表紙は全面カラー写真でA4版の美しい装丁の詩誌。同人誌ではなく、3人の編集者の元に集まった発表者(女性限定?)がそれぞれ4頁を詩とエッセイで埋めている。
「干物」和田まさ子。
「今年の秋が/いそいで横を通りぬけるので」落ちてしまった穴に祖父がいたのである。祖父のたあいない話を聞いているとなにかが降ってくる。そして、
じっと見ていたら
わたしの前で
おじいさんが
アジの干物になっていた
今日の夕飯に
食べたい
何が言いたい作品なのかもわからないが、そんなことは抜きにして、とにかく面白い。幼い頃に面白かった絵本や童話がそうだったように、面白さに理屈などは要らない。どこまで世界が飛んでいけるか、だ。
「いもうと」坂多瑩子。
洋裁のうまいいもうとが勝手にわたしにワンピースを縫ってくれている。ほしくもないわたしのワンピースは「座敷をぬけて/縁側を出ていって/袖口がこすれ」ているのだ。おそらくは、わたしの手足もジョキジョキ切られて、遠いところまで連れて行かれたりするのだろう。それでもわたしは謙虚なのだろう。最終連は、
いもうとはいつも強引だ
ずっと遠くまでいって にいっとわらう
「黒い兎」田島安江。
どこかの家から「夜中にするりと抜けて」きた黒い兎を、わたしはあのひとがしていたように抱いている。すると、あのひとがいなくなったということが伝わってきたのだ。
兎の濡れた毛先から、遠い地の草の匂いが漂ってきて、川辺を
歩いていくあのひとがその先の森に入っていこうとしているの
がわかった。濡れた毛先の水の粒のなかに、いくつもの植物の
実が付いている。その実に見覚えがあった。
黒い兎は夜そのものなのかもしれない。夜はあのひとを遠いところへ連れていくのだろう。
「干物」和田まさ子。
「今年の秋が/いそいで横を通りぬけるので」落ちてしまった穴に祖父がいたのである。祖父のたあいない話を聞いているとなにかが降ってくる。そして、
じっと見ていたら
わたしの前で
おじいさんが
アジの干物になっていた
今日の夕飯に
食べたい
何が言いたい作品なのかもわからないが、そんなことは抜きにして、とにかく面白い。幼い頃に面白かった絵本や童話がそうだったように、面白さに理屈などは要らない。どこまで世界が飛んでいけるか、だ。
「いもうと」坂多瑩子。
洋裁のうまいいもうとが勝手にわたしにワンピースを縫ってくれている。ほしくもないわたしのワンピースは「座敷をぬけて/縁側を出ていって/袖口がこすれ」ているのだ。おそらくは、わたしの手足もジョキジョキ切られて、遠いところまで連れて行かれたりするのだろう。それでもわたしは謙虚なのだろう。最終連は、
いもうとはいつも強引だ
ずっと遠くまでいって にいっとわらう
「黒い兎」田島安江。
どこかの家から「夜中にするりと抜けて」きた黒い兎を、わたしはあのひとがしていたように抱いている。すると、あのひとがいなくなったということが伝わってきたのだ。
兎の濡れた毛先から、遠い地の草の匂いが漂ってきて、川辺を
歩いていくあのひとがその先の森に入っていこうとしているの
がわかった。濡れた毛先の水の粒のなかに、いくつもの植物の
実が付いている。その実に見覚えがあった。
黒い兎は夜そのものなのかもしれない。夜はあのひとを遠いところへ連れていくのだろう。