【東北砕石工場技師時代の賢治(1930年頃 撮影は稗貫農学校の教え子高橋忠治)】
<『図説宮澤賢治』(天沢退二郎等編、ちくま学芸文庫)190pより>
<『図説宮澤賢治』(天沢退二郎等編、ちくま学芸文庫)190pより>
2019年3月27日、私は北上市の『農業科学博物館』
を訪ねた。それは、先に〝愕然、稲作で石灰を施用すると逆効果も?〟で抱いた疑問を解決してもらえるのではなかろうか、と私は考えたからである。
というのは、『宮澤賢治の世界 教材用絵図』96pの「47 施肥標準試験」によれば、
【〔教材用絵図 四九〕】
〈『新校本 宮澤賢治全集〈第14巻〉雑纂 校異篇』(筑摩書房)口絵より〉
の棒グラフは、それまでの私たちの認識を完全に覆して、
稲作で安易に石灰を施用すると、逆効果?
と言わざるを得なさそうだということを教えてくれるからだ。
ちなみに、『宮澤賢治の世界 教材用絵図』(高村毅一、宮城一男編、筑摩書房)は、この〔教材用絵図 四九〕に関しておおよそ以下のような解説をしている。
この棒グラフの絵図は、稗貫郡の十三ヶ町村のそれぞれの選定された圃場における四年間にわたる試験結果を図示したものであり、ローマ数字Ⅰ~Ⅷ区の違いはそれぞれ以下のとおりである。
そして、施肥標準試験の結果は、
〈『宮澤賢治の世界 教材用絵図』(高村毅一、宮城一男編、筑摩書房)96p〉 Ⅰ区:厩肥専用
Ⅱ区:無窒素区
Ⅲ区:窒素減量区
Ⅳ区:無加里区(表ではⅥとなっているがⅣの誤記)
Ⅴ区:無燐酸区
Ⅵ区:完全肥料区
Ⅶ区:完全肥料石灰加用区(石灰十五貫)
Ⅷ区:完全肥料石灰加用区(石灰三十貫)
なお、棒の長さは反収を表している。ちなみに、Ⅵ区やⅧ区の収量は二石である。Ⅱ区:無窒素区
Ⅲ区:窒素減量区
Ⅳ区:無加里区(表ではⅥとなっているがⅣの誤記)
Ⅴ区:無燐酸区
Ⅵ区:完全肥料区
Ⅶ区:完全肥料石灰加用区(石灰十五貫)
Ⅷ区:完全肥料石灰加用区(石灰三十貫)
そして、施肥標準試験の結果は、
完全肥料区Ⅵが米二石の収量があったのに対し、無加里区Ⅳ、無燐酸区Ⅴ、窒素減量区Ⅲ、無窒素区Ⅱ、厩肥単用区Ⅰの順に減少している。
また、石灰加用区では、十五貫を加えた区Ⅶがかえって減収となり、三十貫を加えた区Ⅷで、漸く、完全肥料区Ⅵと同様な効果しか得られなかった。
また、石灰加用区では、十五貫を加えた区Ⅶがかえって減収となり、三十貫を加えた区Ⅷで、漸く、完全肥料区Ⅵと同様な効果しか得られなかった。
そこで私は、『農業科学博物館』を訪ねて館員の方に次のような質問をした。
この棒グラフからは、
と。 完全肥料区が最も収量が多くて二石あったのに、それに石灰を十五貫加えると収量は減少し、石灰を三十貫加えてやっと収量二石であったということは、石灰を施肥することはかえって害になるか、せいぜい加えないことと同じだった。
ということになると思うのですが。つまり、折角お金を払って石灰を施用したとしても、水稲にとっては益にならないか、逆効果である、ということが導かれると思うのですが。すると館員の方は、
この施肥標準試験の結果が正しいかどうかについては不安がありますが、この棒グラフに従えばそのような理解の仕方はOKです。
と仰った。そして話は水稲の場合の最適土壌やpHの話にも及び、私が、
多くの賢治研究家は、稲にとって最適土壌は中性だと思っているようですが、実際には弱酸性~微酸性、pHが5.5~6.5だとたまたま知ったのですが。
と言うと、館員の方は、 かつてはそう思っていたようですが、最近は、皆さん弱酸性~微酸性だということは知っておりますよ。
と仰った。そこで私は心の内で「あれっ、知らないのは私たちだけ?」と大きな声を上げた。次に私が、
石灰は撒きすぎると田圃が固くなって、よくないとも聞くのですが。そして、実際に篤農家に直接お訊ねしてみると、「田圃には石灰は撒かないよ」とも教わったのですが。
と話したならば館員の方は、 そのとおり固くなります。やり過ぎはよくありません。田圃に石灰を施用する人はあまりいないと思いますよ。畑は別ですが。
ということなども教えて貰った。もちろんこの『農業科学博物館』の館員の方はその道の専門家だからなおさらに、これで今までの私のモヤモヤとした疑問は殆ど解消してもらえたので、私はその館員の方にとても感謝した。また、これまでの解釈の仕方は基本的には間違っていなかったのだと安堵もした。
だが一方で、水稲の最適土壌のpH値や石灰施用の功罪などを知らないのは私たちだけであり、あまりにも不勉強だったのかなとも思えてしまう。そして、次の現実はこのことを示唆しているのだろうかとも思えた。
という事実が、である。
そこで私は、
賢治さんと石灰施用に関しての論文を私は書かねばならないようです。
あなたは「稲作で安易に石灰を施用すると、逆効果?」ということに気付いていたはずです。
と賢治に伝えた。実は、2020年3月27日に下根子桜を訪れたのは、賢治詩碑の前でそのことを伝えるためであった。それも、
科学者の端くれとしては、知ってしまった大事なことを私は知らんぷりはできませんので。
と言い訳をしながらである。
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