瀬崎祐の本棚

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詩集「積雪前夜」  平井達也  (2016/12)  潮流出版社  

2017-02-03 22:03:28 | 詩集
 第2詩集。85頁に34編を収める。
 Ⅰ部の12編は、会社勤務の自分を第三者的にシニカルにながめている作品。題材は壁掛けカレンダーだったり、クリアホルダー、穴あけパンチだったりする。どれも他人に囲まれて仕事をしていくうえでの必需品である。こういったもので自分を武装して、他人と闘っているわけだ。

 たとえば「ネクタイ」で詩われる自分は、「茶色いネクタイにぶら下がって仕事」をしており、「ネクタイに引っ張られて/上司の席に行き叱られる」のだ。少し情けない自分の姿は自分の意志によるものではなく、何者かに操られた仮の自分の姿なのだと思い込もうとしているのかもしれない。

   シャツとネクタイの合わせ方がわからない
   色々な帳尻の合わせ方もわからない
   実は結び方が間違っているのかもしれない
   ネクタイは意地悪だから
   困っていても助けてくれることはない

 Ⅱ部は仕事から離れた自分個人の内面を探っており、散文詩も混じるⅢ部は社会の中にある自分を詩っている。
 「茹で麺」では、暮らしている街そのものが「何で取ったかわからないスープみたい」だという。いつも獣の臭いがして、暮らしは「安物の茹で麺のように絡まっている」のだ。この直接的な比喩が切実な思いをまっすぐに伝えてくる。自分はそのまま器の中の麺になり、揺らしたりされる。理不尽な状態に置かれている自分なのだが、それでもなお、もし器を壊されたら自分はそれまでだということを怖れてもいる。それが生きていることの必死さなのだろう。

   仕事帰りバーのカウンターに友だちと並ぶ。食欲も性欲
   もないけれど会えば金儲けの算段をする。私たちもスー
   プに浮かんだり沈んだりしている具の一片なのだろう。
   遠くない夜に溺れて家に帰れなくなる。

コメント
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