隊長のブログ

元商社マン。趣味:ヒップホップダンス、ジャズダンス、日舞(新舞踊)、旅行、映画、スポーツ観戦。阪神タイガースのファン。

本と雑誌 52冊 『芥川竜之介紀行文集』

2020年06月25日 | 本と雑誌

隊長が読んだ「本と雑誌 」を紹介するシリーズの第52回は、『芥川竜之介紀行文集』をお送りします。




『芥川竜之介紀行文集』は、小説家・芥川龍之介(1892~1927年)の国内の旅行記と、中国紀行をまとめた紀行文集です。


本書は、岩波書店より、岩波文庫の体裁で発行されています。


編者は、横浜市立大学教授で、日本近代文学研究家の山田俊治(しゅんじ)氏。


収録順に;

国内旅行記は、「松江印象記」、「軍艦金剛航海記」、「京都日記」、「槍ヶ岳紀行」、「長崎」、「長崎小品」、「長崎日記」、「軽井沢日記」、「軽井沢」。

中国紀行は、「上海游記」、「江南游記」、「長江游記」、「北京日記抄」、「雑信一束」。

で、構成。


この本を読もうと思ったのは、昨年暮れに放送された松田龍平主演のドラマ『ストレンジャー~上海の芥川龍之介~』⇒
https://blog.goo.ne.jp/taichou-san2014/e/6ddf37a6b6cbcf572eb187efbe4d32bf の原案が、「上海游記」ほか、と表示されていたからです。


ページ数:394頁の内、国内旅行記は60頁弱、中国紀行は200頁余り、残りが編者による注釈と解説に費やされています。


実際、紀行文が書かれてからおよそ100年が経ち、知らない言葉や表現が多く、分からないことがあると注釈を参照し、読み進んでは、また注釈を頼りにしたりの繰り返し。同じ容量の文庫本を読むより三倍近く時間がかかりました。それでも、漢字は新字体、旧かなづないは原題仮名づかいに改められています。原文のままだったら、一頁を読むことさえ困難だったと思われます。


ここでは、中国紀行記の感想を述べたいと思います。


1921(大正10)年、当時29歳の芥川龍之介は、「大阪毎日新聞」の特派員として上海に渡ります。その後、旅程に従って書かれた中国各地の紀行文は、帰国後新聞に連載されます。従って、一章が新聞掲載一回分の長さとなっています。


テレビドラマと対比すると、当然のことながらドラマチックな要素が乏しく、芥川が見聞きした光景を、彼の視点で、文人らしく様々な文体でルポルタージュ風に、書き記しています。


例えば、ドラマでは、革命家・政治家との会談、関わりに時間を割いていますが、紀行文では誰それに会ったとの記述はありますが、具体的な内容は書かれていません。それは、執筆当時は微妙な日中の政治問題を遡上に上げにくい時勢だったからでしょう。


「上海游記」冒頭一章(回)「海上」:芥川は、上海に向かう船上で、「門司から船に乗れば、二昼夜経つか経たない内に、すぐもう上海に着いてしまう」と記しています。今では、飛行時間数時間の日本‐上海間ですが、二昼夜かかる船旅が、当時は短い時間だったのですね。


余談ですが、隊長は上海に4年2ヶ月駐在していました。離任する時は飛行機ではなく、上海から船に乗ってゆっくりと帰国したいと、在任中は常に思っていました。実際には、実行できなかったことを、今では悔やんでいます。


四章 第一瞥(下):「カッフェ(原文ママ)の入り口の側に、薔薇の花を売る婆さんがいる」と書かれています。隊長が、上海に住んでいた2004~5年頃には、夜の街中にお婆さんではなく、花を売る子供たちがいました。今の上海では、もう“花売り娘”は、いないでしょう。


九、十章「戯台(上・下)」:上海での京劇観劇体験を書いています。場所は北京ですが、同時代を描いたの映画『さらば、わが愛/覇王別姫』⇒
https://blog.goo.ne.jp/taichou-san2014/e/b8f2483904c252b83ad163625b9f1258 で観た、そのままの世界ですね。


十四章「罪悪」:「鴉片、阿片」と書かれています。アヘンを、鴉片とも表記することを初めて知りました。


十九章「日本人」: 芥川は、上海で咲いていた桜の花を見て「日本人は、兎に角海外に出ると、その八重たると一重たるとを問わず、桜の花さえ見る事が出来れば、忽(たちまち)幸福になる人種である」と述べています。

隊長も、上海に住んでいる頃は、毎週末になると「中山公園」や「魯迅公園」を訪れ、日本にいる時は殆ど関心がなかった桜の開花状況に、一喜一憂していたことを思い出しました。


子どものころから「西遊記」などの古典に親しんだ芥川にとって、中国は憧れの理想郷のはずでした。ところが、旅を続けるうちに中国や中国人を嫌いになり、「長江游記」第三回「廬山(ろざん)」では、木の枝に豚の死骸がぶら下がっているのを見て、「吊り下げる支那人も悪趣味なら、吊り下げられる豚も間が抜けている。所詮支那程下らない国は何処にもあるまい」とまで酷評しています。


中国紀行を、義務感で続けていると思われる記載もあります。「北京日記抄」の第一章(回)「雍和宮(ようわきゅう)」では、「北京名物の一つと言えば、紀行を書かされる必要上、義理にも一見せざるを可(べか)らず。我ながら御苦労千万なり」と、あからさまに語っています。


尚、隊長が読んだ『芥川竜之介紀行文集』の発行年月は、2017年8月。価格は、850円(+税)。




==「本と雑誌」バックナンバー ==
http://blog.goo.ne.jp/taichou-san2014/c/dc30502bb229b843454e38b8994f9be0

1~40冊  省略

41冊 2018/11/18『上海の中国人、安倍総理はみんな嫌いだけど8割は日本文化中毒!』 https://blog.goo.ne.jp/taichou-san2014/e/caa4fb69631a759fae89a59a622711e8

42冊 2019/1/6  『SAKIMORI』 https://blog.goo.ne.jp/taichou-san2014/e/3b8d6573a2a3ca238ffcf715cfc16e4f

43冊 2019/1/28 『演劇とはなにか』 https://blog.goo.ne.jp/taichou-san2014/e/fb2b24afd8e949f1504e7d8a707b395e

44冊 2019/3/21 『林真理子「最終便に間に合えば」』 https://blog.goo.ne.jp/taichou-san2014/e/4ed2c3cc4f363616dac47d66a9155226

45冊 2019/4/29 『五木寛之「金沢あかり坂」』 https://blog.goo.ne.jp/taichou-san2014/e/63df50584ec0b5be41f86c16edc4f711

46冊 2019/6/2  『沢田研二と阿久悠、その時代』 https://blog.goo.ne.jp/taichou-san2014/e/901be9ea36c2f3065af05e6dc904b6e2

47冊 2019/6/27 『男のきもの入門』 https://blog.goo.ne.jp/taichou-san2014/e/a90f9c9c43226a05d7ea4ec327a0cdce

48冊 2019/9/17 『森鴎外「山椒大夫・高瀬舟」』 https://blog.goo.ne.jp/taichou-san2014/e/32860159f6891be24292c3c88c96692a

49冊 2019/12/11『日本100名城公式ガイドブック』 https://blog.goo.ne.jp/taichou-san2014/e/6e1840d977276b15115b18a3d42fa05a

50冊 2020/2/5  『虎とバット―阪神タイガースの社会人類学―』 https://blog.goo.ne.jp/taichou-san2014/e/8f69b34551bad87fe268e663a7653cef

51冊 2020/4/4  『池波正太郎 「男の作法」』 https://blog.goo.ne.jp/taichou-san2014/e/945a81aa7409b9ecefbf75361d165c6d
 


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