桑の海 光る雲

桑の海の旅行記・エッセー・書作品と旅の写真

よしなしごと23・陳鴻壽③

2005-10-06 21:09:58 | 日記・エッセイ・コラム
陳鴻壽の作品を初めて目にしたのは、今師事している先生のご自宅だった。先生は私が在学している大学で、かつて教鞭を執っておられたことがあり、学外演習で関西を訪れた私達を自宅に招いて、所蔵の書画を見せて下さることになったのである。

拝見した作品はどれもものすごかった。王鐸、張瑞図、呉昌碩、伊秉綬、董其昌らの肉筆作品や、龍門二十品、石鼓文などの拓本が四つの部屋に所狭しと広げられていた。しかも、いずれもほとんど公表されていない作品ばかりであった。

その中に、清朝の文人達の尺牘を集めた大部の集帖があった。著名な文人のものを選んで広げてあったが、その中に、図録で何度も目にしていた書風のものがあった。これが陳鴻壽の尺牘だったのである。

尺牘は全部で十通ほどあった。枚数で数えると約20枚。いずれも朱色や緑色、あるいは美しい模様が刷られた信箋に、例によって丁寧な筆致で書かれていた。もちろん初めて見る肉筆であるから、写真に撮りながら、丁寧に観察した。条幅作品の大きな文字に見られる、首をかしげたような独特の文字結構も共通して見て取れる。また、やはり一通一通で微妙に書風が異なる。とくに白い信箋に書かれたものは他のものと書風も筆遣いもかなり異なるように思えた。おそらく、書かれた時代の違いによるものなのであろう。

この日はもうお腹一杯になって宿に戻った。あの時見た信箋とその上に書かれた文字の美しさは、今でも忘れられない。(そして今年3月、その尺牘に15年ぶりに再会したのである。)

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