瀬崎祐の本棚

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詩集「初めあなたはわたしの先に立ち」 花潜幸 (2022/09) 土曜美術社出版販売

2022-11-04 18:44:17 | 詩集
第4詩集。94頁に37編を収める。

詩集タイトルにもある”あなた”とは、「幼時母を亡くした後、姉と慕った従姉」のこと。第一章の作品はその”あなた”へのオマージュなのだが、美しい情感に溢れている。
タイトル詩「初めあなたはわたしの先に立ち」では、あなたは「意地や窪んだ夏雲の冷たい陰を引き寄せてくれ」て、やって来た水の淵では「さあ飛ぶならいまですよ と笑いかけ」てもくれたのだ。少し大げさな言い方をするならば、この世で美しく生きていくための手順をあなたは指し示してくれたのだ。最終連、果たされなかったわたしたちの硬い望みを想い出すことがあるという、それが、

   (略)いまでも、祈りとなって空を渡ることがある。
   何処(どこ)へ行くの、とあなたは躊躇いながら十月の空を見上
   げて尋ねてみたが、その鳥はまだ行く先を まったく知
   らなかったのだ。
 
こうした、何ものにも代えがたいあなたとの日々は、あなたの病によって限りあるものとなり、いよいよその密度を増していったようだ。

「続きの夢」では、「昨夜夢を見ましたか」と問うあなたがいる。すでに「病があなただけを染めて」いるのだ。「ええ、ぼくも続きの夢を見ました」と嘘を云いかけると、「あなたは唇に指を立て、大きくなったらきっと教えてください」と云ったのだ。ここには、交わされた言葉やその時の仕草を包みこんださらに大きな心の触れあいのようなものが感じられる。最終部分は、

   それから幾度か、さらに続きの夢を見ることがあったが、
   あなたに話す機会はなかった。

もしかすれば、続きの夢を語ってしまえば、そこであなたとの触れあいのある部分が終わってしまうことを怖れていたのかもしれない。しかしそれでも「白い夏の花束をあなたの胸に置」く日はやって来てしまったのだった(「宵の明星」より)。

あとがきによれば、第二章には「神々との対話」をおさめたとのこと。生きている人がいて、逝ってしまった人がいる。それらの人達との関わりを大事にすることで日々が作られていく。
そんな日々が積みかさなって、寂しい時の窓にはもうひとりの自分が映る。

   昔、小さな部屋の窓には、
   震えるぼくたちがいて
   まるく炎になり眠っていたのだ。
                 (「消灯時間」最終連)

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