みちのくの山野草

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賢治はそのことを知っていたはずなのに

2021-04-14 12:00:00 | 賢治の「稲作と石灰」
【東北砕石工場技師時代の賢治(1930年頃 撮影は稗貫農学校の教え子高橋忠治)】
<『図説宮澤賢治』(天沢退二郎等編、ちくま学芸文庫)190pより>

 前回私は最後に
    そこで私は、ここに至ってため息をついた。賢治は伊藤たちにやはりそう教えていたんだ、と。
とごちたが、それはなぜか。

 実は以前、〝稲の最適土壌は中性でも、ましてアルカリ性でもない〟において、
 「羅須地人協会時代」における講義の際に用いたであろう資料の『土壌要務一覧』によれば、賢治は、 
    稲の場合も望ましい「耕土」は中性であり、ただし稲は酸性の耐性もある。
と認識していたようだ<*4>ということは覗えるのだが、望ましいのはもちろん中性ではないからである。
と既に述べておいたように、その<*4:投稿者註>において、『土壌要務一覧』の一部を挙げ、
六、耕土ハ茶褐色乃至黒褐色ヲ保タシメタイ溜リ水ノ褐色ナノハ排水、砂ノ客土、祖粒石灰岩抹ノ施用ニヨリ、赤及黄ハ有機物ト石灰ノ施用ニヨリ、青色及灰色ハ石灰ヲ用ヒ又秋耕ニヨリ、白ハ有機物並ニ洪積ナラバ石灰ヲモ与ヘテ改良スル。
とか、
一一、耕土ノ反応ハ中性ヲ望ム。洪積台地ハ、殆ド酸性デアル。適量ノ石灰木灰ヲ施用スルコト、有機性酸性ナラバ(六)中ノ方法ヤ焼土等之ヲ矯正スル。尤モ水稲陸稲小麦蕎麦ハ酸性ニモ耐ヘル。大麦ヤ荳菽類ハ耐エナイ。
             <それぞれ、『校本宮澤賢治全集第十二巻(下)』(筑摩書房)149p、150pより>
と賢治は書いている。なお、私は「尤モ水稲陸稲小麦蕎麦ハ酸性ニモ耐ヘル」という記述にとりわけ吃驚した。
と紹介した。

 そしてこの度、伊藤忠一の追想「地人協會の思出㈢」(『イ―ハトーヴォ第八号』(宮澤賢治の会)に掲載)を今回改めて読み直して、
 賢治は伊藤たちにやはり「水稲陸稲小麦蕎麦ハ酸性ニモ耐ヘル」と教えていた。
ということは疑いようがないということを、私は確信した。というのは、一部また前回の繰り返しになるが、伊藤忠一はその追想の中で、
 土壌要務一覧は、昭和二年一月二十日地人協會集會の日「土壌学要綱」なる標題のもとに講義なされたもので…投稿者略…左に掲ぐるものは其の日の教材であります。
   土壌要務一覧 羅須地人協会
       岩手縣中部地域ニ於テ
一、土壌ハ母岩ノ種類(地質)モヨツテ…投稿者略…
             〈『イーハトーヴォ第八号』(宮澤賢治の會)〉
というように前置きして、まさにこの前掲の『土壌要務一覧』そのものを、この追想「地人協會の思出㈢」に載せていたからである。

 そしてまた、この「尤モ水稲陸稲小麦蕎麦ハ酸性ニモ耐ヘル」は、かつて満蒙開拓青少年義勇軍の一人であった工藤留義氏の証言、「稲は酸性に耐性がある」と符合するものでもある。

 一方で、やはり「羅須地人協会時代」における講義の際、この〔教材用絵図 四九〕
     
        〈『新校本 宮澤賢治全集〈第14巻〉雑纂 校異篇』(筑摩書房)口絵より〉>
を使って協会員に施肥標準試験の結果も教えていたはずだ。そして、先に〝『イーハトーヴォ第三号』(昭和15年1月)〟で主張したように、私にはこの絵図からは、
 完全肥料区が最も収量が多くて二石あったのに、それに石灰を十五貫加えると収量は減少し、石灰を三十貫加えてやっと収量二石であったということは、石灰を施肥することはかえって害になるか、せいぜい加えないことと同じだった。………⚫
という結論しか導けない。だから当然、賢治もそのことに気付いていたはずだ。
 のみならず、東北砕石工場技師時代の賢治は、タンカルの公告第四版で、
      農業上石灰の効用
 今迄いろいろの事情から、石灰が、理論通りの効力を発揮することはできなかったゝめ、誤解されたり認められなかったりしてゐた点もありますので、今更ながら改めてその効用を数種上げて見ます。
一、石灰は直接に作物の営養です。但しこの意味に要する石灰は水稲では少量でありますが、根菜類、果樹類、荳科作物、蕎麦、玉蜀黍、桑などで相当量に達します。
             〈『新校本 宮沢賢治全集〈第14巻〉雑纂 本文篇』173p〉
というように、「石灰は直接に作物の営養です。但しこの意味に要する石灰は水稲では少量であります」と宣伝していた。

 だから私には不安が生じてきた。賢治は、石灰の施用は少なくとも稲作にとってはそれほど効果があるわけではないことも、石灰の効用の限界も充分に知っていたはずなのに、賢治は伊藤たちに「稲の場合も望ましい「耕土」は中性であり、ただし稲は酸性の耐性もある」と教えていたのか、とごちたのだった。延いては、「東北砕石工場技師時代」の賢治はその「効用」について恣意的に説明していた虞があるという不安が私にはますます募ってくるのであった。

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