瀬崎祐の本棚

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詩集「藥玉」  小幡薫明  (2015/06)  砂子屋書房

2015-07-06 22:37:32 | 詩集
 第5詩集で73頁。副題に「香美(かがみ)なる」と付いている。やや縦長の判型で、浅野勝美の繊細な銅版画が表紙カバー、2葉の挿画に使われている。
 目次にはただ、Ⅰ左流、Ⅱ右流、とだけある。Ⅰ、Ⅱともに29篇の3行から5行の散文詩型の断章を収めている。旧漢字が多用され、表現も静かでどこか優雅な雰囲気を漂わせている。たとえば、Ⅰの「1」は、

   朝あけの人さし指 東方の色青くして 春の萌えの息吹
   き 水の女たちに送られ 年をつむ日宮の舟 無垢に白
   い節理の瀧を施回り動き 忘却と花でみたされた 死者
   の年の市へ流れて行く            (全)

 どの作品ででも話者は常に観察者の位置であり、書きとめられた事物はすべて話者の外にある。自らの行動は禁欲的と言ってよいほどに記述されない。そのために、事物に対する感情も封じ込めてしまったかのように思える。そのうえで築かれるのは、作者の理想郷なのかもしれない。しかしそこからの距離も作者は感じているのだろう。
 Ⅱの「18」は、

   顔のなかに赤い月がある はでな彩りかわる木偶となっ
   て 世をぴらつく 空の砂漠を遊牧の雲が横切る 異邦
   の風に東と西を向き 千年の蝿の王にもなる 棕櫚の木
   が騒ぐ海の村                (全)

 それぞれの章で描出された世界がつなぎ合わされ、ある部分では重なり合い、色合いが深くなる。理想郷は記述されるほどに遠のいていくようなのだが、それは作者も承知した上でおこなっているのだろう。。
コメント
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