瀬崎祐の本棚

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詩集「嘘のように」  鈴木芳子  (2015/06)  花神社

2015-07-03 17:47:55 | 詩集
 第2詩集。87頁に31編を収める。
 現実の世界が話者のなかで少しずつ表情を変えてくる。そうやって現実の世界の意味していたものが話者にまとわりついてきている。
 「雛まつり」では、天袋の暗闇からお内裏さまが引き出されてくる。老婆は杯にお酒を満たし、古色蒼然としたお内裏さまの唇を潤すのである。そして「来し方の年月を/ゆっくりと飲み干す」と、

   「もういい頃かも・・
    しれないねえ」
   老婆が足を曳きずり
   隣の部屋に消え去ると
   男雛女雛は
   疵だらけの顔を見合わせ
   うなずくばかりの
   宵であった

 時を越えていつまでも残されるお内裏さま、時を感じ取って自ら消えていく老婆。女の子の祭りの日にこそおこなわれる儀式のようで、老婆の否応のない諦観が切ない。
 「昔ばなし」にも老婆があらわれる。ふっくら顔のおセキばあさんは、細長い顔のおヒロばあさんの家に毎日やってくる。無言で縁側に腰をおろしているおセキさん。陽のとどかない部屋から出てこないおヒロさん。そして、

   夕闇が近づくと おヒロさんは箒を持ちまるで犬猫のよ
   うに「シィッ、シィッ・・・・・・」とおセキさんを追いやりま
   す それから自分も犬猫のように土間にうずくまって動
   かなくなりました

 会話を交わすこともないこの二人の老婆は、裏表のようになって互いを支え合っているのだろう。追い払われたおセキさんも、うずくまったおヒロさんも、もう二度とは動かないようではあるのだが。
コメント
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