みちのくの山野草

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「ナミダヲナガシ」や「オロオロアルキ」をしたとは言えない

2022-10-28 12:00:00 | 賢治渉猟
《三輪の白い片栗》(種山高原、令和3年4月27日撮影)
 白い片栗はまるで、賢治、露、そして岩田純蔵先生の三人に見えた。
 そして、「曲学阿世の徒にだけはなるな」と檄を飛ばされた気がした。

 前回までの考察によって、
 「羅須地人協会時代」である昭和2年に、賢治が「サムサノナツハオロオロアル」こうと思ってもこれは土台無理な話であり、本当はそんなことは実はできなかった。
という結論にならざるを得ないことになった。
 よって、羅須地人協会時代の賢治は、大正15年の賢治は「ヒデリノトキハナミダヲナガシ」たとは言えないこと、及び、昭和3年の賢治は「ヒデリノトキハナミダヲナガシ」たとは言えないことがそれぞれ既にわかったし、そして前回、昭和2年の賢治が「サムサノナツハオロオロアル」こうと思ってもこれは土台無理な話であったということもわかったので、結局、羅須地人協会時代の賢治が「ヒデリノトキハナミダヲナガシ」たとか「サムサノナツハオロオロアルキ」ということはそれぞれ、そうしたとは言えないし、残念ながらそんなことはできなかったことであったということになってしまった。

 なお、農学博士卜藏建治氏の『ヤマセと冷害』によれば、大正2年(賢治17才)の大冷害以降しばらく「気温的稲作安定期」が続き、賢治が盛岡中学を卒業してから「下根子桜」撤退までの間に、稗貫郡が冷害だった年は全くなかったということであり、同博士は次のように、
 この物語(筆者註:「グスコーブドリの伝記」)が世に出るキッカケとなった一九三一年(昭和六年)までの一八年間は冷害らしいもの「サムサノナツハオロオロアルキ」はなく気温の面ではかなり安定していた。…(投稿者略)…この物語にも挙げたように冷害年の天候の描写が何度かでてくるが、彼が体験した一八九〇年代後半から一九一三年までの冷害頻発期のものや江戸時代からの言い伝えなどを文章にしたものだろう。
    【図2・2『宮沢賢治の生涯とイーハトーブの冷害』】
    
              <『ヤマセと冷害』(ト蔵建治著、成山堂書店)14p~〉
と論じている。ただし、昭和六年は確かに岩手県全体ではかなりの冷害だったのだが、稗貫郡はそれどころか実は平年作以上であったことは下掲の《表4 当時の米の反当収量》<*1>

から明らかである。それゆえ、少なくとも盛岡中学卒業(大正3年)後の賢治は身近に冷害を経験したことは一度もなかった、ということになる。そしてまた、大正15年も昭和3年も共に「ヒデリノナツ」だったのにもかかわらず、賢治は「ヒドリノトキハナミダヲナガシ」たとは言えないくらいだし、【図2・2】からこの「気温的稲作安定期」においては大正15年以外にはそれほどの凶作はないことがわかるからもはや、羅須地人協会時代だけではなく、盛岡中学卒業後から没するまでの間でさえも、
   一般に、「ヒドリノトキハナミダヲナガシ」とか「サムサノナツハオロオロアルキ」と思われている賢治だが、そうとまでは言えそうにない。
とならざるを得ない。

<*1:投稿者注> 『岩手県災異年表(昭和13年)』から、不作と凶作年の場合の稗貫郡及びその周辺郡の、当該年の前後五ヶ年の米の反当収量に対する偏差量を拾って表にしてみると、上掲のような《表4 当時の米の反当収量》ができる。
 なお、『都道府県農業基礎統計』(加用信文監修、農林統計協会)によれば、《岩手県水稲反収推移》は下図のようになる。
           
       <素データは『都道府県農業基礎統計』(加用信文監修、農林統計協会)より>
       大正2年は冷害(賢治17歳)
       大正15年は旱魃(賢治30歳)
       昭和6年は冷害(ただし稗貫は平年作以上)(賢治35歳) 

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