局が介入したことに抗議したことで懲役6年の判決を受け投獄されていた経歴を持つ郭氏の妻(米国在住)が、癌であることがわかり、昨年にすぐに渡米しようとした郭氏。出国を求め続けたが、昨年12月に再び拘束された。妻は先日、病院で亡くなった。」

 「来月には北京で冬季五輪が開幕する。開催国の中国政府は、人権の尊重を高く掲げた五輪憲章に真正面から向き合うべきだ。いかにきらびやかな祭典の演出をしようとも、その足もとにある深刻な人権侵害の闇を消すことはできない。」とこの社説は結んでいた。

 

 1月23日付京都新聞には「武漢モデル 市民疲幣 中国、初の都市封鎖から2年—習指導部の成功体験 移動制限各地に拡大」の見出し記事。同日付読売新聞には「中国"ゼロコロナ"限界 武漢封鎖2年 隔離住民ら抗議 工場停止も/習政権"成功体験"に固執の見出し記事が掲載されていた。

 朝日新聞の(多事奏論)というシリーズ記事がある。1月22日付朝日新聞のこのシリーズには「"ゼロコロナ"の中国 多様なアヒル 自由に育つか」という題名の記事。編集委員の一人である吉岡桂子氏の文章だった。彼女の書く中国に関する記事はとても優れていていつも感心させられる。今回の文章の一文には、「‥‥‥武漢市で新型コロナの流行が発覚してから2年になる。中国政府は徹底した監視と情報管理のもと都市封鎖を繰り返し、感染を抑え込んできた。80万を超す死者を出した米国と比べて、成功と勝利をうたう。権力者だけでなく、人々の誇りにもなっているようだ。14億人の人口のうち、理不尽でもごく一部さえ我慢すれば全体はうまくいく。その一部になった人は運が悪い。あきらめるしかない。そんな中国社会の均衡点が"ゼロコロナ"政策とも言える。‥‥‥‥。」とあった。

 

 

 

 

 

 

 


コメントを投稿