みちのくの山野草

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合法政党〝岩手無産党〟結成

2019-02-01 08:00:00 | 賢師と賢治
《今はなき、外臺の大合歓木》(平成28年7月16日撮影)

 名須川はこう続けていた。
(昭和3年)一二月二日には改造社版啄木全集出版記念音楽と文芸の夕べが県公会堂に二〇〇〇人を集めて開かれていた。改造社の吉田孤羊や松本政治、佐藤好文、そして横田義重が盛岡中学の社研や「戦旗・文芸読者会」に呼びかけるなど積極的な活動家の努力により岩手芸術協会が結成され、それと啄木会の共催であった。…(投稿者略)…啄木会など文化運動からも弾圧を克服する動きがもりあがってきた。…(投稿者略)…
 きびしい弾圧をはねかえす民主勢力の力が不足の場合、だまって奴隷のように盲従し窒息するか、それとも可能なかぎり合法的な方法を選択して活動するか、または地下にもぐり非合法の活動にすすむか、その苦渋の決断に直面し、ついにここでは「緊急避難対策」として合法的範囲内の活動の政党岩手無産党を結成した。
              〈『岩手の歴史と風土――岩手史学研究80号記念特集』(岩手史学会)495p〉
 たしかに、名須川の言うとおりで、「「緊急避難対策」として合法的範囲内の活動の政党岩手無産党を結成した」という見方は間違いなかろう。

 次に名須川は、資料として昭和3年12月23日付『岩手日報』の記事を引き、それによれば
  旧労農党支部解散
  岩手無産政党組織
    昨日創立大会開催
旧労農党岩手支部連合の解散式ならびに岩手無産政党創立大会は二十二日午前十一時から県公会堂十八号室で行われた。…(投稿者略)…
            〈同496p〉
という。
 そして最後に名須川は、
 ともかくこのようにして、いちはやく岩手において合法的無産政党が結成された。全体的状況の中において、可能な道を開き、制限された狭い道でも今最もやらねばならない活動に猛進すること、それは賢治の農村運動、肥料指導でも無産運動でも同じであった。
           〈同497p〉
と断定していた。これに対しても、基本的には肯んずるところであるが、はたして、「それは賢治の農村運動、肥料指導でも無産運動でも同じであった」とまで断定できるのだろうか。そう言えるためには、「賢治の農村運動、肥料指導」が実際にどうであったかを検証した上での話ではなかろうか。しかも、残念ながら賢治が「今最もやらねばならない活動に猛進」したとまでは、私が調べてみた限りでは言い切れない。それは、この時の賢治の身の処し方と八重樫賢師・小館長右エ門・梅野建造等のそれを比べてみれば、私にはおのずから明らかだからだ。

 しかしながら、だからといって私は賢治だけを責めるつもりはない。それは、大内秀明氏の
 「嘘も方便」で、病気を理由に大弾圧の嵐を通り過ぎるのを、身を潜めて待つのも立派な生き方だと思います
            <『土着社会主義の水脈を求めて』(大内秀明・平山昇共著、社会評論社)302p>
という見方を知り、私も成るほどと至極納得したからだ。
 さりながら、この時に45日も拘束された梅野建三が釈放された後に、病身の賢治が訪ねて来たことを、梅野は次のように追想していた。
 私が45日入れられて帰ってきたら、その時宮澤さんは病気だったわな。そして豊沢町の自宅でね病気療養中だったんだ。だけれどもね私を訪ねてくれたよ。夜、私のところに。私が出てきてから何日かたった12月だったな、12月半ば頃だったろうかな、宮澤さんが訪ねてきたの。病気療養中のところをね、夜。そして玄関先で5~6分ねお話をして別れた。大変でしたねって、私にね労りの言葉を述べられてね、そしてお金をいくらか、お金をもらったな。
            〈『本統の賢治と本当の露』(鈴木守著、ツーワンライフ出版)154p~〉
 私はこの追想を知り複雑だ。賢治もこの時の弾圧に対する己の身の処し方にその後悩み続け、葛藤し、負い目を拭うことができず、さぞかし忸怩たる想いがあったであろうことは容易に想像ができるが、「大変でしたねって、私にね労りの言葉を述べられてね、そしてお金をいくらか、お金をもらったな」ということがあったということは予想だにしていなかったからだ。賢治はこの時にあろうことか幾ばくかのお金を手渡していたのである。はたして賢治は己の矜恃とどう折り合いを付けたのだろうか、私に不思議でならない。あるいはまた、「賢治はお金で片を付けようとした」ともとれないわけでもないからである。な~んだ、賢治も案外俗っぽいところもあるじゃないかと親近感が湧きそうな気もするが、やはり、このようなことだけはしてほしくなかったと思うのは私だけであろうか。

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 賢治の甥の教え子である著者が、本当の宮澤賢治を私たちの手に取り戻したいと願って、賢治の真実を明らかにした『本統の賢治と本当の露』

             〈平成30年6月28日付『岩手日報』一面〉
を先頃出版いたしましたのでご案内申し上げます。
 その約一ヶ月後に、著者の実名「鈴木守」が使われている、個人攻撃ともとれそうな内容の「賢治学会代表理事名の文書」が全学会員に送付されました
 そこで、本当の賢治が明らかにされてしまったので賢治学会は困ってしまい、慌ててこのようなことをしたのではないか、と今話題になっている本です。
 現在、岩手県内の書店での店頭販売やアマゾン等でネット販売がなされおりますのでどうぞお買い求め下さい。
 あるいは、葉書か電話にて、『本統の賢治と本当の露』を入手したい旨のお申し込みを下記宛にしていただければ、まず本書を郵送いたします。到着後、その代金分として1,620円(本体価格1,500円+税120円、送料無料)分の郵便切手をお送り下さい。
      〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守
               電話 0198-24-9813

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