瀬崎祐の本棚

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詩集「羽を拾う」  田尻文子  (2015/05)  土曜美術社出版販売

2015-07-08 17:27:16 | 詩集
 第4詩集。94頁に24編を収める。
 「声」では、「言い残したことはないのか」と何者かが私に問いかけている。「一月の道」では、「はるかな時を越えて 今私に届いたもの」がある。それらは真剣に生きていることの証のようなものなのだろう。この詩集に収められているのはそういったものだ。
 「海辺の家」。「望みさえすれば何にでもなれそうな気がし」て、私は貝殻に姿を変えたのである。次の日には砂になったのである。しかし、それはどうも納得のいくことではなかったようなのだ。望んだだけで容易に変われるものなど、結局はその程度のものでしかないのだろう。最終連は、

   去りがたく生きがたく空ばかり見つ
   めていたら 私は家になっていた 
   もうどこへも行かない

 話者は自分が生活していた場所に根を下ろしたようだ。精神的にも彷徨った結果のことなのだろう。だから、もう変わることを望まなくてもいいのだろう。
 「夜の紐」。夜はやってくると、だれかを連れてきてくれるようなのだ。私は、影のようにあらわれた人とつながらない会話をするのだ。それは気持ちが休まるようなことなのだろうけれども、どこか寂しいことでもあるわけだ。

   夜には紐がついていて
   探り当てたものだけを
   どこか遠いところへ
   つれて行ってくれるのだ
   だれがいい? と

 夜に隠れて私に、だれがいい?と聞いているのは、だれなのだろう?
コメント
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