桑の海 光る雲

桑の海の旅行記・エッセー・書作品と旅の写真

よしなしごと21・陳鴻壽①

2005-10-04 20:39:47 | 日記・エッセイ・コラム
3年になると、そろそろ卒論のことを考えなければならなかった。そのテーマを考えていた時、ふと思いついたのが陳鴻壽だった。他にも、一山一寧の書や、上野三碑などにも関心があったのだが、卒論のテーマとして広がりが期待できるのは陳鴻壽しかなかった。テーマに迷っていた時、たまたま地元の図書館でばったり会った(奥さんの出身地が私の実家のすぐそばだった)大学の先生と話した時に勧められもしたので、これに決めた。そもそも陳鴻壽の名前は、書道の教科書や二玄社「書道講座」で知っていたが、魅力は感じていなかった。私がその書の魅力を感じたのは、ふとしたきっかけによるものだった。

大学2年の時、先生方の研究室の隣の資料室で、夜、一人で仕事をしたことがあった。資料室にはいろいろな面白い資料があり、仕事に飽きるとそれを眺めていた。中に、聯落くらいの大きさの紙に、書作品を原寸大とおぼしき大きさで印刷したものがあった。それは行草書の作品だったのだが、何とも気の利いた、味わいのある書だったのである。落款には「陳鴻壽」とある。篆刻と隷書が著名な陳鴻壽が、こうした美しい行草書を書いているとは知らなかった。しかもその行草書は、それまで親しんできた明末清初の強くはなやかな行草書とは全く異なるもので、その瀟洒な味わいに、はっきり言えば私はひとたまりもなく参ってしまったのである。

図書館で先生と話し合った夏休みも終わり、2学期が始まると、私の資料集めが始まった。様々な図録をある限り開いては、陳鴻壽の作品の図版を集めていった。

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