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詩集「52時70分まで待って」 桑田窓 (2021/09) 思潮社

2021-10-24 22:43:01 | 詩集
第3詩集。105頁に35編を収める。

この詩集の根底には、列車、あるいは船に乗って、どこかへ旅立とうとする思いが流れている。その船には「どこにも着けず 沈みます」と表示してあるかもしれないし、「終点まで連れて行ってくれる船なんて/あるはずがない」とも思っているのだが(「一度きりの航海」)、それでも旅立つのだ。

「雨の向こうの時計店」は、いろんな時間を売っている店。客は逆向きに進む時計や時間をいつでも止められる時計を探しに来る。しかし、そんな時計を手に入れることが果たして幸せなことなのか、どうか。すずめは「時計がなくたって/ 急な雨は分かるのに」とつぶやいて空へ飛び立つ。最終連は、

   針の目盛りひとつ
   戻れない空は
   少しだけ秋に向かっていた
   今を生きるすずめと
   同じ早さで
   夕焼け空が流れていた

時間の区切りなど超越したような空の広さと、そこで流れている時を雲の流れに重ねてイメージを巧みに可視化していた。作者には時間の流れも”一度きりの航海”だという意識があるのだろう。

「いつか枯れゆく滝で待つ」。もう一度会いたい人がいるのに、その人に流れる時間と話者に流れる時間は重なりそうにもないのだろう。最終連は、

   後ずさりしそうな背を押すは太陽
   小さな二つの影はきっと重なる
   いつか涸れゆく
   砂時計のような滝の下で

水の流れと時の流れのイメージが重なり、水が落ち続ける滝も留まることなく過ぎていく時間の謂となっている。時が涸れたときまで待てば、めぐり会うことができるのだろうか。

「あとがき」にある台詞「みんなを呼んでくる。すぐに戻るから、ちょっとだけ待っていて」が詩集タイトルに繋がっていた。この詩集はそういうことだったのだとすとんと腑に落ちた。

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